もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第59話 力とは、正義とは、大義とは、

カムロウ「___………ん?」

あぁ、身体が痛む。頭が重い。

僕は何をしていたんだっけ……

あぁ…あぁ…!

徐々に意識がはっきりしてきたぞ!

そうだ。僕はイズクの攻撃で、炎の攻撃にやられたんだった。

こんなところで意識を失ってる場合じゃないぞ!

まだ戦える体力はある!早く立って戦わないと!__

 

カムロウ「__………あれ!?」

立とうとして視線を上げると…

僕は、辺り一面、黒一色の空間にいた。

カムロウ「はぁ!?どこだここ!?」

予想外の出来事に思わず立ち上がり、茫然とする。

……まず、周囲の情報の確保だろう。

地面…かどうかは分からないが、立てるということは重力の概念がある。

手で周囲を探るよう振り回す。壁はない。閉じ込められてはいない。

温度…は感じない。

適温?湿度や匂いもない感じない。

つまり、さっき僕がいた場所じゃないってことは確かだ。

それだけは理解できた。

………じゃあ、どこなんだよここ!!

 

__まぁまぁ、落ち着きなよ。

カムロウ「!? 誰なんだ!?」

知らない声だ。声からして男性、それもかなり年を取ってるようにも思える。中年か、高齢あたりか?

しかし、辺りを見渡しても、姿、形もない。

__敵じゃないことは確かだよ。むしろ、味方だよ。

カムロウ「味方…?」

確かにそう言われると、敵意らしい敵意を感じない。

周りは真っ黒、生き物らしい生き物もいない。情報が少なすぎる。

なので、今のところは信用しても良いかもしれない。

カムロウ「誰なんですか、あなたは…」

__私ぃ?そうだなぁ…誰だろね。

なんだそりゃ。当たり障りのない返答しやがって。

カムロウ「それで…僕に何か用があるんですか?僕、急いでるんで。」

急いでいることは確かだ。

ここがどこなのかは分からないが、どこかでルカ達がまだ戦っているに違いない。

さっさと移動しないと……

__まぁ待ちなよ。話くらい聞いていきなよ。

カムロウ「話?ですから…急いでるって。__」

 

__今の君のままじゃ、負けるだけだよ?

カムロウ「負ける…!?どういうことですか!!」

__んじゃあ話、聞いてく?

カムロウ「……………」

どうやら、本当に僕に用があるらしい。

僕は先に行こうという素振りを見せてたが、大人しく話をすることにした。

カムロウ「それで…今の僕じゃ負けるって、どういうことなんですか。」

__ふむ………まぁ、立ってるのもアレだし、足崩したら?

カムロウ「………」

しぶしぶ、座りこみ、あぐらをかく。

__よし。さてさて、話そうか。

カムロウ「でも、話すって一体何を……」

__いきなり極端な話だが…君、全力を出してないだろ?

カムロウ「うぇ!?」

__いや、出せてない…が正解かな?

全力を…出せてない!?

カムロウ「そんなはずないです!僕はいつも、本気で……」

__いやいや…違うんだ。そうじゃなくてな。

 

__君にはまだ()()がある。その迷いのせいで、全力を出せていないんだ。

カムロウ「迷い…?」

__君自身も恐れているんだ。君の内に宿るその力に。

__他者を傷つけてしまわないか、壊してしまわないかと。

__それが知らず知らずのうちに、全力を出せないようになってしまった。

 

__その結果が、今の君だ。

 

カムロウ「…………」

なんというか、腑に落ちた。

言われてみればそうだ。実のところ、僕自身も怖い。

古龍族の力、龍の力、ドラゴンの力。

結果論として無事だったとはいえ、ルカ達を巻き込んでしまったこともある。

未熟さゆえに暴走仕掛けたこともある。

…実はさっきの戦い、最初から龍に変身するという手もあった。

けど、もし暴走したら、もしルカ達までまた巻き込んでしまったら。

それを想像すると、怖くて使えなかった。

カムロウ「……どうすれば良いんですか。」

__ん?

カムロウ「どうやって、その()()を無くせるんですか!?」

カムロウ「知っているのであれば、教えてください!それで強くなれるなら…みんなを守れるのなら!」

カムロウ「僕は今すぐにでも強くなりたい!!!」

 

__ふっふっふ……いい返事だ。良いだろう。

__その()()を無くすのは実に簡単だ。すぐに終わる。

 

__じゃ、カムロウ。【力】を扱うのに必要な【力】とは?

 

カムロウ「へっ…!?え、えぇ?」

__さて、な~んだ?

力を扱うのに…必要な力…!?

いや、それよりも…

なぞかけ!?

カムロウ「えっ!?この場所で修業とかそんなのじゃなくて!?」

__君、急いでるんじゃなかったっけ?

カムロウ「いや、そうですけど……」

まいったなぁ。頭使うのは苦手なんだよ。

ぶっちゃけ自分、感覚派だし……

カムロウ「う~~~~~ん………」

捻った。頭を。捻って捻って捻りまくった。

アホ毛が周回軌道に乗ったような気分だ。

なんだ?何なんだ_力を扱うに必要な力って。

なんというか禅問答というかなぞなぞというか……

__え~と…そんなに悩むことだったかな。

カムロウ「やっぱり、なんかこう力を付けるとか…そっちの話じゃないんですか。」

__いや、その必要はないんだよ。

 

__だって君、もうすでに強いからね。

 

カムロウ「ほ!?」

__言っただろ?君は全力を出せてないって。

__あとは実践あるのみ…かな?

わ…わけがわからない……

ますます混乱してくる。

カムロウ「んんんんんんんんん………」

__ごめんごめん、意地悪しちゃって。

__じゃあ、答え合わせといこうか。カムロウ。

 

 

__【力】を扱うのに、必要な【力】………

 

 

__それは【心】だ。

 

 

カムロウ「【心】……?」

__そうそうそう、【心】だよ。【心】。ハートだよ。ラブだよ。愛だよ。

カムロウ「…どんどん意味、変わってません?」

 

__優しさがこもっていれば、温もりを感じる、信頼の架け橋となる。

__しかし、悪意が宿っていれば、相手を傷つけるモノになる。

__この世にある万物全てに言えることだよ。土を耕すクワだって、調理に使う包丁だって、己自身や他者のためにこしらえたモノは、善意があるからこそ、害の無い有益なモノとして使われている。

__けど、そこにひとたび悪意が宿ってしまえば、万物は血を流す凶器と化してしまう。

__そうなってしまわないために、善の心が、慈愛の心が、正義の心が必要なのだよ。

 

__いくら強大な力を手に入れても、心が弱ければ、それを意のままに扱うことはできない。

__真の力を発揮することは出来ない。

__誰の為に、力を振るうか…何の為に、力を振るうか…

__その迷いを、【悪意】という名の【負の連鎖】を断ち切ってこそ、【力】は初めて真価という輝きを放つことができるのだよ。

 

__つまり、悪意を乗り越えるほど強く、正しい心、そして意志があることこそ、本当の【力】だ。

__本当の【力】というのは、【心】が強いということだよ。

 

カムロウ「……………」

カムロウ「だから僕は……弱かったんですね。」

今まで、それに気が付かなかったから。そんな考えをしなかったから。

__カムロウ。弱いことで悩むことはないさ。誰だって最初は、弱いもんさ。それはどれだけ強い存在でも、同じさ。

__君も、最初は泣くことしかできない子だった。力のない人間だった。それが今、己のため、仲間のため。守るべき、愛すべき者のために、力を使おうと必死に頑張っている。

__だからこそ、今の君にならわかるはずだよ。

__だって君は___

 

__とっても、優しいんだから。

 

カムロウ「え…?」

__母親譲りの優しさが、君にはある。優しいからこそ、他者の痛みを理解できる。他者に寄り添えるんだ。他者への思いやり無き者は、心が強くなれやしない。

__だからこそカムロウ、君はすでに【力】を持っている。いままで、それに気が付いてなかっただけだ。自信を持て。

カムロウ「すでに…?」

カムロウ「急いで強くならなくても…僕は…最初から…?」

__…ハーレーはそれを教えたかったんだろうな。

カムロウ「……本当ですか?本当に父さんは、それを僕に教えようと…」

__ハハッ、アイツは素直じゃないからな。

カムロウ「………」

さっきまでの焦りは一体どこに行ってしまったのだろう。

なんだか、胸の奥が暖かい気分になった。

ホッとしたような、落ち着きを取り戻したというか、そんな感じだ。

なんで気が付かなかったんだろうか。最初から恐れるモノなど、何もなかったというわけだ。

いくら強くなっても、心が強くないと意味がないんだ。

心が強いからこそ、必死に頑張って、強くなれるんだ。

……それを僕が、一番間近で見てきたことじゃないか…!!

ルカに…ラクトに…パヲラさんに…父さんだって…!!!

…だけど、もう焦ることはやめた。

僕にはもう…迷いはない!

カムロウの眼には、決意の光が輝いていた。

 

カムロウ「…ところで…どうして僕の名前を…?父さんの名前も…」

さっきから、不思議に思っていた。

僕は名乗った覚えはない。

なのに時折、僕の名を、ごく自然に呼んでいた。

カムロウ「あなたは一体…?」

カムロウ「姿は見えないけど、僕はあなたのような人に会ったことはないはずなんです。」

声だって初めて聴いた。

少なくとも僕の記憶の中では、こんな声をした人はいないはずだ。

__……君は会ったことはないだろうけど、私は君に会ったことはあるよ。

__今となっては、本当に、随分昔の話だがね。

カムロウ「………?」

なんのことやら。そう不思議に思っていると__

 

 

寝てるだけだってんなら、さっさと起きてくれよ!相棒ぉぉぉ!!!___

 

 

__不意に、響くように声が聞こえた。

この聞きなれた声は__

 

カムロウ「__ラクト…!?」

__おっと、時間だ。

カムロウ「時間…!?」

__そろそろ起きる時間だよ。君の寝坊助癖、直したほうがいいよ?

カムロウ「でも起きるって…?まず、ここからどうすれば……」

__声が聞こえるだろう。君を呼ぶ声が。

そう、まだラクトの声が聞こえる。僕を呼ぶ声が。

__いいかい、その声を頼りに進め。決して振り返らず、このまま真っすぐ、進むんだ。

声が聞こえたほうに体を向ける。

このまま行けば、元の場所に、みんながいる場所に戻れるというわけか。

…けど……お礼が言いたい。

名前こそ知らないが、今、この場で会話した相手は、僕に大切なことを説いてくれた人だ。

カムロウ「でも…待ってください!せめて、名前だけでも__」

 

__じゃあ、オマケでこれをあげようかな。

すると、どこからともなく、キラキラと光り輝く粒子が飛んできた。

それはカムロウの周りを飛び回ると、スウッ…と、身体の中に入り、消えてしまった。

その瞬間、この場所で、暖かい風がなびいた気がした。

カムロウ「え…?いや…そうじゃなくて__」

__大丈夫、君は一人じゃない。それを忘れないで。

 

__さぁ、行け!

 

__どういうわけか、誰もいないはずなのに、背中を手で押された気がした。

けど、戸惑うことはなく、そのまま僕は駆け出した。

ここで止まるのは、送り出してくれた知らないあの人に対して、申し訳ない気がした。

カムロウ「待ってろよ!ラクト!ルカ!みんな!」

無我夢中で、止まることなく、風になるかのように__

 

 

_あぁよかった。

__あの子が無事に生まれて、本当に良かった。

___さぁ、我が血を継ぎし子よ、意のままに!

命を燃やし、行く道を照らせ!___

 

 

 

 

 

 

ラクト「寝てるだけだってんなら、さっさと起きてくれよ!相棒ぉぉぉ!!!___」

そう叫ぶラクトの背後から、イズクは着々と迫っていた。

イズク「どうやら、切り札とかいうのは最初からなかったわけだなぁ…!」

大きな右腕に力を込め、握り拳を作る。右腕を大きく上に掲げ、振り下ろす準備をした。

イズク「やはり大義は…この我の力は…!」

イズク「我自身のためにある!!!」

イズク「未来永劫、我の栄光のためになぁぁぁ!!!」

ラクト「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!」

ラクトは視線を落とし、目を瞑った。これから来るであろう痛みに備えて。

イズクはその巨大な右腕を、ラクトに目掛けて振り下ろした!__

 

 

 

 

__違う!!!

 

 

 

 

ラクト「………?」

…変だな。

俺の予想というか直観というか。

この後、背中にどでかい衝撃が走るはず…

恐る恐るラクトは目を開けた。

するとそこには__

 

カムロウがラクトの前に立ち、大剣でイズクの攻撃を防いでいた!

それでも完全にというわけではなく、カムロウの方が少しずつ押されている。

イズク「な……生きてやがったのか!?このガキ!」

ラクト「……待ってましたよ……この寝坊助野郎…!!!」

ラクトの眼には、涙が浮かんでいた。

やっぱり、信じて良かった。

信じていたさ。遅かれ早かれ、お前がなんとかしてくれるってさ…!

 

カムロウ「うぐぐ………ぐ……」

片手で大剣のグリップを持ち、もう片方の手で大剣の刀身に手を添え、踏ん張って攻撃を耐える。

それでも、押され気味だ。

イズク「だが、お前のような雑魚が一人いたところで、何も変わらねぇ!」

イズク「残念だったなぁ!我のこの力の前では何もかも無力だぁぁぁ!!!」

イズクは踏み込み、右腕にさらに力を込める。

イズク「大義に必要なモノは…」

イズク「それは、この不死身の力だあああ!!!」

 

__カチン。

不死身の力……

【力】…?

その言葉で、アッタマにきた。

違う………そんなわけがない。

こんな暴力が、こんな暴虐が…必要なわけないだろ…!!!

カムロウ「なんだと………!!!」

押され気味だったカムロウの両手に、さらに力が入る。

イズク「!? う、うおお…!?」

劣勢だったカムロウが押し、優勢だったイズクが押され気味になった!

カムロウ「……それじゃダメなんだよ…!」

次第に、風が吹き始めた。

しかもその風は、カムロウから吹き放たれているかのようだった。

カムロウ「【力】ってのは……」

カムロウ「そういうためにある訳じゃあねぇんだよ!」

風は強まり、強風となる。

そしてカムロウがどんどん押し返し、イズクの方が押され始めた!

カムロウ「SEEEEEEEYAAAAAAAAA(セエエエエイヤアアアアアア)!!!」

すると、カムロウから物凄い突風が吹き放たれ、イズクを吹き飛ばした!

イズク「ど…どうなっている…!?巨体の我がぶっ飛ばされただとぉ!?」

宙を舞ったイズクだが、態勢を立て直し、すぐに着地した。

カムロウ「ハァ……ハァ……」

な…なんとか押し返したぞ……!

そう安心していると、ラクトが指刺ししながら、何かに驚愕していた。

ラクト「お、おい!カムロウ!持ってるその剣…!」

カムロウ「えぇ?」

そう言われて、持っていた大剣に視線を向けると__

 

大剣が、光り輝いてたのだ!!!

 

カムロウ「こ…これは…!?」

大剣を両手で持って注視する。これは自分でも意図していない。

チリ「あ、あれって…!?」

ジョージ「何だ…あれは…?」

マモル「何が起きてるっていうんですかぃ…?」

遠くからでも、良く分かるほどの輝き。

暗雲で薄暗い今なら、なおさら光って見える。

岩陰に隠れていたチリ達も、その異変に気が付いたようだ。

ラクト「な…なんだぁこりゃあ…!?カムロウの剣に光が……!?」

カムロウ「いや…違う…!光じゃない……これは…!」

カムロウ「風だ……この剣に纏うように、風が吹いているんだ……」

そう言うと、ラクトはハッと気が付いた。

ラクト「…! そうか!俺はこれを見たことがある!!」

これは…風が肉眼で目視できるほどの密度で剣に纏っているうえに、光の乱反射で輝いて見える……

ラクト「こりゃあ、あの時の…お前の親父(ハーレー)の剣と全く同じだ!」

カムロウ「え!?……ってことは…つまり…!」

剣が……僕の風が……僕の不完全だった風薙ぎ(かぜなぎ)が……完全に……

完成したことを意味する…!

 

これが、本当の……

 

真の風薙ぎ(かぜなぎ)…!!!

 

生命の輝きで吹き荒れるその剣は、炎を切り裂き、風をも薙ぐ剣となる………

そうだ……今まで僕は、僕自身を恐れていた。

僕に宿る【力】に。

でも今は違う。恐れていない。

恐れていたからこそ、この【力】をどう使うべきなのかを、【心】から理解できている!

迷いが無くなったんだ。だからさっき、全力を出せたんだ。

その証明が…この剣なんだろう。

あぁ…やっと……やっとだ。

これで…これで……!

みんなを守れる___

 

 

カムロウは【風の剣術】を習得した!!!

 

 

カムロウ「…あっ!そうだ、ラクト!」

すぐにラクトの元に寄り、回復魔法(ヒールパウダー)で治癒をする。

ラクト「あー…ありがたいんだけどよ……走れるくらいでいいぜ。」

カムロウ「え?なんで?」

ラクト「パヲラを運ばなくちゃなんねぇ。アイツが一番無茶してんだ。」

そう言って、パヲラの方を見る。未だに動く気配がない。

早くチリの回復が必要だろう。

カムロウ「そうだね……任せてもいい?」

ラクト「あったりめぇよ!俺はあの無茶したバカに蹴りいれなきゃなんねぇんだ。」

カムロウ「ホントにやるなよ?」

ラクト「冗談だっての。」

そう言いながら、ラクトはパヲラに向かって駆けて行った。

ラクト「おい!立てるか!?しっかりしろ!」

ラクトは、倒れ込んだパヲラを何とか起こし、肩を貸してその場から移動し始めた__

 

__吹き飛ばされたイズクは遠くからその光景を、不機嫌そうに眺めていた。

眉がピクピク動き、呼吸は荒い。

巨体をズシンと揺らしながら立ち上がり、憤慨し始めた。

イズク「…なんなんだぁ……?」

イズク「なんだってんだぁ……??」

イズク「さっきからサッキカラさっきからぁ!!!」

イズク「なんなんナンナンなんなんだよさっきからよぉ!!!__」

 

 

ルカ「__自分の思い通りにならないのが、よっぽど嫌みたいだな。」

 

 

イズクの背中から、そう言葉が飛んできた。

いつの間にか、イズクの後ろに、ルカが立っていたのだ。

カムロウ「ルカ!無事だった…というわけじゃないか。」

ラクト「でも、ピンピンしてるぜアイツ!」

剣は納刀してある。身体はボロボロではあるが、致命傷を負ったわけじゃないようだ。

カムロウ「ルカもいる…まだ何とかなりそうだ。」

ラクト「ああ!やっと切り札のお出ましさ!全く、主役は遅れてやってくるっていうけどよぉ、もうちっと急いで来てほしいもんだぜ!」

今の状況…この(ラクト)も含め、ジョージとマモルとパヲラは明らかに前線に立てない。チリに回復してもらう必要がある。

となれば、今戦えるのはルカとカムロウだけになるが…カムロウはなんかパワーアップした感じだし、まだ希望はありそうだぜ!

……だけどな。

ラクト「でもよぉ……なんていうかさ……」

カムロウ「…? なにか問題が?」

ラクト「問題というより違和感なんだけどよぉ……」

違和感というのは、ルカの様子だった。

いつもは頼りないような、情けないような、大人しいような、そんな雰囲気を醸し出してた奴だったが…

今のルカは全然違う。明らかに目つきが違う。

狩る者の目っていうんだろうか…普段、それこそ今まで戦って来た時のルカの目とは、一線を画す目をしていた。

ピリピリとしたオーラのようなものをじわじわ感じる。

ラクト「アイツ……あんな感じだったか……?」

アイツ…どうしちまったんだ…?

 

ルカ「だいぶひねくれた自尊心を持ってるようなお前じゃあ、当たり前か。」

イズク「あぁ……実に腹立たしい…!我が一番片付けたかったのはこのクソガキだったんだよ…!」

イズク「だがちょうどいい……」

イズクはルカのほうに向き直ると、大きな右腕を振るい、殴りかかった!

イズク「ゴミの方から、掃除されに来るなんてなぁ!!!」

カムロウ「まずい…!」

ラクト「ルカーッ!突っ立ってねぇで、避けるか防御するかなんとかしろーッ!」

そう叫んでも、イズクの狂腕は止まることなくルカに迫った___

 

 

__その時だった。

イズクの顔に、握り拳が当たっていた。

イズク「…へ?」

次の瞬間、イズクは真横に殴り飛ばされた!

イズク「……へ………? え………?」

殴り飛ばされたイズクは倒れたまま、意識は上の空だった。

ルカに、カウンターをされたことへの理解が未だに出来ていない。頭で処理しきれていないようだ。

ラクト「は!?なにが起きた!?」

カムロウ「……ルカがやったんだ。信じられないけど……」

ラクト「ルカが?何を?」

カムロウ「イズクの右腕がルカに当たる寸前に、ルカはあいつ(イズク)の懐に潜り込んでたんだ。そして、流れるように顔を殴った。つまり、イズクの攻撃を受け流してカウンターを仕掛けたんだ…!」

ラクト「でも待てよ!殴るのは分かるんだけどよ…あの巨体を……」

ラクト「格闘でぶっ飛ばしたぞアイツ(ルカ)!?」

 

イズク「このガキが………」

やっと理解が追いついたイズクは立ち上がると、すぐさま反撃に出た!

イズク「我に何をしたあああ!!!」

巨体を豪快に揺らし、怒りまかせに突撃した。

イズク「今のはどうせ偶然だ…!我は不死身!!今度は手を緩めねぇ!!!」

どんどん加速し、暴れ馬が突進してくるかのようだ。

イズク「これなら避けれねぇ!!!死ねぇぇぇ!!!」

イズク再び、ルカに目掛けて右腕で殴りかかろうとした__

 

ルカ「__はあっ!!」

ルカはその場から動かないまま、イズクの腹部にボディブローを当てていた!

イズクの腹に拳がめり込むかのように、ルカの拳が貫く。

イズク「おおぉ………ぉぉあ………」

周りが見ても、そのボディブローはイズクに効いたというのが分かる。

イズクの顔は痛みでねじ曲がり、その痛みのせいで、身体は麻痺したかのように動かせていない。

ルカ「____おおおおおおおおお!!!」

しかし、ルカの攻撃は止まらない。

追い打ちをかけるように、ルカはイズクの顔面に正拳突きを放った!

さっきと同じように、重い巨体であるはずのイズクが宙を舞う。

そしてまた、地面に叩きつけられる。

イズク「(どうなってやがる…!?)」

立ち上がろうと顔を上げると、そこには殴りかかろうとしているルカの姿があった!

イズク「(この我が……不死身のはずの我が……)」

もう一度、顔に鉄拳を当てられた。

イズクは反撃を試みたが、ルカはひらりと躱して、カウンターをおみまいする。

イズク「(こんなガキ一人に追いつめられてる!?)」

天地がひっくり返ったような状況だった。

さっきまで上に立っていたはずのイズクが、今はルカのほうが圧倒的な実力差をつけていた。

それでもイズクは攻撃を緩まず行う。それでもルカに攻撃は当たらない。

指一本も。髪の毛すらも。

傍から見れば、ルカの一方的な攻撃が続く、ワンサイドゲームであった。

 

カムロウ「すごい…また殴り飛ばした…!」

ラクト「お…俺は夢でも見てんのかな…?あのルカがバカ凄い怪力にでもなった夢かな…?ハハハ…」

 

パヲラ「__いや…あれは……ルカ君の…本来の実力……!!!」

ラクト「うおぁ!?お前、いつ気が付いた!?」

カムロウ「パヲラさん、どういうことですか!?あれがルカの、本来の実力だって…!?」

ラクト「いや、カムロウ!回復!回復してくれ!」

カムロウ「ああ、ええと、分かった!」

すぐさまカムロウは回復魔法(ヒールパウダー)で治癒を始めた。

しかし、パヲラは息も絶え絶えだった。

それでも、ラクトの肩を借りながらも、パヲラはなんとか立ち、話を続けた。

パヲラ「そのままの意味さ……あれがルカ君の、今の全力だ。」

パヲラ「今までルカ君は、己が信念のために全力を出せていなかった……【魔物と人間の共存】のために……ゆえに、どんな魔物だろうとまずは説得から入っていた。」

パヲラ「だがあいつ(イズク)は、正真正銘の悪の人間!!!」

パヲラ「もはやあの(クズ)には説得も通じない!堕剣エンジェルハイロウで封印したとしても、改心する見込みがない…心の底からそう判断したんだ!」

パヲラ「そしてなにより………」

パヲラ「己が鉄拳で心を語る他ないと!!!」

 

カムロウ「だから剣術から、格闘に切り替えたのか!」

カムロウ「けど………なんで、今になってあんな力が?」

 

パヲラ「正義の心が動いたのだろう………」

パヲラ「正義と悪を、光と闇と表現するならば………」

パヲラ「闇を祓うには光が必要…また、闇という悪が大きければ大きいほど、光という正義も輝きを増す…!」

 

パヲラ「………それほど…ルカの逆鱗(正義)に……触れてしまったのだろう…………」

不意に、パヲラはドバッと吐血した。

どうやら、身体の内側にも影響が出るほどのダメージを受けてしまっているようだ。

ラクト「おいもう喋んな!喋りてぇならせめてちゃんと回復してからにしてくれ!」

カムロウ「だ、ダメだ!僕じゃあ回復が間に合わない…!」

今のところ、回復魔法はチリとカムロウが使える。しかし、その効能はチリの方が効果が高い。

パヲラが受けたダメージが瀕死になるほどの量だったため、カムロウの回復魔法では治癒しきれないのである。

ラクト「ち、チリ!チリ!!来てくれ!!」

ラクトは岩陰に隠れているチリに向かって叫んだ。

チリは岩陰から顔を出したものの、そこから少し躊躇した。

チリ「でも、二人はどうする!?」

チリは今でも、ジョージとマモルの治癒に専念していた。

それを中断して、パヲラの方を優先するべきか迷っていたのだ。

ラクト「身体がくっつくまでやったんならそれでいい!そいつらは今、戦える状態じゃねぇ!」

チリ「わ…分かった!」

そう言ってチリは、倒れたままのジョージとマモルを残して、岩陰から移動した__

 

 

一方で、ルカは一方的に、イズクを殴り続けていた。

ルカ「うおおおおおおああああああ!!!」

手は緩めず、一発一発の鉄拳に全力を込める。

それを何度も何度もぶつける。

イズクは防御しよう両手を前に出そうとするも、そうする前に殴られ、動きが追いつかない。

ルカ「()()()()()だとか…()()()()()()だとか…確かそう言っていたな…!!!」

ルカ「それがッ!お前の言うソレはッ!!本当に【大義】かッ!!!」

ルカ「人を圧して、踏みにじって頂点に立つことが、お前の言う【大義】なのか!?」

ルカ「それのどこが【大義】だアァァッ!!!」

イズク「チィッ…!!!」

イズク「お前のようなクソガキが【大義】を喋るなあああ!!!」

イズクは右腕を乱暴に振り回して、ルカの連撃を振り払った。

そして態勢を立て直し、再びルカに殴ろうとした!

ルカ「人の命を…平気で私利私欲の肥しにしかしないお前が…お前のほうが…!!」

ルカは、殴りかかってきたイズクの右腕を踏み台にして飛び上がった!

ルカ「お前こそ【大義】を語るなァァァ!!!」

ルカはイズクの顔に向かって、渾身の飛び後ろ蹴りを放った!

イズク「ぐおおおおあああああああッ!!!」

あまりの威力の高さに、イズクは後ろにのけぞる。

イズク「ハァ……ハァ……」

ルカの一方的な攻撃が、よほど体力を削ったようだ。

息切れしながらも、イズクはそのまま踏ん張った。

イズク「我が【大義】を語るな…!?」

ルカ「そうだ…お前の言う大義というのは!自分自身の理想を叶えるための、()()()()()()()()に過ぎない!!」

イズク「能書きだとぉ!?」

ルカ「ああ、能書きさ。」

そう言われて、ますますイズクは顔を歪ませる。

イズク「だったら言ってみろよぉ!」

イズク「ガキの勇者様が言う、【大義】ってのをよぉぉ!!!」

 

ルカ「__本当の大義は…【想い】だ!!!」

ルカ「大義は!想いの数ほど存在するんだ!!一意に正義で語れやしない!!!」

ルカ「()()()()()()()()()()()()想いも込めてだ!!!」

 

__ルカが放ったその言葉。

ジョージとマモル、岩陰で倒れたまま、戦意をも失った二人に、ある言葉が響いた。

ジョージ「(()()()()()()………)」

マモル「(()()()()()()………)」

突如として、二人の脳裏に、昔の記憶が駆け走った!!!___

 

 

 

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