もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
__ルカ達が奮闘している間、ラクト達は…
残った亡者たちを倒していた。
襲ってくる亡者に塩を浴びせ、一体ずつ、確実に、慎重に。
あるいは、チリのハンマーで吹き飛ばしたり。
そうして、出来るだけルカ達に邪魔が行かないように。
黙々と、敵を倒していた。
チリ「ねぇ…」
その最中、チリが口を開いた。
ラクト「なんだってんだ、こんな時に。」
チリ「ルカ達、大丈夫だと思う?」
そう言われて、ラクトはルカ達の様子を視た。
ルカ達の顔には、苦痛の表情が浮かんでいた。
何度も狂戦士に向かっていくも、殴られ、蹴られ、吹き飛ばされている。
苦戦。劣勢。そんな感覚が、なんとなく伝わってきた。
ラクト「…とはいえだな。」
ラクトはやれやれというジェスチャーをした。
ラクト「俺たちは俺たちで、この
ラクト「助けに行ったところで、足手まといになるのはごめんだぜ。」
実のところ、ラクトはまだ、自分の中に恐怖が残っているという自覚があった。
確かに、逃げる事は止めた。敵前逃亡を、自身の身の安全を優先するために、立ち向かうべきであろう壁から逃げ出すことは止めた。
しかし、今のラクトには、ルカ達のような、立ち向かう勇気が、未だ備わっていなかったのだ。
今、こうして足に意識を向けなければ、自然と震えだすに、ガクガクと震えるに決まっている。
正直言えば、逃げ出したい。
けど誓った、もう逃げない。
今逃げ出してしまうことは、ラクト自身の意地が許さなかった。
出来る事なら、ルカ達に協力したい気持ちはあった。
しかし、今ここで、チリと共にルカ達を助けに行ってしまえば、誰がこの亡者を相手するのだろうか。
数の不利を相手しながら強敵を倒すのは至難である。
今はこうして、亡者の相手をすることが、最善なのだ。
そう、ラクトは自分に思い聞かせた。
そして、それを忘れるためか、それとも気になっただけなのか、話の話題を変えた。
ラクト「そうだ。お前何か、回復魔法以外に魔法覚えてねぇのかぜ?」
チリ「えっ?」
ラクト「遠距離攻撃だよ。覚えてたら、ちったぁ楽できるだろ。」
そういえばこいつ、回復魔法以外の魔法を使ったところを、俺は見た事がない。
チリ「…ハンマー投げちゃ、ダメなの?」
ラクト「拾うのが大変だろうがっ!」
いや…ハンマー投げるよりも楽だと思うんだが……
ラクト「なんなら、この俺が教えてやろうか?」
チリ「結構です。」
ラクトはガクッと、姿勢を崩し損ねた。
絶対、覚えたほうが楽だと思うんだがなぁ……
その時であった。
二人は、ラクトとチリは、周囲の空気に妙な違和感を覚えた。
辺りを見渡すと__
ラクト「__な…!?」
倒したはずの亡者が、いつの間にか増えていたのだ。
数人しかいなかったはずの亡者が、数十人に。
いや…正確に言えば、
空を見上げると、無数の炎の玉が揺らめていていた。
それが降り注ぎ、弾けると、亡者が姿を現した。
チリ「これ…まずいんじゃ…?」
チリ「私達が倒したのが、呼び戻されてるってことだよね!?」
イズクが呼び出した亡者たちは、倒しても、完全に倒すことは出来ない。
時間が経てば、再び復活する。
そして今!
すでに、再びこの場に呼び戻される時間になっていた!
ラクト「こいつはやべぇ!助けに行く前に、ここら一帯がまた亡者で埋まっちまうぞ!?」
では、再び倒せばいいだけの話だ。
そう思いながら、ラクトは持っていた塩の入った袋に手を突っ込む。
__スカッ。
ラクト「……は?」
再び、袋に手を突っ込む。
__スカッ…
ラクト「な……」
ラクト「なにぃぃぃぃぃ!?」
塩が入ってたはずの袋の中は、空であった。
つまり、これが意味することは。
ラクト「チリは!?まだ塩、持ってるか!?」
チリ「私もない!さっきので使い切ってた!!」
ラクト「どうして塩がもうねぇんだよぉぉぉ!!!」
塩の在庫切れであった。
いくら、村からかき集めた大量の塩であっても、底は尽きるものである。
チリ「ど、ど、どどどどどどど…」
チリ「どうするの!?どうすればいいの!?」
塩がなくて焦る間に、亡者たちは一歩ずつ、ゆっくりと、こちらに進行してきている。
チリ「私達は今、どうするべき!?」
ラクト「クソっ!なにか、なにかねぇのか!」
焦りながらも僅かな希望に賭け、ラクトは自分のカバンをひっくり返してバッサバッサと揺らす。
ラクト「残ってる塩は!?なんでもいい!なにか、なにかねぇのかよぉ!」
カバンからはこぼれ落ちるは…トンカチ、非常食、へそくりの入った袋、等々。
ボロボロと私物が落ちる中に、お目当てのモノ…塩はなかった。
知ってはいた。入ってるはずがないと。
そうであっても、僅かな希望にすがりつきたかった。
そのとき、塩ではない別のモノが眼に付いた。
それは、魔法信号筒と呼ばれるアイテムだった。
ハピネス村での一件、クイーンハーピーを倒した後にルカが使ったのと同じモノ。
渡された時の予備を、ラクトはいくつか持っていた。
ラクト「こ…これはっ!」
とっさに、地面に落ちた魔法信号筒を拾い、真上に投げた。
ラクト「そぉぉらあああぁ!!」
それは空中で弾け、色とりどりの光を生み出した!
…ただ、それだけ。
チリ「何したの!?」
ラクト「悪あがきだ!」
急いで、腰にあるホルスターから、自作の魔導銃を取り出し構えた。そして、魔導銃から魔法を乱射した。
炎、氷、風…何発もの魔法の弾丸を連発した。
それらが迫りくる亡者の大群に命中しても、倒れる亡者は一人もいなかった。
焼け石に水とは、このことを言うのだろうと、ラクトは感じた。
それでも……
ラクト「抗ってやる!最後の最後まで抗ってやる!!」
俺にはまだ、生きる理由が…!
ラクト「俺はこんな所で!死ぬわけにはいかねぇんだあああぁぁ!!!」
ラクト「そこで!今、この物語を読みに来ている、暇で暇で仕方の無い諸君!」
この後の展開を予想してみよう!
次の項目から、一つだけ選んで下さい。
①超ラッキー!すごいことが起きて助かる。
②魔法信号筒に気付いた誰かが駆け付け、亡者を一掃する。
③ルカ達が一旦引いて、助けに来てくれる。
④しかし、何も起こらなかった。
…とりあえず、この後考え得る出来事はまとめた。
__後は……
ラクト「チリ!岩飛ばせ!!何でもいい!!岩でも木でも土でも何でも!!!」
ラクト「とにかく攻撃の手を緩めるな!!!」
チリ「言われたからにはやるけど…打開できるの!?」
チリ「これじゃあ、もうどうしようもないでしょう!?」
そう言われても、ラクトは魔導銃を構えたまま、銃口を敵に向けたままの姿勢を続けていた。
ラクト「_だからやるんだよ。」
ラクト「悪あがきってのはさぁ。」
ラクト「もうどうしようも出来ない奴にしか出来ねぇ特権なんだよ!!!」
ラクト「強くなくても、生きるってのは誰にでも出来るんだからなぁ!!!」
__ルカのように、最後まで諦めない勇気を。
ラクト「__うおおおおおおお!!!」
ラクトは魔法の弾丸を連射した。
チリは近くの岩を、自慢の大きなハンマーで砕き、粉砕した岩石を飛ばした。
塩と違って、溶けるように倒せるわけではなかった。
一体を倒すのに、かなりの時間を有する。
脚を負傷させても這いずり、腕を負傷させても胴体を貫いても顔を狙っても、変わらず迫り来る。
それでも二人は、諦めなかった。
生きる事を、諦めなかった。
ただ、ひたすらに。がむしゃらに。必死に。
____しかし。
亡者の大群は、目前まで迫って来てしまった。
チリ「うっ…!」
もう、手を伸ばされたら届くほど。
そう思えるくらい、囲まれてしまった。
チリ「ダメだった…結局…」
チリ「無駄だったんだ……」
__悪あがきとは。
悪足掻きと書く。意味はいくつか存在する。
その意味の内、一つは、
どうしようもないという立場にありながら、しても効果のないことをあせってあれこれと必死に試し、なんとかしようと抵抗するさま。
である。
絶望的な状況を覆す行動を意味していない。
結局のところ、何をしても無意味なのだ。
ラクト「……最悪だぜ。」
ラクト「この後の展開は…」
ラクト「
ラクト「結局、
亡者の大群は、二人に襲いかかった!!!
ラクト「うおああああああああ!!!」
チリ「うわああああああああ!!!」
死を覚悟した瞬間。
二人に飛び付こうとした亡者の頭に、一本の矢が突き刺さった。
チリ「えっ!?」
それだけでは終わらず、何十本もの矢の雨が、二人を避けるように降り注いだ!
ラクト「矢…!?狙撃か!?」
避けるように飛んで来たということは、ラクト達に対して敵意、攻撃する意図はない事を意味する。
つまり……
ラクト「誰かが、助けに来てくれたってことなのか!?」
矢が飛んでくる方向を辿る。
すると、村の門がであろう場所に、二人の人影が見えた。
その人物は…
リンドウ「そらそらそらそらぁ!」
弓を持ち、矢を放つカムロウの姉リンドウと。
白い牙のような大剣を片手で持つ男、カムロウの父ハーレーであった。
チリ「……もしかして…なんだけど……」
チリ「さっき、ラクトがやった事…魔法信号筒……」
チリ「アレに…気付いてくれたって…ことかな……?」
ラクト「は…はははは……」
ラクト「どうやら、そうみたいだな…はははは……」
さっきまで、死を覚悟していた二人は、生きた心地を感じてはいなかった。
未だに心臓が、バクンバクンと爆発しそうなほどの鼓動をあげていた。
それでも、実感できたことがある。
ルカのように、最後まで諦めない勇気というのは、必ず実を結ぶことがあると。
__悪足掻きには。
善し悪し含め、意味のある、評価できる理由が一つだけある。
決して、諦めない姿勢である。