もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

15 / 105
第9話 高級宿「サザーランド」にて

日が沈みかけたイリアスベルクの中央広場__

カムロウ「ラクト!」

カムロウがラクトに近づき、泣きそうな顔を浮かべながら抱き着いた。

ラクト「おうおう…どうしたカムロウ?」

カムロウ「だって…だって…ラクト…!」

カムロウはさらに泣きそうになる。

カムロウ「ぼくは、ラクトが生きてればそれで良かったんだ。ぼくのせいでラクトが死ぬなんて嫌なんだ…!」

ラクト「だったらこっちも言わせてもらうぜカムロウ。俺はお前が死ぬのがもっと嫌だ!俺が見捨てて逃げたから死んだってのはごめんだぜ?だから、俺はもう逃げねぇ!」

カムロウ「…ずっと、そばにいてくれる?」

ラクト「あぁ!死ぬも生きるも一緒だぜ!相棒!」

そう言うとラクトは大声で笑った。カムロウも釣られて笑った。

パヲラはそれを眺めていた。

ラクト「…なんだよ。」

パヲラ「別に。見直したっていうか…変わったわね。あんた。臆病なのは変わらないけど。」

ラクト「てめぇ!一言余計なんだよ!ぶっ飛ばすぞ!」

パヲラ「何よ!褒めたのに!やんのかコラァ!」

二人はボコスカに殴り合い始めた。

カムロウ「ちょ…ちょっと二人とも…」

 

二人が喧嘩をしているとき、背中にハンマーを担いだバンダナの少女が話しかけてきた。

バンダナの少女「あ…あの…」

ラクトとパヲラは喧嘩の手を止めて少女を見た。

ラクト「あ、お前…」

パヲラ「あらお嬢さん、さっきは助かったわ。どうもありがとう。」

ルカ「それで…どうかしたの?僕達、もう大きい怪我はしてないけど…」

バンダナの少女「違うの。そういうことじゃなくて…」

少女は深呼吸をし、再び口を開いた。

バンダナの少女「私、行く先々で、怪我の治療をする旅をしてるの。それで…」

バンダナの少女「迷惑にならないなら、あなたたちの旅に同行しても良い?」

「「「「ええっ!?」」」」

アリス以外の4人が驚く。

バンダナの少女「…ダメ?」

ラクトは腕を組んで悩み始めた。

ラクト「いや…ダメってわけじゃないけどよ…なぁお前ら?」

ルカ「うん、問題はないけど…」

パヲラ「なんであたしたちに付いて行きたいのかしら?」

少女はもじもじしながら話を続けた。

バンダナの少女「えっと…私、戦うのが苦手で…」

ラクト「えぇ?そんな馬鹿でかいハンマー持ってんのにか?」

バンダナの少女「これは威嚇してるの!それと護身用!」

ラクト「どういう威嚇だよ。アホか?」

バンダナの少女「(イラッ)天誅(てんちゅう)!」

馬鹿でかいハンマーがラクトの顔面に当たった。

ラクト「ど…どうやら戦うのが苦手ってのは、力が弱いってわけじゃなさそうだぜ…」

ラクトはガクッと地面に倒れた。

パヲラ「今のはどうみてもアンタが悪いわよ…」

 

アリス「ふむ…つまり、一人でいるよりも、こいつらと共に行動したほうが安全だと判断したのだな。」

バンダナの少女「え…えぇ、そういうことなの。」

少女は両手を前に合わせて、懇願のポーズをした。

バンダナの少女「お願いっ!絶対役に立つよう頑張るからっ!」

ラクト「役に立つって…お前、何が出来るんだ?」

バンダナの少女「回復!回復魔法は得意!あとやろうと思えば戦えるから!」

ラクト「回復かぁ…ん?この中で回復魔法使える奴って…」

カムロウ「えっと…ぼくだけ?」

パヲラは少し考え込んでから喋り始めた。

パヲラ「と、なると…断る理由はないわね。カムロウちゃんにだけ回復を頼るってのは大きい負担だし、回復魔法を使えるっていうのはかなりメリットだと思うわ。実際、さっきの戦闘で命拾いしてもらったし…」

ルカ「うん、僕もそう思う。ラクトとカムロウは?」

カムロウ「ぼくも良いと思うよ!」

ラクト「…ま、お前らがそう言うんだったら文句もないな。アリス、お前は?」

アリス「何人増えようと、余には関係ない。」

ラクト「反論ナシってか…」

その場にいる全員は、少女の要望を拒否する意思はないようだ。

バンダナの少女「いいの?本当に?」

ルカ「うん、大丈夫だよ。」

パヲラ「えぇ、本当よ。」

カムロウ「これからは、お友達だね!」

ラクト「カムロウ、お前なぁ…仲間になることを友達同士になるって認識してねぇか?」

バンダナの少女「本当にいいの?よかったぁ…」

少女はほっと、胸をなでおろした。そして改めて、ルカたちを見た。

バンダナの少女「私はチリ。よろしく!」

ルカ「うん、よろしく!」

カムロウ「うん!よろしくね!」

アリス「やれやれ、まさかこれ以上増えるということはないだろうな?」

パヲラ「もし増えたとしてもいいじゃないの。人がいるってのは楽しいのよ?」

ラクト「いやこれ以上増えたら、このパーティの財政管理がだな…」

その背丈に合っていない、大きなハンマーを担いだバンダナの少女、チリが仲間になった!

 

 

 

 

アリス「貴様、ひとつ聞きたい事がある。サザーランドという宿を知っているか?」

住民「えっと、そりゃ、西通りを出てすぐだ。老舗のでっかい宿だから、すぐに分かるよ。」

アリス「ふむ…聞いたか、ルカ!西通りに、今もあるという話だぞ!」

ラクト「…老舗の宿ねぇ。」

パヲラ「そういうところって、貴族向けだったりするわよね…」

アリス「よし、西通りに行くぞ!今晩の宿は決まったな!」

ラクト「ダメだ、話を聞いてねぇ…ルカ、行くしかないな。」

ルカ「はいはい…」

はしゃぐアリスに引き摺られ、僕たちは西通りへ向かったのである。

 

ルカ「なにこれ…どこのお屋敷?」

サザーランドは、予想以上に豪華な宿だった。

さて、その料金はというと__

ルカ「えっと…お一人様一泊240万ゴールドぉ!?」

パヲラ「そういえば、500年前のガイドブックにも載ってあったわけだから…かなりの老舗じゃない?」

ルカ「24時間で240万ゴールドと計算すると…僕の手持ちの500ゴールドだと、18秒の滞在費にしかならないよ。」

ラクト「計算早すぎないか!?」

もし僕が洗礼を受けていたなら、勇者料金で無料同然だったというのに…

ラクト「…今6人だよな。6人で一泊の合計いくらだ?」

ルカ「1440万ゴールド。」

チリ「さ…さらに気が遠くなる金額…」

カムロウ「これって泊まることって…できない?」

パヲラ「ラクト。あんたが払いなさいよ。」

ラクト「無理だ。俺のへそくりでも無理だ。」

パヲラ「体で。」

ラクト「肉体労働!?」

ルカ「アリス、これは住む世界が違いすぎる。」

アリス「なんと…こんなことなら、グランべリアに制圧させた方が良かったな。」

ルカ「おいおい…」

ラクト「おい!趣はどうした!趣は!」

アリスがろくでもないことを呟いた時だった。

戦士A「すまない、ちょっと通してくれんか…いてて。」

高級宿の前で立ち尽くす僕達の横をすり抜け、一人の戦士がフロントに入って来た。

チリ「あの人って確か…グランべリアにやられて地面に転がっていた戦士の一人よ。」

ラクト「あいつ、もしかして勇者料金で泊まろうとしてねぇか?いいなぁ…羨ましい。」

 

戦士A「おい、おかみ。俺は勇者だ。勇者料金で一泊__」

おかみ「馬鹿をお言い!揃いも揃って魔物にやられた分際で、何が勇者だい!」

威勢の良いおかみの啖呵が、外の通りまで響く。

戦士A「ぐ…!しかし俺は、洗礼を受けて…!」

おかみ「あんたみたいなヘボ勇者が勇者と名乗っちゃ、本物の勇者が迷惑だよ!出ておいき!」

戦士A「ひ、ひぃぃぃ…!」

おかみの怒声に圧倒され、戦士は脱兎のように逃げ去ってしまった。

カムロウ「ひ…ひぃぃ…」

チリ「お…おっかない…!」

パヲラ「ふむ…老舗の宿だから、それに見合った客じゃないとダメってわけねい。変な風評が付いたら困るよねい。」

ラクト「おおおおおおいおいおい、ルカ…これはもう諦めて普通の宿にしようぜ?」

アリス「ダメだ。あまあまだんごがまだだ。」

ルカ「お前…それをどうしても食べたいのか…」

こうして戦士を追い出したおかみは、ふと僕達に目を留める。

すると__その不機嫌そうな顔が、たちまち和らいでいった。

おかみ「あら、あんた。この町の恩人じゃないか。せっかくだから、ウチに泊まっていきなよ。」

ルカ「いえ、でも…お金が…」

ラクト「そうだぜ。だから泊まるってことは__」

おかみ「そんなの、勇者料金でいいよ。お一人様で2ゴールドで、6人合計で12ゴールドね。残りの1439万9988ゴールドは、イリアス様につけとくよ。」

ラクト「とんでもない金額がツケになってる…」

ルカ「ど、どうも…でも、僕は洗礼を受けた勇者じゃないんですけど…」

おかみ「洗礼なんて関係ないよ。勇者の資格は洗礼のあるなしじゃない、その振る舞いさ。」

ルカ「お、おかみさん…!」

チリ「な…なんて懐の深い…!」

僕たちは、頭を殴られたような衝撃を受けた。

まさに、その通りだ。洗礼がなくても、その振る舞いが勇者ならば_僕は、立派な勇者なんだ!

アリス「…そうは言うが、貴様らは一方的にやられただけではないか。」

ルカ「ぐふっ!」

カムロウ「あぁ!ルカ!」

ラクト「おい!回復!」

チリ「心が致命傷です。」

ラクト「治せない傷か…!」

パヲラ「時すでに遅し…!」

本当に、頭を殴られたかのような一撃。心の声にまで突っ込んでくるなんて、さすがはアリス。

おかみ「そういうわけで…ほらほら、どうぞどうぞ!」

アリス「ふむ、貴様は見所のある人間だな。ほらルカ、いつまでのけぞっている__」

ルカ「ちょ…おい…引きずるな…!」

ラクト「あああ、アリス!ルカを引きずらないでくれ!致命傷なんだぞ!心が!」

こうして僕達は、おかみの好意により高級宿「サザーランド」に一泊することになったのだった。

 

 

ルカ「お、落ち着かない…」

これまで見たこともないほど豪華な一室でたたずむ、田舎者の僕。

アリスはというと、皿に盛られたあまあまだんごをパクパクと食べている。

ルカ「…美味いか?」

アリス「…あまい♪」

どうやら、非常に満足な様子。目を細め、尻尾をぴこぴこと振りながらご満悦のようだ。

ルカ「おいおい、変身を解くなよ…宿の人、来ないだろうなぁ。」

パヲラ「安心なさいルカちゃん。こういうところだと、ちゃんとノックして入ってくるから。」

ルカ「そうなのか?なら良いんだけど…」

パヲラ「ほらルカちゃんも、早く食べないと、3人にあまあまだんご食べられちゃうわよ?」

ルカとパヲラの会話をよそに、美味しそうにあまあまだんごを頬張る3人がいる。

カムロウ「おいしい~♪」

チリ「あま~い♪」

ラクト「もちもち~♪」

アリス「…ふぅ、美味かった。余は満足したぞ。」

アリスは人の姿に戻ると、ベルをりんりんと鳴らす。すると、おかみが自ら、食器を下げに来てくれた。

さっき聞いたところによれば、ここのおかみは町の顔役の一人。

あのまま町が魔族に制圧されたら、特に困る立場の人だったらしい。

おかみ「当店自慢のあまあまだんご、満足してくれたかい?」

アリス「甘さが際立ちながら、だんごの風味を殺してはいない……まさにあっぱれな味だ。貴様が魔族ならば、公爵位を与えても良いほどだぞ。」

まだ、あまあまだんごを食べていたチリとラクトは、口の中の物を噴き出しそうになる。

ラクト「(おいアリス!なんてこと言うんだ!バレるだろ__)」

おかみ「あはは……面白い事を言うね、お嬢ちゃん……!あははははは……!」

チリ「(えっウケてる…!?)」

なんだが知らないが、おかみにはウケたようだ。

おかみ「でも……最近は、ハピネス蜜が不足しててねぇ。このおだんごも、前ほど沢山作れなくなったんだよ。ハピネス村もあんな事になっていて、男手が少ないから……まぁ仕方ないんだけどねぇ。」

ラクト「ハピネス村っていえば…」

パヲラ「えぇ、ここから東にある小さな村。養蜂が盛んで、この村で採れたハピネス蜜は世界中に輸出されているのよね…」

ルカ「ハピネス村で、何があったんですか…?」

おかみ「それがねぇ…あっそうだ。あんた達が行って、何とかしてやりなよ。あんな強そうな魔族を撃退したくらいなんだから、楽勝だよ。」

ルカ「は、はぁ…」

僕が実力で撃退したわけではない以上。なんとも収まりが悪い。これ以上、この話を引っ張れなくなってしまった。

すると、その話を聞いたラクトが、目を輝かせながらルカに耳打ちをしてきた。

ラクト「なぁルカ…ハピネス村に行ってみようぜ?」

ルカ「えっなんで?」

ラクト「そのハピネス村で何があったかは知らねぇが…どうにか解決してハチミツ貰えば…金になるぜ!」

ルカ「金目的じゃないか…」

ラクト「いいじゃねぇか!勇者として問題解決できるし、金も稼げる!一石二鳥じゃねぇか!」

ラクトは悪だくみをしたかのように声を押し殺しながら笑った。

 

カムロウ「美味しかった~!」

パヲラ「えぇ、ごちそうさまでした。」

食事を終えて。一行は寝る準備に入る。

おかみ「…じゃあ、おやすみ。ゆっくり休みなよ。」

ルカ「はい、ありがとうございます!」

ラクト「じゃあなルカ、また明日な!」

アリスとルカ以外の4人は、それぞれの部屋に帰っていく。

昨日の野宿とは打って変わって、今日はふかふかのベッド。

高級すぎて少々落ち着かないが、それでも満足した気分でベッドに横たわったのだった。

アリス「…しかし、腹が減ったな。」

ルカ「おいおい、あまあまだんごを平らげたところじゃないか…あれだけの量を食べて、まだ食い足りないのか?…ってか、さっさと自分の部屋に戻れよ。」

アリス「だんごは別腹だ。ここ最近、人間の精を摂取していなくてな…」

アリスはじっと僕の顔を眺め、じゅるりと、舌なめずりをした。

ルカ「えっ…」

…こんな奴と一緒に旅をしていたら、いつかは吸い殺されかねない。

サザーランドの一室に「あひぃぃぃ」という断末魔が響いた。

 

 

 

その日の夜、カムロウ、ラクト、パヲラ、チリは一室に集まっていた。

カムロウ「ラクト、話ってなあに?」

ラクト「いやな…俺たちのパーティの名を思いついたんだぜ!」

チリ「パーティの名前?」

ラクト「そうだ!ルカの旅に同行する仲間が、こうして4人もいるんだ!名前くらいあった方がいいじゃねぇか!」

パヲラ「へぇ、それでどんな名前?」

ラクト「その名も勇者親衛隊…デコボコ隊ってのはどうだ!」

決めポーズをしながらラクトはそう言った。

パヲラ「…かっこ悪。」

ラクト「んだぁ!てめぇ!これでもちゃんと考えたんだぞ!」

ラクト「カムロウやパヲラは前に出て戦えるけど、俺は前に出て戦えない。けど俺やこいつ(チリ)は魔法を使って援護できる。でも、カムロウは多くの魔法を使えるわけでもないし、おまえ(パヲラ)は肉体強化のために魔力を使ってるから魔法は使わない。ほら、凹凸だらけだろ?だからデコボコ隊!どうだ?」

パヲラ「…かっこ悪。」

ラクト「死にてぇようだな?」

パヲラ「へぇ…来な!」

二人はボコボコに喧嘩をし始めた。

カムロウ「デコボコ隊って…ぼくは良いと思うよ!」

チリ「えぇ~そう?」

カムロウ「うん!こう…名前を言うと、体に力が入るっていうか…」

チリ「まぁ、名前があった方がいいけどね…」

ラクト「どうしたぁ!その程度かぜ!?」

パヲラ「まだまだこれからよぉ!」

二人の喧嘩はまだ終わらなさそうだ。

チリ「…カムロウ。先に寝ましょ。」

カムロウ「うん。おやすみ。」

ラクトとパヲラを残して、二人は先に寝ることにした。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。