もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第26話 眠り静まる屋敷

もう動かなくなったフレデリカ。

その体に突き刺した剣を引き抜いて、辺りを一望する。

ルカ「ここは……」

床が抜け、落ちた先の地下空間。

そこは…なんと広大な墓地となっていた!

おそらく地下墓地。屋敷の地下には無数の棺が並んでいたのだ。

パヲラ「大きな屋敷には地下室が付き物よん。クロムはここを研究施設として利用していたのね。」

ルカ「今までのゾンビは全部、ここから呼び出してたのか。」

 

クロム「貴様……!何ということをしてくれたのだ……!」

僕の前に、クロムが立った。

クロム「研究所の床を抜いたのはともかく、フレデリカを壊すとは……!あいつは、儂の最高傑作だったのだぞ!それを……!__」

 

ルカ「__……人間の死体は、オモチャじゃないんだ!死者の安らかな眠りを乱し、苦しませるなんて許さない!」

クロム「ええい!非科学的な!死体などただのモノに過ぎん!」

ルカ「なんだと………!!!」

死体などただのモノに過ぎない__

その言葉がとても許せなかった。

僕は怒りをむき出しにしてクロムを睨む。

 

クロム「う……き、今日はこの辺で勘弁してやる!」

 

___クロムは逃げ出した!

 

ルカ「待て、逃げるな!」

 

ルカ「まだ反省の言葉を聞いていないのに、逃がしはしない!」

ラクト「お前地味に鬼だな……」

 

マモル「あ、あの、助けてください……体が麻痺してて動けません…………」

ルカ「今すぐ追いかけるぞ!」

マモル「えっ、あ、あのー!聞こえてますー!?」

カムロウ「あぁダメだ。聞く耳持ってない。」

 

どうやらクロムは、どこかに隠れてしまったらしい。

ルカ「……見失ったな。どこに逃げたんだ?」

時間をかけて、僕たちは地下を探し回り………

 

__数刻後。

 

ルカ「どうだ、いたか?」

 

「「「「「「見つかりません。」」」」」」

 

ルカ「僕は見つかりませんの一言で納得するような人生は送っていない!!!」

ルカ「もしかしたら地下以外の場所にいるかも!1階や2階までくまなく探すんだ!散髪後に細かい毛を落とすためにしっかり髪洗うみたいにな!」

 

……再び、数刻後。

 

ルカ「はぁ…はぁ…どうだ、いたか!?」

 

「「「「「「はぁ…はぁ…い、いません……」」」」」」

 

ルカ「いませんの一言で片づけるのは簡単だぞ!そう、簡単だ!そういうときこそ見落としてる箇所があるんだ!!」

ルカ「いいか。言霊って良く言うだろ。無い無いって言うとそっちに意識が向いちゃって、視野が疎かになるんだ。だからこそ、頭を無にして一個一個丁寧に………」

ラクト「お前、根性論の鬼だな………」

……と、棺の影に人影が見えた!

ルカ「っ!そこか!」

 

ルカ「見つけたぞ、観念しろっ!」

棺の後ろに隠れていたのは……

アリス「ごめんなさい、ごめんなさい……」

ぷるぷると震えるアリスだった。

ルカ「ええっ…!?ア、アリス!?」

 

ルカ「おい……アリス……」

アリス「邪神様、初代魔王様、どうか余をお救い下さい……」

どういうわけか地下墓地にまで移動した後、怖くて動けなくなってしまったらしい。

アリス「もう、悪いことはしません……きつねをいじめたりはしません……きつねの耳を引っ張ったり、尻尾を踏んだり、油あげを奪ったりしません……」

ラクト「その懺悔は一体何なんだよ。」

ルカ「こいつどれだけきつねをいじめてるんだ…?」

何かきつねに恨みでもあるのか?

 

ルカ「アリス、聞いてくれ。ここにはゾンビを研究している悪党がいるんだ。これまでの出来事はみんな、()()()()()()んだよ。」

アリスは目を光らせ、ゆらりと立ち上がった。

アリス「()()()()()()()()()だと……?」

ルカ「ああ、こっちの方に逃げてこなかったか?」

アリス「それは確かか……?」

ルカ「……? この屋敷はそいつの研究所にされてたんだ。だから__」

アリスの目が、ぎらりと光る!

アリス「そいつのせいで、余がこんな目に……!!!」

アリスの長髪は逆立ち、滲み出るオーラは邪悪な熱を帯びているようだ……

カムロウ「ひっ、ひぇっ……」

ラクト「ひゃあああぁぁぁ……」

ジョージ「お、おおぉ、ぉぉぉ、し、静まりたまえ……!」

 

アリス「許さん……出て来い!」

アリスは魔力を解き放った!!!

次の瞬間、少し離れたところにあった棺が爆発した!

クロム「ふぎゃっ!」

焼け焦げた棺から、クロムが転がり出てくる。

ルカ「あいつ、あんなところに隠れてたのか。」

 

アリス「…………」

ルカ「おい、アリス…?」

僕の横をすり抜けて、アリスは倒れ伏すクロムの脇に立つ。

クロム「な…なんじゃ、貴様!どこの妖魔じゃ__」

と思ったら、尻尾でぴしぴしとぶん殴り始めた!

クロム「がふっ!げふっ!」

アリス「貴様のせいで、余がこんな目に……!!!」

クロム「べふっ!あうっ!や、やめんか……」

パヲラ「因果応報なのか八つ当たりなのか……」

 

クロム「あうっ!や、やめ……もう許して……」

いい加減に泣きが入ったクロムを、アリスは遠慮なく打ち据える。

……さすがに、見ていられなくなってきた。

ジョージ「姫よ!そこまでだ!」

ルカ「やりすぎだろ!相手はまだ少女じゃないか!」

チリ「いや、どの口が言ってるの……」

パヲラ「チリちゃん、それを言われたらあたしたち何も言い返せないわよ。」

かくいう僕たちもクロムに暴力を振るったりもしたけど。

 

クロムはもうすっかり無抵抗なのである。

アリス「ふん……妖魔の外見と実年齢は必ずしも一致せんのだ。こいつ、余よりも百歳は年上だぞ。」

ルカ「お年寄りを足蹴にしちゃ駄目だよ。」

カムロウ「いや人間基準で計るなって言ったんだよ。バカか?」

ルカ「は?」

ルカはカムロウを蹴飛ばした!

カムロウ「いてぇなぁオイ!」

チリ「暴言吐くからだよ……」

 

ルカ「……ほら、クロムもアリスに謝るんだ。」

クロム「……ごめんなさい。」

よほどアリスが怖かったのか、クロムはあっさりと謝った。

ルカ「…………何かを熱心に研究して、努力することは良い事だと思う。」

ジョージ「さよう。先駆者のいない1つの道を歩み究めることは実に険しい。」

ルカ「でも、死体をオモチャのように扱うのは良くないよ。それに、ゾンビを屋敷の中に放置しておくのもいけない。そうでないと、怖い蛇のお姉さんにまた怒られるよ。」

クロム「……以後、気を付けます。」

アリス「分かったら、とっとと余の前から消えるが良いわ!!」

クロム「は、はいぃぃぃぃ……!」

アリスに一喝され、クロムは一目散に逃げ出してしまった。

これで、少しは反省してくれるといいのだが。

 

そしてアリスも、すっかり我に返ったようだ。

アリス「やれやれ……結局、奴が幽霊騒動の原因だったわけか。あいつ本人やらゾンビどもを見た町の人間が、幽霊と勘違いしたわけだな。」

ラクト「終始ビビり散らかしてたヤツが何締めようとしてんだ……」

アリス「ふん、馬鹿らしい!幽霊など実在せんのだ!」

ルカ「う~ん。幽霊は実在しない…か……」

 

ルカ「本当に、そうなのかな……?」

僕がそう呟いた時だった___

 

 

「___ありがとうございました、勇者様……」

突然、目の前に…半透明で浮かび上がる、上品そうな少女が現れたのだ!

 

__その姿は……

肖像画で見た、フレデリカそのものだった!

ルカ「き、君は……!?」

フレデリカ「これで、私は……いいえ、私達の魂は救われました。」

彼女達だけではない。透けてはいるが、周りには様々な人の姿が。

それに周囲には、無数の霊魂のようなものが漂っているのだ。

ジョージ「…ルカ殿?何故虚空を見つめておるのだ?」

ルカ「いや…ここにフレデリカがいるだろう?それに他にも……」

カムロウ「は…?いないだろ……いないじゃあないか。」

チリ「ちょっと待ってルカには一体何が見えてるの…!?」

どうやら、フレデリカたちの姿はみんなには見えていないようだ…?

ルカ「なんならチリの横にも……」

チリ「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

幽霊「屍がゾンビ化する事により、私達の魂もここに縛られていたのです……しかし今、それも解き放たれるでしょう……」

幽霊「魂だけでも、帰ることができるのですね……私達が生まれ育った、懐かしいサン・イリアへ……」

幽霊達「ありがとう、勇者様……あなたのおかげで、我々は救われました……」

口々に感謝の言葉を述べ……彼女達の姿は、煙のように消え失せてしまったのだった。

ルカ「……これでみんな、安らかな眠りに就くことができるんだな。」

 

ルカ「……いやぁ世の中には不思議なこともあるもんだね、アリス。」

……しかしアリスの返事はない。

ルカ「おい、アリス……?」

アリス「…………」

 

アリスは昏倒していた!

ラクト「おいコイツ立ったまま気絶してるぞ!」

マモル「なんだってぇ!?」

ルカ「お、おい……!アリス……!!」

結局僕たちは、気絶したアリスを背負って、屋敷から出るハメになってしまったのである。__

 

 

屋敷を出たら、すっかり日の出。

ルカ「すっかり朝か。それにしても重いな、こいつ……」

ラクト「せめて人の姿でぶっ倒れてくれよ……下半身が重すぎる……」

パヲラ「まぁ蛇の体って全身筋肉って言うし。」

マモル「なんかバカでけぇ蛇を捕まえたみてぇ。」

ぐったり伸びたアリスを、ラクトとジョージと一緒に3人がかりで背負う。

そうして、サン・イリアに戻ろうとした時__

 

カムロウ「なぁ。アレ。」

ルカ「ん?」

敷地内から屋敷を見上げる、不思議な女性の姿を目にした。白衣姿に赤い髪をしている。

謎の女性「………」

 

カムロウ「誰だろな。」

ルカ「さぁ………」

ラクト「はは~ん。さては罰ゲームで肝試しに来たヤツだな!」

ルカ「そうなのか?」

そんな様子には見えないが……

 

ルカ「あの……この屋敷に何かご用ですか?もう、幽霊が出ることはないと思いますよ。」

ラクト「ついでに住み着いてた魔物はこの勇者サマが退治したから安心しなすってなっ!」

ルカ「え、ええ。まぁ……」

担がれているアリスを、なんとか言い誤魔化してその場を凌ごうとする。

謎の女性「………そうか。」

 

謎の女性「もうクロムはいないのか……」

ルカ「え……!?」

 

謎の女性「せっかく供出してやった技術も無駄になったようだな。まあ、下らんネクロマンサーにしては上出来か。」

ルカ「な、なにを…?(クロムを知っている……?こいつ、何者なんだ……?)」

 

謎の女性「__魔王アリスフィーズを、その状態にまで追い込んだのだからな……」

ルカ「………!?」

なんとアリスが魔王だという事を知っている__

それを理解した時まるで電流のように、僕たちに緊張が走った。

 

ルカ「お前、いったい……!?」

謎の女性「…………」

僕の疑問にはいっさい答えず、女は姿を消してしまった。

ルカ「なんなんだ、あいつ……?雰囲気も、どこか普通じゃなかったし……」

パヲラ「人間だという確証もないわ。高位の妖魔だったのじゃないかしら……」

ルカ「う~ん……………」

 

ルカ「なんだったんだろうな……」

ともかく、アリスを背負ったままぼんやりしていても仕方がない。というか重い。

このままサン・イリアに戻るとしよう__

 

 

 

サン・イリアに戻ってから、分かったことがあった。

あの時あの場で、フレデリカたちのような幽霊が見えていたのは……僕とアリスだけのようだった。

幸い、仲間の中で1人だけ…マモルはそういうのが見える人間のようで理解してもらえた。

……しかし。

この街の状況をどうすればいいのだろう。

あの屋敷、結構な数の魂が囚われていたらしい……

 

幽霊「おお、なつかしきサン・イリア。我が魂、落ち着ける場所を見付けました……」

幽霊「皆の魂も、ここに集まったようですね。私の故郷は南の大陸ですが、ここは確かに良い町です……」

ルカ「……………」

マモル「……………」

 

何が言いたいかというと………

あの幽霊屋敷の後、大量の幽霊がこのサン・イリアになだれ込んで来たのだ。

……なんで成仏してないんだ?

ルカ「なんだか、町中幽霊だらけだ……」

あちこちで幽霊が飛び交っている。

それだけだったらまだしも、見えない市民を置いといて好き放題やってるヤツもいる。

ふと何かが横切ったりとか……

道を歩いていた少女の姿が、ふっと消えたとか……

誰もいない台所から声がするとか……

三人でおしゃべりしていたのに、いつの間にか4人いるとか……

現に僕とマモルの前で、子ども達と幽霊が追いかけっこして遊んでいる……

マモル「こりゃあ……一難去ってまた一難……というのでは。」

ルカ「アリスを宿屋に置いてきて良かったな……こんなの見たら、またぶっ倒れるぞ……」

 

なんでも、至る所で幽霊騒ぎが絶えないというのだ。

そのおかげか、聖水や十字架を販売している道具屋は繁盛していた。

 

城の方も大変な騒ぎ、怪奇現象が頻発していた。

幽霊は平気で出入りしているし。

 

神官「ええい、分からん奴め!汚れし悪霊共が、この神聖な建物に満ち溢れておるのだぞ!これを放置するのは、イリアス様に対する冒涜であろう!」

神官「何を言うか、「魂」とはイリアス様が生み出したる最高の神秘!それを悪霊扱いする事こそ、イリアス様に対する冒涜であろう!」

幽霊神官「モサイの福音書の一節をしっかり読め!「神は、汚れなき魂を造り給う__」とあるだろうが!」

なんだか神学論争が盛り上がってるし……

 

幽霊騒ぎのせいだろうか、大礼拝堂は盛況だった。

祈りを捧げる人の中に、幽霊も混ざっているが……

 

地下の大図書館は復旧していた。

大した被害はなかったようだが、なんとどさくさで貴重な書物をこっそり着服した学者が相当おり、行方が分からなくなった書物が続出した模様。

そのせいで警備はより一層厳しくなった。

実を言えば僕も本を一冊着服してるし……申し訳ない……元はアリスのせいだけど。

ああ…イリアス様……僕は罪を犯してしまいました。

 

サン・イリア王はあれから、一時期は錯乱してたが、今は落ち着いたそうだ。

ただ、魔王が女神の宝剣を破壊した時の記憶はすっかり抜け落ちているらしい。

しかし、僕にはそんなことよりも気になることが………

 

サン・イリア王「なぜだが肩が重いのだ……」

ルカ「うわぁ!いっぱい取り憑いてる!!」

サン・イリア王の肩に2人くらい幽霊の顔がある……

しかも、王にはその姿が見えていないようだ……

 

 

ルカ「そういうわけで、どこもかしこも幽霊だらけだったよ。」

宿に戻って、サン・イリアの状況をみんなに報告した。

もちろん、みんなの反応は絶句である。

アリス「………」

アリスは目を閉じたまま固まっている。

ラクト「……マ?」

マモル「マだよ。」

ルカ「信じてもらえないことだろうけどね……」

ラクト「いや……信じてないんじゃあなくてだな……」

 

ラクト「思い当たる節のあるという方々がここに3名……」

そこには冷や汗をかきながら浮かない顔をするのが3人……

カムロウ「そういえば昨日寝ているとき、やたら音が鳴っていたような……」

パヲラ「そういえば…妙に茶菓子や紅茶の減りが早かったのよね……」

ジョージ「そういえば、ふと窓が開いたことが……」

ルカ「えぇ……」

チリ「こんな昼間からポルターガイストが…!?」

 

ラクト「…なんかさ。悪化してない?」

ルカ「あぁそうなんだよな……」

幽霊屋敷騒動は、これで解決した……のか?

騒動は城内や城下町まで広がり、悪化したと言えるのかもしれない。

ともかく、あの屋敷を根城にしていた悪党はいなくなった。

 

幽霊屋敷の一件を正直に明かしても、幽霊という不確かな存在。

そう簡単に信じてもらえないのは想像できるし、仮に信じてもらえたとしても騒動の責任で罪に問われそうで怖い。

全部丸投げするのは後を引くが、後はサン・イリアの人達次第なのだろう。

アリス「……一刻も早くここから出るぞ。これは命令だ。」

文字通り目を光らせ、おどろおどろしいオーラを放ちながら宿を飛び出すアリス。

ルカ「分かったからその顔はやめてくれよ……」

これ以上この町にいると……アリスが壊れてしまいかねない。

こうして、僕たちはサン・イリアを後にしたのだった。

 

僕が目指しているのは、人と魔物が共存する世界。

しかし、人と幽霊の共存は……どうなのだろう?

そんな僕たちの横を、子ども達と少女の幽霊が追いかけっこをしながら駆け抜けていく。

どうやら幽霊の存在は、子どもの目には見えるらしく、すっかり打ち解けているようだ。

ルカ「まあ、これも共存の第一歩かな……?____」

 

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