もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
カムロウ「やった…壊せたぞ!!」
ルカ「よし……!」
反魂鏡を壊したということは……イズクを止めることが出来たんだ!
それをさらに実感させるかのように、降っていた雨は止んでいき、分厚い暗雲もどこかに飛んでいき、眩い夕日がルカ達を照らしていた。
マモル「まったく…お前さん、ぶった斬るってんなら一言、言って欲しいもんだなぁ……」
ジョージ「すまぬ。だが……マモルのことなら、言わなくてもどうにかしてくれると…」
マモル「へっ……まぁな。」
手をぶらぶらしながら安泰したマモルの脳裏に、ある言葉が浮かんでいた。
___マモル、ジョージを頼むぜ。じゃねぇとそいつ、一人じゃ生きていけねぇよ。
マモル「(ショウト……お前さんとの約束、アッシは守れてるぜ……)」
勝利を喜ぶルカ達をよそに、イズクは地面に落ちた自分の右手と、散らばる鏡の破片の元に、這いずり寄ろうとしていた。
イズク「ば…馬鹿な奴等め……お…俺は不死身なんだ……」
イズク「まだ…まだ鏡は残ってる…!なんとかかき集めりゃ…俺はまだ…!」
落ちた鏡の破片に、イズクは左手で触れようとした瞬間。
なんと、鏡は音もなく、砂のように崩れ、消えていった……
イズク「え…あぁ……あぁぁ…鏡が…!?」
カムロウ「消えた!?なんで!?」
ルカ「不自然に消えたな……どういうことなんだ?」
ジョージ「勇者殿、これには推測できる訳が…」
ジョージ「あの鏡…反魂鏡というのは、本来は故人と一時だけ会う力を持つと伝えられてまして……死者を使役するなど冒涜に等しい行為なのです。」
ジョージ「鏡が無茶な使い方に耐えられなかったか……それとも…呼び出された魂の総意が、カタチとなって現れた結果かと…」
ルカ「うーん…なんだか、よくわからないけど………結局、【未だかつて邪は正に勝たず】…なのかな。」
ジョージ「……と、いいますと?」
ルカ「えーと……
ルカ「たしか…ジョージさんたちが住んでいた地方だと、【万物に神が宿る】という考えの風習があるんでしたよね。だとしたら…僕たちみたいに、正義の心を持った神様が、あの鏡にも宿っていて……その神様がそうしたんじゃないかって、僕はそう思います。」
そう言われて、ジョージはハッと何かに気付いた顔をした。
ジョージ「付喪神…!反魂鏡に宿る神が自ら望んだ事…ですか。」
ジョージ「……おそらく、勇者殿の仰る通りかと…」
イズク「そんな……そんなぁ……」
地面に倒れ込むイズクは、かなり落胆している様子だ。顔はぐしゃぐしゃになり、目からは大粒の涙を流している。
カムロウ「うわぁ。すごく、泣いちゃってるなぁ。」
マモル「自分に才能があると思ってた馬鹿の末路がこれかい。あーあ。やなもんだねぇ、目も当てられねぇや。」
するとイズクの身体から、光る粒子のようなものが浮かび始めた。
イズク「……? なんだこれ…?」
マモル「あー……反魂鏡の力に頼りすぎたなぁ。身体が耐え切れなくて崩壊し始めてら。もう魂が現世に留まれねぇんだな。」
イズク「…!」
マモル「死ぬんだよお前、このまま消えるんだよ。」
そう聞いたイズクは焦ったような顔をした。
イズク「嘘だ……!俺は…ここで…死ぬような男じゃ…!!!__」
ルカ「__いいや…負けたんだよ。お前は。」
ルカ「お前はここにいる、それぞれの【想い】……みんなの【大義】に負けたんだ。」
ルカ「【絆】こそ【大義】なんだ!お前は人としての道を踏み外した!自分自身の未熟が招いた結果を、すべて外のせいだと思い込んだ結果だ!直すべきところは世界じゃなくて、お前自身の内側だったんだ!」
ルカ「ここにいるみんなの、それぞれの想いに比べれば!お前の目指す大義なんて小さいものだ!」
ルカ「絆こそが!目に見えない繋がりや信頼こそが!!大義なんだ!!!」
イズク「__………いいよな、お前らは。」
なんだか諦めたような、無気力な顔になったイズクは、そう呟いた。
ルカ「……?」
イズク「そんなに必死になれてさ。」
そう言うとイズクは、その巨体のまま、地面に仰向けに倒れ込んだ。
イズク「昔から…生まれた時から、裕福な暮らしをしていたもんだから…自分には何かしらの、素質や才能があると思ってた。」
イズク「だから色んな事に取り組んでみたが、自分が思うよりも結果は出ねぇし…その度に蔑まれて……自分の力量の無さと、理想と現実の違いに絶望して……」
そして、大きなため息を吐いた。
イズク「俺って、何で生きてたんだろうなぁ……俺達、人間って、何で存在してんだろうなぁ……何がしたかったんだろうなぁ……」
そう言って、虚ろな目を、夕陽に焼けた空に向けていた。
しばらくすると、憐れんだような目付きで、ルカ達を見つめた。
イズク「俺はこのまま死ぬけど……お前らは、この先も生きるのか…?」
イズク「このつまんねぇ世界を。何やってもうまくいかないこの世界を。普通の奴が何しても変わらないこの世界を。」
イズク「生きてたって、つまんねぇだけだぜ。」
カムロウ「__それでも生きる。」
カムロウ「僕たちが今、生きている理由…存在する理由……」
カムロウ「もしかしたら、意味なんて無いかもしれない。ただ存在しているだけかもしれない。だとしても……」
カムロウ「【今】を生きなきゃ…明日はやってこないから……」
イズク「……お前は…生きたいのか?」
カムロウ「うん。僕は【今】を、みんなと一緒にいたい。」
カムロウ「それだけで良い。ただ…それだけで。」
それを聞いたイズクは、再び脱力した。
イズク「あぁ……そうかよ。」
イズク「じゃあな。せいぜい足掻けよ。俺は、お前らのムカつく顔を拝みながら、このまま死んでやるぜ。」
ルカ「……………」
ジョージ「行きましょう。勇者殿。」
ルカ「……あぁ。」
決着はついた。これ以上、何をしても、何もしなくても良い。
終始、心底腹の立つ奴だったが、戦いは終わったんだ。
僕たちはその場から去ろうとした__
その時だった__
ハーレー「__お前たち!今すぐそこから離れろ!!」
ハーレー「崖が崩落するぞ!!!」
遠くにいたハーレーが、ルカ達に向かってそう叫んだ!
ルカ「崩落だって…!?」
そう言われて周囲を見渡す。
自分たちがいるのは左右に切り立った崖がある谷底だ。
よく見ると、その崖が今にも崩れそうではないか!
小さい石がコロコロと転げ落ち、次第に辺りが揺れ始めた!
チリ「崩落って…!?どういうこと……」
パヲラ「雨で地盤が緩んだ上に、激しい戦闘の影響か……崖崩れが起きるぞ…!」
ラクト「やっべぇ!このままじゃあ、俺達巻き込まれんじゃねぇかよ!上だ!とにかく上に逃げるぞ!」
チリ「パヲラさんを運んで上まで!?行ける!?というか間に合う!?」
ラクト「行けるだけ行く!なんならお前だけでも逃げろ!」
ラクト「せっかく良い展開だったってのに、事故で死ぬってのは嫌だぜ!」
ルカ達はその場から避難し始めたが……崩落の範囲は想像よりも広いようだ。
今から移動しようにも、どう考えても、明らかに巻き込まれてしまう!
ハーレー「(これは間に合うのか…!?)」
ハーレーは迷っていた。
全員を谷底から上まで上げるとしても、全員は無理だ。
救出に向かおうにも、誰から先に助けるべきか。
張り巡らせた思考の中に、突如、響くような声が聞こえた。
カムロウ「(父さん!パヲラさん達だけでも避難させて!)」
ハーレー「何ッ!?」
間違いなく聞こえた声の主は息子のカムロウ。
風薙ぎ…生命エネルギーの応用で、自分たちだけ聞こえる思念波を飛ばしてきたのだ。
カムロウ「(僕の事はいい!なんとかする!)」
ハーレー「(……分かった!)」
ハーレーはパヲラ達に合流するよう駆け付けた。
そして、全身から魔力を放ち始めた!
パヲラ「何を…!?」
ハーレー「お前達だけでもここから移動する!」
ハーレー「
パヲラ達は光に包まれ、高速で空中に浮かぶ上がった!__
カムロウとルカは、駆け足で谷底からの脱出を図っていた。
しかし、間に合いそうになかった。
瓦礫と土砂が後ろや前からなだれ落ちてくる__
ルカ「だめだ…!このままだと、僕たちも下敷きに!__」
カムロウ「こっちだ!ルカ!___」
大量の岩石が降り注ぐ中、カムロウはルカに向かって飛び込んだ!__
マモル「__間に合いそうにねぇなぁ…」
ジョージ「__…うむ。」
岩石や土が降り注ぐ中、マモルとジョージは背を向けながらも身を寄せ合っていた。
マモル「多分、勇者サマは大丈夫なんだろうけど…なんか、最後に言う事ある?」
ジョージ「…………」
ジョージ「悔いはない。」
マモル「そら同感でさぁ。」
やるべき事は成した。死力を尽くした。
あとは勇者様の無事を祈るのみ____
そう思っていた時だった___
イズク「__そいつぁ、困るなぁ…!」
次の瞬間、ジョージとイズクは宙を舞っていた。それも空高く。
いや、放り出されたの方が正しいだろうか。
視線を向けるとそこには__
イズクがいたのだ。
ジョージ「イズク…!?」
マモル「お前…!?」
イズクは何をしたのか__
彼は最後の力を振り絞り、その歪んだ巨体で2人を投げ飛ばしたのだ!
イズク「お前らはこの先も苦しみ続けんだよ!」
イズク「【生きる】って事になぁ!!!__」
イズク「(__どうだ見たか…!ざまぁみろ…!命を懸けたお前らのように……俺だってお前らと同じように!
イズク「(だから…だから…この俺を……!!)」
イズク「俺を認めろおおおぉぉぉ!!!___」
最期の一声。
誰か聞こえたのだろうか。
誰か届いたのだろうか。
それは誰も知らず。誰にも分からず。
彼は土砂に埋もれて消えた。
崖の上__
空は夕陽に焼け、そよ風が吹いている。
所々に水たまりがあり、やや草が生えた地面に、ラクト、パヲラ、チリ、ハーレーの4人の姿があった。
一足先に、ハーレーの移動魔法で避難していた。
ラクト「移動魔法か……相当、魔力を消費するだろ。」
ハーレー「問題ない。魔法はあまり使わない。それに移動しようにも、俺にはこれしか方法が無くてな。」
すると遠くから、カムロウの姉リンドウが様子を見に来た。
先ほどの崖崩れの音を聞き、駆け付けてくれたようだ。
リンドウ「父さん!何があったの!?すごい音がしたけど…」
ハーレー「さっきの雨で崖崩れが起きた。そっちは?」
リンドウ「何ともないよ。村の門は壊れたままだけど。
ハーレー「そうか。」
リンドウ「それで…他の人たちは…?カムロウは?」
チリ「私達は助かったけど…他のみんなは…!? どうなったの…!?」
みんなは谷底…があった場所に視線を移す。
先ほどまで自分たちがいた場所は大量の土砂で埋まっていた。
パヲラ「あまり考えたくないが……もし巻き込まれたと仮定すると、捜索は絶望的だな。」
ハーレー「いや…カムロウのやつは…なにか考えがあるような素振りだったが…?」
すると、その土砂がボコッと盛り上がり、中からドラゴンが這い出てきた!
よく見るとその土まみれのドラゴンの身体の下に、ルカの姿があった!
ルカ「た…助かった…!ありがとう、カムロウ。」
ルカ「あの時、咄嗟に僕を庇って、覆い被さってドラゴンに変身してなかったら…今頃ぺしゃんこだったよ……」
ハーレー「…どうやら、無事のようだな。」
ラクト「流石だぜカムロウ!あの時ドラゴンに変身して、なんとか助かったんだな!」
ラクト「ドラゴンの力は折り紙付きだぜ!あのパワーとタフさだったら、土砂に埋まってもなんとか脱出できんだな!」
ラクト「……あぁ………良かった………」
チリ「あと…ジョージさんとマモルさんは…?」
パヲラ「そこにいる。」
パヲラが指さしたその先に、ジョージとマモルは座り込んでいた。
ラクト「おぉ!お前らも逃げれたんだな!」
安否の確認が出来て安心したのか、ラクトは2人に走り寄る。
そして、少し気まずそうな顔をしながら質問をした。
ラクト「えーと…こんなこと聞くもアレなんだが…イズクはどうなったんだ?多分だが…俺達、確認出来てないっぽいんだ。」
マモル「イズクか…アイツは……」
ジョージ「……………」
ラクト「…………?」
ジョージとマモルは、まるで思いつめるかのように、谷底に視線を落として動かなかった。
少し時間が立ち……
夕陽は沈み半分だけ顔を出している。空はやや暗くなりつつある頃だった。
崖の近くには、墓標のような岩が立っていた。
岩には、こう刻まれていた。
__沼守イズク、ここに眠る___
その墓標の前にいたのは、ジョージ、マモル、ラクトの3人だった。
ラクト「良いのかよ…墓まで立てちまって。仇じゃあなかったのかよ?」
ジョージ「……そうだ。奴は仇だ。拙者たちとは相容れない存在だ。」
マモル「正直言うと、今でも憎んでるよ。顔も思い出したくねぇ。」
ジョージ「だが奴は…その最期に、己が命を懸けて我らを救った。」
ジョージ「互いに相容れないはずにも関わらず……あの時、我らを助ける利点など、あるはずもないのに……生かしたのだ。我らを。」
ジョージ「奴が最後の力を振り絞りとった行動…それには、仇といえども、払える敬意があった。」
マモル「自分は劣等者だとか言ってたくせによ……なんだよ。あったじゃねぇかよ。誇らしいモノがよ。」
ジョージ「どうやら我々は……生きねばならないようだ。敵と言えども、イズクの最期の意思。次いで生きねばならない。」
ジョージ「奴がつまらぬと評したこの世界を。生きてこの先も、我々は苦しまねばならない。」
ラクト「……それは…呪詛ってやつか?」
マモル「いや………」
マモル「
ラクト「………そうか。」
ラクト「…村に戻ろうぜ。ルカやみんなが待ってるからよ。」
そう言うとラクトは、一足先に、ルカ達がいるコロポ村に戻っていった。
マモル「行こうか、お前さん。」
ジョージ「……うむ。」
すこし立ってから、2人も墓の前から立ち去った__
例え弱い人間だとしても。
例え誰かに劣っていても。
命を懸けて起こす行動に。
命を懸けて起こした【光】に。
優劣なんてない。
誰にだって言える。