もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
ルカ「ごちそうさま~!」
カムロウ「ごちそうさま!」
パヲラ「とってもおいしかったわん!」
ラクト「あぁ美味かったぜ。」
アリス「ふむ、塩なしでも以外と美味かったな。大したものだ。」
今日の夕食は、パン、味付けの薄い卵焼き、野草サラダ。
みんなの素直な賛辞は、けっこう嬉しかったりする。
アリス「これで、剣の腕も良ければよかったのにな…」
ラクト「落とすなよ!持ち上げた後に!」
持ち上げた後で、やっぱり落としてくるアリス。
アリス「ところで…そのへっぽこ剣技はどこで教わったのだ?あまりにもひどくて、見ていられないのだが。」
へっぽこ剣技…?毎日、ひたすら研鑽を重ねた僕の剣が…?
ルカ「何を言うんだよ、アリス。僕は、もう5年以上も剣の特訓をしたんだぞ。」
アリスはカムロウ、パヲラ、ラクトの方を向いた。
アリス「貴様らの戦術、何年掛かった?」
最初にパヲラが答えた。
パヲラ「あたしの格闘術自体はざっと20年かしら…」
ラクト「何歳だおまえ。」
パヲラ「ピッチピチの25歳よ。カムロウちゃんは?」
カムロウ「ぼくは小さい時からお父さんの鍛錬を見て、その真似をしてたんだ。だから…5年くらいかな。」
パヲラ「あら、あの風の塊を放つあれも?」
カムロウ「
ラクト「魔法は?」
カムロウ「お母さんから教わったんだ。
カムロウ「ラクトは?魔法はどうやって覚えたの?」
パヲラ「えっ、あんた魔法使えるの?」
ラクト「あったりめぇよ!ガキのころから母親に教わってたんだよ。といっても最後に教わったのは三年前だな。」
アリス「この旅芸人は自らの経験の積み重ね、坊やはおそらく、その父親がかなりの剣術の使い手なのだろう。へっぴり腰は母親が魔法使いかそのあたりだな。」
ラクト「へ…へっぴり腰…」
パヲラ「ふっ…」
ラクト「てめぇ今笑ったろ!」
アリス「だが貴様は5年も剣の修行をしながら、あのへっぽこぶりは何事だ。いったい、どんな修行をしてきたのだ?」
ルカ「イリアス神殿を訪れる冒険者の人達に、剣技を教わって…それを自分流にミックスして、アレンジして…」
最近はかなり減ったが、かつてイリアス神殿を訪れる冒険者の数は多かった。
地元の僕はそんな彼等に宿を提供し、その見返りに特訓を受けたり秘技を教えてもらったりしていたのだ。
アリス「雑魚同然の連中に教わった雑魚技など、ミックスしようがアレンジしようが雑魚技にしかならん。」
パヲラ「確かにねい…型無くして、型破りとは言えないっていうし…」
アリス「…いいだろう、少しばかり余が稽古をつけてやる。」
ルカ「いいよ、稽古なんて…それに、魔族に剣を教わるなんてのも…」
アリス「それは、魔族に対する差別か?人と魔物の共存を口にする貴様が、魔族の剣など使いたくない、と?」
ルカ「いや、そんなことは…」
ラクト「はははっ!返す言葉もねぇな!ルカ!」
確かにアリスの言う通りかもしれない。僕の心の中には、魔物に対する差別があったのかも。人と魔物の共存を願う僕が、心に壁を作ってはいけない!なにより僕は、もっと強くなりたいのだ!
ルカ「…じゃあ、お願いしようかな。旅に差し障らない程度に、夕食後の数時間ぐらいだけど。」
アリス「よし、いいだろう。余も決して貴様の味方ではないが、簡単にモンスターの餌食になられても面白くない。せいぜい、モノになるよう鍛え上げてやろう…」
ルカ「お、お願いします…」
こうしてルカは、就寝前の数時間、少しばかり剣の特訓を行うことになったのである。
夕食の片付けをしているとき、ラクトがカムロウに話しかけた。
ラクト「あぁそうだカムロウ、この後時間あるだろ?」
カムロウ「え?あるけど…どうしたの?」
ラクト「いやな…ちょっとばかり、俺様が魔法のコツ、伝授しようと思ってな…」
カムロウ「えっ!いいの!教えて!教えて!」
ラクト「まぁそう焦るなよ!後でちゃんと教えてやっからよ!」
ラクトはパヲラに話しかけた。
ラクト「おまえはどうするんだ?」
パヲラ「あたしはルカちゃんの稽古でも見ようかしら。ジャグリングで筋トレしながら。」
ラクト「ジャグリングが筋トレってなんだよ。」
ラクト「魔法ってのはよ、体内の魔力を練り上げて放つんだ。だから調節が効くんだよ。」
カムロウ「え、えーと…」
ラクト「難しかったか!まぁ体で覚えたほうが早いな!カムロウ、
カムロウ「う、うん。」
カムロウは指に魔力を込め、小さな火球を放った。
ラクト「よし、問題ないな。んじゃステップ2に行くぜ!カムロウ、次は指に魔力を溜め続けて火を大きくするんだ。」
カムロウ「えっ!?えっと、どうやって…」
ラクト「
言われたとおりにファイヤーと言って指に魔力を込め続けた。すると次第に指から火が溢れるように燃えだした。
カムロウ「わっ!あっ!わわわ…」
ラクト「落ち着け!それは熱くねぇ!まだ魔力の塊だ!今度はそれを塊にするよう頭でイメージしろ!」
頭の中で、指から火の塊が出来るようイメージする。次第に溢れる火は、塊になって大きくなっていく…
ラクト「今だ!放て!」
カムロウ「え、えい!」
指を振り下ろして火の塊を放つ。それが地面にぶつかると、爆発するかのように燃えた。
ラクト「うまくいったなカムロウ!名付けて
カムロウ「す…すごいや…」
まだドキドキする。こんなに大きな炎を出せるなんて。
ラクト「まぁこれでわかったろ?魔力を溜めたりすることで、強力な魔法を放つことができるんだ。ただポンポン出せばいいってもんじゃないんだぜ。」
カムロウ「うん!わかった!」
カムロウは「
ラクト「さて…ルカたちの様子でも見に行くか…」
カムロウ「どんなことしてるんだろうね。」
二人は地面に燃えた火を消した後に、ルカたちの様子を見に行った。
アリス「そう…そこで、足のバネを用いて斬り上げるのだ。剣というものは、決して腕力のみで扱うものではない。」
ルカ「こ、こうかな…?」
アリス「ふむ、なかなか形になっているようだな。」
アリスに教わったこの技は、腕力はあまり必要としない。僕のような小柄な戦士にも使える、素晴らしい技だ。
ルカは「魔剣・首刈り」を習得した!
ラクト「おぉ、やってるやってる。」
そこにカムロウとラクトがやって来た。ラクトはジャーキーを食べていた。
アリス「むっ…それは?」
ラクト「ジャーキー。」
アリス「そうか、寄越せ。」
ラクト「やだよ。これは俺のだ。」
パヲラ「あら終わったの?」
カムロウ「うん!ばっちり!それで、ルカは何を教わったの?」
ルカ「あぁ、魔剣・首刈りって技なんだけど…」
アリス「「魔剣・首刈り」その技は、貴様のように小さな体格の剣士に最適な剣技だ。小さな体格を逆に利点とし、敵の懐に潜り込んで喉元を掻き斬る秘技。ダークエルフの妖剣士ザックスは、その技で人間百人の首を切り落としたという話だ。」
ラクト「とんでもねぇ技教えられてんじゃねぇか…」
ルカ「いやいや…もう少し勇者らしい技を教えてほしいんだけど…」
アリス「贅沢を抜かすな。選り好みできる立場か、貴様は。」
ルカ「そ、そうだけど…勇者としてのイメージとかさぁ…」
アリス「うるさい、ではさっそく実技だ!」
ルカ「ええ…!?」
パヲラ「あらあら、ルカちゃん早速使ってみたらどう?」
ルカ「これでいいのかな…ていっ!魔剣・首刈り!」
ミス!アリスにダメージを与えられなかった!
ラクト「ええええ!なんで避けんの!?」
アリス「そんなもので余に傷一つ付けられると思ったか、ドアホめ。」
ルカ「…」
ラクト「…」
こうして得るものも多く、本日の訓練は終わったのだった。
ルカ「アリス、キャンプに入らないのか?」
アリス「余は、そんな窮屈な所など入らん。これでいい。」
アリスは、側の木にぎちぎちと巻き付いてしまう。
ラクト「えっあれで一晩を過ごすん?」
…まあ、本人が良いならいいとしよう。
僕たちは大人しく、自分のキャンプ内に入ろうとした。
アリス「ところで、貴様。その指輪はどういう由来のものなのだ…?」
アリスが言っているのは、僕の指で光っている指輪。母さんの形見のものだった。
パヲラ「そういえば気になってたのよねい…その指輪。」
カムロウ「綺麗な指輪だよね!」
ルカ「アリス、これは食べちゃいけないよ。」
ラクト「いくらこいつでも食えないだろそれは…」
アリス「貴様…余を何だと思っているのだ?」
ルカ「いや…いつもお腹を空かせているとばかり…」
アリス「ドアホめ。その指輪からは、微かな思念を感じるのだ。」
ルカ「微かな思念?それが何なのか知らないけど…この指輪は、母さんの形見だよ。母さんは十年前、流行り病で死んだんだ…」
ラクト「えっ…そうなのか?」
パヲラ「それは…大変だったのねい…」
カムロウ「大切なものなんだ…」
アリス「そうか…それは辛かったな。」
ルカ「え…?ああ、うん…」
正直、アリスの意外な言葉に僕は目を丸くしていた。腰抜けとか、軟弱者とか言われると思っていたのに_
アリス「何を意外そうな顔をしている…?親が死んだときの悲しみは、魔物も人間も違いなどあるまい。」
ルカ「ああ、うん…そうだね。」
アリス「…それで、父親はどうしたのだ?まだ、健在なのか?」
ルカ「いや…母さんより前に、死んだよ…」
アリス「ふっ、分かったぞ。貴様の妙な使命感は、父親の背を追ってのものだ。貴様の父親は勇者で、魔王討伐に旅立ち帰ってこなかった。さから貴様は父の遺志を継ぎ、勇者になろうとした。おおかた、そんなところだろう?」
的外れもいいところ、親父はそんな立派な人物ではない。
ルカ「…悪いけど、まるで見当外れだよ。あいつは、自業自得の死に方をしたんだ…」
その言葉を聞いて、周りの空気がどっと重くなった。
ラクト「じ…自業自得だぁ…?」
パヲラ「それは…いや、これ以上は言わないでおくわ…」
アリス「むう…なにやら尋常ではないな。お花畑のような頭の貴様にしては、随分な言い方ではないか。」
ルカ「僕の事はいいよ…それより、アリスはどうなんだ?そもそも、僕に付きまとっていったい何がしたいんだ?」
僕を襲ったり食べたりしたいのなら、とっくにそうしているのだろう。
これだけ強い妖魔がその気だったら、僕に抵抗する術などないはずだ。
その目的は、さっぱり見えてこない。
アリス「余は、その…魔族の中でも由緒正しきフェイタルベルン家の一人娘。しかし、少々ながら世の中というものが見たくなってな。つい先日、旅に出た次第だ。」
パヲラ「あら、由緒正しい家系なの。」
ルカ「本当に…?」
アリス「まぁ大筋はな…」
含みを持たせ、にやりと笑うアリス。何やら、その腹には色々とありそうだ。
ルカ「まさかお前は魔王の腹心で、人間の町や村を下調べしてるとか…」
ラクト「いずれ時が来れば、一気に攻め滅ぼすためにか!?」
アリス「くくく…そういう考え方も面白いな。」
そういうとアリスは一冊の本を取り出した。
アリス「見よ、この書物を!」
カムロウ「そ…それって!?」
アリス「これは、貴様たち人間の町や村、地理や環境を調べ尽くした禁断の書!われわれ魔族は、貴様等のことをここまで把握しているのだ!」
ルカ「あ…これ、旅行ギルド「ワールドトラベラー」の観光ガイドだ…」
ラクト「ただのガイドブックじゃねぇか!」
世界各所の名所や穴場、町や村の名物料理など、様々な観光情報が記された旅行者垂涎の一冊。冒険者もグルメも風景マニアも、みんな大満足の優れものだ。
ルカ「しかも、ヨハネス暦867年版…!?今から500年も前のものじゃないか…!」
アリス「む…少々、古かったかもしれんな。」
ラクト「おかしいだろ時間の感覚…500年だぞ…」
パヲラ「ふぅん…このガイドに載ってる町や村、半分以上はもう存在してないわね…」
ルカ「すごいな、これ…写本時代のものじゃないか。古書屋に売ったら、どれだけの値が付くか…」
それを聞いてラクトは目を輝かせた。
ラクト「えっまじ!?今すぐ売ろう!今すぐ!」
アリス「売らんぞ、ドアホめ。」
…残念。あのガイドブックを売れば、当分は旅費に困らないだろうに。
ルカ「ともかく…そろそろ寝るか。ふぁぁ…今日は疲れちゃったよ。おやすみ、アリス。」
アリス「ああ…」
パヲラ「そうね寝ましょう。カムロウちゃんがウトウトしちゃってるわ。」
今日は、色々な事がありすぎた。疲れ切っていた僕は、たちまちにして深い眠りに落ちていくのだった__
???「ルカ…勇者ルカ…」
ルカ「う…ん…」
どこからか、僕を呼ぶ声がする。ここは_
ルカ「イ、イリアス様…!?」
イリアス「ルカ…あなたは洗礼を受けていない、祝福されざる勇者。しかし、決して己を卑下してはいけません。」
ルカ「イリアス様…それはいったいどういう…」
イリアス「ルカ…祝福されざる勇者よ。私はいつでも、あなたを見守っていますよ__」
ルカ「イ、イリアス様ぁ…」
まるでバネ細工のように、僕は跳び起きていた。
ラクト「うおおぉ!びっくりしたぁ!」
パヲラ「あら、お目覚めねい」
パヲラは筋トレを、ラクトは本を読んでいてそれにびっくりした。カムロウはまだ寝ていた。今のは、夢だったのか…?いや、ただの夢であるはずがない。昨日のように、イリアス様が語りかけて下さったのだ!イリアス様は、決して僕を見捨ててはいない_!
ルカ「よし!やるぞぉ!!」
アリス「なんだなんだ、朝から騒がしい奴だ…」
木に絡みついたまま、アリスは寝ぼけ眼を擦る。
アリス「まあいい…とにかく食事にしてくれ。」
ラクト「こいつ…朝から晩までメシの事ばかりだな…」
パヲラ「ほらカムロウちゃん、おはよう、朝よ。」
カムロウ「う…うーん。」
ルカ「ごちそうさまでした~!」
アリス「ふむ、ごちそうさま。」
こうして僕たちは朝食を終える。
朝食のメニューは、パンにサラダ、目玉焼き。
これで手持ちの食材は使い切り、残るは干し肉のみ。今日の昼は干し肉で乗り切り、夕方にイリアスベルクに到着。
そこで宿を取って、一晩を過ごす。食材も買い入れ、問題なし。
ルカ「ふふふ…実に完璧な計画だ…」
ラクト「村出てから一日も経過していないぞ。」
ルカ「イリアス様、今日もお恵みをありがとうございます。」
ともかく、朝食後のお祈りも忘れない。今日という素晴らしい日を、イリアス様に感謝だ。
アリス「…いきなり何だ?辛気くさい奴だな…」
ルカ「なんだも何も、イリアス様に感謝をお伝えしているんじゃないか。イリアス五戒には「神に祈りを怠たるなかれ」ってのがあるんだよ。」
カムロウ「そうなの?」
パヲラ「そうみたいねい。あたしはそこまで熱心にやってないけど。」
ラクト「なんかめんどくせぇな…俺はごめんだぜ。」
まして、イリアス様は冒険者を見守って下さる女神。旅に出ている身だからこそ、なお深い祈りを捧げなければならないのだ。
アリス「五戒…?イリアスも、下らんものを押しつけるのが好きな奴だ。それに、そのようなものにありがたく奉るとは…人間も人間よ。そんなに神の奴隷でいたいのか?」
ルカ「…」
パヲラ「気にしなくていいのよルカちゃん、これも魔物側の意見の一つよ。」
なんだか、ひどい言い様だ。昨日からの言動で、分かったことが一つ。アリスは、イリアス様が大嫌いらしい。
アリス「そもそも、イリアスは魔物を忌み嫌っているではないか。それは、貴様の信念と矛盾せんのか…?貴様は、人と魔物が仲良く暮らす世の中に憧れているんだろう…?」
カムロウ「あ、確かに。」
ルカ「それは、そうだけど…」
…こいつ、痛いところを突いてくる。確かにイリアス様は人間を愛されている分、魔物をお嫌いになる。
しかし…イリアス様は、人間には分からない深い理由をお持ちなのだろう。
人間は弱く、魔物は強い。イリアス様は、その不均衡を正そうとされているのかもしれない。
アリス「だいたい、何が魔姦の禁だ。ほとんどの魔物は、人間の男と交わらないと繁殖できん。」
ラクト「えっそうなのか?」
パヲラ「初めて聞いたわその話…」
アリス「つまり魔物の数だけ、魔姦の禁を破った人間がいるということではないか。」
ルカ「ああっ…!」
ラクト「はぁっ…た、確かに…!!」
アリス「今頃、気付いたのか…?…ドアホめ。」
ルカ「そんなにいっぱい、魔姦の禁を破った男がいる事になるのか…イリアス様の戒律を破るなんて、けしからん奴もいるもんだ…」
ルカ「あれ?でも、魔姦の禁を破らないと魔物は子孫を残せず、絶滅しちゃうわけで…」
アリス「それ見ろ、困ったことになるではないか。貴様の夢見る、人と魔物が共存する世界は潰れてしまうぞ。それでもいいと言うのか、貴様は?」
ルカ「…きっと、イリアス様には深い考えがおありなんだろう。」
アリス「やれやれ、思考停止か。ドアホにとって、神はとても便利だな。」
ルカ「そこまで言わなくてもいいだろ…」
ラクト「随分毛嫌いしてんなぁ…」
…まあ、こんな話はともかくして。
ルカ「そろそろ行こう。あんまりのんびりしてたら、イリアスベルクに着くのが夜になるよ。」
アリス「ふむ、それは困るな…」
こうして僕は野営の後片付けをし、再び旅路を行くのだった。