もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第27話 森への道中、野営

幽霊だらけのサン・イリアを飛び出した僕たち。

とりあえず外に出てみたものの、特にこの後の予定は考えていなかった。

アリス「それで?貴様はこの後どうするのだ。」

ルカ「そうだなぁ………」

 

ルカ「シルフに力を貸してもらうために、精霊の森とやらに行こうか……」

人魚(マーメイド)メイアの依頼。幽霊屋敷騒動。

僕が目星を付けていたことは全部済ませた。

道具も食料も補充してあるし、特にやり残したことはない。

ルカ「よし、精霊の森へ行こう!」

アリス「ふむ、本来の目的を果たすのだな。」

 

アリス「やっと行く気になったか。」

ルカ「いつも一言多いなお前は。」

 

アリス「シルフの力を手に入れた後は、この地域を後にする事となろう。」

 

アリス「お前たち。このナタリア地方で、何かやり残したことはないか?」

ジョージ「お土産饅頭……もう1箱食べたかったッ…!」

カムロウ「お小遣い足りなくてご当地ペナント買い損ねたなぁ……」

マモル「厠行きてぇ。」

パヲラ「コスメ買い忘れたッ!!!」

ラクト「なんでお前らは……こういう時に限ってそういう細かいのを気にするんだよっ!」

チリ「(最後にもう一回、サン・イリアでアイスクリーム食べたかったな………)」

 

カムロウ「惜しい……惜しいよぉ………」

ラクト「言ってろ!」

ルカ「あはは………」

こうして僕達は、いよいよシルフへと会いに向かったのだった__

 

 

 

 

__冒険、旅、遠征。

自然の多い場所へ赴くことには、常に危険が伴う。

魔物の襲撃だけではない。

もっと、身近な、別の脅威。

 

__それは野生動物だ。

虎、熊、蛇、毒を持つ蟲といった……

 

当たり前ではあるが、道中のみならず野営の準備をする際にも、気を付けなければならない。

猛獣は火を恐れるというが……あれは確証のない迷信だというのを、旅をしてから初めて経験した。

具体的に言えば…猛獣や草食動物といった生物は、いつもと違う雰囲気を感じると警戒するということだ。

野営準備中に火を絶やさずにするというのは、そういった警戒心を煽って僕たちに近づかせないようにするためだ。

とはいえ、安心というわけではない。

今まで幾度か、就寝中に熊や虎が襲ってきたことがあった。

人間の肉の味を覚えた猛獣が、また人間を食べに襲ってきたのだろう。

……全部、アリスに焼かれて食べられたけど。

 

………そう。

食べた物の味を覚えるのは、なにも猛獣だけではないんだ……………__

 

 

ルカ「__………えっ?また熊?」

()()()って言ってしまった僕に、随分と感覚が痺れたものだと改めて痛感する。

熊って猛獣だぞ。

というのも……

野営準備中の僕の目の前に……2メートルはある熊を担ぐ、全身血まみれのアリスがいる。熊の血だろうな。

コイツ、以前襲ってきた熊を焼いて食べてから、その味を覚えて自ら狩ってくるようになった。

 

ルカ「おい…勘弁してくれ……その大きいのを夕飯までに間に合うよう調理しないとならない、僕の身にもなってくれよ。」

アリス「熊肉……そのまま焼くのは飽きたな。ミンチにして生食するか……いや、鍋にするのも………」

ルカ「生食するなら寄生虫に気を付けてね………」

了承も無しでいきなり狩って戻ってくるものだから困る。

自分で調理してくれるのなら文句はないのだが……そういうのを含めて全部、僕に丸投げしてくるのだ。

ああ、困るなぁ。

この後、今日中に処理しようとしていた食料や保存食があるというのに……

ルカ「ジョージが戻ってきたら解体を頼むか………」

また、干し肉の在庫が増えることになるだろう…………

 

 

夕暮れ。

野営地から離れた場所。

ラクト「おい……これよォ…………」

カムロウ「……なんかぁ……やな雰囲気だ……」

ジョージ「うむ………」

焚き木を拾い集める3人が見たモノ。

それは辺りに散漫している、血。

まだ乾ききっていない、新しい血痕だ……

 

カムロウ「……これさ。もしかして、俺たちが枝拾ってる時から……」

ラクト「そうかもしれねぇな。なんならもっと前かも………」

ジョージ「………熊の毛だ。」

地面に落ちているモノを調べたジョージがそう呟いた。

ジョージ「人間の足跡、大きさが全て一定だ………1人だけと思う。小さいな。幼子か女か?」

さらに情報が出てくることで、読み解けてきた。

つまり、この場で起きたこと………

ジョージ「…1人で熊に対峙し………」

ラクト「……それで、食われたか。」

カムロウ「…………………」

 

ジョージ「だが妙なことがある。」

そう言いながら、人間の足跡を指さす。

ジョージ「何故、素足なのだろうか………」

それは靴跡ではない、人の足の形をしていた。指までくっきり。

ジョージ「それに食われたにしては、残骸が全くないところだ。冒険者であれば、護身用の武器を持っているはず……」

ラクト「さぁな…ここにあったの全部カラスが持ってったとかぁ?」

カムロウ「んなアホな。それ雑すぎるだろ。」

 

ジョージ「……!?そうか!?違う、食われてはいない!」

カムロウ「…?」

ジョージ「ここを。引きずった跡がある。向こうに続いておる。」

地面を見ると、確かに何かを引きずるような跡があった。

ラクト「熊が場所を移して食ったのか?」

ジョージ「引きずられたのは熊だ……」

「「……!!?」」

 

ラクト「え…は…?に、人間じゃなくてクマが?引きずられた?人間に?」

ジョージ「跡の大きさからして熊が引きずられた。この足跡の踏み込み具合も、人間の足だ。」

カムロウ「……殺されたのは熊で……この血も全部、熊の…!?」

ジョージ「熊は頭蓋骨が分厚い故、獲物(武器)が深く刺さらない。狙うとすれば胴体を突くかだ。とはいえ………」

 

ジョージ「たった1人で熊に挑み、勝利した者が()()()()()……!?」

ラクト「……どっちもバケモンだろ……ソレ…………」

カムロウ「……人間1人で、熊に勝てることって…?」

ジョージ「にわかには信じがたい。だが、痕跡がそうだと言っている……」

 

3人が抱いていたのは、言いようも表せない不安と焦燥であった。

その要因はおそらく、熊を仕留めたナニかが近くにいるかもしれないという恐怖からだと思った。

彼らの視線の先は、熊が引きずられたかもしれない跡が続く森の奥。

夕暮れによって、暗くて先が見えない。

カムロウ「……どうする?」

ジョージ「戻ろうか。もうすぐ日が暮れる。これ以上の深追いは禁物だ…………」

ラクト「だよな…………」

3人は焚き木を抱え、急ぎ足に野営地に戻った__

 

 

夕陽が落ちかけ、夜になりつつある頃。

ズル…ゥ……ズル…ゥ……と。

薄暗い森の中を、何かを引きずりながら歩む血みどろ人間が1人。

身長からして、まだ幼い子供のようだ。

その手で掴む毛ダルマは、身長の倍も大きさのあるモノ………

舌をだらりと出し__動く様子もない熊だ。

熊を引きずる子供がたどり着いたのは、焚火をする者が1人。

 

???「…おおっ!?エルピロス!お前1人で熊を仕留めたのか!?」

???「…………!」コクコク

エルピロスと呼ばれた者は、自慢げにコクコクと頷く。

???「まだ精霊の森で戦ったバケモノとの傷が癒えてないってのに……とんでもないなぁお前は。」

 

???「熊の油は傷に効く。用意しとくから後で塗ろうな。」

???「……………」コクン

 

???「んじゃまず、その血だらけの体をどうにかしてこいっ!川行って水浴びしてこーい!」

???「…………!」トテトテトテ

 

 

 

 

日が落ち、夜。

ルカ達、野営地。

 

ルカ「__そういうわけで……イリアス様に反逆したその堕天使が、魔王と呼ばれるようになったんだよ。」

カムロウ「へぇ~……」

以前、アリスに魔王退治のお話をして怒られたから、今度は魔王のお話を聞かせたのだが……

アリス「……ドアホか、貴様は。」

 

ルカ「へ?」

アリス「魔王である余に、魔王の成り立ちなど語ってどうするつもりなのだ?」

ルカ「そ、そうか……そうだね。」

ラクト「お前ってセンスというかチョイスが人とずれてるよな。」

現役の魔王に聞かせるには、これも失敗だったようだ。

アリス「だいたい、そのような伝説は魔族を(そう)めたものに過ぎん。初代魔王は、元々はイリアスの配下だったなど………」

 

アリス「デタラメもいいところだ。」

ラクト「んなこと言われてもよォ。んじゃあ、現魔王サマ。お前ェんトコはどうなんだよ。どういう風に伝わってンのさ。」

アリス「ふむ………」

 

アリス「初代様は、イリアスと同格の神だったのだ。」

ラクト「はぁ!?」

ルカ「初代魔王は、イリアス様と同格の神だって……!?」

パヲラ「初耳だわねん…面白い説じゃない。」

アリス「それを人間共が、勝手にイリアスの下へと格付けをしたのだろうな。」

 

ルカ「そんな話、初めて聞いたよ。」

アリス「……ふん、どうせ疑っておるのだろう。」

ルカ「うん。僕からすれば、そっちの方がよっぽどデタラメに聞こえるよ。」

ラクト「お前なぁ……」

 

アリス「いいか、この世界には元々、闇と光が混ざり合っていた。」

アリス「しかし闇と光がそれぞれ寄り集まり、初代様とイリアスが誕生したのだ。」

アリス「つまり、初代様とイリアスは裏と表。同格であり、コインの裏表のような存在なのだ。」

パヲラ「あらあらあらあら!実に面白いお話だわねぇぇ~~!!!」

 

ルカ「それで?イリアス様と同格の神が、なんで魔王になったんだ?」

アリス「そ、それは……」

 

ルカ「そのまま天上世界で暮らさず、地上に降りてきたんだろ?」

アリス「……知らん。初代様にも、何かお考えがあったんだろう。」

ルカ「で……その初代魔王は、今どうしてるんだ?イリアス様と同格なら、寿命で死んだりしないよね?」

チリ「あ。確かに。」

アリス「……二代目アリスフィーズ様に魔王の座を託し、姿を消したと伝わっている。再び天に還られたとか、我々をそっと見守って下さるとか……」

ラクト「…え?そんだけ?」

ルカ「説得力ないなぁ……」

アリス「疑っているのか、貴様!初代魔王様はイリアスと同格の力を持ち、威厳に満ちたお方なのだぞ!」

ルカ「はいはい、すごいねー。」

アリス「ぬぅぅぅ……まあいい。」

 

アリス「そんな事より、剣の修行だ!」

ラクト「(コイツ、キリが無ェからって話変えやがった…)」

 

アリス「今の貴様の実力では、魔王の足元にも及ばんぞ!」

ルカ「わ、分かったよ……」

こうして、話もうやむやの内に、剣の修行が始まるのだった。

 

 

 

アリス「そろそろ大技に手を出しても良い頃だな。今日は、乱撃技というものを伝授してやろう。」

ルカ「乱撃……?やたらめった斬りみたいな?」

アリス「あれは技ではない、ただの恥さらしだ。比較になるか、ドアホめ。」

ルカ「……すみません。」

叱責されながらも、僕は新たな剣技を教わるのだった__

 

 

ルカ「__てりゃぁっ!!」

掛け声と共に放たれる、縦横無尽の乱撃。

やたらめった斬りとは違い、一撃一撃の繋ぎの隙は全くない。

アリス「……形は覚えたようだな。無数の斬撃を浴びせかけ、敵に連続攻撃を見舞う。」

アリス「これが、死剣・乱れ星だ。威力は絶大だが……今まで教えた技とは違い、大きく体力を使う。使いどころを考えねば、逆に窮地に立つ事になるぞ。」

ルカ「そうだね、気を付けないと……」

体力を使うために隙が大きいとリスクがあるなら、乱用は控えた方が良さそうだ。

アリス「その技を編み出した六手剣士ガーラは、騎士団ひとつを丸ごと肉塊に変えたという。

ルカ「また、そんなろくでもない逸話付きか……」

たくさん技を覚えるのはいいが、忌まわしい魔技ばかりなのは悲しいところ。

とは言え、これで攻撃力アップなのは間違いない!

 

やたらめった斬りは、「死剣・乱れ星」に変わった!

 

アリス「普通、こんなに簡単に習得できる技ではないが……貴様なら、そう苦もなく体得できると思っていた。」

ルカ「えへへへ……アリスも、とうとう僕の実力を認めてくれたのかな?えへへへへへへへ……」

アリス「違うわ、ドアホめ。」

ルカ「がくっ……」

 

アリス「眠っている時の貴様が、()()()()()乱撃技を使いこなしていたからだ。」

ルカ「えっ?()()()()()……?」

パヲラ「………らせつのあぎと…はぐんにいたりてじゃをはらう……」

パヲラ「確かそう言いながら繰り出していたわね。」

話を聞くと、七尾やクラーケン娘との闘いの時。

意識を失った僕が、死剣・乱れ星に似た乱撃技を使っていたという。

 

マモル「そういや…【はぐん】ってのは、破軍星のことじゃねぇですかい?」

ルカ「はぐんせい?」

マモル「剣先星って名もありまっせ。」

 

マモル「北斗七星の柄先の星で、これを剣先に見立てて吉凶を占ったんスヨ。剣先になぞって戦うものは勝、逆らい戦うものは負。」

 

マモル「らせつは悪鬼や鬼神を意味する羅刹。あぎとはアゴや魚のエラの顎門。」

パヲラ「全文を要約して文字に起こせば……」

__羅刹の顎門、破軍に至りて邪を払う。

ルカ「………えーと。」

 

ルカ「なにこれ。」

アリス「こちらが聞きたい事なのだが。」

マモル「全くですよ。何を言ってるのかサッパリ。」

ジョージ「他の技にもこのような台詞があったような。」

パヲラ「ごめんなさい。あたし、話題に上がったから思い出せただけで他のは詳しく覚えていないのよん。」

 

アリス「とはいえ…得体の知れない奴だ、全く……」

ルカ「魔王に、得体の知れないって言われたくないよ……」

アリス「貴様の底力の秘密も、解明するべきかもしれんな。やはりあの魔力や技量は、人間の域を超えているぞ。」

 

ルカ「僕、本当は魔族だったとか言わないよね……?」

アリス「………………」

ルカ「なんとか言ってよ!!!」

 

ルカ「母さんは普通の人間だったし、親父もそうだったはずだ……」

アリス「もし貴様に魔族の血が混じっていれば、余が真っ先に気付くのだがな。」

 

アリス「最も……怪しいその指輪からも、何の力も感じ取れんし……」

 

アリス「……つくづく、よく分からん奴だ……」

ルカ「そ、そんな事言うなよぉ……」

それはともかく、これでまた一つ強力な技を覚えたのだ!

確かな満足感を抱きながら、僕は寝床に入ったのだった。

明日はいよいよ、精霊の森だ__

 

 

 

 

 

 

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