紅蓮の騎士〜Crimson Knight〜   作:犬社長

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遅い時間の投稿だけど多分皆さん起きてらっしゃいますよね?

私は眠たくて死にそうです(じゃあ寝ろよ)

1万文字越えです。読む際はご注意を。…1万文字が文字数的に多いと感じるか、少ないと感じるかは、人によりけりだと思いますけどネ。




紅蓮の騎士〜Crimson knight〜 記録②〈M.E.G探索班 ニコラスの記録〉

 

 

 

………微睡(まどろみ)は嫌いじゃない。

 

 

 

 少なくとも、目を閉じている間は、こんなクソッタレな世界を見なくて済むからだ………

 

 

 

……彼は、誰かに呼ばれた気がして、閉じていた目を開けると、ため息をついてから起き上がった。ーーーーーー細かい傷が無数に走る、燻んだ銀色の鎧が彼の動きに合わせガシャリと音を立てて、軋む。

 

 

 羽織った赤いマントと、背に背負ったクレイモア…そして、この身を包む鎧だけが、彼の全てだった。

 

 

「……さて、誰が私を呼んでいるのかな…?」

 

 

 紅蓮の騎士(Crimson knight)は小さく呟いて、クレイモアを鞘から引き抜く…そしてそれを一回、虚空に向けて振り下ろすと、生み出された空間の亀裂の中へ、我が身を投じた。

 

 

 

 

……何処かで自分の助けを求める、名前も知らない誰かの声に応える為にーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇〈M.E.G職員 ニコラスの記録〉◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

…………全(・)滅(・)だ(・)。

 

 

 自分以外、みんな死んでしまった……殺されたのだ。ーーー闇に住う、恐るべき怪物達に。

 

 

 

ーーーーーーーーーニコラスは、暗く冷たい闇の中で震え上がっていた。…彼の手に握られた銃は弾詰まりを起こして故障しており、携帯式のライトは壊れ、彼の身体のあちこちには、大小様々な生傷が刻まれていた。

 

 

…沢山あった筈のアーモンドウォーターも全て使い果たし、連絡手段も無い。……仲間は自分よりも先に次々と死んでいった。

 

 

………最悪だ。ーーーそうニコラスは、心の中で悪態を吐く。…口に出してF○○K(ふぁっく)!!と叫ぶ気力はもう、彼には残っていなかった。

 

 

…どうせなら、皆んなと一緒に死んでしまえば良かったのかも知れない。……死ぬチャンスなら、ごまんと転がっていたと言うのに。

 

 

(…皆んなが…俺を生かそうとして…先に死んでいった…ッ。)

 

 

 

 

『ーーーーーーーーーお前は逃げろ!!』

 

『俺の事は気にせず先に行け!!!』

 

『コイツらは、ここで食い止める!!逃げるんだニコラス!!』

 

 

 

 

 

 ニコラスの脳裏によぎるのは、仲間達が自分に向けて放った最後の言葉だった。………なぜ自分は先に行ってしまったのか。なぜ仲間達と一緒に戦うと言う選択をせず、おめおめと逃げ出してしまったのか。

 

 

……それに、自分1人だけ助かったところで、一体何になると言うのだろう?……自分に待ち受けている運命など、暗闇の中の死以外に無いと言うのに。

 

 

「……ああ……どうして…俺は1人生き残ったんだ…?たった1人生き残ったとして、何が出来るってんだ…。この暗い洞窟(Level8)の中で、死を待つこと以外に………。」

 

 

 そう声を漏らした所で、何かが変わる訳ではない。洞窟に住うエンティティ達は、間もなく自分のことを見つけるだろう。ーーーーーーそして、自分の体を千切り、臓物を啜り、骨まで喰らうに違いない。

 

 

………想像するだけで、恐怖でしかなかった。一体自分はどうなるのだろう?〈クランプ〉に手足を引きちぎられるのだろうか?〈ラングラー〉に丸呑みにされ、その腹の中でドロドロに溶かされるのだろうか?〈スキンスティーラー〉に生きたまま皮を剥がされて、殺されるのだろうか?はたまた、〈ハウンド〉の群れに取り囲まれて、貪り食われるのだろうか?

 

 

………全部、彼の目の前で仲間達が辿った末路だった。

 

 

 

「…い、嫌だ……俺は…!惨めに死ぬ為に…M.E.Gに入隊した訳じゃないのに………。」

 

 

 闇の中で怯えながら、ニコラスは自分がバックルームに不幸にも囚われ、M.E.Gに加入する事になった日の事を思い出していた……あたかも、走馬灯の様にーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数年前〜

 

 

 

 

…その日、ニコラスは女神に出逢った。………少なくとも、彼はそう思った。

 

 

 

ーーーーーーーーー忘れもしない。…アレはLevel0での出来事だった………

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ーーーーーーその時彼は、何処までも続く病的なまでに黄色い部屋の集まりを、ふらふらと彷徨い歩いていた。

 

 

…ここが何処だか分からない。自分がどうやってこんな場所にたどり着いたのかも分からない。……一体自分が何をしたと言うのだろうか?ただいつもと同じ様に日々を過ごしていただけなのに…。

 

 

……その時彼の精神は、すでに限界を迎えていた。長い時間歩き続けた所為で足は鉛の様に重く、腹は空腹を何度も何度も訴えていた。

 

 更に、頼みの綱のiPhone20は通話が繋がらず、インターネットに接続する事も出来やしない。……故に彼は助けを求めることすら出来ず、唯々彷徨うしかなかった。

 

 

……俺はこうやって彷徨い続けた果てに、死ぬのだろうか?

 

 

彼はぼんやりとそう思った。

 

 

 

ーーーーーーーーー正直言って、此処までなら、バックルームの中ではありがちな話しだ。…ある日突然迷い込み、彷徨い、疲れ果てて死んでゆく。……大体の新入り放浪者は、そんな運命を辿る。(Level1へ辿り着くものは稀だ。)

 

 

…しかし、どうやら彼の運命を司る神は、意外と慈悲深かった様だ。(最も、本当に慈悲深い神様なら、バックルームに彼を送りなどしないだろうが。)

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーそこの君!!大丈夫ですか!?」

 

「……え…?」

 

 

ーーーーーー突然聞こえた、自分のものでは無い声に思わず顔を上げるニコラス。

 

 

…視界の先に、こちらに向かって走ってやって来る人影が見えた。

 

「…ひ、ヒト…?嘘だろ……?」

 

 

…彼は一瞬、おかしくなった自分の頭が見せた、都合の良い幻かと思った。……なにせ、近付いてくる人影は、どう見ても女性だったからだ。……異世界らしき場所を彷徨い、挙げ句の果てに死にそうになった時に、めちゃくちゃ美人な女性に助けられる……なんだか、凄く小説とかに有りがちな設定じゃ無いか?

ーーーーーーーーニコラスは、自分がそういうシチュが好きだったのも相まって、『こんな都合の良い幻覚まで見始めて、いよいよ自分は死ぬのだな…』と、本気で思った。

 

 

…だからその幻がいくら目を擦っても消えず、それどころか、自分にどんどん近づいてきて、目の前で立ち止まって話しかけて来た時、大いに驚いた。

 

 

 

「ーーーーーーーーーおにーさん!!大丈夫ですか!?」

 

…そう言われて、肩を軽く揺すぶられる。

 

「ーーーーーーーーーう……あれ?……幻じゃない?」

 

 ニコラスの目の焦点が急速に合って、目の前の女性の顔を至近距離から、しっかりと捉えた。

 

 

……自分を覗き込む彼女の顔は、物凄く美人に見えた。……極限状態から救って貰ったという、ある種の思い出補正もあるかも知れないが、確かにそこには、彼にとっての女神が居たのである。

 

 

 

「ーーーーーーーーーうぇ?…貴女は……女神???」

 

…思わず、彼はそう呟いた。ーーーーーー後から思えば、開口一番に女神発言は、変な奴だと思われても仕方なかったかも知れない。

 

 

「…は?」

 

 

…目の前の女(・)神(・)が、怪訝な顔をしてニコラスを見た。

 

 

「あ、、いや…えっと……まさか本当に人だとは思わなくて……。」

 

 

ーーーそう弁明するニコラス。

 

目の前の女神は、ちょっと納得した様に頷いた。

 

「…ああ、確かにココで人に会う事は、稀だからね…。私もまさか新しい放浪者に出会うなんて、思っても居なかった。ーーーーーーーーー取り敢えず、おにーさんは衰弱が激しい。…コレを飲んで。」

 

 

…そう言って彼女は、背負ったバックの中から、一本のボトル缶を取り出すと、蓋を開けて彼の口元に差し出した。

 

…缶の中からほんのりと甘いバニラの香りが漂って来て、ニコラスの摂食中枢をこれ以上無いほど激しく刺激した。

 

…恐る恐る口をつけると、冷たくて甘い液体が喉を滑り落ちていき、体全体に沁み渡っていくのをニコラスは感じ取った。

 

 

「ーーーーーーーーーッ!!…美味い!!」

 

 

……思わず、彼女の手からボトルを奪う様にもぎ取って、中身を一気に飲み干してしまうニコラス。

 

……全部飲んでから、ちょっと乱暴な事をしてしまったかも知れないと思ったニコラスは、彼女に頭を下げた。

 

「……すいません。…余りにも美味しかったので、つい…。」

 

 

彼女は、あっけらかんとして笑う。

 

「ーーーーーーアハハハハハ!!良いのよ別に?おにーさん、お腹空いていたんでしょ?まるで、何日も食べていない野良犬みたいだったよ…。ーーーーーー因みに、さっきのもう一本あるけど…飲む?」

 

「ーーー飲みます!!(食い気味)」

 

 

 

……そうやってニコラスが2本目を貪っている間、彼女は特に何もせず床に座って足をぶらぶらさせていたが、彼が2本目を飲み終わったタイミングで話しかけて来た。

 

 

「おにーさん、名前は?……私はアリス…アリス・ロレイン。初めましてだね。」

 

「…ああ、どうも…。俺の名前は…ニコラスです。…ニコラス・ノースウィング。」

 

 女神…改めアリスは、彼の名前を聞いて少し感慨深そうに呟いた。

 

「……ニコラス……ニコラスさんか。………私の弟と同じ名前だ。こんな偶然もあるもんなんだね。」

 

「……弟さんが居るので?」

 

…ニコラスの問いに、彼女はちょっと暗い顔をして頷いた。

 

「…うん。もう会う事は無いだろうけどね。」

 

「…………?」

 

 意味がわからず首を傾げるニコラスに、アリスは立ち上がる様促した。ーーーーーーーーーどうやら、休憩は終わりの様だ。

 

 

「…そろそろ行かないと…ニコラスさん、私に着いて来てーーーーーー貴方を〈拠点(ベース)アルファ〉へ案内するわ。…詳しい事は、そこで話しましょう。」

 

…そう言って彼女は手を差し出して来た。

 

ーーーーーーその手を握るニコラス。………孤独の中彷徨い続けていた彼にとって、その手は今まで触れて来たどんな人の手よりも、暖かく…そしてしっかりとした手に思えた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

………蛍光灯のハム音が鳴り響く中、ニコラスはアリスに連れられて、黄色い部屋を歩き続ける。

 

 

「ーーーこっちだよ。着いて来て。」

 

「あ、ああ。分かった…。」

 

 

……ニコラスからして見れば、どれも同じ様な黄色い部屋の集まりの中を、彼女は自分が今何処に居るかまるで分かっているかの様に、何の迷いもなく進んで行く。

 

 

(何処に向かっているのだろう……というか、此処は何処なんだろう…?)

 

 

…彼は歩きながら、そんな事を考えていた。…彼女に聞きたい事は山ほど有った。しかし、今は何となく話しかけるべきタイミングでは無いらしい…。ニコラスは、スタスタと先を行く彼女に取り残されない様にしようと、考えるのをやめて歩く事に集中した。

 

 

 

 

 

……やがて、2人の行手にエレベーターらしき物が見えてきた。

 

 

……この黄色い世界に於いては、実に周りの景観と不釣り合いな様に見える、至って普通のエレベーターだ。………黄色い壁にポツンと備え付けられた銀色の両開きの扉は、そこだけ明らかに周りから浮いている。ーーーーーーそんなエレベーターに彼女は足早に近づくと、躊躇わずに下に行くボタンを押した。

 

 

 

ポーーーン…

 

 

 

 軽やかな音と共に、エレベーターのドアが音を立てずにスライドする。

 

「ーーー乗って。此処よりかは、マシな場所に連れて行ってくれるから。」

 

…そうアリスに促され、エレベーターに彼女と一緒に乗り込むニコラス。

 

 

ーーー彼の前で、扉が閉まりエレベーターは下に向かって動き出す。

 

 

 

 

………暫くの間、ドアの外は闇に包まれていたが、ある程度下に進んだ所で、エレベーターが軽く振動すると共に、ドアの外から光が差し込んできた事にニコラスは気付いた。

 

 

 

…何処か、違う場所に着いたのだ。

 

 

 

「……ん?ーーーーーーー着いたのか…?」

 

 そうニコラスが呟くと、目の前でエレベーターのドアが滑らかに開いて、アリスにとっては見慣れた、しかしニコラスにとっては未知の世界が目の前に広がったーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

…そこは、灰色のコンクリートから成る大きな倉庫の中のようだった。等間隔で設置された蛍光灯が、人工的な白い光を隅々まで投げかけており、やはり此処も黄色い世界と同じで、何処までも広く広がっている。

 

 

「……今度は灰色か…。なんだか温かみがなくて殺風景だな……本当にここ安全なの?」

 

 

そんな疑問を抱くニコラスに、アリスは笑って言う。

 

「ふふ……確かに殺風景だけど、此処は本当に安全なんだよ?少なくとも、さっきの所とは違って…此処には人の温かみがあるから。」

 

 そう言った彼女は、ニコラスに向かって手を広げて、少し勿体ぶった様に口を開く。

 

 

「……ようこそ。〈Level 1〜ハビタブルゾーン〜〉へ。此処はあらゆる放浪者が集う場所…。〈Level0〉という最初の地獄を乗り越えてきた者に与えられる、バックルーム最初の安息地…そして、次の地獄に備える為の準備室でもあるんだ。」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「……えっと…〈Level1〉?バックルーム…??なんだそれ……???」

 

 

…いきなりそう言われても、ニコラスにはさっぱりだった。大量の疑問符を頭に浮かべる彼に、アリスが歩きながら説明を始める。

 

 

「まぁ…そう言われても、直ぐには理解できないよね。今はわからない事だらけだと思うけど大丈夫。ーーーーーー直ぐに分かる様になるから。…取り敢えず、今は私達の拠点に向かおうか?」

 

 

ーーーーーーーーー着いて来て。…と彼女はニコラスに先立って、この灰色の部屋を進み始めた。ニコラスも彼女に置いていかれない様、後を追って歩き出す。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーそして、幾つかの大きな部屋と、ちょっとした廊下や狭いダクトの様な所を越えた先に、アリスの目指すモノが見えてきた。

 

 

「ーーー?何だアレ………建物?」

 

 

…それは、何かの建物だった。

 

 

 灰色のコンクリートを切り出して作ったらしき建材を、複雑かつ器用に組み合わせて作られた、大きな建物だ。

 

 

 建物の正面に取り付けられた大きな分厚い扉の前には、スプレーでこんな文字が書かれている。

 

 

 

 

〜誰でも大歓迎だ(Everyone is welcome)!!〜

 

 

 

 

「…………???」

 

 

 そのスプレーで書かれた文字を見て、ニコラスが首を傾げていると、アリスがその扉に近付いて行って、勢いよく扉を開いた。

 

 

ーーーーーーーーーガコン!!…と音を立てて、重たそうな扉が開く。…その向こうから温かな空気と、何やら良い香りが漂って来て、ニコラスは思わず気持ちが緩んだ。ーーーーーー此処は安全なんだ!……誰に言われるまでもなく、彼の本能が此処が安全な場所であると、理解したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー殺風景な外観に反して、中は意外と片付いた雰囲気のある、普通の部屋っぽい所だった。

 

 

 床には綺麗なラグが敷かれ、お洒落な椅子と机に、暖色系の照明が部屋全体を照らしていた。…そして、何処かで自家発電機が動いているのか、微かに震える様な音が聞こえている。

 

 

…ニコラスが綺麗な内装に目を見張っていると、アリスが部屋の中心に立って、奥の方に向けて何か大声で叫び出した。

 

 

「おーーーい!!……私よ!!アリスだよーー!!ーーーーー今、帰還しました!!!誰か居ないの!?」

 

……綺麗な声だなぁ…ーーーーーーなんて、ニコラスが思っている前で、何やら部屋の奥からドタバタと音がして来たかと思うと、奥のドアが開いて、1人の男が現れた。…手に何故かフライ返しを持っているし、何やら香ばしい匂いを体から漂わせている。

 

 

「ーーーおお、アリス!!随分と早い帰りだな?…マッピングはもう終わったのか?」

 

 

…男性が口を開いた。ーーーアリスが彼に答える。

 

「いいえ、ジャック先輩。ーーーーーーーーーでも、放浪者を1人保護したんです。ーーーーーーところで、リード先輩とか他の皆さんは?」

 

「…ああ、みんな本部からの指令で色んなLevelに散ってるよ。……全く地図作りってのは大変だな!……でも、何でか俺には指令がなかったんだよね。…ま、お陰で料理のレパートリーがまた2、3個増えそうだがな。ーーーーーーーーーところで、アリスの後ろにいるお兄さんが、新入り放浪者かい?」

 

…手に持ったフライ返しで、男ーーー改め、ジャックがニコラスを指した。

 

頷くアリス。

 

「ーーーええ、紹介するわジャック先輩。…この人はニコラス・ノースウィングさん。…さっきLevel0で保護したの。」

 

「あ、どうも。ニコラスと申します。」

 

 

 ペコリと頭を下げて挨拶するニコラス。そんな彼にジャックは開いている方の左手を差し出した。

 

「ニコラス君ね。俺はジャック・オレソンだ。……左手で悪いが*1、よろしくな!」

 

…そうやって差し出された左手を、ニコラスは握った。

 

「いいえ、気にしませんよ。……こちらこそ、よろしくです。」

 

ーーーーーージャックが、ニコリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「…で、だ。ーーーーーーニコラス君。君はまだ何も知らないまま此処に来ただろうから、先ずは説明から入ろうか。」

 

「あ、はい。お願いします。」

 

 

……挨拶を交わしてから数分後、3人は部屋の中に備え付けられている広い机の前に座して、話を始めていた。…話を始めたのはジャックだ。

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーまず、ニコラス君に残念なお知らせだ。……多分君はもう二度と地球の大地は踏めないだろう。ドンマイだな。」

 

「ーーーーーーーーーえ?」

 

……いきなり、凄いこと言い出すものだ。……後でニコラスは思ったが、もうちょっと控えめな表現は無かったのだろうか?

 

「…そ、それってどういう…?」

 

「ん、説明しようーーーーーーーーーーーー……」

 

 

…そう言って、ジャックはニコラスにバックルームについて、説明を始めた。ーーーーーーーココは現実世界から何らかの要因で、外れ落ちた者達が辿りつく場所である事、出口は未だ見つかっていない事、ココには沢山の多種多様な別世界が存在し、それらは〈Level〉と呼ばれている事、そして、ニコラスの様な放浪者達を保護する為…及び、バックルーム全体像の解明という途方もない目的の下に設立された組織であるM.E.Gの事、彼は全てをニコラスに話した。

 

 

 

「ーーーーーーーーーってのがまぁ、なんだ…俺の知ってる且つ、話せる全てだな。」

 

 

 

ーーーーーー話が終わった後も、暫くは受け入れるのに時間がかかった。

 

 

…それは余りにも現実離れした話で、ニコラスは呆然となってしまったのだ。

 

 

「……今までの話を聞いて、アンタはどうしたいと思った?…此処から出る道を探すか?…それとも諦めて此処で過ごすか?ーーー前者なら、止めはしないし、協力もしよう。道のりは厳しいが、希望を抱いて進む事が出来る。……別に後者でも構わん。何人もの放浪者が、後者を選んだ。やっぱり、自分の命は大切にしたいからな。…もし、後者を選ぶのなら、良い場所を知っているからそこに案内しよう。ーーーーーーニコラス君。どちらを選んでも構わない。…君のしたい様にすると良い。」

 

 

「……ん…えっと…じゃあ、そのM.E.Gに加入する事って…出来るんですか?」

 

 

…ジャックは目をパチクリとさせた。

 

 

「…え?…ああ、別に良いけど…いや、良いのか?…仕事多いし、休み無いし、保険とか無いし、労働法とかも無いから、ストライキだって出来やしないけど。考え直したほうがいいんじゃ…?」

 

 

…この時、ニコラスは余り悩まなかった。理由は2つあるーーーーーーまずこの話は、彼にとっては余りにも現実離れした話だったので、この世界で生きていく事に対する実感が余り湧かなかった事が理由の一つめ…もう一つは、ただ単にアリスに惚れてしまったからだ。ーーー彼女がM.E.Gの職員ならば、自分もなってしまおうと…そうすれば彼女と仲良く出来るんじゃね?…と、軽々しくも彼はそう考えたのだ。

 

 

………つまるところ、彼はバックルームをナメていたのである。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーそんな軽々しい気持ちで、M.E.Gに入ったのがきっといけなかったのだろう。

 

 

……その時は自分はM.E.Gに加入する意思を固めていたし、アリスやジャックも考え直す事を勧めど、拒みはしなかったので、成り行きのまま彼はM.E.Gに入る事となった。

 

…体力のいる仕事も多かったが、大学時代はフットサルのサークルに入っていたので、体力には自信があった。……実際、適当な志望動機で加入した割りには、彼はよく働いた。…それは事実だ。

 

…ちなみに、M.E.Gの内部には、幾つかの役割ごとに班が存在している。ーーーーーー最初の1年ぐらいは、色んな班の手伝いなど、色んな事をしてみて、M.E.Gの中で自分が何を得意とするかを見つけていった。

 

……彼としては最終的にアリスと同じ〈バックルーム内部探索班[コンパス・ポイント]〉に入りたかったのだが、結局彼に適性があったのは〈バックルーム内敵対的実体排除班[ワイルド・ウォリアーズ]〉だった。

 

……探索班に居たかったのだが、流石に上からの異動命令には逆えず、彼は実体排除班に、加入することになる。ーーーーーーまぁ、彼はアリスと同じ〈拠点(ベース)アルファ〉を自分の拠点とする事に、なんとか交渉する事が出来たので、良かったのだが。

 

 

…そしてそこで暫く過ごしながら、M.E.Gの仕事をこなしていた時、〈Level8〉に危険なエンティティが多く生息している新しいエリアが見つかったとかで、急遽[ワイルド・ウォリアーズ]に出動要請が出たのだった。

 

 

 

 要請を受けたニコラスは、[ワイルド・ウォリアーズ]の一員として、同じウォリアーズの仲間達と一緒に、〈Level8〉へと赴いた。…………そして今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

〜回想終了〜

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーああ…くそ…。なんであの日のことを今思い出したんだ……。」

 

 

 暗闇の中で、ニコラスはそう呟く。……実のところ、理由は分かっている。ーーーーーーアリスの事が気がかりなのだ。

 

「…あの時よりかは、仲良くなったけどよぉ………まだ告っても無いのに……こんなところで死にたかないよッ…。」

 

 ここで死んでしまえば、もう彼女に会うことはできない…あの声を聞くことも、顔を見ることも、何もかも出来なくなる。それだけは勘弁だった。

 

 

「…やっぱり、死ぬのは嫌だ…死にたく無い…。」

 

 

……死ぬのは嫌だった。でも、そんなこと言ったってなんになる?……既に自分の運命は確定した様なモノなのに。

 

 

 

 

 

……ザリッ。

 

 

 

 

 蹲る彼の側から、足音が聞こえた。……少なくとも、人の立てる音では無い。

 

 

「嗚呼……とうとう来ちまったか…。化け物共め……!」

 

 

 顔を上げたニコラスは、自分の口元が変に歪むのを自覚した。……死の間際に立たされた時、人は笑うモノなのだと、ニコラスは知った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーそうやって歪んだ笑みを浮かべる彼の目の前には、恐るべき怪物……〈ハウンド〉の群れが、ずらりと並んでいる。

 

 

「……俺は死ぬのか…ここで……。…何も残さずに、何も得られずに、一方的に元いた世界から切り離され、理不尽な世界に迷い込み、好きんなった娘に告ることすらできず……死んでいくのか…。フヒヒッ…。」

 

 

…嗚呼、ダメだ。笑いがこみ上げてきてしまう。…きっと俺はおかしくなったのだろう。

 

 

 

…〈ハウンド〉の群れが、一歩…また一歩とこちらに近づいてくる。

 

 

 

 

 

ーーーーーー唸り声と、彼らの体から漂う獣臭い腐臭を嗅いだ時、彼の心の中の奥深くで、萎れて枯れていた生存本能が、再び息を吹き返し始めた。

 

 

 彼の目から、今度は涙が零れ落ちる。ーーーーーー歪んだ笑みはそのままに、彼は泣き出した。死の恐怖が、どうしようもなく胸を締め付けるのだ。

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーあっ…あ、ああ……や、やや、やっぱり死にたくない!…生きていたい!まだ告白とかしてないッ!…もっと彼女と一緒に居たい!!この世界からの出口を探して…一緒に出たいッ!ーーーアイツの弟に…また会わせてやりたい!!………んで、一緒に暮らしたい!!!俺は……俺はーーーーーーーーー…」

 

 

 

…彼は叫んだ。みっともなく泣き叫んだ。…彼は生き延びたかった。例え、それが告白したいからとか…そんな下らなさそうな理由だったとしても、彼はその為に生きたかった。

 

 

 

………そうだ。それは悪い事じゃない。…どんだけみっともない理由でも、下らない理由でも、生きていたい…生き延びたいと言う思い。……生きる理由…それにカッコ悪いもクソもない。

 

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーー俺は生きたいッッッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

そんな彼の願い(叫び)に、騎士(ソレ)は応えたーーーーーー。

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーギャウゥン!!??」

 

 

 

 

 叫んだニコラスの耳に届いたのは、〈ハウンド〉の悲(・)鳴(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

 

 

…そして、ドサリと自分の前に、胴体から真っ二つにされた〈ハウンド〉の死体が転がる。

 

 

 

「………え"…?」

 

 

 

 顔を上げた彼は、涙で濡れる視界の中、自分の前に赤いマントが棚引いているのをハッキリと見た。

 

 

 

 

「ーーーーーーーーー良い叫びだ。…放浪者よ。……その生きたいと言う強い願い…忘れるんじゃないぞ?」

 

 

 

ーーーーーーバサリ、と赤いマントが翻る。…そして、ニコラスは自分の目の前に、銀の鎧に身を包んだ騎士が立っている事に気がついた。

 

 

 

「……あ、貴方は…まさか…ーーーーーまさかッ!!!」

 

 

 ニコラスの目が、驚きで見開かれる。……ニコラスは彼を知っていた…かつて、M.E.Gの調査ファイルをまとめていた時、丁度こんな騎士に関する情報ファイルを見つけたのだった。

 

 

ーーーーーー確か、そのファイルにはこんな名前が付いていたはず……。

 

 

 

 

「ーーーーーーー紅蓮の騎士(Crimson Knight)ッッ!?」

 

 

 

 

ーーーーーー彼の驚きの声に、騎士は小さく頷いた。

 

 

「…ああ、放浪者達の中には、私の事をそう呼ぶ者もいるな。…だが、今は名乗っている場合ではなさそうだ。ーーーーーーーーー離れていたまえ、巻き込まれたくなくば…ね。」

 

 

 

…そう言うなり、騎士は〈ハウンド〉の群れに飛び込んでいった。

 

 

 

「あッ…!!」

 

 

 

 そんな騎士を見て、ニコラスが思わず声を上げる。ーーーーーーしかし、心配は無用だった。

 

 

 

「ギャウンッッ!!??」

 

「…キャイィーーーーンッ!!??」

 

 

 

 悲鳴が重なって聞こえ、〈ハウンド〉の群れがたちまち崩れたかと思うと、群れの内側から何匹もの〈ハウンド〉が吹き飛ばされる様にして

辺りに散らばった。…どれも、体を深々と切り裂かれ、即死している様だ。

 

 

……そして、みるみる内にニコラスの前に、〈ハウンド〉の屍の山が築かれていった。

 

 

 

 屍の山の中心にいるのは、勿論騎士だ。ーーーーーーーーー彼は飛びかかってくる〈ハウンド〉を、微かに赤い光を帯びたクレイモアで、次から次へと斬り伏せていく。

 

 〈ハウンド〉が、束になって狂った様に騎士に襲い掛かっても、ヤツの爪や牙は騎士に擦りもせず、届く前に大剣の餌食となり、血と臓物を撒き散らしながら、地面に横たわっていく。

 

 

……それは正に〈無双〉と呼んでも差し支えなかった。……たった1人で、彼は何十体もの〈ハウンド〉を葬り去ったのである。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーそして、気がつくと〈ハウンド〉は両手で数えられるぐらいまで、数を減らしていた。

 

 

 

…流石に、大量の仲間を屠った相手に少ない数で突っ込んで行くのは気が引けるのか、残りの〈ハウンド〉達は、騎士から距離をとって身の振り方を模索している様だった。

 

 

 

…そんなヤツらに、騎士が強い気迫を込めた言葉を発する。

 

 

 

「………どうした?来ないのか…?ーーーーーー殺る気が失せたのなら、さっさとこの場から失せるが良い。………お前達を私の剣の錆にするのには、十秒もあれば充分だ。」

 

 

ーーーーーーーーーそう言って騎士が一歩近づいた瞬間、〈ハウンド〉達は尻尾を巻いて逃げ去って行った。……後に残ったのは騎士と、ニコラス…そして、山の様に積まれた〈ハウンド〉の屍だけであったーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「…あ、ありがとう…ございました。騎士どの…!ーーーーーー助けて頂いて、本当に感謝しています!!ーーーこの恩はどう返したらいいか……!!」

 

 

 戦闘から数分後…ニコラスは騎士に向かって頭を下げていた。

 

 

 騎士は白いハンカチで、返り血に塗れた自分の鎧から血と肉片を拭き取っていたが、彼の感謝の言葉を聞いて、手を止めると口を開いた。

 

 

「…ああ、気にする事はない。君は私を呼んだ、私は来た…ただそれだけだ。君が恩義を感じる必要は無い…。」

 

 

ーーーーーーーーーそう言った彼は、ハンカチを何処かに仕舞い込むと、ニコラスに近づいた。…拭き取られてもなお、濃い血の匂いがムワッと漂う。

 

 

「……ところで、君はここで1人の様だが…ふむ。(ニコラスが持っている弾詰まりを起こした銃を見やる)ーーーーーー君はM.E.Gの職員かな?」

 

 

頷くニコラス。そんな彼に、騎士は話しかける。

 

「なる程…ならば、君を送り返す場所はちょっと工夫しないとな……何処か、行きたい場所はあるか?」

 

その問いに、ニコラスは頷いて言った。

 

「ええ…Level1の〈アルファ拠点〉まで。……もしかして、貴方が送ってくれるのですか…?」

 

「…ああ、近くまで裂け目(ポータル)を繋げよう。…安心したまえ、君は此処から帰れるのだ。」

 

 

 

ーーーーーーーーー果たして、今まで聞いてきた言葉の中で、これ程までに自分を安心させる言葉が有っただろうか?…ニコラスの顔は喜びに輝いた。

 

 

 もう、死の恐怖は過ぎ去ったのだ…彼の生きたいという願いが呼んだ、騎士の力によってーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

……騎士が空中に開いた不思議なポータルに、ニコラスは入る前に一つ、彼に聞きたいと思っていた事があった事を思い出した。

 

光り輝く裂け目の前で、彼は騎士にその質問をする。

 

「ーーーーーーーーー1つ…聞いても良いですか?」

 

騎士は頷いた。

 

「構わない…だか、少し急いだ方が良い…裂け目はいつまでも開いているわけでは無いからな。」

 

「…はい。すぐ終わります。ーーーーーー貴方が知っているかどうか知りませんが…貴方は、この世界からの出口に関する、何か情報を持っていますか?」

 

…それは賭けのような質問だった。…紅蓮の騎士は、バックルームのあらゆる場所に現れると、騎士についてまとめたファイルには、記されていた……もしもそれが本当なら、彼は自分たちの知らない事…例えば出口が有るレベルなんかも、知っているのではないかーーーーーーーーーと、ニコラスは思ったのだ。

 

 

…しかし、騎士は首を振った。

 

 

「……悪いが、それは私にも分からない…。…だが、求め続ければ、いつかは運命が道を示すだろう。ーーーーーーーーーその時が君に来ることを…祈っておくよ。」

 

…そう騎士は言うと、彼に背を向けた。ーーーーーー話はこれで終わりらしい。

 

 

ーーーーーーーポータルに飛び込む寸前、最後にニコラスはもう一度騎士に向かって頭を下げた。……本当に自分は彼に恩返しをしなくても良いのだろうか?彼はそう思っていた。

 

「ーーーーーーーーーもしも。」

 

 

…だから、最後に彼は騎士に向かってこう言った。

 

 

「ーーーーーーーーーもしも、帰り道が見つかったら、貴方にも教えますね……きっとそれが恩返しにもなる……そうでしょう?」

 

 

 

 裂け目が閉じてゆく……最後にニコラスの顔を小さく見せて、裂け目は完全に閉じた。

 

 

自分1人だけになったところで、騎士はそっと呟く。

 

 

「………その日が来ることを祈ってるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 果たして、それからニコラスは出口を見つけたのだろうか?……それよりも先に、まずアリスに告白出来たのだろうか?

 

 

 

 

ーーーーーーあれから10年程経ってから、騎士は偶々〈Level1〉に通りかかったついでに、拠点(ベース)アルファを訪れてみたが、その時にはアリスとニコラスは、拠点(ベース)アルファには居なかった。

 

 

…違う拠点に移ったのか、それとも出口を見つけてこの世界から解放されたのだろうか、はたまた旅の途中で力尽きてしまったのだろうか……

 

 

しかし、騎士は彼の行方を訪ねる事はしなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー結末はこの世界(バックルーム)のみが、知っているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:
アメリカでは左手で握手を求めた場合、それは挨拶ではなく、喧嘩を売っていることと同義になる。オレソンは右手が塞がっていた為、最初に断って置いてから左手で握手した






後書きに書きたい事結構有るんだけど眠いんでパスで

…ハイ。

追記

眠く無い日に書いてます。

…ニコラスくんキモく無い?…好きな子(絶対片想い)と一緒になる為に水面下で何だかんだしてんすよコイツ。

…あ、あと、描写こそ無いけどM.E.Gは原作に比べてスケールダウンしてます。色んなレベルを調査こそしてるけど、原作ほど沢山人いないし、やってる事も普通です。あんまりデッカい組織が居てもなぁって感じッス。

ジャック・オレソンさんはWikidot版のM.E.Gに実際にいます。…なんか料理が得意らしいですよ?…だからフライ返し待ってるし、料理のレパートリーだの言ってるんですね。ハイ



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