殲滅の主はまた鐘を鳴らす   作:ぶびっぐ

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5000字前後か?
 


第14話

 

 

 

 開始から5分。勝負を仕掛けるにはやや早い頃合い。

 

「針山と釜茹で、どちらがマシだ?」

「…ん?」

「なんて?」

「…おや、聞いていませんでした。もう一度お願いします!」

「地獄に行くなら、針山と釜茹でのどちらを選ぶ?」

「「「???」」」

 

 滅理の唐突な質問に疑問符が尽きない出久、麗日、発目。

 タイミングを見計らっての行動だとしても、結果が意味不明である。

 なぜその質問文に辿り着いたのか、途中式がまるでわからない。

 だが思案に割ける余裕は無い。

 このまま棒立ちともいかず、三人は取り敢えず空欄を埋めることにした。

 

「えっと、釜茹では嫌かな…火傷って痛いし」

「そうなん? わたし針はムリやわぁ。釜茹でのほうがマシかな」

「釜茹でです! 耐熱スーツ(ベイビー)は作ってあるので!」

「なるほど、釜茹でだな。木屑、それでもいいか?」

「…あ僕? う、うん。みんながそっちなら」

 

 果たしてその問答に意味はあったのか。

 痺れを切らした敵の騎馬が接近してくる。

 

「今から変身する。吠えたら無重力を解除してくれ」

「え──」

 

 仲間の返事を退けるように即座、滅理が独断で跳び上がる。

 あり得ないことだが、落下する地面から自分たちだけが取り残される錯覚を出久は覚えた。

 そして跳躍の最高到達点、視界から滅理の姿が消えた。

 

「グアッ!」

 

 吠える声。

 麗日が反射的に指先を合わせる。

 無重力は解除される。

 今までどっちつかずだった浮遊感が、牙を剥いたかのように臓腑を逆撫でる。

 

ドシッ

 

 一つだけの着地音が鳴り響いたと同時に足元、というより周囲の変化に意識が回った。

 

「──手の、平…?」

 

 出久たちは巨大な掌に尻もちをついていた。

 そこが煤けたピンク色であること以外は、鉤状の爪や胴へ続く腕の逞しさから持ち主の野性味が窺い知れる。

 それが右手だとは、小ぶりな親指を見つけられなかったので気付くのが遅れたが、とにかく何らかの掌に三人(・・)は乗っていた。

 

「これ、肉球かな」

「ホントだ…」

 

 指の腹までを覆う柔らかくも硬質な組織。

 自身の肉球とは似ても似つかない“獣の靴”に、麗日は合わせた指先を離せないでいた。

 

『勝負出ちゃったか首位独走人間!! 残り10分を切ったこのタイミングで!』

 

 洞窟の外から入って来るような響き方の音は、試合を実況するプレゼント・マイクの声だ。

 

『なんとドラゴンに変身(・・・・・・・)したァァ!!!』

 

「!?」

 

 三人が乗る掌とは、滅理のものだった。

 では何故そうなったのか。

 

 跳躍した滅理は騎馬から手を放し、翼を生やして宙返りに飛行。

 その道すがらに変身しつつ、宙に浮く三人の下に掌を添えて吠える。

 そして落下する彼らに負荷をかけないよう、減速しながら着地した。

 掻い摘んで説明すると、そういうことである。

 

『つっても、なんか…ハゲてる?』

 

「グガ…ッ!」

 

 言葉を選ばないプレゼント・マイク(姉の友人の煩いほう)へ怒気の籠った眼差しを向ける滅理。

 彼の代わりに言葉を選ぶとすれば、変身した滅理の姿は“棘のない滅尽龍”であった。

 武器であり鎧でもある棘だが、人を抱えながら戦うことには滅法適さない。

 棘の集合体である角が無いのも、そのためだ。

 

「まさか…駄目だ! 黒創さん!」

 

 滅理の思惑に気付いた出久が声を荒げる。

 

 針山と釜茹で。

 選ばれた後者の意味。

 それは、自らを城壁とした籠城作戦だった。

 要はいつもの、過ぎた自己犠牲である。

 

「君一人に負担がかかる! そこまでする必要ないよ!」

「…」

 

 禿頭の龍は応えない。

 釜として、外部から加わるであろう(攻撃)を通すまいと。

 ただ沈黙するのみ。

 

「私も意見します」

 

 破ったのは発目だった。

 

「ベイビーが活躍できないじゃないですか!」

「あっ、そういう」

「…グゥ」

「えっ」

 

 その意見のどこに正当性を見出したのか。

 両翼を前脚代わりに地に付けて左手に発目を乗せると、滅理は彼女をうなじに登らせた。

 そこで大人しく日の目を浴びていてくれ、の意である。

 

「…来タ(・・)

「あ、喋れるん…って何が?」

 

BOOOOOOOM!!!!!

 

 城壁を揺るがす爆発音。

 滅理が飛び退き、視界は洞窟から崖壁に変わる。

 

 言わずもがな、その爆心地は勝己だった。

 

「何チキってやがンだハゲ!! 全力で来いや!!」

「ヴアァ!!!」

 

 熊のように立ち上がった滅理は、両手で出久と麗日を隠しながら翼を振るう。

 発目が腰のアンカーを滅理に刺して飛翔に備える。

 間違っても人体に向けて撃つべきでない鉄の矢に、滅理が堪えた様子はなかった。

 

 ふわりと、今日何度目かの浮遊感で胃が浮つく。

 

「あかん、もうこれクーリングオフや」

 

 麗日は、ずっと被っていたヘルメットが首を痛める前に脱ぐ。

 閉塞感を取り払って随分と気分が良くなった。

 

「どうする…どうやって説得する…」

 

 一方で、鍋の中を縦横無尽に回る具材のように、出久は思考を巡らせていた。

 彼は諦めていなかった。

 滅理一人に負荷が掛からない策を講じては、ブツブツと気味の悪い独り言と共に垂れ流していた。

 ああでもないこうでもない、ならどうする如何様に説く、と。

 それこそ、(怪物)の姿に既視感すら覚えないほど。

 

 その間、滅理は城壁に徹していた。

 騎馬崩しの反則など構うことなしと開き直った敵チームの攻撃。

 小粒な鱗の乱射、大量の糊、ジグザグな角、沼化する地面、擬音(オノマトペ)、茨…

 怪物の片鱗を知るA組の多くはそこに参加せず、一人の例外(勝己)を除いて傍観に回った。

 一際大きな煙幕を作った勝己が自分の騎馬に戻る。

 

 棘がなくとも肉の装甲で覆われた龍は、その尽くに対応してみせた。

 防ぐも躱すも、体格差がものを言う。

 子猫の突進で悶絶することはあれど、負傷することはないだろう。

 多くの飛来物は翼を盾に、拘束狙いのものは飛んで避け、一際目立つ勝己の爆破には背を向けた。

 滅理はただ、熱を蓄える釜であり続けた。

 

「こうするしかないのか…?」

 

「しゃらくせェな…」

 

 内外からの熱力に耐え、白星の完成を待つ。

 そこに一石を、否。

 氷を投じたのは焦凍だった。

 

「ヴ?」

 

 残り1分、足元の違和感に滅理が意識を割く。

 それ自体は何の捻りもない、焦凍の氷結による拘束だった。

 騎手を回収する際溶かしきれず疎らに残った氷。

 それらを中継して、気付かぬ内に左足を凍らせたという点を除けば、特に凝った仕掛けや工夫のない氷結攻撃。

 再生能力を有する滅理にとっては何ら決定打足り得ない一手。

 

 だがそれを好機とする騎馬が居た。

 八百万率いる、芦戸、上鳴、瀬呂のチームである。

 

「瀬呂さんっ!」

 

 滅理の死角に身を置いていた彼ら。

 騎手の瀬呂がテープを放ち、龍の尻尾の付け根を捕える。

 同時に右舷の芦戸が左手(・・)を前へ、というより上鳴の股下を潜るように突き出す。

 左舷の八百万は、既視感のある白い布で芦戸と瀬呂共々覆われている。

 まるで、前門の上鳴から何かを遮るように。

 

「ヴァッ!!」

 

 地頭の割に戦闘勘は極まっている滅理だ。

 彼らが行わんとする攻撃を、察知してしまった。

 

「今ですわ!」

 

 酸性を調整した芦戸の潤滑油()が放たれる。

 瀬呂のテープが勢い良く巻き取られる。

 滅理が左足の氷を力任せに振りほどく。

 表皮が剥がれた左足のまま飛び退く。

 

 が、それより先に上鳴が接触した。

 

バリバリィッッ!!!

 

 電撃が巨躯を直通する。

 情け容赦のない電磁調理器に、旧時代の釜は()を上げた。

 

「ガヴガゲガボゴゴゴゴッ……ッ…」

 

 牙城が崩れる。

 鉄壁であったがゆえの電気伝導度。

 中々の洞察力だと勝己は感心、する暇も筈もなく追撃を仕掛けた。

 

()るぞ1000万ッ!!」

 

 勝己は己の爆破に飯田の奥の手である“レシプロバースト”までも出した最速で、放電が届かないギリギリをスタートラインに疾駆するつもりだ。

 飯田が使い物にならなくなろうと空中へ逃げられるという周到さである。

 彼が玉座に大人しく腰を下ろすかは、また別の問題だが。

 

 5秒と経たず、電撃が止んだ。

 秒数の少なさは、荷物(アホ)でいては困るがゆえ。

 巨体が姿勢を保てず右へ横倒しになる。

 勝己は、それを待っていた。

 

BOOOOOOOOM!!!!!!!!

 

 爆発音はドップラー効果を引き連れて、滅理の懐へ真っ先に潜り込む。

 

 刹那。

 

 場外スレスレまで土埃を立てた騎馬が停止する。

 徐々に霧散していく幕の向こう、確固たる姿が輪郭を持つ。

 

 風が吹いた。

 たなびく鉢巻きのポイントは。

 

「──ッ取られた!! まずいッ!!」

 

 重厚な肉球によって電撃が和らげられたおかげか、即座に出久は状況を見た。

 それは麗日も同じ。

 出久の背に五指で触れて、浮き上がった彼を肩に担ごうとする。

 

 瞬間、足場の喪失。

 滅理の掌は既に消え失せていた。

 

「角ニ乗レ!」

 

 嗄れた声は騎手(出久)へのもの。

 衝撃が尻に当たり、飛んで行こうとする体を留めるべく出久は咄嗟に膝を曲げる。

 両手で探るように下の物を掴めば、それが硬質な“角”であると分かった。

 いつぞやの獣対決と同じ、言うなれば『龍人形態』とでも呼ぶべき人型で立ち直っていた滅理。

 二本の角に出久をしがみつかせながら、痙攣から無理矢理叩き起こした身体に発破をかける。

 王位の奪還を試みる。

 

 なお、変身は肉体の肥大であるため。

 勿論のことだが。

 

 全裸で、だ。

 

「ぱッ──」

 

 漢切島、流石に心が揺らぐ。

 を通り越して液状化する。

 その動顛は彼の心境を鑑みればさもありなん。

 唯一名前を憶えられ、個性を褒められ、しかも女体ときたら、目の毒どころでは済まない。

 彼の硬直が個性に伝わり、遺憾なく発揮される。

 騎馬から落ちないよう掴んでいた勝己の両足ごと。

 

 被害を受けたのは切島のみならず。

 ただでさえ気難しくそういうこと(峰田の日常会話)に疎い飯田は、残り数秒の活動時間をまるごと擲って視覚情報の整理せざるを得なかった。

 目の仇にはすれど色目で見ることなどまず無かった勝己は、入試試験の時と比べて不自然なほど実ったその肉付きに対し素直な疑問を抱いた。

 やがて前門の処理落ち(フリーズ)による不可避に気付くが、全身目のやり場駆逐女( 滅理 )は目と鼻の先。

 随分と高度で低俗な視線誘導である。

 

 がしかし。

 ここぞという時に、幼馴染(腐れ縁)という関係が火を噴いた。

 勝己の(またもやだが)股下をくぐり、砲身のように左腕を伸ばしたのは焦凍だった。

 素っ裸、ではあるのだが体表を覆う鱗によって大事なところが隠されている滅理を、焦凍の目は不健全にあらずと判断したのだ。

 そのため、何の気兼ねもなく対応することができた。

 

「──しゃらあ゛ァ゛!!」

 

 奇しくも滅理と同様にして、強引に思考を切り替えた勝己は迎え撃つ。

 出久とて彼の即応は織り込み済みである。

 無重力による重量無視を存分に活かし、身体を左に傾けて右の大振り(勝己の癖)を避ける。

 ただ、焦凍の介入は誤算だった。

 彼が一度(ひとたび)炎熱を灯せば、鉢巻きを取り返すのは困難。

 突破口は個性による早業に限られた。

 

 寸陰。

 

タイムアァァップ!!!!

 

 怒号が如きその声に、闘争の興奮はすぐ冷え込む。

 

「取……った」

「……アァ」

 

 掠め取るように突き出された出久の右腕。

 握られていたのは、一枚の鉢巻きだった。

 

「…ハッ」

 

 勝負の余韻か、勝己はそれを鼻で笑う。

 否。

 

「間抜けが。そりゃデコイだ…!」

「ッ!?」

 

 ひっくり返して点数を見ると、そこには“70”という心許ない数字が記されていた。

 

1位は爆豪チームゥ!! 最終盤での1000万奪取見事なりってとこだ!!

 2位は常闇チーム! 個性の相性バツグン戦車が着実にポイントを獲得!

 3位は鉄て…アレ心操チームぅ!? ここに来てダークホース登場かよ!

 

 晴れ晴れとした実況とは乖離する絶望が、またしても出久を襲う。

 

「そ、そんな…」

「テメェらまとめて、敗退しとけ」

 

 希望が急落し、足の力が抜ける。

 消え入り(空中分解し)そうな出久の足首を掴むと、滅理は試合結果を示すスクリーンに目を向けた。

 

「ドウヤラ、そうでもないみたいだ」

 

 人間の声帯を取り戻しながらの不可思議な声に、二人は揃って画面を見る。

 

“緑谷チーム 4位 685点”

 

そして4位は緑谷チーム! 中盤のドラゴンライドでちゃっかりポイント稼いでたか!!

 

「ベイビー様様だな」

「発目さん…!」

 

 滅理がB組の猛攻を耐える傍ら、発目はひたすらにベイビー(自作アイテム)を売り込んでいた。

 龍の威を存分に借りて敵チームからの注意をそちらに押し付けつつ、観客席にいるであろう大企業の関心を一身に受けるべく奔走したのだ。

 汎用伸縮アームで分捕ったり、小型ドローンを忍ばせたり。

 中には意外性を突き詰め過ぎて逆効果を生んだものもあったが、その釣果は鉢巻き二つと上場であった。

 

 自チーム最大の功労者に賛辞の目を向ける二人。

 しかし、どうやら発目自身は不服そうだ。

 

「ベイビーが壊れてしまいました…電撃への耐久性も考慮しなければ…」

「…すまない。私が雷に弱いばかりに」

「改良の余地アリってことです。気にしないで下さい!」

 

 開発者とはかくあるべき、などと出過ぎた口を叩くことはできないが、滅理には彼女の姿勢が尊敬に値するものだと思えた。

 

「デクくん、無重力解除するね」

「う、うん。ありがとう麗日さん、でも…取り返せなくてごめんね」

 

 すとっと着地した出久は、成果らしい成果の出なかった自分の作戦を含め、彼女に詫びる。

 麗日は手をひらひらと振ってそれを辞した。

 

「いいよいいよ、点数把握しとらんかったから危ない舟でもあったし」

 

 鱗の洞窟に籠っていた二人は持ち点の把握ができなかった。

 ゆえに持ち点を失った衝撃というのは大きく、奪還を試みるに至ったわけだ。

 

「ホウレンソウだな。肝に銘じよう」

 

 滅理がそこに加わったのも、防戦に夢中であったためである。

 

『1時間ほど昼休憩挟んで午後の部だ!』

『あと黒創、いい加減服着ろ』

 

「…あッ!?!? ココココ黒創さんハダ裸!!!!」

「あぁ、だが恥部は見えていない。替えもある」

「ほんまやん。ってそういう問題とちゃうんやって! ほらこれ羽織って!」

「そうか、そうする」

 

 麗日が体操服を力強くおっかぶせる。

 

『今頃お茶の間氷河期だろうな!』

 

 あらぬ注目を集めて、第二種目は幕を閉じた。

 

 

 

「緑谷…お前の“個性”は……」

 

 左を封殺した敵の個性に、既視感を覚える焦凍など。

 ここでは些事だった。

 

 

 




 
峰田「眼福っすわぁぁぁーーーッ」

瀬呂「えぇぇ…元はガチムチだろ…」

峰田「女体に貴賤は無ぇんだよ…! 雌だろあんなん…!」

蛙吹「そろそろ関わり方を改めようかしら」

上鳴(共感示さんとこ)

耳郎「おい同族なんか言えや」
 
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