もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
僕達は、サン・イリアで一泊したあと出発し……
地図を見ながら、わずかに残っている道を辿り……
森を抜け、しばらく歩き……
すっかり時刻は夜。
問題の屋敷の前へと立っていた。
ルカ「……思ったより大きいな。」
パヲラ「ちんちんが?」
ルカ「黙れッ!」
屋敷は古びていながらもどっしりと構えている。
しかしながら、長い間誰も住んでいないかのような雰囲気を醸し出しているのは明確だった。
草木は手入れがされず伸び放題だし、枯葉も大量に落ちている。
窓だってひび割れてる。
ルカ「それに、何か嫌な雰囲気だ……」
チリ「いやそれは…わざわざ夜に来るからでしょ……せめてどっかで休憩挟んで、朝に来ればよかったのに……」
ルカ「しょうがないだろ……遠出なんだから……」
アリス「………」
ルカ「どうした、アリス……?」
平静を装ってはいるが、どこか怯えているような気がしてならない。
ルカ「なぁ。なんか知ってるか?」
カムロウ「いや、分かんない……さっきからこんな感じなんだよな。」
魔王を怯えさせるほどの脅威が、この中にあるというのか?
周りを軽く探索する。
屋敷の脇には、小規模の墓地のようなものがあった。
そう広くはない敷地に、無数の墓石が並んでいるのだ。
ルカ「ここは墓地か……」
ラクト「うっひぇえ~……こういうの言うのも悪いと思うけどさ、雰囲気出てんなぁ……静かなのが余計にさぁ……」
ジョージ「……ナンマンダブ。」
マモル「ナンマンダブ。」
ルカ「おい、アリス見ろ……あっちに墓があるぞ。」
アリス「そんな事、気付いておったわ!気付いているが、あえて見なかったフリをして黙っておったのだ!それを、わざわざ言うドアホがいるか!貴様は、女心のまるで分からんドアホだ!」
なんだか分からないが、怒られてしまった……
パヲラ「集合墓地かしら……それとも共同墓地?」
ラクト「どっちだよ。」
ともかく、ここは墓地だったようだ。
町の人から聞いた噂話でも、確かそういうのがあったはず。
少女の幽霊や悪い魔導師などの噂は、単に尾ひれがついただけなのだろうか__
ルカ「ん……?」
ふと見ると、二階の窓から……小柄な少女が、こちらを見下ろしていた!
ルカ「アリス、みんな!今の見たか!?」
カムロウ「え?何を?」
ルカ「二階から、こちらを見下ろす少女が……」
ラクト「うえっ!?」
アリス「ひぃっ!!」
次の瞬間、アリスは僕の背中にさっと隠れてしまった。
さっきからの不審な態度は、まさか__
ルカ「アリス……ひょっとして、幽霊が怖いのか?」
アリス「そ、そんなわけなかろう!余が怖いのは空腹のみだ!」
ラクト「あぁ怖いモノはあるんだ。」
ルカ「そうか……まあとにかく、中に入るとするか……」
アリス「ならん!」
アリスは、
アリス「貴様は勇者なのだぞ、己の使命を忘れたのか?こんなところで遊んでいる場合ではあるまい!」
ルカ「魔王に勇者のなんたるかを説教されても困るんだけど……」
しかも、アリスの上半身は毅然とした態度だが、下半身の蛇はぷるぷると震えていた。
そんなに幽霊が怖いのか……?
ルカ「サン・イリアの人達が、この屋敷を恐れているんだ。その悩みを取り除くのも、れっきとした勇者の使命だよ。」
ルカ「まさかアリス……魔王ともあろう者が、幽霊が怖くて中に入れないとでも?」
アリス「そ、そんな訳があるか!へっちゃらだぞ!」
マモル「なら問題ナイっすね。」
ルカ「じゃあ、行くぞ。」
アリス「あ、ああ……」
こうして僕たちとアリスは、屋敷の中へと入ったのだった。
さっき見た少女は、本当に幽霊なのだろうか__
軋む音のする扉を開けて、エントランスに入る僕たち。
チリ「中は思ったより……」
ルカ「随分と荒れ果ててるな……」
床や壁はボロボロ。シャンデリアには埃が。
絨毯も穴だらけだし、天井から開いた穴から月の光が漏れてる。
どこか年季があるという感想も似合いそうだ。
アリス「…………」
アリスは僕の背中に隠れ、めっきり無言になってしまっている。
ラクト「うーん…金目のモノは期待できなさそうだな……」
そう言いながら、ラクトは棚や引き出しを物色している。
ラクト「うわ!ゴキブリ出てきた!!」
カムロウ「ゴキブリ出てきた!!」
ルカ「何してんだっ!?」
屋敷に入るなり、僕たちはそれぞれランタンに明かりを点けて持つ。
ラクト「ケッ…おいなんだよ、安物に当たっちまったか?」
ラクトが持っているランタンがチカチカと点滅していた。
ラクト「燃料切れかァ?ちょっくら探索がてらランタンとかでも探してくるわ。金品は無ェと思うけど……まぁ蝋燭か油ぐらいはあるだろ。」
ルカ「おいラクト、1人じゃ……勝手な個人行動は危険だぞ。」
アリス「出るんだぞ……幽霊が……!」
ラクト「んなモンどうせ眉唾モンだろお前……業務用聖水まで買っておいて何言ってんだが……」
ラクト「こんだけ広くて立派な屋敷さ。噂好きの野次馬のせいで変な足でも生やされたんだろ。」
そう言い残し、ラクトは暗闇の廊下へと消えていく……
マモル「アイツは死んだな。」
チリ「まぁ…良いヤツだったよ。」
カムロウ「いやまだ死んでないって!!」
チリ「死ぬ前提なんだ……」
ルカ「1人で大丈夫かアイツ……トラブルメーカーだし……」
また厄介事を持ってきそうだな……
そう思いながら、今いるエントランスを細かく調べる。
長いこと手入れをされてない観葉植物や美術絵や小道具が飾ってあるだけで特に問題はない……
ジョージ「これは……かなり趣のある壺だな……」
パヲラ「あらジョージちゃん。骨董品に興味があるの?」
………ぁぁぁ……
カムロウ「ん?」
ルカ「え?」
………あああ……
アリス「ひっ………!」
チリ「え?なに?聞こえたよね!?聞こえるよね!?」
ドタドタと走るような音が、廊下の奥から聞こえてくる…!?
ルカ「なにか来るぞ…!___」
ラクト「__あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「「「いやお前かーっ!!!」」」
叫びながら飛び出て来たのは、さっき探索に赴いたラクト本人だった!
チリ「いやあああぁぁぁ!!!」
チリは恐怖で、ハンマーを振り回した!
ラクトに70のダメージ!そのまま壁に激突した!
ラクト「ぎゃあああああああ!!!」
「「「うわあああああ!!?」」」
ルカ「なんだよお前ややこしいな…!……っておい!?どうした!?」
呆れた僕だったが、それに対してラクトは顔面蒼白で冷や汗まみれだった。
ラクト「で……で……ででででっ……でででっ……」
パヲラ「デリヘル?」
ルカ「黙れッ!」
ラクト「出たんだよ…噂通りに…!」
ラクトが指さした方向。暗闇の廊下から這い出てきたのは___
ゴースト娘が現れた!
ルカ「あれは……?」
チリ「きゃああああ!!!ホントに出たぁーッ!!!」
アリス「ひぃっ!!ゆ、幽霊!?」
アリス「……なんだゴーストか、驚かせおって。幽霊かと思ってしまったぞ……」
カムロウ「似たようなモノじゃ…?」
ルカ「その……正直、ホントに違いが分からないんだけど……」
アリスが怯えている幽霊と、目の前のゴーストはいったいどう違うんだ?
アリス「ゴーストは、人の魂を媒介として魔素が集まって生まれた魔物だ。非科学的な幽霊などとは、全く異なる存在。こんな奴、とっとと片付けてしまえ。」
アリスはそう言って、姿を消してしまった。
ゴースト娘「人間の精気……私に吸わせて……」
ルカ「断る!」
ゴースト娘を前に、僕は剣を構えた!
…が、僕にはある懸念がよぎった。
ルカ「……待てよ。コイツに攻撃が通じるか…?」
ゴーストと名がある以上、実体が存在しないようなモンスターだが……剣での攻撃が通じるのだろうか。
パヲラ「通じると思うわ。」
パヲラがそう言い切った。
パヲラ「その剣の特徴は、斬った対象の【魔素を消散する】って、以前アリスちゃんが言ってたでしょう。」
僕の持つ墜剣エンジェルハイロウ……確かそんな話だった。
パヲラ「魔素が集まって生まれた魔物なら、なおさら斬れるんじゃないかしら?」
ルカ「そうか……よし!」
モノは試しだ!この際、斬れるかどうか確かめてみよう!
カムロウとジョージは、ゴースト娘に斬りかかった!
しかし、刃は身体をすり抜けてしまった!
カムロウ「通り抜けた!?」
ジョージ「む…!?当たらぬ!?」
ゴースト娘「吸わせて……」
ゴースト娘は二人の身体を掴むと、
「「にょおおおおおお!!!」」
二人はドギュンドギュンと命を吸われていく…!
ラクト「ひいっ!こ…これでも食らえ!」
ラクトはガタガタと震えながらも、魔導銃を構えて発砲した!
ポスン………
頼りない発砲音がした……
ラクト「はぁ!?
「「にょおおおおぉぉぉ………」」
ゴースト娘に命を吸われる二人は、身体に生気を感じさせなくなっていく…!
マモル「ちょいとそこまで!」
懐から札を出し、投げつけるマモル。
ゴースト娘の手に札がくっつくと、電流のようなモノが走る!
ゴースト娘「いたい……!」
するとゴースト娘は2人の拘束を解いて離れる……
マモル「いやぁ、破魔札作っておいて正解だったさぁ。」
パヲラ「ねぇちょっと大丈夫!?」
「「ダメそう………」」ゲッソリ
チリ「うわ!スルメになってる!」
ルカ「(うわぁ…ゲッソリしてる…!)」
救出されたカムロウとジョージは、痩せこけてしまっている…!
ゴースト娘「もっと……もっと……」
ルカはゴースト娘に組み敷かれ、押し倒された!
ルカ「(まずい!このままだとさっきみたいに…!)」
生命を吸われる…!
ルカ「させるかっ!このおっ!」
ルカは剣を、ゴースト娘に突き刺した!!
ゴースト娘「いたいよ……」
確かに斬った感触がした!
ルカ「やっぱり!攻撃が通じるぞ!」
この墜剣エンジェルハイロウは、実態を持たない魔物にさえ効果があるようだ。
さすが、天使達を溶かして造った剣。
そう考えると、ありがたい剣だ……
ルカ「……んなわけあるか!やっぱ気味が悪いよ!」
__ぉぉぉぉぉ……
ルカ「ひぃっ!なんかしゃべった!」
ゴースト娘「ブツブツブツ………」
ゴースト娘は何やら、念仏のようなモノを唱え始めた…?
ルカ「なんだ急に…?……なんか、身体が冷たい…!?」
……なんだか、急に悪寒がし始めた…!?
チリ「それってまさか…
ルカ「えぇ!?」
ただでさえ寒く感じているというのに、血の気が引いた気がした…!
ルカ「きえええぇぇぇぇっ!!!もうどうにかなれええええぇぇぇぇぇ!!!」
僕は半狂乱になりながら、ゴースト娘にやたらめった斬りをした!
ゴースト娘「い…いたい……いたいって………」
ゴースト娘「私の……力が……」
ゴースト娘は人魂のような姿になった!
ゴースト娘をやっつけた!
ルカ「ふぅ、終わったか………」
ため息を吐き、剣を鞘に納め、汗を拭う。
ルカ「なぁアリス。やっぱりあの魔物って幽霊と似たようなモノじゃないのか?」
「……………………」
……あれ?
返事もなく、シーンと静まったままだ。
周りを見ても、アリスの姿がない。
ルカ「……アリス…?」
普通ならこのタイミングで現れるアリスだが……
今回はまるで気配がない。
ルカ「一応確認しておくか…点呼。」
マモル「あい。」
パヲラ「ハァイッ!」
ラクト「はい……」ガタガタ…
カムロウ「はい……」ゲッソリ…
ジョージ「はい……」ゲッソリ…
チリ「隊長。約3名。体調不良です。」
ルカ「見ればわかるよ……」
やっぱり、アリスの声もしないし姿も見えない。
ルカ「……どうしたんだ、あいつ……?」
どこかではぐれてしまったのだろうか。
魔王である以上、モンスターに襲われることはないだろうが……
ルカ「う~ん…ここでのんびり待っているわけにもいかないな。屋敷を調べてみるか……そのうち出てくるだろ……」
カムロウとジョージが応急処置を受けている間に、僕は作戦を練っていた。
ルカ「今のゴースト娘だけじゃ、ホンモノの幽霊がいるのかどうかは、まだ分からないな……けど、魔物がうろついているのは確かだね。」
パヲラ「今みたいな魔物が、噂好きや肝試しの来訪者を狙って命を奪っていたかもしれないわね……」
ルカ「だとしたら、ここを野ざらしにして帰るわけにもいかないな……」
勇者として、人々に害をもたらすモンスターは退治しなければならない。
ルカ「二手に分かれようか。万が一のために、何人かはここに残ってくれ。」
話し合いの末……
エントランスに残って待機するのは、パヲラ、ラクト、チリ。
僕と一緒に屋敷を探索するのは、カムロウ、ジョージ、マモルとなった。
僕たちは二手に分かれて、屋敷の中を歩き始めたのだった_
__廊下を抜け、1階の各部屋を調べ回った。
食堂に台所。娯楽室。ダンスホール。倉庫。
特に変わった様子も、魔物がいるような気配も痕跡もなかった。
ルカ「2階へ行くか……」
階段を上がろうとすると、その脇に人形が落ちているのが目についた。
ルカ「ん……?」
かなり大きく、そしてこの屋敷には似合わない東洋風の人形だ。
ジョージ「ひな人形か?」
マモル「アホか。よく見てみ。東方「風」だ。球体関節が付いてる。」
ルカ「なんか、妙な感じだな……」
その人形の前で立ち止まった時だった。
人形はゆらりと動き、起き上がったのだ!
呪いの人形娘「おにいちゃん……あたしと……あそぼうよ……___」
呪いの人形娘が現れた!
カムロウ「動いた!?」
ルカ「こいつも、魔物なのか!?」
人形はふわりと浮かび、笑みを浮かべながら襲い掛かってくる!
得体の知れない人形モンスターを前に、僕は剣を抜いた!
マモル「___はっけいィ、破魔札ァ!悪霊退散ンンッ!!!」
顔面に札を張り付けられる!
呪いの人形娘「~~~~!!!」
ルカ「うええええぇぇぇっ!!?」
呪いの人形娘「あそびたい……もっと……」
姿が薄れ、消えていく……と思ったら、何も変わらずそこに転がっていた。
しかし指一本動かず、まるで本物の人形に戻ってしまったかのようだ。
呪いの人形娘をやっつけた……
ルカ「マモルよく気付いたな……」
マモル「いやぁ。ここの妖が不意打ちしそうだなと思ってたら動いたモンなんでねぇ。」
ルカ「こんなモンスターもいるんだな……」
動かなくなった人形を手に取り、そう呟いた。
ジョージ「東方の人形か……状態が良いのを見るに、大切にされていたのだろうな。」
ルカ「ああ…そうだろうな。」
階段近くの棚に、人形を丁寧に置く。
動かなくなった人形の脇を通り、僕たちは階段を上る__
ラクト「そういやさっきさァ、お前が俺をブン殴ったせいで腕が折れたみたいですけど。」
チリ「おかしいな…私、頭狙ったハズなんだけど……」
ラクト「いや謝罪しろよ!」
チリ「ごめんね。回復する?」
ラクト「あぁ、大丈夫。魔力を無駄遣いするわけにはいかねぇだろ。」
チリ「……?」
ラクト「実はさっき見つけて、わざと残しておいたんだよな。」
ラクトは部屋の隅に置いてある鉢植えに近づく。
チリ「……何してるの?」
ラクト「え?体力回復………」
チリ「は?え?ソレ…薬草じゃないよ?ただの観葉植物だよ?」
すると、植えてあった植物を掴み取り始めた。
ラクト「いやこれ…ハーブですけど……?」
チリ「…えぇ?」
ラクトが観葉植物をモシャモシャと口にすると、ギュギュギュギュンと音がした。
チリ「え!?何!?今の音!?」
ラクト「何って……体力が回復した音だろ?」
チリ「さも当たり前みたいに言わないで!?」
ラクト「うっし。治った!」
片腕をブンブン回すラクトに、豆鉄砲を喰らうチリ。
チリ「え…?はい…?えぇ…??」
ラクト「赤いの欲しいな。あと欲張って黄色も。どっかに無ェかな。」
チリ「えぇ…なに言って……??ね、ねぇパヲラさん?人間って普通、草食べてすぐに傷が治るというか、身体が再生するなんてしないですよね?」
パヲラ「え?ハーブはするわよ?緑と赤の組み合わせは全回復よ?」
チリ「ええええ??」
ラクト「俺ェ黄色は全部売っちまってたんだよなぁ。金になっから。」
パヲラ「黄色って上限まで達しちゃうと売るしかないわよね。」
チリ「えぇ…?えぇぇ……?何…?私がおかしいの…?夢でも見てるの…?」