もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

61 / 105
第55話 信じる事が救い

カムロウの父ハーレーは、片手で大剣の柄を握りしめた。

次第に、ハーレーの身体から風が吹き荒れる。

その風は大剣にも纏わり始め、輝き始める!

ハーレーは飛び掛かり、亡者の群れの真上から、嵐のような連続斬りを放った!

ハーレー「剛嵐重颪(ごうらんかさねおろし)!!!」

軽々と大剣を振り回すその姿は、嵐が人の姿となって現れたかのような光景だった。

一振りするだけで荒風が吹き、何体もの亡者が宙を舞う。

さらには、かまいたちが起きたかのように、周囲の亡者の身体にはいくつもの切り傷が付いた。

アッと言う間とはこのことだろう。

その出来事は一瞬で始まり、一瞬で終わったのだ。

亡者達は切り傷が致命傷となったのか、炎の球となり空に昇っていく。

中には宙に飛んでいる間に炎の球と化する者も。

この一瞬で、大群だったはずの亡者たちは粗方いなくなってしまった。

ハーレー「リンドウ、残ったのやっとけ。」

リンドウ「父さんってホンット、人使いが荒い!!」

カムロウの姉リンドウは不服そうにしながらも弓を構え、残った亡者たちの脳天めがけて矢を放ち始めた。

ハーレーは大剣を背中の鞘に納刀しながら、ラクトとチリの元に歩み寄った。

ラクト「え…えらい強さだな…」

ハーレー「これでも大分衰えたがな。だが若い頃より力は衰えても、戦い方は知っている。」

そう言いながら、ハーレーの顔は少し困惑した顔になった。

ハーレー「ところで、これは一体どういう状況なんだ?さっき花火のようなモノが空に上がったから、何事かと思って来てみれば……」

ハーレー「なんかよくわからん奴がたむろしていたからぶっ飛ばしたが、あれはあれでよかったのか?」

ラクト「あぁ、それはそれで良いんだ。助かったぜ。」

どうやら、先ほどラクトが投げた魔法信号筒に反応して来たらしい。

しかし状況の詳細については良く分かっていない様子だ。

ラクト「いやぁ…まぁ、ちょっとゴタゴダがあってな…」

ハーレー「…まぁいい。」

首を横に振ったあと、ハーレーは静かに辺りを見渡した。

ハーレー「……お前ら、他の奴らは?」

チリ「向こうの方で戦ってます。」

そう言われてハーレーは遠くにいるルカ達を見た。

ルカ、カムロウ、パヲラの三人は苦戦を強いられていながらも戦い続けていた。

着ている衣服はボロボロになりながらも。

ハーレー「そうか。なら、早く仲間のところに向かうんだな。」

そう言いながら、ハーレーはラクト達に背を向け、離れようとする。

ハーレー「このよくわからんこいつらの相手は俺がする。」

ラクト「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

ラクト「アイツらの助けは、アンタが行った方がよっぽど良いんじゃあねぇのか!?」

そう言った直後、歩み始めたハーレーは、強めの一歩を踏み終えた所で歩みを止めた。

ハーレー「…率直に言おう。」

そしてラクトの方に振り返った。

ハーレー「助けに行くべきはお前らだ。」

ラクト「えぇ!?」

チリ「えぇ!?」

ハーレー「今、お前らが行かないとなると…いつ行くつもりだ?そうやってまごまごしてると、この先、置いて行かれるぞ。」

ハーレー「特にあの…」

ルカの方を指差した。

ハーレー「勇者志望のアイツにな。」

ラクト「だ、だけどよぉ!!」

それでもまごまごするラクトやチリを前にしても、ハーレーは堂々たる姿勢を崩さずに、再びラクトの方を向いた。

ハーレー「そういや、お前は…」

ハーレー「カムロウをどうするつもりだ?」

ラクト「…!」

ラクトはハッ…と苦い顔をした。

ハーレー「お前はカムロウを信じるんじゃなかったのか?」

ハーレー「俺の前でお前は、絶対に死なせないと、言っていたが。」

ラクト「………」

ハーレー「どうなんだ?」

ラクトは、まずい…という顔をした。

そして数秒程度、沈黙のままだった。

その間は、灰色の雲に覆われた空と、吹くことを怠けた風によって、さらに長く感じた。

チリ「ハーレーさん。」

沈黙の間に、チリが割り込んだ。

チリ「どうして…助けに行かないんですか?」

ハーレー「それはお前たちがすべきことだ。」

ハーレーは即答した。

しかしチリはその解答に納得がいかないようだ。

チリ「ですから、ハーレーさん!」

チリ「どうして!?助けに行こうとしないんですか!?」

チリ「ラクトの言う通り、ここはあなたが助けに行く方が最善なはずですよ!?」

チリは焦るように、怒鳴りつけるように言い切った。

その顔には焦燥の色が見えていた。

ハーレー「………」

ハーレーは体の向きを、再びラクト達の方に向けた。

ハーレー「……もし、お前たちの仲間を助けに行ったら。」

ハーレー「カムロウはどう思う。」

ラクトとチリは、頭の上に?が出るような表情になった。

この人は何を言っているのだろう。

そんなこと、答えは決まっている__

チリ「それは…「助かった。」って言うはず__」

 

ハーレー「__いや、違うな。」

ハーレー「…「なぜ助けに来た。」と言うだろう。」

首を横に振り、ハーレーはそう言った。

ハーレー「反抗期なんだ…今のアイツは。」

ラクト「…はい?」

二人はますます混乱した。

何の話なのかと。

ハーレー「今のカムロウにとって、「俺が助けに来る」という行為は、「信じられていない」という認識になる。」

ハーレー「カムロウは、自分の意思で己が進むの道を決めた。」

ハーレー「俺はそれを認めた。」

ああ、そうか。分かったぞ。

この人は今、父親面をしているんだ。

だが…今じゃなくてもよくないか!?

ラクトはそう思った。

ラクト「カムロウのためを思って…あえて助けに行かないってか?」

ハーレー「あぁ、そうだ。」

ラクト「なんでだよ…!?」

チリ「だからって…!?」

焦っている素振りを見せていたチリは、その焦りをさらに加速させた。

チリ「あなたは…何とも思わないんですか!?」

チリ「助けに行かずに、見捨てるつもりですか!?」

チリ「それでも親なんですか!?あなたは!!!」

 

ハーレー「子を想わない【親】が、どこにいる!!!」

 

爆発したかのような怒号が爆風のように響いた。

ハーレー「子が危地に立たされているのにも関わらず、何も感じない奴など!そんなのは【親】ではない!!」

ハーレー「だが、【親】はいつまでもいるわけではない。限りある命の存在だ。この俺もテアラも、いつか朽ち果てる運命だ。」

ハーレー「だから子には!己の道を!!己自身の力で!!!死を乗り越えなければならない!!!」

ハーレー「死をも乗り超える力…それは、生きようとする意志だ!その力を、自分の手で積み上げなければならない!」

ハーレー「そのために俺たち【親】が成すべきこと…それは!」

 

ハーレー「【次世代へ託す】という【意思】だ!!!」

 

ハーレー「子が次の時代を生きるために!!」

ハーレー「それが【親】だ!!!」

チリとラクトは、呆然と、その言葉を聞いていた。

ラクトは、思うところがあるのか、真っすぐな眼差しで聞いていた。

ハーレー「【信じる事】が、【救い】だ!!!」

ハーレー「【信念】こそ【力】だ!!【信念】が【力】を生む!!!」

ハーレー「信念が力を生むならば!信じる事を止めたら!!力は歪む!!!」

そう言い切ったあと、ハーレーは少しだけ息切れを起こした。

ハーレー「俺は出来る限りの事をした…俺の技術も教えた。」

ハーレー「後はカムロウが、その先を乗り越えるかどうかだ!!!」

圧倒された。

この人は、自分が出来ることをしていたのだと。

ハーレー「今、乗り超えてもらわないと、俺も困る。」

ハーレー「俺の息子なら乗り越えるはずだ。」

 

ハーレー「だが……」

 

ハーレー「そのためには…お前たちの力も必要だ。」

ハーレー「信頼できる【仲間】の存在が。」

ラクト「………」

少し間を置いて、呼吸を整えたハーレーは、話を続けた。

ハーレー「古龍族というのは……」

ハーレー「誰かと巡り合うのを宿命づけられているかも知れないな…」

ハーレー「この俺も、テアラも…そうだった。」

 

ラクト「………」

チリ「………」

再び、沈黙の間が生まれた。

…いや、言う言葉が出てこないと表現した方が正しいだろう。

反論だとか、そんなことをする必要がないほどに。

そうして二人は喋らずにいると、ハーレーはラクトの方に向き直った。

ハーレー「あぁ、そうだ。お前。」

ラクト「ん?」

ハーレー「確か…ラクトとか言ったな。」

ラクト「アンタ、名前覚えれる人間なんだな。」

チリ「無礼!」

チリは大きなハンマーでラクトをポコッと軽く叩いた。

それを気にせずハーレーは話を続ける。

ハーレー「お前は、カムロウと出会い、何を想う。」

ラクトは考え込むように顔を俯いた。

 

そして、その姿勢のまま、ポツリと話し始めた。

ラクト「俺……最初はなぁ。」

ラクト「カムロウの奴を、利用しようとしたんだ。」

ラクト「俺よりも戦えそうだから、代わりに戦わせて、金儲けしようってな。」

溜め息を吐き、呆れたようにやれやれと両手を軽く上げる。

ラクト「そしたら、どうよ。」

ラクト「なんか…気付いたら、ルカとかに出会ってさ、なんかすごい事になりそうな旅に巻き込まれちまってよぉ…最悪だぜ。」

ラクト「いや、俺はここで退いても良いんだぜ?だけどさ。ここで退くとさ…アイツ(カムロウ)はどう思うんだろうなって考えたら…」

ラクト「……いや。」

その瞬間、ラクトの脳裏には、ルカやアリス、パヲラにチリ、ジョージにマモルといった、様々な人物の面影が映った。

ラクト「それだけじゃあねぇ。他の奴らもどう思うって考えたら……」

ラクト「退くわけにはいかねぇって思って………」

己の惨めさ故の悔しさか、それともただ腹が立っただけなのか、ラクトは両手を強く握りしめた。

ラクト「だから…アイツ(カムロウ)を見てさ…なんていうのかな…」

ラクト「俺も変わらねぇと、追い付けない気がした!」

ラクト「弱虫だの、へっぴり腰だの、臆病者だのと。」

ラクト「そんな風に言われることは、人間として、【死ぬことよりも不名誉な恥】なんだってな!」

 

ラクト「俺だって、逃げてばっかりの人生なんてまっぴらだ!!」

 

ラクトは覚悟の眼差しで、ハーレーの方に向き合った!

ラクト「良いか!!アイツ(カムロウ)が必要としている仲間ってのは、この俺様もそうなんだぜ!」

ラクト「俺様の名はコトラス・ラクト!!!」

ラクト「この名は!この世で最も偉大な人が名付けてくれた最高の名前だ!!!」

ラクト「そして!カムロウの相棒の名前だ!!!」

ラクト「たとえアイツが人間じゃなくても!死んでもくっついて離れねぇよぉ!」

ラクト「良く覚えておくんだなぁ!!!」

それは、ラクト渾身の、本心の決意の宣言である。

その宣言を聞いたハーレーは、ニヤリと微笑んだ。期待通りと言わんばかりの反応をした。

ハーレー「どうやら、その場限りの嘘じゃなかったようだな。」

ラクト「あったりめぇよ!この俺様を無礼(ナメ)てもらっちゃあ困るぜ!」

ハーレー「…そうか。」

するとハーレーは、ラクトとチリに背を向いた。

ハーレー「行け。ここは俺と、リンドウが引き受ける。」

背中の鞘に納刀された大剣を片手で引き抜き、これから戦に身を投じようとするかのように構えた。

 

__そして駆け出す瞬間、ハーレーはふと呟いた。

ハーレー「___カムロウは、お前たちに任せる。」

 

そう言い残し、ハーレーは吹き去る突風のように、戦場に去って行った。

ラクト「…!!!」

ラクト「そう言われちゃあ!しょうがねえなぁ!!任せてくれよ!!!」

真っ赤なマフラーを巻き直し、ラクトはハーレーとは正反対の方向に走り始めた!

ラクト「ほら行くぞチリ!」

チリ「い、行くって!?」

ラクト「俺たちも加勢して、早くこのめんどくさい仕事を終わらせてやるんだよ!」

その行き先は、ルカ達がいる方向だった__

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。