もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
ハーピー集落襲撃作戦を決行する夕刻までの間、ルカたちは奇襲の準備を進めていた。
村の広場で、パヲラが作戦の説明をしていた。
パヲラ「改めて、襲撃作戦の内容を解説するわよん。」
パヲラ「決行時間は夕方、まず、あたしたちがハーピーの里に潜入する。そしてハーピーのボスを倒す。その時にこの魔法信号筒で合図を送る。そしたら村のレディたちが一気に攻め込んじゃって制圧する。これが大まかな流れよん。」
パヲラ「質問ある方はいるかしらん?」
カムロウ「はーい!」
元気よくカムロウが手を挙げた。
パヲラ「はいカムロウちゃん。」
カムロウ「どうして、夕方に行くんですか?」
襲撃するのなら今からでも始めるべきだ。という疑問だった。
アリス「余が説明しよう。」
アリスが前に出てきた。
アリス「この時間帯はハーピーがぐっすり眠る時間だ。朝は早く、午前は元気、昼はうとうと、夕方はぐっすり。あいつらはそういう毎日なのだ。奇襲を仕掛けるにはもってこいだろう?」
なるほど…と、村の女性たちも頷いた。
女性「あの…」
続いて若い女性が手を挙げた。
女性「持っていく武器はどうしましょうか?私たちは、武器らしい武器を持っていないので…」
パヲラ「可能なら農具が望ましいわ。先端を研げば武器の代わりにはなるわ。体の負担を減らす扱い方は、後で指導するわ。」
そして、作戦会議はどんどん進行していく。
パヲラ「ふぅ…だいたいこれで大丈夫かしら。」
大体の疑問、不安点は取り除いた。これ以上話しても何も出ないだろう。
ルカ「そうだね…それじゃ、解散!」
広場に集まった人たちは散り、各々が襲撃の準備をし始めた。
アリス「…人間とは利己的で、弱者を平気で踏みつけにする。自身の欲を何よりも重んじ、そのために他者を虐げる…人間はそういう生き物だと思っていたがな。」
村の女性達が襲撃の準備をする光景を眺め、アリスはため息を吐く。
アリス「弱く汚いかと思えば、思わぬ団結力を発揮する…人間とは、つくづく不思議なものだ。」
ルカ「誰だって、弱いのは嫌なんだよ。「弱い自分をなんとかしたい」って、そう思うのが人間ってもんなのさ。」
アリス「ふむ…弱っちい貴様が言うと、ひどく説得力があるな。」
ルカ「……前に比べたら、随分と強くなったと思うんだけどなぁ…」
アリス「ルカ…なぜ、関わりのない人間を、そうまでして救おうとする?貴様が言うには、英雄になりたいわけではないのだろう?」
ルカ「ただ助けたいだけさ…ニセ者であろうと、自称勇者なんだからね。」
アリス「そうか、とうとうニセ勇者と認めたか。」
ルカ「………」
カムロウ「そうだ、ルカ、お願いがあるんだ。」
ルカ「うん?なんだ?」
カムロウ「あとで、ぼくに「魔剣・首刈り」を教えてくれないかな?」
ルカ「えっ…?」
カムロウ「ハーピーのボスなら、とっても強い相手だと思うんだ。だから、使える技は覚えておきたいんだ。」
ルカ「それなら、今すぐにでもやろう!出来る限りの準備はしなくちゃ!」
カムロウ「うん!ありがとう!」
そして二人は、剣の稽古を始めた。
ラクトとチリは村の子どもたちの相手をしていた。
ラクト「チビどもは村に残ってろ。戦うにはまだ早ぇ。」
チリ「お家で待っててね。」
子ども「ええ~」
ラクト「まぁお祈りでもしとけばいいだろ。こういうのは大人に任せりゃいいんだ。家で大人しくしてな。」
それを聞いて、子どもたちはしぶしぶ家の中に入っていく。
すると、村長代理がラクトに近寄ってきた。
チリ「村長…いや、村長の奥さん…?」
ラクト「ん?ばあさんも村に残れよ?そんなご老体じゃ戦えねぇだろ__」
老婆「__儂を、ひどい人間だと思うか?」
ラクト「………」
チリ「………」
黙ってそのまま、村長代理の話に耳を傾けた。
老婆「しかし、村の皆を守るためには仕方がなかったのじゃ。そもそも儂は村長ではなく、代理の身。だからこそ、村の者を守らなければいかん。…どんな手段を用いてもな。」
ラクト「……っ!」
その時、ラクトの脳裏に砂嵐のようなノイズが走る。
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???「どこに行く気!?ラクト!!」
ラクト「別にいいだろ!何しようが俺の勝手だ!!俺に出来る事はこれしかねぇんだよ!」
???「待って!待ちなさい!!」
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ラクト「………」
老婆「非道な行いだったのは、儂自身が良く分かっておる。犠牲になった戦士達に対して、どう償えばよいのか…」
しばらく沈黙をした後、ラクトは口を開いた。
ラクト「…それを俺に聞くなよ。」
チリ「えっ…?」
ラクト「そういうのは終わった後に考えようぜ。俺は今、襲撃を成功することだけを考えてぇんだ。」
ラクトは腕を組んで、老婆に目を合わさないように、遠くの養蜂箱に視線を移す。
老婆「…ハーピー集落への襲撃は、儂も行く。この負の連鎖を断ち切らねばならん。」
ラクト「なんだよ、分かってんじゃねぇか。」
そう言って、ラクトはその場を離れた。
チリ「ちょ…待ってよ。」
ラクトの後を追って、チリもその場から離れた。
村から少し離れた、広い空き地で、ルカとカムロウは剣の稽古をしていた。
ルカ「今だ!剣を水平に、足のバネを使って突き上げるんだ!」
カムロウ「えええい!!」
カムロウは、「魔剣・首刈り」を放った!
…が、速く繰り出すことが出来なかった。
やってる動作はルカが放つ「魔剣・首刈り」とほぼ同じだ。
しかし、何度やっても、ルカのような鋭く速い突きにはならないのだ。
カムロウは難しい顔をした。
カムロウ「うーん…上手くできないや。」
ルカ「おかしいな…やってることは同じなのに。」
アリス「それもそうだ。カムロウに「魔剣・首刈り」は使いこなせん。」
遠くからアリスが歩み寄ってくる。
ルカ「え…なんでだ?」
カムロウ「アリスさん、どうして?やってることは同じなのに…」
アリス「そもそも、貴様ら二人は体の構造が違う。ルカは身軽さを生かした戦い方をするのに対して、カムロウは力を生かした戦い方をしている。」
アリス「それに使っている装備も違うだろう。ルカは剣一本だが、カムロウは鋼鉄の剣に鉄の盾だ。「魔剣・首刈り」を速く繰り出したいのなら、今、装備している重量のあるものを、全部外すでもしないと速くはならないぞ。」
ルカ「そうか…確かに、僕とカムロウじゃ、体重だってまるっきり違うな。」
アリス「カムロウ。なにも、「魔剣・首刈り」を使いこなせなくてもよいのだ。人には向き不向きがある。別の方法でもよいのだ。」
カムロウ「うーん…でも…」
アリス「ふむ、ちょうどいいお手本があるぞ。」
カムロウ「?」
アリスは遠くの茂みを指差した。
しかし、そこには何もないように見えた。
ルカ「…何もないじゃないか。」
アリス「ドアホめ、近づいて見ろ。」
二人は近づいてみる。…なにもない、何があるというんだ?
ルカ「……やっぱり何もないじゃないか。」
アリス「ドアホめ、よく近づいて見ろ。」
もうちょっと近づいてみる。
アリス「もっとだ。」
…もっと近づいてみる。
アリス「さらにもっとだ。」
……さらにもっと近づいてみる。
アリス「もっと!」
………茂みの前に立った。
カムロウ「えっ…アリスさん、もしかして、これのこと?」
なんと茂みの葉っぱの上には、バッタがいた。もりもりと草の葉を食らっている。
ルカ「…おいおいアリス、バッタがお手本はないだろ。」
ルカ「ていうか、そこから見えたのか。けっこう距離あるぞ、視力どうなってるんだお前…」
アリス「何を言う。今のカムロウにぴったりのお手本だ。」
アリス「ちなみに余の視力は16だ。」
ルカ「視力16だなって嘘言うな!適当な事を言っただろ!」
アリス「バッタは自身の筋肉を一気に解放することで、自身の体よりも高く空を飛べる。カムロウ、足をバネにして飛ぶ時、より力を溜めてみろ。」
カムロウ「えっと…こうかな。」
足のつま先をバネにする。すぐに飛ぶのではなく、力を少しずつ溜める。
最大まで溜めて、一気に解放する!
カムロウは空高く飛んだ!
ルカ「うわっ!高い!」
カムロウ「わっ!わっ!」
思いもよらない高さを飛んで慌てるカムロウ。そして、手足をばたばたしながら落下し、不時着した。
ルカ「かなり高く飛んだな…」
アリス「高いところから、重心を乗せて斬りつけるようにすれば、十分な威力を出せるだろう…だが必殺技として放つのなら、もう少し威力が欲しいところだな。」
それを聞いて、カムロウは飛び跳ねるように起き上がった。
カムロウ「今のでわかった!こうすればいいんだ!」
そういうとカムロウは、剣に風を纏わせた!
そしてさっきと同じように、つま先に力を集中させた!
カムロウ「でえええい!!!」
バッタのように飛び上がった!そして、風の剣で斬りかかる!
ルカ「おぉ…」
斬る対象がなかったために、どれくらいの威力があるかは実感できなかった。しかし、これなら必殺技として申し分ない強さだろう。
アリス「ふむ…「
カムロウ「
アリス「今後は、「魔剣・首刈り」の代わりにその技を使うといいだろう。まだ「魔剣・首刈り」を放つには速さが足りん。」
カムロウ「分かったよ、アリスさん!ありがとう!」
ルカ「…僕が教える必要はあったのかな。」
カムロウは「
日が傾きはじめ、夕刻が近くなったころ。
いよいよ、村ぐるみの襲撃準備が整ったようだ。
パヲラ「ルカちゃん、終わったわよん。」
おばさん「これで準備万端だよ!」
女性「戦うのは初めてですが……頑張ります!」
ルカ「じゃあ、東の森に行きましょう。皆さん、くれぐれも無理はしないように……」
こうして僕たちとアリス、そしてハピネス村の女性達は、東の森に向かったのだった。