もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
おかみ「ゆうべは、お楽しみだったね。」
ルカ「うぐはぁ!!」
朝から会心の一撃。
ルカ「そ、その…声、大きかったですか?」
おかみ「あらら、図星かい。適当にカマかけただけだよ。」
ルカ「うぐぐ…」
ニヤニヤ笑うおかみを前に、僕は打ちのめされるのみ。
ラクト「えっ…まじ?」
パヲラ「ルカちゃん…そんなことをしてたの?」
チリ「なんていうか…アリスさん、やけに肌がツヤツヤしてると思ったけど…」
アリス「ん?なんだ?どうかしたのか?」
チリ「いえ、ナンデモナイデス…」
カムロウ「…お楽しみって、何を楽しんだの?」
ラクト「んんっ!?」
ラクトとパヲラとチリは焦り始めた。
パヲラ「な…なんでもないのよ~カムロウちゃん!さ、行きましょ行きましょ!」
カムロウ「?」
おかみ「じゃあ、また来なよ。あんた達なら大歓迎だからね。」
ルカ「ええ、ありがとうございました!」
一行はフロントを出る。
チリ「…アリスさん、風呂敷包みをいくつも持っているけど、あれってもしかして…」
ルカ「あぁ…あまあまだんごだろうな…」
ラクト「胃袋ブラックホール…」
こうして僕達は、高級宿「サザーランド」を後にしたのだった。
外に出て、食材を十分に買い込んだ。塩も忘れずに。
ルカ「後はどうしようか…」
パヲラ「それなら武器屋なんてどうかしら?カムロウちゃん、剣と盾が壊れちゃって…」
ルカ「それならこのまま行こうか。」
僕達は武器屋に向かった。
イリアスベルクの武器屋にて。
カムロウ「ううっ…重い…」
右手に鋼鉄の剣を、左手に鉄の盾を装備したカムロウはそう呟いた。
ラクト「別に、そんな重いものじゃなくてもいいんじゃないのか?ほら、こっちの剣の方が小さくてそれより軽いぞ。」
カムロウ「ううん、これでいいんだ。」
カムロウ「グランべリアに言われたんだ。体に馴染んでないって。」
グランべリアとの闘いで、ラクトからもらった剣と盾は前の装備より頑丈だったが、重かった。なのでスピードが下がってしまった。グランべリアに指摘された点はそれだ。スピードが下がってしまうと、隙だらけになってしまう。
カムロウ「これから先、武器が壊れることだってあるはずなんだ。どんな武器も扱えるように、力を付けないと…」
鉄製だろうとなんだろうと、筋力を付けないと…もしもの時がある。
パヲラ「それならカムロウちゃん、これなんてどうかしら。」
パヲラが持ってきたのは、鎖かたびらだった。
チリ「え…鎖かたびら?」
パヲラ「そう!防御面でも、肉体面でも素晴らしい優れものよ!それに動きやすいし。」
パヲラは上半身の服をめくった。なんと、服の下に鎖かたびらを着ていた。
ラクト「お前、いつもそれ、服の下に着ていたのか?」
パヲラ「えぇ、これなら普段から肉体負荷トレーニングも出来るし、意識しなくても自然と筋力は付くわよ!」
カムロウ「じゃあ、それも!」
ラクト「んじゃ、会計通すぜ。」
カムロウは新しく、鋼鉄の剣、鉄の盾、鎖かたびらを装備した。
ルカ「この鎧、かっこいいなぁ…真の勇者は、こんな鎧着てるんだろうなぁ…この鎧もかっこいいなぁ…このギザギザしたあたりが、何とも…」
重厚で頑丈そうな鎧を眺め、ルカは溜め息を吐く。
残念ながら、今の所持金では全く手が出ないようだ。
アリスは、そんな僕を冷ややかな目で眺める。
アリス「…ドアホめ。貴様の体格でこんな鎧を着込んだら、まともに動けんだろうが。」
アリスは何も変哲もないシャツのようなものに視線を落とした。
アリス「これは良い品だな、これにしておけ。今の資金でも買えるだろう?」
ルカ「えぇ…これがぁ?」
見たところ、もっさりとしたシャツ。確かに丈夫そうだが…
店主「姉ちゃん、ずいぶん目が利くねぇ。それは特別な製法で織られた防護服なんだ。なかなかの品なんだが、見た目が地味すぎるからねぇ…ほら、そこらの勇者なんて連中は、見た目ばかり気にするだろう?そういう見る目のない連中には、この服の良さがわからないのさ。あんた方は、そういう自称勇者とはひと味違うみたいだねぇ。」
ルカ「そ、そうなんだ…じゃあ、もらおうかな。」
店主「まいどありぃ!」
何か、店主に上手く乗せられた気もするが、アリスの勧めもあった事だし、粗悪品を掴まれたという事はないはず。
店主「エンリカの防具は質が良いんだが、見た目が地味だからねぇ…なかなかさばけなくて、困ったもんだよ。」
ルカ「エンリカ…?その人が作ったんですか?」
店主「いやいや、人じゃなくて、村の名前だよ。隠れ里エンリカ。ここから南西にある、本当に小さな村さ。そこの連中、まるで人目を避けるように暮らしていてねぇ。でも、そこで造られている防具は一級品なのさ。」
ルカ「そうなんですか、知らなかったなぁ…」
そう遠くないイリアスヴィル出身の僕でさえ、初めて聞く村だ。
隠れ里エンリカ、覚えておいた方が良いかもしれない。
こうして僕は、そのシャツを装備し、店を後にしたのだった。
イリアスベルクの教会にて_
ルカは祈りを捧げていた。
ルカ「イリアス様、どうか僕を見守っていて下さい…」
アリス「…つまらん。」
ラクト「まぁ、気持ちは分かるぜ。」
チリ「ダメでしょわかっちゃ。」
ルカ「当たり前だろ。愉快なお祈りなんてあっても、ちっともありがたくないよ。」
神官「その通り、イリアス様への祈りは、厳粛に行うものじゃ。」
奥から神官が出てくる。
アリス「…つまらなさそうな奴が出てきおった。」
ルカ「…当たり前だろ。神官様ってのは、たいていつまらないんだよ。」
ラクト「おいちょっと待て、今の失礼じゃねぇか?」
神官「…ともかく、五戒律には「神に祈りを怠ることなかれ」とある。お主も旅の身ならばこそ、祈りは怠らぬようにするのじゃぞ。」
アリス「本当につまらんな、こいつの話。」
ルカ「だから言っただろ。神官様の話ってのは、つまらないんだよ。」
ラクト「お前それでもイリアス信者か!?」
アリス「そういう貴様らは、イリアスに祈りとやらをしないのか?」
ラクト「俺は神を信じてねぇんだ。いるんだったら会ってみてぇぜ。」
カムロウ「ぼくの村だと…こういうことはしなかったよ。」
パヲラ「あたしはただ、祈る習慣がなくて…」
チリ「私もそういう習慣はないわ…」
ルカ「よし、買い物も終えたし、町から出るか__」
全ての用を済ませ、イリアスベルクを後にしようとした時だった。
???「ふふふ…見つけたわ、私だけの勇者様…!」
ルカ「だ、誰だ!」
僕の前に姿を現したのは__
残念なラミアが現れた。
突然に現れたのは、誰も喜ばない、誰も得をしないヘビの上半身と、人間の女性の下半身をしたモンスターだった。
ルカ「うわぁ…」
ラクト「なんだぁ…この珍獣は…?」
残念なラミア「私の名はアミラ…あなたに心を奪われた、恋する乙女。」
ルカ「…」
そもそも、なぜ町の中にモンスターがいるのか。周囲の通行人、全く気にしてないし。
アミラ「あなたが私にくれたもの、ひらひらの勇気と揺れる恋心。このスイーツなハート、アンブレイカブルな夢なのかしら。」
ラクト「なんか、やたら語呂の悪いポエム言っている…」
ルカ「…」
パヲラ「…ルカちゃん?」
…しかし、これは許せない。さすがに、そろそろ我慢の限界だ。
洗礼が受けられなかった、おそらく、イリアス様に何か深いお考えがあったのだろう。
変な妖魔、アリスを拾った。冒険に彩りが添えられた、とプラス思考で考えよう。
いきなり四天王の一人グランべリアと相対した。強敵上等、成長のチャンスだと思おう。
…しかし、こいつは駄目だ。さすがの僕でも、もう許せない。いいかげん限界だ。
ルカ「えっと…斬ってもいいかな?」
チリ「待って!ルカ!落ち着いて!」
アリス「貴様の目標は、人間と魔物との共存なのだろう。すなわち、あれとも共存せねばならんのだぞ。」
ラクト「パンツ一丁ででんぐり返しポーズの魔物がいるか。」
アミラ「それは仕方ないわ。ここだと、立ち絵じゃなくて文字で表現しないといけないんだから。」
ラクト「おい!やめろ!立ち絵とか言うな!」
ルカ「…ともかく、いい加減に消えないと退治するよ。」
アミラ「あなたも、私を見た目で差別するのね。みんなそう、この醜い姿を嫌い、親しく接してくれる人など誰もいない…」
チリ「あ…あなた…」
おばさん「やあ、アミラちゃん。お味噌汁作りすぎちゃったから、後で食べに来なさいよ。」
おじさん「おう、アミラ。うちの穀物庫にネズミが発生してな。ちょっと退治しに来てくれんか。」
チリ「思いっきり町に馴染んでるじゃない!何なのあなた!」
アミラ「今日はあなたに愛を伝えに来たのだけれど、用件はそれだけでもないの。少しばかり、頼みごとを聞いてくれないかしら。
ルカ「…頼み事?内容によるよ。」
アミラ「最近、この辺で魔物の盗賊団が暴れているのよ。町のみんなも迷惑しているし、同じ魔物がやっている事だけに心も痛むの。でも私、インパクトはあるけど腕っぷしは頼りないへなちょこラミア。そこで…勇者様になんとかしてほしいのよ。」
ラクト「インパクトあるのは自覚してるのか…」
ルカ「盗賊団?魔物が?」
魔物が徒党を組んで人間を襲うという話は聞かないでもないが、盗賊団をやっているというのは初耳だ。
アリス「ふん、魔物が人間の真似事か。志の低い話よ…」
アミラ「でも、決して馬鹿にはできないわ。なにせその盗賊団には、ヴァンパイアやドラゴンなんてのがいるの。」
パヲラ「ヴァンパイアに…ドラゴンまで?」
カムロウ「え…それってどんなの?」
パヲラ「魔物の中でも、強力な魔力と高い知性を持った者は「妖魔」と呼ばれるの。そんな妖魔の代表格がヴァンパイア。魔物の中でもトップクラスの魔力を持つ、誇り高き夜の貴族。」
ルカ「ドラゴンは、全てのモンスターの中でも、トップクラスの強さと知名度。荒ぶる牙と爪はいかなる武器より鋭利で、紅蓮の炎は全てを焼き尽くし、その鱗は堅固な装甲と同じ…。どちらも、今の僕たちでは傷も付けられないであろう強豪モンスターだ。」
アリス「妙だな。そのような連中が、こんな片田舎にいるなど初耳だぞ。」
確かにアリスの言う通りだ。そこまで強力なモンスターが、こんな辺境大陸にウロウロしているという話など聞いた事がない。
アミラ「どうか勇者様、その盗賊団を打倒してくれないかしら?」
ラクト「どうするよルカ。いくらなんでも化け物ぞろいってんだぜ?」
ルカ「…あぁ、分かった。なんとかするよ。」
アリス「…なんだと?本気か?」
ルカ「本気に決まっているだろ?魔物が人間に迷惑を掛けているなんて、見過ごせるわけないじゃないか!そんな悪行をする魔物を放置していたら、人と魔物の溝は深まる一方。例えそれが、今の僕では歯が立たない強力なモンスターであろうとも_理想の世界のために力尽きるなら、それもまた本望だ!」
僕にとっては、人間と魔物が共存する世界こそが理想なのだ。
ラクト「ま、お前ならそう言うと思ったぜ…」
アミラ「さすが、私の見込んだ、そして愛した勇者様。私の心、ハートズキュン。」
チリ「心とハートがかぶってる…」
ルカ「ともかく、その盗賊連中のアジトはどこにあるんだ?」
アミラ「詳しい位置は分からないけど…この町から西のイリナ山地が拠点みたいね。」
ルカ「分かった、任せてくれ。」
アミラ「さすがダーリン!そこにシビれるーっ!あこがれるーっ!」
アミラ「じゃあ、朗報を待っているわ…」
そのままアミラは、地面を這いずりながら去っていった。
チリ「去り方っ!」
ラクト「絶対、足で立てるだろあいつ。」
アリス「本気で行く気か?ドラゴンやヴァンパイア相手に、今の貴様ではどうにもならん。貴様、そんなに英雄になりたいのか?」
ルカ「…僕は、英雄になりたいわけじゃないよ。」
アリス「本来の目的、魔王討伐とは関係ないだろう。そもそも。貴様が行かねばならぬ理由もないはずだ。」
ルカ「理由はあるよ。なぜなら、僕は勇者だからだ!」
ラクト「おぉ!さすが勇者様だ!」
アリス「…ニセ勇者の癖に。」
ラクト「まだ引きずるかお前!」
痛いところを突かれたが、それでも僕の信念が揺るがなかった。人と魔物の共存を実現するためならば、この身さえ滅びても構わない!
アリス「まったく、自分に関わりのない事など、放っておけばいいものを。このまま北に進み、港町イリアスポートからイリアス大陸を出るのだろう?」
カムロウ「でも、アリスさん。ぼく、今の装備に慣れたいんだ。だから、ルカの判断は良いと思うよ。」
ルカ「そうだよ。回り道も悪くないよ。こうやって経験を重ね、レベルアップしながら魔王城に向かうのさ。」
アリス「今のレベルでドラゴンなど相手にしたら、経験を重ねるまでもなく消し炭だがな…」
ルカ「何とでも言うがいいさ。人と魔物のいがみ合いを放置するくらいなら、消し炭になった方がマシだ。」
こうして会話を終え、一行は町を出た。