もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
そして翌朝。
僕達は秘宝の洞窟に到着し、その中に足を踏み入れたのである。
アリス「む…やけに狐の匂いがするな。」
洞窟に踏み込むなり、アリスは鼻を鳴らして言った。
ルカ「狐の匂いって…どんな匂いなんだ?」
アリス「あぶらあげの匂い…」
ルカ「…よく分からない。」
ジョージ「ふむ、狐か…良いことが起こりそうでござるな。」
ルカ「? どういうことだ?」
マモル「狐はアッシらの故郷だと、縁起の良い動物でやんすよぉ。」
ルカ「へぇ…そうなのか。」
アリス「…狐なんぞ、鍋にしてしまえ。」
ルカ「アリス、狐は嫌いなのか…?」
アリス「ああ…ちょっとな。」
ルカ「…?」
とりあえず、先に進むとしよう。
洞窟の中は、意外にも、自然で出来たものとは考えにくいほど、きっちりと整備されているような形をしていた。
どうやら、人の手が加えられているようだ。
ルカ「床とか壁とか、けっこう整ってるんだな…」
アリス「ここを秘宝の隠し場所とした海賊達が、改修したのだろうな。
パヲラ「こういう洞窟って、罠が多く仕掛けられている可能性が高いわよ。」
ルカ「ああ、注意しないと…」
イリアスポートで聞いた話だが、この洞窟には何人もの冒険者が、秘宝を求めて挑んだらしいが、誰も帰ってこなかったという。
ここに入って、戻って冒険者達の中には、トラップでやられた人もいるのかもしれない。
ルカ「生還者はいないんだから、この洞窟には死体がゴロゴロしてるって事か。なんか、幽霊とか出そうだな…」
チリ「ひぃ…!」
ラクト「平然とそういうことをいうなよ…怖いから…!」
チリとラクトは体を震わした。
アリス「ゆ、幽霊…!?」
ルカ「…ん?どうしたんだ?」
アリスの態度が、僅かにおかしくなった気がする。
アリス「な、なんでもない…」
そう言う割には、普段の立ち位置とは違い、僕の間近にまで体を寄せてくる。
ルカ「…なんだか、近いぞ。」
アリス「そ、それは相対的に貴様が余に近づいているとも言える。」
ルカ「…わけが分からないよ。」
アリス「だいたい、これくらいで余が怯えていると思わんことだ!ドアホめ!」
ルカ「逆ギレされた…」
アリス「いいか、そもそも幽霊などとは非科学的なものだ。馬鹿な人間共が生み出した錯覚、無知蒙昧の産物に過ぎん__」
ルカ「今度は説教だ…ん?」
ルカ「おい!今、目の前を何か横切らなかったか!?」
チリ「いやあああ!!!」
ラクト「で、出たあああ!!!」
二人はカムロウにしがみつく。
カムロウ「…二人とも、苦しいよ。」
アリス「ひいっ!」
いきなりアリスは僕に飛び付き、尾を絡めてきた!
ルカ「う、うわっ!巻き付くなよ…!」
尾を含めるとかなりのボリュームで、僕は思わずよろけてしまう。
それをカムロウにしがみついていたチリとラクトは羨ましそうに見る。
チリ「うわぁ…いいなぁルカ…」
ラクト「せめて俺たちに巻き付いてくれよ、怖いから。」
ルカ「…そんなに怖いならそこの3人で固まったらどうだ?」
ラクトの体に、アリスが巻き付いている。
チリ「私にも少しくらい巻き付かせてよ!」
ラクト「お前ハンマーあるからいいだろ。」
チリ「良くない!」
アリス「余はマフラーか何かか…?」
チリ「じゃあこうしよ!くっつかせて!3人寄れば文殊の知恵!」
ラクト「ああ、確かに!それはいいな!」
そう言うと3人はぎっしりくっついた。
見ているとこっちが暑苦しくなる。
ルカ「何なんだ…ん?」
また何かが横切った気がする。
ルカ「また通った!?」
アリス「ひぃぃ!!」
アリスはラクトの体を締め上げた。
ラクト「ぎょえええええ!!!」
ガキゴキボキと骨が折れ砕ける音がする。
ラクト「いや…ね?分かりますよ、びっくりしたら急に力が入っちゃうのは。お気持ちわかりますよ?」
ラクトは、チリに回復魔法をかけてもらっていた。
体は地面に突っ伏したままだが。
ラクト「でもですね、人を締め上げるのはどうかと思うんですよ。」
アリス「すまん…」
ラクト「次から気を付けて?危ないから。骨折れたからね?」
それはともかく、確かに何か影のようなものが横切ったのだ__
ルカ「やっぱり、何かいるみたいだぞ…」
ルカ「みんな!警戒を!」
カムロウ「うん!」
僕たちはすかさず剣を抜き、警戒の構えを取った。
アリス「む、これは…幽霊ではないようだな。」
ルカ「幽霊…?」
アリス「な、なんでもない!さっさと片付けるがいい!」
慌てた様子で、アリスはふっと姿を消してしまった。
アリスが隠れたという事は…魔物か!
ルカ「おい!姿を表せ!」
通路の先にそう呼び掛けると、一体の魔物が姿を現した!
妖狐が現れた!
姿を現したのは、2本の尾がある獣耳のある少女だった。
妖狐「わわっ!人間があらわれた!」
どうやら向こうも驚いているようだ。
ジョージ「む…妖狐ではないか、なぜここに妖狐が…?」
ルカ「妖狐?狐の魔物か?」
マモル「その通り、狐の魔物でっせ。低級なものから位の高いものまで含めて妖狐っていうんですぅ。尻尾の数は、高位なものほど多いんですよぉ。」
ルカ「この子は、2本か…」
おそらく、そんなに強力な魔物ではないはず。
妖狐「ど、どうしよう…たまも様とはぐれちゃうし、人間まで来ちゃってるし…」
ルカ「なんだか分からないけど、人間に迷惑を掛ける魔物なら容赦しないぞ!」
妖狐「に、人間に「海神の鈴」は渡すなって、言われてるんだから!ここは通さないよ!」
ルカ「言われてる、って誰に?」
妖狐「ひ、ひみつ!」
ルカ「さっき言ってた、たまも様っていう奴?」
妖狐「あうう…」
ルカ「図星か…」
ルカ「とにかく、僕たちは先に進まなきゃいけないんだ。邪魔をするなら容赦はしない!」
妖狐「じゃあ、あたしと勝負だ!」
妖狐は僕たちと戦う気だ!
ルカは後ろを見た。ラクトは背骨の骨折が治っておらず、まだ戦えなさそうだ。となると…カムロウ、パヲラ、チリ、ジョージ、マモルの5人だ。
ルカ「カムロウ!パヲラ!前に出て!」
カムロウ「うん!行こう!」
パヲラ「ルカちゃんのためなら戦うわん!」
前衛は僕と、カムロウとパヲラ。
残りのチリ、ジョージ、マモルの3人は後衛についてもらう。
先手必勝。この前、アリスに教わったあの技を、出会い頭に放つ!
ルカ「行くぞっ!雷鳴突き!」
ルカは雷鳴のように踏み込み、鋭い突きを繰り出した!
初手の一撃が会心のダメージを与える!
妖狐は壁に突き飛ばされる!
妖狐「いたた…やったな!」
妖狐は風の衝撃波を放った!
パヲラ「ワイ
パヲラは手をY字にして衝撃波を放ち、攻撃を相殺した!
妖狐「おのれ~!分身の術!」
妖狐は3体に分身した!
ルカ「な、なんだって!?」
カムロウ「ふ…増えた!?」
妖狐「ふっふっふ、すごいだろ!」
分身した妖狐の中で一体だけがそう喋った。一体だけ、口が動いていた。…一体だけ。
カムロウ「
剣に風を宿し、バッタのように飛び跳ね斬りかかった!…が、
ドロンッと、妖狐の体が煙のように消える。
カムロウ「えっ!?」
妖狐「馬鹿め!そいつは偽物だ!どれが本物か分かるかな?」
カムロウ「ど…どれが本物なんだ!?」
パヲラ「(カムロウちゃん、純粋…)」
パヲラ「…どれがって言われてもね…」
ルカ「…こいつだろ。」
口が動いていたやつに攻撃をする。
…当たった。やっぱり本物だった。
妖狐「ぎゃふん!や、やるな…」
ルカ「…黙ってれば、すごい技だったのにな……」
妖狐「む~!こうなったら、きつねの奥義を見せちゃうもんね~!」
ルカ「お、奥義!?」
妖狐「おつきさまふたつ!」
ルカとカムロウに妖狐の二つの尻尾が襲い掛かる!
ルカ「うぐっ…!?」
それはふさふさの尻尾に似合わず、重いボディブローだった。
思わず膝を付きそうになり、ふらふらしてしまう。
パヲラ「ルカちゃん!?」
パヲラが心配して、駆け寄ってきた。
ルカ「いや…大丈夫…それより、カムロウは…?」
一方、カムロウはその尻尾を、盾で受け流して妖狐に近付いた!
カムロウは盾を突き出して、妖狐にシールドアサルトを放った!
妖狐「あいだっ…!」
ルカ「今だ…パヲラ!ぶん投げて!」
パヲラ「OK!思いっきりいくわよ!」
パヲラはルカの両足を掴み、ジャイアントスイングの要領で飛ばした!
そして妖狐に、魔剣・首刈りを放つ!
ルカ「これでどうだ!!」
喉元に鋭い突きを放つ技。
初手での雷鳴突きのダメージもある、この攻撃で封印できるはず。
妖狐「ひゃぁぁぁ…!」
妖狐は、可愛い子狐の姿となった!
妖狐をやっつけた!
ラクト「お…終わったのか…悪ぃ、何もできなくて…」
ルカ「しょうがないさ、不慮の事故だったし…」
剣を納めて、子狐になった妖狐に近付く。
ルカ「ふぅ…これでもう悪さはできないな。」
子狐の頭を撫でようとした時だった。
なんと、子狐は僕の手にガブリと噛み付いてきた!
ルカ「あいたっ!」
そして、洞窟の奥に逃げ去ってしまったのである。
チリ「か…噛むなんて…」
ルカ「…なんて負けず嫌いの狐なんだ。」
アリス「終わったか…しかし、妖狐が出没するとはな。あれは、この洞窟に棲んでいる魔物ではないぞ。」
ルカ「…ってことは、あの狐はヨソからやって来たのか?」
ジョージ「うむ。拙者らと同じく東方から来たのかもしれん。」
ルカ「そうなのか…」
ルカ「たまも様とかいう奴からはぐれたって言ってたな。そいつらも、「海神の鈴」を探しに来たのか…?」
するとアリスは溜め息をついた。
アリス「……やれやれ、あいつらめ…面倒な事をしおって。」
ルカ「?」
ラクト「なんだ?」
ルカ「なんだか分からないけど、先を急ごうよ。」
詳しくは分からないが、秘宝を狙っている魔物達がいるらしい。
そいつらに奪われる前に、「海神の鈴」を手にしなければ__