もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第7話 イリアスベルクの異変

ルカ「なんだ…?町の様子がおかしいぞ…?」

カムロウ「おかしいね…ぼくたちが来たときはこんな感じじゃなかったのに。」

ラクト「最悪だぜ…人がいないってどういうこった?」

パヲラ「異常なのは確かねい…」

通りには、旅人も商人も見当たらない。

夕刻とはいえ、本来なら人でごった返ししているはずだ。

それなのに、人々は息を潜めたように屋内に閉じこもっているらしい。

それに、町全体が張り詰めた殺気のようなもので満ちている。

ルカ「なんだ…?何が起きているんだ…!?」

通りを駆け、町の中央広場に飛び出そうとした。

 

???「ちょ…ちょっと!!」

四人は声のする方向に視線を向けた。

街路樹の陰に、頭にバンダナを身に着けた少女がいた。背中には少女の体よりも大きなハンマーを担いでいる。

バンダナの少女「こっち!早く隠れて!」

カムロウ「隠れてって…?」

ルカ「どういうことだ…っ!?」

なにか異様な気配に気付き、僕たちも街路樹の陰に身を隠した。

 

荒れ果てた広場に立つ、一人の魔剣士。

竜族の魔剣士「…なんと他愛もない。この町に、強者は一人としておらんのか!?」

戦士A「く、くそ…」

戦士B「信じられん、なんて強さだ…」

戦士C「うぐぐ…」

そして、相対している戦士が三人。その周りには、屈強そうな戦士達が何十人も転がっている。おそらく全員が、あの魔剣士一人にやられてしまったのだ。

竜族の魔剣士「残るは三人…お前達は、来ないのか?」

戦士A「くっ…!」

戦士三人は、戦う前から魔剣士に圧倒されている様子。どう見ても、彼らに勝ち目はなさそうだ。

ルカ「あの魔剣士、もしかして…あいつは!」

パヲラ「まさかとは思うけど…そうしか思えないわよねい。」

バンダナの少女「そう…あの魔剣士は…」

巨大な剣に無骨な鎧をまとった竜族の魔剣士…その噂は、田舎者の僕でさえ聞いたことがある。

ルカ「魔王軍四天王の一人、魔剣士グランべリア…」

カムロウ「ま…魔王軍の…」

ラクト「四天王だぁ!?なんでそんな奴が一人でこんなところにいるんだよ!?」

その剣の腕は、人間にも魔物にも並ぶ者はいないという。

たった一人で町を壊滅させたとか、一万人の軍隊を叩き潰したとか、武勇伝は事欠かない。

それほど有名で、それほど強い魔剣士が、このイリアスベルクを襲撃してきたのだ。

ルカ「だいたいなんで最初の町に、こんな大物が出てくるんだ…普通、最初の町なんて、もっとしょっぱい中ボスが相手だろ!」

ラクト「おいやめろ!第四の壁に干渉するな!」

パヲラ「もしかしてルカちゃん、不幸体質だったりする?」

なんで僕の旅は、こんなにひどい事ばっかりなんだ…などと、ぼやいている場合ではない!

 

グランべリア「残るはお前達三人のみ…この町が我が手に落ちるのを傍観するか?それとも、敵わんと知りながらも勇者としての責を果たすか?…さあ、どちらか選ぶがいい!」

戦士A「く…くそぉぉぉ!」

戦士B「魔物なんかに、好きなようにさせてたまるかぁ!」

三人の戦士のうち二人は、グランべリアに向かっていく。残る一人は、体がすくんでしまって動けない様子だ。

グランべリア「その意気やよし。しかし実力の伴わん気迫は、無意味と知れ!」

グランべリアの巨剣が、おもむろに炎に包まれた。

その刹那、周囲に凄まじい熱気が吹き寄せる。

まるで、灼熱の業火が辺りに荒れ狂っているかのようだ。

ルカ「う、うわぁっ…!」

カムロウ「あ…熱い…!」

ラクト「なんだよあれ!まるで火山の噴火みてぇに…」

ルカ「聞いた話だと、魔王軍四天王はそれぞれ火、水、風、土の四属性を得意とするらしいんだ…恐らくグランべリアが得意とするのは、火の属性…」

熱気にもひるまず、果敢に踏み込んでいく戦士。

すると、ふっ…とグランべリアの姿が消えた。

次の瞬間、戦士は昏倒し__その背後に、グランべリアが立っていた!

ルカ「なんだ…今の?」

パヲラ「あたしたちの肉眼じゃとても捉えられないほどのスピードで動いたのよ…!」

動きを止めたグランべリアの背中に、もう一人の戦士は上段斬りを叩き込もうとしたが__

グランべリア「遅いな…」

グランべリアは振り返って剣を構え、そして横一文字に降り抜く。戦士が剣を振り下ろすよりも、その動作の方が遥かに速かった。

ルカ「うわっ!」

バンダナの少女「きゃっ…!」

その剣圧は、なんと僕たちの隠れているところまで届くほど。

激しい熱を伴い、僕たちも焦げてしまいそうな程の熱風だ。

そんなものを間近で受ければ、ひとたまりもない。

戦士の持っていた剣は砕け散り、熱風を間近で受けた彼自身も倒れ伏す。

ルカ「す…凄い。」

__強い。圧倒的な実力差だ。

あの戦士二人も、おそらく僕など比較にならないくらいの強者のはず。

それを、赤子よりも簡単にねじ伏せてしまったのだ。

正直ながら、憧れてしまうほどの強さだった。

しかも、倒れている戦士達にはまだ息がある。

また、周囲に転がっている戦士達も命までは落としていないようだ。

あれほどの実力差があると、殺さない方が逆に難しいだろうに__

こうして残るは、怯えきった様子の戦士一人のみになった。

グランべリア「さて、お前はどうするのだ?」

戦士C「ひ…ひぃ!」

彼はくるりと背を向け、一目散に逃げていく__

グランべリアは、それを追おうともしなかった。

グランべリア「その選択が、最も賢明だな。だが、今後は勇者とも戦士とも名乗らぬ事だ。」

 

ルカ「ま、まずいぞ…この状況…」

ラクト「こんなの勝てっこねぇよ…!逃げようぜ…!」

どうやら、この町にいた強者は辺りに転がっている者達で全て。

もう、この町を守れる者はいないみたいだ_

グランべリア「これで全てか!?ならばこの町は魔族が占拠するが、文句はないのだな!」

町全体に響くほどの声で、グランべリアは咆吼する。

しかし、屋内にこもった住民達は息を潜めたまま。それは、グランべリアへの屈服を意味しているのだ。

 

バンダナの少女「…ねぇ!お願いがあるの!」

ラクト「なんだよこんなときに…お前も逃げたほうがいいぜ!」

バンダナの少女「私、あそこにいる人達のことを助けたいの!」

少女は広場に倒れている戦士たちを指差しながらそう言った。

カムロウ「助けるって…どうやって…?」

バンダナの少女「私、回復魔法は得意なの。応急処置で歩けるくらいに回復させて、安全な場所に避難させたいの!」

パヲラ「なるほどねい。その間、グランべリアの相手をしてほしいってこと?」

ラクト「はぁ!?何言ってんだよ!無理に決まってるぜ!死んで来いって言ってるのと同じじゃねぇか!」

バンダナの少女「…でも、そうでもしないと、あの人たちもどうなるかわからないのよ!?このまま魔族の支配下になったら、それこそ死と同然よ!?」

ラクト「いやいやいや…俺はごめんだぜ!?」

 

ルカ「…僕は行くよ。」

ルカが発したその一言が、少しの間、沈黙を作った。

ラクト「おいルカ…何言ってんだ?勝てるわけでも__」

ルカ「今の僕が勝てる相手じゃないのはわかってる!だけど、勇者たる者が…じゃなかった。勇者を志している者が、ここで傍観していていいのか!?…違う。ここで名乗り上げないと、僕は、勇者としても戦士としても失格だ!」

ラクト「……!」

それを聞いたパヲラは口を開いた。

パヲラ「あたしも行くわ。このまま見ていられないもの…!」

それに続いて、カムロウも決心したらしい。

カムロウ「ぼ…ぼくも行くよ!勝てるかどうかわからないけど…!」

バンダナの少女「…ありがとう…!そっちは任せたよ!」

少女は走り去り、姿を消していった。回り込んで負傷者の手当てをするつもりだろう。

パヲラはラクトの方を向いた。

パヲラ「…あんたは安全な場所に逃げなさい。あたしたちがやられた後は…好きにしなさい。」

ラクト「お…おい待てって!」

ラクトの静止を振り切り、三人は広場に向かっていった。

 

グランべリア「さて…この町は、我が手に落ちた。後はこのまま_」

ルカ「ま、待て…!」

僕は勇気を振り絞り、物陰から姿を現した。当然、勝てるなどと思っていない。別に、英雄を気取りたかったわけでもない。

だが_ここで声を上げなかったら、僕は本物のニセ勇者になってしまう!

グランべリア「…なんだ、お前たち。」

グランべリアは、初めて僕たちの方向に視線を向けた。ただ、こっちを向いただけなのに…それだけで、圧迫感のようなものが押し寄せてくる。

ルカ「あ…う…」

カムロウ「ぅぅぅ…」

パヲラ「ふぅ…いい緊張ね…」

体が震え、心臓が高鳴る。口の中が乾き、目が霞む。

正直、やめておけばよかった_そんな風に思っていないと言えば、嘘になる。

グランべリア「剣を持ち、戦う意思を持っている…ならばお前を、少年としてではなく戦士として扱う。それで文句はないのだな?」

ルカ「あ、あるもんか…!僕だって戦士だ!」

腕の震えを勇気で押さえ、僕は剣を構えた。

グランべリア「そこの少年と…そこのお前…なんだその格好は?」

グランベリアはパヲラの格好に疑問を抱いていた。

確か、女性の服を男が着ているのは疑問に思う。

パヲラ「趣味よ、気にしないでちょうだい。」

ルカ「(えっ、あれ趣味なの?)」

グランべリア「…お前たちも同じでいいんだな?」

カムロウ「うん…!ルカと同じだ!」

グランべリア「分かった_では、炎の魔剣士グランべリアが相手しよう!」

 

グランべリアが立ちはだかった!

 

ルカ「ぐ…!」

相対しているだけでも、全身に重圧がのしかかるような圧迫感だ。凄まじい迫力に、僕は物怖じしてしまう、

グランべリア「さあ、かかって来るがいい!」

ルカ「てりゃぁ!」

僕は剣を構え、猛然と突進した_しかし、グランべリアの姿が消えた!

ルカ「えっ!?」

次の瞬間、足元に、何かが突き出した。グランべリアの足が、突進する僕の足元をすくったのだ!ルカは転倒し、地面に倒れてしまった!

パヲラ「ルカちゃん!」

パヲラはグランべリアに向かって、右手に魔力を込めて殴りかかった。

グランべリア「ふんっ!」

グランべリアは左手を握り締め、その攻撃を相殺した。

パヲラ「あああああ!!」

その瞬間、パヲラが突然、右手を抑えながら叫んだ。

パヲラ「右腕が…折れた…!魔力で強化したのに…!」

グランべリア「魔力で体を強化する体術か…面白い体術だ。」

グランべリアはパヲラに向かって、巨剣で横一文字に斬りかかろうとした。

カムロウ「危ない!パヲラさん!」

カムロウがパヲラの前に立ち、持っている剣でグランべリアの巨剣を止めようとした…が、その重く鋭い一撃を受け止めれるはずがなく、カムロウの剣は砕け散り、パヲラとともに後方へ吹き飛ばされた。

カムロウ「うわあああ!!!」

パヲラ「ああああああ!!!」

そのまま広場の外壁に激突した。瓦礫やら土埃やらがその場で舞う。

カムロウ「げほっ…げほっ…ああ、剣が…!」

カムロウの持っていた剣は、普通の剣よりも安価な剣なため、耐久性はそれほどない。元々、駄々をこねて買ってもらった練習用の剣なので、戦闘向きではない。とはいえ、こんな簡単にボロボロにされてしまっては…改めてグランべリアとの実力差を実感する。

瓦礫をどかしながら、パヲラが起き上がる。

カムロウ「パ…パヲラさん!右腕出して…!」

パヲラの右腕に回復魔法を使う。ゆっくりではあるが、折れた右腕が元に戻っていく。

パヲラ「ありがとうね…」

礼を言いつつも、パヲラの目線はグランべリアに向いていた。__魔導拳で体を強化したにもかかわらず、グランべリアの握り拳一つで、自分の右腕が折れてしまった。その事実に驚愕していた。

ルカ「くっ…くそ…」

すかさず起き上がろうとするルカ_その股の間に、ずぶりとグランべリアの巨剣が突き立った。

グランべリア「…あまりにも未熟。」

ルカ「あ、あぅぅ…」

あらためて、体の芯から震えが来る。地面に尻餅をついたまま、僕は硬直するしかなかった。

 

その一部始終を、街路樹の陰からラクトは見ていた。

ラクト「ひ…ひぃ!」

普段ならすぐに逃げ出すつもりだったが、以前パヲラと喧嘩した時のこともあり、意地でも逃げずに見ていようとした。

しかし、ルカやカムロウ、パヲラがグランべリアに圧倒されていくのを見て、心身ともに恐怖に駆られていた。そして__

ラクト「か…勝てるわけがないんだよ…!あんなやつに!」

中央広場に背を向け、通りに向かって逃げていった。

ラクト「悪いお前ら…俺はまだ死にたくないんだ!」

どんどん中央広場から離れていき、通りに姿を消した。

 

 

グランべリア「多くの大人が屈した中、勇気を振り絞り抵抗しようとした…その点のみ評価する。」

グランべリア「未熟者は斬らん…未熟ゆえ、過ちもあるだろう。だが、二度目はないぞ。」

た、助かった…不覚にも安堵してしまった直後、怒りにも似た感情が湧いてきた。

負けて安堵する勇者など、この世のどこにいるのか。

適わない事なんて、戦う前から分かっていたはずだ。

ここで屈してしまうよりは、討ち死にした方がよっぽどマシだ!

ルカ「ま、まだ終わってないぞ…!」

僕はふらふらと立ち上がり、グランべリアの前に立った。

パヲラ「そうよ…あたしたちはまだ立てるわ!」

カムロウ「そうだ!剣が無くたって、まだ戦えるんだ!」

傷の治療を終えた二人が駆け付けた。

グランべリア「私の忠告を聞いていなかったのか?一度の蛮勇も許さんほど狭量ではないが、二度は見過ごさんぞ。」

 

「「「「…覚悟の上だ!!!」」」

 

僕は立ち上がり、グランべリアに相対した。それだけでも、すごいプレッシャー。

これほどの相手に挑むのは、僕のレベルはまるで足りていない。

それでも、逃げるわけにはいかないんだ!

グランべリア「やれやれ、気は進まぬが…悔いはないな、お前たち?」

ルカ「…あるもんか!」

カムロウ「あるけど…いまそれどころじゃない!」

パヲラ「今更悔いを思い返す時間も惜しいのよ…!」

この場で屈する方が、よほど大きな悔いを残すだろう。ルカは剣を構え、カムロウとパヲラは戦闘態勢に入った。

 

バンダナの少女「天誅(てんちゅう)!」

空から巨大なハンマーが縦に回転しながらグランべリアめがけて降ってきた。

グランべリアはものともせず、巨剣で受け止め弾き返した。

ハンマーをはドンッと重い音をして地面に落ちた。

バンダナの少女「ごめん!お待たせ!」

後ろから、さっきのバンダナの少女が走ってきた。

パヲラ「お嬢さん、負傷者の治療は終わったの?」

バンダナの少女「ええ、安全な場所に移動させた!後はグランべリアだけ!」

カムロウ「よかった…間に合ったんだ…」

ルカ「それじゃ、君も早く安全な場所に_」

バンダナの少女「逃げない!私も戦う!」

カムロウ「ええっ!?」

それを見たグランべリアは少女に質問をした。

グランべリア「少女、お前も戦う意思があるのか?」

バンダナの少女「私は、人が傷付くのを見たくないの!だから戦う!」

グランべリア「ならばお前も、一人の戦士として扱う、容赦はしないぞ?」

バンダナの少女「もちろんよ!」

少女は跳ね返されたハンマーを回収し、持ち直して戦闘態勢に入った。

ルカ「そんな…だめだよ、危ないじゃないか_」

パヲラ「いいやルカちゃん、ここは一緒に戦うべきよ。」

ルカ「えっ!?」

パヲラ「お嬢さんも、あたしたちと同じ…覚悟して来たのよ。その意思を称えるべきよ。」

その言葉を聞いて、少女はうつむいた。

バンダナの少女「ごめんなさい、身勝手で…でも私だって…!」

パヲラ「謝ることはないわお嬢さん。ただ…出来るだけあたしたちの後ろにいて!」

バンダナの少女「…分かったわ、援護に回るよ!」

パヲラ「行くわよ!ルカちゃん!カムロウちゃん!」

ルカ「ああ!」

カムロウ「うん!」

三人は前に、少女はその後ろに立ち、戦闘態勢の構えをとった。

グランべリア「いいだろう…来い!」

グランべリアが巨剣を構えると、周囲に熱風が吹き乱れた。四人は圧倒されながらも、その戦いに身を投じた。

 

 

 

一方そのころ、ラクトは…

ラクト「はぁ…はぁ…」

夕焼け時の通りを走り抜ける。中央広場からかなり遠い場所まで来ただろう。

あいつらは…まぁ、あいつらのことだ。どうにか生き残るだろう。その時までにどこかに身を隠して、また会いに行けばいい_

その時不意に、今までの記憶が蘇ってきた。

 

初めてカムロウと出会った時のこと。

ラクト「どうだ!俺の相棒にならねぇか!?」

カムロウ「…えっと…お友達ってこと?」

ラクト「ま…まぁそうだな、友達でもいいぜ!」

カムロウ「そっか!よろしくね!」

相棒でも良かったが、友達ってのも悪くはないかもな…。

 

ラクト「…!」

 

パヲラと本気の喧嘩をした時のこと。

パヲラ「漢なら…自分にしか出来ないことを力のある限りやり遂げろよ!お前にその気力はないのか!?誰かを助けようともしたことがないのか!?臆病者め!」

ラクト「ふざけやがって…!」

なんだよ…俺の事も知らねぇくせに好き勝手言いやがって…!俺だって自分にしか出来ないことをするために、金稼ごうとしてんだよ…!

 

ラクト「なんだよ…!」

 

道中でのアリスとの会話。

アリス「あいつらではどうしようもない今、貴様が行かなければどうにもならないぞ?」

ラクト「だ…だけどよぉ…」

アリス「まぁ…貴様が逃げようが、あいつらがあのままくたばろうが、余には関係ない話だ。」

俺はそこまで魔法が得意じゃねぇんだよ…だから戦うのも怖いんだ…ああもう、なんでお前が行こうとしねぇんだよ!

 

ラクト「なんだってんだよ…!」

 

さっきのルカの言葉。

ルカ「今の僕が勝てる相手じゃないのはわかってる!だけど、勇者たる者が…じゃなかった。勇者を志している者が、ここで傍観していていいのか!?…違う。ここで名乗り上げないと、僕は、勇者としても戦士としても失格だ!」

…なんでお前は…そんなに勇気が出るんだ…?俺には怖くてできねぇ…

 

ラクト「…うわっ!」

足が石畳につまづき、盛大に転んだ。

 

逃げる戦士に対して言い放った、グランべリアの言葉。

グランべリア「その選択が、最も賢明だな。だが、今後は勇者とも戦士とも名乗らぬ事だ。」

 

…涙が出そうになる。

ラクト「最悪だ…かっこ悪いじゃねぇか…!」

自分が惨めな人間に見えてきた。友達が戦ってるときに助けようともせずに逃げ出し、調子の良いことを言ってその場をやり過ごそうとしたり、こっそり逃げ出そうとしてきた自分が、とても惨めで臆病者だと改めて思った。

…仮にあいつらが生き残ったとしても、再び、こんな臆病者を迎えてくれるだろうか?

友達だと、仲間だと言ってくれるんだろうか?

そう思うと…涙があふれ出てきた。俺は、あいつらと違って、何もできない人間なんだろうか…

 

…ある会話を思い出す。

俺が尊敬する、偉大な人の会話だ。

???「ラクト、お前の名前はね…」

ラクト「…!!」

 

 

 

おじさん「お、おい君!大丈夫か!?」

近くの家に隠れていたおじさんが声をかけてきた。

おじさん「君も早く隠れるんだ!はやくこっちに_」

ラクトは涙を拭いながら振り向き、両手でおじさんの肩を掴んだ。

ラクト「おいアンタ!この近くに武器屋はあるか!」

おじさん「え!?ぶ…武器屋!?」

ラクト「頼む!時間がねぇんだ!武器屋はどこなんだ!防具だけでもいい!早く教えてくれ!」

 

武器屋前、ラクトは店主に急いでお金を渡していた。

買った商品は剣と盾、時間がなく急いでいたため、適当に選んだ。

もっと選べばよかったと思ったが、そんな場合ではない。

ラクト「お釣りはいらねぇ!これで足りるだろ!」

店主「あ…あぁ、だが兄ちゃん、まさか中央広場に行くつもりじゃ…」

ラクト「わりぃな、先急いでんだ!じゃあな!」

そう言うとラクトは走り出した。行き先は…ルカたちのいる中央広場だ。

ラクト「俺だって…俺だってなぁ!!!」

体が風になるかのような、そんな勢いでラクトは中央広場に急いだ。

 

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