もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
___ルカ…勇者ルカ…
ルカ「イリアス様…?」
イリアス「ルカ…あなたは、祝福されざる勇者です。」
…夢に出るなり、いきなり歓迎されない言葉を投げかけられた。
ルカ「本当に…僕は勇者なんですね?ニセ勇者なんかじゃないんですね…?」
イリアス「ええ、あなたは勇者です。ですから、勇者としての責務を忘れてはいけません。」
ルカ「ええ、もちろんです!僕は勇者として、人間に迷惑を掛ける魔物を退治しますから!それに、弱い者を守るために剣を振るいます!それにそれに__」
イリアス「__魔王を討つのです、勇者ルカ。」
…今、僕の話を遮らなかったか?
イリアス「それこそが、勇者としての責務なのです。」
ルカ「そ、それは___」
目を覚ませば、眩しい朝日が部屋を照らしていた。
ルカ「…朝か。」
机の上にはメモ書きがあった。
みんなは宿の食堂で先に朝食をとっているようだ。
僕はベッドから体を起こして、軽く身支度をしてから部屋を出た。
宿の食堂に行ってみると、そこにはアリス、チリ、カムロウがいた。
アリス「ふむ、ようやく起きたか。」
なんだか、アリスの顔は普段よりツヤツヤしている。
昨夜、散々僕から吸い取ったからだろうか。
カムロウ「おはよう、ルカ。」
ルカ「ああ、おはよう。」
チリ「メニュー、どれにする?パン?ごはん?」
ルカ「パンで。」
僕は、朝はパン派だ。あとジャム派。
やった!このメニュー、イチゴジャムが付いてるぞ!
焼きたてのバゲットにスティックサラダとゴーダチーズ、そしてイチゴジャム。ドリンクは牛乳だ。
渡された朝食を貰って、席に座る。
ルカ「ラクトとパヲラは?」
そうチリに聞きながら牛乳を口に含む。
チリ「ラクトは道具屋、パヲラさんはマーメイドパブ。」
ルカ「んんっ!?」
聞きなれない単語を聞いて、思わず飲んでいた牛乳を少しだけ吹き出した。
ルカ「(マーメイドパブ…?)」
…聞き間違いか?
ルカ「…ごめん、聞き間違いかもしれない。パヲラはどこだって?」
チリ「マーメイドパブ。」
ルカ「(マーメイドパブ…!?)」
…一体、どんなところだろうか。
……気になる。すごい気になる。ものすごく気になる。
マーメイドパブとやらは後で必ず立ち寄るとして一旦置いといて、アリスにあることを聞いてみる。
ルカ「なぁ、アリス…やっぱり、魔王は退治するべきなのかな?」
アリスは目を丸くする。
アリス「…それを余に聞くのか?貴様、割ととんでもないな。」
ルカ「あっごめん。つい、思わず。」
たまに、アリスが当の魔王だということを失念してしまう。
アリス「だが…勇者とは、そもそも魔王を倒すために存在するものだろう?」
それが、イリアス様の望みでもあるのだ。
アリス「貴様が勇者を目指す以上、余の打倒が最終的な目標なのではないのか?」
ルカ「うん、そうなるんだよな…」
しかし正義のためにアリスを倒すのは、やはり違う気がする。
ルカ「勇者、か…勇者としてどうするべきなんだろうか…」
アリス「己のあるべき立場と、己の向かいたい道。それが、時にズレてしまう事もある。ままならないものだ、世の中とはな…」
ルカ「…ん?いつもみたいに、ドアホめって言わないのか?」
アリス「ふん、余にも色々あるのだ。食べ物のことしか考えていないと思っていたのか?」
ルカ「(思ってた…)」
チリ「(思ってた…)」
カムロウ「(思ってた…)」
それはともかく、勇者としてのあり方に少しだけ悩む僕だった__
カムロウ「………」
自分の立場と、自分が向かいたい道。
それが時にズレてしまうこともある。
その言葉を、頭の中で何度も復唱するカムロウだった__
ナタリアポートの道具屋。
中に入ると、店のカウンターでラクトと店主が交渉をしていた。
ラクト「ボルトとナットと…あとは懐中時計かなんかがあればいいんだが…」
店主「ええ、ありますよ。」
そして、店主はこちらに気付き挨拶をする。
店主「いらっしゃいませ。」
ラクト「おう、ルカ。やっと起きたか。」
ルカ「まぁね。」
カムロウ「ラクトは何してるの?」
ラクト「買い出し。新兵器開発のためだぜ。」
ルカ「新兵器…?」
彼は野営しているとき、ちょくちょく何かを作っているようだった。
新兵器とはおそらくその事だろう。
ラクトは悪だくみの顔をしながら話を続ける。
ラクト「へへへ…俺だって何かしら役に立とうと考えてるんだぜ?楽しみにしてろぉ?今度の新作は一味違うぜ!」
ルカ「そっか。」
全くと言っていいほど、興味がない。
ラクト「興味ナシっ!?」
ルカ「みんな、何か買いたい物はあるか?」
カムロウ「ぼくはないよ。」
アリス「余もないな。」
ラクト「もしもし!?ルカさん!?おーい!!」
何かやかましい声が聞こえたけど無視しよう。
チリ「あぁ私、商品見たい。見てきていい?」
ルカ「良いよ、ここで待ってるから。」
そう答えると、チリは店主に駆け寄る。
チリ「すみません、柄のある布ってありますか?」
店主「ええ、こちらに。」
そしてチリは、店主と共にお目当ての商品の前に移動する。
チリを待っている間、陳列されてる商品を眺めていると、あることに気付く。
ルカ「…やけに女性ものの服や生地が多いな。」
カムロウ「ホントだ。」
男性ものが全くないというわけではないが、ほとんどが女性もので占めているのだ。
これは一体どういうことか…
するとラクトが、その答えを言ってきた。
ラクト「マーメイドはおしゃれ好きなんだぜ。綺麗なものは特に売れるぜ。」
そうか、人間だけでなく、マーメイド向けにも商品を売っているのか。
すると店主が会話に割り込んでくる。
店主「最近は、露出度の高い服が流行りです。例えばこれなど…」
そう言って店主が取り出したのは…シースルーというべきか。所々、下着が透けて見えるくらいスケスケの服だった。
カムロウ「スケスケ…!」
ラクト「おぉ、こりゃ際どい。」
ルカ「これ、ほとんど下着じゃないか…!」
店主「…実にけしからんでしょう?」
いくらマーメイド向けとはいっても、これはなんとも…けしからん…!
店主「これなんてどうです…?」
次に見せてきたのは、短い丈のシャツ。しかしその身頃は胸あたりで切り落とされており、胸元が大きく開いている。
ルカ「うひゃあっ…!」
カムロウ「わわわ…」
ラクト「おぉふ…」
…これもなんともけしからん!
店主「ふふふっ、さらにこういうのも…こちらは魅惑の生足がコンセプト…」
今度は帯状の布が規則的に体に巻き付いているような服だ。
ルカ「うちの田舎でこんなの着てたら、神殿の兵士が飛んでくるよ!」
ラクト「いやぁ…最高だぜ!これが今の流行りかぁ!」
カムロウ「うん…うん…!」
こうして盛り上がっている間に、僕達は背後に忍び寄る鬼に気付かなかった。
アリス「チリ、こっちだ。」
チリ「ありがと、アリスさん。」
並ならぬ背後に気付き、後ろを振り向くと、
いつの間にか、そこにはアリスと魔の形相のチリがいた。
カムロウ「あっ…」
ラクト「げぇっ!チリ!?」
ルカ「ひゃあ!アリス!?」
店主「こ、これはやましい事ではなく…ただ、商品のご紹介を…」
チリ「そうですよね、ただ商品の紹介していただけですよね…」
そしてチリは、拳を鳴らしながら僕達を睨む。
チリ「そこの3人、外に出ようか__」
__数分後。道具屋前。
僕とラクトは頭から地面にめり込んでおり、その横でカムロウは恐怖で体を震わしていた。
チリは魔のオーラを放ちながら3人を睨む。
チリ「カムロウ、さっき見た物全部忘れて。分かった?」
カムロウ「う…うん…わ…分かった…」
カムロウはガクブルと震えながら、頭が取れるくらい何度も頷く。
ラクト「アリス、てめぇ…謀ったな…」
ルカ「僕達はただ…見ていただけなのに…」
アリス「……エロめ。」
ナタリアポートのマーメイドパブ。
店に入ると、受付らしきマーメイドが歓迎してくる。
マーメイド「いらっしゃ~い!ナタリアポート影の名物、マーメイドパブにようこそ!」
そして僕を見るなりすり寄ってくる。
マーメイド「あら…可愛いボウヤね。」
マーメイドはルカの腕に胸を押し付けた!ルカの耳に甘く息を吹きかける!
マーメイド「お姉さんが可愛がってあげようか?」
ルカ「ぼ、僕は…わわわ~!」
ルカは逃げ出した!
ラクト「おいどこ行くんだよ!」
アリス「これまで女のモンスターと戦ってきながら、耐性のない奴だ…」
パヲラ「うふふ、ルカちゃんにはまだ早かったみたいねい。」
店の奥からパヲラは、両脇にマーメイドを連れて出てくる。
アリス「となると、カムロウもまだ早いな。先に外で待つぞ、カムロウ。」
カムロウ「はーい。」
アリスはカムロウを連れて外に出た。
ラクトはパヲラを見て小言を言う。
ラクト「おぉ、なんだ?人気じゃねぇか。」
パヲラ「アンタたちも聞く?あたしの武勇伝。」
ラクト「出発するって言ってんだろうがバカが。」
パヲラ「あぁ!?テメェ!!」
ラクト「やんのかコラァ!?」
チリ「はいはい、そこまで。」
喧嘩になる前に、チリは二人の耳を引っ張って阻止した。
チリ「それはそうと…パヲラさんはなぜここに?」
パヲラ「あたしマーメイドパブの常連でね。メンバーカードも持ってるわよん?」
チリ「そうだったんですか…」
パヲラ「またねぃ!マーメイドのマドモアゼル!」
パヲラは会計を済ませた後、店のマーメイドに別れを告げる。
パヲラ「待たせちゃって悪かったわねん、さぁ行きましょ!」
全員は店から外に出ようとしたとき、パヲラはラクトの後頭部に出来たデカいタンコブに気付く。
パヲラ「…あら?アンタ、そのタンコブどうしたの?」
ラクト「…さっき、大目玉を食らってな。」
パヲラ「?」
ナタリアポートの広場。
出発前の点呼だ。買い忘れ、忘れ物はないか確認でき次第出発する。
ラクト「ルカ、今回はちゃんと詳しく調べたんだろうなぁ?」
もう何時間も歩くのはごめんだと言わんばかりの呆れた表情だ。
ルカ「人聞き悪いなぁ。下準備はしっかりしたよ。」
以前、エンリカの里に着くまで森の中を何時間も歩く羽目になった反省から、ナタリアポートの周辺に詳しい商人にコロポ村の詳しい場所は教えてもらった。ついでに近辺の地図も購入した。
カムロウもいるから、近場になって道に迷うなんてこともないだろう。
…というか、心配なら自分で調べろよ。
ルカ「カムロウも大丈夫か?」
カムロウ「うん、大丈夫。」
ルカ「よし…それじゃ、行こうか。」
僕達はカムロウの故郷、コロポの村に向けて出発した。
予定通り進めば、遅くても夕方頃には着くだろう。