もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第57話 地返反魂の秘術

__時は少し前まで遡る。

ジョージとマモルが、イズクと共に谷底に落ちたところから、時は刻刻と動く。

 

暗雲立ち込める中、細かい砂利が敷き詰められた谷底でジョージ達は、マモルの巨人のような式神大太法師(デイタラボッチ)に乗り、イズクが乗る亡霊のような巨人邪魅(ジャミ)と相対していた。

互いに一進一退、激しい攻防が続いていた。

邪魅(ジャミ)が、その左右の大きな腕を振るって、何度も式神大太法師(デイタラボッチ)に攻撃を仕掛ける。

それを式神大太法師(デイタラボッチ)は両腕で防御(ガード)し、隙を見つけては反撃する。

優勢という名のチケットは、両者の手で右往左往していた。

イズク「随分、足掻くなぁ!?」

邪魅(ジャミ)は近くの崖に手を突っ込み、岩石を放り投げた!

ジョージ「それもそうだ!」

マモル「アッシらはよぉ…お前をブッ殺すためにぃ……」

式神大太法師(デイタラボッチ)はそれを手刀で粉砕した!

マモル「この時まで生き延びてきたんだぁ!!!」

イズク「ほざけぇ!!!」

邪魅(ジャミ)大太法師(デイタラボッチ)の腹部に向かって貫手を放った!

邪魅(ジャミ)の手が大太法師(デイタラボッチ)の腹部を貫いた!

…かに見えた!

その時、マモルたちは大太法師(デイタラボッチ)の肩から飛び上がった!

マモル「思業式神(しぎょうしきがみ)(ぬえ)!!!」

大太法師(デイタラボッチ)の身体がドロドロに溶け、元のマモルの影に戻ると、再び形を変え始めた!

赤い眼が光る猿の頭、強靭な虎の四肢、丸く、大木のように太い狸の胴体、尾からは長い蛇が生えている。

それはまさしく、空想上の生物と伝えられる怪物、(ぬえ)のような姿だった!

ジョージたちはその四足で駆ける式神(ぬえ)の背に乗り、貫手をしたままの邪魅(ジャミ)の腕を伝り、走り渡る。

イズク「まだ足掻くかぁ!?」

イズクは懐から手鏡、反魂鏡を取り出し左手で持った。

それを棒を振るうように振り回すと、そこから無数の衝撃波を撃ち始めた!

それを式神(ぬえ)は素早い身のこなしで次々と回避していく。

マモル「電塊弾(でんかいだん)!」

式神(ぬえ)は口を大きく開け、電気の塊を吐き飛ばした!

イズクは手鏡を空高く掲げると、鏡から赤黒いオーラが漏れ始めた!

するとそこから、赤黒い衝撃波が放たれ、電気の塊と相殺した!

その最中でも、式神(ぬえ)は駆けることを止めず、イズクに向かって一直線に走っていく。

…も。

途中で何かにぶつかり、弾き飛ばされた!

邪魅(ジャミ)のもう片方の手が、ジョージ達を殴り飛ばしたのだ。

それでもジョージ達は空中で体勢を整え、式神(ぬえ)に再び乗り、地面に着地した!

イズク「全く、良ぉ粘るよなぁ!てめぇらはぁ!」

イズク「どうしてそこまで執着できるか、俺から聞きてぇくらいになぁ!」

マモル「こちとら聞きてぇ事が山ほどあんだよ…!」

ジョージ「なぜ、貴様は…自分と同じ沼守の一族を……!!」

二人は、怒りに満ちた顔で叫んだ。

 

「「なぜ、ショウトを殺した!!!」」

 

イズク「殺したぁ?」

左手で聞き耳を立て、小馬鹿にしたような反応をした。

イズク「…クックックッ。」

イズク「……フッフッフッフッ…」

イズク「フフフ……ッハッハッハッハァァァ!!!」

肺の中の空気が全部無くなるほどに、イズクは笑い飛ばした。

イズク「人聞きが悪ぃなぁ。殺したんじゃねぇよぉ。」

ジョージ「では、何だと言うのだ!!!」

マモル「殺したことは変わりねぇのに…見苦しい言い訳かぁ!?」

 

イズク「【大義】だよぉ……!!!」

 

「「【大義】…!?」

 

イズク「そうさぁ!沼守の連中ってのは前から可笑しかったんだよなぁ…その気になれば魔物の連中でさえイチコロなのによぉ!バカな奴らだよなぁ?」

イズク「力があるのに、なぜ使わない!?だから、この俺が!この力で世界を変える!!この力はあの能無し共になんざ相応しくねぇ!!!」

イズク「誰しも羨ましがる、輝かしい【大義】を!この俺が成すんだよぉ!!!」

イズク「不老不死の身体で世界統一という…【大義】をなぁ!」

イズク「成せば、俺の名は世に知れ渡り…俺の力に、世の人間共は俺の為に(こうべ)を垂れる!」

イズク「不老不死の身体なら魔物共なんざ虫けら同然!この俺を脅かす存在なんざ存在しねぇ!魔物も!俺に(あだ)なす愚か者も!!全員(なぶ)り殺しさぁ!!!」

イズク「あのバカ共はそのための犠牲だったっツーわけよぉ?」

イズクはそう言い終えると、ケタケタと笑った。

しかしその答えは、その信念は、ジョージとマモルにとっては、怒りという名の火に油を注ぐも同然の答えだった。

マモル「その【大義】とやらのために…」

マモル「アッシらの友が…ショウトが死ぬ必要があっただってぇ…!?」

段々と、わなわなと、マモルは片手で持った錫杖(しゃくじょう)を強く握りしめた。

マモル「馬鹿げた事を抜かすんじゃねぇよォォォ!!!」

マモルはイズクに向かって、鉄砲式神陣(てっぽうしきかみじん)を展開した!

数十枚の紙の式神は体を細く丸め、鉄砲の弾のように発射された!

イズク「いちいちうるせぇんだよてめぇはァァァ!!!」

イズクは再び手鏡を空高く掲げると、今度は鏡から赤黒い光線が放たれた!

それをジョージは、刀を両手で支え、刀身部分に当たるように構えた!

イズク「(避けねぇ?何のつもりだぁ?)」

赤黒い光線はジョージの持つ刀に命中した!

すると、光線は反射したのだ!

ジョージは刀をゆっくり動かし、反射した光線が邪魅(ジャミ)の両足に当たるように動かした!

イズク「おおぉっ!?」

イズク「(やべぇ!邪魅(ジャミ)が倒れる!!)」

イズクは咄嗟に、邪魅(ジャミ)の肩から飛び上がって離脱した。

両足を光線で焼かれた邪魅(ジャミ)は体勢を崩し、その巨大な身体はうつ伏せになるよう倒れ込んだ。

倒れた衝撃で、広範囲に衝撃が流れ、土埃が舞った__

 

__空高く土埃が舞う中で、地面に着地したイズクは、式神(ぬえ)から降りていたジョージと互いに向き合っていた。

イズク「やるじゃねぇかぁ?まだ生傷癒えてないはずの身体で。褒めてやるよ。」

ジョージ「イズク…」

イズク「んん?」

ジョージ「貴様が()()を【大義】と言うのならば………!」

友の形見である刀を右手で持ち、イズクに突き付けた!

ジョージ「友より託されし、【魂】で貴様を討つ!!」

右腕が赤黒く滲み、血管が太く浮かび、いたる箇所から赤黒い蒸気が噴き出した!

ジョージは禍津(マガツ)を発動させた!

ジョージ「それが拙者達の【大義】だ!!!」

 

イズク「泣かせるじゃねぇか。死んだ友のために命を懸けるとはなぁ。」

イズク「しかもその術は、友から教えられた術だとよぉ。他人に伝えるのはご法度のさぁ!さらに泣かせてくれるぜぇ!」

ニヤニヤと煽るように笑った後__

途端にイズクは真顔になった。

イズク「だが__」

イズクの左腕が赤黒く滲み始めた!

イズク「禍津(マガツ)を使えんのがお前だけだと思うなよ!?」

イズク「それに邪魅(ジャミ)は、俺がいなくても勝手に動く!俺を落としたからといって、戦力を削いだ気になってんじゃねぇぞ!!」

そう言い放つと、邪魅(ジャミ)の巨大な身体は再び立ち上がり始めた!

ジョージ「マモル!そっちは任せた!!」

マモル「おうよ!任せときなぁ!」

マモルは式神(ぬえ)に乗り、邪魅(ジャミ)の方に駆けて行った。

マモルは邪魅(ジャミ)を。ジョージはイズクを相手にするということだ。

 

赤黒い蒸気が噴き出す左腕で、イズクは刀を逆手持ちで抜刀した!

イズク「さぁ!チャンバラといこうじゃねぇかぁ、ジョージィ!!!」

イズクは禍々しいオーラを放つ斬撃を縦に斬り放った!

ジョージ「おおおおォォォォ!!!」

ジョージは禍々しいオーラを放つ斬撃を横に斬り放った!

「「禍津一閃(まがついっせん)!!!」」

互いの禍津一閃(まがついっせん)が相殺した!

ぶつかった衝撃による爆風が広がる!!

そして、互いに接近しガギギ…と、刀の押し合いが始まった!!!

イズク「お前もその術を使うなら知っているはずだ!禍津《マガツ》は生命力をすり減らして、人の身体の限界を超えた力を発揮する術…」

イズク「今、この場で俺とお前が同じ禍津(マガツ)を使うってことは__」

イズク「__命の根気比べってやつだぁ!」

ジョージ「どちらが先に、命尽きるか…か?」

刀の押し合いの最中、イズクが先に斬り上げてきた!

イズク「だが、先に死ぬのはお前だがなぁ!!」

ジョージ「空身(うつせみ)。」

ジョージは身体能力が格段に上がっているのを利用して高速移動をし、ブォンと残像を残して攻撃を躱した!

すると、後ろの大岩が真っ二つに割れた!

当たらなかった攻撃の余波が、大岩に当たったのである。

ジョージ「ぬぅん!」

ジョージは空中に飛び上がり、大きく刀を振り下ろした!

イズクは身体の向きを素早く変え、身を(ひるがえ)して避けた!

今度は地面が縦方向に抉れた!

イズク「おっとぉ!残像ってかぁ!だが今の俺は、動体視力や反応速度だって人の限界を超えているんだぜぇ?」

イズク「見えてないわけがねぇんだよ!」

ジョージ「だが、身体がそれに追いつくにも限界がある。」

イズク「あぁ?」

ジョージ「驟雨佩飛(しゅううはくひ)!」

ジョージは再び高速移動をし、ビュゥンと残像を分身させた!

イズク「(なるほどぉ…確かに目には追えても、攻撃が当たるかっていうとそうでもねぇ…移動速度と攻撃速度ってのは実際、別物だ。動きが追い付かないと、攻撃は当たらねぇ。そうなると数打ちゃ当たるって話になる…だが__)」

イズク「わかんねぇのか!?その芸当は俺にも出来んだよ!!」

イズクも高速移動をし、残像を分身させた!

イズク「お前も面白い奴だなぁ!根気比べの次は速さ比べか!?」

幾つもの分身が数を増やし散らばる。

残像同士が互いに斬り、蹴り、攻撃し合い、しかし残像は消え、また増えを繰り返す。

衝突すればするほど、その余波が辺りに影響を及ぼし始める。

木は折れ、岩は砕かれ、地面は割れ、いつしか次第に、残像の数は減り、二人の姿が互いに一つだけになっていた!

それは、互いに速さが追い付いてしまったがゆえに、残像など必要なかったからである!

そしてふとした時に、同じタイミングで攻撃を仕掛けていた!

イズク「そらぁそらぁそらぁ!!」

イズクは乱雑に激しく刀を振り回してきた!

ジョージ「村雨篠突(むらさめしのつき)!!」

ジョージは大量の矢が降り注ぐような、激しい突きを繰り出した!!

ガ ギ ガ ガ ガ ッ ! ! ! ___

刀が激しく打ち合い、金属音が絶え間なく鳴り響いた!

イズク「ちぃっ!!」

途中で、イズクは後ろに飛び退けた。

さっきまで人を馬鹿にしたかのような表情をしていたイズクには、苦汁をのんだかのような、苦虫を噛み潰したような顔しか浮かんでいなかった。

イズク「(どうなってやがる……前の時は数の利というのもあったが、こいつはこんなに強くはなかった………だが、二人共傷が癒えてねぇのなら、優勢なのは俺のハズだ!)」

軽く息切れをし、冷や汗を流しながらジョージを睨む。

イズク「(俺がここに来るまでの短期間で、何か強大な力を手にしたか?そんなことは出来っこねぇ…!なのに…)」

しかしジョージは、静かに刀を構えていた。

中段の構え__姿勢を正し、右足を前に出し、刀の先は相手の喉元。

その姿勢のまま、ただ静かに。静かに構えていた。

イズク「(なぜここまで戦えるんだ!?こいつは…!!!)」

ジョージ「まだやるか?」

イズク「ほざけってんだよぉぉ!!___」

 

 

ジョージとイズクが戦う最中、マモルは巨人邪魅(ジャミ)の相手をしていた。

式神(ぬえ)に乗り、巨人邪魅(ジャミ)の周りを駆けていた。

マモル「んん~~……」

彼は錫杖(しゃくじょう)を肩に担ぎながら、頬杖をついて悩んでいた。

マモル「任せろとは言ったけど、どうしようかしらこれぇ?」

見上げるほどの、巨人同等の図体。このデカブツにどう渡り合うか。

それについて彼は悩んでいた。

マモル「まぁ結局……」

マモル「最後に()()()()()()()()()はもう決まっているだよなぁ…!!!」

巨人邪魅(ジャミ)は身体の向きをマモルに向けると、片足を上げ、踏み潰そうとしてきた!

しかし、マモルを乗せた式神(ぬえ)はそれを難なく避けた。

マモル「おっと、独り言してる場合じゃねぇや。とっとと、終わらせようかねぇ。」

そう呟くと、駆ける式神(ぬえ)の四足に電気がバチバチと纏い始めた。

すると式神(ぬえ)は、文字通り空を駆けるように宙に浮かんだ!

次第に、巨人邪魅(ジャミ)の頭に向かうよう高度を上げていく。

無論、順調に迎えるわけではない。それを邪魔するように、いや、もはや排除するかのように、邪魅(ジャミ)はその巨大な手のひらから紫に輝くエネルギー波を、マモルに向けて放出した!

そのエネルギー波を、マモルを乗せた式神(ぬえ)は瞬間的に、高速で移動をして回避する。

再び邪魅(ジャミ)は、もう片方の手からエネルギー波を放出するも、それも、その次にくるエネルギー波も、回避する。

回避する度に、バリバリと電気が鳴り響く。

回避する度に、段階的に高度を上げていく。

そして、その位置がちょうど邪魅(ジャミ)の顔の前まで着いた瞬間、邪魅(ジャミ)の両掌が、双方からマモルに迫った!__

 

__人が拍手する時、両手を打ち合わすとき、パチッと、もし力強く叩いたならばバチッと音が鳴るだろう。

それが人よりも桁違いに大きい巨人の手で行われるとするとしたら?

岩石よりも厚い、分厚いモノが双方からけたたましく迫り来るのだ。

ただ迫り来るだけで終わりではない。衝撃が待っている。

打ち合わすという動作の終着点が。

双方から来る風圧が。拍手というには不釣り合いな。打ち合わすと表現するにはおっかない。

随分と派手な終着点が__

 

邪魅(ジャミ)は両掌を打ち合わせた!

 

バ ゴ ォ ォ ォ ン ! ! !

 

という大きな、大爆発するかのような衝撃音。

まるで建物が内側から破裂したかのような衝撃風。

そして、邪魅(ジャミ)の打ち合わされた、閉ざされた二つ手のひらがゆっくりと開かれる。

自らが叩き潰した内容物を確認するために。

その手のひらの間には__

 

 

 

 

 

 

何もなかった。

 

顔のパーツがない、のっぺらぼうの邪魅(ジャミ)でも、その結果に驚いた動きを見せた。

もし彼が言葉を発せれるのであれば、確実に「何もない!?」と叫んでいただろう。

 

???「おかしいねぇ。なにもないねぇ。」

その声が聞こえると、邪魅(ジャミ)の手首の死角から、見えないところから、マモルが腕を伸ばし這い上がってきていた!

マモル「なにが起こったんだろうねぇ、さっき…ねぇ?」

よいしょっと立ち上がり、スタスタと、手から腕を伝って歩き始める。

マモル「いやいや…無傷ってわけじゃないけどね。ダメージは食らいはしたよ。あれは痛かったねぇ。」

 

というわけでこのアッシ、マモル。

あの時何があったかを軽く説明しちゃいましょう。

ま、結論から言えば、後ろに飛んで避けて、邪魅(ジャミ)の手首にしがみついたってのがオチなんですけどねぇ。

どうやって避けたか、が気になるっしょ?

ほら、(ぬえ)ってのは猿の頭、虎の四肢、狸の胴体、尾の蛇っていうでしょ?

みんな、前のほうが迫力があって後ろのことは忘れがちな訳よ。

なんのことかって?尾。尾です。

あんま意識してないかな?だって(ぬえ)って、顔と胴体がイカツイからねぇ。

尾は()が生えてるっていうけど、()の尻尾じゃないんだよね。

()そのモノが生えちゃってんのアレ。

眼も口もあって、牙もあってシャーって威嚇しちゃってんのよアレ。

つまり、本体から独立した意識があって、別行動が出来るのねー。

だからあの時咄嗟に、【その蛇が自分(アッシ)の体を掴んで後ろに投げた】ってのが、今アッシがこうして生きている理由なのよねぇ。

あとは式神(ぬえ)は潰されて影に戻り、アッシは風圧で飛ばされたけど、すぐに和紙の式神をばら撒いて、バリアの壁を展開する式神結界陣(しきがみけっかいじん)で壁を作って、それに張り付いた。

そこを心太式神結界陣(ところてんしきがみじん)で壁を心太出のように押し出して、なんとか邪魅(ジャミ)の手首にしがみついた。

…というのが、アッシ、マモルがしたことでございます。

ご清聴ありがとうございました。

 

マモル「痛ってぇ。背中イカレるかと思ったよこれぇ。もう背骨に当たってんだから洒落にならないってコレぇ。」

そう呟きながら、片手で背中をさすり、テクテクと邪魅(ジャミ)の腕を伝って歩いて行く。

テクテクと歩くマモルを邪魅(ジャミ)は、腕についた虫を払うかのように、もう片方の手で払おうとした。

しかし、マモルはヒョイと軽く飛んで避けた。

今度は叩き潰そうと、もう片方の手を大きく広げて、思いっきり腕の上に振り下ろした。

マモルは前転して、簡単に避けてしまった。

マモル「アンタってさぁ…デカいから攻撃も防御も何もかも派手だけどさぁ…」

前転態勢から立ち上がり、軽くため息を吐いてから、マモルは無表情で呟いた。

マモル「デカけりゃ良いってもんじゃないのよ。」

そんな台詞を吐いたマモルをよそに、邪魅(ジャミ)はマモルの体を掴もうと手を伸ばしたが、マモルは脚に力を入れて高く飛び、邪魅(ジャミ)の肩に飛び乗った。

またすぐにヒョイっと、邪魅(ジャミ)の頭の上に飛び移った。

マモル「別のデカさだったら大歓迎なんだけどね…さっさと終わらせるかっ…と。」

マモル「思業式神は一度倒されたら、しばらくは元には戻らねぇ。今のアッシには大太法師(デイタラボッチ)(ぬえ)しかいねぇもんだからなぁ…」

右手で懐から、一枚の御札を取り出した。

マモル「ま、もうこれで終わりなんですけどねぇ。」

そして、右手に持った御札を、邪魅(ジャミ)の頭のてっぺんにペチッと押し貼った!

マモル「ほいっと。」

 

マモルは【悪行罰示の封印札】を使った!!!

 

御札が貼られた瞬間、邪魅(ジャミ)の巨大な身体が、段々と淡い光に包まれ始めた。

その変化に邪魅(ジャミ)も驚いた様子を見せた。

自分の手、腕、体の側面を見るような仕草を。

マモル「大丈夫、痛くはしないよ。アンタはただ呼び出されただけだし。なんも悪いことはしてない。」

マモル「た、だ、し………今度はアッシの…いや…」

 

マモル「この世の善行に従ってもらう!!!」

 

そうはさせまい!させてたまるか!!

そんなこと認めん!!!

まさにそう言っているかのように、邪魅(ジャミ)は抵抗するようジタバタし始めた!

とにかく頭上を!頭上にいる、この異常の原因を!!

取り除かなくてはと!!!

マモル「式神結界陣(しきがみけっかいじん)。」

マモルは紙の式神をばら撒き、頭の上にドーム状のバリアを展開した。

こうなるともはや、半透明のアフロ。いや、中身のないスノードーム。

このアフロに手を突っ込もうとしても、ツルッと、半透明の薄い壁で遮られる。

まるで、泡のない髪洗。

それでも邪魅(ジャミ)は負けるものかと、負けじと、何度も何度も、ワチャワチャと両手を動かしていた___

 

 

__一方その頃、マモルとジョージは激しく衝突し続けていた。

何度も何度も、刀を切りつけあい、つばぜり合いを繰り返し、火花を散らし合っていた。

しかし、互いに視界外に起きた異変に気付いた。

ジョージ「む?」

イズク「うん?」

距離を取り、異変を視界に入れる。

それはまさに、先ほど起きた出来事。

マモルの行動により、邪魅(ジャミ)の体が光に包まれつつあった。

その様子を、その光景を、イズクは遠くの地面から、ただ、茫然と眺めていた。

イズク「は……え、は…??」

何が起こっているのか理解出来なかった。

何がどうなっているのか把握できなかった。

邪魅(ジャミ)が光に包まれつつある光景を。

マモルが何をしているのかを。

どうすることもできず、その場で立ち尽くし、ただ眺めるだけだった。

 

次第に光は強くなり、輝きを増し、そして__

__邪魅(ジャミ)は、無数の光の粒となって消えてしまった。

イズク「…え?」

イズク「……おぉ??」

イズク「………はぁぁぁぁぁ???」

イズクはすぐさまその場から駆け、マモルに近寄り、人差し指を突き差す。

イズク「おぉ、てめぇぇ…?何をぉ……何をしでかしやがってんだぁ!?」

ため息を一気に吐いたマモルは立ち上がり、手に持った御札をピラピラと揺らしながら振り向く。

マモル「何…って。封印しただけだが?」

その御札を見たイズクは、青く血相を変えた。うろたえた。

イズク「うぇ、え……な…なんで………なんでそれをお前が使ってんだよぉぉぉ!?」

 

イズク「その【悪行罰示の封印札】は!!!」

イズク「ショウトの一族しか持ちえない札…他のやつが持っていたのは、俺が()()()全部奪った!!つまり、時点で持っているのは俺だけなはず…!」

イズク「なのに、なんでお前が持っているんだぁ!?」

マモル「んなこと言われたって、請負だよ。」

マモル「ショウトからのね。」

マモル「(この【悪行罰示の封印札】は、その、()()()にショウトから貰ったモノだ。使い方含めてな。……それに気付いたのは、その日の後なんだけどね。)」

マモル「(………約束は、ちゃんと守ったぜ。ショウト。)」

 

イズク「ぎぎ………ぎぃぃぃぃ……!!!」

イズクは歯ぎしりをしていた。それも、かなり顎に力を入れて。

それほど、不快感を覚えたのだろう。思い通りにいかないことに。予測不可能な事態なことに。

己の親類が、死してなお自身の邪魔をしてくることに!

イズク「(あの出来損ないからの請負だとぉ…!?崇高な大義を掲げたこの俺様を見限った、出来損ないのクズがッ!図に乗りやがって…ふざけんじゃねぇ……!!)」

イズク「ふざけんなァァァォォォォォ!!!」

刀を持ったイズクは、その坂手持ち、赤黒いオーラを吹き出す左腕を上にし、斬りかかろうとした。

__しかし、異変が起こった。

一歩目を出した瞬間、イズクの体の態勢が崩れたのだ!

イズク「うおっ!?」

そのまま転び倒れそうになるも、膝を付いてなんとか踏ん張った。

………が、そこから先を、イズクは指一本も動かすことができなかった。

イズク「(なんだ…!?力が…上手く制御できねぇ…!?)」

脚に力が入らないというより、力を入れても動いてくれない。

思うように動かないのだ。

ジョージ「やはり…な。」

後ろからそう言葉をかけられた。

イズクが振り返ると、ちょうどそこから見上げる位置にジョージが、刀を下して立っていた。

イズク「な、なにがだ!?何が何だってんだ!」

ジョージ「禍津(マガツ)は五体満足でないと真価を発揮しない。」

イズク「!?」

ジョージ「お主が言ったように、禍津(マガツ)は生命力を消費して、超人的な力を発揮する呪術………体全体に、内側から満遍なく力を行き渡らせているのだ。」

ジョージ「だがその力の配分を均一にするには、五体が揃っている必要がある。五体のどこか一つでも欠ければ、欠けた分の力は行き場を失い、体中を廻りに廻って暴れるからだ。」

ジョージ「肝心の貴様には右腕がない。貴様は知らず知らずのうちに、内側から急激なダメージを負っていたのだ!」

イズク「な…なぜお前がそんな事まで知っているんだよぉ!?」

ジョージ「さぁ…誰が教えてくれたか……知っているだろう?」

そう言われてイズクはハッとした。その脳裏に浮かんだ()()は、先ほど出来損ないのクズと吐き捨てた人物、ショウトただ一人のみだった!

ジョージ「そんなことも、教えられなかったか?知らなかったか?それとも…ただ、覚える気がなかっただけか?ショウトと同じ一族の貴様が!!」

イズク「なんだとォォォ…!?」

ジョージ「やはりお前は…出来損ないだったようだな!!!」

イズク「だァァァまァァァれェェェェェ!!!」

そう叫ぶイズクの前に、ジョージとマモルが立ちはだかった!

イズク「たかが二人揃っただけで、この俺を倒せると思うなぁ!!!」

マモル「違うなぁ、まったく違う。全然違う。」

ジョージ「我々は、二人だけではない…ショウトを含め、我々は!!」

 

「「「三人だ!!!」」」

 

イズク「ほざけぇぇぇぇぇ!!!」

イズクは動けない体を無理に動かそうとした!

しかし、体は動かなかった!

ジョージ「王手。打つ手なしだな。」

ジョージ「(…アイツ(ショウト)なら、そう言うだろうな。)」

マモル「さぁ、お前さん、いっちょやったりなぁ。」

マモル「悔いも残らねぇほど、ひと思いになぁ!!!」

ジョージ「うむ…!!!」

ジョージは禍津(マガツ)を発動させた!

そして両手で刀を持ち、上段に構えた!!

イズク「ま…待て!!!」

ジョージ「待ったなし!!!」

マモル「待ったなし!!!」

その言葉を聞いたイズクは、青ざめた。

イズク「うっ……あぁぁぁ………」

イズク「うぉぉぉぉぉあああああ!!!」

ジョージ「遺雨(やらずあめ)……」

ジョージ「墜儺(ついな)!!!」

そのまま、上段から刀を振り下ろした!__

 

 

 

 

__二人が見下ろす先、そこには、広がる血だまりと倒れこむイズクがいた。

ジョージの持つ刀からは血が滴る。

さっきまで騒々しさを肌身に染みていたが、今となっては静けさしか感じない。

吹く風も寂しく感じる。

マモル「………終わったな。」

ジョージ「………あぁ。」

終わった。終わったのだ。

二人の因縁が、悔恨が、無念が。

長きにわたり続いた争いが、やっと__

 

 

イズク「__まだ……まだだぁ………!!!」

なんと、イズクはまだ死んでいなかった!

血反吐を出しながらも、体を起こしたのだ!!

イズク「ここで……俺は………死ぬわけには…ぁ……!!!」

マモル「無駄だよ。アンタぁここで死ぬんだよ。」

イズクの胸に付けられた斬り傷からは血が流れる。

そして口からも血が流れる。

とても、助かるとは思えない出血量だ。

なのにイズクは、それでも生きまいともがいていた。

イズク「この俺も……覚悟はいるが……背に腹は代えられねぇ…!!!」

その言葉を発した時、ジョージとマモルは言葉では表せないような異様な、嫌な予感に襲われた!

二人は咄嗟に、距離を離し、武器を構えた!

ジョージ「……? なんの話だ!?」

イズク「もう、人間に……戻れはしねぇ………だが、そんなのはもう小さい話だ……!」

イズクは懐から手鏡、反魂鏡を、震える左手で取り出すと、それを地面に思いきり叩きつけ、鏡を割った!

無数の鏡の破片が地面に散らばる。それをイズクは片手でかき集める。

すると、かき集めた鏡の破片を、イズクは砂利ごと飲み込んだ!!

まさに狂気。まさに異常。

口の中が真っ赤になるにも関わらず、喉から血があふれ出るにも関わらず、イズクは鏡の破片を口の中に放り込むのに、ためらいはなかった。

破片を飲み込むのが終わった。

イズクの口から出る血は止まらない。

なのにイズクは、笑みを浮かべた。

そして笑みを浮かべながらこう叫んだ。

イズク「これから不死身になる俺にとってはなぁ!!!」

狂気的な笑みを。異端的な笑みを。

今の状況に不釣り合いな笑みを。

笑いが止まらなないようだ。

異様、異質。ジョージ達が感じたのか、本能からくる恐怖であった。

そしてイズクは、左手を上に掲げ、天を仰ぐと、呪術を唱えた!

 

イズク「【地返反魂の秘術】!!!」

 

それが、地獄の始まりだったか。空は一層暗くなった。

イズクを中心に辺り一面は、落雷でも降り注いだかのような閃光に包まれた!

その光の中で、二人は確かに見た!

異様な光景を!常識では捉えられない一部始終を!

 

まず、イズクの全身の肌が、青黒く変色した。すると次に、イズクの体が再生したのだ。

さっきまであった胸の斬り傷、それが、内側から盛り上がるように塞がった。

それと同時に、イズクの潰れた右目も再生し、眼球が見えた。

しかしその眼球は、左目と比べ物にならないほど大きく、いびつに変形している。

今度は、上半身に異変が起こった。

段々と膨張すると衣服が耐え切れずに破れた。

ないはずのイズクの右腕が、生えてくるようにズルリと出てきた。

そして、身体に釣り合わないほど大きく変形した。

その右手の手の甲には、一枚の鏡が浮き出るように姿を見せていた。

それを見て、ジョージとマモルは確信した。

こいつは、反魂鏡を体内に取り込んだと。

ジョージ「血迷ったか!?イズク!!」

イズク「血迷ったぁ?ますます馬鹿だなてめぇは!」

化け物のような笑い声を上げると、イズクは自分の体を舐めるように観察した。

イズク「天命さぁ……この力は……あぁ、素晴らしい………」

イズク「ただのつまんねぇ人間なんて比べ物になんねぇほどの力を感じる…!!」

肥大化した右手を握ったり開いたり、力こぶを作ったりして、変わった自分の身体に酔いしれた。

イズク「こんなすげぇ力を手に出来るんだったら、もっと早くやるべきだった……今ならてめぇらのような雑魚なんざ……」

イズク「一捻り出来そうだぁ…!!!」

イズクは右腕を握りしめた!手の甲の鏡が輝き、右腕に赤黒いオーラが纏わり始めた!

イズク「食らいなぁ!!鬼哭殴撃(きこくおうげき)!!!」

大きく肥大化した右腕が振り下ろされた!

マモル「式神結界陣(しきがみけっかいじん)!」

マモルは咄嗟に、紙の式神をばら撒き、バリアを展開した!…が。

すぐに割れた。いともたやすく破られてしまった。

ジョージ「(なんだと…!?鉄壁を誇るマモルの式神結界陣(しきがみけっかいじん)が、足止めにならないとは___)」

 

ジョージ、マモル。

二人に再び駆け走った感覚は…無力。

またしても無力。またしても非力。

そう、語るかのように、二人の力無き体が、その場に転がっていた。

もはや、人間を超えた力を得たイズクの攻撃をまともに食らい、立てるほどの体力も残されていなかった。

そのイズクの強力な攻撃の余波は、周囲に影響を与えた。

衝撃、爆風。辺りの地形を変えるほどに。

 

__その衝撃に気付いたルカ達が、ちょうど駆け付けた。

これが、ジョージとマモル、ルカ達が戦っている間に起きた、もう一つの出来事だった。

 

 

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