血の誓約   作:ほしな まつり

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血の誓約・1

「おはよう、和人くん……和人くんっ、和人くんてばっ、起きてっ…朝だよ」

 

桐ヶ谷和人の一日は隣家に住んでいる幼馴染み、結城明日奈の声で始まる……しかも毎日、もう何年も前から……そしてこれからもずっと……かどうかはまだわからない、と思っているのは周囲の人達だけで当人達にとっては確定の未来。

ちなみにここは桐ヶ谷家の二階にある和人の部屋で、中学生で反抗期だった時も妹の直葉は絶対入れてもらえなかったが、明日奈だけは小学生の頃から変わらずフリーパスの場所だ。高校生の今なら妹の入室も気にしないが、今度は逆に直葉の方が妙に気を回して寄りつかない。

そして只今ベッドの真ん中で蓑虫状態の和人を明日奈の手が揺り動かしている。

 

「今日はね、一日曇り空だって。窓のカーテン開けていい?」

「やだ」

「ちょっとはお部屋の空気入れ替えないとダメだよ。おばさまがお布団干したいって言ってたし」

 

うちの母親とどんな会話をしてるんだ、と思いつつ布団から頭を出すとすぐに見なくても知っている白い繊手が伸びてきて、なぜか「ふふっ」と楽しそうな笑い声と共に和人の真っ黒な髪を梳き撫でた。

 

「さっ、起きて。学校遅刻しちゃう」

 

けれどそんな場を仕切り直すような言葉を残して髪に触れていた手は離れていき、明日奈がスッ、と立ち上がる気配。さすがにこれ以上粘ると次は母親の翠が部屋に突撃してきそうなので観念して「ふぁっ」と欠伸をしながら身体を起こす。その姿をしっかりと見届けてから明日奈は「じゃ、下で待ってるね」と言って部屋を出て行ったのであった。

 

 

 

 

 

顔を洗って制服に着替え階段を降りてリビングに入れば和人と揃いのスカートバージョン制服の明日奈がエプロンをつけて当たり前のようにダイニングテーブルへ朝食を並べており、奥のキッチンでは母親の翠がコーヒーをカップに注いでいる。

 

「おはよう、和人」

「おはよう、母さん」

「まったく和人はいつまで明日奈ちゃんに起こしてもらうつもりなのかしらねぇ」

 

情けなさを通り越して嘆きのような声で小言を言われるのも慣れっこだ。本気で答えるなら「いつまで?、いつまでも、だけど」と言いたいところを明日奈の声が蓋をする。

 

「私の方こそいつも朝ご飯にお邪魔しちゃって」

「いいのよ、いいのよ。和人、食が細いでしょう?、だけど小さい頃から明日奈ちゃんと一緒だと食べるし。それに毎日和人のお弁当まで作ってくれてるんですもの」

 

明日奈の家族は両親と兄が一人。親は共働きで父親は大企業のトップ、母親は大学教授で両者ともほとんど家におらず、歳の離れている兄は十代で海外留学をしてそのまま就職しており今現在も海外生活が続いている。家の中の事は通いの家政婦がしているが明日奈が一人で食事を摂っている事が多いのを知った翠が「ウチで食べればいいわ」と誘ってもう五年以上今の関係が続いていた。

作ってもらうばかりでは申し訳ない、と当時まだ小学生だった明日奈が気を遣って「お手伝いします」とキッチンに立つようになり、今では料理に関しては翠を抜く腕前に成長している。

 

「ほら、二人共、早く朝ご飯食べないと時間なくなるわよ」

 

和人と明日奈が並んでイスに座り「いただきます」と手を合わせた後、見定めるようにジッ、と目の前の目玉焼きを観察している息子を見て翠はちょっとやけくそ気味に「なによっ、私が焼いた目玉焼きに文句があるのっ」と吠えた。

 

「やっぱり。明日奈が焼いたんじゃないんだ」

「いいでしょっ、たまにはっ。ちゃんと両面焼きの中身半熟になってるんだからっ」

「いや、これ絶対中まで火が通っちゃってる」

「それぐらいでグダグダ言わないっ。卵に感謝して食べなさいっ」

 

卵とそれを産んだ鶏には感謝するけど明日奈の焼いたのが食べたかった、とわざとらしく「はぁっ」と大きく口を開けて息を零せば、隣から「はい」という声と共にフォークの先にあるひとくちサイズの和人の目玉焼きが素早く運び込まれる。

そこまでされたら食べないわけにもいかなくて、むぅ、と口を閉じれば空のフォークを持つ明日奈が「おばさまの目玉焼きも美味しいよ」とニコニコしているので、和人はもぐもぐと咀嚼しながら一回だけ頷いた。ちなみに和人が母親と会話している間に明日奈が素早いフォークさばきで目玉焼きを切り分けたのだが、しっかりと中まで焼けていたから黄身が零れる心配はなかった。

朝が弱い和人としては毎日準備してもらってるし、明日奈の家庭環境を思えば母親の手料理なんてたとえ目玉焼きでも口に出来ないのがわかってるからそれ以上は反抗せず大人しく口を動かしていると、今度は翠がこれ見よがしに「へぇ」といやらしい声で息子を見る。

 

「明日奈ちゃんに食べさせて貰えれば食べるんだ」

 

ほんと、いい加減にして欲しい、と思った和人だった。




お読みいただき、有り難うございました。
さすがに公開月に投稿出来ないのはマズいと(勝手に)思って
とりあえずUPした1話です(汗)
連日投稿の予定でしたが、すみません、無理になりました。
ちょこちょこ上げて11月中に終わる……予定です。
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