もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
カムロウの父ハーレーは、片手で大剣の柄を握りしめた。
次第に、ハーレーの身体から風が吹き荒れる。
その風は大剣にも纏わり始め、輝き始める!
ハーレーは飛び掛かり、亡者の群れの真上から、嵐のような連続斬りを放った!
ハーレー「
軽々と大剣を振り回すその姿は、嵐が人の姿となって現れたかのような光景だった。
一振りするだけで荒風が吹き、何体もの亡者が宙を舞う。
さらには、かまいたちが起きたかのように、周囲の亡者の身体にはいくつもの切り傷が付いた。
アッと言う間とはこのことだろう。
その出来事は一瞬で始まり、一瞬で終わったのだ。
亡者達は切り傷が致命傷となったのか、炎の球となり空に昇っていく。
中には宙に飛んでいる間に炎の球と化する者も。
この一瞬で、大群だったはずの亡者たちは粗方いなくなってしまった。
ハーレー「リンドウ、残ったのやっとけ。」
リンドウ「父さんってホンット、人使いが荒い!!」
カムロウの姉リンドウは不服そうにしながらも弓を構え、残った亡者たちの脳天めがけて矢を放ち始めた。
ハーレーは大剣を背中の鞘に納刀しながら、ラクトとチリの元に歩み寄った。
ラクト「え…えらい強さだな…」
ハーレー「これでも大分衰えたがな。だが若い頃より力は衰えても、戦い方は知っている。」
そう言いながら、ハーレーの顔は少し困惑した顔になった。
ハーレー「ところで、これは一体どういう状況なんだ?さっき花火のようなモノが空に上がったから、何事かと思って来てみれば……」
ハーレー「なんかよくわからん奴がたむろしていたからぶっ飛ばしたが、あれはあれでよかったのか?」
ラクト「あぁ、それはそれで良いんだ。助かったぜ。」
どうやら、先ほどラクトが投げた魔法信号筒に反応して来たらしい。
しかし状況の詳細については良く分かっていない様子だ。
ラクト「いやぁ…まぁ、ちょっとゴタゴダがあってな…」
ハーレー「…まぁいい。」
首を横に振ったあと、ハーレーは静かに辺りを見渡した。
ハーレー「……お前ら、他の奴らは?」
チリ「向こうの方で戦ってます。」
そう言われてハーレーは遠くにいるルカ達を見た。
ルカ、カムロウ、パヲラの三人は苦戦を強いられていながらも戦い続けていた。
着ている衣服はボロボロになりながらも。
ハーレー「そうか。なら、早く仲間のところに向かうんだな。」
そう言いながら、ハーレーはラクト達に背を向け、離れようとする。
ハーレー「このよくわからんこいつらの相手は俺がする。」
ラクト「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
ラクト「アイツらの助けは、アンタが行った方がよっぽど良いんじゃあねぇのか!?」
そう言った直後、歩み始めたハーレーは、強めの一歩を踏み終えた所で歩みを止めた。
ハーレー「…率直に言おう。」
そしてラクトの方に振り返った。
ハーレー「助けに行くべきはお前らだ。」
ラクト「えぇ!?」
チリ「えぇ!?」
ハーレー「今、お前らが行かないとなると…いつ行くつもりだ?そうやってまごまごしてると、この先、置いて行かれるぞ。」
ハーレー「特にあの…」
ルカの方を指差した。
ハーレー「勇者志望のアイツにな。」
ラクト「だ、だけどよぉ!!」
それでもまごまごするラクトやチリを前にしても、ハーレーは堂々たる姿勢を崩さずに、再びラクトの方を向いた。
ハーレー「そういや、お前は…」
ハーレー「カムロウをどうするつもりだ?」
ラクト「…!」
ラクトはハッ…と苦い顔をした。
ハーレー「お前はカムロウを信じるんじゃなかったのか?」
ハーレー「俺の前でお前は、絶対に死なせないと、言っていたが。」
ラクト「………」
ハーレー「どうなんだ?」
ラクトは、まずい…という顔をした。
そして数秒程度、沈黙のままだった。
その間は、灰色の雲に覆われた空と、吹くことを怠けた風によって、さらに長く感じた。
チリ「ハーレーさん。」
沈黙の間に、チリが割り込んだ。
チリ「どうして…助けに行かないんですか?」
ハーレー「それはお前たちがすべきことだ。」
ハーレーは即答した。
しかしチリはその解答に納得がいかないようだ。
チリ「ですから、ハーレーさん!」
チリ「どうして!?助けに行こうとしないんですか!?」
チリ「ラクトの言う通り、ここはあなたが助けに行く方が最善なはずですよ!?」
チリは焦るように、怒鳴りつけるように言い切った。
その顔には焦燥の色が見えていた。
ハーレー「………」
ハーレーは体の向きを、再びラクト達の方に向けた。
ハーレー「……もし、お前たちの仲間を助けに行ったら。」
ハーレー「カムロウはどう思う。」
ラクトとチリは、頭の上に?が出るような表情になった。
この人は何を言っているのだろう。
そんなこと、答えは決まっている__
チリ「それは…「助かった。」って言うはず__」
ハーレー「__いや、違うな。」
ハーレー「…「なぜ助けに来た。」と言うだろう。」
首を横に振り、ハーレーはそう言った。
ハーレー「反抗期なんだ…今のアイツは。」
ラクト「…はい?」
二人はますます混乱した。
何の話なのかと。
ハーレー「今のカムロウにとって、「俺が助けに来る」という行為は、「信じられていない」という認識になる。」
ハーレー「カムロウは、自分の意思で己が進むの道を決めた。」
ハーレー「俺はそれを認めた。」
ああ、そうか。分かったぞ。
この人は今、父親面をしているんだ。
だが…今じゃなくてもよくないか!?
ラクトはそう思った。
ラクト「カムロウのためを思って…あえて助けに行かないってか?」
ハーレー「あぁ、そうだ。」
ラクト「なんでだよ…!?」
チリ「だからって…!?」
焦っている素振りを見せていたチリは、その焦りをさらに加速させた。
チリ「あなたは…何とも思わないんですか!?」
チリ「助けに行かずに、見捨てるつもりですか!?」
チリ「それでも親なんですか!?あなたは!!!」
ハーレー「子を想わない【親】が、どこにいる!!!」
爆発したかのような怒号が爆風のように響いた。
ハーレー「子が危地に立たされているのにも関わらず、何も感じない奴など!そんなのは【親】ではない!!」
ハーレー「だが、【親】はいつまでもいるわけではない。限りある命の存在だ。この俺もテアラも、いつか朽ち果てる運命だ。」
ハーレー「だから子には!己の道を!!己自身の力で!!!死を乗り越えなければならない!!!」
ハーレー「死をも乗り超える力…それは、生きようとする意志だ!その力を、自分の手で積み上げなければならない!」
ハーレー「そのために俺たち【親】が成すべきこと…それは!」
ハーレー「【次世代へ託す】という【意思】だ!!!」
ハーレー「子が次の時代を生きるために!!」
ハーレー「それが【親】だ!!!」
チリとラクトは、呆然と、その言葉を聞いていた。
ラクトは、思うところがあるのか、真っすぐな眼差しで聞いていた。
ハーレー「【信じる事】が、【救い】だ!!!」
ハーレー「【信念】こそ【力】だ!!【信念】が【力】を生む!!!」
ハーレー「信念が力を生むならば!信じる事を止めたら!!力は歪む!!!」
そう言い切ったあと、ハーレーは少しだけ息切れを起こした。
ハーレー「俺は出来る限りの事をした…俺の技術も教えた。」
ハーレー「後はカムロウが、その先を乗り越えるかどうかだ!!!」
圧倒された。
この人は、自分が出来ることをしていたのだと。
ハーレー「今、乗り超えてもらわないと、俺も困る。」
ハーレー「俺の息子なら乗り越えるはずだ。」
ハーレー「だが……」
ハーレー「そのためには…お前たちの力も必要だ。」
ハーレー「信頼できる【仲間】の存在が。」
ラクト「………」
少し間を置いて、呼吸を整えたハーレーは、話を続けた。
ハーレー「古龍族というのは……」
ハーレー「誰かと巡り合うのを宿命づけられているかも知れないな…」
ハーレー「この俺も、テアラも…そうだった。」
ラクト「………」
チリ「………」
再び、沈黙の間が生まれた。
…いや、言う言葉が出てこないと表現した方が正しいだろう。
反論だとか、そんなことをする必要がないほどに。
そうして二人は喋らずにいると、ハーレーはラクトの方に向き直った。
ハーレー「あぁ、そうだ。お前。」
ラクト「ん?」
ハーレー「確か…ラクトとか言ったな。」
ラクト「アンタ、名前覚えれる人間なんだな。」
チリ「無礼!」
チリは大きなハンマーでラクトをポコッと軽く叩いた。
それを気にせずハーレーは話を続ける。
ハーレー「お前は、カムロウと出会い、何を想う。」
ラクトは考え込むように顔を俯いた。
そして、その姿勢のまま、ポツリと話し始めた。
ラクト「俺……最初はなぁ。」
ラクト「カムロウの奴を、利用しようとしたんだ。」
ラクト「俺よりも戦えそうだから、代わりに戦わせて、金儲けしようってな。」
溜め息を吐き、呆れたようにやれやれと両手を軽く上げる。
ラクト「そしたら、どうよ。」
ラクト「なんか…気付いたら、ルカとかに出会ってさ、なんかすごい事になりそうな旅に巻き込まれちまってよぉ…最悪だぜ。」
ラクト「いや、俺はここで退いても良いんだぜ?だけどさ。ここで退くとさ…
ラクト「……いや。」
その瞬間、ラクトの脳裏には、ルカやアリス、パヲラにチリ、ジョージにマモルといった、様々な人物の面影が映った。
ラクト「それだけじゃあねぇ。他の奴らもどう思うって考えたら……」
ラクト「退くわけにはいかねぇって思って………」
己の惨めさ故の悔しさか、それともただ腹が立っただけなのか、ラクトは両手を強く握りしめた。
ラクト「だから…
ラクト「俺も変わらねぇと、追い付けない気がした!」
ラクト「弱虫だの、へっぴり腰だの、臆病者だのと。」
ラクト「そんな風に言われることは、人間として、【死ぬことよりも不名誉な恥】なんだってな!」
ラクト「俺だって、逃げてばっかりの人生なんてまっぴらだ!!」
ラクトは覚悟の眼差しで、ハーレーの方に向き合った!
ラクト「良いか!!
ラクト「俺様の名はコトラス・ラクト!!!」
ラクト「この名は!この世で最も偉大な人が名付けてくれた最高の名前だ!!!」
ラクト「そして!カムロウの相棒の名前だ!!!」
ラクト「たとえアイツが人間じゃなくても!死んでもくっついて離れねぇよぉ!」
ラクト「良く覚えておくんだなぁ!!!」
それは、ラクト渾身の、本心の決意の宣言である。
その宣言を聞いたハーレーは、ニヤリと微笑んだ。期待通りと言わんばかりの反応をした。
ハーレー「どうやら、その場限りの嘘じゃなかったようだな。」
ラクト「あったりめぇよ!この俺様を
ハーレー「…そうか。」
するとハーレーは、ラクトとチリに背を向いた。
ハーレー「行け。ここは俺と、リンドウが引き受ける。」
背中の鞘に納刀された大剣を片手で引き抜き、これから戦に身を投じようとするかのように構えた。
__そして駆け出す瞬間、ハーレーはふと呟いた。
ハーレー「___カムロウは、お前たちに任せる。」
そう言い残し、ハーレーは吹き去る突風のように、戦場に去って行った。
ラクト「…!!!」
ラクト「そう言われちゃあ!しょうがねえなぁ!!任せてくれよ!!!」
真っ赤なマフラーを巻き直し、ラクトはハーレーとは正反対の方向に走り始めた!
ラクト「ほら行くぞチリ!」
チリ「い、行くって!?」
ラクト「俺たちも加勢して、早くこのめんどくさい仕事を終わらせてやるんだよ!」
その行き先は、ルカ達がいる方向だった__