もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
村を出てから、カムロウは黙々と森の中を歩いていた。
もう朝と言えるほど周りは明るい。
コロポ村はかなり奥地にある村だ。
そこから近くの街道でもかなり距離はある。
歩きながらカムロウは悩んでいた。
カムロウ「(どうやって薬を探せばいいんだろう…)」
村から出たことがなければ、街の暮らしも知らない彼にとっては、
目の前に選択肢という橋がない真っ暗闇の川を、どう渡ればいいかわからないといったところか。
悩んでも答えは出ない。出て来やしない。
街道に出てから考えようと、その悩みは後にすることにした。
沢や茂みを駆け抜け、数時間は経った頃だろうか。
カムロウは気に寄りかかって休憩していた。
彼にとっては何もかも初めてなのだ。
自分で進路を決めて進むことも、悪路を進むことも、何もかも。
日頃から村で遊んで培った体力を持ってしても、かなり消耗するほどなのだ。
カムロウは、もしかすると野宿をするかもしれないと心配になっていた。
一人の夜は初めてだからだ。不安だ…その言葉がずっと頭の中で暴れていた。
…?
いま遠くから声が聞こえたような?
空耳なのかはわからないが、奥のほうから声のようなものが聞こえた。
どちらにせよ、そろそろ休憩を終えて進まないと思っていた頃だ。
すくっと立って、靴の履き具合を確認し、進路をさっきの声のほうに変更し、
森の中を歩き始めた。
青年「あああああああ!!!」
スライム娘「待ちなさいよ~!」
森の中を馬のように走り抜けていたのは一人の青年と一人のスライム娘。
青年「待てと言われて俺様は待たねぇのさ!」
青年「最悪だ…魔物と出くわすなんて!厄日だぜ!あー最悪!」
青年「金になる鉱石を手に入れたと思ってたらこれかよ!」
彼は採掘をしに森に訪れ、そしてお目当ての代物を手に入れて悦に浸っていたところ、
後ろから追いかけているスライム娘とばったり出会ってしまったのだ。
マフラーをたなびかせながら、青年は森の中を自慢の逃げ足で駆け抜けていた。
青年「へへっ…いいもんやるよ。」
スライム娘「?」
右手に魔力を込める、そして足元に向かって放った。
青年「
辺りに白い煙が一気に広がりはじめる。
白い煙の中から、青年は飛び出した。
青年「はーっはっはっはっ!この俺様からすればこんなもん朝飯前…」
スライム娘「待て~!」
青年「えええ!?何でまだ追って来れるのこいつ!?」
煙の中からスライム娘も飛び出した。奥の手が通用してないことに動揺した。
青年「ひえええお助けええええ!!!」
助けを懇願する断末魔が森中に響き渡った…。
カムロウ「やっぱりこっちからだ…」
さっきよりも声が大きく聞こえる。空耳じゃなかった。
カムロウは声が聞こえるほうに足を進めていた。
声の正体が何なのか知りたかった、ただの好奇心が彼を動かしていた。
カムロウ「…あれ?」
急に声が大きくなった。そしてこっちに向かってくるようだった。
一段、また一段と大きくなってきた。
…もう目の前にまで近づいてきた!?
カムロウはとっさに身構えた。
声と茂みをかけ分ける音は次第に、カムロウの前に姿を現した。
青年「ぬああああああ!!!」
カムロウ「えっ!?」
何か来るかもわからなかったカムロウにとって不意を突かれる出来事だった。
その動けない一瞬、カムロウは避けきれず、青年にぶつかってしまった。
青年「いってえええ!」
カムロウ「うぅ…いたたた…」
互いに頭からぶつかり、痛みだした箇所を手で押さえていた。
青年「な…何なんだおめぇは…?なんでこんなところに…」
スライム娘「追いついた~!」
青年「あああああ追いつかれたああああ!!!」
そうだこいつがいたんだった。青年はそんな反応をした。
カムロウはいきなりの出来事に目を点としていた。
青年はカムロウのほうを見ると、座りながら高速で後ずさりをし、カムロウを盾にしてこう言った。
青年「おうお前、ちょうどよかった!あとはまかせたぜ!」
カムロウ「え…まかせ…え?」
青年「んじゃ!またな!」
そういうと青年はカムロウを置いて、すぐさま逃げ出した。
彼の姿はすぐに見えなくなった。
カムロウはとにかく今の状況を整理した。
目の前にいる存在は…魔物?
人じゃない姿をしていたから、カムロウは魔物と判断した。
スライム娘「あ~…まぁ君でもおいしそうだね~。」
魔物は追いかけていた獲物を捕らえることができずに残念にしたが、あたらしい獲物を見つけ頬を緩めた。
え…魔物って喋るの?初めて出会った魔物を思い出しながら比較した。
喋るっていうことは…話し合えるのかな?
そんな淡い希望はすぐに打ち破られた。
スライム娘が粘液を飛ばしてきたのだ。
カムロウはすぐに反応し避けた。
何が何なのか、よくわからないけど…今はこの魔物を…追い払うべきなんだ。
やはり戦うべき存在なのだと判断したカムロウは、
腰に下げていた剣を右手で抜き、左手で盾を構えた。
スライム娘があらわれた!
カムロウにとって初めての実戦だ。
剣の斬り方は父のハーレーのやり方を真似をし、いない間にこっそり練習していた。
いまこそ練習の成果を確かめる時だ。
カムロウは初めての感覚と緊張を噛み締めた。
外の世界に出るというのは、こういうことが何度も起きるんだ。
恐れてなんかいられないんだ!
先に動いたのはカムロウだった。
勢いよく走りだし、剣を構えた。
スライム娘「そーれ!」
再び粘液を飛ばしてきた。
自分の体にあたりそうなものを盾で受け止めたり避けたりしながら近づいた。
カムロウ「えい!」
スライム娘の体を斬った。…確かに斬ったのだ。
スライム娘「ん~生きが良いね~」
…痛がっているようには見えない。なんでだ!?
初めての戦闘で初めての出来事。
経験がないカムロウは体を硬直した。
そうしているとスライム娘が抱き着こうとしてきた!
カムロウ「わっ…!」
我に返り、左手の盾でとっさに殴った。
ぷるんぷるんしながらスライム娘は衝撃で後ずさりした。
カムロウとスライム娘の間に距離ができたところでカムロウは気づいた。
さっき斬った箇所に…切り傷すらないのだ。
カムロウ「そんな…さっき斬ったはずなのに!?」
スライム娘「私の体は液体なんだよ?ちょっとくらいならへーきへーき!」
カムロウ「う…うわあああ!」
焦って再び斬りつける。サクッとスライムに切り傷ができる。
しかしすぐに塞がった。魔物の言う通り、少しくらいの傷ならすぐに回復するようだ。
もう一度斬っても斬っても、盾で殴っても、効果はなさそうだ…。
これじゃ攻撃しても意味がない…。
ぼくは負けるの…?
………いや、負けられないんだ!
ここで…死ぬわけにはいかないんだ!
カムロウ「お父さんの技を受けてみろ!」
スライム娘「え…!?」
見よう見真似で覚えたお父さんの技を今ここで使う!
剣を前に構え、剣に意識を集中する…。
周りにそよ風が吹き始めた。
次第に剣に風が集まり、風の塊が出来上がった!
スライム娘「な…なによそれ!?」
剣を脇に構え、風の塊を投げる準備をする。
…全部整った、あとは放つだけだ!
カムロウ「
風の塊をスライム娘に向かって投げ放った!
地を這うように進み、一直線にスライム娘に向かっていき、
スライム娘「ううっ!」
見事命中した。スライム娘の体に衝撃が走る。
スライム娘は自身の体のスライムをあたりにぶちまけながら体勢を崩した。
そして顔は苦痛と困惑の表情をしていた。
どうやらお父さんの技は一番効果がありそうだ。
カムロウはもう一度技の準備をしようと剣を構えた。
スライム娘「も…もうやめてよ~!」
突然の強力な技を受けて、スライム娘は体を引きずりながら逃げていった。
もうこれ以上戦闘を続ける意思はなさそうだった。
カムロウはほっと胸をなでおろした。
初めての戦いで、初めて勝利したのだ。
まだ体が震えている…正直怖かった。お父さんの技が効かなかったら、逃げ出すしかなかったのだ。
やっぱりお父さんはすごいや…そう思っていると、
青年「よっ。」
後ろから声をかけられた。振り向いてみたが誰もいない…?
青年「上だよ上、木の上にいるのさ。」
そう言われて上を見た。青年が太い木の枝に座っていて、こちらに手を振った。
青年「いや~わりぃわりぃ、急におとりになんかにしてさ。」
青年は木から降りながら話しかけてきた。
青年「やるじゃねぇか、お前なかなか…かっこよかったぜ…?」
そう言われて照れた。かっこよかったかな…?
青年「にしても…お前はなんでこんなところにいるんだ?」
青年「まだ子どもだろ?親とはぐれたのか?」
カムロウ「えっと…ぼくは…」
カムロウ「お母さんの薬を探しに…」
青年「…はい?」
カムロウは知っていることをすべて話した。
村に魔物が現れて、お母さんが庇ってくれたこと、
そしてお母さんを治す薬を探しに、家出まがいのことをしたことを。
青年「へぇ…そりゃ大変なこった…」
青年はカムロウの話を聞きながら、空き瓶を片手に地面に落ちていたスライムを集めていた。
青年「でもよ…その薬とやらを探すにしても、世界は広いんだぜ?」
青年「特にこの大陸、セントラ大陸なんかは特にな。」
カムロウ「…せんとらたいりく?」
青年「は?」
青年は驚いてスライムを集める手を止めた。
青年「い…いや、冗談だよな?お前、大陸くらいわかるだろ!?」
カムロウ「…ごめんなさい、よくわかんないです…。」
青年「(こいつは…もしや世間知らずってやつか?)」
青年は考え込んだ。目の前の少年が何なのかを。
カムロウ「あの…さっきから何をしているんですか?」
青年「んあ?」
カムロウは、青年がスライムを集めている理由を聞いてきた。
青年「あぁ…これな、金になんだよ。」
青年はにやにやしながら、手にもっているビンに詰まったスライムを見せてきた。
カムロウ「それが…お金に?」
青年「そうさ!こういうのは素材として売れるんだよ。接着剤やら料理やらなんやらでさ…」
喋っているうちに青年は閃いた。
青年「(待てよ…こいつを利用すれば、素材を集め放題じゃねぇか?)」
青年「(こいつは戦闘の経験こそは素人だが…パワーはあった。あのパワーなら魔物の素材は飛び散ってそのへんに落ちるわけだ。俺様が直々に戦わなくても、素材を拾うだけで楽な仕事だ。)」
青年「(おまけに世間知らず!都合のいいことを吹き込めば言いなりだ!)」
青年「(へっへっへっ…ふふふ…はーっはっはっはっ!)」
青年は心の中でほくそ笑んだ。最悪の事態の先に得た宝のカギを見つけて、悦に浸っていた。
カムロウ「…あの?」
青年「おいお前!喜べ!」
青年は満面の笑みを浮かべながらカムロウに近づいた。
青年「お前のその旅に、この俺様が直々について行ってやることにするぜ!」
カムロウ「えっ…本当ですか!?」
青年「あぁそうさ!はーっはっはっはっ!」
カムロウにとっては嬉しい朗報だった。
一人だと不安だったから。とても嬉しかった。
青年「だからな…俺とコンビを組まねぇか?」
カムロウ「えっ…こんび?」
青年「俺に付いてくれば、金もがっぽり稼げるし…いやいや、なによりその薬探しも、二人なら見つけられるんじゃねぇか?」
青年「どうだ!俺の相棒にならねぇか!?」
カムロウ「…えっと…お友達ってこと?」
青年は思わずずっこけた。そうかこいつはこういうやつか。
まだ慣れないが、こいつの扱い方をなんとなくわかってきたぞ。
青年「ま…まぁそうだな、友達でもいいぜ!」
そういって手を差し出した。
カムロウ「そっか!よろしくね!」
互いに握手した。これで今から友達同士だ。
カムロウ「ぼくはカムロウ!えっと…あなたの名前は…?」
青年「あぁそうだった!名前を言ってなかったな!」
青年「よーく覚えておけよー?」
青年「俺様の名はコトラス・ラクト!この世で最も偉大な人が名付けてくれた最高の名前だ!」
青年「ラクトって呼んでいいぜ!」
彼はそう言いながら名乗りの決めポーズをした。
カムロウ「うん!ラクトさん!」
ラクト「おっと、さんはいらないぜ。ついでに敬語なんてものもな。」
ラクト「俺たち今から、友達だろ?」
そういうと大声で笑い始めた。
とても明るくて優しそうな人だとカムロウは思った。
ラクト「そうと決まればカムロウ、さっそくこの森を出るぞ!」
そういってラクトは歩き始めた。カムロウもそれについて行った。
カムロウ「あ…うん!でもどこに行くの?」
ラクト「まーかせろって!俺様には完璧な計画ができてんだ。」
ラクト「まずお前の薬を探しは当てずっぽうじゃだめだ、先に小さいところから探したほうがいい。」
ラクト「この世界には3つの大陸がある。んでここから近いのはイリアス大陸!」
ラクト「イリアス大陸はそこまで大きくねぇから、先に片付けちまうならそっちが良い!」
ラクト「だからそのために、ナタリアポートっていう港町に行く。そこにイリアス大陸行きの船があるはずだ!」
それを聞いてカムロウは心を躍らせた。船に乗るのは初めてなのだ。
カムロウ「なんだろう…すっごくっ楽しみ!」
ラクト「お?そうか?よーし、それじゃ…」
ラクトは深呼吸をし、息を整えてこう叫んだ。
ラクト「ナタリアポートに行くぞー!カムロウ!」
カムロウ「うん!」
二人はそう言うと森の中を順調に歩き始めた。
初めての戦闘、初めての勝利、そして初めての友達。
カムロウにとって実りのある出来事が満載だった。
お先真っ暗だと思っていた旅に、小さい明りが道を照らしてくれるような気がした。
カムロウ「(お母さん…待ってて。絶対に見つけるから!)」
母を治す薬を絶対に見つけ出すと改めて決意したカムロウは、ラクトと共にナタリアポートに向かうのだった…。