不老不死のチートを持って異世界転移した俺が無双したい話 作:あま蛙ひき蛙
「不老不死で何の不安もなく働かずに一生だらだらできてどんな奴にも負けないぐらいのチートが欲しいです」
キラキラした空間で神様っぽい何かの質問にそう返した。間髪を入れずに返答を返される。
「容量不足だ、もっと小さくしろ」
「働かずにだらだらできて死なないチートが欲しいです」
「うむ。よかろう」
やったぜ。これで自分はちゃんと生きていけるだろうかとかコミュニケーションちゃんととれるかとか死んだらどうすればいいのかみたいな、ふわふわした心臓が痛くなる不安ともおさらばだ。
「ありがとうございます!ありがとうございます!神様には感謝してもしきれません!」
体があったら土下座でも靴舐めでも何でもするだろう。死んだ時は絶望とか怒りとか嘆きとかを表現するくらいの気力も湧かなかった。死という逃れられない闇に向かって落ちていく絶望しかなかったがこれで人生大逆転だぜ!
でもクソみたいな死に方をした。それに自分の家は母子家庭だ。俺が死んだら母さんは1人になってしまう、母さんは悲しんでくれるだろうか。不安もぐるぐる頭を巡る。
「ああ、お前が生き返る世界は地球とは違う。異世界だ、慣れないだろうが頑張りたまえ」
え?っと思ったと同時に目の前が光に包まれていった。
異世界に行ってから10年。神から貰ったチートでご飯を食べる必要もないし、傷もすぐに治る。服もいっしょに再生するので異世界を目一杯楽しもうと思ったが‥‥‥。
強い、強すぎる。異世界の生き物植物自然現象全てが地球とは桁違いだった。
ゴブリンは低身長だが筋肉盛り盛りで1発殴られれば体がコマみたいに回って10メートル以上吹っ飛ばされる。
スライムはなんでも溶かす。踏み潰そうとしたら通り抜けてバグったかと思っていたら足が溶けていてそのまま倒れて全身を溶かされてしまった。しかも再生しても溶かされるという地獄が3週間も続いてしまった。もう思い出したく無い。
そんなわけで異世界は散々だ。旅も未だにできていない。そんな俺は今お貴族様のお屋敷に住んでいる。滞在理由はその力を認められて客将としてとか、箱入りの一人娘に惚れられたとかそういうのはない。
ヒエラルキーは使用人より下、ペットだった。
「ほれレント、餌だ食え」
空中に放り投げられた餌を必死に走りながら追いかける、失敗したら頭と胴がおさらばする。空をくるくる飛んでシャワーを流すあの感覚は未だに慣れない。
空に未練があるかのように羽ばたく生肉をなんとかキャッチした。何の肉かは知らんが。
「へっへっへ、咥えましたよ坊ちゃん」
無事に成功した、久しぶりに成功した、感動で目が潤む。
この世界の人々はそこら辺の子供でもオリンピックに出ればあらゆる競技でメダルを総なめできる。このクソガキも例外ではない。何十メートルも飛ぶ肉を口でキャッチするのは至難の技だ。
坊ちゃんはニコニコしながら手招く。
「おおレント、素晴らしい。お前の体はモルネのように脆いからな、成功するとは思ってもみなかったが‥‥‥」
坊ちゃんが駆け寄った俺を一刀両断!綺麗な庭園が血に染まる。本来なら即座に再生できるがどうもそれは面白く無いらしい、再生速度を落とせと言われた。少しはスプラッタられる人の気持ちを考えてほしいよほんと。
「うむ、今日もいい運動ができた。血に染まったここも美しい。いい貴族はいい朝を迎える物だ」
勝手に納得して勝手に帰る。それが貴族、それが子供。しかもこいつは親に甘やかされて育ったクソのハイブリッド。世界は自分のために回っていると思ってるような自己中。
いつか痛い目に合わせてやると胸に誓って俺もとぼとぼと自分の部屋に帰る。
俺の部屋は庭園にあるスペースだ。だが夜は星が綺麗だし、草花の香りにも溢れている。たまに使用人に八つ当たりされたり、坊ちゃんやその取り巻きに魔法の的にされたりするが壊れないし景色はいいしで誤魔化している。
そんな生活を繰り返して2年、事件は起こった。
魔剣グリム
それはこの世界でも有名な剣だった。竜を狩ったとか、戦場で兵を皆殺しにしたとか逸話には絶えない。
ある冒険者がそれを迷宮で見つけ、この地を収める貴族に献上したらしい、つまりここだ。
そして今日、その剣を見せつけるためのパーティが始まった。主役は貴族一家。参加者にはこの町の商人とか高位冒険者とかの上位階級が集まっているらしい。
物置小屋に連れて行かれるときに耳にしたのだ。しかし魔剣か‥‥‥。どんな剣なんだろうか。ビームを出すのだろうか、それともどんな物でも切断できるとか‥‥‥。
この世界では力こそ全て、どんな事をするにしても力が無ければ始まらない。俺の趣味は妄想や景色を眺めると言った慎ましい物になっている。
あー
シンデレラみたいに魔女がやってきてガラスの靴の代わりに伝説の武器とかもっとすごいチートを貰えないかなぁ、それでAランクの冒険者になって
チヤホヤされて〜なんて妄想したときだった。
パーティー会場から聞こえてきた音楽が止んだ。
悲鳴が上がった。
誰かが狂気的に笑った。
剣戟が始まった。
叫び声、爆発音、断末魔、幾度となく繰り返し‥‥‥
「何これ?なんで戦ってんの?つーか長くね、強え冒険者とか居るんじゃ‥‥‥」
瞬間、
止んだ、何もかもが。
音が何もしない。
何があったのだろうか、剣舞でもあったのだろうか、それにしては静かすぎる。他の会場に移った?いや移動音もしなかった。
あれか?魔剣の呪いかなんかで暴走した誰かが泣きながら貴族を調理して伝統終了とか?
ケラケラ笑いながら血に染まった剣を見た。美しい剣だ、血に染まっていても水晶のような刀身と金色の装飾は褪せない。むしろ血を吸ったかの様に生き生きとしていた。それは、まさに、魔剣だった。
瞬間、体が爆ぜた。
突然の事にマガジンマークをうかべるも、再生。これで元通り、腹も学生服も傷ひとつ無い。
剣の持ち主を見る、血に濡れて笑っていた。変わり果てた姿だったがそれはこの屋敷のクソガキことアルゼリオン坊ちゃんだった。
「あ゛〜」
口角を上げている口からは苦しそうなうめき声、爛々とした目から涙が落ちている。
「の、呪われてる‥‥‥」
まさかの予想が大当たり、どう反応すればいいのか‥‥‥。
まあいい、いやよくないか、目の前のクソガキはどう見ても正気を失っている。俺を1回殺したぐらいで満足するか?
スライムの悲劇が再び起ころうとしている。なんとかせねばならない、どうするか考えようとした瞬間に浮遊感、ゴブリンよりずっとはやーい。
再生、前を見る。坊ちゃんは豆粒みたいだ、どれくらい吹っ飛ばされたのかすら分からない、どうしよう。
すると騒ぎを聞きつけて俺の脱走を幾度も妨害した護衛たちが10数人。坊ちゃんの自慢話によると彼らはBランク冒険者に匹敵するほどの猛者だとか。煮え湯を何度も飲まされたが今の状況だと頼もしい。いけ!やっちまえ!
「アルゼリオン様!なぜその様なお姿に!」
「中の護衛はどうした、何をやってる!?」
「何をなさるのですか!アルゼリオン様!」
ワイワイ叫んで防戦一方だがすごい、完璧な連携だ、坊ちゃんは手も足も出ないぞ。
いや待て、確かに外の護衛は強いが、それは中の護衛たちも同じだ。それに中の方が護衛の数も多いし、冒険者たちもいた。今の強さでは絶対に倒せない筈、何かあるのか?
その時、まるで目の前に鋭利な針を突きつけられたかの様な寒気が走る。
3人の上半身が飛んだ。そして剣が爆ぜ、その衝撃で5人の護衛が吹っ飛ばされた。即死、体がバラバラになってる。残りの数は5人、見ると坊ちゃんの目が赤くなっている。白目部分は充血して赤くなり、虹彩はルビーのようにギラギラと輝いている。さっきまでは緑色だったのだが、そういえば物置小屋にいた時も赤かったような‥‥‥
「悪魔付き‥‥‥」
四肢を無くし腹から腸を覗かせている護衛が最後に言った言葉は今の坊ちゃんにピッタリだ。
豆粒ほどに見えていた坊ちゃんの姿もこの距離ならよく見える。脱走しようとしたが門も閉じているし壁も登りきれなかったので見物しに来たのだ。
それにこんなに暴れているのだ。国から騎士やら強い冒険者やらが来て何とか止めてくれるだろう。
そう考えると楽になる。俺も長年坊ちゃんのペットをしていたのだ、最後くらい見届けよう。
すごいなぁ、生き残りの7人が火の槍を放って坊ちゃんがそれを魔剣で一掃!返し刀に首を刎ねる、これであと6人。
ここにコーラがあったらなぁ、ポップコーン片手に楽しめたのに。
「しかし何故?伝説の魔剣グリムは確かに呪われた剣だが、呪いは何千もの人々を殺さないと現れない筈‥‥‥」
疑問を吐き息を整える護衛と目があった。
そういえばこの男は朝の餌やりで坊ちゃんの護衛をしていた1人だ。俺が花壇に水をやっていたところもバッチリ見ている。
「あ、もしかしてお前が!」
え、もしかして俺で死人判定が出てるの?いやおかしいでしょ俺死んでないし、そもそも殺したのは坊ちゃんだし、1日平均10回は俺のことを殺してるし、暇なの?ってくらいさぁ、変に真面目だよねぇ。つまり俺は悪くない。
つーか魔剣さんもさぁ、なんなの?律儀なの?そういうのはさぁ無視しないと社会でやってけないよ。つーかどうやって判定してるの?これだから異世界産アイテムは‥‥‥。
目があった時にやられたのであろう護衛の男は体を岩でできた槍に貫かれていた。これで5人。
残った5人が目を合わせ頷き、一斉に仕掛けた。さっきまでの動きとは違う、一直線だ。
「うおおおおお!!!」
雄叫びをあげ剣に炎を纏わせ突進、剣ごと切り捨てられたが時間は稼げた。左右から2人ずつ炎の中から現れ奇襲、坊ちゃんは右の2人を迎撃し左の方に砂の雨を浴びせるが強引に突っ切ってきた1人に手刀を振る。凄い、顔面が真っ二つだ。
「ぜいあああああああああ!!!!」
戦意を激らせ走ってきている見知った顔。それをアルゼリオンが嫌に冷静に見ていた。何故こうなってしまったのだろうか。父に剣を触りたいとせがんだことか、それとも自分の才能に驕っていたことか。分からない。
残った方が剣を振りかぶり急接近、それをアルゼリオンが冷静に対処する。左手はまだ肉の中、ならば剣で、
剣を振りかぶろうとしたが重い、見るとさっき剣で切り裂いた2人が死にかけながらも剣を掴んでいた。
彼らは、ウェイトとローンズ。ウェイトは大人なのにいたずら好きで、父にいたずらした事を黙ってくれて、魔法に失敗した時も笑って練習に付き合ってくれた。ローンズはあまり喋らなくて、何を考えているのか分からなくて避けていたけど、初めて魔法に成功した時にフッと笑っていたことを今でもずっと覚えている。その2人が血だらけで、見たことないくらい怖い顔をして泣きそうになる。今すぐ助けたい、でもそれとは別のことを頭はずっと考えている。
遅れる!切られる!死ぬ!
違うだろ、何故自分のことで心配してるんだ。剣を掴んでいた2人が笑った。遠くに行ってしまう。腕が軽くなった。だが間に合わない。
アルゼリオンは、家族を殺し信頼できる部下を殺したアルゼリオンは、
走馬灯のように血の花を思い浮かべた。くるくると舞う首から血が溢れ、辺りを染め上げる。
今までは綺麗だったそれが今は‥‥‥
思わずだった。
魔剣の支配は解けていた。
だが、迫ってきている死から逃れるために咄嗟に魔法を発動させた。
目の前の、槍に貫かれている、一緒に育ってきた、兄弟のように思っていた彼を、
殺した。一緒に練習した、一番得意な魔法で。
「アルゼリオン様、良かった、戻ってきたのですね‥‥‥」
息も絶え絶えだった彼は笑みを溢した。何度も見てきた優しい笑顔だった。
頭が痛い、右手が熱い、心臓が他人事の様に唸っている。
「申し訳、ありません‥‥‥貴方の手を、私は‥‥‥」
「いい、そんな事はどうでもいい、お前は、お前たちは」
槍は彼の胸を貫いていた、心臓の近くだ、彼は‥‥‥もう。
「私は‥‥‥もう、ここまでの様です、最後まで、一緒に‥‥‥約束を‥‥‥」
「すまない、すまない、わ、私のせいだ‥‥‥私が皆を‥‥‥私は、どうすれば」
「生きてください、貴方が生きている‥‥‥限り、私たちは‥‥‥死にません、どうか‥‥‥最後まで‥‥‥生きて‥‥‥幸せに」
死んだ。彼は、アイテラは死んだ。私が殺した、咄嗟で、死にたくなくて、だから殺した、死にたくないから、そんな理由で?
頭の中がぐちゃぐちゃで、切られた右腕は血を流している。断面を手で押さえた。熱い、熱い血だった。この血は、この尊い血の持ち主は今は自分1人だけだった。自分が殺した。厳しくも優しい父も、優しくて暖かかった母も、とびきりに可愛くて幼かった妹も、私のことを慕ってくれた部下たちも全て死んだ。殺した。魔剣を手に取って、頭に靄が掛かって、皆殺しにした。体が勝手に動いて、笑いながら。
死にたい、消えたい、これは夢だと叫びたい。でも目の前にはアイテラの死体があって、心臓はまだ軋んでいる。
今すぐ死にたい、でも、父の教えが諦めずに生きろと叫ぶ。友の約束が体を縛る。でも何より、死にたくなかった。あんなに死にたいと口に出してるのに、目の前の物になりたくなかった。
「ちくしょう、ちくしょう!」
情けなかった、情けなかった。
坊ちゃん‥‥‥
あの坊ちゃんが泣いていた。世界が自分中心に回っていると思っていた坊ちゃんが、友の死に、自分の情けなさに、嘆いていた。
坊ちゃん、辛いだろうな‥‥‥、分かるよ。
今は泣いていい、泣いていいんだ。最後に立てば、立派に最後まで生きればいくら泣いたっていいんだ。乗り越えろ。これを乗り越えたとき、お前はきっと、凄い奴になれる。だってお前は今生きようとしてるんだ。誰だって死にたいさ。けどな、あんたは今生きている。生きてたら何にだって‥‥‥
いや無理だわ、なれないわ、だって今死ぬんだもん。
俺は魔剣を手に取ってアルゼリオン坊ちゃんことクソガキの頭の上に精一杯力を込めて魔剣で殴りつけた。
「がっっ!」
坊ちゃんが素っ頓狂な悲鳴をあげる。うけるわ。
「えいえい」
倒れた坊ちゃんの頭を剣で滅多刺し、いちごジャムの様になった頭を確認して胸を何度も刺した。
「ふぅー、これで死んだだろ」
感動的な光景に気圧されてシャンクスみたいなこと言ったけど俺こいつに何度も殺されてるんだよなぁ。まあいいや、これで俺は晴れて自由。坊ちゃんもめっちゃ強くなったし俺も強くなれるだろ。実際すごい力を感じる、今なら空だって飛べそうだ。つーわけでジャーンプ!おお!すごい!めっちゃ飛べる!そして壁を乗り越えて俺は走った、明日に向かって。
気分は爽快、何たって俺は走り始めたばかりだからな、この果てしなく遠い異世界をよ…