もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
そして、その夜の野営__
今夜はバーベキュー。主なメニューは、牛肉、豚肉、鶏肉に軽く塩コショウをまぶしたものと、玉ねぎ、ピーマン、ナス、カボチャといった野菜類だ。
サムライ「美味いっ!美味いでござる!」
青年「いやぁまいったまいった…美味いでやんすねぇ…!」
チリ「ああっアリスさん!私の分、取らないで!」
ラクト「アリス!それは俺のだ!おい、頬張るな!!」
アリス「むむむむむむむっ!!(全部、余のだ!)」
パヲラ「カムロウちゃん、野菜も食べなきゃだめよ。」
カムロウ「はーい。」
みんな、バーベキューを楽しんでいるようだ。
…だが、一つ疑問点がある。
アリスは人の姿になっておらず、下半身は蛇のままなのだ。
サムライと青年はそれに気付いているのかは知らないが、全く気にしてないのだ。
思わず、アリスに聞いてみる。
ルカ「なぁ、アリス。人の姿にならなくていいのか?」
ラクト「確かに…なんでだぜ?」
チリ「そうですよ。大丈夫なんですか?」
敵対していないとはいえ、人と魔物が一緒にいるなんて、普通は騒ぎになるはずだ。
アリス「ふむ…そういえば、貴様らは知らないのだったな。」
アリス「あの二人は東方出身だ。東方は、動植物全てに…万物に神が宿るという考えの風習がある。つまり、魔物でも縁起の良い神として拝むのだ。そうだろう?」
青年「ええ、その通りですぅ。蛇神様と一緒だなんて縁起が良いもんですよぉ。」
どうやら、人の姿にならなくても問題ないようだ。
ルカ「へぇ…そんな文化もあるんだなぁ。」
ラクト「まぁ…問題ないなら、別にいいか。」
ルカ「あの…お二人はなぜ旅を?」
サムライ「うむ、モグモグ…拙者らは、モグモグ…ある男を、モグモグ…」
ラクト「一旦、食うのやめろ!!」
青年「ああ、アッシが説明しやす。」
青年「アッシら、ある男を探して諸国を旅しているんでやんすぅ」
そう言いながら、懐から面相書きを出す。
右目に切り傷がある男だ。
パヲラ「これ、あたしたちにも見せてきたわよね。」
ルカ「この人を探しに、わざわざイリアス大陸まで?」
青年「ええ、そうですぅ。見つからないものなんで、ここにいるんじゃないかと思ってぇ…」
それを聞いたルカに一つの疑問が思い浮かぶ。
ルカ「ん?…お二人は、いつからイリアス大陸に?」
青年「ちょうど3日ですなぁ。」
ルカ「えっ!?確か、船の往復便は出てないはず…」
カムロウ「どうやってここに来たんですか?」
青年「大砲で飛んで来たんですぅ。」
それを聞いて唖然とした。
ルカ「えっ?」
チリ「えっ?」
ラクト「んんっ!?」
ラクトは口の中にあったものを吹き出しそうになる。慌てて飲み込んで喋り始めた。
ラクト「ちょ…ちょっと待て?大砲で?飛んだ?」
青年「港の船乗りサンから、そうやってイリアス大陸に渡った人がいるって聞いたんで、真似したんですよぉ。」
カムロウ「それって、パヲラさんのことじゃ…?」
パヲラ「はーい!あたしでーす!」
サムライ「なんと!お主でござったか!なんと型にとらわれない奇天烈な発想を…」
パヲラ「そう?でしょ?でしょ?画期的でしょ?」
サムライとパヲラは和気あいあいと話し始めた。
ラクト「…なんで分かり合えてるんだこの二人は。」
青年「それでぇ、大方、聞きまわったんで戻ろうかとなって、イリアスポートに向かっていた途中で…」
ルカ「食料を買い忘れたことに気付いて立ち往生をしていたところを、僕たちと出会ったと…」
青年「そうです、そうですぅ。」
ルカ「でも…今、セントラ大陸への船が出てないんですよ?イリアスポートに一体、何をしに…?」
サムライ「ああ、セントラ大陸には泳いで帰ろうかと。」
ラクト「無理だろ!!」
パヲラ「…じゃあ、大砲で?」
ラクト「もっと無理!!」
チリ「私も無理!」
アリス「余も…大砲で飛ぶなど…」
カムロウ「え~、あれ面白いのに~」
ルカ「面白いのか…?」
すると青年は、ハッと何かに気が付いたようだ。
青年「…アッシら、名前、言ってなかったですよねぇ?」
ルカ「ああ、そういえば…」
本当に今更だった。僕たちお互い、名前すら知らなかった。
サムライ「む…恩人の名も知らずに飯を喰らうのは無礼でござった!」
サムライと青年は食う手を止め、名乗りを挙げた。
サムライ「改めて、拙者、名はジョージと申す。生国と発しますは、セントラ大陸の東方の地、ヤマタイでござる!」
青年「アッシはマモルと申します。同じく生国はヤマタイでございますぅ。」
そう言うと二人はルカに向かって土下座をした。
ジョージ「そして、この御恩!!かたじけない!!!」
マモル「いやぁ、本当にありがとうございやす!」
ルカ「いやそんな…顔を上げてくれませんか?大したことはしてませんよ。」
ジョージ「あの時、勇者殿に会わねば、拙者たち、無念を残して消える運命でござった!!!」
ジョージ「この御恩…生涯忘れぬ!!」
そう言うと、また深々と土下座をする。
…これも東方の文化なのだろうか?
ルカ「…あ、お肉、焼けましたよ。ジョージさん食べます?」
ジョージ「いやぁ!これ以上の御恩ぉぉ!!頂くわけにはぁぁぁ!!!」
ジョージは歌舞伎口調になった。
ラクト「うるせぇ!食べ足りねぇならもっと食えよ!!」
ルカ「おかわりはまだありますから!!」
マモル「それでぇ…この御恩、どう奉公すればいいんですかぃ?アッシら、ちょうど旅費もないもんなんで…」
マモルは腕を組んで悩みはじめた。
ルカ「じゃあ…イリアスポートまでの間、僕たちと一緒に行きませんか?ちょうど、イリアスポートに行くところなんで…」
ジョージ「うむ!拙者、この御恩を返すためならば、この身、滅びようとも成し遂げる所存でござる!」
ルカ「いや…そんな重く受け止めなくても…」
対応に困っていると、食べ物が焼けるのを待っているアリスが口を挟んだ。
アリス「ふむ…ルカ、面白い話をしろ。」
ルカ「えっ!?いきなりそんなこと言われても…」
アリス「余は、重い空気の中で食事するのは嫌いだ。」
ラクト「おっいいねぇ。なんか話せ!」
ルカ「お前なぁ!他人事だからって!」
カムロウ「それでルカ、何を話すの?」
ルカ「えーと…じゃあ__」
ちょうど思い浮かんだ話をする。
今から500年前の話、伝説の勇者ハインリヒの物語。
小さい頃から、絵本で何度も何度も読んだ話だ___
ルカ「こうして勇者ハインリヒは魔王を打ち倒し、世界に平和が訪れたんだよ…めでたしめでたし。」
カムロウ「わぁ…」
ジョージ「なんと…なんと…」
パヲラ「おうっ…おうっ…」
ジョージとパヲラはぼろぼろと涙を流していた。
チリ「そんなに泣くほど?」
ラクト「感動しすぎでは?」
マモル「すみませんねぇ。うちの連れ、こんな奴なんですよ。」
ラクト「いやいや…こっちの連れも変人なものなので…」
パヲラ「…誉め言葉?」
ラクト「違ぇよバカ!!」
アリス「…どこがめでたいのだ、ドアホめ。」
アリスは焼き肉の刺さった串をかじりながら、冷たく言い放った。
ラクト「お前なぁ…面白い話をしろって言ったのお前じゃねぇかよ?」
確かにそうだ。面白い話をしろと言われた揚げ句に、ドアホ呼ばわりとは…
アリス「余は魔族だぞ。魔族に対して、昔の魔王が退治された話を嬉し気に語る馬鹿がいるか。人間の王が魔物に殺された話を聞かされて、貴様は愉快なのか?」
カムロウ「あー…そっか…」
ルカ「あ…確かにそうだね…」
アリス「貴様は人間と魔物が共存する世界を築くなどと抜かすが…そこら辺のデリカシーに欠けているようだな。」
ルカ「ご、ごめん…」
チリ「ま、まぁ…次からはちゃんと配慮しよっか?ね?」
確かに、いくら昔の話とは言え、魔族のアリスが聞いて愉快な話でもなかったはず。
アリス「まあ…ハインリヒに倒された当時の魔王は、決して褒められるべき者ではなかったがな。」
アリスは、実に意外な感想を口にした。
アリス「支配欲のままに力を振るい、多大なる破壊と混乱をもたらした。人間の勇者に倒されたとて、自業自得かもしれん。」
ルカ「自業自得か…意外に辛辣なんだな。」
アリス「力で他者を支配しようとするなど、野蛮な行為だろうが。蛮行には報いがある、当然の話だ。」
ルカ「確かにそうだね。今の魔王は、どうなんだろうな…?今、魔物達を統率しているという魔王って、謎に包まれた存在なんだよな…」
チリ「姿を見た人間も、ほとんどの魔物も会った事がないって噂だし…」
ただ絶大な魔力を誇り、歴代の魔王の中でも最強という話だが…
ルカ「やっぱり、人間との全面戦争を宣言したんだから…悪党なのかなぁ。こちらの話を聞いてくれる相手なら、対話も通じるだろうけど…」
ラクト「無理だろ。相手は魔王なんだぜ?」
耳も貸さない悪党なら、退治するより他にない。
今のところ、その魔王が人間と魔族の仲を引き裂く元凶なのだ。
ルカ「「レミナの虐殺」も、その魔王の指示なんだろうし…やっぱり、ひどい奴なのかな。アリスはどう思う?」
魔族のアリスにしてみれば、自分たちのご主人様のはずである。
アリス「…さあな。」
アリスは、不思議な表情で夜空を見上げた。
アリス「ただ…魔王は、迷っているのだ。人間が滅ぼすべき存在なのかどうか。」
ルカ「アリス…魔王を知っているのか!?まさか、見たことがあるとか…?」
チリ「嘘!?魔王城にいる最高クラスの重鎮しか見たことないって噂なのに!?」
それこそ、あの四天王くらいしか魔王の顔を知らないはずなのだが…
アリス「ああ…魔王なら知っているぞ。案外、貴様の近くにいるのかもな…」
ルカ「僕が?そんなわけないだろ、僕は田舎育ちだよ。魔物だって、つい最近初めて見たんだから。」
アリス「やれやれ、貴様は本当に鈍いドアホだな。」
そう言って、アリスは食事を終える。
パヲラ「(…やっぱりアリスちゃん。まさか…)」
アリス「さて、それはともかく__」
しばし夜空を眺めていたアリスは、不意に腰を上げた。
アリス「さて、剣の稽古をつけてやる。あのヒョロヒョロ突きを見て、余は失望したぞ。魔王から見れば、当たる方が難しい情けない技だろうな。」
チリ「ひょ…ヒョロヒョロ…」
ルカ「何も、そこまで言わなくても…」
アリス「さあ、剣を取れ!余が、本当の突きというのを教えてやろう!」
ラクト「へぇ…俺、見学しようかな。」
チリ「私も見たい!」
カムロウ「ぼくも!」
マモル「アッシもそうしますかっとぉ…」
ジョージ「パヲラ殿。この後、共に鍛錬を…」
パヲラ「ええ、いいわよん。あたし、東方の技、気になってたのよん。」
こうして、今夜もそれぞれ特訓になだれ込んだのだった。
アリス「そうだ、上半身を安定させろ。踏み込みは深く、体の上下動は控えるのだ。」
ルカ「こ、こうかな。」
駿足で踏み込み、素早く突きを繰り出す。なんとか使えそうだ。
アリス「ふむ、一応、形は覚えたようだな。後は実戦でモノにするといい。」
アリス「この技は、まさに雷鳴のような突き。最も効果を発揮するのは、戦闘における初手だ。先手を取れた時に使うと良いだろう。」
ルカ「初手?それ以外だとだめなのか?」
アリス「それでも、普通に攻撃するよりマシだろうが…最大限の威力を出すなら先手だ。」
ラクト「出会い頭の一発…ってとこか?」
アリス「そうだな。そう思って使うと良い。」
ルカ「あ、ありがとう…凄い技だよ、これ。」
アリス「疾風の魔剣を使いこなしたという「血塗れのフェルナンデス」が得意とした、血裂雷鳴突き。この技によって大地に撒かれた敵達の血は、大きな湖となるほどだったとか。」
ラクト「なんでお前はそんな物騒な技しか教えねぇんだよ!!」
ルカ「すごく胡散臭くて、血生臭い技だな…」
血裂雷鳴突き、僕が使うときは、血裂の部分を省略して「雷鳴突き」としよう。
ルカは「雷鳴突き」を習得した!
ジョージとパヲラが、鍛錬を終えたのか戻ってきた。
パヲラ「ふぅ…鍛錬終わったわよん。」
アリス「では、今日の稽古は終わるとしよう。明日に備えて、とっとと寝るぞ。」
ルカ「そうだね。みんな、お休み。」
カムロウ「うん、おやすみ。」
こうして、本日の特訓は終わった。確かな満足感を胸に、僕たちは眠りに就いたのである。
???「ルカ…勇者ルカ…」
ルカ「う…ん…」
どこからか、僕を呼ぶ声がする。ここは__
イリアス「魔王を討つのです、ルカ…」
ルカ「は、はい…」
イリアス「いいですね、魔王を討つのですよ__」
目を覚ます僕を迎えたのは、柔らかな朝の光。
ルカ「イ、イリアス様!?」
ラクト「うおおっ!!びっくりしたぁ!!」
何かを作っていたラクトはびっくりした。
飛び起きたまま、周囲をきょろきょろと見回してしまう。
カムロウ以外はもう起きていたようだ。
ジョージ「ふむ…あの起き方、私も真似を…」
マモル「やめときなぁ、腰痛めるよぉ。」
アリス「相変わらず、貴様は朝から騒々しいな…」
ルカ「ああ、イリアス様。啓示を与えて下さって、ありがとうございます…!」
アリス「起き抜けに祈るな。ジジ臭すぎるぞ、お前は…」
ルカ「イリアス様に感謝の念を捧げるのに、老いも若いも関係ないだろ。さあ、みんなも一緒にどうだい?」
ラクト「さわやかに祈りに誘うんじゃねぇ!」
チリ「さわやかに祈りに誘わないで!」
アリス「さわやかに祈りに誘うな!」
アリス「だいたい、余は魔族だぞ!神に祈るか!」
ルカ「やれやれ、朝から騒がしい奴だ。」
ラクト「お前だよっ!」
チリ「お前だっ!」
アリス「貴様のほうだっ!」
そんな朝の騒動も終え、僕達は、再びイリアスポートへの旅路を進めたのだった。