二人揃って高校の校門をくぐった所で何気なさを装い他の生徒が歩いている道とは違う方向に外れる。
恋人同士が短い朝の時間にちょっとだけ二人きりで過ごしたいから、が伝わっているのか二人の背に注がれるのは疑問の視線よりも呆れが混ざった羨望がほとんどだ。
和人と明日奈の通う高校は正門から校舎の間に森のような広い緑地帯があって生徒達の憩いの場といっているのだが、さすがに登校してそのままのんびりする生徒はごく僅かで、少し奥までいけば人の影はない。
遠くで朝練を終えた生徒達の声と近くでは小鳥の声や葉擦れしか聞こえない平穏な世界に二人。それでも大樹の影に隠れるようにして和人は明日奈の顔に自分のそれを近づけ、触れる寸前にささやいた。
「いただます」
本日二回目の食事の挨拶。
唇を重ねるとほぼ同時に彼女のナカに舌を差し込み遠慮無く刺激してかき混ぜて、じゅるっ、と音まで立て一旦それを飲み込む。
「っは、美味(うま)っ」
一滴も無駄にしないよう羞恥に震える唇端に零れた唾液も丁寧に舐め取ってから、ちらっ、と明日奈の反応を確かめ、そちらも堪能する。色素の薄い肌が今は熟れた桃のようで、毎朝の事なのに彼女は毎回毎回気持ちよさと恥ずかしさを同居させて、瞳のはしばみ色をゆらゆらとぼやかせていた。
その涙さえ和人にとってはご馳走なのに、わかっているのかいないのか……もう一度口づける前にそちらに舌を這わせて余すところなく美味しくいただく。
「明日奈、もう少し」
そう強請って和人は再び彼女の唇を塞いだ。
品行方正の代名詞のような明日奈が学校に登校してすぐ人気のない場所で何の抵抗もせずこんな事をしているのには理由がある。
「いただきます」と言うように彼にとっては正真正銘の食事だからだ。
理由は二人が出会って間もない頃……和人と明日奈は幼馴染みだが産まれた時からお隣さん同士でいたわけではない。
和人が五歳の頃、隣の空き地に随分とモダンな家が建ち、そこに越してきたのが明日奈達、結城家で、そして当時から既に明日奈はひとりぼっちが当たり前の子だった。
窓から外を眺めている姿を遊びに出掛ける和人は前の道からよく見かけたものだ。
だからある時、ちょっと手を振ってみた。
幼い明日奈はビックリしたみたいですぐにカーテンの向こうに隠れてしまったから和人は「するんじゃなかった」と後悔したのだが、振った手を下ろそうとした時、カーテンの端っこから小さな手が恐る恐る出てきてゆっくりと揺れたのである。
たったそれだけの事が和人は嬉しくて仕方なくて、それから窓に明日奈の姿を見つける度に手を振り、明日奈が隠れずに笑顔で手を振るようになるまでそう時間はかからなかった。
その関係が更に踏み込んだ物になったのは翌年の夏、地元の花火大会の日。
楽しみにしていた花火だったが、夏風邪を引いてしまった和人は自分の部屋からでも見えないかと窓から身を乗り出していた。妹の直葉は兄が行かれないのだからと言って我慢が利く年齢でも性格でもない為、翠が「ちょっと見てすぐに帰ってくるから大人しくしててね」と二人で出掛けてしまったので家には和人ひとりである。
別に熱があるわけでも咳が止まらないわけでもない、ちょっと喉が痛くてたまにクシャミとの鼻水が出る程度なのに、と端から見れば立派に風邪だから、と言いたくなるが本人はさほど気にも止めずに出掛けてしまったのだ。どうせ妹は兄が病気で見に来られないのだから、と花火見物を途中で切り上げるような殊勝なことはしない。
だったら裏山の中腹まで登って花火を見て帰ってきてもバレる心配はない、という目論見だった。
ただ和人が家を出た時、ふと見上げた隣家の窓に明日奈を見つけてしまったのは偶然だったのか、必然だったのか。
明るいのは二階の彼女の部屋だけなので今夜も両親の帰宅は遅いのだろう。
こんな日まで家に一人でいる女の子が自分と同じに見えて、こんな日だからこそ外に出てもいいじゃないか、と思ったのは確かだ。けど迷いもせずに大きく手を動かしたのは綺麗な花火を見ながらもっと近くで彼女の笑顔が見たいと願う気持ちからだったのだが当時は気付くはずもなかった。
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