もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
野営を終えた僕たちは、イリアスポートに向かって北上していた。
そして、その道中の森__
その森は、暑くジメジメした森だった。まだ木陰だから涼しいが、日の光が直射すればもっと暑苦しいだろう。
ルカ「なんか、暑苦しい森だな…」
カムロウ「暑いなぁ…ぼく暑いの苦手…」
パヲラ「あーん、せっかくお化粧したのに…」
アリス「この辺りには、熱帯の魔物が出現するという。せいぜい気を付ける事だな。」
ルカ「熱帯の魔物…?」
ラクト「熱帯だから…なんだっけなぁ…」
チリ「熱帯はタランチュラ、ヤスデといった昆虫系、あとはハエトリグサやウツボカズラといった植物系の魔物が棲みやすい環境だよ。」
ルカ「チリは良く知っているなぁ。」
チリ「どれも肉食なので要注意。」
それを聞いたラクトは戦慄して顔を青ざめた。
ラクト「なんでそういうこと言うんだよぉぉ!!」
そんな会話をしていた矢先。
運悪く、密林の魔物たちに遭遇してしまった!
ラフレシア娘が現れた!
ローパー娘が現れた!
ルカ「ローパーか…!」
カムロウ「ろーぱー?」
ルカ「触手で締め上げたりして、弱った獲物を溶かして食べてしまう厄介な魔物だ。」
ローパー娘「久しぶりの御馳走ね…」
ルカ「くっ…!食べられてたまるか…!」
ラフレシア娘「あははっ、ちょうど受粉の時期だったの。ねぇ、繁殖を手伝ってもらえない?」
ルカ「そんなの、だめだよ…魔物との生殖は、イリアス様の戒律を破る行為だ!」
ラフレシア娘「受粉っていても、難しく考えなくていいから。全部私に任せてくれればいいの。」
ルカ「断る!僕は勇者!イリアス様の教えに背く訳にいかない!」
そう言い放ち、僕は剣を抜いた。
ラフレシア娘「じゃあ、無理矢理受粉しちゃうもんねー!」
ラクト「問答無用ってかよ…!」
どうやら、向こうも逃がしてくれるつもりはないらしい。
ジョージ「待つでござる、勇者殿。」
ジョージが前に出てきて、ルカを止めた。
ジョージ「任せていただこう。ここは拙者らが、御恩を返す時。」
そう言うと、スタスタと魔物に向かって歩いていく。
ルカ「え…で、でも…」
マモル「まぁまぁ、勇者様。安心してくださってぇ。」
後ろからひょこっと出てきたマモルも、ジョージの後を追って前に出る。
マモル「ここら辺は暑いんで疲れたでしょう?少し休んでてくだせぇ。」
ルカ「いや…でも…」
マモル「全くお人好しなんですからぁ…少しは恩を返す機会を下さいよぉ。」
それでもと言おうとするルカを、パヲラが止めた。
パヲラ「ルカちゃん、ジョージちゃんたちの善意を踏みにじるつもり?」
ルカ「そういうわけじゃないよ…」
パヲラ「なら、ここで待つべきよ。大丈夫、ジョージちゃんもマモルちゃんも強いんだから。でしょ?」
パヲラは、マモルに向かってウインクをする。
マモル「ダンナぁ、ありがとうございますぅ。」
マモルは僕たちに向かって一礼すると、ジョージの横に立ち戦闘準備に入る。
ラフレシア娘とローパー娘、2体の魔物達の前に、侍と陰陽師が立ちはだかる。
ラフレシア娘「あなた達が、受粉を手伝ってくれるの?」
ローパー娘「それとも…私の獲物になる?」
ジョージ「すまぬが、どちらにもなる気はない。」
マモル「残念でしたねぇ…」
にらみ合い。両者共に出方をうかがっている。
ジョージ「…マモル、良いか?」
マモル「いつでも行けますよぉ、ジョージ。」
それを聞いたジョージは、鞘から刀を静かに引き抜き、構える。
マモルは
ジョージ「…いざ!」
マモル「参る!」
戦いの火蓋が切って落とされた!!
二人の戦い方は、前線がジョージ、後衛がマモル、という戦い方らしい。
ジョージはラフレシア娘に、刀を前に構えながら駆けていく。
ラフレシア娘「それっ!」
ラフレシア娘は何本もの触手を伸ばしてきた!
ジョージ「………」
ジョージは迫りくる触手を、刀で縦に、横に、斜めに、
まるで草木を掻き分けるかのように、ズバズバと断ち切りながら進む。
一閃、また一閃と刀振るわれるたびに、斬られた触手は地面に落ちる。
その背後に、ローパー娘の触手が這いよってきていた!
ローパー娘はジョージの体を、触手で絡め取ろうとする…
ガンッ!!
ローパー娘「…!?」
何かが壁にぶつかるような音がした。
よく見ると、一枚の人の形をした紙が、ジョージを守るかのように、薄い壁のようなものを展開していた!
ローパー娘「ば…バリア!?」
マモル「そうそう…こちらの地方だと、これをバリアっていうんですよねぇ。」
けたけた笑いながらマモルはそう言った。
マモル「便利でしょう?この「バリア」。」
ローパー娘「邪魔なだけよ…!」
標的をマモルに変え、触手を伸ばす。
マモル「
マモルは複数の人型の紙をばら撒いた!
その紙はバリアを展開して、触手の攻撃を防いだ!
マモル「お控えなすってぇ…」
マモル「
展開されたバリアの中から、四角い柱のバリアが心太式のように押し出てくる!
ローパー娘はそれにぶつかり吹っ飛ばされる!
勢いよく木にぶつかったが、ローパー娘はすぐに立ち上がる。
ローパー娘「まだ終わってないわよ…!」
そして触手を、マモルの体に巻き付かせた!!
マモル「おっとぉ、まだ懲りないんですかぃ?」
拘束されても、マモルは余裕の表情を見せた。
マモル「あーあ、あのまま帰ればよかったのになぁ…良心で飛ばしたんですよぉ?」
マモル「殿方の邪魔ぁするの…よしてくださいよぉ…!」
そう言うとマモルは、手のひらを合わせ合掌した!
マモル「
マモル「
マモルの影がゆらゆら動き始め、大きな巨人の姿に変化した!
ローパー娘「なに、これ…」
ローパー娘は思わず、触手の拘束を解いてしまう。目の前の大きな存在に、恐怖して体に力が入らないようだ。
マモル「
影の巨人は右手を大きく振りかぶり、ローパー娘に巨大な右ストレートをぶちかました!!
地面が揺れ、ローパー娘が立っていた位置に、小さなクレーターが出来た。
ローパー娘はその中心でぐったりしていた。気絶したようだ。
その間に、ジョージとラフレシア娘の間合いはかなり近づいていた!ラフレシア娘は苦渋の表情をした。
ラフレシア娘「これなんてどう?」
ラフレシア娘は甘い匂いのする花粉を飛ばしてきた!
ジョージ「………」
ジョージは、近くの熱帯に群生しているような大きな葉っぱに視線を移す。そして、その葉っぱを右手の刀で切り落とし、左手に持ってうちわのようにあおいで風を起こした!
花粉は巻き起こされた風に吹き飛ばされる!
ラフレシア娘「な…なによそれ!!」
ジョージ「…拙者、幼少より数多の武道に精通している故、身近にあるものは最大限生かすよう教えられているのだ。」
左手に持った葉っぱを捨て、刀を両手で構える。
ラフレシア娘「…だからなによ!!」
再び触手を生やし、ジョージに放つ。
…が、それらは全て切り落とされる。
ラフレシア娘の触手は全部斬られた。
ラフレシア娘「しょ…触手が…!!」
ジョージは刀を構え、一歩、一歩、また一歩近づいた!
歩むたびに、威圧という名の恐ろしい般若の面が、ラフレシア娘を睨み、怒るかのように見えた!
ラフレシア娘「ひっ…!!」
ジョージはどんどん、加速するかのように近づき__
ラフレシア娘の首を斬った。
しかし、本当に斬ったというわけではない。
峰打ち…刀などの両刃ではない刀剣でいうと、背面にあたる峰と呼ばれるの部分で相手を叩くことだ。
峰打ちで首の後ろを軽く叩いた。それだけで気絶してしまったのだ。
すでにジョージの気迫で、精神をかなりやられていたようだ。
ラフレシア娘は泡を吹いてその場に倒れた。
ジョージ「………」
ジョージは背を向き、刀を鞘に、ゆっくり納刀した。
マモル「終わりましたよぉ勇者様。」
ジョージ「勇者殿の信条に従い、不殺でござる。」
戦いが終わった二人は、ルカに歩み寄りながらそう言った。
ジョージ「それで…勇者殿の剣で封印が出来ると…?」
マモル「それじゃ、頼みましたよぉ。」
ルカ「……あっ…はい…」
二人の話に、すぐに反応出来なかった。凄い戦いだった。眼を奪われた。
でも今は封印をしなければ…なんとか体を動かして、堕剣エンジェルハイロウを倒れている2体の魔物に突き刺した。
ローパー娘は、小さな触手生物の姿となってしまった。
手のひらサイズのローパーは、しばらく触手を振り回して威嚇していたが、すぐに諦め、その場から逃げてしまった。
ラフレシア娘は、大きなラフレシアそのものの姿になった。
動けないのか動かないのか、ラフレシアはその場にとどまったまま。
こうしてみると、普通のラフレシアと全く区別つかない。
魔物達をやっつけた!…ほとんどジョージとマモルが。
アリス「ふむ…見事な戦いだったな。」
アリスがジョージとマモルに対してそう言った。
マモル「まぁ…手荒ではあるんですがねぇ。」
ジョージ「そこには、目を瞑っていただきたい。」
そう答えたあと、少しの間静かになった。
誰も、話そうとしないのだ。
アリス「…何か言ったらどうだ?」
ラクト「いや…その…何か言えって言われても…」
チリ「こ…言葉が出ない…」
パヲラ「ええ…そうね…感無量…」
カムロウ「………」
アリス「そうか…」
アリス「………」
アリスは、足元のラフレシアに視線を落とす。
ルカ「…食う気か?」
チリ「アリスさん、嘘でしょ!?」
アリス「な、何を言うか!余たる者が、同胞を喰らうわけがあるまい!」
ラクト「まぁ…だよな。」
アリス「ただ、花弁を少しばかり味見しようと思っただけだ…!」
ラクト「食う気だったじゃねぇか!!」
ルカ「おいおい、本気だったのか…」
アリス「植物系妖魔の再生力なら、問題はない…などと、ちょっと思っただけ。やっぱり喰わん!」
ラクト「………」
ルカ「やっぱり、意地汚い奴だ…」
それと、さっき思いついた質問をアリスにする。
ルカ「なあ、アリス。もし僕たちが食べられそうになっても、黙って見てるのか?」
アリス「不愉快ではあるが、座視する他にない。個人的事情により、人間に特別な肩入れはできんからな。」
ルカ「一応、不愉快なのか…」
アリス「あんな奴に食われるくらいなら、余が食っておけば良かった…などと考えてしまうだろうな、きっと。」
ルカ「ひぃぃ…!」
ラクト「ひぃぃ…!」
やっぱり、ろくでもない奴だ。
それはともかく、もうすぐこの密林から出られる。イリアスポートは目前のはずだ。
僕たちは再び歩みを進めた。