月夜に陰る機構人形 作:こんぺいとー
廃れた遺跡。幻想的な紋様の広がるそれが、機構人形にとっての住処である。
所々が崩れ、月の光が垣間見えるその石造りの建造物の中、コツコツと堅い足音を響かせ彼女は歩いていた。
「あー、なんかやっぱ苛々する……いや、どっちかってと気持ち悪いな。違和感がある。なんでだ? まだあのクソ狼共がいるのか?」
メイドにあるまじき言葉遣いに動作で、頭痛でもあるかのように頭を叩く。その途中で思い出したように忌々しげに服を摘まんだ。
「これか? これが原因か? どうしてもこのヒラヒラが気に入らないしな……つってもこれとあと一つしか、服のバリエーションがないんだよなー」
初めて
その部屋──風化により穴が空いているため部屋としては機能していないが──に飾られていた服は、メイド服の替えともう一つだけ。それしか服の選択肢がないのが現状だった。
「もう一つも見た目大概だしな。なしだなし! ……いや、メイドよりは……マシか?」
目を瞑り、うーんと唸る人形。静まり返った廊下に、カタカタと小さな歯車の音が鳴る。
そして数秒の間の後、一度大きく頷くと目をゆっくりと開いた。
「……うん、着替えるか」
微妙な差だがもう一つの服に天秤が傾いたようだった。メイド服を靡かせながら反転すると、彼女はゆっくりと足を進め始める。
しばらく歩き、何もない壁の前で停止する。いや、何もないというか歪な形の指輪が描かれているのだが、実質的に何もないに等しかった。
そして流れるようにそこに手を当てると──スッ、と滲むように壁が消え、視界に入るのは下まで伸びる階段。
「謎システムだよな、これ」
どうも機構人形が疑問に思うのは当然のことと言えた。ここは石で作られた遺跡。描かれた絵や、たまにおいてある燭台なんかも
まるで古の遺跡を、見た目だけそのままに最新鋭の技術を組み込んだかのような異物感が溢れかえっていた。
「いやまぁ、考えても仕方ねぇんだけどなぁ」
コツコツと、何故か光が溢れる階段を下る。
遺跡は無駄に広かった。機構人形が最初に目を覚ました時も、まず広がる部屋に困惑するのが最初の感情だったのだ。
そこで、そういえば、と人形は考える。
(なーんか、この遺跡やらなんやらに勝手に触れられるのが嫌で嫌で仕方ない……のはなんなんだろうな。別に思い入れなんかあるわけないってのに)
そこが最近の悩みでもあった。特に、起きた部屋に置いてあった、なにかの文字が刻まれた金色の円盤──それだけは守らなければという、理解不能の意思があるのもその悩みに拍車をかけていたのだった。
「……お、ついたか」
まあまあ以上の時間をかけてついたそこは、機構人形の背丈の何倍はあろうかという、青白い光を放つ巨大な扉──
「……え?」
──に、穴が空いていた。そして固まった機構人形の目の前で、その穴の淵に手がかけられる。
そこを凝視する人形の前で、ゆっくりと顔を覗かせた男が手に持っていたのは
確認するように左、そして次にこちらを向いた男の顔が、えっ、という驚愕を刻むのを目にしながら、機構人形は知らぬ間にある感情に支配されていた。
(うん、それは──ダメだな)
左手を横へ持ち上げる。そして振る。
そのスムーズな動作で引き起こされたのは途轍もないほど巨大な一つの
圧力を一点に集中したようなそれが、男の顔面に横からかかり──パシュン、と儚げな音が響いた。