もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
日が沈みかけたイリアスベルクの中央広場__
カムロウ「ラクト!」
カムロウがラクトに近づき、泣きそうな顔を浮かべながら抱き着いた。
ラクト「おうおう…どうしたカムロウ?」
カムロウ「だって…だって…ラクト…!」
カムロウはさらに泣きそうになる。
カムロウ「ぼくは、ラクトが生きてればそれで良かったんだ。ぼくのせいでラクトが死ぬなんて嫌なんだ…!」
ラクト「だったらこっちも言わせてもらうぜカムロウ。俺はお前が死ぬのがもっと嫌だ!俺が見捨てて逃げたから死んだってのはごめんだぜ?だから、俺はもう逃げねぇ!」
カムロウ「…ずっと、そばにいてくれる?」
ラクト「あぁ!死ぬも生きるも一緒だぜ!相棒!」
そう言うとラクトは大声で笑った。カムロウも釣られて笑った。
パヲラはそれを眺めていた。
ラクト「…なんだよ。」
パヲラ「別に。見直したっていうか…変わったわね。あんた。臆病なのは変わらないけど。」
ラクト「てめぇ!一言余計なんだよ!ぶっ飛ばすぞ!」
パヲラ「何よ!褒めたのに!やんのかコラァ!」
二人はボコスカに殴り合い始めた。
カムロウ「ちょ…ちょっと二人とも…」
二人が喧嘩をしているとき、背中にハンマーを担いだバンダナの少女が話しかけてきた。
バンダナの少女「あ…あの…」
ラクトとパヲラは喧嘩の手を止めて少女を見た。
ラクト「あ、お前…」
パヲラ「あらお嬢さん、さっきは助かったわ。どうもありがとう。」
ルカ「それで…どうかしたの?僕達、もう大きい怪我はしてないけど…」
バンダナの少女「違うの。そういうことじゃなくて…」
少女は深呼吸をし、再び口を開いた。
バンダナの少女「私、行く先々で、怪我の治療をする旅をしてるの。それで…」
バンダナの少女「迷惑にならないなら、あなたたちの旅に同行しても良い?」
「「「「ええっ!?」」」」
アリス以外の4人が驚く。
バンダナの少女「…ダメ?」
ラクトは腕を組んで悩み始めた。
ラクト「いや…ダメってわけじゃないけどよ…なぁお前ら?」
ルカ「うん、問題はないけど…」
パヲラ「なんであたしたちに付いて行きたいのかしら?」
少女はもじもじしながら話を続けた。
バンダナの少女「えっと…私、戦うのが苦手で…」
ラクト「えぇ?そんな馬鹿でかいハンマー持ってんのにか?」
バンダナの少女「これは威嚇してるの!それと護身用!」
ラクト「どういう威嚇だよ。アホか?」
バンダナの少女「(イラッ)
馬鹿でかいハンマーがラクトの顔面に当たった。
ラクト「ど…どうやら戦うのが苦手ってのは、力が弱いってわけじゃなさそうだぜ…」
ラクトはガクッと地面に倒れた。
パヲラ「今のはどうみてもアンタが悪いわよ…」
アリス「ふむ…つまり、一人でいるよりも、こいつらと共に行動したほうが安全だと判断したのだな。」
バンダナの少女「え…えぇ、そういうことなの。」
少女は両手を前に合わせて、懇願のポーズをした。
バンダナの少女「お願いっ!絶対役に立つよう頑張るからっ!」
ラクト「役に立つって…お前、何が出来るんだ?」
バンダナの少女「回復!回復魔法は得意!あとやろうと思えば戦えるから!」
ラクト「回復かぁ…ん?この中で回復魔法使える奴って…」
カムロウ「えっと…ぼくだけ?」
パヲラは少し考え込んでから喋り始めた。
パヲラ「と、なると…断る理由はないわね。カムロウちゃんにだけ回復を頼るってのは大きい負担だし、回復魔法を使えるっていうのはかなりメリットだと思うわ。実際、さっきの戦闘で命拾いしてもらったし…」
ルカ「うん、僕もそう思う。ラクトとカムロウは?」
カムロウ「ぼくも良いと思うよ!」
ラクト「…ま、お前らがそう言うんだったら文句もないな。アリス、お前は?」
アリス「何人増えようと、余には関係ない。」
ラクト「反論ナシってか…」
その場にいる全員は、少女の要望を拒否する意思はないようだ。
バンダナの少女「いいの?本当に?」
ルカ「うん、大丈夫だよ。」
パヲラ「えぇ、本当よ。」
カムロウ「これからは、お友達だね!」
ラクト「カムロウ、お前なぁ…仲間になることを友達同士になるって認識してねぇか?」
バンダナの少女「本当にいいの?よかったぁ…」
少女はほっと、胸をなでおろした。そして改めて、ルカたちを見た。
バンダナの少女「私はチリ。よろしく!」
ルカ「うん、よろしく!」
カムロウ「うん!よろしくね!」
アリス「やれやれ、まさかこれ以上増えるということはないだろうな?」
パヲラ「もし増えたとしてもいいじゃないの。人がいるってのは楽しいのよ?」
ラクト「いやこれ以上増えたら、このパーティの財政管理がだな…」
その背丈に合っていない、大きなハンマーを担いだバンダナの少女、チリが仲間になった!
アリス「貴様、ひとつ聞きたい事がある。サザーランドという宿を知っているか?」
住民「えっと、そりゃ、西通りを出てすぐだ。老舗のでっかい宿だから、すぐに分かるよ。」
アリス「ふむ…聞いたか、ルカ!西通りに、今もあるという話だぞ!」
ラクト「…老舗の宿ねぇ。」
パヲラ「そういうところって、貴族向けだったりするわよね…」
アリス「よし、西通りに行くぞ!今晩の宿は決まったな!」
ラクト「ダメだ、話を聞いてねぇ…ルカ、行くしかないな。」
ルカ「はいはい…」
はしゃぐアリスに引き摺られ、僕たちは西通りへ向かったのである。
ルカ「なにこれ…どこのお屋敷?」
サザーランドは、予想以上に豪華な宿だった。
さて、その料金はというと__
ルカ「えっと…お一人様一泊240万ゴールドぉ!?」
パヲラ「そういえば、500年前のガイドブックにも載ってあったわけだから…かなりの老舗じゃない?」
ルカ「24時間で240万ゴールドと計算すると…僕の手持ちの500ゴールドだと、18秒の滞在費にしかならないよ。」
ラクト「計算早すぎないか!?」
もし僕が洗礼を受けていたなら、勇者料金で無料同然だったというのに…
ラクト「…今6人だよな。6人で一泊の合計いくらだ?」
ルカ「1440万ゴールド。」
チリ「さ…さらに気が遠くなる金額…」
カムロウ「これって泊まることって…できない?」
パヲラ「ラクト。あんたが払いなさいよ。」
ラクト「無理だ。俺のへそくりでも無理だ。」
パヲラ「体で。」
ラクト「肉体労働!?」
ルカ「アリス、これは住む世界が違いすぎる。」
アリス「なんと…こんなことなら、グランべリアに制圧させた方が良かったな。」
ルカ「おいおい…」
ラクト「おい!趣はどうした!趣は!」
アリスがろくでもないことを呟いた時だった。
戦士A「すまない、ちょっと通してくれんか…いてて。」
高級宿の前で立ち尽くす僕達の横をすり抜け、一人の戦士がフロントに入って来た。
チリ「あの人って確か…グランべリアにやられて地面に転がっていた戦士の一人よ。」
ラクト「あいつ、もしかして勇者料金で泊まろうとしてねぇか?いいなぁ…羨ましい。」
戦士A「おい、おかみ。俺は勇者だ。勇者料金で一泊__」
おかみ「馬鹿をお言い!揃いも揃って魔物にやられた分際で、何が勇者だい!」
威勢の良いおかみの啖呵が、外の通りまで響く。
戦士A「ぐ…!しかし俺は、洗礼を受けて…!」
おかみ「あんたみたいなヘボ勇者が勇者と名乗っちゃ、本物の勇者が迷惑だよ!出ておいき!」
戦士A「ひ、ひぃぃぃ…!」
おかみの怒声に圧倒され、戦士は脱兎のように逃げ去ってしまった。
カムロウ「ひ…ひぃぃ…」
チリ「お…おっかない…!」
パヲラ「ふむ…老舗の宿だから、それに見合った客じゃないとダメってわけねい。変な風評が付いたら困るよねい。」
ラクト「おおおおおおいおいおい、ルカ…これはもう諦めて普通の宿にしようぜ?」
アリス「ダメだ。あまあまだんごがまだだ。」
ルカ「お前…それをどうしても食べたいのか…」
こうして戦士を追い出したおかみは、ふと僕達に目を留める。
すると__その不機嫌そうな顔が、たちまち和らいでいった。
おかみ「あら、あんた。この町の恩人じゃないか。せっかくだから、ウチに泊まっていきなよ。」
ルカ「いえ、でも…お金が…」
ラクト「そうだぜ。だから泊まるってことは__」
おかみ「そんなの、勇者料金でいいよ。お一人様で2ゴールドで、6人合計で12ゴールドね。残りの1439万9988ゴールドは、イリアス様につけとくよ。」
ラクト「とんでもない金額がツケになってる…」
ルカ「ど、どうも…でも、僕は洗礼を受けた勇者じゃないんですけど…」
おかみ「洗礼なんて関係ないよ。勇者の資格は洗礼のあるなしじゃない、その振る舞いさ。」
ルカ「お、おかみさん…!」
チリ「な…なんて懐の深い…!」
僕たちは、頭を殴られたような衝撃を受けた。
まさに、その通りだ。洗礼がなくても、その振る舞いが勇者ならば_僕は、立派な勇者なんだ!
アリス「…そうは言うが、貴様らは一方的にやられただけではないか。」
ルカ「ぐふっ!」
カムロウ「あぁ!ルカ!」
ラクト「おい!回復!」
チリ「心が致命傷です。」
ラクト「治せない傷か…!」
パヲラ「時すでに遅し…!」
本当に、頭を殴られたかのような一撃。心の声にまで突っ込んでくるなんて、さすがはアリス。
おかみ「そういうわけで…ほらほら、どうぞどうぞ!」
アリス「ふむ、貴様は見所のある人間だな。ほらルカ、いつまでのけぞっている__」
ルカ「ちょ…おい…引きずるな…!」
ラクト「あああ、アリス!ルカを引きずらないでくれ!致命傷なんだぞ!心が!」
こうして僕達は、おかみの好意により高級宿「サザーランド」に一泊することになったのだった。
ルカ「お、落ち着かない…」
これまで見たこともないほど豪華な一室でたたずむ、田舎者の僕。
アリスはというと、皿に盛られたあまあまだんごをパクパクと食べている。
ルカ「…美味いか?」
アリス「…あまい♪」
どうやら、非常に満足な様子。目を細め、尻尾をぴこぴこと振りながらご満悦のようだ。
ルカ「おいおい、変身を解くなよ…宿の人、来ないだろうなぁ。」
パヲラ「安心なさいルカちゃん。こういうところだと、ちゃんとノックして入ってくるから。」
ルカ「そうなのか?なら良いんだけど…」
パヲラ「ほらルカちゃんも、早く食べないと、3人にあまあまだんご食べられちゃうわよ?」
ルカとパヲラの会話をよそに、美味しそうにあまあまだんごを頬張る3人がいる。
カムロウ「おいしい~♪」
チリ「あま~い♪」
ラクト「もちもち~♪」
アリス「…ふぅ、美味かった。余は満足したぞ。」
アリスは人の姿に戻ると、ベルをりんりんと鳴らす。すると、おかみが自ら、食器を下げに来てくれた。
さっき聞いたところによれば、ここのおかみは町の顔役の一人。
あのまま町が魔族に制圧されたら、特に困る立場の人だったらしい。
おかみ「当店自慢のあまあまだんご、満足してくれたかい?」
アリス「甘さが際立ちながら、だんごの風味を殺してはいない……まさにあっぱれな味だ。貴様が魔族ならば、公爵位を与えても良いほどだぞ。」
まだ、あまあまだんごを食べていたチリとラクトは、口の中の物を噴き出しそうになる。
ラクト「(おいアリス!なんてこと言うんだ!バレるだろ__)」
おかみ「あはは……面白い事を言うね、お嬢ちゃん……!あははははは……!」
チリ「(えっウケてる…!?)」
なんだが知らないが、おかみにはウケたようだ。
おかみ「でも……最近は、ハピネス蜜が不足しててねぇ。このおだんごも、前ほど沢山作れなくなったんだよ。ハピネス村もあんな事になっていて、男手が少ないから……まぁ仕方ないんだけどねぇ。」
ラクト「ハピネス村っていえば…」
パヲラ「えぇ、ここから東にある小さな村。養蜂が盛んで、この村で採れたハピネス蜜は世界中に輸出されているのよね…」
ルカ「ハピネス村で、何があったんですか…?」
おかみ「それがねぇ…あっそうだ。あんた達が行って、何とかしてやりなよ。あんな強そうな魔族を撃退したくらいなんだから、楽勝だよ。」
ルカ「は、はぁ…」
僕が実力で撃退したわけではない以上。なんとも収まりが悪い。これ以上、この話を引っ張れなくなってしまった。
すると、その話を聞いたラクトが、目を輝かせながらルカに耳打ちをしてきた。
ラクト「なぁルカ…ハピネス村に行ってみようぜ?」
ルカ「えっなんで?」
ラクト「そのハピネス村で何があったかは知らねぇが…どうにか解決してハチミツ貰えば…金になるぜ!」
ルカ「金目的じゃないか…」
ラクト「いいじゃねぇか!勇者として問題解決できるし、金も稼げる!一石二鳥じゃねぇか!」
ラクトは悪だくみをしたかのように声を押し殺しながら笑った。
カムロウ「美味しかった~!」
パヲラ「えぇ、ごちそうさまでした。」
食事を終えて。一行は寝る準備に入る。
おかみ「…じゃあ、おやすみ。ゆっくり休みなよ。」
ルカ「はい、ありがとうございます!」
ラクト「じゃあなルカ、また明日な!」
アリスとルカ以外の4人は、それぞれの部屋に帰っていく。
昨日の野宿とは打って変わって、今日はふかふかのベッド。
高級すぎて少々落ち着かないが、それでも満足した気分でベッドに横たわったのだった。
アリス「…しかし、腹が減ったな。」
ルカ「おいおい、あまあまだんごを平らげたところじゃないか…あれだけの量を食べて、まだ食い足りないのか?…ってか、さっさと自分の部屋に戻れよ。」
アリス「だんごは別腹だ。ここ最近、人間の精を摂取していなくてな…」
アリスはじっと僕の顔を眺め、じゅるりと、舌なめずりをした。
ルカ「えっ…」
…こんな奴と一緒に旅をしていたら、いつかは吸い殺されかねない。
サザーランドの一室に「あひぃぃぃ」という断末魔が響いた。
その日の夜、カムロウ、ラクト、パヲラ、チリは一室に集まっていた。
カムロウ「ラクト、話ってなあに?」
ラクト「いやな…俺たちのパーティの名を思いついたんだぜ!」
チリ「パーティの名前?」
ラクト「そうだ!ルカの旅に同行する仲間が、こうして4人もいるんだ!名前くらいあった方がいいじゃねぇか!」
パヲラ「へぇ、それでどんな名前?」
ラクト「その名も勇者親衛隊…デコボコ隊ってのはどうだ!」
決めポーズをしながらラクトはそう言った。
パヲラ「…かっこ悪。」
ラクト「んだぁ!てめぇ!これでもちゃんと考えたんだぞ!」
ラクト「カムロウやパヲラは前に出て戦えるけど、俺は前に出て戦えない。けど俺や
パヲラ「…かっこ悪。」
ラクト「死にてぇようだな?」
パヲラ「へぇ…来な!」
二人はボコボコに喧嘩をし始めた。
カムロウ「デコボコ隊って…ぼくは良いと思うよ!」
チリ「えぇ~そう?」
カムロウ「うん!こう…名前を言うと、体に力が入るっていうか…」
チリ「まぁ、名前があった方がいいけどね…」
ラクト「どうしたぁ!その程度かぜ!?」
パヲラ「まだまだこれからよぉ!」
二人の喧嘩はまだ終わらなさそうだ。
チリ「…カムロウ。先に寝ましょ。」
カムロウ「うん。おやすみ。」
ラクトとパヲラを残して、二人は先に寝ることにした。