もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
ルカ「うーん、むにゃむにゃ…」
目を覚ますと、そこは宿屋のベッドでも野営のキャンプ内でもなかった。
ルカ「ふわぁ…よく寝たっと。」
湿っぽい洞窟にいる事と、辺りは酷く崩壊しているのを見て、僕はようやく状況を把握する。
ルカ「そうだ!カムロウがドラゴンになって…その後、魔眼で眠らされて、それから…」
ルカは頭を傾げた。
ルカ「…それから?」
七尾「………」
目の前には、大きな狐がじっと座っている。
これは…七尾の封印された姿?いったい、どうなっているんだ?
ルカ「ん?」
さらにその場に現れたのは、一匹の子狐。
最初に戦った妖狐が封じられた奴だ。
そいつはちょこまかと地面を駆け、座り込んでいる封印七尾の横に立つ。
ルカ「どうなってるんだ…?」
2匹並んだ大小の狐を前に、僕は首を捻るのみ。
遠くを見ると…みんながいた。カムロウはパヲラに抱きかかえられており、ラクトとチリはガクブルと震えながら、アリスとジョージとマモルは至って冷静な様子でこっちを見ていた。
ルカ「あれ…みんな、無事だったのか…?」
そう言いながら駆け寄ろうとすると__
ラクト「ととととと、止まれ!そこで止まれ!」
ルカ「えっ!?」
なんと、これ以上近づくなと言われた。
チリ「下がって!線の後ろまで下がって!」
ルカ「線ってどこだよ…」
とりあえず、元居た位置にまで下がる。
ラクト「いいか、今から言う質問に全部答えろ!」
ルカ「ええっ!?」
まるで境界線を越えてきた兵士に対しての尋問のようだ。
ルカ「でもなんで…」
チリ「問答無用!」
…いや答えろって言ったのに問答無用はないだろ……
ラクト「167×2!」
ルカ「334…」
ジョージ「不撓不屈。」
ルカ「斬り捨て御免…」
マモル「投げ捨てられる正しさなら?」
ルカ「消える事のない間違いの方が良い…」
パヲラ「今日のあたしのパンツは?」
ルカ「水色の縞々パンツ…」
チリ「さしすせそ!」
ルカ「砂糖、塩、酢、醤油、味噌…」
それを聞いたラクト、チリ、パヲラは衝撃の表情をした。
チリ「う…嘘!?」
ラクト「
アリス「確認方法どうなっているのだ…」
尋問が終わると、みんなが近寄ってくる。
ルカ「みんな…いったい、何があったんだ?」
アリス「覚えておらんのか。…というか、完全に眠っていたようだな。」
ルカ「もしかして、アリスが危ないところを助けてくれたとか…ないか。」
ラクト「ああそうだ、全くの見当違いだぜ。」
アリス「眠っている方が強いとは、わけが分からん奴だ…」
ルカ「え…僕が?」
みんなの話によれば…
まずカムロウがドラゴンに変身したところは覚えている、僕も見た。
しかし衝撃的だったのはその後だ。
魔眼で眠らされた僕は、眠ったまま七尾を倒してしまったらしい。
正直なところ、全く覚えていないのだが…
アリス「貴様、これからは寝ながら冒険をしたらどうだ?そちらの方が、ずいぶん楽そうだぞ。」
チリ「いやそれはちょっと…」
ルカ「や、やだよ…そんな…まるで、僕の意識はない方がマシみたいな言い方じゃないか。」
ラクト「せめて、ルカの意識はあってほしいぜ…」
パヲラ「あたしもルカちゃんであってほしいわ…」
カムロウ「…んぅ?」
パヲラに抱きかかえられていたカムロウが目を覚ます。
ラクト「おぉ、カムロウ。目ぇ覚めたか。」
パヲラ「カムロウちゃん、動ける?」
カムロウ「…体が…動かない…」
体を動かせないカムロウをパヲラはラクトに耳打ちをする。
パヲラ「(これって…副作用ってやつかしら?)」
ラクト「(あぁ、無理もねぇ…あんなのになっちまったらな…)」
あの時、カムロウはドラゴンになって、七尾を圧倒するほどの力で暴れたのだ。
強大な力による代償ということなのだろうか。
カムロウ「…えっと…あの後、どうなったの?」
それを聞いて、アリス、ジョージ、マモル以外の一同は焦り始める。そして口裏を合わせ始めた。
ラクト「(ど…どうする!?言うべきか!?)」
チリ「(いや…言わないほうがいいかも…)」
ルカ「(と、とりあえず、僕が倒したってことに…)」
パヲラ「(そ、そうねい…それがいいわ。)」
カムロウがドラゴンになって見境なく大暴れしたこと。
その真実をまだ幼い少年に打ち明けるのは、いくらなんでも可哀そうではないのか?
とても信じられない話でもあるし、真に受けて落ち込んでしまったらどうすればいいのだろうか?
一同は真実を隠して、説明することにした。
仲間外れにされているジョージたちが、アリスに聞く。
ジョージ「…拙者らはあまり関わらないほうが良いでござるか?」
アリス「うむ、出来ればそうしてくれたほうが良いな。」
マモル「分かりやしたぁ。」
口裏を合わせ終えた一同は、大根役者のような芝居をし始めた。
ルカ「あの後…僕が倒したみたいなんだ…」
ラクト「そ、そうなんだよ!あの後な?
チリ「あははは…」
パヲラ「あははは…」
全員、笑顔で誤魔化そうとしたが、顔が引きつっている。
カムロウ「…ありがとう、みんな。気を使ってくれて…」
カムロウの口から出た言葉は、納得の言葉ではなかった。
予想外の言葉に、一同は拍子抜けする。
ルカ「え…?」
ラクト「な、何言ってんだよ相棒?」
カムロウ「全部、覚えてるんだ。ぼくがドラゴンになったの…」
なんとカムロウは、ドラゴンになって暴走したことを覚えていると自白したのだ!
カムロウ「…ごめん……みんなに…迷惑をかけて…」
カムロウは泣きそうになる。
自責の念に駆られているようだ。
ルカ「あ、いや…その…」
どう声をかけたらいいか分からない…
するとラクトはカムロウに近付いた。
ラクト「…あーもうっ!相棒!」
ラクトはカムロウの額にデコピンをした!
カムロウ「あ痛っ!」
ラクト「そーやってイジイジしやがってなぁ…だったらお前、どう弁償する気なんだよ?」
カムロウ「ど…どうって……」
ラクト「分かった!隠そうとした俺たちも悪かった!全部教える!」
ラクトは包み隠さず、事の真相を話した。
ラクト「結局、結果オーライなんだよ。お前がドラゴンになったのもルカが変な力を発揮したのも全部!」
ラクト「それにお前がドラゴンにならなかったら、ルカが眠って七尾に勝てなかったかもしれないし、俺たちが無事でいられなかったかもしれないんだ!だからもうクヨクヨするな!」
カムロウ「う…うん…」
カムロウは泣くのをこらえた。
そしてラクトは、その場にいる全員に聞こえるよう大きな声で喋って。
ラクト「お前らも、これ以上何も言うなよ!俺が聞きたくないからな!いいな!?」
全員、頷いた。万場一致のようだ。
こうしてこの一件に関する話は、ラクトがどうにか終わらせてくれた。
ルカ「それじゃ…先に進もう!たまもって奴は、この奥に行ったんだ!」
もしかしたら、すでに「海神の鈴」を奪われているかもしれない。
アリス「いや…もう遅かったようだな。」
ルカ「え…!?___」
___おもむろに、宝物庫への扉が開き、そして、一人の和服を来た少女が姿を現した。
獣耳に、おびただしい数の尾。
雰囲気や外見からして、こいつも妖狐のようだ。
七尾だった狐は少女の傍らに控え、子狐は少女の足にすりついている。
ラクト「…? こいつがたまもって奴なのかぜ?」
ルカ「七尾に比べて、こいつは弱そうだな…」
思わず、そう安堵した時だった。
チリ「違う…その逆なの…」
アリス「ドアホめ。奴の尾の数を見るがいい。」
ラクト「えーと…?にぃ、しぃ、ろぉ、やぁ…」
ルカ「ひぃ、ふぅ、みぃ…9本?」
妖狐少女の尾は、間違いなく9本あるようだ。
ルカ「でも、七尾より2本増えただけだったら…」
アリス「…ドアホめ。ジョージ、マモル、説明しろ。」
ジョージ「あらほらさっさー!」
マモル「あらほらさっさー!」
マモル「妖狐は尻尾の数で位が分かれるんですがぁ、その最上位の数は9本なんですねぇ。」
ジョージ「そして尾が9本ある妖狐は、九尾と呼ばれる。最上位であるがゆえに、七尾とは比較にならない強さでござる。」
ラクト「比較にならない強さ!?ってことは…」
アリス「奴こそが魔王軍四天王の一人、たまも。グランべリアと同格の最上位魔族だ。」
ルカ「な、なんだって…!?」
ラクト「なんで、また四天王がここにいるんだよ…!」
あの少女が、グランべリアと同じくらい強いのか…?
たまも「すまんのう、お主達。ウチが先々進んでしまったばかりに、そんな姿にされてしまったか。」
たまもは、2匹の狐の頭を撫で…
たまも「少しばかり、ウチの魔力を分け与えてやろう。」
そして、輝く手のひらで子狐の頭を優しく撫でると…
なんと、妖狐の姿に戻ってしまった!
妖狐「わわわ…」
そして妖狐は、たまもの背にささっと隠れる。
たまも「七尾、お主の魔力を満たすには、少しばかり時間が掛かる。悪いが後にさせてもらうぞ。」
七尾は、たまもの足元にすりついた。
たまも「ふむ…」
そしてたまもは、正面に立ちはだかる僕たちをまじまじと眺める。
たまも「お主たちが例の勇者一行で…」
たまもはちょこちょこと
たまも「お主がルカか。七尾を倒すとは、結構な腕前じゃのう。」
ルカ「そ…それはどうも…」
ラクト「それで…俺たちと戦うってのかよ…!?」
勇者一行が身構えた、その時だった___
たまも「___かわいいのうー♪ウチの情夫にしてやってもいいぞ♪」
口から出たのは予想外の言葉。
思わず一行はずっこける。
ラクト「な、何ぃぃぃ!?」
パヲラ「あらら、ルカちゃんモテてるわねー♪」
ルカ「だ、誰が…!そんな…!」
たまも「ふふっ…うい奴よのう。寝床の上で、存分に可愛がってやりたいのう。」
ラクトはルカの背中を押して、前に出させようとする。
ラクト「行って来いよ、ルカ。可愛がってもらえよ。」
ルカ「お前っ!生け贄にしようとするなっ!」
ルカは雷鳴突きを放った!会心の一撃!
ラクト「いっでえええ!!」
ラクトは後ろに吹っ飛ばされた!
チリ「ねぇルカ!あれって!」
そう言われて視線を下に落とすと、たまもの手には、鈴のようなものがぶら下がっていた。いかにも古そうな、紐付きの鈴だ。
ルカ「まさか、それは!」
たまも「いかにも。これが「海神の鈴」じゃ。」
鈴を僕達に見えるように掲げる。
たまも「セントラ大陸に渡られるのは面倒らしいから、もらっていくぞ。正直、ウチはどうでもいいのじゃが…アルマエルマがうるさくてのう。」
ルカ「アルマエルマ…?」
アリス「そいつも四天王の一人。風を起こして航路を封鎖している張本人だ。」
ルカ「例の暴風も、四天王の仕業だったってわけか…」
ラクト「最悪だぜ…この大陸、四天王に囲まれてるじゃねぇかよ!?」
たまも「そういうわけで…この「海神の鈴」が欲しければ、どうするか分かっていような?」
ルカ「ああ…倒して奪えってことだろ?」
ラクト「や…やるしかねぇのか…!」
剣を抜こうとする僕__その手首を、アリスががっしりと掴んだ。
アリス「…やめておけ。今の貴様がかなう相手ではない。」
ルカ「で、でも…」
そんな様子を見て、たまもはにっぱりと笑う。
たまも「およおよ…「魔王様」は、その人間が随分とお気に入りのようじゃの___」
__魔王様?
カムロウ「……え?」
ラクト「……ん?」
パヲラ「……あら?」
今、たまもは魔王様と言った。
チリ「うそ…!?」
ジョージ「なんと…」
マモル「驚いたねぇ…」
アリスが__魔王?
ルカ「アリス…お前…」
アリス「…今頃気付いたのか、ドアホめ。___」
アリス「___余こそが魔王、アリスフィーズ16世だ。」
ルカ「そ、そんな…!」
「「「「「「えええええええええ!!!?」」」」」」
最初に出会った時から、普通の魔族ではないと思っていた。
グランべリアを追い払った時、かなりの上級妖魔だと分かった。
しかし、まさか魔王だったなんて_
たまも「ぬぅ…言ってはいけなかったのかの?ウチが、全く置いてけぼりではないか…」
ラクト「いや…俺たちは薄々分かってたっつーか…」
パヲラ「察してはいたけど…ルカちゃんが気付いてなかっただけで…」
チリ「…朴念仁。」
ルカ「えっ!?みんなは知ってたの!?」
カムロウ「ぼく、知らなかった…」
ジョージ「蛇神様が、姫君だったとは…」
マモル「はははっ!傑作傑作!」
たまも「ともかく、「海神の鈴」はウチが頂いていくぞ…」
そう言って、たまもはこの場から去ろうとする。
たまも「ん?」
たまもの背後で、妖狐がくいくいとたまもの袖を引っ張る。
たまも「なんじゃ?」
ごにょごにょと妖狐が喋る。
たまも「…ふむ、ふむふむ。」
たまも「そうか。あのルカに、命を救ってもらったのか。」
たまも「それでは狐族の長として、礼をせねばならんのう…」
たまもはちょこちょこと僕の前にたち、にっぱりと笑う。
たまも「例として、何が欲しいかのう?おいしいあぶらあげか?特別に、うちのモフモフしっぽを触らせてやっても良いぞ?」
ラクト「…っとなれば、な?」
ラクトは悪だくみの顔でこちらを覗く。
ルカ「ああ、分かってる__」
チリとパヲラは目をキラキラと輝かせながらルカに懇願した。
チリ「ねぇルカ!私しっぽがいい!あのモフモフがいい!!」
パヲラ「さ…先っぽだけ!先っぽだけでいいから!!」
ルカ「ダメに決まってるだろっ!!!」
ラクト「お前ら欲望に忠実すぎるだろうがっ!!!」
カムロウ「…お腹すいた、あぶらあげがいい。」
ルカ「カムロウ、ダメって言ってるだろ。」
カムロウ「え~」
ジョージ「油揚げ…」
ジョージは滝のような涎を垂らしていた。
マモル「今度、いなり寿司でも作ろうかぃ?」
ジョージ「うどんが食べたいでござる。」
ルカ「じゃあ、「海神の鈴」を…」
たまも「なんと、そうきたか。」
そうは言いつつも、予想通りといった顔だ。
たまも「しゃあないのう、ほれ。」
そして、あっさりと「海神の鈴」を渡してきたのである。
「海神の鈴」を手に入れた!
ラクト「あれ…意外とすんなり渡したな…」
ルカ「でも、いいのか?こんなにあっさり渡しても…」
たまも「別にウチは、正直どうでもいいからのう。」
ラクト「どうでもいいのかよっ!?」
たまも「この洞窟の罠がアスレチックみたいで楽しかったから、つい奥まで入ってしまっただけじゃ。」
ラクト「楽しんでたのかよっ!!それでも四天王かっ!!!」
ルカ「おいおい、そんな…まあいいか。とりあえず「海神の鈴」を手に入れたので良いとしよう。」
チリ「そ、そうだね…」
たまも「さて、どうする…ルカ?ついでに、ウチを退治してみるか?」
無数の尻尾をぱたぱたと振りながら、たまもは言った。
ラクト「お…おいおいおいおいおい……」
ラクトは後ずさりをすると、ルカに耳打ちをした。
ラクト「や、やめておこうぜルカ。俺たちが戦って勝てる相手じゃないのはお前もわかってるはず__」
ルカ「__戦う理由はないよ。」
ラクト「よしっ!よっしゃっ!!しゃあっ!!!」
ラクトは何度もガッツポーズを決める。
パヲラ「今回は思い通りになって良かったわね…」
ルカ「僕が倒すのは、人と魔物が共存する世界の障害となる奴だけだ。」
たまも「ふむ、殊勝な心がけよ。しかし、いつかは戦うこととなろう。なにせウチは、魔王軍四天王の一人じゃからのう。」
ルカ「…その時は、その時だよ。」
それでも、今は戦う理由などないはずだ。
たまも「では、さらばじゃ。」
たまもは妖狐と七尾ともども、その場から消えてしまう。
その場に残ったのは僕たちと…複雑そうな表情のアリスだった。
ルカ「…みんな、ここから先は__」
パヲラ「分かってるわよルカちゃん、口出しする気はないわよ。」
ラクト「ただ…もしもの時は、いつでも行けるぜ?」
ルカ「ああ…ありがとう。」
ルカはアリスの前に立つ。
アリス「………」
ルカ「…アリスが、魔王だったなんて…」
アリス「…隠していたわけではない。」
アリス「貴様がドアホ過ぎて、気付かなかっただけだ。」
後ろのギャラリーはうんうんと頷く。
ルカ「確かに、今まで気付かなかったのは間抜けだったけど…」
アリス「人並みに頭が回れば、グランべリアを追い払ったときに気付いたはずだ。」
アリス「あれほどプライドの高い武人に対し、頭ごなしに命令できる者が魔王以外にいるものか。」
後ろのギャラリーはさらにうんうんと頷く。
ルカ「………」
…僕は今まで、魔王と共に旅をしてきたことになるのだ。
魔王退治の旅を、当の魔王と一緒に。
騙された、などとは決して思わない。
ただ、その理由がさっぱり分からなかった。
ルカ「なんで…僕と旅をしようと思ったんだ?」
アリス「以前の答えと、なんら変わらん。」
アリス「貴様という人間に興味が湧いた。また、世界というものをこの目で見てみたい。その二つの興味を、同時に満たす手っ取り早い手段を行使したまでだ。」
ルカ「魔物を率いて、人間に全面戦争を仕掛けたっていうのは…?」
アリス「「自己防衛の目的においてのみ、力を振るうことを許す」…余が全ての魔物に通達したのは、ただそれだけだ。」
アリス「その布告が、歪んだ形で人間達に伝わったのだろうな。余は、全面戦争など望んでいない…まだ、今のところはな。」
ルカ「人間を支配するためじゃなく、自衛のためだって…?でも、グランべリアはイリアスベルクに攻めてきたじゃないか!」
ルカ「それだけじゃない。世界のあちこちで、魔物は人間達を襲っているじゃないか!!」
ルカ「それは魔王が、そう命じたからではないのか。世界中の誰もが、そう思っているはずだ!!!」
アリス「「レミナの虐殺」以来、人間達は魔物に敵愾心を燃やし、極めて危険な状態にあった。よって、余は自らの身を守る場合のみ暴力を容認したのだ。」
アリス「しかし…それを拡大解釈し、人間をいたずらに攻撃する魔物も多いようだ。けしからん事だな。」
ルカ「じゃあ…その「レミナの虐殺」もどうなんだ!魔王が命じて、レミナの住民達を皆殺しにしたんじゃ…!」
アリス「余は知らん。」
ルカ「え…?知らない…?」
アリス「その一件の真実を探るのが、旅の目的の一つでもある。」
どうやら、とぼけているのではない様子だ。
ルカ「魔王が知らない…ってことは、魔物の独断だったのか?」
アリス「「レミナの虐殺」は、余が王位に就く前に起きた事件なのだ。」
アリス「しかし、先代の魔王もそのような命令を出しておらんし、そのような行為を独断で行った魔物も見つけることはできん。」
アリス「何より不可解な点は…レミナで人間と共存していた魔物達でさえ、同様に虐殺されているという事だ。」
ルカ「魔物まで、殺されているのか…?」
そんな話は初耳である。
僕たち人間の間では、あれは魔族の凶行だと伝えられているのだ。
ルカ「いったい、レミナでなにがあったんだ…?」
アリス「さて、話は以上だ。」
アリス「どうする、ルカ。貴様の倒すべき相手が、目の前にいるのだぞ…?」
ルカ「え…?」
僕の旅の目的は、魔王の討伐。
魔王を倒すために、僕はイリアスヴィルから旅立ったのだ。
そして、今、目の前にいる存在。
アリスフィーズ16世。彼女は___
__倒すべき存在ではないと思う。
…アリスは違う。
それが、僕の出した結論だった。
アリスはむしろ魔王として、魔物の暴走にブレーキをかけていたようだ。そのアリスがいなくなったら、平和が来るどころか、むしろ逆。
統率者を失った魔物達が、何をやらかすか分かったものではない。
ルカ「…冗談言うなよ。お前を倒して、どうなるって言うんだ。」
とりあえず、今の僕の実力でかなうはずがないというのはおいておく。
ルカ「今、アリスがいなくなったら、魔物達は混乱するだけじゃないのか?」
アリス「ふむ…おそらく、そうだろうな。」
アリス「一応、魔物達には自己防衛のみを遵守させてはいるが…それでも、グランべリアやアルマエルマのような跳ねっ返りが出る有様だ。」
ルカ「イリアス大陸とセントラ大陸を隔てる暴風雨も、アルマエルマって奴の仕業なんだろ?」
ルカ「嵐で航路を封鎖するなんていうのも、自己防衛の域を超えているよ。」
アリス「しかしな…グランべリアなどは常々主張していたが、イリアス神殿こそが悪の元凶。そこで大量生産される勇者なるものが、魔物達に害を及ぼしている。」
アリス「よって、イリアス神殿を破壊するのも、自己防衛の一環であるという論調だ。」
アリス「まあ…理屈としては、そう間違ってもいない。勇者を名乗る連中の暴挙、確かに目に余る。」
ルカ「………」
魔物側の視点からすれば、それもまた真実なのだろう。
まだまだ、人間と魔物の歩み寄りというのは難しいのが現状なのだ。
だからこそ、僕は___
アリス「__ともかく…いいのだな、余を討たなくても?」
ルカ「何度も言ったはずだよ、アリス。僕が戦うのは、人間と魔物が共存する世界の障害になる奴だけだって。」
ルカ「それに…魔王城に向かうっていう目的も、変わるもんじゃないよ。」
ルカ「四天王はどうにかしないと…あちこちで暴れているみたいだからね。」
イリアスベルクを襲ったり、航路を暴風で封鎖したり、その所行は、断じて放置できるものではないのだ。
アリス「しかし…四天王の言い分とて、余は理解できる。それゆえ、余は連中の行動を放任しているのだ。」
ルカ「言い分は、誰にでもあると思うよ。ただ、誰にでも立場があるって事だけで…」
魔物には魔物の立場があり、人間には人間の立場がある。
それを理解し、そして尊重しなければ、両者の共存など夢のまた夢だ。
アリス「そして、魔王である余にも立場がある。」
アリス「魔物というのは全て、余の可愛い部下達なのだ。言い訳はどうであろうとも、余の部下を叩き伏せる貴様の戦いに手を貸すわけにはいかん…それもわかっているな?」
ルカ「ああ、アリスの助けは借りないよ。アリスは旅の同行者だけど、仲間ではないんだから。」
アリス「…その通りだ。」
結局、これまでの旅と変わらない。
魔王は、意外に話が通じる奴だと分かっただけだ。
魔王と一緒に、魔王城に向かう。非常に数奇な旅だが、それもいいだろう。
ラクト「…ってことはつまり…」
パヲラ「ここで戦う必要もないってわけねい?」
カムロウ「アリスさんは友達のまま?」
ルカ「ああ、今まで通り、変わらないよ。」
「「「「良かったぁぁぁ~…」」」」
みんなはへなへなと、その場にぐったりと座り込んだり倒れこんだりする。
ルカ「ど、どうしたんだ…みんな?」
ラクト「いや…お前はぐっすり眠ってて体力全快なんだろうけどよ…」
チリ「私達…魔力も体力も…限界に近くて…」
パヲラ「このまま連戦ってなったら、負けは確実だったから…すごい気を張ってたのよん…」
カムロウ「ぼく…友達と戦いたくないよ…」
ふぅ…と、溜め息を吐いた後、ラクトが喋った。
ラクト「なぁ…ルカ。アレで締めてくれよ。」
ルカ「…アレ?なんだよ、アレって。」
ラクト「勝ち名乗りだよ!」
ルカ「えぇ!?またアレやるの!?」
正直、恥ずかしいのだが…
ラクト「何はともあれ、七尾の奴に勝ったからよ!頼む!」
ジョージ「勇者殿、勝どきをあげるでござる!」
マモル「アッシら、いつでも行けまっせ!」
なぜかジョージとマモルは、テンションが上がっている。
パヲラ「ほら、あたしら準備万端だから…」
チリ「ちゃっちゃとやって、帰りましょ!」
ルカ「わ…分かったよ…」
パパッとやって、さっさと帰ろう。
ルカは、堕剣エンジェルハイロウを、空高く掲げた!
ルカ「___僕たちの、勝利だ!」
__こうして僕たちは、「海神の鈴」を手にし、秘宝の洞窟を出たのであった。
しかし、帰り際、一人浮かない顔を浮かべる人物がいたのである。
カムロウだ。
今回の一件で、分かってしまったことがある。
それは、自分が人間でないということだ。
運良く、誰も傷付くような事態は起きなかったものの、一歩間違えていれば、自分のせいで誰かが、いや全員が死んでしまっていただろう。
…自分は人間でないのなら、何者なのだろうか。
ぼくはいったいなんなのだろうか…
カムロウの頭には、その言葉がずっとこだまするのであった。