「週末だし、泊まってっても問題ないだろ?」
「だから、週末に限らず血液ならあげるのに」
翠が言っていた通り、育ち盛り食べ盛りのはずの和人が小食だと思われているのは人が食べるような料理だとすすんで口にしたいと思うのが明日奈の手料理だけだからだ。母親や妹が作ってくれた品も不味いわけではないが出された分を完食すればそれ以上を望む気にはなれない。明日奈は『番い』持ちの弊害かも、と菊岡に相談したが「普通に明日奈くんの作る料理が美味しいだけだよ」と困ったように笑われた。
翠は既に割り切っていて「ごめんなさいね、手のかかる子で」と息子が自分の料理より幼馴染みの女の子が一緒だったり、作ってくれた料理なら食が進む事を受け入れ「明日奈ちゃんがいなくなったら和人は餓死しそうね」と冗談を飛ばしていたけれど……真実、その通りになりかねない。
和人にとって一番栄養価が高く「ホシイ」と切望するのは番いであり『餐血』でもある明日奈の血液…と言うより明日奈そのものだからだ。
けれど「血は週に一回、週末に貰えればいい」と自分ルールを設定していて、それだって軽く貧血を覚えるかどうかの量しか吸わないのだから、明日奈から何度も「数日おきでもいいよ」と提案されているが今までそのルールを破った事はなかった。
「ほら、だから『夕食は明日奈』ってのは間違ってないし……でも、順番でいくと『デザート』あたりになるのか?…オレ的にはメインなんだけど」
そんな位置づけはどっちでもいいから、と当の明日奈は買い物リストを脳内で作成しながら「お泊まりグッズ」の中身も検討する。
夕食をお邪魔する事はあるが和人の母や妹が在宅している時は当然お泊まりはしない。
食事をして家族団らんの場に加えてもらい、程よい所で和人が「明日奈に課題を見て欲しい」とか何とか理由を付けて二人で二階に移動し、和人にとってのメインディッシュを差し出した後、隣の結城家まで送ってもらって終わりだ。
けれど桐ヶ谷家の家人が留守の時、二人が更に踏み込んだ行為に及ぶようになったのはいつの頃からか……和人は『餐血』をいただく前に時間を掛けて明日奈本人を隅々までいただくからどうしても「お泊まりグッズ」が必要になってしまう。
「なら私、学校の帰り、ちょっとお買い物していくけど…」
和人くんはどうする?、と視線だけで問いかけると一気に眉尻がしゅん、と落ちた。
「オレ、放課後は補習と言うか、追試と言うか?」
「どういう意味?」
「先週のカンカン照りの日、体育が陸上種目の記録日でさ」
それだけで合点がいった明日奈は気の毒そうに両手を和人の背にまわし、撫でさする。
普通の生徒ですらこの日は「嘘つきっ」と天候予想アプリに悪態をついた日で、あの季節はずれの炎天下で走ったり飛んだりは和人にとって苦行以外の何物でもなかったはずだ。
多分、早々にバテて全ての種目を消化しきれなかったろう、未記録のものだけ今日の放課後にされたらしい。幸いにも今日は曇天、和人には運動日和だ。明日奈はそのまま和人の背をぽんっ、ぽんっ、と軽く叩き、きゅっ、と抱きしめる。
「ちゃんと手加減してね」
「わかってるって」
本気を出したら「運動神経がいい」程度では済まなくなってしまう。
「終わって学校を出る時、連絡入れるから」と既に体育の居残りなどすっ飛ばして今夜を楽しみにしている顔の和人に明日奈は「はい、はい」といなすようにもう一度背を叩いたのだった。
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