不老不死のチートを持って異世界転移した俺が無双したい話 作:あま蛙ひき蛙
朝になった。門が開いたので歩いて行く。壁に近づき様子を見る。
大きい、ある程度離れて首を痛くしなければ頂上を見せない。人力なのか魔法なのかは知らないがすごい壁だ。門もそれに劣らず重厚で青い色の金属で出来ている。
門番は3人いてじっと俺の方を見ていた、もしかして怪しんでる?まあ夜中に1人で佇んでいる奴は怪しいか、誰だって。
立派な鎧にゴツい槍、髪は兜で見えないが変な雰囲気はしていない、大丈夫そうだ。
「こんにちは、入っても?」
顔が分かる距離になる、目は普通の黒青緑、カライカルの人だ。
「身分証明できるものはあるかい?」
碧眼の男が言った。
そんな物あるわけない、身分証明?ここ異世界だろ、なんでそんな物必要なんだよ。どう見ても文化レベル低いのに。
「いやぁ、持ってないですね。実は前まではリグジェイルに居てですね、何とかここまでやってきたんですよ、へへ」
情けでつろう、スマイルで友情もアピールだ。
だが門番どもは俺を訝しげに見ている。門の近くで突っ立ってたのが悪かったか?それとも見たこともない風貌だからか?
答えは簡単だった。
「いやお前、服が綺麗すぎるだろ。第一この町とリグジェイルはかなり離れてるんだぞ。荷物も持ってないのに無理だろ」
黒目の方がツッコんだ。
確かに。普通の人間は歩けば汚れるし物を食べないと動けない。
それに比べて俺は比較的綺麗だし剣以外に荷物の一つも持っていない、怪しさ満点だ。
なんでそんな所は常識的なんだよ、この世界の人間は破茶滅茶だしモンスターも理外に居る、植物なんて栄養があればどこでも良いらしいしさぁ……
「無くてもなんとかなりますかね……」
ここは下手に出よう、流石にこの国の人間全員が身分証明書を持っているとは考えずらいし無くてもなんとかなるだろ多分。
「うん、身体検査をして危ない物を持ってなかったらだけど……」
そこで言い淀んだ。視線の先は俺が手に持った凶器、グリム。神秘的な危うさと危険な美しさを併せ持つ魔剣で不信度は最高潮、言い逃れは出来るかな……。
「お前……その剣はなんだ?」
ほら来たっツッコんできた方がまたツッコんだ!
まあ慌てるな、話せば分かる人間はっつーわけでなんて言えばいいんだこれ。貴族から殺しとった戦利品でーすなんて言ったりどうなるんだこれ……信じてもらえるか?
それとも実家の家宝なんですって同情を誘うのか、それともそれともまあ良いか、ここは凄腕剣士で通そう。
「ああ、これは俺の得物ですよ、命を刈り取る形をしているだろう?」
なに言ってんだ俺?久しぶりに人と話せたからテンパったの?なんで最後急にタメ口になったの?
そんな疑問の渦と得物とかいう漫画とかでしか使わない言葉を使えての興奮が絡み合ってフリーズしてしまう。門番達の戸惑いとなんとも言えない空気を見ることしかできない、つらい。
「うーん、うん。まあ町の中で何か問題を起こさなければ大丈夫だよ。積極的に騒ぎを起こす様な人にも見えないし、とりあえず上着を脱いでくれるかい?ああどうも……うん、何も無い。体の方に触っても?」
居た堪れない空気を取っ払ってくれた優しい門番さんに従い検査を受ける、ありがとうの極みだ。
つつがなく終えて残るは魔剣になった。渡しても大丈夫なのだろうか?爆発しない?心配だ……。
そんな心配を門番の人たちも思ったらしい、質問をぶつけてきた。
「その剣、神器か?にしてはなんか血生臭いというか猟奇的というか……」
「魔剣らしいっす」
「魔剣?あの?」
優しい門番さんが興味深げに放った。目を輝かせている、確かにこの剣はカッコいい形をしている、スタイリッシュだ。
「まあ人の武器を無闇に触るのは良く無いね、怪しい物も持ってないし、通ってよし!」
「おいお前……」
かと思ったらすぐに切り替えて通してくれる、ツッコミまくってた人も呆れているがまあ納得したのだろう、追随して許可を出してくれた。やったね!
「ありがとうございますっ!お仕事頑張ってください!」
クールに壁にもたれていた3人目を通り、朝日を反射する青門を通り、ついに俺は俺を人間扱いしてくれる町に着いたのだ。
「おおっこれが!」
早いからか人数も疎らで寂しさを感じるが通っていく人々の髪は光らないしゴミが大量に落ちているし壁もぼろっちい、そしてゴミを突っつくカラスっぽい鳥を狙う薄汚い子供を蔑む目で見つめる主婦?の方々。
リグジェイルの街とは大違いだ。まああそこは戦力も揃っていたし貴族も住んでいた、仲間意識もあっちの方が強いかな。
いや、ここから俺のサクセスストーリーは始まっていくんだ。そう見ればこの町も最初の冒険の土台として踏んでも壊れない逞しいドブネズミみたいな……。
そうだギルドっ冒険者ギルドを探そう!
異世界らしくこの世界には冒険者ギルドがあるらしい。魔剣お披露目会でも来ていたのを少し見ていた。煌びやかな装備を纏い自信を溢れさせていた超人たち、冒険者とはすごい物だと思っていたがここの冒険者達はどうなのだろうか?というかギルドは何処なのだろうか、聞いておけばよかったと後悔しながら大通りを進んでいく。落ちている骨や害虫の死骸、それを啄む鳥や虫、糞を眺めて文化レベルを嘆いているとこれらを掃除している老人を見つけた。気だるげに袋にゴミを集めている様子からやる気はあまり無いと窺えるが質問に答えてくれるだろうか?聞いてみよう。
「お爺さん、お忙しい所恐れ入りますが冒険者の集いは何処にありますでしょうか……?」
お爺さんは後ろ、つまり俺の前を指差し掃除を再開した、このまま真っ直ぐらしい。感謝を伝えまっすぐ進む。
数分歩き続けると大きな建物が見えてきた、大樹を囲む様に建てられている黒い木製の建物だ。異世界文字で冒険者ギルドと読める大きな看板が掲げられている。やって来た、ワクワクしてきたぞ。このワクワクは異世界に転移した時にも匹敵する、ドキドキして心臓が破裂しそうだ。俺なら治るけどなんて不老不死になってからのつまらない不死身ジョークを考えているとあっという間、すぐに入り口の前に立っていた。
中で見たのはまさに冒険者ギルドのテンプレ、テーブル複数、受付が数人、依頼があるのだろうでっかい掲示板を眺める偉丈夫の後ろに10代くらいの少年達が所々にいる。
ギルドだな、ギルド。Web小説で見た冒険者の様子そのままだ。これからは俺もその仲間入りだ、テンプレ通りなら最初に登録だ。
受付の前には数人並んでいる、他の受付も見てみたがどれも同じくらいの列を作ってた、結局一周回って最初に見た列に並んだ。
未来の同業者達の好奇の目に晒されながら受付に着いた、おばあさんの真顔の一文字は開く様子はない。どうやら先行は俺の様だ。
「冒険者になりたくて来ました、登録できますか?」
「登録には800ゼン掛かります、また登録の際に血液を……」
金かかるのかぁ……。
今の俺は一文なし、財産になるものはどれも他人に渡せない。服を脱いでも気を抜けば脱いだ服は消えて新品同然の状態で元に戻る、金持ちにはなれない。
この剣も離れれば俺を追いかけてくる、質にはなれないだろう。
手に入れた神器も吹き飛ばされた時に行方不明だ、奪った他の荷物も同様。
つまり俺が払える物や売ることが出来る物は何も無い。
誰かいないだろうか、帰ってミルクでも飲んでなと絡んでくるテンプレートなかませキャラが、慎重なのは戦士としては美点なのだろうが冒険者だろっ!冒険しろよ!見慣れない格好してヤバげな武器を持ってる奴が居るんだぞ、かかって来いよっ!俺だったら……絡まないか、だけど、人間のすごい所は多様性だ、いろんな人が居るからカラフルな世界になるんだろっ!金持ってて短慮でそこそこ強い弱い物いじめをする奴はここには居ないのか……?
どうするっ挑発するか?いや、それは三下がやること、未来の英雄がやる事では無い、だったらツケか?後で払うから今は勘弁してくれと請うのか、いやそれ以前に通用するのかこのおばあさんに、かなりキツそうだ、それに失敗したらかなり恥ずかしい、どうする……どうすれば。
「よお、見たことない格好してるけど、金ないのかぁ、貸してやろうかぁ?」
横から声をかけられた、無視しても話が進まないので見てみる。
ラフな格好をしている中年の男、武器は何も持たずにいる。貸してくれるのだろうか、人に借りを作るのは好きでは無いが金の問題なら金で解決できる、借りれるなら借りよう。
「ええ、田舎出でお金はあまり持っていないんです、ありがたいですね。貴方は?」
「俺はここの数少ないBランクのウォリオだ、38才独身、百剣のウォリオと自称してるぜぇ」
Bランクか、すごいな。今まで結構Bランククラスと戦っているがBランクはかなり少ないらしい。大きい国でギリギリ四桁、トーマスが教えてくれた。
自己紹介を終えたウォリオが続けて言う。
「俺は剣マニアでねぇ。その剣、もしかして魔剣グリムかい?」
「ええ、そうですよ。切れ味抜群頑丈ピカイチ刃こぼれしないすごい剣です」
受付から離れ、ウォリオの目の前に見せる。
ほう、とウォリオがいい意味で嘆息したように見えた。しげしげと眺めて剣から目を離さずに言う。
「素晴らしい剣だ、刀身の水晶は見た事は無いが、希少な物だと断言できる。装飾も素晴らしい、どうすればここまで加工できるのか……まさに魔剣だ。人を魅了する、魔に堕とす、魔性の剣だ」
伸ばし口調が消えている。目も血走っている、日本では見たことのないレベルのオタクだ、放っとけば更にベラベラと話しそうなので話を進めよう。
「はいそうですね俺もいい剣だと思いますそれでお金のことですが!」
俺はまるで金の亡者の様だが、仕方ない。本当に仕方ない。だって怖いもんこの人、目的のためならなんでもする様なジャイアニズムを感じる、いやむしろそれより酷いか。殺してでも奪い取る様なタイプの人だ。
ようやっと俺の方に目を向けたらしい、好きなテレビを見ていた時にゴキブリに話しかけられた様な顔を向けて数秒、ようやっとこの剣の持ち主に気づいた。
「ああそうだ、貸すなんてとんでもない。金なら幾らでも払う、いくら欲しいんだ?いくらならこの剣を俺に……」
「いや無理っす、この剣持ち主が生きてる限り離れない系の」
いつのまにか手にした剣を振り切ったウォリオのせいで最後まで話せなかった。1頭身になった俺がコロコロと床に転がる、血のカーペットを作りながら誰かの足にぶつかって止まった。
誰かが悲鳴を上げた。それに気づかずウォリオがうっとりと俺の指を引き離しながらグリムを手に持つ、美しい刀身に映り出された黒い眼は狂気によって深淵に見える。
「剣だ、俺の剣……くふふ、くひひい、くはははははは!!」
突然の惨劇に動けない周囲に気づかず狂った様に笑い両手で剣を握りしめ、ウォリオがフラフラと何処かに行こうとする、それを首を繋げた俺が見ていた。気づいていないのかこいつ、こんなんでBランク冒険者が務まるのか?試してやるよ。
ウォリオの両手を吹き飛ばしながら俺に向かってくるグリムを掴み頭に叩きつけようとするが避けられた。体に冷たい異物が入り込む感覚、どうやってかは知らないが剣に貫かれたらしい。痛みを堪えながら痛々しい両手をむけているウォリオの顔に剣を突き立てようとしたが今更になって動き出した周りの冒険者達に抑えられ、地に倒された。
ウォリオも同様、ジタバタ足掻くが屈強な男数人に抑えられ何処かに連れていかれた。何か叫んでいる様だが痛みでうまく聞こえない、体を貫いてる剣は未だ離れず押さえつけられた衝撃でもっと食い込む。涙が溢れ景色が見えない。
大人しくしているうちに誰かが剣を抜いてくれた様だ、体が再生して痛みが引いていく。
「おい!大丈夫……そうだな」
周りはドン引きしている。まあ首を切られてもくっついてハリネズミになってもジタバタ動いたらそりゃキモいか、つーか何も解決していない。登録金が未だに無い、あんなに痛い思いをしたのに。床に座りながらため息をつくと声をかけて来た青年冒険者が銀貨を数枚渡してくれた。
「将来有望だからな、今のうちに恩を売っとこうって訳」
優しい、これで登録できる。名前を聞こうと立ち上がる前に優しい青年はじゃあなと告げて外に出て行った。
クールに去って行った彼の背中を見つめ、改めて受付に向かう。周りがささっと離れて行くのを少しいい気分になり先程のおばあさんに銀貨を渡す。一枚減った銀貨と銅貨2枚を受け取り説明を聞いた。
冒険者同士で勝手に戦ったらダメ、物取ったらダメ、喧嘩売るのはダメと最初のうちは簡単なルールらしい。段々ランクが上がったらルールも増えていくとのこと。説明を聞き終え血を渡しおばあさんが奥へ向かい数十秒。黄緑色の葉っぱをくれた。これが冒険者と示すギルドカードの様な物で、手に持つと鉄の様な感触で蛍の様に輝いた。ランクアップすると色や大きさが変わるとのこと。
道のりは長かったがこれでやっと冒険者、異世界らしくなって来た。これまでは人間としか戦って来ていないしモンスターは皆どこかおかしいのとしか遭遇していない。まともに戦ったカメレオンも不意打ちされてベトベトになったしで最悪だった。
これからは弱くてギミックがないモンスターと戦いたい。そしてたまに程々の強さのモンスターと戦って充実感を得て1日を満足に暮らす、つまりスローライフ、日常系だな。
人生は長い、今はゆったり静かに過ごしていこう。誰にも邪魔されず独りで静かで豊かで……