もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第39話 人成らざる者の葛藤

その日の夜__

宿の一室で強引に休まされた僕は、精神的にもだいぶ回復した。

僕が泊まる部屋にはアリス、ラクト、チリ、パヲラがいる。

ルカ「…ありがとう、みんな。もう良くなったよ。」

そう言うと、パヲラは人差し指と中指を僕のおでこに当てる。

パヲラ「…脈は安定してるわね。」

チリ「呼吸のリズムも顔色も良い。」

ラクト「ふぃーっ…まずは一安心だな。」

アリス「ふむ。」

それを聞いてアリスは頷く。

アリス「ところで、あの下品そうな男は何者なのだ?アイツを見てから、貴様の様子がおかしくなったのだぞ。」

ラクト「そうそう、その男っていったい誰なんだぜ?俺たちは見てねぇんだけどよ。」

僕は一息吐いて、知っている事を話す。

ルカ「あいつは…イリアスクロイツっていう狂信組織の幹部だよ。…たぶん、今はあいつがトップのはずだ。」

イリアスクロイツ、その単語を聞いてパヲラとラクトは顔をしかめる。

パヲラ「イリアスクロイツですって…!?」

ラクト「マジかよ…!?」

チリ「?」

パヲラとラクトは反応したが、チリとアリスはピンときてないようだ。

アリス「イリアスクロイツ…?名前からして、いけ好かん組織だな。」

ルカ「最低最悪の連中さ。イリアス様の教えを変な風に解釈して、魔物の根絶を唱えているんだ。」

ルカ「「魔と交わるなかれ」__この戒律を、魔物との接触はいっさい駄目って解釈してね。」

ルカ「魔物と喋ってはいけない。魔物を見ることさえいけない。魔物が人間の目に触れる事のないように、根絶してしまえ。」

ルカ「そんなことを言い出した、ろくでもない狂信者達だよ。」

アリス「なるほど…貴様からしてみれば、目の仇だな。人間と魔物の共存などと対極の考え方だ。」

そう__人間の中にも、こういうろくでもない連中はいるのだ。

ルカ「だからイリアスクロイツは、イリアス様の教えを守ると称して魔物根絶を主張しているのさ。」

ルカ「ただ主張するだけじゃなく、魔物を攻撃したり、魔物の集まる施設や場所を破壊したり…そんな蛮行を平気でやってのける連中なんだよ。」

パヲラ「いわゆる過激派ってやつね。」

チリ「それって…いくらなんでも、やりすぎじゃない!?正気とは思えない…」

アリス「なるほど…だから、人魚の学校が狙われたというわけか。」

アリス「やれやれ…ろくでもない人間の中でも、さらにろくでもない連中というわけだな。」

ルカ「…でもね、ほとんどの人達は、あんな連中の言う事に耳を傾けてないよ。実際のところ、あいつらは無差別の破壊魔に成り下がってるわけだし。」

僕の故郷のイリアスヴィルも魔物排斥の思想が強いが、急進的すぎるイリアスクロイツの主張は受け入れられてない。

アリス「人間の中でも、異端的な排斥思想を掲げた連中というわけか。その孤立が、さらに連中を狂気へと駆り立てるわけだな…やれやれ、ろくでもない話だ。」

アリスは深々と溜め息を吐いた。

ルカ「人間と魔族の共存は難しいよ…人間にも、あんな連中がいるんだからね。」

アリス「…なるほど。それにしても、意外だったな。」

アリス「アホそうな貴様が、ちゃんと世界の現実を把握していたとは。」

アリス「エセ平和思想にかぶれたお花畑の頭だと思っていたぞ。」

ラクト「肝心なところに気が付かねぇ鈍感だから目だけ節穴だと思ってたぜ。」

チリ「料理人目指してると思ってた。」

パヲラ「意外とスケベだと思ってた。」

とりあえずラクトをぶん殴る。

ラクト「なんで俺っ!?」

…みんな僕の事をどんな存在だと認識しているんだ?

ルカ「失礼だな、僕だって無知じゃないよ…」

 

そう呟いた直後に、僕はふと思い立った。

「レミナの虐殺」。

以前、アリスとの話で分かったことは、この事件は魔物による仕業ではないらしい。

「レミナの虐殺」が、魔物によるものでないのならば__

ルカ「まさか、「レミナの虐殺」に、イリアスクロイツが関わってるとか…?」

アリス「冗談を言うな。レミナに何万人の人間と魔物が住んでいたと思う?そいつらを皆殺しにできるほど、イリアスクロイツというのは強大な武力を持つ組織なのか?」

ラクト「いや…そんな武力だとか強大な魔法だとかそんな話は…」

パヲラ「イリアスクロイツが強大な組織なんて話もないわね。」

ルカ「…確かにそうだね。」

イリアスクロイツは、決して大きな組織ではない。

人間と魔物が険悪な関係の現在でさえ、決して民衆の支持を得ていないのだ。

一つの町の住民を丸ごと虐殺するなんて、とうてい出来るハズもないか。

 

ラクト「さて…俺は部屋に戻るとするか。」

パヲラ「あたしも。スキンケアしなきゃ。」

チリ「私、カムロウのところに行ってくる。」

ルカ「そうか…おやすみ、みんな。」

会話を終えると、みんなはそれぞれ自分の部屋に戻っていった。

…アリス以外は。

ルカ「…お前も自分の部屋に戻ったらどうだ?」

アリス「いや、話がある。」

ルカ「なんだ?まだ何かあるのか?」

アリス「余は腹が減った。」

ルカ「えっ…?うわっ!!」

アリスは唐突に、僕の体を尻尾で巻き上げてきた。

ルカ「な…何をするんだ!?」

アリス「少し、腹ごしらえをさせてもらうだけだ。」

…やっぱり安宿のご飯はお口に合わなかったのだろうか?

宿屋の一室に「あひぃぃぃ」という断末魔が響いた。

 

 

 

__宿のとある一室、ラクトとパヲラは相部屋になっていた。

パヲラは化粧水を顔に塗っており、ラクトは机の上で銃のようなものを作っていた。

ラクト「なんでお前と相部屋なんだよ…」

パヲラ「その返事はそっくりそのまま返すわ。」

そう愚痴を言い合っていると、誰かが部屋のドアをノックした。

ラクト「ん?」

パヲラ「誰かしら?」

ラクトは作業の手を止め、ドアを開けると、そこにはアリスがいた。

アリス「余だ。邪魔するぞ。」

ラクト「おう、邪魔するなら帰れ。」

アリス「知るか。」

そして部屋に入り、ベッドに腰掛ける。

…アリスの顔は妙にツヤツヤしていた。

ラクト「お前(アリス)…またルカを搾りやがったな?ルカのやつ、干物になってねぇよな?」

パヲラ「もう既に干物じゃない?」

ラクト「おいおい、冗談じゃねぇぜ…」

 

ラクト「んで、何の用だぜ?」

アリス「聞きたいことがあってだな…」

パヲラ「何かしら?」

アリス「ルカによれば、コロポ村には明日の早朝から出発して、大体、夕方頃に村に着くわけだが…」

アリス「着いた後、お前たちはどうするつもりなのだ?」

パヲラとラクトは、カムロウの目的のために付いて来た。

しかし目的は達成しており、カムロウが村に帰れば旅も終わる。

アリスは、彼に付いて来たパヲラとラクトはその後どうするつもりなのかを聞きに来たのだ。

パヲラ「あたしはそのままルカちゃんに付いて行こうかしら。」

どうやらパヲラはルカに付いて行くつもりのようだ。

アリス「ラクト、お前は?」

ラクト「…金稼ぎに戻ろうかと思ってたんだけどよ、気分が変わってな。」

そう言いながら、窓の外を見る。

ラクト「アイツ(カムロウ)…なんであそこで月なんか見てんだろうな。」

ちょうどこの部屋の窓からは、広場の噴水が見える。

そこにはカムロウが、噴水近くのベンチに座って月を眺めているのだ。

ラクト「…アイツはさ、まだ俺たちと一緒にいたいと思うぜ。」

パヲラ「………」

アリス「………」

ラクト「だから俺は、カムロウ次第だな。アイツが一人で旅に出るとか言い出すなら付いて行くし、そうじゃねぇなら金稼ぎに戻るってとこだな。」

アリス「…そうか。」

そう言うと、ラクトは再び作業を再開し始めた。

 

 

__カムロウは広場の噴水前のベンチに座ってた。

しかしその眼に映るのは、水を噴き出す噴水でも、空に浮かび輝いている月でもなかった。

竜が、ずっと眼の中を、頭の中をちらつき動き回っているのだ。

爪を振り下ろし、火を吐き、遮る物全てを破壊し、燃え盛る炎の中で立ち尽くす、竜の姿をした自分が。

チリ「カムロウ。」

すると、不意に声をかけられた。後ろを見ると、チリがいた。

カムロウ「…ルカは?」

チリ「だいぶ良くなったよ。さっき起きたばっかり。」

カムロウ「良かった…」

チリは、カムロウの近くに寄ってくる。

チリ「隣、良い?」

カムロウ「うん。」

このベンチは二人なら余裕で座れる。空いている隣に、チリが座る。

チリ「…悩んでるの?」

カムロウ「…うん。」

そう言って俯く。

何に悩んでいるのか。

それは、自分は人なのか、竜なのか。

どっちつかずの言葉が出たり浮かんだり消えたりしている。

村に帰ったとしても、自分は人じゃないことに変わりはない。

この事を親に告げるべきか、告げないべきか。

そもそも自分は、あの両親の実の子どもなのだろうか?養子なのではないか?

そう考えてしまってもおかしくない。

だって人じゃないのだから。

チリ「カムロウ。」

呼ばれて、チリの方を見る。

チリ「カムロウは…あなたはどうしたいの?」

カムロウ「えっ…?」

急にそう言われても、どう答えればいいかわからない。

チリ「あぁごめん、急に言っても出ないよね。そういう意味じゃなくてさ…」

チリ「ほら、ラクトが言ってたじゃん。カムロウはカムロウだよ。人であっても竜であっても変わんないよ。」

チリ「だからさ、自分が何をしたいのかが大事だと思うんだ。」

…「自分が何をしたいのか」。

その言葉が頭の中に響いた。

チリは席を立ち、カムロウに手を差し伸べる。

チリ「ほら、帰ろう。明日は早いから。」

カムロウ「…分かった。」

差し伸べられた手を取ってベンチから立ち、宿に帰る。

明日になれば、自分は村に戻ることになる。

その時に決めよう。

家に帰って旅を終えるか…それとも___

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