もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
そして、夜遅くまで話し合いは続き、
クィーンハーピー「ハピネス村から強引に男性をさらうことはしないと、誓いましょう。」
老婆「我々も、村の男達をなるべく多くハーピーの里に婿に入れると約束しよう。その代わり、生まれたハーピーの娘達も村で農作業を手伝って下され。」
こうした友好関係を軸に、ハピネス村とハーピーの里との協定は結ばれた。
それからは、もうお祭り騒ぎ。
人もハーピーも関係なく、広場で食うわ飲むわ踊るわの大はしゃぎだ。
パヲラは踊りの中で火吹き芸をしている。
チリ「すごい食べるねカムロウ…」
カムロウ「うん、お腹空いちゃって。」
カムロウは2回目のおかわりをしていた。
おばさん「これというのも、全部あんた達の活躍のおかげさ。ハピネス村一同を代表して、礼を言うよ。」
ルカ「いえいえ、勇者ならば当然のことです。」
ラクト「勇者なら当然?謙虚な事だぜ全く…」
ルカ「勇者というのは、肩書きではなく行動によって示すものだよ。ゆえに、断じて僕はニセ勇者ではない!」
ラクト「お前…もしかして、根に持ってたのか?」
アリス「別に恩を売りたいわけではない…が、余は甘いものが好きで好きでたまらん。」
ラクト「そうだ!ハチミツ!おばさん、ハチミツあるか!?」
おばさん「よし来た!おいしいハピネス蜜をたっぷりプレゼントするよ!今はこの壺に入った分しかないけど、どうぞ!」
アリス「ふむ、決してこれを期待していたわけではないぞ。」
ラクト「よーし、さっそく梱包して明日売りさばくぞ__」
アリスはハチミツが入った壺を引っ手繰った。
ラクト「はあぁ!?おい!アリス!てめぇ!」
アリス「これは余のだ。」
ラクト「返せ!返してくれ!頼む!金が!金が出来ないから!」
ルカ「アリス、お前…」
僕はただ、アリスの意地汚さに呆れるのみだった。
踊りの輪からパヲラが帰ってきた。
ついでに、チリとカムロウも帰ってきた。
パヲラ「ふぅ…ちょっと休憩しようかしら。」
カムロウ「ぼくも…食べ過ぎた。」
チリ「あれ、ラクトどうしたの?」
ルカ「ふて寝するって。」
パヲラ「うふふ、楽しい宴ねい。これなら人と魔物の関係も大丈夫そうねい。」
ルカ「でも…ハーピーの里に婿に行く男は、納得できるのかな?」
踊りの輪を眺めながら、僕はそう呟いてしまった。
チリ「? なんで?」
ルカ「だって…まるで、村から生け贄に出されたようなものじゃないか。」
おじさん「その心配は無用だよ、若い勇者君。この一件で、我々とハーピー達は手を取り合うことになった。今後は、深い絆ができるはずさ。なにより、ハーピー相手のアレの味を知ってしまうと、もう人間の女なんて__」
チリ「あ…その…おじさん…」
ルカ「奥様らしき方が、クワを構えて迫っていますよ。」
ルカ「やれやれ、本当にこれで良かったのだろうか…」
しかし、これも人間と魔物が手を取り合う第一歩なのだ。
ルカ「どう思う、アリス…?」
アリス「あまい…♪」
チリ「話、聞いてない…」
アリスは満足そうに、壺にたっぷり満たされたハピネス蜜を指ですくって舐めている。
ルカ「ハーピーの側も、事情を説明して男を婿にもらったら良かったのにな…。」
カムロウ「そうだね…最初からそうすれば、こんなことにならなかったと思うんだけど…」
アリス「それでも婿が来なかったから、ああいう事になったのだろう。貴様らはドアホか。」
カムロウ「ああ、そっか…」
ルカ「………」
チリ「確かに、その通りだけど…」
アリス「そもそもの原因は、人間側が魔物との婚姻を拒絶するようになったから。それも、あの下らん教えがあるからではないのか?イリアス五戒のひとつ、「魔と交わるなかれ」、あの馬鹿げた戒律がな。」
ルカ「…そんな事言うなよ、アリス。まるで、イリアス様の教えが悪いみたいじゃないか。」
しかし、その戒律のせいで、魔物との婚姻自体がタブー視されることになったのも事実である。
人間の側が拒絶してしまえば、魔物は無理にでも性交を強制するしかない。
そうしなければ、子孫を残せず滅びてしまうから__
ルカ「…おっと、いけない。イリアス様のおっしゃる事に、疑念を挟むだなんて…」
疑念を振り払うように、首をぶんぶんと左右に振る僕。
その様子を眺め、アリスは深々と溜め息を吐いた。
パヲラ「やっぱり、強引に男をさらうなんて、女王様も乱暴な手段であった事は自覚してたのよ。だから、心に迷いが生まれちゃって、あたしたちに本気を出す事ができなかったのよねい?アリスちゃん。」
ルカ「そうなのか…?」
アリス「当然だ。そうでなければ。ハーピーの女王たる者が貴様ら風情に負けるか。心に迷いが生じ、本心から攻撃できなかったのだろうな。」
ラクト「えぇ!?あの女王サマ、本当は強いのか!?」
ふて寝していたラクトが飛び上がって驚く。
ルカ「そうだったのか…」
やはり、女王も本心では迷っていたのだ。
ともかく、この一件は解決したと思いたいものだ。
そして翌朝。
老婆「お主たちには、本当に世話になったのう。」
おばさん「またハピネス村に来なよ、あんた達なら大歓迎さ。」
クィーンハーピー「いくら事情があったとはいえ、我々は確かに間違っていました。それを正せたのは、あなたのおかげです。あなたの旅が、良きものとなることを、心より願っていますよ。」
ルカ「皆さんも、頑張って下さいね!」
おそらく、人と魔物の信頼が試されるのはこれからだ。しかし僕は、友好関係が維持されることを信じている。
青年「ありがとうな!また遊びに来いよ!」
女性「どうか、ご達者で…」
ハーピー「えへへ、また遊びに来てね~!その時は相手してくれると嬉しいな…♪」
パヲラ「じゃあ、あたしが相手しようかしら。その時はハチミツプレイでお願いねい♪」
ラクト「おい待て、それは一体どういうプレイなんだ。」
こうして僕達は、ハーピーの里を後にする。
…かと思えば、アリスはクィーンハーピーに呼び止められていた。
クィーンハーピー「あの、ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?もしかして、貴方様は…」
アリス「余は、旅のグルメ。大した者ではない。」
クィーンハーピー「そ、そうですか…余計な詮索は無用でしたね。」
ルカ「?」
カムロウ「ルカー!アリスさーん!早くー!」
チリ「置いていくよー?」
遠くでみんなが、僕たちが来るのを待っていた。
ルカ「ああ!今行く!」
ともかく、僕たちはハーピーの里を後にしたのだった。
その道中、
ラクト「………」
ラクトはものすごく真剣な表情をしながら、大事そうに荷物を抱えていた。
パヲラ「うわっ…すごい気迫。」
ルカ「どうしたんだ一体…」
ラクト「後ろを見ればわかると思うぜ。」
そう言われて後ろを見た。アリスが恨めしそうにその荷物を見ていた。
ラクト「村を出た辺りから、
アリス「…ケチ。」
ラクト「お前がな!」
ルカ「あれ、ハチミツ手に入ったんだ?」
ラクト「あの後、なんとか集めたんだぜ。そしたらこいつが感づいて食おうとしてたもんだから…」
ラクト「だからいま、俺はこの金の卵を死守してんだ!早くイリアスベルクで売りさばきたいぜ!」
ルカ「みんな、イリアスベルクに行こう。このままだとラクトがハチミツ抱えたまま石像になりそう。」
カムロウ「分かった!」
ラクト「おい今のどういう意味だよ!」
僕たちは一度、イリアスベルクに寄ることにした。
イリアスベルクの高級老舗宿「サザーランド」…
おかみ「聞いたよ!ハピネス村のこと!やっぱり、どうにかしてくれると思ったんだよ!」
ルカ「あはは…ありがとうございます。」
ラクトが荷物を売っている間に、僕たちはサザーランドに寄っていた。
おかみ「そういえばさ…あんたは見たかい?」
ルカ「?何をですか?」
おかみ「今、このイリアスベルクに「サムライ」が来てるらしいんだよ。」
ルカ「さ…サムライ!?」
カムロウ「サムライって?」
パヲラ「確か…セントラ大陸の東方にいるっていう凄腕の剣士。」
アリス「刀と呼ばれる剣を振るい、その剣捌きは鉄をも斬り裂くと言われているな。」
チリ「なんで、その「サムライ」がイリアスベルクに?」
おかみ「それは知らないんだけどさ…私も見てみたいね、サムライ。」
おかみ「まぁそれはともかく、また来なよ!あんたたちなら大歓迎なんだからさ!」
ルカ「はい!また来ます!」
そうして僕たちはサザーランドを後にした。
そして、広場でラクトと合流した。
ルカ「どう?売れた?」
ラクト「そりゃもちろん!予想より儲からなかったけど、赤字分は取り返せたぜ!」
ラクトは上機嫌だ。
ラクト「もう用は無くなったぜ!ルカ、次はどこに行く?」
ルカ「さて、次の目的地は…」
???「__ちょいとすみません、お兄サン方ぁ…」
ルカたちは後ろから声をかけられた。
振り返ってみると、そこには男が二人いた。
一人は、頭に笠を被り、袴を着ており、腰に刀を差していた。
おそらくサザーランドのおかみさんが言っていたサムライというのはこの人のことだろう。
もう一人は、髪は長く、狩衣というのだろうか、そんな服を着ており、手には錫杖を持っていた。
僕たちに話しかけてきたのは、この、髪の長い青年だった。
青年「つまらぬことをお聞きしますが…もしかして、旅の人でぇ?」
ルカ「はい、そうですけど…」
???「それなら、こんな男を、旅先で目にしませんでしたかぃ?」
そういうと、髪の長い青年は懐から一枚の紙を取り出して見せてきた。面相書きだ。一人の男らしき顔が書かれてあった。
あいにく、僕はその顔にピンと来なかった。みんなも同じ反応だった。
そして、サムライが口を開く。
サムライ「拙者たち、この男を探しているのだ。」
アリス「…見たことないな、そんな男は。」
青年「あぁ、そうでしたかぁ。いやぁ、すみませんねぇ。つまらぬことをお聞きしてぇ。」
そう言って、青年とサムライは深々と頭を下げる。
青年「それじゃ、行きましょうかぁ。」
サムライ「うむ、失礼する。」
そして僕たちに背を向け、去っていた。
ルカ「…あれが、サムライ?」
カムロウ「かっこよかったね!サムライさん!」
チリ「もう一人いたね…なんだったんだろ。」
ラクト「ま、なんでもいいぜ。大した用でもなかったらしいしな。」
ラクトはマフラーを巻きなおしながらそう言って、話題を変えた。
ラクト「それで?次はどこに行くんだぜ?」
チリ「目星付けたところは全部行ったし…」
パヲラ「このままイリアスポートに行っちゃう?」
ルカ「いや…僕、行ってみたいところがあって…」
カムロウ「? どこに行くの?」
ルカ「隠れ里エンリカってところに、ちょっと行ってみようかなって。」
隠れ里エンリカ、その単語を聞いたみんなは、頭に?を浮かべた。
ラクト「エンリカ…?なんだ?そこ?」
ルカ「そうなんだよ、僕の故郷からそう離れていないのに、名前さえ聞いた事がないんだ。いったい、どういう村なんだろ…。」
アリス「…ふむ、エンリカなる名前は、旅の書にも載っておらん。もしかしたら、思わぬ名産品があるやもしれぬな。」
ラクト「また食べ物かよ!お前にとって食べ歩きツアーかこの旅は!?。」
ルカ「…まさか世界を回る目的というのも、食べ物を漁るためじゃないだろうな。」
ルカ「とにかく、行ってみるか!」
こうして僕達は、大陸南西の隠れ里エンリカに向かったのだった。