もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
__一方で、ルカの戦いはまだ続いていた。
イズクは、ルカのその小さな身体と、身軽さを利用した攻撃に押されていた。
イズクの歪んだ巨体ではルカのスピードに追い付くことが出来ず、防御に徹底していた。
しかしその戦いに、異変が少しずつ、目に見えて分かるように起こりつつあった。
ルカ「はぁ………はぁ………」
イズク「ぬうぅぅ……ッフフフ…どうしたぁ?随分と疲れた様子だがぁ?」
ルカの攻撃が、徐々に緩みつつあったのだ。
その変化を、勝利への糸口と確信をしたのだろうか、イズクの顔には笑みが戻っていた。
遠くでその様子を眺めつつあるカムロウ達にも、その異変は十分に伝わっていた。
カムロウ「ルカの攻撃が弱くなった…?」
チリ「なんで…!?さっきまで一方的だったのに……!?」
パヲラ「まずいな………合間も無く攻撃を続けるルカ君には…体力を回復する余地がないんだ。もう攻撃をする
ラクト「ど、どうすりゃいい!?誰か戦える奴は__」
ラクトはハッと気付いた。
…ほかに戦える者。
その言葉に、カムロウも同じように気付いたようだ。
カムロウ「ごめん…僕……」
今、この場で他に戦える者は自分一人だけだ。
だから、ルカに加勢しに行っても大丈夫だろうか。
そう言うように、カムロウはラクト達を見た。
ラクト「……ああ、大丈夫だ!分かった!こっちは俺達に任せろ!」
ラクトは片方の手で、カムロウに向かって親指を立て、サムズアップをした。
ラクト「行ったれ!相棒!」
カムロウ「うん…!行ってくる!」
返すように、カムロウもサムズアップした。
そしてすぐに駆け出し、ルカがいる方向に駆け出した!
駆け出したカムロウを心配そうに、チリは見つめた。
チリ「……大丈夫なの…?カムロウだけで……」
ラクト「ああ。」
ラクト「だからほら、
チリ「…そうだね。分かったっ。」
チリは慌ただしく、パヲラに回復魔法で治癒を始めた。
ラクト「(ルカ、カムロウ…もう俺に出来ることは、信じる他にねぇ…)」
ラクト「(もう後には退けねぇ…!だから、頼んだぜ…!__)」
__対して、ルカの攻防の様子。
さっきまで一方的に仕掛けていたルカだが、今では合間に、イズクに攻撃をさせてしまうほどに弱まっていた。
攻撃をし、攻撃をし、避け、また攻撃しての繰り返しだが…
避けの回数が徐々に増えつつあった。
イズク「やはりそうだ……思った通りだった……!」
イズク「我は不死身なり…!いくら我を追いつめようが……」
イズク「最後は我が全てを手にするのだ!!!」
ルカ「いつまで…そんな能書きを___」
言うつもりだと叫ぼうとした時、ルカはイズクの攻撃に当たってしまった!
歪んだ巨腕が、ルカの横腹にめり込むように殴られる!
その攻撃に、ルカの軽い身体では踏ん張りようも出来ず、吹き飛ばされ、そのまま地面に転がった。
ルカ「うぐ……しまった……!」
イズク「いまだぁ!隙有りィィィ!!!」
正にこの瞬間!この期は逃さん!
そう言うかのようにイズクは飛び上がり、巨腕を上段に構え、ルカを叩き潰そうとした!
ルカ「(ダメだ…!痛みで身体が動けない…!!避けられない!!!)」
このままでは叩き潰される…!
そう思った時だった__
__割って入るように、カムロウがルカの前に躍り出た!
カムロウ「そうはさせないぞ!!!」
ルカ「カムロウ…!」
カムロウは握りしめた大剣を両手に構え、迎撃の準備をした!
剣の刀身に風が纏い始め、光り輝いた!
カムロウ「まだだ!まだ僕がいる!」
イズク「ガキがもう一人増えたところで同じだあああ!!!」
それでも構わぬ!このまま叩き潰してくれようぞ!
そう言うかのような勢いで、カムロウごと、ルカを叩き潰すその時__
ジョージ「__ならば我らが!!」
マモル「加勢しても同じって言えるかなぁ!?」
マモルとジョージが、ルカの前に躍り出た!
イズク「な……なんだとぉ!?」
一瞬、その一瞬のうちに、現れた予想外。
想定外の…予想してない…予想外中の予想外!
そのせいなのか、呆気に取られたイズクは一瞬、突撃の手を緩めてしまった!
その状態のイズクを、カムロウ達で受け飛ばすには十分だった!
2人の登場に、カムロウも驚いたが、そのまま迎撃を続けた!
カムロウ「
ジョージ「
マモル「緊急・
カムロウは大剣から光り輝く衝撃波を!
ジョージは右腕から赤黒い衝撃波を!
マモルは式神をばら撒き、展開したバリアを押し出した!
「「「おおおおおおおおおお!!!」」」
三位一体の迎撃で、イズクの攻撃は相殺された!
相殺されたどころか、その余波でイズクが飛ばされてしまった!
その勢いのまま、岩石の壁に追突し、土煙が舞う。
イズク「がぁっ……死にぞこないがぁ…生きてやがったか!?」
ジョージ「【侍】ジョージ__」
マモル「【陰陽師】マモル__」
「「___推参!!!」」
思いがけない助っ人に、隣にいたカムロウは口を開けて改めて驚いた。
また、驚いたのは遠くにいたラクト達も同じだった。
ラクト「えええぇぇぇ!?ア、アイツら、もう立てるのか!?」
チリ「えぇ…!?いやいやいやいやいやいや、待って待って!?あの二人はまだ、全快じゃないのに!!」
ラクト「おいおい…お前、ホントに身体くっつくまでやっただけなのか!?」
チリ「うん!だからあんな…無茶なことなんて……!!」
ラクト「いやぁ、そうだよなぁ!普通はできっこねぇハズだぜ……何か食ったか?」
チリ「牡蠣、あさり、うなぎ。」
ラクト「そうそう、スタミナが付く食材と言えば……」
ラクト「ッんなわけねぇだろぃアホォ!!!」
チリ「じゃ、じゃあ…バナナ…ブルーベリー……」
ラクト「俺が言ったのはそういう意味じゃねぇよっ!」
チリ「だったら、なんで二人が動けるか説明してよ!」
ラクト「いやそれができねぇから、俺だって困惑してんだよ。そこは分かれよ。」
普通では考えられない出来事。常識では考えられない出来事。
身体も精神も打ちのめされた人間が、まるで万全の状態と変わらぬ姿で立っている。
これを驚かずにいられるか。これを納得せずにいられるか。
しかし、己の知識では説明できない。説明してくれる人物はいないだろうか__
パヲラ「__心だ……彼らは今、心で動いている……」
傷だらけで地面に倒れ、チリから回復魔法を受けていたパヲラが、ひとりでに語り始めた。
チリ「心って……」
パヲラ「ルカ君の正義に…感化されたのだろう………」
ラクト「感化…って、どういうことだ?」
パヲラ「……芸術家がインスピレーションを受けると良く言うだろう。絶景を見て感動したなど……理由はともあれ、影響を受けたということ。」
パヲラ「あれは、自然に対する恐怖を、本能で感じ取ったのだ……!森羅万象……あまりにも気高く、見上げるほど崇高で、無差別で理不尽な物事に、自然の偉大さに、生きとし生ける者は本能で感銘を受ける……」
パヲラ「精神そのものに本能的に影響するほどの現象………人は【畏敬の念】と表現するが………」
パヲラ「__その念を抱く
パヲラ「日光を受け、育つ若葉のように……意図せずとも、誰かの行動が【光】になる時がある。誰かの行動で救われる【心】がある……」
パヲラ「誰かの精神に影響を及ぼす行動は…干渉を妨げる壁は存在しない……!」
そう、パヲラは語り終えた。
そして、地面に倒れているパヲラの元に、ラクトは近づいた。
ラクト「…質問、良いか?」
パヲラ「なんだ…?」
ラクト「お前…なんでそんなことが分かるんだ?というより…言えるんだ?まるで自分事のようにも聞こえたんだが……特に、相手が人間でも同じってところが……」
少し間が空き、パヲラは話した。
パヲラ「………分かるのだ…私にも……」
パヲラ「私もかつて…同じように…誰かの心に、感化された人間だからな……」
ラクト「………誰かに感化された……ってか。」
彼は何を想っていたのだろうか。そう呟いたラクトの視界には、ルカ達が映っていた。
そんな中、チリはパヲラが話した内容をうまく理解できていなかったようだ。
チリ「えっと…結果的に言えば、元気になった…ってことで良い?」
パヲラ「うん。」
ラクト「オイ!それでいいのかっ!?」
__ルカはよろよろと立ち上がりながら、駆け付けた2人に近づく。
ルカ「だ…大丈夫だったんですね、マモルさん、ジョージさん。」
…こう、声を掛けるのもおかしいだろうか?じゃあ、どう話しかけたら良いんだ?
さっきまでダメージを負っていた人間が、今こうして、何事もなかったかのように僕の前に立っているのだから。
何事も無いと表現したが、そんなはずはない。確かにダメージは蓄積されているはずだ。なのに、それすらも感じさせないほどの気迫が、2人から発せられているのだ!
カムロウ「いやいや…ルカこそ大丈夫?いま、回復魔法を……」
カムロウ「……そういやルカは瞑想で治っちゃうからいらないか。」
ルカ「え!?なんで!?気持ちだけでもやってくれてもいいだろ!?」
ジョージ「勇者殿………負傷中に申し訳ないが、頼みが……」
マモル「いや、頼みなんて言ってられないんじゃねぇの?」
ジョージ「……うむ!」
2人は武器を置き、地に片膝をついてかがみ、かしこまった。
いわゆる跪くという行為だ。主に屈服を意味するが、この場合は礼拝や敬意を意味するだろう。
マモル「勇者サマだけじゃあねぇ、そのお仲間サマ方にも…この願い、聞き分けてくれやしませんか…!」
「「どうか我らと、共に戦ってほしい!!!」」
ルカ「えええっ!?事前に聞いていた話と違うじゃないですか!?なんでいきなり………」
ジョージ「それは百も承知!」
マモル「無礼だとは存じております!」
ジョージ「しかし!我らが怨みに憑かれた「鬼」ではなく、人として戦うためには…!」
「「貴方様のお力添えが必要なのです!!!」
ルカ「………………」
…正直……なんというか………こう、かしこまって言われても、困る。
困るというのは、迷惑という意味ではない。
どう返事をすれば良いのか、それが分からないから困るのだ。
…だけど、このやり方は、彼らなりのやり方なのだろう。
彼らなりの決意。彼らなりの
だとすれば、僕は彼等の想いに相応しい返しをすべきだ!
ルカ「ジョージさん!マモルさん!」
ルカ「僕は勇者だ!見返りも迷惑も顧みない!少しでも力になれるのなら!善のためにというのなら!!僕は正義のために戦う!!!」
これが、僕の、僕なりの返し方だ。
金品や物品ではない、想いや心、気持ちでの返し方。
ジョージ「勇者殿……かたじけない…!!!」」
マモル「…すみません……申し訳ねぇ…!!!」
ルカ「良いんですよ!これが僕の、勇者としての役目なんです!だからもう申し訳ないとかそういうのは__」
__言わなくても大丈夫と言おうとした時、カムロウが喋るのを遮った。
カムロウ「__みんな、話してるところ悪いんだけど……」
カムロウ「待たせている奴がいるみたいだ…!」
そうだった。そういえばいたな。
真っ先に解決しなきゃいけない奴を!
僕たちはある方向に、待たせた奴に振り向いた。
遠くにいる、歪に歪んだ巨体を揺らし、こちらに歩み寄る奴。
事の元凶…イズクだ!
イズク「ぐぐぐ……ぎぎぎ……」
相当、虫の居所が悪そうだ。めり込むぐらい眉は曲がり、擦切るような歯ぎしりをしていた。
ルカ「イズク!お前はまだ、僕たちと戦うつもりか!」
イズク「野暮な口をききやがってぇ!この
ジョージ「ならば、一つ聞くことがある。」
イズク「あぁん…?」
ジョージ「貴様は、拙者たちを打ち倒す事に、何の意味がある?」
イズク「は……今ここで…お前らに勝つ意味があるか…だぁ?」
ルカ「そうさ。お前はここにいる僕たちに勝って、何になるって言うんだ?」
その質問にイズクは、口を開け、目を見開き、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いた。
イズク「はぁ…!?はあぁぁぁ!?ジョージィ…仇討ちはどうしたァ!?マモルゥ!お前らは俺が憎いはずだろぉ!?この俺を殺したくてたまらないんじゃねぇのかぁ!?」
マモル「確かにそうだ。そうだった。アッシらにとっちゃ、お前さんは憎たらしい奴なのに変わりはない。」
ジョージ「だが、お前を殺したところで、それこそ何になる?晴れるかどうかも分からぬ憎しみを背負って、何になる?」
イズク「な、何が言いてぇんだ!?」
ジョージ「我らは自分自身を、お前を、過去に起きた事全てを【赦す】!」
マモル「ただ許せねぇのは、これから先の、お前がやろうとしている事だけだ!だからよぉ…」
「「ここでお前を止める、それだけだ!」」
イズク「なんだとぉ…!?仇討ちなんかじゃなくて俺を殺すだぁ!?」
マモル「殺しはしねぇよ。お前の行動を止めるってんだよ。」
彼らの会話をよそに、カムロウは困惑した顔をしていた。
カムロウ「ルカ、どういう事なんだ?僕には何が何だかさっぱり…」
ルカ「ジョージさんとマモルさんは、自分たちを縛っていた、【負の連鎖】を断ち切るって言ってるんだ。」
ルカ「哀しみは哀しみを呼ぶだけだし、憎しみは憎しみを生むだけだ。大切な人を亡くしたとか、殺されたとか、憎いっていう感情を人にぶつけても、悲しみが広がるだけだ。それこそが、【負の連鎖】なんだ。」
ルカ「ジョージさんとマモルさんは、【憎しみの過去】よりも【新しい今】を生きるために、イズクを止めようとしているんだと僕は思う。」
カムロウ「【赦す】ってのは…そういうことなのか!」
カムロウに、僕の見解を伝えたところで、僕は再びイズクに向き直った。
ルカ「…イズク。あえてハッキリ、言わせてもらおう!お前のやり方は正しくない!」
イズク「…あぁん…!?」
ルカ「私利私欲のために他者の命を蹂躙し!身勝手な欲望を満たすために、世界のバランスを崩そうとする!」
ルカ「そんなこと、正当な評価なんてされやしない!!お前は偉業を遂げた人物として謳われない!達成したって意味もない!」
ルカ「ここで僕たちに勝ってとしても、ジョージさんやマモルさん…ここにいるみんなのように、お前に立ちふさがる人間は必ず現れる!それでもまだ、僕達と戦うつもりか!!」
イズク「まだ野暮な事を言うのかてめぇ…!!!」
イズク「俺はぁ!!お前らのような気に入らねぇ雑魚は潰すだけだぁ!」
イズク「てめぇらはただ目障りなだけなんだよぉ!だからここで潰す!!それだけだぁぁ!!!」
そう思いの限り叫ぶと、イズクは右手を掲げた!
右手の甲に埋め込まれた鏡から、火炎が噴き出した!
ルカ「………それでも……まだ…やる気なのか、お前は…!」
…どうやら戦う他に、イズクを止めることはできないようだ。
止めることができない戦いを前に、僕はファイティングポーズをした!
イズク「こんのぉ……」
イズク「まとめて焼け焦げろぉぉォエエエ!!!」
イズクは右手の甲を突き出し、燃え盛る火炎を放った!
ルカ「あの炎の攻撃か!」
迫り来る炎の壁。
今の僕には、これをどうにかする方法は持っていない。
幸先が悪いな…先制攻撃を許した上に対処できない攻撃だ。
ジョージ「マモル!式神は?」
マモル「悪ぃ、さっきので使い切っちまった。」
ルカ「逃げましょう!それしかない__」
避けようとした瞬間、迫る炎の壁を前に、カムロウが仁王立ちをしていた!
さらにカムロウは両手を前に突き出し、魔法力を込めていた!
カムロウ「__
カムロウは両手から、冷気を纏った強風を吹き放った!
イズク「なにぃ…!?」
カムロウが放った冷気は、炎の壁にぶつかり、見事相殺して見せた!
ルカ「すごい!氷の魔法か!」
ジョージ「なんと…恐れ入った!」
ラクト「流石だぜカムロウの奴!新しい魔法を覚えてるなんてな!」
しかし、仲間からの賞賛とは裏腹に、カムロウは自身が放った魔法に対して疑問を抱いていた。
カムロウ「(違う…! これは、あらかじめ覚えていた魔法じゃない!)」
カムロウ「(この魔法は…僕の中から、突き動かすように出てきた……?)」
カムロウ「(もしかして
僕が意識が失ったであろうあの時。
名前の知らない人から貰ったあの光……
あれが僕の中から出てきたようなイメージがあった!
カムロウ「(あの時のアレって、これの事だったのか…!?)」
自分の両手を見て、自分が放った魔法に改めて驚く。
それと同時に、自分は一人じゃないという実感に、心の底から勇気が湧いてくるような気がした!
イズク「(どういうことだぁ!?さっきまで対処方法なんて持ってなかったはず…!?)」
イズク「なんでこうも!なにもかも!思い通りにいかねぇんだよぉぉ!」
地団太を踏むイズク。そう苛立つ中、彼の眼にある3人が映った。
遠くからこの戦いを見守るラクト達。
彼らを視界に入れた途端、イズクはあることを思いつき、ニヤリと笑った。
イズク「へっ!馬鹿な奴らだなぁ!そこの雑魚共ががら空きじゃねぇかぁ!」
イズク「そこからどうやってその雑魚共を守れる!?」
イズクは右手の甲の鏡から、今度は冷気を噴き出し始めた!
狙いはルカ達ではなく、ラクト達だ!
ルカ「なんて奴だ…もう戦えない人を狙うなんて…!」
ジョージ「戦いでは、弱った方を狙い戦力を減らす事は、戦術の一つだ…」
マモル「けど、ああいう人情が無ぇ奴がやると腹が煮えるよなぁ…!」
カムロウ「やめろイズク!ラクト達は戦えないんだ!」
イズク「だからなんだぁ!?この俺に歯向かったんだ!報いは受けて当然なんだよぉ!!」
イズクは右手を突き出し、凍てつく強風を放った!
イズク「凍れええぇぇぇ!!!」
凍てつく強風は地を這いラクト達の方に進む!強風が通ると、地面に氷棘が生えた!
ラクト「うおぉ!?狙いは俺達かよ!?」
パヲラ「二人とも逃げろ…私のことはいい…!」
ラクト「アホ!そういうわけにいくかってんだよ!」
そうこうしても、氷風は迫る。このままだと直撃は免れない!
ラクト「ああ、どうすりゃいいんだ!?と、とにかくパヲラを運ぶしか__」
チリ「__
チリは魔力の壁を展開した!氷風はそれにぶつかり、壁を沿うようにラクト達を避けて進み、消えてしまった。
ジョージ「見事だ!どうやら、心配無用だったようで…」
カムロウ「よ、良かった……本当に良かった………」
カムロウはホッと胸を撫で下ろした。
ルカ「………なんか、魔法使えるっていいなぁ。」
マモル「まぁ、これからっすよ。勇者サマ。」
魔法に羨ましがっているルカを励ますように、マモルは肩に手を置いた。
ラクト「何だよお前!やれば出来るタイプだったのかよ!」
チリ「ごめんね!今までやらなくて!」
チリ「やっとやる気になったって感じだから!」
チリはラクト達に振り向くと、誇らしげにそう言った。
パヲラ「フフッ…どうやら、君も【感化】されたようだね?」
チリ「そうかも。みんなが頑張ってるんだもん。私も本気出さなくっちゃダメだよね?」
ラクト「ったくよぉ!だったら最初からそうしてくれよな!」
イズク「う……ぐ…ぐぐ………」
イズクは再び歯ぎしりをした。また思い通りにならなかったのだ。
苛立つイズクを前に、ルカ達は再び立つ。
ジョージ「イズク、我らを格下だと思うな。全力で挑むことを勧める。」
ルカ「あぁ、そうだ!僕たちだって、やれる時はやれるんだぞ!」
マモル「いや、
まぁ、僕の発言にも思うところはあるが…これは挑発だ。
いくらラクト達が攻撃を避ける術を持っていたとしても、現状戦えるわけじゃない。これ以上狙われないようにするために、あえて挑発したわけだ。
イズク「…あぁ…そうだ……そういや…この近くに村があったなぁ……」
ジョージ「…? それがどうしたと言うのだ?不意に気にし始めて……」
イズク「決まってるさぁ…!」
イズク「貴様らへの見せしめに、村を潰すとするかぁ…!!!」
カムロウ「な、なんだって!?」
なんてこった。挑発が失敗してしまった。まさかそっちに矛先が向けられるとは…!
ルカ「ま、待て!その村は関係ないだろ!?
イズク「何言ってんだぁ!?お前らがこうして戦えるのは、その村があるせいだ…!その村が無ければ、俺はお前らなんかに勝てたんだぁ!」
そう叫ぶとイズクは、僕達には目もくれず、崖を登ろうとすぐさま移動を始めた!
ラクト「て…テメェェ!逃げる気かァァァ!!テメェェェエエエ!!!」
逃げるイズクの背に向かって、ラクトが叫んだ。
ラクト「自分の思い通りにならねぇからってよぉ!気に食わねぇからって理由でよぉ!」
ラクト「自分よりも弱ぇ奴を叩くってか!?ふざけんじゃあねぇ!!どこまで卑怯者なんだお前は!!!」
ラクト「どこに行く気だ卑怯者がァァァ!!!」
ラクトの叫びに耳もくれずに、イズクは一目散に崖を目指した。
それを、ルカ達はすぐにイズクを追いかけようとした。
ルカ「くそぉ…!今からでも追いつけるか!?」
カムロウ「それでも止めなきゃ!村が大変なことになる!」
カムロウ「村に手出しはさせない!ここで止める!」
このままイズクを放っておけば、カムロウが育ったコロポの村で虐殺が起きるだろう。
いや、虐殺では済まないかもしれない。何が起こるかわからない。
だから、僕たちはここで止めなくてはならない!とにかく追いかけようとした__
???「___さっきの言葉…聞き捨てならないな。」
__不意に、イズクの前に、立ちはだかった人がいた。
それは、カムロウの父、ハーレーだった。
ハーレー「【村を潰す】…確かそう言ったな。」
イズク「…誰だてめぇは?」
イズクは歩みを止め、ハーレーを睨んだ。
しかし、ハーレーはひるまず睨み返した。
ハーレー「なに、ただの通りすがりだ。」
ハーレー「今、ここに来たばかりだ。ここで何か起きたのかもさっぱりわからん。」
白々しい態度をしながらハーレーはそう発言した。
イズクもそれを見え透いたようだった。
イズク「ほぉ…?」
ハーレー「…ところで質問があるんだが、俺の村の門が壊れたんだが…何か知らないか?」
イズク「いや、さぁな…知らねぇなぁ?ん?」
__イズクがそう答えた瞬間、ハーレーはすでにイズクの間近に迫っていた!
イズク「え__」
そしてハーレーは、鋭い鉄拳をイズクの頬にぶつけた!
ハーレー「どう考えてもお前だろうがァァァ!!!」
イズク「うぐぉぉぉおおお!?」
めり込むような一撃を食らい、思わず巨体が揺らぐ。
しかしイズクは、すぐさま立ち直った。
イズク「そ…そうか!さてはお前はあのガキ共の知り合いだな!?あのバカ共の敵討ちを手助けしに来たわけだな!?」
ハーレー「
イズク「ど、どうでもいい!?」
ハーレー「あぁ。敵討ちだのなんだの、そんなモン、お前達で勝手にやってろバーカ。」
イズク「は、はぁ!?じゃあ何で俺をぶん殴ったんだよぉ!?」
ハーレーは、今度はボディーブローをイズクに叩き込んだ!
ハーレー「俺の村の門を壊した恨みだよ!!!」
イズク「ぐぉぉぉあああ!?」
ルカ「えぇ……り、理由も動機もむちゃくちゃだな………」
カムロウ「あぁ、そういう人なんだ…あの人……」
ルカ「そ、そうなのか?かなりカタブツそうなイメージあるけど…?」
カムロウ「唯我独尊でわがままで……そういや母さんは素直じゃないって言ってたなぁ。」
ルカ「……まるで嵐のような人だな。」
イズク「じゃ、じゃあなんだぁ!?落とし前で、その背中のデカい剣で俺をぶった斬ろうってのか!?あぁん!?」
ハーレー「お前にはこれで十分だ。」
そう言うとハーレーは、右手は握り拳を作り、左手は前に突き出し構えた。
すると右手の握り拳に光り輝く風が纏い始めた!
カムロウ「嘘だろ…父さん………」
カムロウ「
ルカ「なんだ?
カムロウ「あの構えは…大砲と同じだよ……いや………」
カムロウ「放たれるモノはもう…大砲とは呼べないかも………!!!」
ルカ「どういうことなんだ!?ハーレーさんは何をする気なんだ!?」
カムロウ「例えるなら、右手が砲弾で、左手が砲口なんだ!右手で圧縮した生命エネルギーを、左手で一気に放とうとしているんだ!」
ルカ「な…なんだそれ…!?」
確かにその技は、大砲…いや、大砲以上の代物かもしれない!
ハーレー「………一つ聞くが、お前にとって「強さ」とはなんだ?」
イズク「へっ、こんな時に愚問を吐くんじゃねぇよぉ!」
イズク「そりゃあ、この「身体」だよぉ!不死身の身体!不死身の力!なんにも恐れるモノもねぇんだ!それ以外に何があるってんだ!?何か間違ってるかぁ!?」
ハーレー「そうか、やはり貴様は臆病者だ!!!」
イズク「お前もそうほざくかぁ!!」
ハーレー「人としての一線を越えた時点で、貴様はもう敗北者だ!!!」
イズク「この野郎ォォォ!!!」
イズクは歪んだ巨体を揺らし、ハーレーに殴りかかろうとした!
ハーレー「命を懸けようともしない弱者め!!地に墜ちろ!!!」
ハーレーは右手を左手の甲にぶつけた!
ハーレー「
ハーレーの左手から、光り輝く波動が放たれた!!!
イズク「うおおおォォアアアア!!!」
光り輝く波動は、まるて地面を抉りながら進む大蛇のように、地面を、空気を粗削りしながら突き進み、イズクの巨体を飲み込んだ!!!
そして、反対側の崖に激突し爆散した!
ルカ「………なんて、威力だ…!!!」
カムロウの言う通り、確かにこれは、大砲と表現するには、あまりにも似合わない。それ以上の表現が必要になるほどの代物だ!
今、例えるとするならば…嵐そのものを放っているとしか表現できない…!
ルカ「不条理すぎる…!本当に人間なのか、あの人…!?」
カムロウ「そうだよ……これが……この身勝手さが……」
カムロウ「これが僕の父さんなんだ…!」
ルカ「…凄いな。カムロウ。君のお父さんは…!」
カムロウ「うん…僕にとっては…【誇り】だよ…!」
攻撃を終えたハーレーは、構えを解き、背を向けるよう後ろに振り向いた。
ハーレー「ふん。何が悪い。事実に事実を突きつけることに。」
ハーレー「お前は一つ勘違いをしている。それも大きな勘違いだ。」
ハーレー「強大な力を手にして強くなったと思い込んでいるが、お前は強くなったのではなく、自分を見失っているだけだ。自分の大きさも、相手の大きさも全く変わっていない。」
ハーレー「取り合えずデカい事を成そうとした結果がこのザマだ。そもそもの話、不老不死になったところで何になるってんだ。しかも貴様のような半端者が。」
ハーレー「己さえ良ければ、他人を弱者や道具にしか見下さない貴様なんぞ、負けて当然だ。」
ハーレー「強靭な「身体」があっても、人より優れた「技量」を持っても、命を懸ける「心」が無ければ、「強さ」とは言えん。」
ハーレー「強大な力を持ち合わせても、どうしようもない絶望を前にしても、決して揺るがぬ信念の【心】がな。」
ハーレー「その辺に関しては貴様なんかより、
その場から離れて遠くの場所に移動したハーレーは、背中の大剣を抜刀し、地面に突き差した!
ハーレー「今から、この崖を超えようとする者は、誰であろうとも俺が切り落とす!いいな!」
その場にいる全員に、ハーレーは聞こえるよう宣言した。
地面に刺した大剣の柄に手をかけ、いつでも斬りかかれる態勢で、周囲を睨むようその場から動かない。
カムロウ「は!? お父さん!?なんで!?」
ルカ「いや、問題ないよ。
ラクト「崖を登って逃げようとする奴だけ…ってんなら、俺達には何も問題はねぇなぁ。」
ラクト「ここにいる俺達、誰一人逃げる奴なんていねぇからよぉ!!」
そう、これは僕たちに向けての警告じゃない。
イズクがどこにも逃げれないようにするための見張り役を、自ら買って出てくれたのだ!
マモル「そんじゃあ後は、イズクをどうにかするだけですなぁ、勇者サマ。」
ジョージ「うむ。その通りだ。」
そうして僕たちは、イズクを視界に入れる。
イズクは瓦礫を押しのけ這い出てくると、怒りに任せた感情を次々に吐いていた。
イズク「俺が……弱者だと…!?臆病者だと…!?」
イズク「好き放題罵りやがってぇぇぇ…!!!」
後はこいつをどうにかするだけだ。
そう思った僕は拳を構えようとしたとき、ジョージがイズクの近くに歩み寄った。
ジョージ「イズク……降伏をするつもりはないか?」
イズク「!? なんだとぉぉぉ…!?」
マモル「反魂鏡を渡せ。そうすりゃ見逃す。って言ってんだよ。」
ルカ「…分かるだろ?僕たちはこれ以上戦ったって、何にもならない。何も残らない。ただ無駄に時間や体力を浪費するだけだ。命を奪い合う必要はないんだ。」
全くその通りだ。ここで命の奪い合いをしたって、なんの意味もない。
………なのに。
イズク「………ってのか?」
イズク「この俺にはもう勝ち目が無いって言ってんのかァァァ!?」
…ダメだった。こいつはどうしようもない奴だ。
どうしてこいつは、考える余地がないのだろうか。
ルカ「お、落ち着け!そんな事言ってないだろ!__」
イズク「__ダマレェ!」
イズク「認めねぇ!ミトメネェ!俺が最強だ!最強は俺なんだ!勝つのは俺だ!俺が勝つんだ!」
イズク「降伏すんのはお前らの方だよ!そう言って、ホントは俺に怖気づいてるだけなんだろ!?ナァ!?生意気なマネしやがってェェェ!」
イズク「お前ら全員、皆殺しだアァァ!!!」
イズクの巨体は怒りに任せて、歪な巨腕を振りに振り回して瓦礫を飛ばす。
それらは僕たちに当たることはなかった。
瓦礫は壁に当たる、地面に落ちる、飛ばされに飛ばされる。
………ポツポツと雨が降り始めた。
次第に辺りは雨雲で一層暗くなり、降る雨のせいで視界が悪くなった。
そんな中、僕たちは心の底から、燃え上がるような感情が叫ぼうとしていた。
…どうして止めようとしないんだ。
……どうして戦い続けようとするんだ。
この……この………
「「「「この分からず屋がァァァァ!!!!」」」」
戦いの
__それぞれが拳を構え、武器を構え、戦いの準備をしている最中。
カムロウもその一人だ。
しかしそんなときに、まるで頭の中に響き渡るよう、声が聞こえた。
ハーレー「(聞こえるか、カムロウ。)」
カムロウ「お父さん…!?」
声が頭の中から聞こえた。まるで近くにいるように聞こえる。
だが、辺りを見ても、聞こえているのは僕だけのようだ。
ハーレー「(風薙ぎの応用だ。生命エネルギーだのなんだのと聞いたから、もしかしたらとは思ったが……この声は、お前だけに聞こえるようだな。)」
ハーレー「(真似してみろ。)」
真似…念じればいいかな?
カムロウ「(…こう?)」
ハーレー「(やはりな。ようやくお前も風薙ぎの使い方を理解できたようだな。)」
このやり方で合ってたようだ。この僕の声も、父さんにしか聞こえてないようだ。
カムロウ「(使い方って…意地悪だなぁ父さん。本当は風薙ぎに使い方なんて無いんだろ?)」
カムロウ「(体で風を動かし、技で風を操り、心で風を生む、生命の力。それが風薙ぎなんだ。合ってる?」
ハーレー「(…うるせぇバーカ。べらべら喋りやがって。)」
風薙ぎ…それは、身体から溢れ出た過剰な生命エネルギーを、身体に纏う技術だ。しかしそれは、鍛錬によって研鑽するようなモノではなく、強い精神力、心の強さで変化するモノなのだ。
僕はそれを、ようやく理解できたんだ。
カムロウ「(父さん、悪いけど手出し無用だよ。)」
ハーレー「(ふん。馬鹿が。俺がアイツを逃がさないようにしている時点で手を貸してるも同然だろうが。)」
カムロウ「(……やべっ。)」
言われてみれば、そりゃそうじゃん。
ハーレー「(だが、お前に一つだけ言っておく。)」
ハーレー「(出し惜しみはするな!持てる力を出し切って、全力で勝て!!!)」
カムロウ「(……分かった!全部をぶつける!)」
今、持ちうる力を、【いままで】ではなく、【今】!
ありったけをぶつけてやる!
その意気込みで、カムロウは大剣を構えた!