殲滅の主はまた鐘を鳴らす   作:ぶびっぐ

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悉ネギって本当にイシュワルダ食ったのか…?
齧って「これおれの」って示しといて、他が手を付けられんようにマーキングしたとか? そんで調査団去ってから食いに戻ったのか?
それとも、あの一口で充分な量の古龍エネルギーを摂れたのか? そしたらすっごい小食。
私はアン・イシュワルダ クソマズ説を推しときます。
 


第1話

 

 

 

 太古の昔、“それ”は一本の棘だった。

 

 

 

 骨のような、あるいは幹のような棘。

 異物の様相を呈するそれは、横に並ぶどんな棘よりも痛々しく、『足元の骸』に突き刺さっていた。

 その幸運ゆえか。

 他の同類の同居を許さぬほど深く根を下ろし、本来なら等しく分け与えられるはずであった栄養を全て、それは食い尽くした。

 横槍は訪れなかった。

 悪魔の屍が放つ赤黒さに、どの生物も近寄ることをためらったからだ。

 

 脈動を繰り返し、死骸が干からびた時。

 ようやくそれは目を見開く。

 先ず、網膜を刺激したのは「食糧」だった。

 

 産まれて──否。腹を裂いて(・・・・・)間もなく。

 生を受けたばかりの赤子とは一線を画す、力強い産声をかき鳴らし。

 地に四肢を鋭く突き立て、それは翼を遺憾なく奮う。

 異質な捕食者の飛来から逃げ果せられる脚を「食糧」は持ち合わせていなかった。

 抗うことさえ、その渇きが許さなかった。

 

 食欲のままに血肉の味を堪能すると、「食糧」の身はすぐ腹へ収まる。

 満腹。だが、満足には程遠い。

 体の何処とも取れぬところから湧いてくる飢え。

 突き動かされるように、それは新たな「食糧」と巡り合うべく翼を広げた。

 この渇きを打ち消してくれるような、まだ見ぬ何かを求めて。

 

 いつしか。

 一本の棘から生ったそれは、全身に棘を揃えていた。

 棘の破却を繰り返し、また新たな棘を実らせる。

 破壊と再生の循環は幾度となく、筆舌に尽くしがたい道程を辿ったが。

 嵐を薙ぎ熱風を拂い、瘴気を根絶やしにした棘の数々は。

 金剛の光沢を帯びていた。

 

 

 

 しかし。

 百戦を凌ぎ、骨肉を貪り、歳月を積み重ねたそれは。

 未だ。

 満たされぬ渇望を持て余していた。

 

 今更足しにもならぬと食事を取り止め、訪れたのは途方もない空虚。

 余りあるまで溜めた栄養が災いしたのか。或いは幸いしたのか。

 いくら食糧を喉に通さなかろうと、それが飢え死ぬことはなく。

 虚無感を紛らわすべく行った休眠は、優に羽休めの度を越えてしまっていた。

 

 “それ”は、このまま無為に朽ち果てるだけの命、のはずだった(・・・・・・)

 

 

 

───ホォォォオオオオァァアァァア………

 

 

 

 地の唸りを聞きつけた直後、聴覚を逆撫でしたのは唄声。

 不躾に領域を荒らす金切り声を、挑発と受け取ると。

 棘だらけの両翼が、久方振りに空を掴んだ。

 

 暫く時を経て。

 騒音の発生源を見つけたものの、岩戸の門前払いに手を焼いたそれは。

 

 

 

 好敵手(ライバル)と、出逢った。

 

 取るに足らぬ矮躯。一撃の虚しさ。空々しい手応え。

 最初こそ、“あれ”は印象に残る筈もない塵芥だった。

 身も少ない上、妙に痛い所を小突いてくる、煩わしさだけは随一の小物。

 早計にも見切りをつけたそれの掌底が振り下ろされる。

 再び、停滞。

 耳障りな残響は止まない。

 空虚が迫り上げ──

 

──ザッ

 

 背後、注意を逸らしていた死角より衝撃。

 疎かにしていた尾の棘が破られる。

 翻って後退し、条件反射に任せて吼える。

 明らかとなった衝撃の主。

 

 あれが立っていた。

 

 屠ったはずだ。

 牙を折り爪を剥ぎ、戦意を尽く塵にしたはずだ。

 なのに。

 なぜ、あれは立っている?

 許した覚えはない。

 歯向かうことも、対等に振る舞うことも。

 断じて、認めてはいない。

 

 それ(・・)は、“それ”が生まれて幾百の年月を遡っても存在しなかった感情。

 己を脅かす天敵を、排除するため備わった本能。

 

 あれを、殲滅しなくてはならない。

 

 不俱戴天の(かたき)を討つ原動力。

 “敵意”であった。

 

 

 

 また暫く時が進み。

 それは決まり悪く空を飛んでいた。

 

 長く惰眠を貪った弊害として、あれに敗北したのだ。

 その後の行動も良くなかった。

 休息を挟んで再戦を持ちかけようと、意気揚々に飛び出たはいいものの、間が悪かった。

 諸悪の根源たる騒音魔が瀕死とあれば、そちらを優先するのは仕方のないこと。

 望まずあれの戦果を横取りする形となってしまい、どうにも溜飲が下がらない。

 それの機嫌を損ねている原因はそういった不完全燃焼感だった。

 

 だが、このまま腐っては同じ轍。二の舞だ。

 早速それは備え始めた。

 

 

 

 更に時を重ね。

 場は導かれる。

 些かの不都合や邪魔立てを乗り越え、遂に相対する“それ”と“あれ”。

 またの名を。

 

 

 

 滅尽龍 特殊個体

 

 悉くを殲ぼすネルギガンテ

 

 対

 

 第五期新大陸調査団 推薦組

 

 ハンター

 

 

 

 戦いの火蓋が引き千切られた。

 咆哮する滅尽龍。音圧を回避するハンター。

 両者の攻防が戦場を彩る。

 撃っては受け、時には破れ、忽ち蘇る金剛棘。

 躱し、避けて、数撃と引き換えに一撃食らう。

 そこに譲り合いは無い。

 奪い合ってこその狩り(ハンティング)だ。

 

 四半刻(三十分)続いた拮抗は唐突に崩れる。

 飛び上がった滅尽龍の急降下が、衝撃波に棘を伴って放たれる。

 ハンターの回避は間に合わない。

 決定打だった。

 

 勝った。

 勝った…!

 

 得も言われぬ悦びが脳髄を支配する。

 再戦(リベンジマッチ)を勝利で飾る。

 互いが自身の全力に命を賭けた末に。

 これ以上の快感があるだろうか。

 滅尽龍は浸っていた。

 早とちりは、この個体の短所だった。

 

──ザッ

 

 硬い靴底が岩の地面を踏みしめる音。

 余韻が吹き飛ぶ。

 岩戸での出来事を思い出す。

 

 やはり、立っていたのはハンターだった。

 

 滅尽龍は逃げた。

 情けなく。みっともなく。恥を晒して。

 敵意は使い果たした。快感もすぐに霧散した。

 虚栄心にも満たない『強がり』だけが、逃げ遅れたように残っていた。

 

 自慢の剛力は空回り。棘の装甲も歯が立たず。角は矜持と共にへし折れて。

 立場も弁えず、許してしまった。

 歯向かうことを。対等に並び立つことを。

 認めざるを得なかった。

 

 急造した住処に転がり込み、いち早い休息を頼る。

 古より生きる龍は、ただただ寝藁に縋る。

 あの姿がいっとう恐ろしく、悍ましかった。

 倒しても斃しても立ち上がる、不屈の様を自分に重ねて。

 自分が糧とした者共の末路を、何よりも知っていたから。

 

──パキッ

 

 朽ちた枝を踏みつける足音が宣告として響く。

 この時ほど、擬死の術を身につけていればと悔いたことはないだろう。

 大根芝居のままに狸寝入りする滅尽龍。もう、なりふりなど構っていられなかった。

 

 ハンターが景気よく一撃を放つ。眠気覚ましと言うには暴力的に。

 堪らず起き上がって吠える。

 威圧に至らぬ稚拙な威嚇行動。易々と引き下がってくれるわけもない。

 感情に手綱を明け渡した滅尽龍と異なり、ハンターは努めて非情だった。

 

 たとえ目が潰れかけようと。

 体中に棘の爪痕を刻んでも。

 鎧ごと岩壁に打ち付けられようが。

 夥しい数の血痕を振りまけど。

 狩人(ハンター)は怪力を制し、忍耐強く戦うのだ。

 その差が勝敗を決したことは、もはや言うまでもない。

 

 滅尽龍は、最後まで足掻いた。

 火事場の馬鹿力さえ底を尽き、なおも腕を天高く掲げた。

 認めていたのだ。受け入れていたのだ。

 後悔を残して死ぬつもりなど、更々なかった。

 

 間際までの見苦しさが嘘のように、潔くそれは地に伏せる。

 

 負けた。

 敗けだ。

 

 棘は歪な再生のまま。

 尾を失い。

 翼は力なく垂れ。

 欠けた角を磨り減らし。

 狩られた獲物の姿は、剥製にも出来ないほど醜くみすぼらしく。

 

 けれども。

 渇きに満ちたその生き様は。

 

 

 

 尽く、勇ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信号機が色を変える。

 

 市街の喧騒から少し離れた、交通量の乏しい住宅地沿いの通学路。

 傍らに公園の見えるその道路を2人の少年が歩いていた。

 

「ねぇーかっちゃーん、ぼくにもむしアミつかわせてよー…」

「いずくが持ったって、どうせイッピキもとれねーって」

「いーじゃんかぁー…」

 

 両肩に虫かごの紐を携えた緑髪の少年、出久の抗議を正論で返すのは。

 虫あみを得意げに素振りするツンツン髪の少年、勝己。

 

「買ってもらえよ。これはオレんだ」

「イヤ。おこづかいはぜんぶオールマイトにつかうからイヤ」

「知らねーよ」

「んーぅ~!」

 

 会話の内容は実に子供らしいもの。

 虫取り道具一式は全てが勝己の私物であるため、出久は尚更強く出れない。

 赤を示す歩行者用信号機の下、彼らは待ち時間をつぶす。

 

「べつにいーじゃんむしカゴ係。つかまえた虫一番ちかくで見れるだろ? けーさつみたいに」

「わるぐちダメだよかっちゃん、おまわりさんにおこられる!」

「んなもんこわくねーし。つーか事実じゃん」

「じじつ?」

「事実も知らねーの?」

 

 初夏を過ぎた真夏の門前。

 虫取りに精を出す少年らの日常は、偏に『ヒーロー』の活躍があってこそ。

 

 異能が蔓延る現代において、悪事に手を染める輩は数知れず。

 大きな社会問題となった犯罪率の増加に、自浄作用の如く現れた存在。

 人々は彼らを『ヒーロー』と呼んだ。

 

 憧れは現実に。空想を地で行く彼らの影響は、今の社会基盤を築き上げるまで及んだ。

 超常以前の治安を司った警察でさえ、彼らの事後処理に回るほど。いつぞやに警察が(ヴィラン)受け取り係と言われて久しい。

 

 今時の少年少女は皆、口を揃えて夢を語る。

 例に洩れず出久と勝己も『ヒーロー』に憧れる純情な子供だった。

 画面越しに輝く彼ら、とりわけ“オールマイト”のような英雄にならんと志すのだ。

 

 その大前提は。

 悪を挫き、弱きを救うこと。

 

 そんな『ヒーロー』が現実となった世界においても。

 

 

 

───キキーーッ!!!

 

 平和の不都合はあるものだ。

 

「え」

 

バガンッ!!!!!!

 

 閑静な住宅地に銃声の如き異音が響く。

 2人の目が発生源を追う。

 大きく歪んだ車体をそのままに、交差点を占領する1台の自動車。

 辺り一面に散らばった、なんの部品か見当もつかない小枝のような棒や金属片。

 その前方3,4メートル先。

 地に伏す、子供の、ひしゃげた体。

 

「き、きゅう、」

「は……」

「きゅう、きゅうしゃ…」

 

 目前で捉えた事故の事実を飲み込もうと、2人の少年は必死に頭を回す。

 しかし、あまりに酷すぎた。まだ4歳の幼子には。

 変わらない信号機の赤をただ、呆然と眺めるだけだった。

 

──パキキッ…

 

 ふと、何か硬質のものを折るような軽い音。

 勝己が気付く。道路のほうからだ。

 

──パキバキッ……グジュ…ジュ

 

 信号機の影が伸びる、血塗られた交差点の中。

 そこには。

 “それ”は。

 

 

 

『グルルルァ……』

 

 

 

 殲滅の主が再び。

 息の()を鳴らしていた。

 

 

 




 
修正しました。(4/17)
大まかなストーリーは変わりないです。
 
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