波乱の部活動勧誘期間が終わり、校内が落ち着きを取り戻してきた頃。謎の二科生が数々の事件を解決しただとか、OBが新入生を拉致したなどという噂が囁かれていた。
ちなみに直哉はどこから流出したのか成績上位者であることが知られていたらしくあらゆる部活から勧誘があったが全て「ザコやん」の一言で一蹴していた。
授業も終わり、土地勘を掴もうと学校周囲を散策している時。見覚えのある姿が視界に入った。
「あん?」
雫、ほのかに加えて知らない赤毛の少女の三人組がコソコソと裏路地へ入って行く。
「最近の女の子は進んでるんやねえ。…そうじゃないやろけど」
この世界に来てからというもの、ほぼ感じてこなかった明確な悪意。直哉はそれを感じ取っていた。
どうしたものかと考えていると、彼女らが消えた方向から凄まじいサイオンノイズが発せられた。
「ええね。少しは楽しめるやろ」
笑みを深め、術式を起動する。
◆◆◆
「ぐ、うっ…」
「なに、これ…魔法が…」
酷く頭が痛い。魔法は発動出来ず、体に力も入らない。それは、暴漢を前にして一切の抵抗手段を失ったことを意味していた。
「はは、魔法が使えなきゃただのガキだな」
ヘルメットで顔を隠した男が嘲るように笑えば、つられるように周囲の男たちも笑い始める。
「っ…!」
思わず彼らを睨みつける。が、それだけだ。頭痛は酷くなる一方で、動くこともできない。ほのかはより重症で、このままでは命の危険すらある。
「よし、じゃあそろそろお前ら死んどくか。おい、まずそこのチビ…を…」
部下に指示を出そうと振り返ったリーダーらしき男が硬直する。
彼の視線を追うと、先ほどまで自分たちを嘲笑していた男は倒れこみ、そこには見覚えのある金髪に、ニヤニヤとした笑みを張り付けた青年が立っていた。
「女の子囲んでずいぶん楽しそうやん。俺も混ぜてくれへん?」
武器を持った大人に囲まれていても彼の歩みは止まらない。ただそこにある道を歩くかのようにゆっくりとリーダー格の男に近づいていく。
「禪…院さん…?」
「駄目やなあ、雫ちゃん。火遊びはええけど、火の消し方まで考えなあかんで?」
心配しているようでどこまでもこちらを下に見ている言動も、周りを敵に囲まれていても一切変わらないその表情も。この場において圧倒的な安心感を持っていた。
「っふざけるなぁっ!」
いち早く硬直から復帰した男がナイフを振り下ろすが、彼は背後が見えているかのような動きであっさりとそれを躱し、がら空きの背中に肘を落とす。たったそれだけで男は動くことが出来なくなっていた。
「下っ手クソやなあ。奇襲すんなら声上げたらいかんやろ」
「…思ったよりおもんないなあ、これ。ド素人やん。アホくさ」
張り付けた笑みを消し、途端につまらなさそうな表情で呟く。
彼らにとっての地獄が始まる。
◆◆◆
期待外れ、というのが直哉が抱いた素直な感想だった。
元より一級程度のレベルは期待していない。それでも多少は楽しめるかと思っていたが、蓋を開けてみればただ武器を持っているだけの一般人。期待外れにも程がある。
「群れた挙句に得物プラプラぶら下げてこれとか、恥ずかしくないんか?駿くんいたぶっとった方が百倍マシやで」
哀れ森崎駿。ドブカス顔だけ男禪院直哉に
「黙れ化け物!俺たちには正義が───」
「は、雑魚に正義なんて語る資格ないで。
「コイツを殺せ!今すぐに!」
で、考えなしの突撃かい。
「そんなんやから雑魚や言ってんねん」
四方から凶器が迫る中、禪院直哉は迷っていた。
殺してもええんかなあ。俺はええけど。流石に正当防衛にはならんやろか。
「しゃーない」
ナイフが目前まで迫る。次に起こる光景を想像して、雫達は目を背けた。
「秘伝──落花の情」
御三家に伝わる領域対策の秘術の応用。全身を覆う呪力に刃先が触れた瞬間、呪力が対象者の脳を貫き昏倒させる。
触れた側から倒れ、焦った者がさらに攻撃し倒れる、を繰り返してしまえば、動ける者がいなくなるまでにそう時間はかからなかった。
「ま、ストレス発散くらいにはなったで」
倒れ伏す男どもを他所に雫たちに目をやれば、ふらつきながらも立ち上がっているところだった。
気の利いた言葉の一つや二つかけてやるのが人というモノだが、ここにいる禪院直哉にそんなもの期待してはいけないわけで。
「で、どうするん?こいつら」
「どう、って」
「マッポに突き出すんでもええし、このままほっとくんでもなんでも好きにしたらええ。…殺してもええんやで?」
「っそれは、」
露骨に動揺する三人に笑みを深める男直哉。やはり最低である。
「冗談やって。捕まりたい訳やないし」
「さっきの見た後だと冗談に聞こえないですよ…」
「ん、警察に通報しようと思う」
「そか。んじゃ俺は先に帰らせてもらうわ。こいつらは君らが倒したって説明しや」
そう言って立ち去ろうとした時、後ろから呼び止められた。
「禪院さん!」
「なんやねん。クソだるい事情聴取なんてお断り──」
「助けてくれて、ありがとう」
「──ま、礼くらい受け取ったるわ。貸し一や。高くつくで?」
そう言って今度こそ立ち去り、一人直哉は考える。
恨み言しか、言われたことあらへんからなあ。
呪術師には極々一部を除いて根暗しか居ない。そんな世界で生きてきた直哉にとって、今いる表の世界は。
「…やりづらくてしゃーないわ」
拙者、普段クソうざい奴の言動がピンチの時にめちゃくちゃ頼もしく見える展開大好き侍。義によって助太刀致す!
ところで呪力を脳に流すと気絶させられるよみたいな設定どっかで見た気がするのでさらっと入れましたがどこで描写されてたか全く思い出せないんですよね。もしかして存在しない記憶?????
あと今んとこ予定は特に無いんですがヒロインいるかいらんか一応アンケを取ろうと思います。おなしゃす!センセンシャル!
ヒロインいる!?
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いるよなぁ!?
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いらねえよなぁ!?