アリアンロッド~ISを駆る冒険者~   作:アルシェス

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旅の終わり

「月が綺麗ね」

 

そう言われて、俺は満月を見上げる。

 

「ああ、凄く綺麗だ」

 

俺は本心でそう思った。

こっちに来たばかりの時はのんびり月を見る余裕なんてなかった。

俺自身にも、それなりの余裕ができたということだろう。

 

「暫くはお預けだからね、今の内に楽しんでおかないと」

 

フィーネは今日から一国の君主になる。

当分は業務の嵐に巻き込まれて忙しいだろう。

それに国は地底にある、月などそうそう見られないだろう。

しかし、フィーネには人望も能力も決断力もある。

素晴らしい君主になれる、絶対の保障だ。

 

「そうだな、これから忙しくなるからな」

「あら、それは貴方もでしょう?

貴方が持つ異世界の知識は、これから意味を持ってくるんだから」

 

俺は違う世界から迷い込んだ異邦人だ。

俺の世界にはISという女性にしか動かせないパワードスーツと、

それを使った大会があった。

その大会の決勝戦に姉が出場するので、俺はその会場があるドイツに

単身出かけたのだが、その時に誘拐され

逃げようとした時に分厚い本を踏みつた途端気を失い、

気が付けばこの世界[エリン]に流れ着いていた。

そして城を抜け出したエガタニア王国の王女、

フェーネリア・アタナシア・シエル・エガタニアに保護され、

その後、俺と同じ異世界から来たという明久さんPTと出会い、

その一員のロアさんから適性を見いだされ、ガンスリンガーになった。

更に、前女王が「冒険者として一人前になった者に王位を譲る」といいだしたので

俺はフィーネの同行者として参加し、明久さんの息子のムサシと相棒になり、

人犬族(グリルス)のお調子者アルク、明久さんの悪友の雄二さんの娘イナホ

が仲間になり、様々な困難に遭い、PTメンバー同士でぶつかったりすれ違ったり本当に色んな事があった。

そして、お互いに好意を持って告白した結果フィーネと恋仲になり

俺達は一人前の冒険者になったと認められて、フィーネが王位を継いだ。

 

「ふふ、私にも月を楽しむ余裕が出来たのね」

「あれ?いつも堂々としているフィーネが?」

「あら、私だって人よ、上ばかりみてはいられないわ」

 

こちらを振り向こうとしないフィーネの少し後ろで、俺は月を見上げ続ける。

 

「いつも自信たっぷりだったくせに」

「あなたの目が節穴だったからでしょう?」

「否定できないな」

 

「付き合って」て異性に言われたら、「いいぜ、どこに買い物に行くんだ?」

なんて本気で返してた大馬鹿のド級唐変木だったし、自分で考えることを

最初はほぼ一切せずに結論出して馬鹿丸出しの結果を出したり、馬鹿だな本当に。

 

「自信持ちなさいよ、俺の見る目は確かだった…ってさ」

「一国の主に使えられたこと?」

「それは私の手柄でしょう、私が拾ったんだから」

「そうだな、感謝しきれないよ」

 

俺が俺、[姉の付属品]だとかじゃなく、[ひとりの人間]

そうやって生きることができたのは、フィーネに拾われた時から始まったのだから。

 

「その恩はちゃんと返しなさいよ、これから」

「だよな」

 

ふと、俺は自分の手を見る………透けている。

手だけじゃなく、体全体が。

俺は明久さん達と違って子供を作らなかった、だから

この世界につなぎ止めてくれる物は無い。

俺の役目は、フィーネが王となるのを傍で見届けることで、

それが終わった以上、俺はこの世界にはいられないのだろう。

 

「帰っちゃうの?」

「俺にもわからない」

 

透け具合はさらに濃くなる、俺が[消える]まで…‥もう少しだろう。

 

「うつけ姫が王女になるまでの物語は終わったからな」

「………でも私は終わらせたことを後悔していないわ

私は私が叶えたい望みを叶えるために走り続けた

恥じることも悔いることもないのだから」

「そうだな」

 

俺の知っているフィーネは、そうゆう人物だから

 

「イチカ、貴方は後悔していないの?」

「してたらこの場にはいないさ、俺も俺がやりたいことをやり続けた

その結果がこうやってドデカイことを成し遂げたんだぜ

だからフィーネ、君に逢えて良かった、心底そう思ってる」

「当たり前よ、私を誰だと思ってるの?」

「フェーネリア・アタナシア・シエル・エガタニア

地底の国、エガタニア王国の女王」

「そうよ、それでいいわ」

 

もう、足や手の先端部分は見えなくなってしまった。

 

「これからも支えてくれれる人はたくさんいる、だから」

「ええ、素敵な国をつくるわ、貴方がそこにいないことを後悔するくらい」

「はは、それだと帰りたくなくなるな」

「なら、ずっと私の傍にいなさい」

「……でも…無理だな」

 

足と腕はもう消えた、数分で俺も完全に消えるだろう。

 

「なんで?」

「俺の役目は終わったし、子供もいないから繋ぎもない

だからもう、俺がここにいることは不可能だ」

「終わらせなきゃいいじゃない」

「いいや、フィーネが夢を叶えたことで、この物語は終わった

だからそれを見ていた俺も」

「ダメ、そんなの認めない」

 

俺の姿はもううっすらとしか残っていない。

だから伝えよう、俺が消えてしまう前に。

 

「俺も残りたいさ」

「…………帰るの?」

「ああ、もう終わりみたいだ」

「そう…………恨んでやる、末代まで」

「あはは、怖いねまったく………でも嬉しいぜ、そこまで想ってもらえるなんて」

「……逝かないで」

「ごめん……フィーネ」

「イチカ」

 

初めて名前で呼んでくれた時、本当に嬉しかったの覚えてる。

 

「さよなら、信念の女王」

「逝かないでよ」

「さよなら、さみしがり屋の意地っ張り」

「逝かないでって言ってるでしょう!!」

「さようなら、愛してたよ……フィーネ…誰よりも」

 

その言葉を最後に、俺はこの世界から[消えた]

 

________________

 

「イチカ?」

 

振り返ってみれば、もう愛しい人の姿は無い。

 

「……………ばか…………ばか~~~!!」

 

もう我慢などできない、その場に膝をついて、私は泣き叫んだ。

 

「消えないでよ……一緒にいるって………言ったじゃない………嘘つき!」

 

______________________

 

 

人、道交わらんを悔やむず、しかし人一度道交わりてその道離れることを悔やむ。

 

俺は後悔などしない。

この世界に来たことも、皆と出会ったことも、フィーネと愛し合ったことも。

この記憶が失くなってしまわない限り、絶対に。

 

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