もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第58話 切り札はまだある

岩石の瓦礫の中で力なく倒れ込むジョージとマモルに、地面が揺れるかのような足踏みで、

とどめを刺さんとイズクが歩み寄ろうとする。

イズク「所詮、出来損ないというのはぁ……お前らのほうだったってわけよぉ!」

イズク「才能だろうが努力だろうが何だろうが、圧倒的な力の前では無力に等しい!!どうだよぉ!なんとか言ってみろよぉ!!なぁ!?」

イズク「魂とやらでこの俺…いや、()の大義を破るとかぬかしやがってさぁ!!!」

一歩ずつ、一歩ずつ、その巨体は確実に近づいてくる。

ジョージとマモルには、もはや立ち上がる体力すら残されていないようだ。

指一本も動かない。

イズク「お前らだけは、傷みつけてやる。この我に歯向かった罰だ!!!__」

 

ルカ「__待て!!!」

 

そうはさせまいと、僕は崖の上から叫んだ。

イズクはその声が聞こえたようだ。どこだどこだと周りを見渡している。

その隙に、僕は斜面になっている場所を探して、滑り落ちるように崖を下った。

仲間たちもそれに続いた。

やっとイズクは、僕たちを視認できたらしい。

そのギョロりと大きく見開いた右目で僕たちを睨む。

そして、まるで邪魔な虫でもいるかのような目で、苛立ち始めた。

イズク「こんどはコンドハ今度は何なんだよ次から次へとぉ!!!」

 

僕たちは、ジョージとマモルをかばうように、前へ躍り出た!

チリ「ルカ!私は……」

チリの視線の先にはジョージとマモル、それだけで、何がしたいかはすぐに分かった。

ルカ「あぁ!二人を頼んだ!」

ラクト「んじゃ、俺はもう魔力もねぇから、しっかり裏方やるとするか!」

それに続いてラクトも行った。

彼はすでに魔力が残っていない。前線に出ても何もできない。裏方のほうが良いだろう。

二人は瓦礫をどかし、救助活動始めた。

後は彼らに任せて、僕を含めたカムロウとパヲラで…

目の前のこいつ(イズク)を!!!

正直、こいつだけはジョージたちに任せたかったが……多分この状況、そんなことを優先するような場合じゃない!

イズク「あぁ…思い出した……さっきのお前らか…」

僕たちをジロジロと見ながら、ニヤニヤと笑う。

小馬鹿にしたように。

イズク「アイツら(ジョージたち)も馬鹿だよなぁ!こんなガキ共に助けを乞うなんてなぁ…!」

それもそうだろう。彼からしてみれば、僕たちは子供だ。強そうな戦士でもない。

……ただ、彼にとってパヲラの存在は判断しづらかったようだ。

イズク「……お前はどう判別すればいいんだ?」

パヲラ「乙女で。」

カムロウ「(乙女!?)」

ルカ「(どこがだよっ!)」

 

イズク「おいガキィ!痛ぇ目を見たくねぇならそこをどくんだなぁ!!」

カムロウ「そういうわけにはいかない!」

そう言うと、イズクは呆れた表情をした。

イズク「まったく、これだからガキは…ただの人間だから、自分がどうなるのかわかりゃしねぇのな。一度痛い目見ねぇと分からねぇのかぁ!?ええ!?」

イズク「雑魚のガキが出しゃばるんじゃねぇよ!この俺様の前になぁ!!!」

ルカ「__だったら僕は、ここにいるべき資格がある!」

イズク「んん?ほほぅ?何だってんだ?」

決まってる。僕は__

 

ルカ「__僕は勇者だ!」

 

イズク「ユ・ウ・シャ・だぁ!?」

プッと笑いを吹き出し、思う存分笑い転げた。

イズク「こんなガキが勇者だってぇ!?笑わせてくれんなぁ!」

そう笑い続けたイズクだが、不意にピタっと笑いを止めた。

イズク「いや待てよ…?あの亡者共を蹴散らしたってわけならぁ……」

イズク「少しは楽しめそうだなぁ…!」

そうだ。僕たちは、生前強者だった人達を倒してきたんだ。それなりの実力がある。

それを理解したイズクは、馬鹿にするのを止め、戦闘態勢に移った!

イズク「光栄に思うんだなぁ!この我と戦えることをなぁ!!!」

イズク「そして!自分の無力さを噛みしめて死ねぇ!!!」

ルカ「倒されるのはそっちのほうだ!行くぞ二人とも!」

「「あぁ!」」

 

 

骸王(むくろのおう)・イズクが現れた!!!

 

倒されるのはそっちのほうだ!とは宣言したものの…僕たちのほうが倒れそうだ。

さっきの戦闘で、死力を尽くしたしまったから万全な態勢じゃない。

いくら僕が瞑想で傷を回復できても、体力には限りがあるみたいに。

それはカムロウやパヲラだってそうだ。

だけど、やるしかない!

戦わなきゃいけないんだ!

イズク「さて…まずは小手調べといこうかぁ?」

イズクは巨大な右腕を振るって、ルカたちに叩きつけてきた!

ルカ「みんな避けろ!」

ルカの号令で、ルカ達は攻撃を避けた!

こういう図体が大きい奴ってのは、一回一回の動作が遅いのが鉄則なんだ。

だから、こんな重い一撃を込めた攻撃をしたら、すぐには動けないはず。

そこがチャンスだ!

ルカ「うおおおおおお!!!」

カムロウ「せいやあああああ!!!」

ルカとカムロウは、剣を構え、巨大な右腕に目掛けて剣を振り下ろした!

今、僕が持っている剣…堕剣エンジェルハイロウは対象を封印できる剣だ。魔物や人に斬ったとしても出血することはない。

カムロウは正真正銘の真剣を持っている。無論、斬りつけば斬り傷ができる。

だから、今の同時攻撃であれば、カムロウの攻撃が深い傷を負わせることができたはずだ。

なのに……

イズク「ほう……やはりぃ、そうかぁ。少しはやるようだなぁ?アイツら(ジョージたち)が助けを求めるだけある……」

その攻撃を食らったはずのイズクは、少しも痛がる様子を見せない。

むしろこの状況を楽しんでいるようにも見える。

ルカ「え…!?効かないのか!?僕たちの攻撃が……」

カムロウ「そんなはずはないよ、ルカ!明らかに傷が付いたじゃないか!」

確かに傷は付いた…でもおかしい。血が流れないのはなぜだ?

イズク「傷がなんだってぇ?」

すると、イズクの傷がみるみる塞がり始めた!

ルカ「き…傷が…!?」

パヲラ「あぁ、そうなのねぃ。」

納得したかのようにパヲラは頷いた。

パヲラ「あなた…もう人間じゃないのねぃ?」

ルカ「なんだって…!?ということは、僕たちがさっき戦った狂戦士のような亡者たちと同じってことなのか!?」

イズク「その通りぃ!我はもはや、人間を超えた存在だぁ!!!」

イズク「本来なら、この力を我自身に使いたくはなかったがな…!この秘術を結界に用いれば、誰もが皆、死ぬことのない理想郷が出来た…!!」

イズク「だが、この不死身の身体を手に入れたことでようやく理解した…!!!対して役に立たないクズ共にそんなたいそうなことをする必要ないとな!!!」

イズク「我の宿願は達成した!!!不老不死は、我一人で十分だぁ!!!あとはこの世界を支配するのみぃ!!!」

ルカ「無実の善良な人間を殺しておいて、何が不老不死だ!何が世界を支配だ!」

ルカ「そんなことさせない!させるもんか!」

カムロウ「あぁ!お前のやっていることは、許せない!!」

僕たちがそう反論すると、イズクは苛立ちはじめ、舌打ちをした。

イズク「チッ……あぁ……反吐がでる…!!!どうしてお前らのような馬鹿な人間がいるのか…理解に苦しむ…!!!」

イズク「ちっぽけな虫ケラ共がはびこってんじゃあねぇよぉ!!目障りだぁぁぁ!!!」

イズクは巨大な右腕を激しく振り回した!!

パヲラ「二人とも危ない!!!」

パヲラは、ルカとカムロウをかばうように、二人の前に立った!

イズクの暴れる豪腕の攻撃を何度も食らい、パヲラは吹き飛ばされ、地面に転がる。

パヲラ「うおおおおああああ!!!」

ルカ「おい、パヲラ…!?」

なんて無茶を…!?

あんなでたらめな攻撃をまとも食らってしまっては…!

カムロウ「よくも…パヲラさんを…!!」

カムロウは剣に風を纏わせ、風薙ぎ(かぜなぎ)を放った!

その風の衝撃波は、イズクの身体に直撃したが、まったく効いていない様子だ。

イズク「なんだぁ?この風はぁ?生温いわぁ!!!」

イズクは右腕を掲げ、手の甲の鏡を光らせた!

すると鏡から、凍てつく氷風が放たれた!!

カムロウは、凍てつく氷風にさらされた!

カムロウ「こ、この氷風は…!?」

その氷風は、多少、形こそ異なるが…氷の魔導士ユキオイ・エティの放つ氷魔法と似たようなモノだ!

ルカ「どういうことなんだ!?なんでお前がその魔法を…!?」

イズク「お前らならジョージ共から聞いているはずだぁ…この鏡は冥界へと繋がっている!今の我ならば、もはや死者となった強者の技も我自身のモノ!!」

イズク「現世に出したところで倒されるような強者なんぞ、雑魚同然!この我の力となれば良いだけだ!!!」

再びイズクは右腕を掲げる、今度は手の甲の鏡から、火炎が噴き出す!

イズク「黒焦げになるといい!!!」

イズクは燃え盛る火炎をまき散らした!

その燃え盛る火炎に、ルカとカムロウは巻き込まれた!

「「うわおおおあああ!!!」」」

巻き込まれたカムロウは燃えながら吹き飛び、地面に転がった。

ルカ「ま…まだだ……!!」

ルカは立ち上がった。しかし、かなりのダメージを負ったようだ。

立っているだけでもやっとの状態だった。

イズク「けっ……どうしてお前のような正義だの何だの語る奴は、そこまでしぶといんだぁ!!!」

イズクは右手の甲の鏡から、爆発するかのような衝撃波を放った!

ルカ「うわああああああ!!!」

ルカは吹っ飛び、崖の壁に激突する。

そこから地面に真っ逆さまに落ち、力なく倒れ込んだ。

 

もはや、この戦場に立つ者は一人しかいなくなった。

それを理解したイズクは、大きく高笑いし始めた。

イズク「素晴らしい…あぁ、素晴らしい…!!なんとも素晴らしい力だ!!!」

イズク「かつて弱者だったこの我が、今は強者となり、弱者をいたぶる側になっている…!くっくっく……やはり大義こそ力!!大義こそ正義!!!」

右腕を空高く掲げ、勝者は我と言わんばかりの勝どきをあげた。

イズク「さて、あとはどうしてくれようかぁ…!!!」

そしてイズクは、倒れているルカ達に目をやる。

ルカも、カムロウも、パヲラも、立ち上がる気配すらない。

それらをしばらく眺めながら、悪巧みをするかのような笑みを浮かべる。

イズク「あのガキも勇者の端くれらしいなぁ……先に死ぬ仲間の姿でも見せて、絶望に落とすのも一興…!」

イズク「だが……そうだな………」

イズク「やはり、うざったるいほうから片すかぁ!!!」

イズクはその巨体を揺らし、ルカを目標にした!

イズク「あの勇者のガキ…正義ごっこかは知らんが、言うことが気に食わん!うるさいハエは叩くに限る!!!」

ゆっくりであるが、一歩ずつ歩みを始めた!

 

遠くでジョージ達を救助していたラクトとチリは、岩陰に隠れていた。

岩陰に隠れながら、チリはジョージとマモルを、回復魔法で治癒していた。

チリ「そんな…みんな…!?」

ラクト「や…やべぇんじゃねぇか!?このままだと…!」

岩陰の裏で、今の状況が悲惨であることを理解していた。

そのため二人は、焦燥に駆られていた。

立ち向かおうにも、戦力的には不利すぎる。無謀だ。

チリ「どうする!?なにか…どうにかできないの!?」

ラクト「俺に聞いてどうすんだよ!?魔力もない今の俺じゃあ、なんもできやしねぇって__」

 

 

ジョージ「__すまぬ……」

不意に、ジョージがそう呟いた。

二人が視線を移すと、横たわりながらも、ジョージとマモルが男泣きをしていた。

マモル「アッシらがもっと強ければ……」

ラクト「な、なに言ってんだぜ!?お前ら…なんでそんなにしょげてんだ!?お前らは十分強いし、十分戦ったじゃあねぇか!!!」

マモル「……それでも………勝てなかった…!!!」

ジョージ「拙者らが不甲斐ないせいで……とても…顔向けできん…!!!」

 

「「面目ない……!!!」

 

ラクト「(……これは…ダメだ。)」

この二人はもう、体も心も精神もズタボロだ。

敵であるイズクに、二回も負けちまったんだ。

それに、化け物じみた強さの差ってやつも見せられた。この二人の強さってのは粗方わかってる。それでも負けたんだ。

それを十分理解してんのは、この二人じゃねぇか…!!!

 

…今、治癒が終わっても、二人は戦えない。

とても戦える精神状態じゃない。

……だったらどうする?

何が出来る?今この場で……

あのバケモンに反抗できる術ってのはあるのか!?

なんでもいい!逃げる以外での選択肢があるってんなら!

俺は迷わず選ぶ!!!

何か……何か……!!!

 

 

__あった。

戦えるわけでもないが、勝てるわけでもないが。

たった一つだけの……俺の得意な()()()()が。

…正直、無謀だの意味が無いだのって罵られそうだけど……

ここでやらねぇと……俺はルカ達の仲間でいられない気がした!!!

 

ラクト「…悪ぃ、チリ。ちょっと離れる。」

チリ「え!?ちょっ……」

ラクトはスクッと立ち上がり、岩陰から猛ダッシュで飛び出した!

逃げるわけじゃない、立ち向かうんだ!

たとえ、勝てなくても__

 

ラクト「__ちょっと待ったぁぁぁ!!!」

ルカをかばうように、ルカへの行く手を遮るように、ラクトは、イズクの前に立った!

イズク「あぁ?なんだてめぇは…?」

人の身体とは比べ物にならないほど、何倍にも膨れ上がった巨体。

立つだけで、脚がガクブル震えた。

それでも……!!!

ラクト「こ、ここから先は、問屋が卸さないってわけよぉ…!!!」

ラクトは腕を広げ、仁王立ちをした!

 

…時間稼ぎ。簡単に言えばそうだ。

無駄な悪あがきだろうがなんだろうが、何とでも言え。

まだ負けたわけじゃない。この戦いはまだ続いてるんだ。

だから、まだ残ってるんだ。

俺たちの…切り札(ルカ)が!!!

 

仁王立ちするラクトを見て、イズクは鼻で嘲笑った。

イズク「へっ……邪魔だぁ!」

イズクは巨大な右腕でなぎ払った!

…ラクトは攻撃をガッツで耐えた!

腹部になんとも強烈な、重い一撃が叩き込まれた。

膝を付けそうになったが、なんとか踏みとどまった。

ラクト「へへ…問屋が卸さないっつったろ…?ちゃんと問い合わせしたらどうだよ?」

イズク「………はぁ?どけってんだよ!」

イズクは巨腕を振るい、ラクトをぶん殴った!

……ラクトは攻撃をガッツで耐えた!!

耐えたは良いが、あまりの衝撃に、体ごと吹っ飛んだ。

それでも、すぐに立ち上がり、イズクの身体にしがみ付いた。

ラクト「うおおおおおお…!」

イズク「何なんだよ…お前はぁ!!」

イズクはラクトの頭を掴み、体ごとぶん回し、地面に思いきり叩きつけた!

………ラクトは攻撃をガッツで耐えた!!!

ラクト「ま…待てコラ……!」

あまりの痛さに、もはや立ってはいられなかった。

それでもラクトは、這いつくばってでも、イズクの脚を掴んだ。

イズク「しつこいクズがぁ!!!」

イズクは脚で、しがみつくラクトを払いのけた。

…ラクトはそのまま、倒れたままになってしまった。

ラクト「く…っそ……ぉぉ……」

イズク「ふん、所詮は弱い人間…クズはクズらしく、そこでくたばってろ。」

 

倒れたままのラクトを放置し、イズクはルカの元に、一歩ずつ、確実に向かい始める。

イズク「偉人は、歴史に名を残せない。後世に伝えられる人間も、ほんの一握りだ…なぜか分かるか?すぐに死んじまうからさ…だが、我は違う!」

イズク「不死身の身体を手に入れた!死ぬことはねぇ!不老不死そのものってわけよぉ!」

イズク「この世界…魔物と比べれば、人間が弱い世界だろう!?だからこの我が、全て支配する!この力でなぁ!!」

いびつな両腕を大きく広げる。喝采を寄こせと言わんばかりに。

イズク「崇めよ!讃えよ!!この新たなる王の我を!!!」

イズク「喜んで死ぬといい…お前らクズ共は、最初の礎になるんだからなぁ…!」

まるで、暴君の笑い声。そんな声を上げながら、イズクは歩みを進めた__

 

 

 

 

__だが!その暴君の演説に!!一人、反旗を掲げる者がいた!!!

 

 

 

ラクト「ちっともお前のことを、羨ましいとは思わねぇなぁ……!」

大怪我を負ったラクトは、うつ伏せの状態から立つことさえできはしなかったが、その身体と精神には、意地でも立ってやるという意思はあった!

ラクト「【人間が弱い】……俺はそうは思わねぇ……!」

ラクト「人間ってのはよぉ……誰かを助けることも、誰かと助け合うことだって出来んだよ…団結ってのが出来んだよ…!」

ラクト「【団結しなくちゃ生きていけないほど弱い】とも見て取れるが……団結するには、先導する先駆者が必要だ…!」

 

ラクト「最初の!勇気の一歩を踏み出すことが!!出来るんだよ人間は!!!」

 

ラクト「勇気を出せる人間を…それを【弱い】って、一意に決めつけんのは…どっか違う気がすんだよなぁ…!!」

ラクト「……それに俺たちにはまだな…()()()があるんだよ………」

ラクト「まだ…()()がいる……それにカムロウだって…パヲラの馬鹿も……あぁそうだ…相棒(カムロウ)父親(ハーレー)もいるな…来てくれるかわかんねぇけど……」

 

ラクト「まだ俺たちは負けてねぇんだぞ…!!!」

 

倒れながらもラクトの目には、まだ希望の輝きを放っていた!

しかし、その眼差しも、イズクの前では無駄だったようだ。

イズク「へっ。所詮は悪あがき。余計な時間を費やした。」

振り向いてラクトの話を聞いていたイズクだったが、無用と判断すると、すぐにルカへの歩みを再開した__

 

 

 

__数歩ほど歩いた時、またもう一人、反旗を掲げる者が現れたようだ。

 

 

 

パヲラ「さて…本当に無駄な時間だと思うか?」

少し離れた場所で、仰向けに倒れていたパヲラが口を開いた。

パヲラ「少しは見習ったらどうだ……あの男を…!」

仰向けからなんとか立ち上がったパヲラ。しかし、先ほど食らった攻撃が重かったようだ。手に膝を付け、なんとか立っていられるような状態だった。

イズク「なんだ、お前は……くたばってなかったのか………」

ちょっとだけ驚くイズク。

パヲラはそれを見て、ニヤリと笑った。

驚くのはこれからだぞ、と。

パヲラ「お前が今…!弱い人間と吐き捨てたそいつ(ラクト)はな……!!」

パヲラ「勇者とその仲間を助けるために!魔王軍四天王最強と謳われるグランべリアをぶん殴った人間だ!!!」

イズク「は!?うぇ……え…!?あ、あのグランベリアを!?」

その言葉にイズクは、思わず我を忘れ、うろたえ始めた。

とても想像しがたいだろう。とても信じられないだろう。

小さいネズミがゾウに挑むような話だ。

天地がひっくり返っても出来るはずがない。

だが、確かに見た。彼らは見た!私たちは見た!

(ラクト)がグランベリアの顔面に一発、拳をブチ当てた所を!この目で!

無論、効きはしなかったが、確かに殴った。これは事実である。

 

イズクは少し取り乱しながらも、すぐに平静を装い、反論した。

イズク「虚事だな!?デタラメ言うんじゃねぇ!!!」

パヲラ「それはどうかな!?イリアスベルクに行ってみろ!目撃者もいる!何人かは言うだろうな!」

イズク「なんだとぉ!?」

言い返すことも出来ず、イズクはラクトを睨む。

ラクト「へ…へへっ……」

ざまぁみろ、と言う気力もないので、ラクトはニヤリとしながらピースサインをした。

それを見たイズクは、激しく歯ぎしりをしながらパヲラの方を向いた。

イズク「だ…だからなんだ!殴ったからなんだっていうんだぁ!!」

イズク「()()()なら!たとえあのグランベリアであっても、何発でも殴れる!!」

そう聞いたパヲラは呆れるように両手を上げた。

パヲラ「はぁ…分からないのか。なら、ハッキリ言おう。」

 

パヲラ「__貴様はもう負けてるのだ。」

 

イズク「ま…負け…てるだと…!?」

その言葉の真意、何を意味するのか。イズクはすぐには理解できなかった。

イズク「何にだ!?現に我は、お前らに勝利して__」

 

パヲラ「__()()()()なら出来るんだろう?グランベリアを殴れることが。じゃあ、()()()()()はどうなんだ?」

 

イズク「!!!」

イズクは、痛いところを刺されたかのような顔をした。

パヲラ「さぁ、どうなのだ?…まぁすでに、答えは出てるような話だが。」

イズク「く…くぅぅぅぅ…!!!」

反論できないイズクは、もどかしそうに体を震わせ、再び歯ぎしりを始めた。

それに追い打ちをかけるように、パヲラは叫んだ。

パヲラ「そうだ!!()()()()()も、()()()()()()()()も、()()()()()()()!!!」

パヲラ「貴様は小物だ!!!命を懸けようともしない小物だ!!!そんなやつほど、だいそれたことをほざく!!!」

 

パヲラ「目前の勝利のために、全てを壊す強者!」

パヲラ「自らの誇りを守るために、命を懸けて一矢報いる弱者!」

パヲラ「明確だろう…!?どちらが偉人かなんて…どちらが偉大か!!!」

 

パヲラ「結局、お前の【大義】というのは、愚か者ゆえの虚栄心…出来損ないの見栄っ張りだったというわけだ!!!」

 

イズクは我慢の限界だったようだ。

わなわなと体を揺らし、ぎりぎりと歯にひびが入るような歯ぎしりをした。思わず口から涎を垂れてしまうほどに。

左目よりも大きく異形化した右目でパヲラを睨む。その怒りに満ちた右目には、傷だらけのパヲラが映った。

その場からイズクは、パヲラに向かって突撃し始めた。

大きく、肥大化した右手を振りかぶり、それを思いきりパヲラに叩きつけた!

それだけで飽き足らず、何度も何度も叩きつけた!

イズク「ほォォざァァけエエエエエエエエエエ!!!」

その重い怒りまかせの攻撃をパヲラは食らった。

何度も、何回も。衝撃で地面に凹凸ができるほど。

今のパヲラには防御をする体力も、反撃をする気力すらも残っていなかった。

ラクト「パヲラァァァー!!!」

イズクの怒りが少しだけ収まり攻撃を止めた時、地面のクレーターにはボロボロで、血まみれのパヲラが、指一本も動かすことなく静かに横たわっていた。

ラクト「パヲラの…パヲラのバッカ野郎ォ!こんな……こんな俺をかばうために…無茶しやがってェ…!!!」

行き場のない悔しさを、ラクトは地面に向けた。

ドンと地面に、腕を叩きつけた。

 

イズク「何だこの気分は……胸糞悪い……!!!」

イズクはまだ、虫の居所が悪かったようだ。

揺るぎない自身を持っていた彼だったが、そんな彼にとって、ラクトの存在がとても気に食わないようだ。

イズク「こ…この俺がぁ……不死身の身体を手に入れた最強の俺がぁ…………」

イズク「劣る…劣っている…!?あんな弱っちい人間にぃ…!?」

自分の両手を見下ろし、そしてラクトと比較するように目を動かす。

イズク「認めん…!認めねぇ!!断じて認めねぇ!!!」

イズク「俺は…我は…強者になったはずぅ…!!!我以外に…我以上に強い存在など、存在してはならない……!!!」

イズク「ならば…今、この場で消せば良いだけの話…!!!」

パヲラの次は、ラクトに目標を向けた。

ルカに向かうよりも速足で、ラクトに向かって巨体を揺らしながら行進し始めた。

それを見てラクトは戦慄した。

なぜなら、立ち上がる体力もないラクトに、その場から離れるという行動すら残されていなかったからである。

 

ラクト「おいおい…おいおいおい……怒りの矛先がルカじゃなくなったってのは良しなんだけどよぉ……」

ラクト「このままだと先に俺の方がくたばっちまうんじゃあぁねぇのかぁぁぁ!?」

こんなことなら、金を魔導銃の材料費でケチるんじゃなくて…もっと薬草とかそういう道具を買い込むんだった…!!!

いや…待て?()()だ。まだ俺には首の皮一枚残っている!

まだ()()()がいる!

__カムロウだ。

こんな時こそ、アイツの出番ってわけだ。

今までそうだった。こういうピンチの時こそ、アイツは立ち上がってくれるんだ。

さて、あの寝坊助はどこにいるんだ?

さぞかし今頃、必死に立とうとして頑張っているんだろうなぁ?

カムロウの姿が見えたら、「待ってました」って言ってやるぜ!

 

ラクトは期待と希望の眼差しで回りを見渡した。

岩陰から飛び出る前に場所は視認していたので、すぐにお目当ての相手はすぐに見つけることは出来た。

……しかし、希望で輝くラクトの瞳は、すぐに絶望の闇で暗転した。

 

__カムロウは倒れたままだった。

 

カムロウはうつ伏せに倒れたままだった。

来ていた衣服は焼け焦げ、近くに大剣が落ちたまま。

ラクト「嘘だ…嘘だよなぁ…?なぁ、カムロウ!」

ラクトはカムロウに呼び掛けた。

…しかし返事は来なかった。

ラクト「おい、カムロウ……お前まさか、死んだわけじゃあねぇよな……?」

まだ安否は分からない。もしかしたら気絶しているだけ。

ラクトの脳裏には、そんなことが思い浮かんでいた。

ラクト「頼むよ!返事してくれよ!お前がそんなんでやられるようなタマじゃねぇてのはわかってんだよ!」

しかしその期待すらも、何度も呼び掛ける度に、段々と打ち破られる。

ラクト「なぁ…ふざけないでくれよ…寝たフリなんだろ…?」

次第にラクトの瞳には、涙が込みあがってきていた。

焦燥。死の瀬戸際。相棒(カムロウ)の安否。

それらが、ラクトをパニックの寸前まで追いつめていたのである。

ラクト「悪かったよ…いつもからかったりしてごめんな…?だから…起きてくれよ…立ってくれよ…立ち上がってくれよ…頼むよ!!!」

__最後の力を振り絞り、ラクトは、叫べるだけ叫んだ。

ラクト「寝てるだけだってんなら、さっさと起きてくれよ!相棒ぉぉぉ!!!___」

 

 

 

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