朝、入学式を控えた第一高校に、一人の男が足を踏み入れた。
「誰もおらんやん。俺が一番乗り?そんなことあんの?トロすぎへん?」
何もかもを下に見る傲岸不遜を極めたこの男こそ禪院直哉。最速の男は当然会場に着くのも最速なのだ。
「あ、あの…」
「あ?」
振り返ると、気弱そうな少女がこちらを見ていた。
「なんや、チビっ子。ここは子供の来るとこやないで。パパとママんとこ帰りや」
「い、一応これでも先輩なんですけど…えっと、新入生の方ですよね?そろそろ開会なので、なるべく急いでいただけると…」
訂正。遅すぎて逆に人が居ないだけだった。
◆◆◆
「ほーん、ずいぶん綺麗に分かれとるんやね」
開会直前に会場入りしたこともあってそれなりに注目を浴びるが、気にすることなく適当な席を見繕い席に着く。
開会式は滞りなく進んだ。特に興味もなく居眠りを決め込んでいた直哉だったが、周囲の空気が変化したのを感じて壇上に目を移すと、大和撫子を体現したような美少女が立っていた。
顔も体もまあ合格点やね。お近づきにはなりたないけど。
負の感情が渦巻く呪術師の世界に長年身を置いてきたからだろうか、禪院直哉は壇上の少女からわずかに漏れ出る不穏な気配を確かに感じ取っていた。
司波深雪と名乗った少女が答辞を終えた。周囲の生徒は皆一様に瞳を潤ませ感動に浸っている。
嘘やんこいつら、皆等しくだとかなんとか君ら一科生が一番嫌いそうな言葉入っとったのマジで気づいてないんか?
◆◆◆
「…で、俺はA組かい」
なんでもええけど。
窓口でIDカードを受け取り、一人呟く。
ふと、横合いから声がかかる。
「君もA組か?」
「あん?誰やねん、君」
「ああ、すまない。僕は森崎駿。よろしく頼む」
「…禪院直哉や。よろしゅうな」
…ま、ええか。お友達ごっこぐらいなら付き合ったるわ。
強さを知らない雑魚は嫌いだが、それはそれとして友人になろうと言うなら付き合ってやろう。禪院直哉は寛大な心の持ち主なのだ。
「では僕は司波さんと交流を持たなければならないので失礼する。また教室で」
「オイ待てや。失礼すんなや」
恐ろしい速さでその場を離れようとした森崎の首根っこを掴み引き留める。首でも絞まったのか「ぐえっ」と妙な声を上げた。
「ゲッホゲホ…なぜ止める!?」
涙目で抗議の視線を向けられるがどこ吹く風だ。野郎の涙なんて1円にもなりゃしない。
「逆に聞くけどな駿くん。君、あの人込みん中かき分けてその上であの子に話しかけられるとでも思っとるんか?」
「う、それは…」
「そういうことや。どうせ同じA組なんやから後で好きなだけ付け回したらええやろ」
「人聞きの悪い奴だな…」
結局、その日は深雪を諦める事となった森崎だった。
◆◆◆
「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挿むことじゃないでしょう!?」
「で、なんなんこれ。随分面白そうなことなっとるけど」
翌日、なんだかんだで深雪との接触に成功した森崎と行動していた直哉だったが、少し目を離していた隙になにやら言い争いを始めていた。
「なあ、これ何しとるん?」
後方で立ち尽くしていた女子二人に軽く聞いてみることにする。
「あ、えっと…」
「皆で司波さんと一緒に帰ろうと思ってたんだけど、司波さんのお兄さんが二科生でそれでトラブルになっちゃったみたい」
「ほーん…まあ大体話は読めたわ」
そうこうしている間にも両者はヒートアップしていき、完全に収拾がつかなくなっている。
「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに意見するな!」
「同じ新入生じゃないですか!あなたたちブルームが、今の時点でどれだけ優れているというんですか!?」
「お」
その言葉が引き金となった。静まり返った一科生の集団から、怒りを押し殺した声が上がる。
「…どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやる」
そこからは売り言葉に買い言葉、あっという間に一触即発の状態となる。
「さ、流石に止めないと…」
「でも、私たちにあれを止められるとは思えない」
茶髪の少女の言葉に黒髪の少女が冷静に、しかし悔しそうに表情を歪めながら答えた。
「…ま、ええわ。今回くらいは止めたる」
めんどそうな連中にも目つけられとるみたいやし。
喧嘩を傍観するのは嫌いではないが、こちらに不利益があるとなれば話は別である。
「で、でも」
「まあ見とき」
彼らの方に視線を戻すと、森崎がCADを引き抜き二科生に突きつけていた。
「危なっ…」
瞬間、禪院直哉の姿が掻き消えた。
◆◆◆
「…は?」
「な、にが」
森崎、森崎のCADを弾き飛ばそうと警棒を振り上げた少女から驚愕の声が上がる。
「そこまでにしとけや」
片手でCADを、もう片方で警棒を抑えた体制で制止の声をかける。
「禪院!?なんでっ…」
「やめとけって言うたん分からんかったん?」
「っだが、」
「どの道今の駿くんじゃこの距離でこの子相手に勝ち目ないで。勝てると思っとるん?冗談やろ?」
「…いい加減離してほしいんだけど?」
突然乱入したかと思えばクラスメイトへの罵倒を始めた事に対する困惑からようやく復帰した少女が目つきを鋭くする。
「おーこわ。やけど君も気つけろや。血の気が多いのはええけど雑魚のままやったら怪我するだけやで」
「…ご忠告どーも」
「ん、めんどそうなのが来たわ。あと任せたで、駿くん」
「は、」
「あなた達、魔法の不正使用は校則違反である前に犯罪行為ですよ!」
良く響く凛とした声にその場にいる全員が視線を向け、顔を青ざめさせることとなった。
小柄ながらも確かな存在感を放つ少女は七草真由美生徒会長その人である。
「1-Aに1-Eの生徒だな?事情を聞きます。ついてきなさい」
真由美と共に現れた三年生、渡辺摩利が冷たい声で命じる。
風紀委員長の言葉にさらに顔を青くする一科生達だったが、救いの手を差し伸べたのは意外にも二科生だった。
「すいません、悪ふざけが過ぎました」
「悪ふざけ?」
「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから。後学のために見せてもらおうと思っていたのですが、あまりにも真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」
「なるほど?」
「それに、実際の魔法発動は彼が阻止してくれましたから。何も問題はないはずです」
「ふむ」
「兄の申した通り、本当にちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
騒動の中心となっていた人物にこうも素直に頭を下げられて、摩利も毒気を抜かれ目を逸らした。
「もういいじゃない、摩利。達也くん、本当にただの見学だったのよね?」
「はい」
「生徒同士で教えあうことは禁止されていませんが、魔法の発動には様々な制限があります。このことは一学期のうちに授業で教わる内容です。それまでは魔法の発動を伴う自習活動は控えた方がいいでしょうね」
「…会長もこう仰っていることですし、今回のことは不問にします。以後、このようなことのないように」
そう言って踵を返し、一歩踏み出したところで足を止め、達也に問いかけた。
「君の名前は?」
「1年E組、司波達也です」
「覚えておこう」
「………」
何も言わずにため息を堪える達也を、禪院直哉は心底愉快そうな表情で眺めていた。
◆◆◆
「なあ、真由美」
「何?摩利」
「二人の間に割って入った一科生を覚えているか?」
「ああ…禪院くんのこと?覚えてるわよ。深雪ちゃんほどじゃないけど彼も相当に優秀だったもの」
「その禪院だが…あの二人を止めた時の彼の動きが見えたか?」
「…全く。気づいたら二人の間にいたし、いつ動き出したのかも何も見えなかったわ。摩利は?」
「同じく。十中八九魔法だろうが、そのタネがまるでわからん」
「ほんと…今年の一年生はクセが強そうね」
こっちの方はぼちぼち書いていきます。タブンネ
ヒロインいる!?
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いるよなぁ!?
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いらねえよなぁ!?