もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
ルカ「なんだ…?町の様子がおかしいぞ…?」
カムロウ「おかしいね…ぼくたちが来たときはこんな感じじゃなかったのに。」
ラクト「最悪だぜ…人がいないってどういうこった?」
パヲラ「異常なのは確かねい…」
通りには、旅人も商人も見当たらない。
夕刻とはいえ、本来なら人でごった返ししているはずだ。
それなのに、人々は息を潜めたように屋内に閉じこもっているらしい。
それに、町全体が張り詰めた殺気のようなもので満ちている。
ルカ「なんだ…?何が起きているんだ…!?」
通りを駆け、町の中央広場に飛び出そうとした。
???「ちょ…ちょっと!!」
四人は声のする方向に視線を向けた。
街路樹の陰に、頭にバンダナを身に着けた少女がいた。背中には少女の体よりも大きなハンマーを担いでいる。
バンダナの少女「こっち!早く隠れて!」
カムロウ「隠れてって…?」
ルカ「どういうことだ…っ!?」
なにか異様な気配に気付き、僕たちも街路樹の陰に身を隠した。
荒れ果てた広場に立つ、一人の魔剣士。
竜族の魔剣士「…なんと他愛もない。この町に、強者は一人としておらんのか!?」
戦士A「く、くそ…」
戦士B「信じられん、なんて強さだ…」
戦士C「うぐぐ…」
そして、相対している戦士が三人。その周りには、屈強そうな戦士達が何十人も転がっている。おそらく全員が、あの魔剣士一人にやられてしまったのだ。
竜族の魔剣士「残るは三人…お前達は、来ないのか?」
戦士A「くっ…!」
戦士三人は、戦う前から魔剣士に圧倒されている様子。どう見ても、彼らに勝ち目はなさそうだ。
ルカ「あの魔剣士、もしかして…あいつは!」
パヲラ「まさかとは思うけど…そうしか思えないわよねい。」
バンダナの少女「そう…あの魔剣士は…」
巨大な剣に無骨な鎧をまとった竜族の魔剣士…その噂は、田舎者の僕でさえ聞いたことがある。
ルカ「魔王軍四天王の一人、魔剣士グランべリア…」
カムロウ「ま…魔王軍の…」
ラクト「四天王だぁ!?なんでそんな奴が一人でこんなところにいるんだよ!?」
その剣の腕は、人間にも魔物にも並ぶ者はいないという。
たった一人で町を壊滅させたとか、一万人の軍隊を叩き潰したとか、武勇伝は事欠かない。
それほど有名で、それほど強い魔剣士が、このイリアスベルクを襲撃してきたのだ。
ルカ「だいたいなんで最初の町に、こんな大物が出てくるんだ…普通、最初の町なんて、もっとしょっぱい中ボスが相手だろ!」
ラクト「おいやめろ!第四の壁に干渉するな!」
パヲラ「もしかしてルカちゃん、不幸体質だったりする?」
なんで僕の旅は、こんなにひどい事ばっかりなんだ…などと、ぼやいている場合ではない!
グランべリア「残るはお前達三人のみ…この町が我が手に落ちるのを傍観するか?それとも、敵わんと知りながらも勇者としての責を果たすか?…さあ、どちらか選ぶがいい!」
戦士A「く…くそぉぉぉ!」
戦士B「魔物なんかに、好きなようにさせてたまるかぁ!」
三人の戦士のうち二人は、グランべリアに向かっていく。残る一人は、体がすくんでしまって動けない様子だ。
グランべリア「その意気やよし。しかし実力の伴わん気迫は、無意味と知れ!」
グランべリアの巨剣が、おもむろに炎に包まれた。
その刹那、周囲に凄まじい熱気が吹き寄せる。
まるで、灼熱の業火が辺りに荒れ狂っているかのようだ。
ルカ「う、うわぁっ…!」
カムロウ「あ…熱い…!」
ラクト「なんだよあれ!まるで火山の噴火みてぇに…」
ルカ「聞いた話だと、魔王軍四天王はそれぞれ火、水、風、土の四属性を得意とするらしいんだ…恐らくグランべリアが得意とするのは、火の属性…」
熱気にもひるまず、果敢に踏み込んでいく戦士。
すると、ふっ…とグランべリアの姿が消えた。
次の瞬間、戦士は昏倒し__その背後に、グランべリアが立っていた!
ルカ「なんだ…今の?」
パヲラ「あたしたちの肉眼じゃとても捉えられないほどのスピードで動いたのよ…!」
動きを止めたグランべリアの背中に、もう一人の戦士は上段斬りを叩き込もうとしたが__
グランべリア「遅いな…」
グランべリアは振り返って剣を構え、そして横一文字に降り抜く。戦士が剣を振り下ろすよりも、その動作の方が遥かに速かった。
ルカ「うわっ!」
バンダナの少女「きゃっ…!」
その剣圧は、なんと僕たちの隠れているところまで届くほど。
激しい熱を伴い、僕たちも焦げてしまいそうな程の熱風だ。
そんなものを間近で受ければ、ひとたまりもない。
戦士の持っていた剣は砕け散り、熱風を間近で受けた彼自身も倒れ伏す。
ルカ「す…凄い。」
__強い。圧倒的な実力差だ。
あの戦士二人も、おそらく僕など比較にならないくらいの強者のはず。
それを、赤子よりも簡単にねじ伏せてしまったのだ。
正直ながら、憧れてしまうほどの強さだった。
しかも、倒れている戦士達にはまだ息がある。
また、周囲に転がっている戦士達も命までは落としていないようだ。
あれほどの実力差があると、殺さない方が逆に難しいだろうに__
こうして残るは、怯えきった様子の戦士一人のみになった。
グランべリア「さて、お前はどうするのだ?」
戦士C「ひ…ひぃ!」
彼はくるりと背を向け、一目散に逃げていく__
グランべリアは、それを追おうともしなかった。
グランべリア「その選択が、最も賢明だな。だが、今後は勇者とも戦士とも名乗らぬ事だ。」
ルカ「ま、まずいぞ…この状況…」
ラクト「こんなの勝てっこねぇよ…!逃げようぜ…!」
どうやら、この町にいた強者は辺りに転がっている者達で全て。
もう、この町を守れる者はいないみたいだ_
グランべリア「これで全てか!?ならばこの町は魔族が占拠するが、文句はないのだな!」
町全体に響くほどの声で、グランべリアは咆吼する。
しかし、屋内にこもった住民達は息を潜めたまま。それは、グランべリアへの屈服を意味しているのだ。
バンダナの少女「…ねぇ!お願いがあるの!」
ラクト「なんだよこんなときに…お前も逃げたほうがいいぜ!」
バンダナの少女「私、あそこにいる人達のことを助けたいの!」
少女は広場に倒れている戦士たちを指差しながらそう言った。
カムロウ「助けるって…どうやって…?」
バンダナの少女「私、回復魔法は得意なの。応急処置で歩けるくらいに回復させて、安全な場所に避難させたいの!」
パヲラ「なるほどねい。その間、グランべリアの相手をしてほしいってこと?」
ラクト「はぁ!?何言ってんだよ!無理に決まってるぜ!死んで来いって言ってるのと同じじゃねぇか!」
バンダナの少女「…でも、そうでもしないと、あの人たちもどうなるかわからないのよ!?このまま魔族の支配下になったら、それこそ死と同然よ!?」
ラクト「いやいやいや…俺はごめんだぜ!?」
ルカ「…僕は行くよ。」
ルカが発したその一言が、少しの間、沈黙を作った。
ラクト「おいルカ…何言ってんだ?勝てるわけでも__」
ルカ「今の僕が勝てる相手じゃないのはわかってる!だけど、勇者たる者が…じゃなかった。勇者を志している者が、ここで傍観していていいのか!?…違う。ここで名乗り上げないと、僕は、勇者としても戦士としても失格だ!」
ラクト「……!」
それを聞いたパヲラは口を開いた。
パヲラ「あたしも行くわ。このまま見ていられないもの…!」
それに続いて、カムロウも決心したらしい。
カムロウ「ぼ…ぼくも行くよ!勝てるかどうかわからないけど…!」
バンダナの少女「…ありがとう…!そっちは任せたよ!」
少女は走り去り、姿を消していった。回り込んで負傷者の手当てをするつもりだろう。
パヲラはラクトの方を向いた。
パヲラ「…あんたは安全な場所に逃げなさい。あたしたちがやられた後は…好きにしなさい。」
ラクト「お…おい待てって!」
ラクトの静止を振り切り、三人は広場に向かっていった。
グランべリア「さて…この町は、我が手に落ちた。後はこのまま_」
ルカ「ま、待て…!」
僕は勇気を振り絞り、物陰から姿を現した。当然、勝てるなどと思っていない。別に、英雄を気取りたかったわけでもない。
だが_ここで声を上げなかったら、僕は本物のニセ勇者になってしまう!
グランべリア「…なんだ、お前たち。」
グランべリアは、初めて僕たちの方向に視線を向けた。ただ、こっちを向いただけなのに…それだけで、圧迫感のようなものが押し寄せてくる。
ルカ「あ…う…」
カムロウ「ぅぅぅ…」
パヲラ「ふぅ…いい緊張ね…」
体が震え、心臓が高鳴る。口の中が乾き、目が霞む。
正直、やめておけばよかった_そんな風に思っていないと言えば、嘘になる。
グランべリア「剣を持ち、戦う意思を持っている…ならばお前を、少年としてではなく戦士として扱う。それで文句はないのだな?」
ルカ「あ、あるもんか…!僕だって戦士だ!」
腕の震えを勇気で押さえ、僕は剣を構えた。
グランべリア「そこの少年と…そこのお前…なんだその格好は?」
グランベリアはパヲラの格好に疑問を抱いていた。
確か、女性の服を男が着ているのは疑問に思う。
パヲラ「趣味よ、気にしないでちょうだい。」
ルカ「(えっ、あれ趣味なの?)」
グランべリア「…お前たちも同じでいいんだな?」
カムロウ「うん…!ルカと同じだ!」
グランべリア「分かった_では、炎の魔剣士グランべリアが相手しよう!」
グランべリアが立ちはだかった!
ルカ「ぐ…!」
相対しているだけでも、全身に重圧がのしかかるような圧迫感だ。凄まじい迫力に、僕は物怖じしてしまう、
グランべリア「さあ、かかって来るがいい!」
ルカ「てりゃぁ!」
僕は剣を構え、猛然と突進した_しかし、グランべリアの姿が消えた!
ルカ「えっ!?」
次の瞬間、足元に、何かが突き出した。グランべリアの足が、突進する僕の足元をすくったのだ!ルカは転倒し、地面に倒れてしまった!
パヲラ「ルカちゃん!」
パヲラはグランべリアに向かって、右手に魔力を込めて殴りかかった。
グランべリア「ふんっ!」
グランべリアは左手を握り締め、その攻撃を相殺した。
パヲラ「あああああ!!」
その瞬間、パヲラが突然、右手を抑えながら叫んだ。
パヲラ「右腕が…折れた…!魔力で強化したのに…!」
グランべリア「魔力で体を強化する体術か…面白い体術だ。」
グランべリアはパヲラに向かって、巨剣で横一文字に斬りかかろうとした。
カムロウ「危ない!パヲラさん!」
カムロウがパヲラの前に立ち、持っている剣でグランべリアの巨剣を止めようとした…が、その重く鋭い一撃を受け止めれるはずがなく、カムロウの剣は砕け散り、パヲラとともに後方へ吹き飛ばされた。
カムロウ「うわあああ!!!」
パヲラ「ああああああ!!!」
そのまま広場の外壁に激突した。瓦礫やら土埃やらがその場で舞う。
カムロウ「げほっ…げほっ…ああ、剣が…!」
カムロウの持っていた剣は、普通の剣よりも安価な剣なため、耐久性はそれほどない。元々、駄々をこねて買ってもらった練習用の剣なので、戦闘向きではない。とはいえ、こんな簡単にボロボロにされてしまっては…改めてグランべリアとの実力差を実感する。
瓦礫をどかしながら、パヲラが起き上がる。
カムロウ「パ…パヲラさん!右腕出して…!」
パヲラの右腕に回復魔法を使う。ゆっくりではあるが、折れた右腕が元に戻っていく。
パヲラ「ありがとうね…」
礼を言いつつも、パヲラの目線はグランべリアに向いていた。__魔導拳で体を強化したにもかかわらず、グランべリアの握り拳一つで、自分の右腕が折れてしまった。その事実に驚愕していた。
ルカ「くっ…くそ…」
すかさず起き上がろうとするルカ_その股の間に、ずぶりとグランべリアの巨剣が突き立った。
グランべリア「…あまりにも未熟。」
ルカ「あ、あぅぅ…」
あらためて、体の芯から震えが来る。地面に尻餅をついたまま、僕は硬直するしかなかった。
その一部始終を、街路樹の陰からラクトは見ていた。
ラクト「ひ…ひぃ!」
普段ならすぐに逃げ出すつもりだったが、以前パヲラと喧嘩した時のこともあり、意地でも逃げずに見ていようとした。
しかし、ルカやカムロウ、パヲラがグランべリアに圧倒されていくのを見て、心身ともに恐怖に駆られていた。そして__
ラクト「か…勝てるわけがないんだよ…!あんなやつに!」
中央広場に背を向け、通りに向かって逃げていった。
ラクト「悪いお前ら…俺はまだ死にたくないんだ!」
どんどん中央広場から離れていき、通りに姿を消した。
グランべリア「多くの大人が屈した中、勇気を振り絞り抵抗しようとした…その点のみ評価する。」
グランべリア「未熟者は斬らん…未熟ゆえ、過ちもあるだろう。だが、二度目はないぞ。」
た、助かった…不覚にも安堵してしまった直後、怒りにも似た感情が湧いてきた。
負けて安堵する勇者など、この世のどこにいるのか。
適わない事なんて、戦う前から分かっていたはずだ。
ここで屈してしまうよりは、討ち死にした方がよっぽどマシだ!
ルカ「ま、まだ終わってないぞ…!」
僕はふらふらと立ち上がり、グランべリアの前に立った。
パヲラ「そうよ…あたしたちはまだ立てるわ!」
カムロウ「そうだ!剣が無くたって、まだ戦えるんだ!」
傷の治療を終えた二人が駆け付けた。
グランべリア「私の忠告を聞いていなかったのか?一度の蛮勇も許さんほど狭量ではないが、二度は見過ごさんぞ。」
「「「「…覚悟の上だ!!!」」」
僕は立ち上がり、グランべリアに相対した。それだけでも、すごいプレッシャー。
これほどの相手に挑むのは、僕のレベルはまるで足りていない。
それでも、逃げるわけにはいかないんだ!
グランべリア「やれやれ、気は進まぬが…悔いはないな、お前たち?」
ルカ「…あるもんか!」
カムロウ「あるけど…いまそれどころじゃない!」
パヲラ「今更悔いを思い返す時間も惜しいのよ…!」
この場で屈する方が、よほど大きな悔いを残すだろう。ルカは剣を構え、カムロウとパヲラは戦闘態勢に入った。
バンダナの少女「
空から巨大なハンマーが縦に回転しながらグランべリアめがけて降ってきた。
グランべリアはものともせず、巨剣で受け止め弾き返した。
ハンマーをはドンッと重い音をして地面に落ちた。
バンダナの少女「ごめん!お待たせ!」
後ろから、さっきのバンダナの少女が走ってきた。
パヲラ「お嬢さん、負傷者の治療は終わったの?」
バンダナの少女「ええ、安全な場所に移動させた!後はグランべリアだけ!」
カムロウ「よかった…間に合ったんだ…」
ルカ「それじゃ、君も早く安全な場所に_」
バンダナの少女「逃げない!私も戦う!」
カムロウ「ええっ!?」
それを見たグランべリアは少女に質問をした。
グランべリア「少女、お前も戦う意思があるのか?」
バンダナの少女「私は、人が傷付くのを見たくないの!だから戦う!」
グランべリア「ならばお前も、一人の戦士として扱う、容赦はしないぞ?」
バンダナの少女「もちろんよ!」
少女は跳ね返されたハンマーを回収し、持ち直して戦闘態勢に入った。
ルカ「そんな…だめだよ、危ないじゃないか_」
パヲラ「いいやルカちゃん、ここは一緒に戦うべきよ。」
ルカ「えっ!?」
パヲラ「お嬢さんも、あたしたちと同じ…覚悟して来たのよ。その意思を称えるべきよ。」
その言葉を聞いて、少女はうつむいた。
バンダナの少女「ごめんなさい、身勝手で…でも私だって…!」
パヲラ「謝ることはないわお嬢さん。ただ…出来るだけあたしたちの後ろにいて!」
バンダナの少女「…分かったわ、援護に回るよ!」
パヲラ「行くわよ!ルカちゃん!カムロウちゃん!」
ルカ「ああ!」
カムロウ「うん!」
三人は前に、少女はその後ろに立ち、戦闘態勢の構えをとった。
グランべリア「いいだろう…来い!」
グランべリアが巨剣を構えると、周囲に熱風が吹き乱れた。四人は圧倒されながらも、その戦いに身を投じた。
一方そのころ、ラクトは…
ラクト「はぁ…はぁ…」
夕焼け時の通りを走り抜ける。中央広場からかなり遠い場所まで来ただろう。
あいつらは…まぁ、あいつらのことだ。どうにか生き残るだろう。その時までにどこかに身を隠して、また会いに行けばいい_
その時不意に、今までの記憶が蘇ってきた。
初めてカムロウと出会った時のこと。
ラクト「どうだ!俺の相棒にならねぇか!?」
カムロウ「…えっと…お友達ってこと?」
ラクト「ま…まぁそうだな、友達でもいいぜ!」
カムロウ「そっか!よろしくね!」
相棒でも良かったが、友達ってのも悪くはないかもな…。
ラクト「…!」
パヲラと本気の喧嘩をした時のこと。
パヲラ「漢なら…自分にしか出来ないことを力のある限りやり遂げろよ!お前にその気力はないのか!?誰かを助けようともしたことがないのか!?臆病者め!」
ラクト「ふざけやがって…!」
なんだよ…俺の事も知らねぇくせに好き勝手言いやがって…!俺だって自分にしか出来ないことをするために、金稼ごうとしてんだよ…!
ラクト「なんだよ…!」
道中でのアリスとの会話。
アリス「あいつらではどうしようもない今、貴様が行かなければどうにもならないぞ?」
ラクト「だ…だけどよぉ…」
アリス「まぁ…貴様が逃げようが、あいつらがあのままくたばろうが、余には関係ない話だ。」
俺はそこまで魔法が得意じゃねぇんだよ…だから戦うのも怖いんだ…ああもう、なんでお前が行こうとしねぇんだよ!
ラクト「なんだってんだよ…!」
さっきのルカの言葉。
ルカ「今の僕が勝てる相手じゃないのはわかってる!だけど、勇者たる者が…じゃなかった。勇者を志している者が、ここで傍観していていいのか!?…違う。ここで名乗り上げないと、僕は、勇者としても戦士としても失格だ!」
…なんでお前は…そんなに勇気が出るんだ…?俺には怖くてできねぇ…
ラクト「…うわっ!」
足が石畳につまづき、盛大に転んだ。
逃げる戦士に対して言い放った、グランべリアの言葉。
グランべリア「その選択が、最も賢明だな。だが、今後は勇者とも戦士とも名乗らぬ事だ。」
…涙が出そうになる。
ラクト「最悪だ…かっこ悪いじゃねぇか…!」
自分が惨めな人間に見えてきた。友達が戦ってるときに助けようともせずに逃げ出し、調子の良いことを言ってその場をやり過ごそうとしたり、こっそり逃げ出そうとしてきた自分が、とても惨めで臆病者だと改めて思った。
…仮にあいつらが生き残ったとしても、再び、こんな臆病者を迎えてくれるだろうか?
友達だと、仲間だと言ってくれるんだろうか?
そう思うと…涙があふれ出てきた。俺は、あいつらと違って、何もできない人間なんだろうか…
…ある会話を思い出す。
俺が尊敬する、偉大な人の会話だ。
???「ラクト、お前の名前はね…」
ラクト「…!!」
おじさん「お、おい君!大丈夫か!?」
近くの家に隠れていたおじさんが声をかけてきた。
おじさん「君も早く隠れるんだ!はやくこっちに_」
ラクトは涙を拭いながら振り向き、両手でおじさんの肩を掴んだ。
ラクト「おいアンタ!この近くに武器屋はあるか!」
おじさん「え!?ぶ…武器屋!?」
ラクト「頼む!時間がねぇんだ!武器屋はどこなんだ!防具だけでもいい!早く教えてくれ!」
武器屋前、ラクトは店主に急いでお金を渡していた。
買った商品は剣と盾、時間がなく急いでいたため、適当に選んだ。
もっと選べばよかったと思ったが、そんな場合ではない。
ラクト「お釣りはいらねぇ!これで足りるだろ!」
店主「あ…あぁ、だが兄ちゃん、まさか中央広場に行くつもりじゃ…」
ラクト「わりぃな、先急いでんだ!じゃあな!」
そう言うとラクトは走り出した。行き先は…ルカたちのいる中央広場だ。
ラクト「俺だって…俺だってなぁ!!!」
体が風になるかのような、そんな勢いでラクトは中央広場に急いだ。