テイワット産神様のファミリア   作:影元冬華

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先駆者が消えてしまって悲しみに暮れています…


5.風神様の場合2

 ダンジョン25階層、巨蒼の滝(グレート・フォール)と呼ばれるその階層は27階層まで続く巨大な滝が存在する。足を踏み外して落ちればいくら恩恵を受けている冒険者と言えど、その命はあっけなく失われることとなるだろう。

 その滝を前にバルバトス・ファミリアの団員たちはストレッチをしていた。

 

 

「各員、風の翼を確認。ダンジョンに来る前にも確認しているだろうが、万が一損傷している場合は後続の団員をここで待つように」

「ジンさーん!偵察班準備完了です!いつでも()()()()よー!」

「分かった。偵察班は先行して偵察、場合によってはモンスターの排除を頼む。偵察班突入3分後に本隊も降下、そのまま進行する」

 

 

 赤い兎のような容姿をした少女、偵察部隊隊長のアンバーが数名の団員と共に巨大な滝壺へと文字通り飛び降りた。その光景を見ていた他ファミリアのパーティは突然の暴挙に叫んだが、バルバトス・ファミリアの団員たちは対して気にした様子もなくいつも通りにしていた。寧ろ、叫んだ他のパーティを見て「あぁまたか」と面倒そうにしているくらいである。

 

 バルバトス・ファミリアが使用しているアイテムの一つ、風の翼と呼ばれるものは文字通り「風を掴んで飛ぶ翼」である。それを用いることで高所から落下しても空中で展開することで滑空し、遠くまで行くことができる。しかしこれを扱うには相応の技術が必要であり、その制作方法と流通経路はモラクス・ファミリアとブエル・ファミリアによってとても厳しく制限されている。その為、そもそも風の翼というアイテムがあるということを知らない冒険者もいた。今回、飛び降りるところを見たパーティは知らない部類らしい。

 

 

「隊長、翼がどうも展開不良気味なのが3人ほど」

「…全員前衛か。こればかりはモンスターとの戦闘を避けられない以上仕方ないな。了解した、では3名はここで後続の団員を待っていてくれ。場合によっては進路上に発生したモンスターの排除を頼む」

「了解です」

「本隊突入準備!これより27階層へ降下する!」

 

 

 

 ジンの掛け声に団員たちは各々の武器がしっかりと結ばれているのを確認する。何度も行ってきた降下ではあるが、ダンジョン下層ともなるとその危険度はかなり危険なものである。万が一武器を落としたとなれば死を免れることはできないだろう。

 武器を確認し、大丈夫であると分かった団員たちが次々と滝壺へと落ちていく。ただの自殺行為にしか見えないこれも、風の翼さえあれば立派な移動手段として機能する。

 翼の不良でその場に残った団員たちは全員飛び降りたのを確認し、その場で後続の団員たちを待つために簡易キャンプを組み始めた。

 

 そこへ、先ほど飛び込んだのを見て叫んでいた他のパーティがものすごい形相で走ってきて問い詰めてきた。

 

 

「オイ!!なんでダンジョンに来てあんな自殺行為をしているんだ!!」

「あー、これ俺たちが言ってもいいのかな」

「いいんじゃない?作り方を言わなければ問題ない筈だし」

「おう。じゃあ一言で説明すると『落ちても何とかなるアイテムがあるからショートカットした』だけ」

「…は?」

 

 

 呑気に説明するバルバトス・ファミリアの団員の言葉に思わず固まった。これだけの高さから落ちても平気なアイテムを、あれだけの人数全員に。それだけでも掛けた資金はいざ知らず、そしてそこに用いられている技術は果たして何なのか。それを知らないパーティの冒険者は唯々固まるしかなかった。

 

 

「やっぱそうなるよなぁ。俺たちも最初はビビりまくったし」

「まー、でも慣れると無いと困るし。あと案外風が気持ちよくて気に入るぞー」

「いや、俺ら以外のファミリアにはあんま出回ってないから無理だろ」

 

 

 ワイワイガヤガヤ。バルバトス・ファミリアの面々は笑いながら止めていた作業を再開する。風の翼のことを聞いたパーティはいつの間にかいなくなっていた。

 

 

▽▽▽

 

 

 バルバトス・ファミリアのホーム、団長室にてディルックは提出された極秘の報告書を見てどうしたものかと考えていた。報告書を提出してきたのはガイアであり、それは気まぐれで単独で中層に向った時の事だった。

 

 

「…冒険者の装備を付けたモンスターが複数。それも人語を解していた、か。ウェンティ、どう見る」

「んー、ありえなくはないと思うよ。だって「彼」も下にいるんでしょ?じゃあ変異体みたいに人の言葉をしゃべるモンスターがいてもおかしくはないと思うよ」

「やはりか。だがこの事態をギルドが認識していないのか?」

「どうだろ。だってギルドの管理してる神様ってウラノスだし。僕らに隠し事の一つや二つは普通にあると思った方がいいんじゃない?」

「…はぁ。どうしてガイアもこんな面倒なものを見つけられたんだか。まぁ、今回の簡易遠征には影響がなさそうだから今は『保留』にしておく。一応、他の団員には漏らさないようにしておくべきだな」

 

 

 報告書に書かれていたのは「人語を解し、冒険者の装備を身に着けたモンスターが複数いた」という内容のもの。他のファミリアならば一蹴され笑いものにされかねない内容ではあるが、とある事情であり得なくない訳ではないと知っているディルックは頭を抱えることとなった。同時に、報告を聞いていたウェンティも真面目な表情で考えているようであった。

 

 

「『彼』に関してはギルドに報告してるけど、ギルドが似たような存在を僕たちに教えるかと言われれば微妙なところなんだよね。ねえディルック、もしそのモンスターと出会えるとすれば君はどうする?」

「…その時にならなければ何とも言えないな。敵対している状況で出会うか、場所、人、それに他者の目も考えなければならない。仲介があれば、まあ話くらいはする」

「うん、わかった。じゃあ神会(デナトゥス)で話題になったら僕もそれとなく探りを入れてみる。それまでは動かないでおくよ」

 

 

 ディルックは報告書をその場で燃やし、灰燼と化した屑が床に散らばる。万が一見られてはまずいものである以上、消し去る方が安全だと判断した。そのタイミングで団長室のドアがノックされる。許可を得て入って来たのはファミリアでのアイテム生成を一任されているアルベドだった。

 その手には何か入った瓶を持っており、何かしらのアイテムができた報告なのだろうと理解した。

 

 

「失礼するよ。四風守護の羽から簡易風域を作るアイテムができたから試験をしに行こうと思ってる。許可をもらいたいけど、いいかな?」

「その瓶の中身が風域を作る物、という認識であっているか?」

「そうだね。一滴で約30秒、10Mほどの風域になるはずだよ。風の翼ありきの僕たちしか有効活用できない、という面はあるけども」

「10Mか…分かった、ホームの中庭で試してからダンジョンで試験をしてくれ。ただし、あまり人目に付かないように」

「了解した」

 

 

 アルベドが出ていき、ディルックは先ほど説明されたアイテムの今後を考えてさらに頭を抱える。

 風の翼を使えるファミリアは7つ。そのうちの3つのファミリアはまだ本格的に動いていないため、まだ使用しないだろう。問題は自分たちを含めた4つのファミリアで必要となった場合である。先ほどの説明で使用している素材が「四風守護の羽」、つまりは「モンスターの羽」が素材であり、そのモンスターはバルバトス・ファミリアにおいては敬意を払うべき対象のものであるということだった。

 定期的に様子を見に行くディルックやガイア、ジンなどの幹部メンバーは知っているが、他の団員たちは知らない。ましてや、モンスター扱いされている存在が「神の眷属」であると誰が考えるだろうか。

 

 

「…いった傍からこれか」

「いやー、トワリンの羽で風域を作っちゃうかぁ。彼、すごいね。普通なら暴風レベルになると思うんだけど」

「そこじゃない!」

 

 

 ディルックは人知れず増えていく問題にガイアを巻き込んでやると決めたのであった。

 

 

 

▽▽▽

 

 ダンジョン中層のとある未開拓領域。そこはダンジョンの中でも入るのに苦労し、なおかつ大してめぼしい収集物もないため滅多に人が寄り付かない場所。そこには人一人がギリギリ入れる程度の穴が開いた岩がある。その穴を進んでいけば、目の前に現れるのは水晶で覆われた広く青い空間。そしてその中心には一匹の巨大なドラゴンがいる。

 4つの翼を地面に広げ、目を閉じていることから恐らく眠っていたのだろう。来訪者の気配に閉じていた目を開け、首を上げる。その視線の先にいた来訪者はディルックとガイアであった。

 

 

「ディルックにガイアか。珍しい組み合わせで来たものだ」

「お久しぶりです、トワリン。少々お聞きしたいこととお願いがあってきました」

「俺は旦那に引きずられてきただけなんだけどな。話は旦那から全部聞いてくれ」

「話と願いとは。バルバトスが何かしでかしたのか?」

「いえ…聞きたいのは貴方以外にも話ができるモンスターを知っているか、ということなのです」

 

 

 トワリンはいつもやってくるアンバーではなくディルックとガイアという組み合わせに驚いた他に、質問を聞いて少し思案していたようだった。ディルックはその反応に「いる」と言うことに関してはほぼ当たりだと判断し、トワリンの返答を待った。

 しばらく静かだったが、トワリンはその口を開き答えを返した。

 

 

「知っている。何れお前たちの元にも接触があると思っていたが、それよりも早く知ることとなったのは少々予想外だ。私の元にも間者が来たことがある。次に奴が来た時にはお前たちが「彼ら」の事を知ったということも言っておこう。何かしらの接触があるはずだ」

「間者…つまりギルドも知っていて隠しているのか。ありがとうございます」

「して、頼みとは何だ?」

「実は──」

 

 

 ディルックが非常に申し訳なさそうにしつつ頼んだことにトワリンは珍しく目をいつも以上に開き、そして盛大に笑った。

 かつて空を自由に飛んでいた時にバルバトスに振られた無茶振りから比べれば、安い願いだったのだ。何より、今はこの狭い空間で自由に飛ぶことの叶わないトワリンの代わりに飛んでくれるというのなら、栄誉であるとも感じているくらいである。

 

 

「私の後ろに抜けた羽を纏めておいてある。いつもなら燃やしていたんだが、必要なら好きなだけ持っていくといい」

「寛大なお心に感謝します…」

「『無冠の王』も大変だな。バルバトスに伝えてくれ、「あまり民に迷惑を掛けるな」とな」

「しっかりと伝えておきます。ガイア、羽を持っていくのを手伝ってくれ」

「あいよ」

 

 

 トワリンの羽を持てるだけ持ち、ディルックとガイアは立ち去って行った。その後ろ姿をトワリンは羨ましそうに眺めていた。

 

 

「…いずれは、私もまた自由に空を飛びたいものだ」




ジンさんたちはこの後27階層で無双してほくほく顔で帰ってくるし、道中で試験中のアルベドと出会って風域で遊ぶ団員が発生する。


アルベド
→レベル4 アイテム生成班
トンデモアイテム生成しちゃうことでディルックを悩ませる筆頭。それはそれとして便利な物を作るので困る。専用のラボにはアルベドが3人いるとか…?

アンバー
→レベル3 偵察部隊隊長
この度一人だけではなく部下を引き連れて偵察するようになった。地上で風の翼を使ってるせいで変な噂話が立ってるけど気にしてない。


トワリン
→四風守護と呼ばれるバルバトス(ウェンティ)の眷属の1体。今はダンジョンのとある階層の空間にいる。定期的に誰かが来るのを楽しみにしている。
 素材は結構あげるくらいには好感度が高い。この素材は下層から深層クラスのドロップアイテムに匹敵する。つまりやべえのを無償提供してる。

 自由に空を飛べる日を待ち遠しいと思っている。
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