薙刀型ブレード[
私は全速力で一夏君に向かう。
振り下ろした刃は当然ガンブレードで止められ、
もう片方のガンブレードが下から横薙ぎ気味に向かってくる。
ガンブレードは攻撃の距離と向きを選ばない。
少し後ろに回避すれば突きが、横に躱せば薙ぎが、
後ろに跳躍すれば銃弾が来る。
一般的な手段は通用しない。
(なら!)
止められた夢現を動かして受け止める。
それをうまく受け流せれば反撃のチャンスがある。
しかし、今度はキックが飛んできて私は大きく後ろに飛ばされる。
慌てて勢いを止め、直ぐに回避する。
止まったらすぐに銃弾が飛んでくる、上手く回避しないと。
でも、それは読まれていた。
私が回避しようと動いた途端、銃弾が心臓部に直撃、
シールドエネルギーが大きく削られる。
(やっぱり強い)
近接戦は簡単にいなされ、遠距離は圧倒的不利。
私が今まで戦ったどんな相手よりも、彼は強い。
(でも、諦めない!)
元々負けて当然の相手だ。
なら迷う必要なんてない。
今の自分の全てをぶつければいい。
何度でもぶつかる、立ち上がれなくなるまで。
彼自身が教えてくれた[前に向かう意思]を私は捨てない。
自分もまた冒険者になりたいという思いを胸に、
私は再度夢現を構えた。
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「はぁ……はぁ……」
簪が荒い息を吐いて膝をつく。
この組手の結果は、俺が最後の最後に一撃掠り、
簪はシールドエネルギーが尽きて終わった。
「やっぱり強い」
「お前も強くなってんだぞ」
「え?」
「攻撃に迷いが無かった、自分を信じた証拠だ
恐れていては何もできない、自分を信じて一歩踏み出す
つまり[僅かな勇気]だ、誰だって持てるが
それを自然に出せる奴は案外少ない
お前はそれを自力で出すことが出来た、今はそれで十分だ」
俺は自然と微笑んで見せる。
ロアさんと明久さんがこう言ったことを言う時、
いつもこんな感じでほほ笑んでいた。
弟子もまた師に似るのかもしれない。
いや、人は憧れる背中の持ち主に似るのかもしれない。
「それに手加減状態とは言え、俺に攻撃を掠らせた
お前はまだまだ強くなれるさ、俺が保証する」
俺がロアさんと明久さんに教えを受けたのは
たったの三日だ、その三日で二人の教え上手さと
俺自身の努力で射撃・銃衝術・ナイフ・キック中心の格闘術の基礎、
そして冒険者として必要な技能・知識を習得できた。
俺にとってあの三日間は、まるで何百年にも思えるほど長く感じ、
その間に様々な言葉を贈られた。
そこ等辺の又聞き連中が言うんじゃなくて、
とても重みを感じられる言葉を。
そして旅を続けるうちにその言葉を自分自身の経験から実感した。
そして今、俺はその言葉を別の誰かに聞かせる。
意志はそうやって人から人へと受け継がれていく。
「続く者への導とならん」それが冒険者だ。
「貴方の言葉には、本当に重みがありますね」
尽きたシールドエネルギーの補充が終わったセシリアが
再びアリーナ内に戻ってくる。
ついでに戦った相手は簪だ。
簪は俺がパーティーで言った言葉で精神的に成長し、
セシリアもセシリアなりの努力で腕を上げている。
勿論まだまだ俺には及ばないが、彼女達はこれからさらに強くなる。
うかうかしていられない、俺もさらに強くならないとな。
「ほんじゃ、弱点を補うか長所を伸ばすか……ん?」
ピットに誰か居るな。
このアリーナは貸し切り状態だから人は来ないはず……、
いや、一人いたか。
案の定、打鉄を纏い、刀型ブレードを中段に構えたモップがやって来た。
勿論誘った覚えなどない。
「何でここに居る?」
「私はお前の幼馴染だ、参加する義務が「馬鹿言うな」ッな!?」
「貴様幼馴染をなんだと思ってるんだ?何やっても許される免罪符か?
馬鹿が、本気でそう思ってるなら愚者の極みだ」
何かにつけて幼馴染だからと連呼する。
唯単に幼少期から親しい関係だというだけだ。
お互いの良いところも悪いところも知ってるから男女だと
恋愛関係に発展しやすいが、兄妹的な感覚になってそうならないことも多い。
男女の幼馴染=恋愛関係なること確定ではないのだ。
「自分が何で嫌われてるか知ろうとしない癖に付きまとうな、失せろ」
顔を見るだけでも不快なのだ、いい加減にしやがれ。
「そうはいかん、お前を元に戻さねばならんからな」
「はぁ!?」
何言いだすんだコイツ?
「お前の言う師匠が優しかったお前を変えた、
優しさを消して乱暴者に変えた愚か者を倒して、
「今なんて言った?」」
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「今なんて言ったって訊いてる」
私と簪さんは思わず尻餅をつきました。
今の一夏さんから感じるのは、怒り。
私との口論でも試合でも見せなかった、恐怖を抱くほどの怒りです。
「だ……だからお前の師匠とかいう愚か者を
「ふざけるのも大概にしろよこの汚れモップ!」ッヒ!?」
後ろから見ているため顔は見えませんが、
今の一夏さんは日本でいう[鬼の形相]をしているのでしょう。
篠ノ之さんのおびえようは尋常じゃありませんし、
直視していない私達でさえ竦み上がる物を感じます。
「会ったことも無いくせに師匠を愚か者だと?
もう一度言ってみろ、その汚い舌を引きちぎってやる」
尊敬する人物をバカにされて怒らない人間はいないでしょう、
一夏さんの様に人生の手本としているような人なら尚更に。
「さあ!貴様の罪を数えろ!」
銃声が響き、篠ノ之さんの打鉄が動かなくなります。
どうやら、シールドエネルギーが尽きてしまったようですね。
しかし銃声は一発に聞こえました。
「何発撃ったんですか?」
「計六発」
それを一発と錯覚させるなんて、
恐ろしいほどの連射速度です。
「
どの距離もそつなくこなせた師匠と違い、俺は近接戦寄りだったからな
こういう連射技は得意なんだよ」
いつの間にかリロードを終えています。
時間が掛かるはずのリボルバーで一秒と掛からない。
ここまでの能力を得るのは並大抵のことではなかったでしょう。
「どうせ、簪に向けた優しさは
自分に向けられるべきものだと思ったんだろ
下らない独り善がりの勘違いに付き合う義務は無い」
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「お疲れ様」
鈴が手渡したスポーツドリンクをありがたく受け取り、
自前のタオルで軽く汗を拭いた後口に含む。
「アンタ、だいぶん変ったわね
以前は優しさを振りまくのが仕事みたいだったのに」
「そんなことが?」
今の姿からすれば、簪とセシリアには想像できまい。
確かに変わったと言える。
だがそれは[成長]と言える変化だ。
「簪、何で俺がお前に助言をしたかわかるか?」
少しだけ考え込んだそぶりを見せた後、簪は首を横に振る。
「お前にそれだけの価値があったからさ」
「「「え?」」」
全員食いつくな…何故だ?
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「冒険者は傍から見れば自由奔放なアウトロー集団だ
だが、俺達にも守らなきゃいけない掟がある
その一つが[助けるべきなら手を貸すべし]だ」
「どうゆう意味ですか?」
アタシも聴いておきたいことだ。
会わないうちに様々な変化が起きた幼馴染兼
初恋の相手が何を考えているのか知りたかった。
あまり話もできていないのが現状だから。
「どんな運命だろうと、どれだけ手助けされようと
結局本人が自分の意志で乗り越えなきゃならねぇ
否応の無いのが運命だ、翻弄される奴は大勢いるし
乗り越えられずに終わっちまう奴もよくいる
だが、ダメ本でも乗り越えようとするから人は前に進める
……だから乗り越えようともしないグータラに
俺は手を貸したりはしない、それだけの価値が無いからな」
今度はアタシ達を見て、少しだけ笑って見せる。
「未来はどうなるかなんざわかりゃしない
これから散々悩み、迷うだろう、俺もそうだったからな
それが当たり前なのが人生って物だから
だがそれでも乗り越えようと足掻く奴には、
決まって手を差し出す奴が出てくる、例えそれで解決しなくても
もがき、そして足掻くことで、世界は広がっていくのさ」
そのまま壁にもたれ掛り、一夏は
ハッカの甘い香りがするパイプを吸い始める。
(もう……かっこいいじゃない)
元の優しさに厳しさが合わさり、
一夏は更にかっこよくなった。
アタシは、それが何よりうれしかった。