もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
__叫べ。心に従うのだと。
__揮え。力に従うのだと。
…この声は?
……聞いたことがある。
確か…秘宝の洞窟で、七尾と戦った時…
初めて、龍に変身した時、心の底から響いてきた声に似ている…
いや、同じ声か?
__力を欲するのならば。
__叫べ。心に従うのだ。
__揮え。力に従うのだ。
__お前にとって仇をなす存在を、排除するために。
__本能を、暴走させるのだ。
…ダメだ。
__…なに?
…それじゃあ、ダメなんだ。
__……何が言いたいのだ。
それって、見境なく暴れろってことだろ。
それじゃあ、誰も守れない。
守りたい人も、守りたい場所も、何もかも。
__…お前は。
__
お前も、父さんと同じことを言うのか!?
__私が言う力とは。
__私が言う暴走とは。
__
じゃあ、なんなんだよ!
なんだってんだよ!!!___
カムロウ「___!」
カムロウは、目が覚めた。
陽が昇っている。朝だ。
場所は、自分の家だ。そして自室の、ベッドの上。
カムロウ「変な夢だったな…」
夢…にしては、だが。
……変に考えすぎたせいか?
何を考えすぎたかというと、父のハーレーから言われたこと。
結局、分からないままだった。
カムロウ「ん!?」
カムロウ「き…筋肉痛が…ぐわあああ……」
腕。特に腕が痛い。ぐわあああ…
昨日の夜、父親から借りたあの大剣を少しでも使いこなそうと、就寝時間まで特訓をした。
まさか、そのせいで、筋肉痛になるとは…
痛みで錆び付いたかのような体を無理に起こす。
寝間着から普段着に着替え、戦闘用の装備を身に付ける。
黒い木目状の大剣を背中に担ぐ。
担いだときに走った筋肉痛に身体がよじれながらも、部屋のドアを開けた__
__台所に行くと、誰かが椅子に座っていた。
母のテアラだ。
傷は順調に回復しつつあり、今では車椅子も必要ないぐらいになった。
カムロウ「おはよう。」
テアラ「はい、おはよう。」
朝の挨拶を交わした後、水が溜まった洗面器で顔を洗う。
塗れた顔を拭いている時に、テアラが話しかけてきた。
テアラ「カムロウ…本当に行くのですね?」
カムロウ「…母さん、何度も言ってるだろ。これは僕が__」
テアラ「__分かっています…これは、あなたが決めた事、止めはしません。」
カムロウ「……………」
母さんの顔は、変わらずのままだった。
しかし、今の僕には分かる。僕の事が心配だという事を。
カムロウ「…ごめんね。」
今の母さんの気持ちは分かる。良く分かる。
僕だって、これ以上心配かけたくない。
だけど__
カムロウ「だけど、母さんも言ってただろ。僕はもう、昔の僕じゃないって。」
カムロウ「僕には、他に守りたいモノが出来たんだ。」
客観的に見れば、父さんの決闘をする前に、あの時点で縁を切るという事もできた。
けど僕は、自分にはもう関係ないと言って見捨てることなんて出来ない。出来るハズがない。したくもなかった。
せっかく繋がった絆を断ち切るなんて、喧嘩をしたわけでもないのに、仲が悪くなったわけでもないのに、どうしてそんなことをしなければならないのか。
守りたいモノ、仲間という友達を、この手が届くその時まで、摩耗してでも守る。
それが、今の僕を、心の底から突き動かす衝動だ。
僕の返事を聞いた母さんは、ニッコリと微笑んだ。
テアラ「カムロウ、それで良いのです。」
テアラ「それが、あなたが、「人」としてするべき行動なのです。たとえ行動に理由が無くとも。」
そう聞いた僕はうなずいた。
覚悟は出来ている。死んでしまったら、その時はその時だ。
カムロウ「行ってくる!みんなが待ってる!」
テアラ「ええ、行ってらっしゃい。」
僕は、朝食でゆっくり食べるはずだったパンを頬張り、頬張りきれないパンを片手に持って、家を飛び出した__
__コロポ村、門前。
ルカ達は、カムロウが来るのを待っていた。
ラクト「寝坊助なんだよなぁ…
ルカ「そう言うなよ。まだ出発するわけじゃないからいいだろ。」
そう言いながら周りを見渡す。
ちょうど近くにある、開けた場所で、パヲラとジョージは互いに鍛錬し合っていた。
パヲラ「ふぅ、こんなものかしら。」
ジョージ「うむ、十分。」
今、準備運動を終えたようだ。
ジョージ「どうやら、問題なく戦えそうだ。」
昨日の作戦会議をした後、ジョージとマモルは、チリに無理を言って体の傷を回復魔法で治してもらった。
なので、パヲラに頼んで、無理に治した身体で戦えるかどうか試していたのだ。
チリは、回復魔法の乱用は寿命が縮むためあまり使用したくないと言っていたが……
チリ「良かった…でも、無理はしないでくださいね。」
ジョージ「承知したでござる。」
マモル「まぁ、出来たらの話ですけどねぇ。」
チリは困った顔をした。
チリ「ちょっ……」
マモル「お願いしますぅ、堪忍して欲しいですぅ。」
チリはますます困った顔をした。
チリ「堪忍って……」
そうしていると、カムロウが、パンを頬張ってモグモグしながらやって来た。
カムロウ「ごめん、遅れて。もう出発する?」
ルカ「いや、まだだよ。」
マモルがボロボロの門の上で、式神を使役してイズクの居場所を探っている。
式神を通して、遠くの風景を見ているそうだ。
大体どのあたりにいるかが分かるまで、出発できない。
不用意に動くと取り逃がす可能性もある。
ラクト「どうよ、見つかったか?」
ラクトがそう聞くと、マモルは門の上からシュッと降りて来た。
そして、首を横に振った。
マモル「…いや……いないんですよ、どこにも。」
ルカ「いない…?見当たらないのか?」
マモル「えぇ、えぇ。気配一つもないんですよぉ。」
マモル「
探しても見つからないとは、どういうことなのだろうか。
マモル「予感、その1。すでに遠くに逃げた。」
なんだ急に?…いや、それはひとまず置いておこう。
チリ「二人が戦ってから、逃げるには十分なくらい時間はあった…いくら崖が多く入り組んでる地形でも、遠くに逃げれる余裕は__」
ジョージ「__あり得る予想ではあるが…あり得ない予想だ。」
眉をひそめ、顔をしかめながら、ジョージはそう言い放った。
ジョージ「拙者達に追手を差し向けたのだ。奴は必ず殺しに来る…」
彼の言う通り、あちらのほうが優勢だったはずだ。尻尾巻いて逃げるなんて考えられない。
マモル「予感、その2。怪我をしてどこかに潜んでいる。」
えっ、まだ続けるのか?…そういや、その1って言ってたな…
パヲラ「そうなると、矛盾するわね。二人は手も足も出なかった話のはず…」
ラクト「どっかで脚滑らせて転んだとか?」
カムロウ「えぇ?それで隠れる?」
ラクト「俺だったらな。」
お前だったらの話じゃないか…
マモル「一番最悪な予感、その3。」
ルカ「最悪…?」
一番で、しかも最悪という言葉が付いたぞ…?
なんだろう、最悪な予感って…?
マモル「向こうのほうから、こちらに向かっている____」
___その刹那、僕も、恐らくみんなも、妙な気配を感じ取った。
足の、地面に触れているところからだろうか。
ドゴン…ドゴン…と、鼓動のような、大きな足踏みのような振動がした。
カムロウ「なんだ……?」
パヲラ「地震……いや………これは…!?」
その振動は、閉じた門の奥から、こっちに近付いていくようにどんどん響く。
………なんだか、本当に嫌な予感がする!
ルカ「み…みんな!門から離れよう!早く!!」
__その直後、門は蹴飛ばされたかのように爆散した!
木片や瓦礫が飛び散り、大きな土煙が舞い上がる。
カムロウ「ああ、門が!なんてこった!まだ修理中だっていうのに!」
ラクト「落ち込むのは後にしろ!今はそれどころじゃねぇ!」
そうだ、
パヲラ「探す手間は、省けたわね?」
ルカ「探す手間は…ね。」
土煙から現れたのは……
禍々しいオーラを放つ人型の、亡霊のような存在。しかも巨人のように大きいのと、その亡霊のような巨人の肩に乗った男。
男の身体の特徴は、右目に傷、そして右腕がない。
事前に聞いていた、身体の特徴と一致していた。
チリ「この男が…!?」
ジョージ「そうだ…目の前にいるこの男が!!」
マモル「アッシらの仇__」
「「___イズク!!!」」
イズク「ほぉ、ここにいたか。」
その男は、左目でギョロっとこちらを舐め回すように睨む。
イズク「よっぽど俺を殺したそうに式神を飛ばしてるもんだから、こっちから来てやったぞ。」
ジョージ「…………」
負けじとなのだろうか、それとも恨みなのか、ジョージもイズクを睨む。
視えない稲妻が、互いの間でバチバチと弾けているようにも感じる。
しかし、僕はそれよりも気になることがあった。
ルカ「アイツが乗っているあれは…?」
イズクが乗っているあの亡霊のような巨人。
今、やっと土埃が消え去って、全貌を見ることができた。
顔には目や鼻や口、髪といった部位はない、のっぺらぼうだ。
あるのは輪郭がはっきりとしない、ぼやぼやとした大きな身体だけだ。
マモル「ん~…ありゃあ…
ルカ「
マモル「あの世の亡者の怨念が集まって生まれたバケモノですよぉ。あの野郎、あんなものも出しやがったか……」
ジョージ「関係ない。どんなバケモノであろうとも…」
ジョージは静かに、落ち着いた手つきで鞘から刀を抜き、両手で構えた。
ジョージ「奴を叩き斬ることに変わりはない!!!」
イズク「へっ、そうはいくかよ!」
イズクは左手で、懐から鏡を取り出した。
あれが反魂鏡か!
イズク「ほらよぉ!」
鏡を空高く掲げると、鏡から無数の炎の玉が飛び出した。
炎の玉が弾けると、そこから何十体の、人型のゾンビのような、亡者のような存在が飛び出した!
ジョージ「亡者共か…!」
ルカ「やっぱり出してきたか…!」
カムロウはその大群の中で、何かを見つけたようだ。
カムロウ「アイツは…!?」
無数の亡者の大群の中に、赤い鎧を着た大男がいた。
昨日、僕達が相手をした血の狂戦士だ!
カムロウ「そんな…倒したはずなのに……!?」
イズク「ああ、こいつはお前らが相手した奴か。そりゃそうさ。もう死んでるからな。」
イズク「何人来ようが、こっちは死ぬことのない、不死身の戦士が使い放題なんだよ!!」
ラクト「っつーことはよぉ…昨日戦った戦士とか魔法使いとか狙撃手とか、そんな奴らもいるってことかよ!?」
チリ「そんな…それじゃあ…!?」
ラクト「まるでゾンビと変わらねぇじゃねぇかよ!!___」
パヲラ「___ノンノン。みんな、絶望するにはまだ早すぎるわん。」
静かに拳を構えたパヲラがそう言った。
パヲラ「一度相手したのなら、対処法は分かってるでしょ?」
ルカ「それに…こういうことはすでに想定済みなんだ。僕達がやることは変わらない!」
ジョージとマモルに邪魔が入らないように、イズクの取り巻きを僕たちで分断すること。
それが僕達がやることだ!
ルカ「みんな、作戦通りだ!準備はいいか!」
「「「「「「ああ!!!」」」」」」