もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第63話 優劣なんてない、誰だにだって言える。

カムロウ「やった…壊せたぞ!!」

ルカ「よし……!」

反魂鏡を壊したということは……イズクを止めることが出来たんだ!

それをさらに実感させるかのように、降っていた雨は止んでいき、分厚い暗雲もどこかに飛んでいき、眩い夕日がルカ達を照らしていた。

マモル「まったく…お前さん、ぶった斬るってんなら一言、言って欲しいもんだなぁ……」

ジョージ「すまぬ。だが……マモルのことなら、言わなくてもどうにかしてくれると…」

マモル「へっ……まぁな。」

手をぶらぶらしながら安泰したマモルの脳裏に、ある言葉が浮かんでいた。

___マモル、ジョージを頼むぜ。じゃねぇとそいつ、一人じゃ生きていけねぇよ。

マモル「(ショウト……お前さんとの約束、アッシは守れてるぜ……)」

 

勝利を喜ぶルカ達をよそに、イズクは地面に落ちた自分の右手と、散らばる鏡の破片の元に、這いずり寄ろうとしていた。

イズク「ば…馬鹿な奴等め……お…俺は不死身なんだ……」

イズク「まだ…まだ鏡は残ってる…!なんとかかき集めりゃ…俺はまだ…!」

落ちた鏡の破片に、イズクは左手で触れようとした瞬間。

なんと、鏡は音もなく、砂のように崩れ、消えていった……

イズク「え…あぁ……あぁぁ…鏡が…!?」

 

カムロウ「消えた!?なんで!?」

ルカ「不自然に消えたな……どういうことなんだ?」

ジョージ「勇者殿、これには推測できる訳が…」

 

ジョージ「あの鏡…反魂鏡というのは、本来は故人と一時だけ会う力を持つと伝えられてまして……死者を使役するなど冒涜に等しい行為なのです。」

ジョージ「鏡が無茶な使い方に耐えられなかったか……それとも…呼び出された魂の総意が、カタチとなって現れた結果かと…」

ルカ「うーん…なんだか、よくわからないけど………結局、【未だかつて邪は正に勝たず】…なのかな。」

ジョージ「……と、いいますと?」

ルカ「えーと……(よこし)まなことはどんなことがあっても、結局正義に勝てない、って意味です。」

ルカ「たしか…ジョージさんたちが住んでいた地方だと、【万物に神が宿る】という考えの風習があるんでしたよね。だとしたら…僕たちみたいに、正義の心を持った神様が、あの鏡にも宿っていて……その神様がそうしたんじゃないかって、僕はそう思います。」

そう言われて、ジョージはハッと何かに気付いた顔をした。

ジョージ「付喪神…!反魂鏡に宿る神が自ら望んだ事…ですか。」

ジョージ「……おそらく、勇者殿の仰る通りかと…」

 

イズク「そんな……そんなぁ……」

地面に倒れ込むイズクは、かなり落胆している様子だ。顔はぐしゃぐしゃになり、目からは大粒の涙を流している。

カムロウ「うわぁ。すごく、泣いちゃってるなぁ。」

マモル「自分に才能があると思ってた馬鹿の末路がこれかい。あーあ。やなもんだねぇ、目も当てられねぇや。」

するとイズクの身体から、光る粒子のようなものが浮かび始めた。

イズク「……? なんだこれ…?」

マモル「あー……反魂鏡の力に頼りすぎたなぁ。身体が耐え切れなくて崩壊し始めてら。もう魂が現世に留まれねぇんだな。」

イズク「…!」

マモル「死ぬんだよお前、このまま消えるんだよ。」

そう聞いたイズクは焦ったような顔をした。

イズク「嘘だ……!俺は…ここで…死ぬような男じゃ…!!!__」

 

ルカ「__いいや…負けたんだよ。お前は。」

 

ルカ「お前はここにいる、それぞれの【想い】……みんなの【大義】に負けたんだ。」

 

ルカ「【絆】こそ【大義】なんだ!お前は人としての道を踏み外した!自分自身の未熟が招いた結果を、すべて外のせいだと思い込んだ結果だ!直すべきところは世界じゃなくて、お前自身の内側だったんだ!」

 

ルカ「ここにいるみんなの、それぞれの想いに比べれば!お前の目指す大義なんて小さいものだ!」

 

ルカ「絆こそが!目に見えない繋がりや信頼こそが!!大義なんだ!!!」

 

 

イズク「__………いいよな、お前らは。」

なんだか諦めたような、無気力な顔になったイズクは、そう呟いた。

ルカ「……?」

イズク「そんなに必死になれてさ。」

そう言うとイズクは、その巨体のまま、地面に仰向けに倒れ込んだ。

イズク「昔から…生まれた時から、裕福な暮らしをしていたもんだから…自分には何かしらの、素質や才能があると思ってた。」

イズク「だから色んな事に取り組んでみたが、自分が思うよりも結果は出ねぇし…その度に蔑まれて……自分の力量の無さと、理想と現実の違いに絶望して……」

そして、大きなため息を吐いた。

イズク「俺って、何で生きてたんだろうなぁ……俺達、人間って、何で存在してんだろうなぁ……何がしたかったんだろうなぁ……」

そう言って、虚ろな目を、夕陽に焼けた空に向けていた。

しばらくすると、憐れんだような目付きで、ルカ達を見つめた。

イズク「俺はこのまま死ぬけど……お前らは、この先も生きるのか…?」

イズク「このつまんねぇ世界を。何やってもうまくいかないこの世界を。普通の奴が何しても変わらないこの世界を。」

イズク「生きてたって、つまんねぇだけだぜ。」

 

カムロウ「__それでも生きる。」

 

カムロウ「僕たちが今、生きている理由…存在する理由……」

カムロウ「もしかしたら、意味なんて無いかもしれない。ただ存在しているだけかもしれない。だとしても……」

カムロウ「【今】を生きなきゃ…明日はやってこないから……」

 

イズク「……お前は…生きたいのか?」

カムロウ「うん。僕は【今】を、みんなと一緒にいたい。」

カムロウ「それだけで良い。ただ…それだけで。」

 

それを聞いたイズクは、再び脱力した。

イズク「あぁ……そうかよ。」

イズク「じゃあな。せいぜい足掻けよ。俺は、お前らのムカつく顔を拝みながら、このまま死んでやるぜ。」

 

ルカ「……………」

ジョージ「行きましょう。勇者殿。」

ルカ「……あぁ。」

決着はついた。これ以上、何をしても、何もしなくても良い。

終始、心底腹の立つ奴だったが、戦いは終わったんだ。

僕たちはその場から去ろうとした__

その時だった__

 

ハーレー「__お前たち!今すぐそこから離れろ!!」

ハーレー「崖が崩落するぞ!!!」

遠くにいたハーレーが、ルカ達に向かってそう叫んだ!

ルカ「崩落だって…!?」

そう言われて周囲を見渡す。

自分たちがいるのは左右に切り立った崖がある谷底だ。

よく見ると、その崖が今にも崩れそうではないか!

小さい石がコロコロと転げ落ち、次第に辺りが揺れ始めた!

チリ「崩落って…!?どういうこと……」

パヲラ「雨で地盤が緩んだ上に、激しい戦闘の影響か……崖崩れが起きるぞ…!」

ラクト「やっべぇ!このままじゃあ、俺達巻き込まれんじゃねぇかよ!上だ!とにかく上に逃げるぞ!」

チリ「パヲラさんを運んで上まで!?行ける!?というか間に合う!?」

ラクト「行けるだけ行く!なんならお前だけでも逃げろ!」

ラクト「せっかく良い展開だったってのに、事故で死ぬってのは嫌だぜ!」

ルカ達はその場から避難し始めたが……崩落の範囲は想像よりも広いようだ。

今から移動しようにも、どう考えても、明らかに巻き込まれてしまう!

ハーレー「(これは間に合うのか…!?)」

ハーレーは迷っていた。

全員を谷底から上まで上げるとしても、全員は無理だ。

救出に向かおうにも、誰から先に助けるべきか。

張り巡らせた思考の中に、突如、響くような声が聞こえた。

カムロウ「(父さん!パヲラさん達だけでも避難させて!)」

ハーレー「何ッ!?」

間違いなく聞こえた声の主は息子のカムロウ。

風薙ぎ…生命エネルギーの応用で、自分たちだけ聞こえる思念波を飛ばしてきたのだ。

カムロウ「(僕の事はいい!なんとかする!)」

ハーレー「(……分かった!)」

ハーレーはパヲラ達に合流するよう駆け付けた。

そして、全身から魔力を放ち始めた!

パヲラ「何を…!?」

ハーレー「お前達だけでもここから移動する!」

ハーレー「移動魔法(ワープ)!」

パヲラ達は光に包まれ、高速で空中に浮かぶ上がった!__

 

カムロウとルカは、駆け足で谷底からの脱出を図っていた。

しかし、間に合いそうになかった。

瓦礫と土砂が後ろや前からなだれ落ちてくる__

ルカ「だめだ…!このままだと、僕たちも下敷きに!__」

カムロウ「こっちだ!ルカ!___」

大量の岩石が降り注ぐ中、カムロウはルカに向かって飛び込んだ!__

 

 

マモル「__間に合いそうにねぇなぁ…」

ジョージ「__…うむ。」

岩石や土が降り注ぐ中、マモルとジョージは背を向けながらも身を寄せ合っていた。

マモル「多分、勇者サマは大丈夫なんだろうけど…なんか、最後に言う事ある?」

ジョージ「…………」

 

ジョージ「悔いはない。」

マモル「そら同感でさぁ。」

 

やるべき事は成した。死力を尽くした。

あとは勇者様の無事を祈るのみ____

 

 

 

 

そう思っていた時だった___

 

 

イズク「__そいつぁ、困るなぁ…!」

 

次の瞬間、ジョージとイズクは宙を舞っていた。それも空高く。

いや、放り出されたの方が正しいだろうか。

視線を向けるとそこには__

イズクがいたのだ。

 

ジョージ「イズク…!?」

マモル「お前…!?」

イズクは何をしたのか__

彼は最後の力を振り絞り、その歪んだ巨体で2人を投げ飛ばしたのだ!

イズク「お前らはこの先も苦しみ続けんだよ!」

イズク「【生きる】って事になぁ!!!__」

 

イズク「(__どうだ見たか…!ざまぁみろ…!命を懸けたお前らのように……俺だってお前らと同じように! ()()()()()やったぜ…!!!)」

イズク「(だから…だから…この俺を……!!)」

イズク「俺を認めろおおおぉぉぉ!!!___」

 

 

最期の一声。

誰か聞こえたのだろうか。

誰か届いたのだろうか。

それは誰も知らず。誰にも分からず。

彼は土砂に埋もれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

崖の上__

空は夕陽に焼け、そよ風が吹いている。

所々に水たまりがあり、やや草が生えた地面に、ラクト、パヲラ、チリ、ハーレーの4人の姿があった。

一足先に、ハーレーの移動魔法で避難していた。

ラクト「移動魔法か……相当、魔力を消費するだろ。」

ハーレー「問題ない。魔法はあまり使わない。それに移動しようにも、俺にはこれしか方法が無くてな。」

すると遠くから、カムロウの姉リンドウが様子を見に来た。

先ほどの崖崩れの音を聞き、駆け付けてくれたようだ。

リンドウ「父さん!何があったの!?すごい音がしたけど…」

ハーレー「さっきの雨で崖崩れが起きた。そっちは?」

リンドウ「何ともないよ。村の門は壊れたままだけど。変な奴等(亡者)は消えちゃったし……」

ハーレー「そうか。」

 

リンドウ「それで…他の人たちは…?カムロウは?」

チリ「私達は助かったけど…他のみんなは…!? どうなったの…!?」

みんなは谷底…があった場所に視線を移す。

先ほどまで自分たちがいた場所は大量の土砂で埋まっていた。

パヲラ「あまり考えたくないが……もし巻き込まれたと仮定すると、捜索は絶望的だな。」

ハーレー「いや…カムロウのやつは…なにか考えがあるような素振りだったが…?」

すると、その土砂がボコッと盛り上がり、中からドラゴンが這い出てきた!

よく見るとその土まみれのドラゴンの身体の下に、ルカの姿があった!

ルカ「た…助かった…!ありがとう、カムロウ。」

ルカ「あの時、咄嗟に僕を庇って、覆い被さってドラゴンに変身してなかったら…今頃ぺしゃんこだったよ……」

 

ハーレー「…どうやら、無事のようだな。」

ラクト「流石だぜカムロウ!あの時ドラゴンに変身して、なんとか助かったんだな!」

ラクト「ドラゴンの力は折り紙付きだぜ!あのパワーとタフさだったら、土砂に埋まってもなんとか脱出できんだな!」

ラクト「……あぁ………良かった………」

 

チリ「あと…ジョージさんとマモルさんは…?」

パヲラ「そこにいる。」

パヲラが指さしたその先に、ジョージとマモルは座り込んでいた。

ラクト「おぉ!お前らも逃げれたんだな!」

安否の確認が出来て安心したのか、ラクトは2人に走り寄る。

そして、少し気まずそうな顔をしながら質問をした。

ラクト「えーと…こんなこと聞くもアレなんだが…イズクはどうなったんだ?多分だが…俺達、確認出来てないっぽいんだ。」

マモル「イズクか…アイツは……」

ジョージ「……………」

ラクト「…………?」

ジョージとマモルは、まるで思いつめるかのように、谷底に視線を落として動かなかった。

 

 

 

少し時間が立ち……

夕陽は沈み半分だけ顔を出している。空はやや暗くなりつつある頃だった。

崖の近くには、墓標のような岩が立っていた。

岩には、こう刻まれていた。

 

__沼守イズク、ここに眠る___

 

その墓標の前にいたのは、ジョージ、マモル、ラクトの3人だった。

ラクト「良いのかよ…墓まで立てちまって。仇じゃあなかったのかよ?」

ジョージ「……そうだ。奴は仇だ。拙者たちとは相容れない存在だ。」

マモル「正直言うと、今でも憎んでるよ。顔も思い出したくねぇ。」

 

ジョージ「だが奴は…その最期に、己が命を懸けて我らを救った。」

ジョージ「互いに相容れないはずにも関わらず……あの時、我らを助ける利点など、あるはずもないのに……生かしたのだ。我らを。」

 

ジョージ「奴が最後の力を振り絞りとった行動…それには、仇といえども、払える敬意があった。」

マモル「自分は劣等者だとか言ってたくせによ……なんだよ。あったじゃねぇかよ。誇らしいモノがよ。」

 

ジョージ「どうやら我々は……生きねばならないようだ。敵と言えども、イズクの最期の意思。次いで生きねばならない。」

ジョージ「奴がつまらぬと評したこの世界を。生きてこの先も、我々は苦しまねばならない。」

 

ラクト「……それは…呪詛ってやつか?」

マモル「いや………」

 

マモル「(まじな)いだ。」

 

ラクト「………そうか。」

ラクト「…村に戻ろうぜ。ルカやみんなが待ってるからよ。」

そう言うとラクトは、一足先に、ルカ達がいるコロポ村に戻っていった。

マモル「行こうか、お前さん。」

ジョージ「……うむ。」

すこし立ってから、2人も墓の前から立ち去った__

 

 

 

例え弱い人間だとしても。

例え誰かに劣っていても。

命を懸けて起こす行動に。

命を懸けて起こした【光】に。

優劣なんてない。

誰にだって言える。

 

 

 

 

 

 

 

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