もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
ルカ「よし、ナタリアポートに行ってみよう!「魔物に偏見を持っていない冒険者」への依頼を受けに、メイアという人に会いに行くんだ!」
アリス「やれやれ、つくづく貴様はドアホだな。旅の目的を忘れたのか?」
ルカ「魔王城に行くことだけが、僕の目的じゃないよ。少しでも人と魔物が仲良くなれるように、出来ることをしたいんだ。」
アリス「やれやれ……」
気が乗らない様子のアリスを連れ立ち、僕達はナタリアポートへと進路を向けたのだった。
ルカ「さあ、行くぞ!__」
サン・イリアから離れ、平野を歩く僕達。
ラクト「ホントにナタリアポートまで引き返すのかよ……3日も掛かったこのルートをか!?」
カムロウ「俺は丁度良かった。ナタリアポートには用があったから。」
気が乗らないのはアリスだけじゃなかったらしい。ラクトは不満をタラタラこぼす。
チリ「そんなに嫌なら、
ラクト「お前な……移動魔法はどえらく高等な魔法だぜ?あまりの魔力の量に、俺様の体が耐え切れなくて粉になっちまうわ。」
チリ「なら【ハーピーの羽】買えばいいじゃない。」
ラクト「あんな高いモン買えるわけないだろ……いくらすると思ってんだ……」
ジョージ「とはいえ、一度通った道だ。以前よりも時間は掛からないはず。」
ルカ「ああ、今のところ順調に進んでいるしな___」
__その一瞬、僕の視界に…【黒い何か】が物凄い速さで、僕達に向かって飛んでくるのが見えた__
ルカ「__みんな伏せろ!!」
僕はソレに対して、身の危険を感じた。
咄嗟に叫んだものだから、仲間たちは困惑の声を出すが、反射的に身をかがめた。
【黒い何か】……黒く蠢く、禍々しい塊だった。そして間もなく、【黒い何か】が地面に伏せた僕達の上を風の如く通り過ぎた。
ルカ「な、なんだ…今のは…!?」
突然の襲撃か……!?__
目の前を見ると、そこには黒いマントに身を包んだ者が一人いた。
端正な顔立ちをしていた。中性的だが…男っぽい。
ルカ「な、なんだお前は…?野党か…?」
???「………………」
仮に目の前にいるこの男が野盗だとしても不可解な所がある。それは、身なりが良い事だ。
シルクの布のような白い肌。
艶のある髪。風に吹かれて、ユラユラとなびいている。
光をも飲み込むような漆黒のマント。
腰には赤いダガーナイフと白いメイス。
背中には銀色に輝く剣…サーベルかな。
貴族の人間と言われても疑えないくらい格好で、とても野盗とは思えない恰好をしていた。
???「サン・イリア城でグランベリアを撃退したという少年……君が勇者ルカか?」
ルカ「えっ…!?そ、そうだけど……」
???「………………」
しばらくこちらを睨みながら黙り込むと、ふと呟く。
???「ふむ、情報通りの少年だな……君のような少年が、グランベリアを撃退したというのか?信じられんな……」
しかも、僕の事を知っているというのだ。
その男は、ある程度距離を取りつつも、ゆっくりと僕達に歩み寄ってくる。
ルカ「な、なんだお前は…!?僕が狙いか…!?」
???「そうだ。」
ルカ「理由はなんだ!?金か!?」
???「お前が【勇者】だからだ。」
ルカ「僕が勇者だから…?何言ってんだアイツ……」
会話になってないぞ……勇者だから狙うってどういうことだ……?
すると、マモルとジョージがハッ…と、何かに気が付いたような反応をした。
マモル「…待てよ……まさか…!」
ジョージ「あぁ…!もしかすると、あの噂は本当かもしれん…!」
そして、僕を庇うように二人は前に出てくる。
ジョージ「下がるのだ、ルカ殿!この男…【勇者狩り】だ!!」
ルカ「【勇者狩り】…!?誰だ…?」
名前からして物騒だ。只者じゃないということだけはなんとなく分かるが……
パヲラ「まさか…【漆黒の魔剣士】…!?」
マモル「ダンナも知ってるんで?」
パヲラ「ええ、聞いたことはあるわ……」
チリ「な、なんですか…【漆黒の魔剣士】って……」
パヲラ「それは___」
__数年前…ゴルド地方とノア地方で、【勇者】を名乗る戦士は、旅の道中で【黒い剣士】に襲われるという噂話が流れた。
その【黒い剣士】は、卓越した剣術の持ち主で……狙われた者たちは、命こそを奪われはしなかったが、ひどく打ちのめされたという話だ。
疾風のようにやってくるも闇のように消え、跡を残さず去る……
剣士の目的は、【勇者であること】ただ一つ。それ以上でもそれ以下でもなかったそうな。
人間の仕業なのか、それとも魔の者の仕業なのか……流れるように付いた異名は…【漆黒の魔剣士】__
彼に襲われ、敗走したという強者は数知れないと……
ルカ「それが…【漆黒の魔剣士】…?」
ラクト「そんな強ぇヤツが、ナタリア地方に南下してきたっていうのかよ!?」
カムロウ「しかも目の前にいる……!」
???「どれどれ…顔をよく見せてくれないか。ここからじゃよく見えない。」
【漆黒の魔剣士】は、僕達の方に歩み寄ってきた。
それに対して僕達はますます警戒を強める。
ジョージ「止まれ、何をするつもりだ。」
???「どうもしないさ。なにも…そうも毛を逆立てたままだと、自己紹介すらロクにできんだろう?」
ルカ「…………」
ルカ「名乗るくらいなら……」
僕は前に出て、【漆黒の魔剣士】の近くに寄ろうとした。
ジョージ「ルカ殿、危険だ!信用できる相手ではない!」
ルカ「わかってる。」
ルカ「みんな、何かあったらすぐに動いてくれ。」
仲間たちは静かに頷いてくれた。
僕は、【漆黒の魔剣士】の前に立つ。
彼は身長が高いようで、僕の目線だと見上げるほどだ。
???「ほう……良い眼をしている。真っ直ぐな眼だ。」
そして【漆黒の魔剣士】は、手を差し伸べて来た。なんら不自然な動きすらない、友好的な動きだ。
???「オレの名は【ワトライバ】…よろしく。」
ルカ「…………」
恐る恐る手を伸ばして、握手を交わす。
ここまでは異常もなにも変わりない。殺気すら感じない__
ワトライバ「__さて、これが避けれるか?」
ルカ「え…?___」
__その刹那、ワトライバは背中にあるサーベルを右手で抜いて一閃してきた!
ルカ「くっ…!」
僕はすぐさま後ろに飛び退いて回避した!
しかし、間一髪…か?反応が少しでも遅れていたら、首が飛んでいたかもしれない……
ルカ「やっぱり僕が狙いか…!」
ワトライバ「ほう。身のこなしはなかなかのようだな。」
ラクト「野郎…攻撃してきやがった!じゃあ撃っても構わねぇよな!」
ラクト「
すぐさまラクトが魔導銃で、ワトライバに向けて数発、発砲した!
ワトライバ「遅いッ!」
ワトライバは、腰から刀身が赤いダガーナイフを左手で抜き、逆手持ちした!
そして発射された魔弾を、ナイフを振り回して弾いた!!
ラクト「は!?」
ワトライバ「魔力を弾丸にして飛ばす武器…か。面白い発想だが、この程度でやられるようなオレではない!」
ルカ「ならこれならどうだ!」
僕は抜刀して、ワトライバに魔剣・首刈りを仕掛けようとした。
しかし、剣先が首元まで迫った瞬間、ダガーナイフの刀身に遮られて防がれてしまった!
ルカ「な…!」
ワトライバ「惜しいな。だが、いい動きだ。」
今、僕はワトライバに剣を突き差したままだが……動こうとすると、ワトライバが右手に持っているサーベルで切られるような
ルカ「くっ…!」
パヲラ「この強さ…!やっぱり本物の【漆黒の魔剣士】としか…!」
ジョージは抜刀して、ワトライバに斬りかかろうとした!
ジョージ「助太刀を!」
ワトライバ「全員、動くな!勇者の首が飛ぶところを見たいのか!」
カムロウ「そんなモン俺は見たくねぇな!」
そう言い終えた時、カムロウは持っていた鉄の盾を投げ飛ばした!
ワトライバ「うおっ!?」
ワトライバは僕の剣を跳ね除け、左手のナイフで盾を跳ね除けた!
カムロウは
ワトライバ「まだ若いな!この世界で生きるならば、人の首が飛ぶところを必ず見ることになるぞ!!」
右手で持ったサーベルで、飛んでくる火炎弾を斬り伏せるワトライバだったが…
ワトライバ「その殺意という刃が自分にも向くということを!」
火炎弾を一発、サーベルの刀身に浴びせた!
ワトライバ「その身体に刻み教えてやろう!!!」
するとサーベルは着火されたかのように燃え盛った!
ルカ「な、なんだあの燃える剣は…!?」
ごうごうと燃え盛る。いや、噴き出してる!?
カムロウ「俺の拳を、アイツに叩き込むッ!!」
ワトライバ「食らえ小僧ッ!そして身の程を知れェェーッ!!!」
燃え盛るサーベルを構えたワトライバ。
それを前にしてもなお、ひるまず近づくカムロウ。
ルカ「カムロウ!止まれェェ!」
僕の制止の声は届いたのかどうか。カムロウは止まることはなかった。
ワトライバの剣が、カムロウの拳が、互いにぶつかり合った__
__……まだ。
__まだ【その時】ではない。
__まだ【待っている】。
__我らが御子よ。まだ【死ぬ時】ではない。
__力を欲するならば。
__力を我物とするのだ。
__故にこの力を渡そう_____
__その刹那、カムロウの右腕が、異様に膨れ上がった!!
カムロウ「う…!?」
胎動するかのような動きを見せた後、内側から皮膚を破くかのように、
__カムロウの腕が、ドラゴンの腕に変化したのだッ!!!
ワトライバ「な…なにィッ!?」
カムロウ「お…俺の腕!?」
ドラゴンの腕に変化したカムロウの腕は、ワトライバの燃え盛るサーベルを簡単に受け止めた!
ワトライバ「受け止めたのか…!?オレの剣を!?」
カムロウ「これはなんなんだァァァ!?なんで俺の腕がこんなになるんだァァァ!?」
ルカ「え…!?なんでカムロウの腕があんなになるんだ…!?」
ラクト「分かんねぇ!あれもアイツが持つ力か!?」
パヲラ「それにしてはカムロウちゃんが一番驚いているように見えるけど……」
チリ「ねぇ、カムロウ!その腕、痛くないの!?」
カムロウ「うん、痛くも痒くもないんだけど……どうなってんだコレ……」
ワトライバ「……そうか…そういうことか!」
後ろに飛び退いて後退したワトライバは、剣を構えながらも話を続けた。
ワトライバ「何が起きているか良く分からんが、辻褄が合ったぞ!」
ワトライバ「ドラゴンとはお前の事か!」
ワトライバ「フフ……そうか…そうか、そうか。フフフ……」
すると、ワトライバは笑いながら武器を懐にしまってしまった。
あっさり戦闘態勢を解いたのだ。
カムロウ「オイ!なんで武器をしまった!?」
ルカ「今度は何をする気だ…?」
ワトライバ「興覚めだ。オレは帰らせてもらう。」
ルカ「か、帰る…?帰るのか…?」
先に仕掛けておいて、なんとも身勝手なヤツだ。
ワトライバ「どうやら君は、そこらの勇者紛いとは違うようだ。」
ルカ「勇者紛い…?」
ワトライバ「ああ。だから狩る理由が無くなった。」
ルカ「……?」
聞けば聞くほど、ますます謎が深まる奴だ。
ワトライバ「ところで勇者……ルカといったな。君には後ろ盾がいるな?」
ルカ「う、後ろ盾…?なんのことだ?」
ワトライバ「君たちには、魔物の協力者がいるのか?」
ルカ「………!」
すこし、汗が出た。僕は今、動揺したのか?
ワトライバ「その剣技を、【魔物】が編み出した技を【人間】の君が使っている、しかもかなりの使い込み。その技は猿の真似事程度で扱える代物ではない。ということは……魔物から教わったと考えるほうが的確だろう。」
ワトライバ「教えた魔物がグランベリアかと思ったがどうにも考えにくい。別のヤツだな……?」
ルカ「……………」
こいつ、かなり鋭い。
ワトライバ「誰に教わった?」
ルカ「それは……答えられない。」
ワトライバ「そうか。今の質問は気にするな。そんなことを知ったところでどうするわけでもないしな。」
ワトライバ「では、失礼するとしよう。まぁ、諸国漫遊を楽しむことだな。」
そう言うとワトライバは僕達に背を向いて、どこかに行こうとする。
ワトライバ「…だが__」
ワトライバ「近いうちに、お前たちとは戦うことになるだろうな。」
ルカ「なんだって…?」
ワトライバ「さっきの興覚めというのは、お前達がまだ【狩る】に値しないということだ。」
ワトライバ「お前達が【狩り】に相応しい強さを持った時、オレから出向いてやる。」
ルカ「…………」
つまりこの先、また僕達の前に現れる。ということか……
ワトライバ「あと最期に一つ、言っておこうか……このナタリア地方にはオレの仲間が何人か散らばっている。」
ルカ「ええっ……!?」
こいつ、
チリ「そういえばさっき、【情報通り】とか言ってたような……」
ラクト「どこから情報が漏れてんだよ…!?」
ワトライバ「フッ……気を付けるんだな。特に背後を。このオレが、闇夜に紛れてお前たちを見ていると思え……」
ワトライバ「さらばだ、勇者御一行団体様。」
ワトライバ「そして!魔剣の勇者と、龍の戦士!再び相まみえる時を楽しみしているぞ!!」
ワトライバ「
そう叫んだワトライバの体を、影が包み込んだ!
するとワトライバは音もなく消えてしまった……
ルカ「………………」
カムロウ「あっ、腕戻った……」
人の腕に戻ったカムロウは、問題ないように腕をあちこちに動かしていた。
ルカ「なんだったんだ…アイツ……」
ラクト「俺たち、とんでもないのに目ェ付けられちまったんじゃねぇか…!?」
形容し難い不安という気持ち。常に狙われているのではないかという焦燥感。
僕たちに残ったのは、そういった気持ちだった。
ジョージ「…ルカ殿。いかがなさいますか。一度戻って態勢を立て直すのも良いかと。」
ルカ「…いや、このままナタリアポートに進もう。」
僕たちはここで止まっているわけにもいかない。
ワトライバ…奴のことも気がかりではあるが、だからといってどうこうできる問題じゃない。
今は出来ることをしよう。と、僕は考えた。
こうして僕たちは再び、ナタリアポートに足を進めた__