もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第35話 夜の船での会話

___そして、船上で過ごす夜。

ヴェニアはフラドリカの体調を心配して客室に戻った。

カムロウも起きて、僕の特訓を見守っている。

仲間という観客がいながらも、今日もアリスの特訓を受けるのだ!

アリス「普通なら、戦闘中に高く飛ぶのは自殺行為。動きが非常に読まれやすくなるからな。」

アリス「しかし、この「天魔頭蓋斬」は違う。捕捉不可能なほどの落下速度で、敵の頭蓋を粉砕するのだ。」

ルカ「こ、こうかな…?」

マストの途中までよじ登り、飛び降りながら剣を振り下ろしてみる。

アリスの指導を受けつつ、何度か繰り返しているうちに形になってきたようだ。

アリス「…ふむ。貴様は未熟だが、飲み込みは早いな。形はだいたい、そんなものだ。後は実戦で使いこなせるようになるがいい。」

 

ルカは「天魔頭蓋斬」を習得した!

 

パヲラ「自由落下から放たれる高威力の斬撃…」

ジョージ「ふむ…拙者も真似してみようか?」

マモルは錫杖(しゃくじょう)でジョージの頭をポコッと叩く。

マモル「お前さんは上段切りで十分だよぉ。」

 

アリス「この天魔頭蓋斬は「翼を持った死神」と恐れられたハーピー、デスレイアが好んだ技だ。300人もの頭蓋がこの技で叩き割られ、大地に脳漿が撒かれたのだという。」

チリ「グロいっ!」

ルカ「…もっと、勇者らしい技を教えてほしいんだけど。」

忌まわしい技ばかり覚えて、イリアス様に怒られないだろうか。

アリス「しかしこの技は、貴様が使う分には大きな問題がある。説明した通り、この技は高所より発動する剣技だが…」

アリス「実は、貴様は人間だから空を飛べんのだ。」

ルカ「いや、知ってるよ…」

ラクト「周知の事実だろっ!」

アリス「ゆえにこの技は、使用条件が少し厄介だ。近くによじ登るようなもの、もしくは高く飛ぶことができるようなものがないと使えん。」

ルカ「…分かった。使用する場所には注意するよ。」

地形によって左右される、なかなか厄介な技のようだ。

 

 

アリス「………」

アリスは、僕の指で光っている指輪に視線をやっていた。

アリス「…おい、ルカ。すまないが、その指輪を余に見せてくれんか。」

ルカ「アリス、これは食べちゃいけないよ。」

アリス「貴様が余の事をどう思っているのか、よく伺える言葉だな。」

ラクト「そういやこいつ(ルカ)、寝言で雑草食うなとか言ってたな…」

アリス「食ったり奪ったりはせん、少し気になることがあるのだ。」

ルカ「じゃあ、指に付けたままでいいかい?肌身離さず付けているよう、死んだ母さんと約束したんだ。」

アリス「ああ、それで問題ない…」

アリスは僕の手を取り、指にはまっている形見の指輪をまじまじと眺めた。

アリス「…この指輪から感じる残留思念も、特別なものではなかったか。」

そして、軽く首を横に振る。

アリス「貴様の秘めた力は、この指輪とは関係ないようだな。」

ルカ「それ…七尾を倒した時の事か?眠りながら戦ったっていう…」

その時のことは全く覚えていない。ぐっすり眠っていたから当然ではあるが。

アリス「貴様には自覚がないだろうが、あれは尋常ではない力だ。こんな指輪一つで、獲得できるような力でもなかったな…」

ルカ「そんなに凄かったのか、眠っているときの僕って…?」

ラクト「いやマジで。正直言うと、恐ろしかったぜ…」

ジョージ「一種の無我の境地か明鏡止水でござろうか?」

パヲラ「眠ったことで雑念や邪念が無くなった…ってところかしら?」

ラクト「眠るだけでそんな力が手に入るんだったら、俺は喜んで寝るぜ。」

パヲラ「一生眠ってろアホ。」

ラクト「んだとてめぇ!!」

 

アリス「もしかしたら…貴様の祖先に、高位の魔族がいたのかもしれんな。」

ルカ「ぼ、僕の祖先に魔族が…?」

アリス「基本的に魔物は、その種族のメスしか子を産まんが…まれに例外がある。突然変異的に、人間のオスが生まれる場合があるのだ。」

アリス「そうして生まれたオスは、原則的に普通の人間と全く変わらんのだが…これまた例外的に、何らかの魔力が遺伝しているケースもあるという。魔王である余ですら、数件しか聞いたことがないほどのレアケースだがな。」

ルカ「それって…僕の祖先に魔姦の禁を破った者がいたという事になるじゃないか。」

アリス「あくまで類推に過ぎん。それくらい、貴様の潜在能力は尋常ではないということだ。」

アリス「あれほどの力を秘めているのなら、とっとと発揮せんか…ドアホめ。」

ルカ「そ、そう言われても…僕自身は全く覚えていないんだし、どうしようもないじゃないか。」

アリス「貴様にあれほどの潜在能力がある以上、叩けばまだまだ伸びるはずだ。これからの特訓はビシバシいくぞ。」

ルカ「わ、分かったよ…」

 

すると、カムロウがアリスに近付いてきた。

カムロウ「あの…アリスさん。」

アリス「どうした。」

カムロウ「ぼくって…人間なんですか?」

アリス「ふむ…」

アリスは少し考えたあと、再び口を開いた。

アリス「カムロウ、髪の毛を一本抜け。」

カムロウ「えっ…髪の毛ですか?」

ルカ「アリス、髪の毛は食べちゃいけないよ。」

ラクト「お前こいつ(アリス)のこと、本当にどう思ってんだよ…」

アリスはカムロウの頭に生えているアホ毛をブチッと引き抜く。

アリス「確かめたいことがあってだな…」

ルカ「なんだ?確かめたいことって…」

アリス「遺伝子を調べる。」

ラクト「遺伝子だぁ?どうやって調べんだよそんなん…」

するとアリスは、カムロウのアホ毛を口に入れてモゴモゴし始めた。

ラクト「本当に髪の毛食ってるじゃねぇかっ!!」

ルカ「アリス、吐き出して。」

アリス「なにも本当に食べているわけではない。髪の毛に含まれている遺伝子を判別しているだけだ。」

ルカ「へぇ…」

ラクト「ほーん。」

アリス「モゴモゴ。」

ルカ「モゴモゴ…」

 

アリス「………?」

アリスは口をモゴモゴすると、なにやら難しそうな顔をし始めた。

ルカ「な…なんだ…?」

ラクト「や、やっぱりただ事じゃないってか…?」

 

しばらくして…鑑定が終わったようだ。

アリス「ふぅ…終わったぞ。」

ルカ「かなり長い間、モゴモゴしてたな…」

ラクト「モゴモゴ…」

 

カムロウ「それで…アリスさん。ぼくは…」

アリス「…カムロウ、この結果はお前にとって望んでいる結果ではないかもしれん。それでも知りたいか?」

その言葉を聞いて、カムロウはうつむいた。

しかし、すぐに、決意を固めた眼差しで顔をあげた。

カムロウ「…はい。」

アリス「…分かった。」

 

 

アリス「…カムロウ、お前は__」

 

 

アリス「__「人間ではない」。」

カムロウ「…やっぱり。」

カムロウは顔を下に向けた。

やっぱり、人間じゃなかった___

 

 

アリス「___だが、「人間でもある」。」

カムロウ「えっ…?」

予想外の言葉に、思わず顔を上げた。

ルカ「人であって人ではない…?」

ラクト「どういうことだぜ?」

人間でもあり、人間ではない。つまりどういうことなのだろうか。

 

アリス「__「人間とドラゴンの混血児(ハーフ)」。それが余が考え出した結論だ。」

カムロウ「混血児(ハーフ)…?」

ルカ「さっき言ってた、祖先に魔族がいるとかじゃなくて…?」

アリス「うむ、おそらく親のどちらかがドラゴンだ。」

カムロウ「お母さんかお父さんが…(ドラゴン)…?」

アリス「そうだ。あの時ドラゴンに変身したのは、危機的状況下、もしくは極度の興奮状態によりドラゴンの本能が刺激されたからだろうな。」

ルカ「そうなのか…」

だとすれば、あの時ドラゴンに変身したのも納得だ。

ラクト「にしても驚いたな…カムロウが魔物と人間の混血児(ハーフ)だとはな。」

カムロウ「うん…」

ルカ「ああ…僕も驚いたよ。」

まさか、こんな近くにイリアス様の魔姦の禁を破った人間の子どもがいるとは思わなかった。

しかしそれは、人間と魔物が愛し合って生まれた子どもでもあるということだ。

カムロウからの話を聞くには、親同士の関係は良好のようだ。

 

アリス「…いや、違うな。」

カムロウ「え?」

ルカ「え?」

ラクト「なにが違うんだ?」

 

アリス「カムロウは魔族ではない。」

ラクト「何ぃぃぃ!?」

ルカ「何だって…!?」

おい、さっきの人間と魔物が愛し合って生まれた存在ってコメント、どうすればいいんだ。

カムロウ「ぼくは…魔物じゃないってこと?」

ルカ「じゃあ…一体、何との混血児(ハーフ)なんだ?」

アリス「それは余も分からん。」

魔王であるアリスですら分からない。どういうことなのだろう。

アリス「まず…「人間とドラゴンの混血児(ハーフ)」という事だけは分かったが、そのドラゴンの遺伝子が魔族由来のものではなかった。」

ルカ「魔物じゃない…!?」

ラクト「いや…いるはずだろ!?ドラゴンに変身できる魔物ぐらい…」

アリス「いくら魔族でも、あのような絵に描いたドラゴンに変身することができる種族は存在しない。」

アリス「それにもし、魔族の遺伝子だとしても…遺伝子の特徴に、不可解な点と合致しない点が多すぎる。あんな遺伝子、余は初めて見た。」

カムロウ「………」

ルカ「………」

となると、カムロウは魔族でもない何かの存在との混血児(ハーフ)になる。

一体、どんな存在なんだ…?

 

ラクト「ま、別にこいつ(カムロウ)がドラゴンだろうがなんだろうが知らねぇけどよ…」

ラクトが不意に口を開いた。

ラクト「こいつは寝坊助で単純でお人好しの泣き虫なんだよ。」

そう言いながら、カムロウのほっぺをむにむにと揉む。

カムロウ「ほっへもふほやめへとらふと(ほっぺ揉むのやめてよラクト。)」

ラクト「うるせぇ、俺にとっちゃ、お前(カムロウ)お前(カムロウ)なんだよ。」

ラクトはカムロウの顔を見てにししと笑った。

ラクト「だろ?相棒。」

カムロウ「…うん!」

カムロウも釣られて笑った。

パヲラ「そうよん!カムロウちゃんはカムロウちゃんなんだから!」

チリ「そうだね。今はこうやってなんともないわけだし。」

ルカ「そうだよカムロウ。気にすることはないよ。」

ラクトの言う通りだ。カムロウがドラゴンや魔族だったとしても、カムロウはカムロウであることに違いないのだ!

それは決して、揺るがない事実だ!

 

 

 

ルカ「ところで、アリス。この指輪から思念が感じられるって言ったよね?」

アリス「ああ…だが、別に特殊なものではない。貴様に何らかの効力を及ぼすようなものでもないようだ。」

アリス「母が子を思い、案ずる思念が少しばかりこもっている。間違いなく、貴様の母のものだな。」

ラクト「へぇ…子を思う思念か…」

ルカ「そうか、母さんの想いが…」

僕は、指輪をぎゅっと握り締めていた。

アリス「もしかしたら、貴様の母が魔族だったのではないかとも考えたが…その指輪からは、魔素が全く感じられん。持ち主だった者は、間違いなくただの人間だ。」

ルカ「そ、そりゃ当然だろ!だいたい、母さんは病気で死んだしね…」

カムロウ「…この前、言ってたね。」

村に肺病が流行った時、母さんも感染してしまったのだ。

流行り病にかかる魔物なんて、聞いたこともない。

アリス「そうか、辛いことを思い出させてしまったな…」

ルカ「いや、気にしてないよ。ところで、アリスの両親は?」

アリス「…父は知らん。余の種族は、完全なる母系だからな。おそらく、母上がどこぞで襲った男の精だろう。」

ラクト「ひぃっ!」

チリ「ひぃっ!」

ラクトとチリは戦慄した。

アリス「その男が食われたのか、搾死されたのかは興味がない。」

ラクト「ひぃぃぃ!!!」

チリ「ひぃぃぃ!!!」

さらに戦慄した。

ルカ「なんだか…すごくドライだな…」

パヲラ「母系ってことだしねぃ…」

多くの魔物にとって、父の存在などそんなに重要ではないようだ。

種族にもよるだろうが、人間とは「父」という概念自体が異なるのだろう。

アリス「…まあ母上の性格上、その男の命を奪ったとも思えんが。」

ラクト「ひぃ…ん?そうなのか?」

アリス「母上は、先代魔王アリスフィーズ15世。…しかし、今はもういない。」

ラクト「………」

ルカ「そうか…」

確かアリスは、アリスフィーズ16世。

つまり母親の先代魔王は、もうすでにこの世の者ではないのだろう。

僕は、それ以上は聞かなかった。

アリス「湿っぽい話になってしまったな。さあ、特訓を再開するか__」

アリスがそう言った時だった____

 

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