もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第32話 旅のグルメ、その正体は…

ルカ「うーん、むにゃむにゃ…」

目を覚ますと、そこは宿屋のベッドでも野営のキャンプ内でもなかった。

ルカ「ふわぁ…よく寝たっと。」

湿っぽい洞窟にいる事と、辺りは酷く崩壊しているのを見て、僕はようやく状況を把握する。

ルカ「そうだ!カムロウがドラゴンになって…その後、魔眼で眠らされて、それから…」

ルカは頭を傾げた。

ルカ「…それから?」

七尾「………」

目の前には、大きな狐がじっと座っている。

これは…七尾の封印された姿?いったい、どうなっているんだ?

ルカ「ん?」

さらにその場に現れたのは、一匹の子狐。

最初に戦った妖狐が封じられた奴だ。

そいつはちょこまかと地面を駆け、座り込んでいる封印七尾の横に立つ。

ルカ「どうなってるんだ…?」

2匹並んだ大小の狐を前に、僕は首を捻るのみ。

 

遠くを見ると…みんながいた。カムロウはパヲラに抱きかかえられており、ラクトとチリはガクブルと震えながら、アリスとジョージとマモルは至って冷静な様子でこっちを見ていた。

ルカ「あれ…みんな、無事だったのか…?」

そう言いながら駆け寄ろうとすると__

ラクト「ととととと、止まれ!そこで止まれ!」

ルカ「えっ!?」

なんと、これ以上近づくなと言われた。

チリ「下がって!線の後ろまで下がって!」

ルカ「線ってどこだよ…」

とりあえず、元居た位置にまで下がる。

ラクト「いいか、今から言う質問に全部答えろ!」

ルカ「ええっ!?」

まるで境界線を越えてきた兵士に対しての尋問のようだ。

ルカ「でもなんで…」

チリ「問答無用!」

…いや答えろって言ったのに問答無用はないだろ……

 

ラクト「167×2!」

ルカ「334…」

 

ジョージ「不撓不屈。」

ルカ「斬り捨て御免…」

 

マモル「投げ捨てられる正しさなら?」

ルカ「消える事のない間違いの方が良い…」

 

パヲラ「今日のあたしのパンツは?」

ルカ「水色の縞々パンツ…」

 

チリ「さしすせそ!」

ルカ「砂糖、塩、酢、醤油、味噌…」

 

それを聞いたラクト、チリ、パヲラは衝撃の表情をした。

チリ「う…嘘!?」

ラクト「こいつ(ルカ)…本物だ!?」

アリス「確認方法どうなっているのだ…」

 

尋問が終わると、みんなが近寄ってくる。

ルカ「みんな…いったい、何があったんだ?」

アリス「覚えておらんのか。…というか、完全に眠っていたようだな。」

ルカ「もしかして、アリスが危ないところを助けてくれたとか…ないか。」

ラクト「ああそうだ、全くの見当違いだぜ。」

アリス「眠っている方が強いとは、わけが分からん奴だ…」

ルカ「え…僕が?」

みんなの話によれば…

まずカムロウがドラゴンに変身したところは覚えている、僕も見た。

しかし衝撃的だったのはその後だ。

魔眼で眠らされた僕は、眠ったまま七尾を倒してしまったらしい。

正直なところ、全く覚えていないのだが…

アリス「貴様、これからは寝ながら冒険をしたらどうだ?そちらの方が、ずいぶん楽そうだぞ。」

チリ「いやそれはちょっと…」

ルカ「や、やだよ…そんな…まるで、僕の意識はない方がマシみたいな言い方じゃないか。」

ラクト「せめて、ルカの意識はあってほしいぜ…」

パヲラ「あたしもルカちゃんであってほしいわ…」

 

カムロウ「…んぅ?」

パヲラに抱きかかえられていたカムロウが目を覚ます。

ラクト「おぉ、カムロウ。目ぇ覚めたか。」

パヲラ「カムロウちゃん、動ける?」

カムロウ「…体が…動かない…」

体を動かせないカムロウをパヲラはラクトに耳打ちをする。

パヲラ「(これって…副作用ってやつかしら?)」

ラクト「(あぁ、無理もねぇ…あんなのになっちまったらな…)」

あの時、カムロウはドラゴンになって、七尾を圧倒するほどの力で暴れたのだ。

強大な力による代償ということなのだろうか。

カムロウ「…えっと…あの後、どうなったの?」

それを聞いて、アリス、ジョージ、マモル以外の一同は焦り始める。そして口裏を合わせ始めた。

ラクト「(ど…どうする!?言うべきか!?)」

チリ「(いや…言わないほうがいいかも…)」

ルカ「(と、とりあえず、僕が倒したってことに…)」

パヲラ「(そ、そうねい…それがいいわ。)」

カムロウがドラゴンになって見境なく大暴れしたこと。

その真実をまだ幼い少年に打ち明けるのは、いくらなんでも可哀そうではないのか?

とても信じられない話でもあるし、真に受けて落ち込んでしまったらどうすればいいのだろうか?

一同は真実を隠して、説明することにした。

 

仲間外れにされているジョージたちが、アリスに聞く。

ジョージ「…拙者らはあまり関わらないほうが良いでござるか?」

アリス「うむ、出来ればそうしてくれたほうが良いな。」

マモル「分かりやしたぁ。」

 

口裏を合わせ終えた一同は、大根役者のような芝居をし始めた。

ルカ「あの後…僕が倒したみたいなんだ…」

ラクト「そ、そうなんだよ!あの後な?こいつ(ルカ)が七尾の奴を眠りながら倒しちまってよ!すごかったなぁ、ははは…」

チリ「あははは…」

パヲラ「あははは…」

全員、笑顔で誤魔化そうとしたが、顔が引きつっている。

カムロウ「…ありがとう、みんな。気を使ってくれて…」

カムロウの口から出た言葉は、納得の言葉ではなかった。

予想外の言葉に、一同は拍子抜けする。

ルカ「え…?」

ラクト「な、何言ってんだよ相棒?」

カムロウ「全部、覚えてるんだ。ぼくがドラゴンになったの…」

なんとカムロウは、ドラゴンになって暴走したことを覚えていると自白したのだ!

カムロウ「…ごめん……みんなに…迷惑をかけて…」

カムロウは泣きそうになる。

自責の念に駆られているようだ。

ルカ「あ、いや…その…」

どう声をかけたらいいか分からない…

するとラクトはカムロウに近付いた。

ラクト「…あーもうっ!相棒!」

ラクトはカムロウの額にデコピンをした!

カムロウ「あ痛っ!」

ラクト「そーやってイジイジしやがってなぁ…だったらお前、どう弁償する気なんだよ?」

カムロウ「ど…どうって……」

ラクト「分かった!隠そうとした俺たちも悪かった!全部教える!」

ラクトは包み隠さず、事の真相を話した。

ラクト「結局、結果オーライなんだよ。お前がドラゴンになったのもルカが変な力を発揮したのも全部!」

ラクト「それにお前がドラゴンにならなかったら、ルカが眠って七尾に勝てなかったかもしれないし、俺たちが無事でいられなかったかもしれないんだ!だからもうクヨクヨするな!」

カムロウ「う…うん…」

カムロウは泣くのをこらえた。

そしてラクトは、その場にいる全員に聞こえるよう大きな声で喋って。

ラクト「お前らも、これ以上何も言うなよ!俺が聞きたくないからな!いいな!?」

全員、頷いた。万場一致のようだ。

こうしてこの一件に関する話は、ラクトがどうにか終わらせてくれた。

 

 

ルカ「それじゃ…先に進もう!たまもって奴は、この奥に行ったんだ!」

もしかしたら、すでに「海神の鈴」を奪われているかもしれない。

アリス「いや…もう遅かったようだな。」

ルカ「え…!?___」

___おもむろに、宝物庫への扉が開き、そして、一人の和服を来た少女が姿を現した。

獣耳に、おびただしい数の尾。

雰囲気や外見からして、こいつも妖狐のようだ。

七尾だった狐は少女の傍らに控え、子狐は少女の足にすりついている。

ラクト「…? こいつがたまもって奴なのかぜ?」

ルカ「七尾に比べて、こいつは弱そうだな…」

思わず、そう安堵した時だった。

チリ「違う…その逆なの…」

アリス「ドアホめ。奴の尾の数を見るがいい。」

ラクト「えーと…?にぃ、しぃ、ろぉ、やぁ…」

ルカ「ひぃ、ふぅ、みぃ…9本?」

妖狐少女の尾は、間違いなく9本あるようだ。

ルカ「でも、七尾より2本増えただけだったら…」

アリス「…ドアホめ。ジョージ、マモル、説明しろ。」

ジョージ「あらほらさっさー!」

マモル「あらほらさっさー!」

 

マモル「妖狐は尻尾の数で位が分かれるんですがぁ、その最上位の数は9本なんですねぇ。」

ジョージ「そして尾が9本ある妖狐は、九尾と呼ばれる。最上位であるがゆえに、七尾とは比較にならない強さでござる。」

ラクト「比較にならない強さ!?ってことは…」

アリス「奴こそが魔王軍四天王の一人、たまも。グランべリアと同格の最上位魔族だ。」

ルカ「な、なんだって…!?」

ラクト「なんで、また四天王がここにいるんだよ…!」

あの少女が、グランべリアと同じくらい強いのか…?

 

たまも「すまんのう、お主達。ウチが先々進んでしまったばかりに、そんな姿にされてしまったか。」

たまもは、2匹の狐の頭を撫で…

たまも「少しばかり、ウチの魔力を分け与えてやろう。」

そして、輝く手のひらで子狐の頭を優しく撫でると…

なんと、妖狐の姿に戻ってしまった!

妖狐「わわわ…」

そして妖狐は、たまもの背にささっと隠れる。

たまも「七尾、お主の魔力を満たすには、少しばかり時間が掛かる。悪いが後にさせてもらうぞ。」

七尾は、たまもの足元にすりついた。

たまも「ふむ…」

そしてたまもは、正面に立ちはだかる僕たちをまじまじと眺める。

たまも「お主たちが例の勇者一行で…」

たまもはちょこちょこと(ルカ)に近づき、周囲をくるくる回りながら、くんかくんかと匂いを嗅いできた。

たまも「お主がルカか。七尾を倒すとは、結構な腕前じゃのう。」

ルカ「そ…それはどうも…」

ラクト「それで…俺たちと戦うってのかよ…!?」

勇者一行が身構えた、その時だった___

 

たまも「___かわいいのうー♪ウチの情夫にしてやってもいいぞ♪」

口から出たのは予想外の言葉。

思わず一行はずっこける。

ラクト「な、何ぃぃぃ!?」

パヲラ「あらら、ルカちゃんモテてるわねー♪」

ルカ「だ、誰が…!そんな…!」

たまも「ふふっ…うい奴よのう。寝床の上で、存分に可愛がってやりたいのう。」

ラクトはルカの背中を押して、前に出させようとする。

ラクト「行って来いよ、ルカ。可愛がってもらえよ。」

ルカ「お前っ!生け贄にしようとするなっ!」

ルカは雷鳴突きを放った!会心の一撃!

ラクト「いっでえええ!!」

ラクトは後ろに吹っ飛ばされた!

 

チリ「ねぇルカ!あれって!」

そう言われて視線を下に落とすと、たまもの手には、鈴のようなものがぶら下がっていた。いかにも古そうな、紐付きの鈴だ。

ルカ「まさか、それは!」

たまも「いかにも。これが「海神の鈴」じゃ。」

鈴を僕達に見えるように掲げる。

たまも「セントラ大陸に渡られるのは面倒らしいから、もらっていくぞ。正直、ウチはどうでもいいのじゃが…アルマエルマがうるさくてのう。」

ルカ「アルマエルマ…?」

アリス「そいつも四天王の一人。風を起こして航路を封鎖している張本人だ。」

ルカ「例の暴風も、四天王の仕業だったってわけか…」

ラクト「最悪だぜ…この大陸、四天王に囲まれてるじゃねぇかよ!?」

 

たまも「そういうわけで…この「海神の鈴」が欲しければ、どうするか分かっていような?」

ルカ「ああ…倒して奪えってことだろ?」

ラクト「や…やるしかねぇのか…!」

剣を抜こうとする僕__その手首を、アリスががっしりと掴んだ。

アリス「…やめておけ。今の貴様がかなう相手ではない。」

ルカ「で、でも…」

そんな様子を見て、たまもはにっぱりと笑う。

たまも「およおよ…「魔王様」は、その人間が随分とお気に入りのようじゃの___」

 

__魔王様?

カムロウ「……え?」

ラクト「……ん?」

パヲラ「……あら?」

今、たまもは魔王様と言った。

チリ「うそ…!?」

ジョージ「なんと…」

マモル「驚いたねぇ…」

アリスが__魔王?

ルカ「アリス…お前…」

アリス「…今頃気付いたのか、ドアホめ。___」

 

アリス「___余こそが魔王、アリスフィーズ16世だ。」

ルカ「そ、そんな…!」

「「「「「「えええええええええ!!!?」」」」」」

 

最初に出会った時から、普通の魔族ではないと思っていた。

グランべリアを追い払った時、かなりの上級妖魔だと分かった。

しかし、まさか魔王だったなんて_

 

たまも「ぬぅ…言ってはいけなかったのかの?ウチが、全く置いてけぼりではないか…」

ラクト「いや…俺たちは薄々分かってたっつーか…」

パヲラ「察してはいたけど…ルカちゃんが気付いてなかっただけで…」

チリ「…朴念仁。」

ルカ「えっ!?みんなは知ってたの!?」

カムロウ「ぼく、知らなかった…」

ジョージ「蛇神様が、姫君だったとは…」

マモル「はははっ!傑作傑作!」

 

たまも「ともかく、「海神の鈴」はウチが頂いていくぞ…」

そう言って、たまもはこの場から去ろうとする。

たまも「ん?」

たまもの背後で、妖狐がくいくいとたまもの袖を引っ張る。

たまも「なんじゃ?」

ごにょごにょと妖狐が喋る。

たまも「…ふむ、ふむふむ。」

たまも「そうか。あのルカに、命を救ってもらったのか。」

たまも「それでは狐族の長として、礼をせねばならんのう…」

たまもはちょこちょこと僕の前にたち、にっぱりと笑う。

たまも「例として、何が欲しいかのう?おいしいあぶらあげか?特別に、うちのモフモフしっぽを触らせてやっても良いぞ?」

 

ラクト「…っとなれば、な?」

ラクトは悪だくみの顔でこちらを覗く。

ルカ「ああ、分かってる__」

 

チリとパヲラは目をキラキラと輝かせながらルカに懇願した。

チリ「ねぇルカ!私しっぽがいい!あのモフモフがいい!!」

パヲラ「さ…先っぽだけ!先っぽだけでいいから!!」

ルカ「ダメに決まってるだろっ!!!」

ラクト「お前ら欲望に忠実すぎるだろうがっ!!!」

カムロウ「…お腹すいた、あぶらあげがいい。」

ルカ「カムロウ、ダメって言ってるだろ。」

カムロウ「え~」

ジョージ「油揚げ…」

ジョージは滝のような涎を垂らしていた。

マモル「今度、いなり寿司でも作ろうかぃ?」

ジョージ「うどんが食べたいでござる。」

 

ルカ「じゃあ、「海神の鈴」を…」

たまも「なんと、そうきたか。」

そうは言いつつも、予想通りといった顔だ。

たまも「しゃあないのう、ほれ。」

そして、あっさりと「海神の鈴」を渡してきたのである。

 

「海神の鈴」を手に入れた!

 

ラクト「あれ…意外とすんなり渡したな…」

ルカ「でも、いいのか?こんなにあっさり渡しても…」

たまも「別にウチは、正直どうでもいいからのう。」

ラクト「どうでもいいのかよっ!?」

たまも「この洞窟の罠がアスレチックみたいで楽しかったから、つい奥まで入ってしまっただけじゃ。」

ラクト「楽しんでたのかよっ!!それでも四天王かっ!!!」

ルカ「おいおい、そんな…まあいいか。とりあえず「海神の鈴」を手に入れたので良いとしよう。」

チリ「そ、そうだね…」

 

たまも「さて、どうする…ルカ?ついでに、ウチを退治してみるか?」

無数の尻尾をぱたぱたと振りながら、たまもは言った。

ラクト「お…おいおいおいおいおい……」

ラクトは後ずさりをすると、ルカに耳打ちをした。

ラクト「や、やめておこうぜルカ。俺たちが戦って勝てる相手じゃないのはお前もわかってるはず__」

ルカ「__戦う理由はないよ。」

ラクト「よしっ!よっしゃっ!!しゃあっ!!!」

ラクトは何度もガッツポーズを決める。

パヲラ「今回は思い通りになって良かったわね…」

 

ルカ「僕が倒すのは、人と魔物が共存する世界の障害となる奴だけだ。」

たまも「ふむ、殊勝な心がけよ。しかし、いつかは戦うこととなろう。なにせウチは、魔王軍四天王の一人じゃからのう。」

ルカ「…その時は、その時だよ。」

それでも、今は戦う理由などないはずだ。

たまも「では、さらばじゃ。」

たまもは妖狐と七尾ともども、その場から消えてしまう。

 

 

その場に残ったのは僕たちと…複雑そうな表情のアリスだった。

ルカ「…みんな、ここから先は__」

パヲラ「分かってるわよルカちゃん、口出しする気はないわよ。」

ラクト「ただ…もしもの時は、いつでも行けるぜ?」

ルカ「ああ…ありがとう。」

 

ルカはアリスの前に立つ。

アリス「………」

ルカ「…アリスが、魔王だったなんて…」

アリス「…隠していたわけではない。」

アリス「貴様がドアホ過ぎて、気付かなかっただけだ。」

後ろのギャラリーはうんうんと頷く。

ルカ「確かに、今まで気付かなかったのは間抜けだったけど…」

アリス「人並みに頭が回れば、グランべリアを追い払ったときに気付いたはずだ。」

アリス「あれほどプライドの高い武人に対し、頭ごなしに命令できる者が魔王以外にいるものか。」

後ろのギャラリーはさらにうんうんと頷く。

ルカ「………」

…僕は今まで、魔王と共に旅をしてきたことになるのだ。

魔王退治の旅を、当の魔王と一緒に。

騙された、などとは決して思わない。

ただ、その理由がさっぱり分からなかった。

ルカ「なんで…僕と旅をしようと思ったんだ?」

アリス「以前の答えと、なんら変わらん。」

アリス「貴様という人間に興味が湧いた。また、世界というものをこの目で見てみたい。その二つの興味を、同時に満たす手っ取り早い手段を行使したまでだ。」

ルカ「魔物を率いて、人間に全面戦争を仕掛けたっていうのは…?」

アリス「「自己防衛の目的においてのみ、力を振るうことを許す」…余が全ての魔物に通達したのは、ただそれだけだ。」

アリス「その布告が、歪んだ形で人間達に伝わったのだろうな。余は、全面戦争など望んでいない…まだ、今のところはな。」

ルカ「人間を支配するためじゃなく、自衛のためだって…?でも、グランべリアはイリアスベルクに攻めてきたじゃないか!」

ルカ「それだけじゃない。世界のあちこちで、魔物は人間達を襲っているじゃないか!!」

ルカ「それは魔王が、そう命じたからではないのか。世界中の誰もが、そう思っているはずだ!!!」

アリス「「レミナの虐殺」以来、人間達は魔物に敵愾心を燃やし、極めて危険な状態にあった。よって、余は自らの身を守る場合のみ暴力を容認したのだ。」

アリス「しかし…それを拡大解釈し、人間をいたずらに攻撃する魔物も多いようだ。けしからん事だな。」

ルカ「じゃあ…その「レミナの虐殺」もどうなんだ!魔王が命じて、レミナの住民達を皆殺しにしたんじゃ…!」

アリス「余は知らん。」

ルカ「え…?知らない…?」

アリス「その一件の真実を探るのが、旅の目的の一つでもある。」

どうやら、とぼけているのではない様子だ。

ルカ「魔王が知らない…ってことは、魔物の独断だったのか?」

アリス「「レミナの虐殺」は、余が王位に就く前に起きた事件なのだ。」

アリス「しかし、先代の魔王もそのような命令を出しておらんし、そのような行為を独断で行った魔物も見つけることはできん。」

アリス「何より不可解な点は…レミナで人間と共存していた魔物達でさえ、同様に虐殺されているという事だ。」

ルカ「魔物まで、殺されているのか…?」

そんな話は初耳である。

僕たち人間の間では、あれは魔族の凶行だと伝えられているのだ。

ルカ「いったい、レミナでなにがあったんだ…?」

 

アリス「さて、話は以上だ。」

アリス「どうする、ルカ。貴様の倒すべき相手が、目の前にいるのだぞ…?」

ルカ「え…?」

僕の旅の目的は、魔王の討伐。

魔王を倒すために、僕はイリアスヴィルから旅立ったのだ。

そして、今、目の前にいる存在。

アリスフィーズ16世。彼女は___

 

 

 

 

__倒すべき存在ではないと思う。

 

…アリスは違う。アリス(魔王)は、決して邪悪な存在ではない。

それが、僕の出した結論だった。

 

アリスはむしろ魔王として、魔物の暴走にブレーキをかけていたようだ。そのアリスがいなくなったら、平和が来るどころか、むしろ逆。

統率者を失った魔物達が、何をやらかすか分かったものではない。

 

ルカ「…冗談言うなよ。お前を倒して、どうなるって言うんだ。」

とりあえず、今の僕の実力でかなうはずがないというのはおいておく。

ルカ「今、アリスがいなくなったら、魔物達は混乱するだけじゃないのか?」

アリス「ふむ…おそらく、そうだろうな。」

アリス「一応、魔物達には自己防衛のみを遵守させてはいるが…それでも、グランべリアやアルマエルマのような跳ねっ返りが出る有様だ。」

ルカ「イリアス大陸とセントラ大陸を隔てる暴風雨も、アルマエルマって奴の仕業なんだろ?」

ルカ「嵐で航路を封鎖するなんていうのも、自己防衛の域を超えているよ。」

アリス「しかしな…グランべリアなどは常々主張していたが、イリアス神殿こそが悪の元凶。そこで大量生産される勇者なるものが、魔物達に害を及ぼしている。」

アリス「よって、イリアス神殿を破壊するのも、自己防衛の一環であるという論調だ。」

アリス「まあ…理屈としては、そう間違ってもいない。勇者を名乗る連中の暴挙、確かに目に余る。」

ルカ「………」

魔物側の視点からすれば、それもまた真実なのだろう。

まだまだ、人間と魔物の歩み寄りというのは難しいのが現状なのだ。

だからこそ、僕は___

 

 

アリス「__ともかく…いいのだな、余を討たなくても?」

ルカ「何度も言ったはずだよ、アリス。僕が戦うのは、人間と魔物が共存する世界の障害になる奴だけだって。」

ルカ「それに…魔王城に向かうっていう目的も、変わるもんじゃないよ。」

ルカ「四天王はどうにかしないと…あちこちで暴れているみたいだからね。」

イリアスベルクを襲ったり、航路を暴風で封鎖したり、その所行は、断じて放置できるものではないのだ。

アリス「しかし…四天王の言い分とて、余は理解できる。それゆえ、余は連中の行動を放任しているのだ。」

ルカ「言い分は、誰にでもあると思うよ。ただ、誰にでも立場があるって事だけで…」

魔物には魔物の立場があり、人間には人間の立場がある。

それを理解し、そして尊重しなければ、両者の共存など夢のまた夢だ。

アリス「そして、魔王である余にも立場がある。」

アリス「魔物というのは全て、余の可愛い部下達なのだ。言い訳はどうであろうとも、余の部下を叩き伏せる貴様の戦いに手を貸すわけにはいかん…それもわかっているな?」

ルカ「ああ、アリスの助けは借りないよ。アリスは旅の同行者だけど、仲間ではないんだから。」

アリス「…その通りだ。」

結局、これまでの旅と変わらない。

魔王は、意外に話が通じる奴だと分かっただけだ。

魔王と一緒に、魔王城に向かう。非常に数奇な旅だが、それもいいだろう。

 

ラクト「…ってことはつまり…」

パヲラ「ここで戦う必要もないってわけねい?」

カムロウ「アリスさんは友達のまま?」

ルカ「ああ、今まで通り、変わらないよ。」

 

「「「「良かったぁぁぁ~…」」」」

みんなはへなへなと、その場にぐったりと座り込んだり倒れこんだりする。

ルカ「ど、どうしたんだ…みんな?」

ラクト「いや…お前はぐっすり眠ってて体力全快なんだろうけどよ…」

チリ「私達…魔力も体力も…限界に近くて…」

パヲラ「このまま連戦ってなったら、負けは確実だったから…すごい気を張ってたのよん…」

カムロウ「ぼく…友達と戦いたくないよ…」

 

ふぅ…と、溜め息を吐いた後、ラクトが喋った。

ラクト「なぁ…ルカ。アレで締めてくれよ。」

ルカ「…アレ?なんだよ、アレって。」

ラクト「勝ち名乗りだよ!」

ルカ「えぇ!?またアレやるの!?」

正直、恥ずかしいのだが…

ラクト「何はともあれ、七尾の奴に勝ったからよ!頼む!」

ジョージ「勇者殿、勝どきをあげるでござる!」

マモル「アッシら、いつでも行けまっせ!」

なぜかジョージとマモルは、テンションが上がっている。

パヲラ「ほら、あたしら準備万端だから…」

チリ「ちゃっちゃとやって、帰りましょ!」

ルカ「わ…分かったよ…」

パパッとやって、さっさと帰ろう。

 

ルカは、堕剣エンジェルハイロウを、空高く掲げた!

ルカ「___僕たちの、勝利だ!」

 

 

 

 

 

__こうして僕たちは、「海神の鈴」を手にし、秘宝の洞窟を出たのであった。

 

しかし、帰り際、一人浮かない顔を浮かべる人物がいたのである。

カムロウだ。

今回の一件で、分かってしまったことがある。

それは、自分が人間でないということだ。

(ドラゴン)になって、暴走したことが、カムロウの心に深く刺さった。

運良く、誰も傷付くような事態は起きなかったものの、一歩間違えていれば、自分のせいで誰かが、いや全員が死んでしまっていただろう。

 

…自分は人間でないのなら、何者なのだろうか。

ぼくはいったいなんなのだろうか…

カムロウの頭には、その言葉がずっとこだまするのであった。

 

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