機動戦士ガンダム 水星の妖精   作:シロクロ団子

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プロローグ

通信越しから聞こえるテストパイロットの荒い息づかいを聞きながら、通信士に目配せする。通信士は頷き、パイロットに指示を出す。中にいるパイロットも指示に従い、プログラムをコールしていくが液晶画面にエラーが表示された。三度同じプログラムでエラーが表示される。パイロットからGUNDフォーマットのスコアを上げるよう要求されたが、これ以上続けても同じことの繰り返しだろう。通信士の指示を無視し、強制的にフォーマットを上げようとするパイロットを制止させる

 

「エルノラ。今日はこの辺にしておこうか」

 

しかし、パイロットは食い下がらない。なので今度はきつめに言う

 

「ここまでだよ、エルノラ」

 

「・・・はい」

 

パイロットは観念し、コクピットを開放する。彼女の表情は曇っていたが、大切な人材をここで浪費させるわけにはいかなかった。彼女に労いの言葉をかけたが、GUNDフォーマットの健全性を早く証明したいと彼女は言った。確かに早く証明しなければ、評議会の連中が何をしでかすかわからない。だからといって、彼女の体が蝕われるのを見過ごすわけにもいかない。ちょうどよく、あの二人がここに来ている。彼女の焦りを止める薬になるだろう

 

「ママ。ママァ!」

 

テストパイロット、エルノラ・サマヤの娘、エリクト・サマヤが母親のお迎えに来ていた。母親に向かおうと手足をバタつかせていたが、無重力に慣れていない為なすすべなく体勢を崩してしまう。そんな彼女を支えてくれた人がいた

 

「エリー、落ち着いて。ゆっくり、ゆっくり」

 

エリクトと同じ子供でありながら、落ち着いた雰囲気を漂わせる男の子、アルマ・カーストン。私の養子だ。

 

「エリー!」

 

コクピットを飛び出し、二人の子供を抱えるエルノラ。しかし、抱えられた少年はエルノラに頭を下げると彼女の腕をすり抜け、私の近くに降りたつ。だが、私を一瞥することなくジャンプし、MS『ガンダム・ルブリス』の頭部に触れていた。スタッフの一人がアルマを優しく抑え、ルブリスから遠ざける。アルマは不服そうな顔をしていたがスタッフに対して暴れることはなく、おとなしくルブリスを見ながらスタッフと一緒に浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

整備チームと技術チームにルブリスを任せ、アルマを部屋に送る・・・のではなく、助言いや予言を聞くために付き添っている。アルマは養護施設にいたころ、物心ついた時から暇さえあれば占いをしている。変わった子だったのだが、それが当たっていたこともあればハズレていることもあった。

 

しかし、当たる確率が高かった為、占いを生業にしている人にとって、企業にとって、アルマは一躍有名になった。それによりアルマを引き取りにきた人が多くいたがアルマは拒否し続けた。施設のスタッフもアルマのお陰で寄付が増えたので、どんなに大金を積まれてもアルマの意思を尊重し続けた。

 

私がアルマがいる施設を訪ねたのは、そんな噂を聞いたからではなく、GUNDの実証試験を行うための協力者を探すために偶々立ち寄っただけだった。

 

スタッフと話をしている最中、足に抱きついてきたのはアルマで、離れるよう言ったのだが離れることはなかった。スタッフがアルマに理由を聞くと意外な返答が返ってきた。

 

「この人がいい。このお婆ちゃんがいい」

 

アルマは今まで訪ねてきた大人に、なにか得体の知れないものが渦巻いているのを感じていて、恐れていた。だけど、私にはその得体の知れないものを感じなかったそうだ。

 

しかし、私が求めているのは占いが上手い子供ではなく、身体に異常をきたした子供だった。最初は断っていたのだが、スタッフの説得により了承してしまったのだ。

 

 

 

 

私はアルマに尋ねた。

 

「本当にルブリスは今日目覚めるんだね?」

 

「うん、間違いなくね。でも今日はもう稼働試験は行われないんでしょ?なら、無理にスタッフを集めて稼働試験を行わないで。あの子もエルノラさんに付き合ってげんなりしてるはずだから、お婆ちゃんが一人でお喋りして呼び掛けてあげて」

 

「対話で?」

 

「そう、対話。たぶんだけど彼女と同じように、あの子にはもう意思がある。あとは」

 

「何に興味を持つか、か」

 

「そう言うこと。じゃあ、僕は彼女のところに行くね」

 

「待ちな、ご飯はどうしたんだい」

 

「もう食べた~」

 

そう言って通路の壁を蹴りながら、彼女がいる区画まで向かっていくアルマの背中を見届けた後、私はルブリスの格納庫に戻った。そこにはスタッフの姿はなく、ルブリスとその兄達が静かに佇んでいた。

 

私はルブリスのコクピットを開け、シートに座ると起動プログラムを立ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私がいる格納庫に少年がやってきた。視界には彼以外誰もいなくて、今日は見張りの人もいない。

 

それなのに少年が入ってこれるのは、私という存在を見つけてくれた功績だと。少年、アルマから聞いた。

 

「遅くなってごめんね。フェアリー」

 

アルマはいつもより上機嫌のようだ。私はコクピットを開け、アルマを招き入れた。

 

「今日は何をやろうかな。それとも今日の事をフェアリーに話そうかな?ねぇ、フェアリーは何がいい?」

 

アルマが私に尋ねる。今の主はアルマなのだから、両方同時に行う権利がある。けど、そうしないのは試験で疲れているであろう、私を気づかっているからだ。

 

私はアルマの気遣いに感謝しながら、後者を選択した事を知らせるため、モニター表示を二度瞬かせた。アルマも私の意図がわかり、今日の出来事を話し始めた。

 

「今日はね。僕の友達、リリーの誕生日なんだって。リリーのお母さんを迎えに行くときに聞いたんだ。お家で頑張って飾りつけをして、あとはバースデーケーキを家族と一緒に食べて過ごすって」

 

誕生日、それは人にとって喜ばしい出来事の一つだと、私は知識として知っている。しかし、それは当事者が一番喜ぶ事なのに、なぜアルマも喜んでいるのだろうか

 

「誕生日に家族と過ごすって素晴らしいことなんだよ、フェアリー。家族がいないと出来ないことなんだから・・・」

 

アルマ、それは一体

 

「う、ううっ・・・」

 

突然、アルマが頭を抱えうずくまってしまった。息も荒く、心臓がある部分を右手で握り始める。なにかの病気の発作なのだろうか。だが、アルマからはそんなことを聞かされたことがない。私は基地にいる者にアルマの体調の変化を知らせるため、通信を開いた時、アルマが苦しみながら声をもらした。

 

「なにか、く・・・る・・・!冷たいなに・・・かが・・・」

 

その言葉を最後にアルマの体は糸を切られた人形のようにシートに倒れたあと、意識を失ってしまった。

 

アルマを助けたくても、私にはどうしようもできない。ただ誰かが来てくれることを祈るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数分経ったが、誰も格納庫に来なかった。通信は開いたままにしているのだが、なぜか聞きなれない男の声が聞こえた。そして格納庫の電源が非常電源に切り替わった時点で、基地が攻撃されているのだと気づいた。

 

となれば目的は兄妹(きょうだい)達の奪取、もしくは破壊。そして開発関係者全員の抹殺だろう。

 

もしそうなら、私達はこの基地から離れなければならない。しかし、アルマと私だけではこの宇宙(うみ)で生きていくことができないのも事実。しかし、危険が迫っている現状で、少しでも生存確率を上げるなら早い行動が一番だ。

 

アルマ、後で私を憎むかもしれないが全ては君を守るためだ。この行動をとることを許してくれ。

 

私は体を起こし、基地の管理プログラムに侵入してゲートを解放、カタパルトを起動させて外に出た。

 

外に出た瞬間、私がいた格納庫から爆風が飛んできた。爆風に小さい破片が紛れていて、体のあちこちに当たる。危なかった。決断が遅かったら、爆発に巻き込まれ二人の命はなかっただろう。

 

だが、敵はそんな私達を気遣うことは絶対にしない。そして私が動いたことは向こうに知られている。急いでこの場から離れなければ

 

『まだ、ガンダムがいたのか』

 

私は背後に感じた気配に対してビームサーベルを抜くと同時に振るう。振った先には、白と紫が入り交じったモビルスーツの実体剣が私のビームサーベルを受け止めていた。

 

『さっきの白いやつには逃げられたが、今度は逃がさん』

 

白いやつ、まさかと思うがルブリスか。なら、アルマのお気に入りは逃げることができたのか。なら、アルマにとって生きる希望は失くならずに済んだということ。だったらここで負けることは許されないぞ、私。

 

私は頭のバルカンで敵の頭部カメラを狙いつつ、放った。敵は回避行動をとると、そこから加速し距離をとる。私はすかさずライフルで追撃し、向こうも回避行動をとりながらビームを放つ。

 

しかし、射撃戦を勝したのは敵の方だった。私の単調な動きを読まれたのか、攻撃を回避した瞬間にライフルを狙撃されてしまった。私は誘爆を防ぐため、すぐにライフルを離し、下がる。

 

さらにその隙をつかれ、接近してきた敵の剣により片足を斬られてしまった。追い討ちをされそうになったが、どうにか避けることができた。しかし、姿勢制御がうまくできなくなってしまった。

 

「う・・・ん。んんっー・・・あれ?なんで宇宙に出てるの?」

 

何て事だ。よりによってこのタイミングで目覚めてしまったのかアルマ。

 

今、動かしているのは私だが優先的に指示を出し、動かせるのは本来ならコクピットの人間だけ。つまり、アルマが興味本意であれこれ触ってしまえば、その動きに従わなければならない。

 

アルマに動くなと伝えなければ・・・いや、それ以前にどうやって具体的な意見を伝えればいいのだろうか。回避行動を繰り返しながらあれこれ考えていた時だった。

 

「フェアリー、ガンビットとソードビット全部展開。あとは僕がやるよ」

 

私はアルマが言った内容を聞いた瞬間、思考が止まった。なぜ、アルマがビット装備を知っているのか、いや、それ以前にビット系を使えば、データストームがアルマの体を蝕んでしまう。そんなことはできな

 

「お願い、フェアリー。僕の・・・婆ちゃん達の無念を晴らさせて」

 

あぁ・・・アルマ。君はあそこで起きた事の全てを知ったんだね。私にもなにもできなかった責任がある。だから、これからは、君だけの良き理解者になるよ。そして君に降りかかる厄災を断ち切る剣になる、なってみせる。

 

私は体に纏わせているビットを全て解放した。一つ一つのビットが不規則に動きながら敵に向かって行く。敵はビットを破壊しようとビームライフルを撃つがソードビットの刃によって防がれてしまう。ソードビットの刃にはビームを弾く特殊なコーティングがされている。流石に無限に防げる物ではないが、奴の命を刈り取るには充分だ。

 

アルマが操るビットは敵モビルスーツの四肢と頭部を破壊し、最後にコクピットを・・・破壊しなかった。なぜ・・・?

 

「フェアリー、あいつからはエリーのお父さんの気配が漂っているんだ。だから、こいつをやったらエリーの無念が果たせない。だから、こいつには絶望を味あわせよう」

 

アルマが見据える先には戦艦があった。そうか、帰る手段を失なえば、奴の味方が救難に来るまで時間がかかる。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

仮に来たとして救難信号無き機体を奴等は回収するのか?いや、しないだろう。そうなれば奴はこの宇宙で、いや闇の中で永遠に彷徨い続ける。

 

そうなれば精神が崩壊するのが先か、絶望しながら自害する。そのどちらかになるだろう。

 

幼稚な考えだけどそれを行う価値が、権利が私達にはある。私は戦艦に向けてスラスターを吹かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベギルベウ沈黙。ケナンジ・アベリーからの応答、ありません!」

 

「ちっ、残りのモビルスーツを出せ!奴を必ず仕留めるんだ!」

 

対GUNDフォーマット兵装を積んだ特別な機体がやられるとはこの場にいる全員が思っていなかったはずだ。ただのパイロットならともかく、我が隊のエースが乗っているのだぞ。それをあんな素人が動かしているような機体にやられるとは、不甲斐ないにも程がある。

 

だが、奴は手負いだ。数で責めれば

 

「艦長!敵が、ガンダムがこちらに向かって来ます!」

 

「なんだと!対空防御!」

 

「だ、駄目です。間に合いません!」

 

「退艦だ!。総員退」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・。くそっ、誘導兵器を使ってくるのはわかっていたが、白いやつの物より動きが早いうえに的確とはな・・・。こちらケナンジだ。状況は」

 

四肢と頭部を破壊されたベギルベウのコクピットの中で目覚めた俺は、乗ってきた艦に状況を知らせるよう、通信を開いたがノイズが酷く、とても聞ける状況ではなかった。

 

あれだけ派手にやられたんだ、通信システムがいかれていてもおかしくない。システムをチェックし、救難信号が生きていたことに安堵しながら、コクピットハッチを開けた。

 

「おいおい・・・。マジかよ」

 

コクピットから飛び込んできた景色は最悪だった。無数の破片が漂っていて、その破片が来た方向には無惨な姿になった艦があったからだ。

 

ケナンジ・アベリーは、すでにこの世からさった仲間達に誓った。この惨劇を生み出した悪魔を必ず見つけだし倒して見せると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、回収された記録には悪魔の存在だけ記録されていなかった。まるで、最初から存在していなかったように。

 

軍の上層部は戦闘を行ったパイロットが虚偽の報告を行ったと判断。

 

パイロットを咎め、戦艦を破壊したのは最初に接敵した未登録のガンダムが行った事になり、悪魔の存在は闇に葬られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルマ アルマってば!」

 

「んえっ?ん~、おはようニカ。もう朝食の時間?」

 

「まだだよ。それより、またお風呂に入らないで作業してたでしょ。あれだけ言ってるのにどうして治してくれないのかな」

 

「そんなこと言わないでよ。只でさえ、納期迫ってるんだから。これで不良品だったら、折角築き上げた信頼が水の泡になっちゃうよ」

 

「それは困るけど・・・」

 

「それに、機械弄りもこれからはあまりできなくなるんだから。できる限り、未練は残したくないの」

 

「だったらパイロットに転属しなきゃいいのに」

 

「・・・。ニカや皆には悪いとは思ってるよ。でも、やっぱりあの子と再会できるとするなら、この子に乗ってた方が確率は上がると思うんだよね」

 

「それに僕の専属メカニックは優秀だからね。頼りにしてるよ、ニカ」

 

「もちろん。頼ってください、()()殿()

 

「うむ、苦しゅうないぞ。じゃあ、ご飯「ご飯は自分で取ってきてね」アッ、ハイ」

 

ニカについていき、ご飯を食べにいこうとしたが入り口付近で立ち止まり、後ろに佇む家族の一人を見た。

 

もう少しで僕達は宇宙に上がる。MS整備を行う人やMSパイロットになる人達がMSを学ぶための学校があるコロニーに行くために。

 

あの子もまだ家族が近くにいるなら、学校に来るはずだ。それまで僕ができることをやらなくてはならない。

 

そして君が来たとき、僕は

 

 

 

 

 

 

 

 

君の家族(ガンダム)を破壊する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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