もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
僕たちは、洞窟の奥に向かってどんどん進んでいた。
しかし、奥に進むにつれて異様な光景がどんどん現れる。
通路の隅っこには、大岩が転がっている。
他にもトゲつきの鉄球が粉々になっていたり、落とし穴がぱっくり口を開けていたり、いずれもトラップを破壊したような跡のようだ。
ルカ「…なんだこれ?」
マモル「これはぁ…すごいねぇ。」
パヲラ「この感じ…無理矢理破壊してるような…」
ジョージ「うむ、まさに剛力そのものでござる。」
アリス「何者かが、トラップを破りながら先に進んでいるようだな。」
ルカ「あの妖狐の仲間か…」
彼女達がトラップを潰してくれることにより、後から来た僕達は安全に進むことができる。
しかし、先に「海神の鈴」を奪われてしまっては、何の意味もないのだ!
ふと、後ろをみると…
チリとラクトとアリスはぴったりくっついていた。
まるでサンドイッチだ。
ルカ「…何してるんだ?」
アリス「何でもないぞ、別に怖いというわけでもないぞ。」
ラクト「そうだぞ。」
チリ「そうよ。」
なるほど、怖いんだな。
チリ「ひっ!」
ルカ「ん?」
すると、チリは急に顔が青白くなった。
遠くの暗闇から、ゆらゆらとなにかがゆらめいた。
チリはそれが見えてしまったらしい。
チリ「お化けえええ!!!」
チリはいきなり、ぶんぶんとハンマーを振り回し始めた!
アリス「危なっ…」
アリスは華麗に避け、ハンマーはラクトに迫る。
ラクト「えっ__」
ラクト「どあああああ!!!」
命中…いや、必中。背中に激突し、ラクトは壁に埋まる。
ラクト「いや…ね?分かりますよ。得体の知れないものを見たら、とにかく武器になるものを振り回してしまうのは。お気持ちわかりますよ?」
ラクトは、カムロウに回復魔法をかけてもらっていた。
顔は壁に埋まったままだが。
ラクト「でもですね、人をそのハンマーでぶっ飛ばすのはどうかと思うんですよ。」
チリ「ごめん…」
ラクト「次から気を付けて?危ないから。
チリ「でも!見たもん!!見えたんだもん!!!」
洞窟の奥に向かってぶんぶんと指を指す。
ルカ「一体、何が見えたって言うんだ…?」
よく目を凝らして暗闇の奥を見る。
すると、そのお化けの正体がすぐに分かった!
メーダ娘が現れた!
洞窟での生活に特化したモンスター。地上では見られない、珍しい魔物だ。
メーダ娘「獲物…」
メーダ娘は空中をふよふよと漂いながら、触手をわさわさと動かしている。
その昆虫的動作は、地上のモンスターとは全く異なる異様さだった。
ルカ「こんな奴もいるんだな…」
パヲラ「ルカちゃん、もしかしたらあいつは目が退化しているかも。嗅覚や聴覚が発達してるから注意して。」
そうなると、目つぶしといった攻撃も効かないし、反応速度も速いかもしれない。となれば…
ルカ「パヲラは触手を掴んで!チリは攻撃を!」
攻撃の手段を封じて、一気に勝負を決める。そう判断した。
パヲラ「わかったわよーん!」
チリ「こここ、怖いけど…やるしかないの!?」
ルカ「僕と攻撃して、一気に決めるんだ!」
チリ「でも…でも…!」
チリはガクガクと体を震わしている。
…やっぱり怖いんだろうか?選んでしまって申し訳なく思ってきた。
そうこうしているとメーダ娘は触手を伸ばしてきた!
ルカ「うわっ…!」
長い触手が、体に巻き付こうとしてきた!
パヲラ「はーい!ここはお任せー!」
ぐるぐると回転しながらルカに近付き、身代わりになった!
腕に触手を絡め取らせ、がっしりと掴んだ!
メーダ娘は触手を戻そうとするも、パヲラはそうはさせまいと綱引きのように触手を引っ張り上げる。
パヲラ「掴んだわよ!」
ルカ「今だ!チリ!」
チリ「怖いけど…怖いけど…!!」
先にチリが攻撃を仕掛ける。
ハンマーを何度も、メーダ娘に叩きつける!
チリ「
重いハンマーの連撃、そのフィニッシュに、ルカが剣で斬りつける!
メーダ娘「あ__」
メーダ娘はフナムシのような姿になった!
メーダ娘をやっつけた!
ラクト「お、終わったのか…悪ぃ…俺も戦えなくて…」
ラクトは顔を壁に埋まりながらそう言った。
そりゃあそうだ。壁に埋まりながらどう戦うつもりだったんだ。
アリス「やれやれ…貴様は意外に好戦的だな。人と魔物の共存などと抜かしながら、片っ端から魔物を封印しおって。」
ルカ「僕が戦うのは、人と魔物が仲良くするうえで障害となるモンスターだけだよ。」
アリス「手前勝手な考え方だな…ともかく、先に進むぞ。のんびりしている余裕はないのだろう?」
ルカ「ああ、急がないと…」
あの妖狐の仲間も、先へと進んでいるのだ。
何とか追い付いて、こちらが先に「海神の鈴」を手に入れなければならないのである。
壁に埋まったラクトを無理矢理引っこ抜いて、僕たちはさらに奥へと進んだのであった。
奥に向かう途中で、ルカに疑問が浮かび上がる。
ルカ「でも、なんで魔物が「海神の鈴」を欲しがっているんだ?」
アリス「少し頭を使えば分かるだろう、ドアホが。」
カムロウ「人間に渡さないようにするため…だよね?」
アリス「そうだ。嵐を起こして航路を閉鎖しても、そのようなアイテムで強引に渡られては意味がない。それなら、人間の手に渡る前に奪っておこう、そういうわけだ。」
ルカ「…でも、タイミングが良すぎるよな?」
カムロウ「タイミングが良い?どういうこと?」
ルカ「聞いた話では、船が渡れなくなったのは去年くらいからだろ?嵐を起こしている連中からすれば、「海神の鈴」は厄介なアイテムのはず…それから一年も経って、僕たちが洞窟に入るのと同じタイミングで奪いに来るのは、変だと思わないか?」
アリス「ふっ…少しは頭を使っているようだな。おおかた、この洞窟の奥底まで行ける人間はいない。そう高をくくって放置していたのだろう。」
ルカ「でも、洞窟の奥まで行けそうな人間が現れた…それが、この僕たちだったということか!だから慌てて、僕たちより先に「海神の鈴」を奪おうとした。これで全ての辻褄が合う!」
アリス「本当にドアホだな、貴様は。ニセ勇者の分際で、自分を何様だと思っているのだ。」
ルカ「そ、そんな…」
やっぱり、ひどい言われようだ。
ラクト「全然違ってやんの!はははっ!」
ラクトは僕に向かって指差しながら笑い始めた。
…なんかイラっときた。
ラクトの真下に、落とし穴のような跡が見える。
スイッチで作動するタイプの物だろうか、周りを見渡してみると、近くの壁にボタンのようなものがあるのが見えた。
躊躇なくそれを押した。
するとラクトの真下の地面がパカッと開いた。
ラクト「えっ__」
ラクト「うおおおおおっ!!?」
断末魔を叫びながら、ラクトは落ちていった。
穴の中にラクトが消えていくのをしっかり確認した後に、僕は背を向けて歩き出した。
ルカ「清々した。行くか。」
チリ「鬼かっ!!」
ラクトはパヲラとマモルに救出してもらっている間、僕達は先に進み、アリスの話の続きを聞いていた。
アリス「連中は、余を気にしているのだ。たまもかアルマエルマかは知らんが、面倒な事をしおって…」
ルカ「え…?たまもって奴、知ってるのか?」
僕が目を瞬かせた、その時だった!
通路の真ん中に、なんと妖狐だった子狐が浮遊していた。
いや…巨大な蜘蛛の巣に掛かり、もがいているみたいだ!
ルカ「あれ、魔物の罠だろ…?なんで同じ魔物が引っ掛かってるんだ?」
アリス「魔物が皆、仲間同士というわけではない。お前たち人間同士も、よく争っているようにな。特に昆虫系の魔物は、同種といえども関係なく餌にする連中が多い。あの妖狐が、間抜けだったということだ。」
そう言い残し、姿を消すアリス。
その一方で、蜘蛛の巣の主は僕の前へと姿を現した!
クモ娘が現れた!
黙って見ていられず、僕は声を上げていた。
ルカ「や、やめろ!」
クモ娘「あらら…お馬鹿な獲物がたくさん、ふふっ…若い男ね、美味しそう…」
ルカ「くっ…!その子狐を離せ!」
クモ娘「ええ、いいわよ。少なくとも、人間のオスを一匹丸ごと頂けるのだから、こんな小動物いらないわ。」
ジョージ「小動物だと…!?」
その言葉を聞いたジョージは、前に歩み出た。
ジョージ「狐を侮辱するなど…許せん!」
そして刀を抜いた。どうやら戦うつもりだ。
ルカ「カムロウ!」
カムロウ「うん!」
ここは僕とジョージとカムロウで戦う。
なぜなら相手はクモ。今この場で、糸を斬れるといったら僕達3人しかいない。
すると、クモ娘は糸を発射してきた!
ルカ「な、なんだこれ!?」
カムロウ「わわっ…」
体にクモの糸が絡みつく。まだ体は動かせるが、このままどんどん絡みつけば身動きが取れなくなってしまう。
クモ娘「ほらほら…」
さらに糸を発射してくる。ルカの体に、粘糸がどんどん巻き付く。
ルカ「まずい…このままだと…!」
クモ娘「早く振りほどかないと、繭になっちゃうわよ?」
クモ娘の言う通り、このままだと繭になってしまう。
そうなると完全に動きを封じられてしまうだろう。
ジョージ「ぬぅん!」
一閃。ジョージがルカの前に出て、糸の供給を断ち切った!
ジョージ「カムロウ殿、勇者殿を…」
カムロウ「は、はい!」
カムロウは体に付いていた糸を振りほどいて、ルカの体を拘束している糸を取り始めた。
クモ娘「あなたも繭になる?」
ジョージ「すまぬが、趣味ではない。」
蜘蛛の巣の上で、クモ娘はくすくすと笑う。
クモ娘「くすくすくす…その剣で私を斬るつもり?」
ジョージ「いや、お主を斬るつもりはない。」
クモ娘「…?」
ジョージは納刀した。そして、近くに転がっていたトゲ付き鉄球を持ち上げると、クモ娘に投げつけた!
クモ娘「なっ…!?」
それだけではない、大岩、槍、矢、とにかく近くに落ちていた、トラップの残骸ををどんどん投げつける!
クモ娘は避けきれず、投擲物の雨に当たる!
ジョージ「この狭い通路で籠城しようとするやつの相手など、たかが知れている。」
クモ娘「そんな、私が…!」
クモ娘はピクピクと体を痙攣させながら倒れた。
ジョージ「では勇者殿、封印を…」
ルカ「ちょ…ちょっと待っててください…」
カムロウ「うわこれ、ネバネバする…」
二人は糸の拘束を解くのに時間がかかっていた。
ルカ「…そうだ。カムロウ、
カムロウ「試してみる?」
ルカ「うん、やってみて。」
カムロウ「分かった、
剣に風を纏わせ、衝撃波を放つ。
その衝撃波で、ルカの体に付いた糸を吹き飛ばした。
ルカ「ふぅ…」
やっと自由になった。
そして、剣をクモ娘に突き刺す。
クモ娘は小さなクモの姿になった!
クモ娘をやっつけた!
クモ娘が封印されたのと同時に、蜘蛛の糸も消失してしまう。
目の前にあった蜘蛛の巣も消え、引っ掛かていた子狐は地面に落ちた。
ラクト「おーい!もう終わったのかー!」
やっと落とし穴から救出されたのか、ラクトとパヲラとマモルが戻ってきた。
ラクト「お前よくも落としたなこの野郎!」
ラクトはルカに飛び蹴りを食らわした。
ルカ「ぶへっ!なんだよ!笑ったのはそっちだろ!」
ラクト「だからって落とすことはないだろ!」
ルカ「なんだと!この!この!」
二人はボコボコと喧嘩をし始めた。
パヲラ「アンタたち、喧嘩のレベルが低レベルすぎるのよ…」
ルカ「よかったね、助かって…」
僕は子狐の頭を撫でようとしたのだが…
ルカ「あいたっ!」
…またもや、噛まれてしまった。
そのまま子狐は、さらに奥へと逃げ去っていったのである。
アリス「…終わったか。余計なことが好きなのだな、貴様は。」
ルカ「余計…だったのかな、やっぱり。」
カムロウ「余計?」
アリス「ほう…意外に、ドアホでもないようだな。貴様も理解している通り、あのクモ娘も食事をしなければ生きられん。」
ルカ「………」
アリス「弱肉強食の掟を、ただ遂行していただけに過ぎんのだ。それを悪と断じては、生きる事そのものが悪事となりかねん。分かるな?」
ルカ「…分かってるよ。僕だって、それが分からないほど馬鹿じゃない。生きるためには、他者を虐げねばならない。そういう生物もいるのだって。でも…」
アリス「もし食われかけている獲物を助けた結果、捕食者が餓死したら…それは善行か?そうならば、草食動物は善、肉食動物は悪か?そう断じる者がいるならば、そいつこそ立派な悪だろうな。」
ルカ「………」
アリスの言葉に、僕は一言も言い返せなかった。
ジョージ「…狩られる者に家族がいれば、狩る者にも家族がいる。自然の理に、何が正で何が悪と決めつけるのは愚…」
マモル「これだけは、どうにもできないんすよねぇ…」
ルカ「………」
アリス「…まあ、それを理解しているなら構わんさ。」
ルカ「え…?」
アリス「その矛盾を理解しつつも、目の前で虐げられる弱者を救う。それこそが、人間というものなのかもしれん。」
アリス「その行為を偽善と糾弾するのも、あまり賢いとは思えんな。己の独善を振りかざし、悪びれもしない愚者よりはマシということだ。」
ルカ「…難しいことは、分からないけど。同じような状況に合ったら、僕は迷わず弱い方を助けるよ。」
アリス「ならばその信念、貫いてみせるがいい。せいぜい、化けの皮が剥がれんようにな。」
カムロウ「………」
ルカ「ああ…僕は自分自身を信じるよ。」
人と魔物が共存する世の中を築きたい。この信念は、決して化けの皮なんかではないはずだ!
ルカ「さぁ!先に進もう!」
先に進もうとした時だった。
???「あ…あの…」
不意に声が響いた。
ルカ「!?…敵!?そこかっ!?」
カムロウ「
パヲラ「オラァ!!」
思わず、声が聞こえたであろう方向に攻撃を仕掛ける。
しかし、その総攻撃はラクトに当たった。
ラクト「いや俺っ!!?」
総攻撃をまともに食らって壁に激突する。
ルカ「あっごめん。」
カムロウ「違った。」
ラクト「謝罪が軽いっ!!」
パヲラ「そこにいるアンタが悪いのよアホ。」
ラクト「なんだとてめぇっ…がくっ…」
ラクトは白目をむいて気を失った。
チリ「気絶しちゃったじゃない!!」
???「上であります…助けてほしいであります…」
天井に、大きな繭があった。声の主はそれらしい。
明らかに少女の声だ。
カムロウ「あれかな?助ける?」
ルカ「…助けてみるか。」
天井から繭を切り離し、なんとか糸をむしって、救出を試みる。
すると中から、大きいリュックを背負い、探検服の姿をした少女が出てきた!
???「あ~、助かったであります…もう何日立ったかも分からないであります…」
ルカ「そ、そんなに長い間あそこに…?」
???「確か…ここに来る前は雨が降っていたであります。」
パヲラ「となると…約3日前かしら。」
ルカ「3日もあそこにか…」
少女は敬礼をしながら名を名乗った。
???「ワガハイ、フラット探検団団長のフラット・フラドリカであります!この度は助けてくれてありがとうございます!敬意を表するであります!」
ルカ「探検団…?他に団員が…?」
フラドリカ「いや…団員はワガハイ一人だけであります…」
虚しい風が吹く。
ルカ「あの…なんでこの洞窟に?」
見たところ、戦士でも手慣れの冒険者でもなさそうだ。戦えそうもないように見える。何をしにこの洞窟に来たのだろう。
その質問に対し、フラドリカはリュックから一冊の本を出す。
フラドリカ「ルカ殿は、冒険家エカヨシを知っているでありますか?」
残念ながら、その名前を聞いてもピンとこなかった。
ルカ「いや…聞いたことない。」
フラドリカ「まぁそうでありますよね…あまり注目の浴びない冒険家だったそうでありますので…」
フラドリカは簡単に説明してくれた。
どうやらその冒険家エカヨシとやらは、世界を股にかけまわった流浪の冒険家らしい。
フラドリカが持っている本は、その冒険家の手記の写本らしい。
フラドリカ「ワガハイ!冒険家エカヨシに憧れて、世界中を探検するために旅しているであります!」
意気揚々と、高らかにそう言った…が、
フラドリカ「といっても…まだイリアス大陸から一歩も出てないのが現状であります…」
と言って残念そうなオーラを放ち始めた。
フラドリカ「それで…大海賊キャプテン・セレーネの秘宝、「海神の鈴」があると手記にあったので、この洞窟に探索をしに来たのでありますが…」
ルカ「魔物に捕まって3日もあそこに…」
フラドリカ「そういうことであります…戦闘も不慣れなので、手も足もでず…」
ルカ「災難でしたね…」
フラドリカ「ワガハイは大人しく、イリアスポートに帰還するであります。ルカ殿のご健勝を祈るであります。」
ルカ「はい、そちらもイリアス様のご加護があらんことを…」
こうして僕達は、探検家の少女と別れた。
この洞窟も、かなり奥まで来たはずだ。宝物庫まで、あと少しのはずである。
気絶したままのラクトをポコポコ叩き起こして、僕たちは先に進んだ。