もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第28話 何が正義で何が悪か、新米探検家の少女は果てなき夢を見る。

僕たちは、洞窟の奥に向かってどんどん進んでいた。

しかし、奥に進むにつれて異様な光景がどんどん現れる。

通路の隅っこには、大岩が転がっている。

他にもトゲつきの鉄球が粉々になっていたり、落とし穴がぱっくり口を開けていたり、いずれもトラップを破壊したような跡のようだ。

ルカ「…なんだこれ?」

マモル「これはぁ…すごいねぇ。」

パヲラ「この感じ…無理矢理破壊してるような…」

ジョージ「うむ、まさに剛力そのものでござる。」

アリス「何者かが、トラップを破りながら先に進んでいるようだな。」

ルカ「あの妖狐の仲間か…」

彼女達がトラップを潰してくれることにより、後から来た僕達は安全に進むことができる。

しかし、先に「海神の鈴」を奪われてしまっては、何の意味もないのだ!

 

ふと、後ろをみると…

チリとラクトとアリスはぴったりくっついていた。

まるでサンドイッチだ。

ルカ「…何してるんだ?」

アリス「何でもないぞ、別に怖いというわけでもないぞ。」

ラクト「そうだぞ。」

チリ「そうよ。」

なるほど、怖いんだな。

チリ「ひっ!」

ルカ「ん?」

すると、チリは急に顔が青白くなった。

遠くの暗闇から、ゆらゆらとなにかがゆらめいた。

チリはそれが見えてしまったらしい。

チリ「お化けえええ!!!」

チリはいきなり、ぶんぶんとハンマーを振り回し始めた!

アリス「危なっ…」

アリスは華麗に避け、ハンマーはラクトに迫る。

ラクト「えっ__」

ラクト「どあああああ!!!」

命中…いや、必中。背中に激突し、ラクトは壁に埋まる。

 

ラクト「いや…ね?分かりますよ。得体の知れないものを見たら、とにかく武器になるものを振り回してしまうのは。お気持ちわかりますよ?」

ラクトは、カムロウに回復魔法をかけてもらっていた。

顔は壁に埋まったままだが。

ラクト「でもですね、人をそのハンマーでぶっ飛ばすのはどうかと思うんですよ。」

チリ「ごめん…」

ラクト「次から気を付けて?危ないから。キミ(チリ)の場合、そのデカいハンマーは規格外だからね?」

 

チリ「でも!見たもん!!見えたんだもん!!!」

洞窟の奥に向かってぶんぶんと指を指す。

ルカ「一体、何が見えたって言うんだ…?」

よく目を凝らして暗闇の奥を見る。

すると、そのお化けの正体がすぐに分かった!

 

メーダ娘が現れた!

 

洞窟での生活に特化したモンスター。地上では見られない、珍しい魔物だ。

メーダ娘「獲物…」

メーダ娘は空中をふよふよと漂いながら、触手をわさわさと動かしている。

その昆虫的動作は、地上のモンスターとは全く異なる異様さだった。

ルカ「こんな奴もいるんだな…」

パヲラ「ルカちゃん、もしかしたらあいつは目が退化しているかも。嗅覚や聴覚が発達してるから注意して。」

そうなると、目つぶしといった攻撃も効かないし、反応速度も速いかもしれない。となれば…

 

ルカ「パヲラは触手を掴んで!チリは攻撃を!」

攻撃の手段を封じて、一気に勝負を決める。そう判断した。

パヲラ「わかったわよーん!」

チリ「こここ、怖いけど…やるしかないの!?」

ルカ「僕と攻撃して、一気に決めるんだ!」

チリ「でも…でも…!」

チリはガクガクと体を震わしている。

…やっぱり怖いんだろうか?選んでしまって申し訳なく思ってきた。

そうこうしているとメーダ娘は触手を伸ばしてきた!

ルカ「うわっ…!」

長い触手が、体に巻き付こうとしてきた!

パヲラ「はーい!ここはお任せー!」

ぐるぐると回転しながらルカに近付き、身代わりになった!

腕に触手を絡め取らせ、がっしりと掴んだ!

メーダ娘は触手を戻そうとするも、パヲラはそうはさせまいと綱引きのように触手を引っ張り上げる。

パヲラ「掴んだわよ!」

ルカ「今だ!チリ!」

チリ「怖いけど…怖いけど…!!」

先にチリが攻撃を仕掛ける。

ハンマーを何度も、メーダ娘に叩きつける!

チリ「豪萬(ごうまん)!」

重いハンマーの連撃、そのフィニッシュに、ルカが剣で斬りつける!

メーダ娘「あ__」

メーダ娘はフナムシのような姿になった!

 

メーダ娘をやっつけた!

 

ラクト「お、終わったのか…悪ぃ…俺も戦えなくて…」

ラクトは顔を壁に埋まりながらそう言った。

そりゃあそうだ。壁に埋まりながらどう戦うつもりだったんだ。

アリス「やれやれ…貴様は意外に好戦的だな。人と魔物の共存などと抜かしながら、片っ端から魔物を封印しおって。」

ルカ「僕が戦うのは、人と魔物が仲良くするうえで障害となるモンスターだけだよ。」

アリス「手前勝手な考え方だな…ともかく、先に進むぞ。のんびりしている余裕はないのだろう?」

ルカ「ああ、急がないと…」

あの妖狐の仲間も、先へと進んでいるのだ。

何とか追い付いて、こちらが先に「海神の鈴」を手に入れなければならないのである。

壁に埋まったラクトを無理矢理引っこ抜いて、僕たちはさらに奥へと進んだのであった。

 

 

奥に向かう途中で、ルカに疑問が浮かび上がる。

ルカ「でも、なんで魔物が「海神の鈴」を欲しがっているんだ?」

アリス「少し頭を使えば分かるだろう、ドアホが。」

カムロウ「人間に渡さないようにするため…だよね?」

アリス「そうだ。嵐を起こして航路を閉鎖しても、そのようなアイテムで強引に渡られては意味がない。それなら、人間の手に渡る前に奪っておこう、そういうわけだ。」

ルカ「…でも、タイミングが良すぎるよな?」

カムロウ「タイミングが良い?どういうこと?」

ルカ「聞いた話では、船が渡れなくなったのは去年くらいからだろ?嵐を起こしている連中からすれば、「海神の鈴」は厄介なアイテムのはず…それから一年も経って、僕たちが洞窟に入るのと同じタイミングで奪いに来るのは、変だと思わないか?」

アリス「ふっ…少しは頭を使っているようだな。おおかた、この洞窟の奥底まで行ける人間はいない。そう高をくくって放置していたのだろう。」

ルカ「でも、洞窟の奥まで行けそうな人間が現れた…それが、この僕たちだったということか!だから慌てて、僕たちより先に「海神の鈴」を奪おうとした。これで全ての辻褄が合う!」

アリス「本当にドアホだな、貴様は。ニセ勇者の分際で、自分を何様だと思っているのだ。」

ルカ「そ、そんな…」

やっぱり、ひどい言われようだ。

ラクト「全然違ってやんの!はははっ!」

ラクトは僕に向かって指差しながら笑い始めた。

…なんかイラっときた。

ラクトの真下に、落とし穴のような跡が見える。

スイッチで作動するタイプの物だろうか、周りを見渡してみると、近くの壁にボタンのようなものがあるのが見えた。

躊躇なくそれを押した。

するとラクトの真下の地面がパカッと開いた。

ラクト「えっ__」

ラクト「うおおおおおっ!!?」

断末魔を叫びながら、ラクトは落ちていった。

穴の中にラクトが消えていくのをしっかり確認した後に、僕は背を向けて歩き出した。

ルカ「清々した。行くか。」

チリ「鬼かっ!!」

 

ラクトはパヲラとマモルに救出してもらっている間、僕達は先に進み、アリスの話の続きを聞いていた。

アリス「連中は、余を気にしているのだ。たまもかアルマエルマかは知らんが、面倒な事をしおって…」

ルカ「え…?たまもって奴、知ってるのか?」

僕が目を瞬かせた、その時だった!

 

通路の真ん中に、なんと妖狐だった子狐が浮遊していた。

いや…巨大な蜘蛛の巣に掛かり、もがいているみたいだ!

ルカ「あれ、魔物の罠だろ…?なんで同じ魔物が引っ掛かってるんだ?」

アリス「魔物が皆、仲間同士というわけではない。お前たち人間同士も、よく争っているようにな。特に昆虫系の魔物は、同種といえども関係なく餌にする連中が多い。あの妖狐が、間抜けだったということだ。」

そう言い残し、姿を消すアリス。

その一方で、蜘蛛の巣の主は僕の前へと姿を現した!

 

クモ娘が現れた!

 

黙って見ていられず、僕は声を上げていた。

ルカ「や、やめろ!」

クモ娘「あらら…お馬鹿な獲物がたくさん、ふふっ…若い男ね、美味しそう…」

ルカ「くっ…!その子狐を離せ!」

クモ娘「ええ、いいわよ。少なくとも、人間のオスを一匹丸ごと頂けるのだから、こんな小動物いらないわ。」

ジョージ「小動物だと…!?」

その言葉を聞いたジョージは、前に歩み出た。

ジョージ「狐を侮辱するなど…許せん!」

そして刀を抜いた。どうやら戦うつもりだ。

ルカ「カムロウ!」

カムロウ「うん!」

ここは僕とジョージとカムロウで戦う。

なぜなら相手はクモ。今この場で、糸を斬れるといったら僕達3人しかいない。

 

すると、クモ娘は糸を発射してきた!

ルカ「な、なんだこれ!?」

カムロウ「わわっ…」

体にクモの糸が絡みつく。まだ体は動かせるが、このままどんどん絡みつけば身動きが取れなくなってしまう。

クモ娘「ほらほら…」

さらに糸を発射してくる。ルカの体に、粘糸がどんどん巻き付く。

ルカ「まずい…このままだと…!」

クモ娘「早く振りほどかないと、繭になっちゃうわよ?」

クモ娘の言う通り、このままだと繭になってしまう。

そうなると完全に動きを封じられてしまうだろう。

ジョージ「ぬぅん!」

一閃。ジョージがルカの前に出て、糸の供給を断ち切った!

ジョージ「カムロウ殿、勇者殿を…」

カムロウ「は、はい!」

カムロウは体に付いていた糸を振りほどいて、ルカの体を拘束している糸を取り始めた。

 

クモ娘「あなたも繭になる?」

ジョージ「すまぬが、趣味ではない。」

蜘蛛の巣の上で、クモ娘はくすくすと笑う。

クモ娘「くすくすくす…その剣で私を斬るつもり?」

ジョージ「いや、お主を斬るつもりはない。」

クモ娘「…?」

ジョージは納刀した。そして、近くに転がっていたトゲ付き鉄球を持ち上げると、クモ娘に投げつけた!

クモ娘「なっ…!?」

それだけではない、大岩、槍、矢、とにかく近くに落ちていた、トラップの残骸ををどんどん投げつける!

クモ娘は避けきれず、投擲物の雨に当たる!

ジョージ「この狭い通路で籠城しようとするやつの相手など、たかが知れている。」

クモ娘「そんな、私が…!」

クモ娘はピクピクと体を痙攣させながら倒れた。

ジョージ「では勇者殿、封印を…」

ルカ「ちょ…ちょっと待っててください…」

カムロウ「うわこれ、ネバネバする…」

二人は糸の拘束を解くのに時間がかかっていた。

ルカ「…そうだ。カムロウ、風薙ぎ(かぜなぎ)で吹き飛ばすのは?」

カムロウ「試してみる?」

ルカ「うん、やってみて。」

カムロウ「分かった、風薙ぎ(かぜなぎ)!」

剣に風を纏わせ、衝撃波を放つ。

その衝撃波で、ルカの体に付いた糸を吹き飛ばした。

ルカ「ふぅ…」

やっと自由になった。

そして、剣をクモ娘に突き刺す。

クモ娘は小さなクモの姿になった!

 

クモ娘をやっつけた!

 

クモ娘が封印されたのと同時に、蜘蛛の糸も消失してしまう。

目の前にあった蜘蛛の巣も消え、引っ掛かていた子狐は地面に落ちた。

ラクト「おーい!もう終わったのかー!」

やっと落とし穴から救出されたのか、ラクトとパヲラとマモルが戻ってきた。

ラクト「お前よくも落としたなこの野郎!」

ラクトはルカに飛び蹴りを食らわした。

ルカ「ぶへっ!なんだよ!笑ったのはそっちだろ!」

ラクト「だからって落とすことはないだろ!」

ルカ「なんだと!この!この!」

二人はボコボコと喧嘩をし始めた。

パヲラ「アンタたち、喧嘩のレベルが低レベルすぎるのよ…」

 

ルカ「よかったね、助かって…」

僕は子狐の頭を撫でようとしたのだが…

ルカ「あいたっ!」

…またもや、噛まれてしまった。

そのまま子狐は、さらに奥へと逃げ去っていったのである。

アリス「…終わったか。余計なことが好きなのだな、貴様は。」

ルカ「余計…だったのかな、やっぱり。」

カムロウ「余計?」

アリス「ほう…意外に、ドアホでもないようだな。貴様も理解している通り、あのクモ娘も食事をしなければ生きられん。」

ルカ「………」

アリス「弱肉強食の掟を、ただ遂行していただけに過ぎんのだ。それを悪と断じては、生きる事そのものが悪事となりかねん。分かるな?」

ルカ「…分かってるよ。僕だって、それが分からないほど馬鹿じゃない。生きるためには、他者を虐げねばならない。そういう生物もいるのだって。でも…」

アリス「もし食われかけている獲物を助けた結果、捕食者が餓死したら…それは善行か?そうならば、草食動物は善、肉食動物は悪か?そう断じる者がいるならば、そいつこそ立派な悪だろうな。」

ルカ「………」

アリスの言葉に、僕は一言も言い返せなかった。

ジョージ「…狩られる者に家族がいれば、狩る者にも家族がいる。自然の理に、何が正で何が悪と決めつけるのは愚…」

マモル「これだけは、どうにもできないんすよねぇ…」

ルカ「………」

アリス「…まあ、それを理解しているなら構わんさ。」

ルカ「え…?」

アリス「その矛盾を理解しつつも、目の前で虐げられる弱者を救う。それこそが、人間というものなのかもしれん。」

アリス「その行為を偽善と糾弾するのも、あまり賢いとは思えんな。己の独善を振りかざし、悪びれもしない愚者よりはマシということだ。」

ルカ「…難しいことは、分からないけど。同じような状況に合ったら、僕は迷わず弱い方を助けるよ。」

アリス「ならばその信念、貫いてみせるがいい。せいぜい、化けの皮が剥がれんようにな。」

カムロウ「………」

ルカ「ああ…僕は自分自身を信じるよ。」

人と魔物が共存する世の中を築きたい。この信念は、決して化けの皮なんかではないはずだ!

ルカ「さぁ!先に進もう!」

先に進もうとした時だった。

 

???「あ…あの…」

不意に声が響いた。

ルカ「!?…敵!?そこかっ!?」

カムロウ「風薙ぎ(かぜなぎ)!」

パヲラ「オラァ!!」

思わず、声が聞こえたであろう方向に攻撃を仕掛ける。

しかし、その総攻撃はラクトに当たった。

ラクト「いや俺っ!!?」

総攻撃をまともに食らって壁に激突する。

ルカ「あっごめん。」

カムロウ「違った。」

ラクト「謝罪が軽いっ!!」

パヲラ「そこにいるアンタが悪いのよアホ。」

ラクト「なんだとてめぇっ…がくっ…」

ラクトは白目をむいて気を失った。

チリ「気絶しちゃったじゃない!!」

 

???「上であります…助けてほしいであります…」

天井に、大きな繭があった。声の主はそれらしい。

明らかに少女の声だ。

カムロウ「あれかな?助ける?」

ルカ「…助けてみるか。」

天井から繭を切り離し、なんとか糸をむしって、救出を試みる。

すると中から、大きいリュックを背負い、探検服の姿をした少女が出てきた!

???「あ~、助かったであります…もう何日立ったかも分からないであります…」

ルカ「そ、そんなに長い間あそこに…?」

???「確か…ここに来る前は雨が降っていたであります。」

パヲラ「となると…約3日前かしら。」

ルカ「3日もあそこにか…」

 

少女は敬礼をしながら名を名乗った。

???「ワガハイ、フラット探検団団長のフラット・フラドリカであります!この度は助けてくれてありがとうございます!敬意を表するであります!」

ルカ「探検団…?他に団員が…?」

フラドリカ「いや…団員はワガハイ一人だけであります…」

虚しい風が吹く。

ルカ「あの…なんでこの洞窟に?」

見たところ、戦士でも手慣れの冒険者でもなさそうだ。戦えそうもないように見える。何をしにこの洞窟に来たのだろう。

その質問に対し、フラドリカはリュックから一冊の本を出す。

フラドリカ「ルカ殿は、冒険家エカヨシを知っているでありますか?」

残念ながら、その名前を聞いてもピンとこなかった。

ルカ「いや…聞いたことない。」

フラドリカ「まぁそうでありますよね…あまり注目の浴びない冒険家だったそうでありますので…」

フラドリカは簡単に説明してくれた。

どうやらその冒険家エカヨシとやらは、世界を股にかけまわった流浪の冒険家らしい。

フラドリカが持っている本は、その冒険家の手記の写本らしい。

フラドリカ「ワガハイ!冒険家エカヨシに憧れて、世界中を探検するために旅しているであります!」

意気揚々と、高らかにそう言った…が、

フラドリカ「といっても…まだイリアス大陸から一歩も出てないのが現状であります…」

と言って残念そうなオーラを放ち始めた。

フラドリカ「それで…大海賊キャプテン・セレーネの秘宝、「海神の鈴」があると手記にあったので、この洞窟に探索をしに来たのでありますが…」

ルカ「魔物に捕まって3日もあそこに…」

フラドリカ「そういうことであります…戦闘も不慣れなので、手も足もでず…」

ルカ「災難でしたね…」

フラドリカ「ワガハイは大人しく、イリアスポートに帰還するであります。ルカ殿のご健勝を祈るであります。」

ルカ「はい、そちらもイリアス様のご加護があらんことを…」

こうして僕達は、探検家の少女と別れた。

この洞窟も、かなり奥まで来たはずだ。宝物庫まで、あと少しのはずである。

気絶したままのラクトをポコポコ叩き起こして、僕たちは先に進んだ。

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