「というわけで、部屋を代わって」
「何がというわけだ!」
あの後、イキナリ鈴が押しかけてきたので、
俺は思わずパイプを落としそうになった。
「だってアンタと一緒だと一夏が嫌そうだから」
「そんなことはない!」
実際嫌なんだが、しかし
このままだと平行線だな。
モップは同室という幸運を手放したくないだろうし、
鈴は鈴で唯我独尊を地で行く性格だ。
お互い譲るなんて真似はしないだろう。
「鈴、お前の荷物はそれだけか?」
大きめのボストンバッグが一つだけ、
少なくとも荷物としては少な過ぎるのでは?
「そうよ、アタシはボストンバッグ一つあれば
どこにでも行けるから」
相変わらず素晴らしいフットワークの軽さ、
こいつにも冒険者の素質があるのかもしれない。
おっと、そうじゃないな。
「寮長の許可は取ったのか?」
「あ……」
おいモップ、嬉しそうにするな。
貴様に味方なんぞするわけないだろう。
「代ってくれるなら大喜びだ、この汚れモップと一緒に
ならずに済むからな、だが物事には順序がある
それを守らなきゃ事は進まない、わかるだろ?」
冒険者と言えども変わらないからな。
「ちなみに寮長は?」
「糞姉、織斑先生だ」
人の話を聞かないからな、
説得はかなり難しい。
どうしたものかね……
「ところでさ、一夏」
「ん?」
「約束、覚えてる?」
俺は銜えてたパイプを噛み砕きそうになった。
これが鈴とできれば再開したくなかった理由だ。
彼女の今後を左右することだからな。
「次会ったら作った酢豚を喰ってくれ、だったか?」
「そうそれ」
パイプを銜えたまま、俺は真剣な表情を浮かべる。
「それ、[味噌汁云々]と同じ意味でいいんだな?」
以前の俺なら[タダ飯奢ってくれる]程度にしか思ってなかっただろう。
何故そんな考えしか浮かばなかったのか、自分でもわからない。
だが、俺はもうそんな馬鹿な勘違いなんざすることは無い。
男は[お姫様]と出会って強くなれると言う。
俺もフィーネという文字どうりの[お姫様]と出会って成長できたからな。
……この世界で生きていく以上、避けては通れない。
俺は腹をくくった。
「……そうよ」
「貴様ぁ!」
噛みつかんばかりに睨むモップを無視して、俺は鈴と向き合う。
「直ぐには返事が出来ない、俺にも色々あるからな」
鈴のことは好きか嫌いかと言えば間違いなく好きと言える。
だが[異性]としてかと聞かれた場合、即答できない。
鈴の性格と相まって[友達]という感覚が強くなってしまったからな。
おまけにフィーネが忘れられない現状だ。
「だが返事は必ず出す、だから待っていてくれないか?」
「…………わかったわよ、でも卒業までに返事は出しなさいよ」
そう言い残し、鈴は出ていった。
「一夏ぁ!どうゆうことだ!?」
突っかかって来るモップを殴り飛ばす。
鬱陶しい雌豚風情が、近寄るな。
「貴様の許可など不要だ」
「あの女の方がいいというのか!?」
「少なくとも、貴様の千倍はいい女だと思うが」
おれはそのまま横になった。
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さぁて、あれから時間は流れ
クラス対抗戦当日、第一試合は俺対鈴というカードだ。
いやはや、アリアンロッドも粋な計らいをしてくれる。
「何そのIS、軽量すぎじゃない?」
「俺には一番あってるからな」
試合開始のブザーと共に、鈴が全速力で突っ込む。
見た目に違わず、鈴の[甲龍]は近接戦闘重視の様だ。
不安要素は球体型のアンロックユニットだ。
形状から考えると砲台に見えるが。
とりあえず斬撃を後退して躱す。
次は追撃で前進……じゃなさそうだ。
少し早目に右側に移動する。
直後、元居た場所に衝撃が走った。
「なぁ!?」
初見で躱されたことに驚いたらしい。
見えない攻撃か、脅威だな。
人間、というか大半の生物にとって視覚はかなり重要な
情報器官である以上、使えないのはかなりの痛手だからな。
しかし……
「な、何で当たんないのよ!?」
(わかりやすいな)
目、それに類する器官をもつ生物は
攻撃する場所に視線を反射的に向ける癖がある。
それは人間も同じだ。
そして相手の目を見ていれば、攻撃のタイミングは
なんとなく程度ではあるが予想ができる。
なので、俺は鈴の攻撃をヒョイヒョイとかわしていく。
「いっちゃ悪いが、ポーカーフェイスできるようになれよ」
「何よ!?解かりやすいっていうわけ!?」
「…………」
「黙らないでよ!」
ホント、男女問わず人間関係は難しいな。
というか矛盾してないだろうか。
自立しているのに、一人じゃ生きていけないんだから。
……止め止め、哲学的だ。
さて、このままエネルギー切れを待つのは悪手だ。
[甲龍]は低燃費を重視した機体、動き回る俺も
意外と消費する以上、どっちの息が先に上がるかは微妙。
となれば攻めるのみだな。
ただ、見えない攻撃は厄介だから先に潰す。
「鈴」
「何よ!?」
「そろそろ行くぞ」
タイミングを読んで上に大きく跳躍し、アリーナの
遮断シールドに引っかかるギリギリの高さに到達。
そこで[飛燕]を二本展開し、そのまま投げつける。
「なぁ!?」
狙いそのまま、[甲龍]のアンロックユニットを破壊する。
ナイフ使いの一流冒険者が投げたナイフは、戦車装甲も貫ける。
俺のナイフはまだそこまで達成していないが、
装甲車をスクラップに変えるぐらいは可能だ。
実際出来たしな。
そのまま追撃に入ろうとして、嫌な予感がした。
慌てて飛びのき、直後極太のビームが飛んで来た。
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「何あれ?」
私、篠ノ之束は混乱していた。
世界を好き勝手にふるまわせる天才の私が。
事の始まりは親友のちーちゃんこと織斑千冬の弟、
行方不明になっていたいっくんこと織斑一夏を発見したことだ。
背はだいぶん伸びて筋肉質だけど細い体格になり、
顔には横薙ぎの刃物傷があった。
二年前に行方不明になって、必死に探しても見つかららなかった
大事な人が見つかった、それは喜ばしい。
まあ、ISを起動させたのは予想外だったけど。
心配かけた仕返しに困らせてやろうとISが置いてある部屋に誘導したら
ビックリ仰天、男なのにISを起動させた。
これには束さんもド肝を抜かれたよ。
面白くなったので、ちーちゃんの愛機と同コンセプトの
機体を使わせようとしたけど、いっくんは別の機体を選んだ。
ちょっと気に入らなかったけど、いっくんの戦闘スタイルには
用意した[白式]は相性が悪すぎるみたいだからしかたないんだろうな。
だから今度は大活躍させようと無人機を送り込んだ。
だけど、送られてきた映像には、信じられない物が写っていた。
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高さは三メートルほどの人型が現れた。
無骨なデザインととんがった形状の
それは[あの世界]で何度か戦った存在。
錬金術によって作られた、所謂[ロボット]と言える物。
守護者として幾度となく立ちふさがった者達の一種。
「スティール……ゴーレム」
「何それ?」
「ロボットだ、無人のな」
「え?」
「おまけにISとは無関係の代物だ」
実際ロボットのファンタジー版だからな。
ついでに知能があるわけではない。
命令に従うだけの機能があるだけだ。
なのでパターンを読めれば容易い相手だ。
しかし、装甲は強固でパワーも凄まじい。
おまけに高出力のビーム砲を積んでる厄介な敵。
一人前以上になった俺ならそこまで苦戦はしないが、
鈴がいる上に避難が始まったばかりじゃ不利だな。
何て考えてたら、ゴーレムがビームの発射体勢をとっていた。
「ヤバ!」
慌てて走り寄り、顎部分を蹴り上げて軌道を上に逸らす。
放たれたビームは、アリーナの遮断シールドを易々と突破した。
この遮断シールドはISのシールドと同じ物、
戦車砲の直撃にも耐える、それを一撃で貫通。
うわぁ、何この不利な状況。
「とりあえず、避難の時間稼ぎだな」
「わかった、ちゃんと合わせなさいよ」
「俺一人の方が楽なんだが」
「強がんない!」
いや、事実なんだが