もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
僕たちは隠れ里エンリカから、ひとまずイリアスベルクに戻った。
そして、改めて目的地を決めた。
ルカ「よし、イリアスポートに行くとするか!」
アリス「ふむ…港町ならば、色々と各地の名産も集まっているだろうな。」
ラクト「…相変わらず食い物のことか。」
ルカ「まあ、各地の名産を食い荒らす程度なら問題ないか。人間を食べ始めるよりマシと思っておこう。」
ラクト「おい待て!?」
チリ「ルカ…感覚麻痺してきてない!?」
ルカ「ところでさ…カムロウたちは、イリアスヴィルから出発した時に、「セントラ大陸行きの船は出てない」って言ってたけど…詳しく教えてくれないかな?」
チリ「えっなにそれ!?」
アリス「そんなことを言っていたな。詳しく説明してくれ。」
パヲラ「いいわよん!教えるわ!」
パヲラ「何でも…昨年から、セントラ大陸との往復便が出てないらしいのん」
ルカ「そういえば…去年あたりから、イリアス神殿に訪れる冒険者が激減していたな…そんな事情があったのか…」
チリ「じゃあ、カムロウとラクトとパヲラさんはどうやってここに来たの?」
ラクトはパヲラを指差した。
ラクト「大砲で飛んで来た…いや、飛ばされたって話、信じるか?」
カムロウ「パヲラさんが考えたんだ!」
パヲラ「画期的でしょ?」
チリ「え…な…ええぇ???」
チリは困惑した。
そりゃそうだ。僕だって最初聞いた時は反応に困った。
大砲で飛んでくるなんて、普通の人間じゃ絶対にしない。
ルカ「それで…嵐があって通れないって言ってたね。」
パヲラ「そうよん。沖を出たところで激しい嵐に襲われるらしいの。しかも、どんなに晴れてても出航した時にいつも起きるって。」
カムロウ「それってもう…」
ルカ「うん。ただの自然現象じゃないね。」
アリス「…ふむ。ああ、そうか。」
今まで黙っていたアリスが、不意に頷いた。
ラクト「ん?どうした?」
ルカ「何か知ってるのか、アリス?」
アリス「ん…まあ、ちょっとな。」
アリスの妙な様子に、僕たちは目を丸くしてしまう。
ルカ「どういうことなんだ?説明してくれよ。」
アリス「あまり多くは離せぬが…ある強力な妖魔が、船での横断を邪魔しているのだ。イリアス大陸とセントラ大陸を遮断し、冒険者をイリアス神殿に向かわせない事が目的だな。」
ルカ「ある強力な妖魔…?」
ラクト「なんだよ強力な妖魔って…」
ルカ「つまり、そいつを倒せばいいんだな。」
ラクト「話聞いてたか!?強力な妖魔って言ってただろ!!」
ルカ「嵐を起こしている原因がその魔物なら、倒せばいいはずだろ。」
ラクト「脳筋かお前!!」
ルカ「船が出せないせいで、この大陸の人達の生活も無茶苦茶なはずなんだ。そんなことをする魔物を、黙って放置するわけにはいかない!」
パヲラ「確かに…交易に支障が出るのは、港町には結構な痛手よね。」
カムロウ「港町に人、あんまりいなかったよね。」
アリス「…やめておけ、貴様らでは太刀打ちできん。」
アリスは冷たく言い放った。
ラクト「ほらみろ。我らがアリス様がそう言うんじゃ無理じゃねぇか。」
アリス「それにしても、これでは各地の名産品が楽しめんではないか…」
ラクト「まぁ…それはそうだな。以前のイリアスポートなら、そこらへんの屋台や店で各地の名品を売ってたしな。ナタリアの真珠やら、東方の陶器や書画やら、サバサの高級絨毯やら…」
アリス「食えんモノに興味はない。」
ラクト「…諸国の珍味もあったけどな。ナタリアの魚にサバサココナッツ、ヤマタイまんじゅう…」
アリス「おのれ、魔物め…許さん!」
ラクト「お前も魔物だろっ!!」
ルカ「お前も魔物だろっ!!」
いや、そんな事はどうでもいい。
カムロウ「ルカ、どうする…?」
チリ「嵐が出なくなるまでここで待つ…?」
パヲラ「だめね。自然現象じゃないなら、無くなるなんて可能性はないわ。」
ルカ「…どちらにせよ、このイリアス大陸から出られないのは、非常に困る。僕の目標は魔王退治!こんなところで足止めを喰らうわけにはいかない!!」
…しかし、イリアス大陸から出るという選択は、しばらくこの大陸には戻ってこない事になる。
__それでも僕は…
ルカ「とりあえず行ってみよう!イリアスポートに!!」
カムロウ「うん!行こう!」
ラクト「…ま、お前の事だろうからそう言うと思ったぜ。」
パヲラ「それがルカちゃんの旅を止める理由にはならないしね。行くだけ行ってみましょ。」
こうして僕たちは、とりあえずイリアスポートに向かって北上する事になった。
草原を歩いている時、ルカはあることを思い出した。
ルカ「そういえば…イリアス大陸には、イリアス様のご加護が満ちているらしくて、魔物はそう多くないんだ。」
パヲラ「ええ、そうらしいね。」
チリ「ああ…道理で、そこまで強い魔物がいないわけだね。」
ルカ「けど、イリアス神殿から離れて、北に向かえば向かうほど、出現する魔物も強力になっていくんだって。」
こんな風に人里を離れ、長い長い道を歩いていると…
ラクト「なるほどねぇ…さっそくお出ましってわけかぜ。」
ヒル娘が現れた!
ヒル娘「旅人?洗礼を受けていないのね…美味しそう。私がちゅうちゅう吸ってあげる…」
ヒル娘の下半身に、ぽっかりと空いたもう一つの口。中では無数の触手がじゅるじゅるうねり、ヒダがざわめいていた。
それは見るからに不気味であった。
パヲラ「わーお。」
ラクト「うーわ…気持ち悪ぃ…」
しかし…ルカはそこに咆えられてみたいという欲求が沸き上がってしまっていた。
ルカ「…あの中に体を咆えこまれたら、どんなに気持ち良いのだろうか。」
カムロウ「ええっ!?ルカ!?」
ラクト「チリ、ぶっ叩け。」
チリ「
チリはルカに向かってハンマーを叩きつけた。
ルカ「うわああああっ!!!」
ルカの頭には、それはそれはデカいたんこぶが出来た。
ルカ「僕は、そんな誘惑には乗らないぞ!」
カムロウ「………」
ラクト「………」
パヲラ「………」
チリ「………」
たんこぶが出来た勇者はそう啖呵を切ったが、仲間たちの視線は冷たかった。
ルカの隣に、チリとラクトが立った。
パヲラ「あら?珍しいわね、
ラクト「いや…
チリ「私も同じく。」
パヲラ「………」
魔物の先制攻撃!ヒル娘は長い尻尾を、ルカたちに向かってなぎ払ってきた!
ルカたちは防御できず食らってしまい、吹き飛ばされる!!
ルカ「ううぅ…!」
チリ「痛ったい…」
ラクト「痛ってぇなぁ…おい…!」
ごろごろと転がるもすぐに立ち上がる。
すると、もう一度と言わんばかりに、ヒル娘は再び尻尾をなぎ払う!
ルカは高くジャンプして回避した!
ラクト「後ろにいろ!」
チリ「ちょっと!どうにかできるの!?」
ラクト「出来る!だからハンマー構えてろ!」
ラクト「アーススパイク!」
目の前で魔力を込めた文字を描く。描かれた文字は地面に潜っていき、そこから無数の土の棘を生やす!
ヒル娘の尻尾に、土の棘が突き刺さる!
ヒル娘はあまりの痛さに、思わず攻撃を止めてしまった。
ラクト「おい!ハンマーぶん投げろ!」
チリ「分かった!」
チリ「
チリはハンマーを空高く投げた!
ラクト「ヘビーウェイト!」
ラクトは、空高く飛んだチリのハンマーに重力付加の魔法を放った!
急に重い重力が乗ったハンマーは、ヒル娘の脳天にさらに勢いを付けて落下した!
ヒル娘「いっ…!!!」
ルカ「今だ!!」
その怯んだ隙に、ルカは魔剣・首刈りを放った!
足をバネにして、首元に鋭い突きを放つ!
それが止めの一撃となったのか、ヒル娘は、小さなヒルの姿に封印された。
そして、そのまま一目散に逃げていく。
ヒル娘をやっつけた!
アリス「やれやれ、片付いたようだな…」
カムロウ「あ、アリスさん。」
いつの間にか、側にアリスが立っている。
もう近頃は、アリスが消えたことすら意識していなかった。
ルカ「なあ…僕も、なかなかやるようになったと思わないか?」
アリス「どこがだ、ドアホめ。何なのだ、あのヒョロヒョロとした突きは。」
チリ「ひょ…ヒョロヒョロ…」
ルカ「え…?自分では、疾風のような突きだと思っていたんだけど…」
パヲラ「それで良いのよルカちゃん。イメージは大事よん。いつかはそれくらい速い突きを出来るようイメージすればいいわ。」
アリス「やれやれ…」
アリスは溜め息をつく。
ルカ「ところでアリス。僕たちが戦っている間、どこで何をしてるんだ?」
アリス「ん…?辺りをうろついてみたり、おやつを食べたり、虫を捕まえてみたり…色々だな。」
ラクト「うん、暇だな?暇なんだな?暇なんだろ?」
そんなに退屈なら、助けてくれてもいいだろうに…
それからしばらくして夕暮れ、歩きながら今夜の野営場所を探している時のこと___
ルカ「ん?」
アリス「どうした?食い物か?」
ルカ「違うよ。あれ見てよ。」
道端に、二人の人影が座り込んでいるのが見えた。
近付いてみると、その二人は先日、イリアスベルクにいたサムライとその付き添いであろう青年であった。
青年「おやぁ?あなた方は確かぁ…」
ルカ「この前、イリアスベルクで会いましたよね?どうしたんですか?こんなところで…」
青年「いやぁ…お恥ずかしいことに、持っていた食料が底をついてしまってですねぇ…どうしようかと思っていたところなんですよぉ。」
ルカ「食料が…?」
パヲラ「買い忘れちゃったの?」
青年「そうなんですぅ。買ったと思ってたら買い忘れててぇ…でも、この先のイリアスポートになら、このまま行けるだろうと思ったんですがぁ…相方が健啖家なものなんで、すぐに無くなって無くなってぇ…」
サムライ「腹がああっ!!減ってぇ!減ってぇぇ!!是非も及ばずぅぅぅ!!!」
ラクト「うるさっ…なんだこいつ。」
青年「すみませんねぇ、やかましくて。こいつ、腹が減ると歌舞伎役者になっちまうんですよぉ。」
サムライ「腹がああぁぁ!!!」
ラクト「うるせぇ!!」
青年「お前さん、うるさいってぇ。少し黙ってなぁ。」
サムライ「承知ぃぃぃ!!!」
カムロウ「…サムライさんって、お腹が空くとああなるの?」
チリ「いや、あれは違うと思う。」
ルカは少し考えたあと、サムライたちにある提案をした。
ルカ「…あの、僕たち、これから野営をするので、よかったら食べていきますか?」
青年「えっ!?いいんですかぃ!?アッシら、全く見ず知らずの無関係の人ですよぉ?」
ルカ「良いですよ、困ったらお互い様って言うじゃないですか。」
ラクト「いいのか?食料持つのか?」
ルカ「ああ、イリアスポートには明日着くはずだから大丈夫だよ。」
青年「あぁ…なんと懐が広く、深いお方でぇ…!」
アリス「ところでルカ、今夜はなんだ?」
ルカ「今夜はバーベキューにしようかと…」
チリ「バーベキュー!いいね!」
パヲラ「じゃあ、ぱぱっと準備しましょ!」
こうして僕たちは、野営の準備をするのであった。