バアル・ファミリアとバアルゼブル・ファミリアが共同で受け持つ鍛冶師衆、五箇伝の鍛冶師は主神たちの命を受けて武器と防具の制作を行っていた。炉で熱せられた鉄塊に槌を打ち、大きな音と共に火花が散る。
鍛冶師の中でも優秀な5つの家系からなる五箇伝は互いに切磋琢磨し、その腕はオラリオの中でも上位に入るとまで言われている。しかし、その武器や防具はほとんどの場合己のファミリアの中で使用されるため、滅多に外に出回ることはない。
そのため、五箇伝の武器や防具が外で売りに出されるという話が出た時、それは大きな騒ぎとなるのだ。
「おい、聞いたか!五箇伝の武器が売りに出されるらしいぞ!」
「なっ!今度は何を出すつもりなんだ…?」
「急いでファミリアに連絡をしないと…!」
ギルドの掲示板に張られた一枚の紙。それは五箇伝の武器を一つ、5日後に販売するというものが数行書かれただけのシンプルなものだった。しかしそれを見た冒険者が騒ぎ、なんだなんだと見に来た他の冒険者も内容を見て驚き、そしてそれはお祭りの如く騒ぎになる。
急いでファミリアに戻り報告する者、何が売りに出されるか賭けをする者、懐事情と重ね合わせて慌てふためく者。その反応は様々である。
ギルド職員はお祭り騒ぎになって混乱している現状を収めるために駆けずり回る羽目になったのであった。
▽▽▽
「おおよそ、予想通りに動き始めましたか」
「綾人」
「眞様、本当によろしかったのですか?奴らをおびき出す為だけに五箇伝の武器を売りに出すなど…」
「いいの。時々出してヘファイストスとゴブニュを脅…驚かせるのも必要なことですから」
「貴女というお方は…分かりました。終末番には動向を探らせますが、売りの際には私が直接」
「えぇ、それでお願い」
バアルこと眞が掴んだ情報。それは闇派閥の残党と組んで不法に資金を得ているファミリアがあるというもの。大本はモラクス・ファミリアから物流の流れと金銭の流れが合わない、という連絡を受けたことを発端に調査したことだった。
何を行って収益を得たかまではまだ判明していないが、どちらにせよ摘発か討伐を行うことに変わりはない。今回の五箇伝の武器はかなりの価値がある物。狙っているファミリアは多いが、多額の資金を隠れて得た件のファミリアは確実に出てくるとみていた。事実、ギルドに張り出した情報を見たファミリアの団員が走って戻るところを終末番の一人が確認している。
これで今マークしている闇派閥と繋がりがあれば、両方とも始末できる。ある意味絶好のチャンスであった。
▽▽▽
「なーーにーー!?バアルんとこの鍛冶師が武器を売りに出すぅー!?ホンマかそれは!」
「ギ、ギルドの掲示板に正式文書として掲示されてました…。日程は5日後、オークション形式で販売すると」
「はぁー…遠征行くのが決まった途端にこれかいな。悔しいけど、今回はスルーするしかないな」
ロキは額に手を当てて天を仰いでいた。ラウルが持ってきた情報は遠征に行く前であれば喜んで参戦する内容であったが、今は遠征に行くために資金を使い、余裕がなくなったタイミング。そこに高価な武器を買う余裕などなく、泣く泣く諦めるしかなかった。
だがそれとは別に、ロキは自身の勘がただ売るのが目的ではないというのをなんとなく感じ取っていた。それは話を聞いていた団長のフィンも同じだったのか、何か考えているロキを見て話を振ってきた。
「ロキ、もしかしてだけど今回の売り出しの目的は──」
「まあ、何かあっての事やろうな。妹の影ちゃんはともかく、今回メインで動いとるのは眞ちゃんの方やし。…何より、この前急に強制送還された馬鹿が闇派閥とつながってたっちゅう話もある。うちらが見つけた怪しい奴らやで?なーんも繋がりがないとは言い切れんしなぁ」
「武器を販売という形で、炙り出しをしようとしてる。そう考えた方がいいかもね」
「実際はその間になーにか仕込んでいそうやけどな。眞ちゃん、おっとりしてるように見えてやるときバッサリやからな」
武神の片割れは伊達じゃないでー、と言いながらロキはどこかへといった。その場に残されたフィンとラウルはひとまず、遠征の事を優先しようという結論に至ったのであった。
▽▽▽
「はぁ!?ロキが遠征に行くタイミングで五箇伝の武器を販売ですって!?」
「うむ…偶々ギルドに行ったらそのような旨が張られておった」
「タイミング最悪ね…椿、残念だけど今回は完全に諦めなさい」
「ぐっ…!しかし!かの五箇伝の武器は今まで5回しか出されていない物、そう簡単に諦めたく──」
「…バアルの事よ、たぶん何かあっての事だから。あの子ならロキの遠征を把握しない訳がない。別件が本命のはず」
ヘファイストス・ファミリアもまた、五箇伝の武器が出品されると聞いて騒ぎたっていた。しかし、それは主神であるヘファイストスが「諦める」と言ったため、さらに混乱の騒ぎとなっていた。
「…叶うのなら、私だって手に入れたいわ。でも、あまりにもタイミングが悪すぎる。手を出せる大きなファミリアを絞るという意味合いでは今が最適だわ。ロキとうちが手を出さないのが確定しているからね」
それに、とヘファイストスは言葉を続ける。
「──多分、バルバトスかモラクスにまた持っていかれるだけよ」
▽▽▽
オークション当日、会場とされた広場には多くの人々と神が所狭しと集まり、お祭り騒ぎとなっていた。かの有名な五箇伝の武器、それを一目見るだけでもと集まった人々がほとんどであり、オークションに参加するのはその中でもごくわずかだ。
ゴォン、と銅鑼が鳴らされたことで一気に広間は静寂に包まれる。ついにオークションが始まるのだ。
「───これより、バアル・ファミリアによる武器の販売を始める。公平を期すため、此度の契約見届け人を務めるモラクスだ。契約違反と規律違反はすぐに取り締まるため、注意されたし。最悪、今後のオークション参加禁止も言い渡す」
「バアル・ファミリアの担当、
武器に被せていた白布を剥がし、その下から現れたのは黒い柄に緑色の刀身を持つ両手剣であった。その姿が露になった瞬間、会場からはどよめきと興奮の声が上がる。太陽光を鈍く反射する刀身は宝石のように輝いておりながら、どこか異質さも感じさせた。
「両手剣、雨裁。エンチャントの効果として属性スキルの威力を『持つだけで』向上させるものと、水・雷の攻撃や影響を受けているモンスターに対し、さらに威力が上がります」
心海による武器の説明にさらに湧き立つ。エンチャントの付いた武器、それも今までに聞いたことのない効果であったこともあり会場は一気に騒がしくなった。それを静かにさせるために、再び銅鑼が鳴らされる。それでも尚、騒がしい声は途切れることがなかった。
「静粛に。それでは、これよりオークションを開始する。開始価格は──」
「───3億!」
「3億ヴァリス、まだ競りをするファミリアはあるか?」
いきなり3億まで上げられたことで参加していたファミリアは驚くと共に、諦めの雰囲気を出していた。しかし、そのファミリアに対抗するようにもう一つの声が会場に響く。
「3億2000」
「3億2000ヴァリス」
「ぐっ…!3億3000!」
「おいおい…!幾ら五箇伝の武器とはいえ3億なんてとんでもない額だぞ!」
「だぁー!だめだ、これ以上は俺たちのファミリアは破産する!あの2つのファミリアのチキンレースだ!」
「3億3000、まだ競るか?」
「3億5000だ」
最早武器の取引とは思えぬ額に、会場は困惑する。ヘファイストスやゴブニュの元で最高品質の武器を一つ依頼したとしても、億に行くか行かないかというところである。それをあっという間に超えて出される金額は最早オラリオの物流を壊すのが余裕な金額へと膨れ上がっている。
競りで勝負しているのはどこのファミリアか、それが気になった人々は涼しい顔をしてとんでもない額を提示している人物の方を見た。そこに立っているのは黒いコートに赤い髪の男、【無冠の王】の二つ名を持つ冒険者、ディルックの姿があった。
「バルバトス・ファミリア…今回もあそこが競り勝つのか?」
「いや、だとしても今回の金額はおかしすぎる!破産するんじゃないか!?」
「さ、3億5500・・・!」
「3億5500。バルバトス・ファミリアよ、まだ参加するか?」
「あぁ。3億7000だ」
「3億7000。まだやるか?」
「ぐ、ぅぅ…!ええい、4億!」
「───4億ヴァリス」
史上最高額をあっという間に塗り替えていく。バルバトス・ファミリアはともかく、競りを行っているもう一つのファミリアはどこかも分からぬファミリアであったが、4億という数字を出してきた。
ディルックは流石に4億まで上がると思っていなかったのか、多少驚いた顔をして横にいた主神である
「…これ以上は参加しない」
「では4億ヴァリスにて落札。落札したファミリアはこの後主神と共にモラクス・ファミリアへと来てもらう。そこで契約を執り行ったのちに受け渡しとする」
ドォン、と銅鑼が鳴らされる。4億という異常な金額で競り落とされた武器に人々と神は盛大な声を上げることとなった。
▽▽▽
とあるファミリアのホームでは競り落とした武器で使った金額をどう補填するか、それについて怒号が上がっていた。
ある手段で多額の資金を短期間で得ていたとはいえ、4億という数字は余りにも大きすぎる。それを補填するためにはいくら今使っている手段でも、それなりの期間がかかる上にこれ以上は目立つかもしれないと判断していた。
このファミリアの主神は油断していた。3億とまではいかずとも、2億程度で収まるだろうと考えていたのだ。それが蓋を開ければバルバトス・ファミリアによってどんどんと値が上げられ、最終的に競り勝つのに予想の倍の金額が必要となった。
『五箇伝ってやつの武器が競りに出るんだろ?なら、次の取引にそれを持ってくることを条件にしようじゃないか。あぁ、それさえ渡せば今後の
その口車に乗ったのがまさか仇になるなど、その時は考えられなかった。主神は苛立ち、罵りながら壁を殴った。
「クソガッッ!!こんなことなら取引に手を出さねえほうがよっぽどだったな…!」
「───えぇ、そうでしょうね。その取引とやらも詳しく教えていただきましょうか」
「っ!誰だ………ぁ?」
音もなく現れた男に、首筋に当てられた刀。ゾッとするほど冷めた目で見ている男、神里綾人は炙り出された愚か者を前に静かに佇んでいた。
そしてその時点で主神はふとおかしいことに気づく。本来なら多少の声はしているであろう団員たちの声がしない、それどころか、人の気配すらしないのだ。まるでここに居るのは己一人のみ、それほどまでに不気味な静けさだった。
「すでに団員たちは1名を除いて捕縛済み、貴方が当てにしていた闇派閥の団員はとうの昔に消えていますよ。…まぁ、今頃戻った先で全員処分されているでしょうけど」
「なっ、あ…!?」
「今残されている道は二つ。大人しく捕まって情報を吐くか、ここで私に首を落とされるか。…どうします?」
首筋に当てられた刃が少し深く切り込み、ツゥ、と首に血が垂れる。そこで愚かにも気づいた神は、ここ最近強制送還された共犯者が死んだのはこいつによって首を落とされたからだと理解してしまった。
「あぁ、間違っても逃げるという手段はとらない方がいいですよ?私は答えを聞くまで追いかけますし、足を切り落としてもすぐには死にませんからね」
▽▽▽
モラクス・ファミリアの契約を行うための部屋に現れたのは
「やぁ、ちょっと遅かったかな?」
「いいえ、モラクスと雑談していたから問題ないわ。それと、乗ってくれたことに感謝するわ」
「いやー、バアルの事だし絶対なんかやってるだろうなーとは思ったけどさ。あれは予想外だったかな」
「流石に見届け人をしていた俺でも止めるべきか悩んだぞ。もとはと言えば俺たちから情報が行ったとはいえ、よくこの短期間で突き止めたものだな」
「優秀な
ニコニコと笑う三神に、各々ついていた団員たちは思わず背筋を伸ばしてしまう。ただの会話だというのに、やはり神が纏う特別な空気に飲まれてしまうのだ。
それに気が付いたのか、フッと空気を和らげ、本題に入る。もっとも、予定調和とも取れる行為であるため白々しいものだが。
「ンンッ、ではこれよりバアル・ファミリアとバルバトス・ファミリアにおける契約締結に入る。まずは──」
雨裁は星4の武器です。この後レザー君に渡った。
珊瑚宮心海
→レベル4
歩く七天神像は健在で、ヒーラーとして活躍する。今回は綾人が成敗に出向いていたので代わりに出てきた。
雨裁
→星4武器で水と雷元素の影響を受けた敵へのダメージが初期で28%増加する。あとは元素熟知がステータスとして増加する。ゲームだと北斗さんとかレザー君にお勧めされています