紅蓮の騎士〜Crimson Knight〜   作:犬社長

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紅蓮の騎士〜Crimson Knight〜 記録③〈モルトタウンで起きたとある事件〉

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

………アンタは〈ALPHAOMEGA(アルファオメガ)〉って知ってるか?………知らない?ーーーーーーそうか。…なら良い。ーーーーーーーーーああ、気にするな…こっちの話だ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

XXXX年 X月X日 場所:Back room Level 10〈小麦畑〉

 

 

 

[レベル10内部コミュニティ〈モルトタウン〉在住 放浪者〈アルフレッド・バーナード氏〉の日記]

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー〈モルトタウン〉で、最近妙な噂を聞いた。

 

 

 

…なんでも、街ゆく人に手当たり次第に〈あるふぁおめが〉とか言う場所について知っているか……と聞いて回る放浪者が現れたらしい。

 

 

……長年この世界を彷徨っていたが、そんな場所は聞いたことも無い。……まぁ、自分の知らない場所など、この世界には幾万と有るが。

 

 

ーーーとにかく、その放浪者はその〈あるふぁおめが〉に行きたいらしく、行き先を知っている者がいないか、町中の人に聞いて回ったそうだ。ーーーーーー勿論、誰も知らなかったが。

 

 

……この広大なバックルームの中で、特定の何かを探すのは途方もない労力と時間…そして運が要るだろう。〈あるふぁおめが〉が何なのか知らんが、その放浪者が無事に、目的の場所にたどり着けた事を祈るのみだ。

 

 

 

ーーーアルフレッド・バーナードの日記より抜粋

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

XXXX年 X月X日 場所:Back room Level 10〈小麦畑〉

 

 

 

[〈モルトタウン〉の少年 ユースタス・バーナードの記録]

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーレベル10の、まだ青い小麦畑の中に身を潜める少(・)年(・)が、2人。

 

 

 

…そろりそろりと、その2人の少年達は、息を潜めながら動いている。……彼等2人の目指す先には、大きな石造りの塔が建っていた。

 

 

ーーーーーーーーーまるで、大きな見張り台か何かの様に、その塔は小麦畑を見渡せる位置に作られている。

 

 

 

 

「…ねぇ、やっぱり止めようよ…。」

 

ーーーと、1人の少年が、前を行くもう1人の少年に囁いた。

 

「…何言ってんだよ?…折角此処まで来たんだ。あの塔の中にユースタスは入ってみたく無いのかい?」

 

…もう1人の少年が、そう囁き返した。

 

 

……最初に言葉を発した少年こと、ユースタス・バーナードは、彼等の行手に聳え立つ、石造りの塔を見上げる。

 

 子供目線からは、その塔は天を貫かんばかりに高く聳え立っているように思えた。

 

 

「…そりゃ、気にはなるけど。……でも、お父さんはこの塔には近づいちゃダメだって……。」

 

 

…そんなユースタスの、弱気な発言を笑い飛ばすもう1人の少年。

 

 

「…ハッ!ーーー怖がりだなぁ?ユースタスは!ラ(・)ッ(・)パ(・)が(・)鳴(・)ら(・)な(・)き(・)ゃ(・)大丈夫だって、皆んな知ってるじゃないか?」

 

「……う、うん。でも、もしも…今ラッパが鳴り始めたらどうするのさ。……弓矢で殺されちゃうかもしれないんだよ?ビート君は怖くないの!?」

 

 ユースタスの疑問に、もう1人の少年…改め、ビートが肩を竦めて言葉を返す。

 

「大丈夫さユースタス!俺もユースタスも、〈モルトタウン〉で一番足が速いんだぞ?ーーー逃げちまえば良いんだよ。…丁度、畑の小麦が俺達の姿を隠してくれるしね。矢なんか当たりゃしないよ!」

 

ビートは自分の逃げ足にかなりの自信があるようだった。

 

…一方でユースタスは、そんなに上手く行かないんじゃ…と、不安になって尻込みしていた。

 

 

ーーーーーーーーー今、この少年2人が何をしようとしているのか。…その答えは、2人の目の前に聳え立つ、石造りの巨塔にある。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーこの塔の名前は誰も知らない。…何のための塔なのかも、誰も知らない。……嘗て、最初の放浪者がこの〈レベル10〉の大地を踏んだ時から、この塔は既に建っていた。

 

 

…そして、如何やらこの塔には、所有者が居るらしい。

 

 

…その所(・)有(・)者(・)の正体は不明だ。……しかし、このレベルに住む者達は、〈The Archer〉と呼んでいる。本当の名前は誰も知らない。

 

 

 〈The Archer〉は、ラッパの音と共に塔の中から現れ、広い小麦畑内をしばらくの間行軍し、やがてまた塔の中に帰って行く。

 

 

……この時、〈The Archer〉達に見つかってはいけない。ーーーーーーーーー見つかったが最後、Archer(弓兵)の名が示す通り、大量の矢をその身に撃ち込まれる事になるからだ。

 

 

 故に、〈レベル10〉に住む放浪者達は、この塔に近付こうともしないし、ましてや中に入るなんて以ての外だと思っている。……しかし、行くなと言われれば、行きたくなってしまうのが人の性。…そしてソコで、ちゃんと行きたい気持ちを抑えられるか否かが、子供と大人の差とも言えよう。

 

 

ーーーーーー塔を目指すユースタスとビートはまだ幼い。…彼等は、幼さ故の好奇心を抑える事が出来なかった様だ。

 一体全体、大人達が口を酸っぱくして『行くな行くな』と言う塔の中には、何が有るのだろうか…ーーーそんな事を考えた2人は、勝手に〈モルトタウン〉を抜け出して、この塔までやって来たのである。

 

 

 

 

 

 

……やがて2人は塔の直ぐ真下まで辿り着いた。…見上げると、高い塔がまるで自分達にのしかかって来るかの如き、威圧感を感じる。ユースタスは塔を見上げながら、横のビートに囁いた。

 

 

「ビート君…コレどうやって中に入るつもりなの?」

 

…彼は黙って近くにある扉を指差した。……裏口のような、地味な木のドアだ。

 

「…そこから、こっそり入る。アソコなら見張りとかも居ないでしょ。」

 

 

……ユースタスはいざ入ると言う時になってまた、不安になって来たが、此処まで来てしまったからには、引き返そうと言うわけにも行かなくなった。

 

ーーーーーー彼はビクビクしながら、ビートに続いてその小さな木のドアを開けると、塔の中に入って行ったーーーーーーーーー…。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

……期待した割には、塔の中に特別な物などは何も無かった。

 

 石造りの床と、同じく石造りの壁。…内側が炭か何かで黒く塗られた屋根と、壁にかけられた松明。

 

 そして、幾つかの部屋に内部は分けられていて、古い家具ーーーーーー例えば、椅子や簡易的な寝床、大きなテーブルに暖かな暖炉など……約16世紀頃のアンティーク物が並べられていた。

 

 

 コレらの家具はどれも、今の時代においては中々に価値のある物なのだが、子供にそんな価値が分かる訳もない。

 

 ユースタスとビートは部屋を見渡しながら、ちょっとガッカリしていた。

 

「…ちぇ!俺ん家の中と、そっくりじゃないか?…もっとなんか…お宝とか、そーいうの有るかなって思ってたのに…これじゃ、普通の部屋と変わらないなぁ。」

 

そうビートが呟く。

 

「…そうだね…。ねぇ、ビート君…もう帰らない?中も見れたんだし…さ。」

 

 隣でユースタスはそうビートに話しかけた。ゆらゆらと壁で揺らめく松明の明かりが、彼の不安を煽っていたのだ。しかし、ビートはここで引き下がるつもりは無いようだ。

 

「ーーーもうちょっと、他の部屋も見てみようぜ?…もしかしたら、其処に何か良いもん有るかも知れないし!」

 

…そう言って、歩き始めるビート。(これじゃ、まるで泥棒みたいじゃん…)と思いながら、ユースタスは彼の後について行く。

 

 

 

 

 

ーーーーーーこうして2人は幾つかの部屋を探して見たが、何か目新しい物は見つける事ができなかった。…精々、沢山の弓矢が見つかったぐらいだ。

 

 

「……うーん。結構普通だったな。…それに誰も居ないし、ワクワクして損しちゃったかも。」

 

 

 ビートが腕を組んで、そう言う。ユースタスはこれ幸いと、彼に帰る事を提案した。……不気味だったのだ。人の気配がしないのに、ついさっきまで誰か居たような雰囲気を漂わせる塔の中が…。

 

 

「……じゃ、帰るかぁ。ーーーま、良いや。中が分かっただけでもね。」

 

 

…そうビートが呟いた時だった。

 

 

 

 

パッパパーーーーーーー!!

 

 

 

……2人の耳に、高々と鳴り響くラッパの音が聞こえて来た。

 

 

 

「「ーーーーーーーーーーーー!!!!」」

 

 

 驚き、固まる2人。そして塔の中に突然人の気配が溢れたかと思うと、2人の直ぐ後ろで誰かの声がした。

 

 

「おっと……コレはいけないなぁ。」

 

 

次の瞬間、2人の腕が強く掴まれたーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

同時刻 Back room Level 10〈小麦畑〉

 

 

場所:〈モルトタウン〉

 

 

[アルフレッド・バーナード視点]

 

 

 

 

 

……ユースタスが帰って来ない。

 

 

 

 アルフレッドは、顔を曇らせたまま〈モルトタウン〉の中を歩いていた。

 

 最初は、いつも通りただ外で遊んでいるだけだと思っていた。…しかし、帰ってくるような時間になっても、ユースタスは帰って来なかった。……彼は一体どこに行ってしまったのか。聞いたところだと、友達のビートも一緒に居なくなってしまったらしい。

 

「…いや、まさか町の外に子供達だけで行ったのか?……そんなはずは、無い……とも言い切れないか。」

 

 果たして子供だけで外に出れるのだろうか?この町は 〈B.N.T.G. 〉*1によって守られている。こっそり抜け出すなどと言う事が果たして出来るのだろうか?

 

…そう彼は考えていたが、子供というものは意外な所に抜け道を見つけるものだ。アルフレッドは頭の片隅に、外に行ってしまった可能性を置いておいたまま、ユースタスを探して歩き続ける。

 

 

 やがて、前からビートの母親が走って来ることにアルフレッドは気付いた。

 

…全力疾走して来たのか、息が上がっている。

 

「アルフレッドさん!アルフレッドさん!私、あの子達が言った場所分かったかもしれません!」

 

「!?ーーーーーー本当ですか?2人は一体どこへ?」

 

ビートの母親は、町の外を指差した。

 

「外に出たんですよ!ーーーーーーあのイースターの奥さんが塔のある方向に向かってくビートを見たんですって!!」

 

……〈モルトタウン〉は小さい町だ。…町の中の事件は些細な事でも、忽ち町中に広がる。人々の噂好きには辟易する面もあったが、今回はそれに助けられた様だ。

 

「そうなんですか…いや、見てたんならなんで止めなかったんだイースターの奥さんは…。ま、良い。ーーーーーーそれにしても、塔の方か…。」

 

 アルフレッドは、顔を顰めた。正直、困惑している……何度も行くなと言っている塔に行くだなんて!

 

「私、既に〈B.N.T.G. 〉の皆さんに捜索を依頼して来ましたわ。……ああ、もうビートったらなんで塔なんか行っちゃうのよ!」

 

 ビートの母親も、憤慨していた。しかし、今の自分達に出来ることはない。〈B.N.T.G. 〉が子供達を見つけてくれる事を願うのみだ。

 

 

 

ーーーーーービートの母親に別れを告げ、アルフレッドは帰路につく。取り敢えず、同じ様に町を探し回っている妻にこの事を説明して、あとは神に子供達の無事を頼むしかない………と思っていた時、彼は向かい側から、誰かが歩いて来ることに気付いた。

 

 

「……なんだアレ。…騎士?」

 

 

 

………それは騎士だった。

 

 

 

 ボロボロの赤いマントを羽織り、銀色の鎧を身に纏って居て、背中には大きなクレイモアを背負っている。

 

……一体何者なんだ…と、彼が呆気に取られていると、騎士がこちらを見た気がした。

 

 

「………!」

 

 

 兜のバイザーの奥の闇からコチラに向けられた視線の強さに、思わず足を止めるアルフレッド。すると、目の前の騎士が彼に話しかけて来た。

 

 

「……ああ、丁度良かった。一つ尋ねたい事が有るんだが…良いか?」

 

「へ…?あ、いや…大丈夫ですが。」

 

 突然話しかけられて、目を瞬かせるアルフレッド。騎士は頷いて、口を開いた。

 

「ーーーなら聞くが、最近ここに〈ALPHAOMEGA(アルファオメガ)〉と言う場所への行き方を尋ねて周って居た放浪者が居たと思うのだが、何か知っているか?」

 

…心当たりは有った。まだ最近の話だからだ。

 

「…ああ、はい。そんな人が居たと言う事を噂で聞きましたが…。」

 

「ふむ。ーーーそうか。」

 

 それを聞いた騎士は、何やら考え込んでいる様だった。ちょっと気にはなるが、今は正直この騎士の話に付き合っている場合では無い。…幸いにも、話はそれで終わった様なので、アルフレッドは一言断ってから、その場を去る事にした。

 

「あの、少し急いでるのでコレで失礼します。」

 

 そう言って、騎士の横を通り抜けようとした時、騎士がまた話しかけて来た。

 

 

「…顔色が優れない様だが……何か困り事でも有るのか?もし有るなら聞くぞ?…こう見えて、人助けは得意なんだ。」

 

「……!!」

 

 通り過ぎかけていた足を止めるアルフレッド。そして騎士の顔を振り返って見るーーーーーー兜のバイザーの奥から視線を感じる。その視線は柔らかく、彼は思わずユースタスの事を話し始めていた……。

 

 

ーーーーーー話の間、騎士は何も言わずただ黙って聞いて居たが、話が終わると徐ろに口を開いた。

 

 

 

 

「…なるほどな。ーーーーーー子供は好奇心に優れているモノだ。……ただ、このバックルームでは大体の好奇心は身を滅ぼすが……ね。」

 

「…わ、私達は只々心配で。塔の〈The Archer〉達に見つかったらどうなるか……!」

 

…そう嘆くアルフレッドを安心させる様に騎士が口を開いた。

 

「ーーー塔の管理人達はああ見えて話の分かる方だ。……私に任せてくれないか?必ず貴方の子供と、もう1人の子供を連れ帰ってこよう。」

 

 

…それは願ってもないことだった。この騎士の素性は知らないが、アルフレッドは彼になら任せられるかも知れないと、その時思ったのだ。

 

「お、お願い出来ますか?……あの子達を無事連れ帰ってくれると…いま出会ったばかりの…貴方を信じても良いんですか?」

 

 

ーーーーーー騎士は強く頷いた。

 

 

「ーーーーーーーーーーーー放浪者は助け合いだ。…任せてくれ。」

 

 

…そう言うと、騎士は町の外へと歩いて行ったーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

[紅蓮の騎士(Crimson Knight)視点]

 

 

 

…パッパパーーーーーーー。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー遠くからラッパの音が聞こえて来た。……彼等が目覚めの時を迎えたのだ。

 

 

 町の外れにあると言う塔を目指して居た騎士は、聞こえて来たラッパの音に、顔を上げた。……そして、彼の卓越した気配を読み取る力が、遠くの方で何やら騒ぎが起きている気配を感じ取った。

 

 

「……む?ーーーーーーコレは、急いだ方が良いかもな?」

 

 

…彼はそう呟くと、足を早めた。

 

 

 

 

 

 やがて、騎士の行手に大きな塔が見えてきた。…その麓で何やら慌ただしく動いている人影達も。

 

…如何やら、塔の連中と揉めているらしい。ーーーー空を矢が飛び交う光景を騎士は目にした。

 

 

「……アレは… B.N.T.Gか。不用意に近付いてはいけないと知っている筈だが…子供の捜索を頼まれたのだな。」

 

 

…そして、ラッパが鳴ったのにも関わらず塔に近付いてしまったと言う訳だ。ーーーーーー騎士は一瞬で状況を理解すると、B.N.T.Gを助けるべく彼等のもとへ駆けつける。

 

 

「ーーーーーーーーーーーーほっ!」

 

 

 そして、B.N.T.Gに向けて飛来する矢を剣で叩き落とし、矢を射掛けるArcher達と、B.N.T.Gの間に割って入った。

 

 

「ーーーーーーーーー!?」

「げぇーっ!?紅蓮の騎士ぃぃ!!??」

「マジか!?ーーーーーーえ、本物!?」

 

 B.N.T.Gのメンバーが驚く声が背後から聞こえる。Archer達も同様に、狼狽えた様に構えていた弓を下ろした。

 

 

…さっきまで、ちょっとした戦場の様になっていた小麦畑に静寂が戻る。

 

 

 一瞬にして、今この場を支配しているのは騎士となった。彼はArcher達に向かって口を開く。

 

 

「ーーー話があって来た。子供が2人…そっちの塔に入り込んだ様だな?……思う所はあるだろうが、解放してもらいたい。」

 

 

 Archer達が騒めく。そしてその中の1人が、騎士に話しかけた。

 

 

「…子供が貴方を呼んだのか?」

 

「いや、私は誰に呼ばれわけでもない。囚われた子供の父親から話を聞いただけだ。とは言え、私の事は知っているだろう?…こんな時、私が如何するかも。」

…暫くの静寂。

 

 

 やがて、Archer達の中から少しガタイの良いArcherが1人、進み出て来た。

 

ーーーーーー彼が口を開く。

 

 

「ーーー分かった。…貴方と戦うつもりは無い。この地において、最も意味の無い行為だからな。あの小さな放浪者2人は解放しよう。」

 

 

それを聞いて、安堵した様に息を吐く騎士。

 

 

「但しだ。……彼等は勝手に私達の領域に入った。何かケジメを付けてもらわねば。ーーー我々の面子の為にも…な。」

 

騎士は首を傾げる。

 

 

「…少年達はまだ幼い。…ケジメを付けるとしても、彼等に出来る事は無いだろう。」

 

 

Archerは首を振った。

 

「付けてもらわねばならぬ。ここは本来立ち入ってはならぬ場所だ。…勝手に忍び込む事は許せん。彼等に払える代償が無いのなら、代わりに腕の一本二本置いて行って貰わねば。」

 

それを聞いたB.N.T.G達がどよめき出した。

 

「こ、子供にそんな…!」

「…そんな事させられる訳ないだろ!?」

 

騎士は手を上げてB.N.T.G達を制する。

 

「子供にその様な代償を背負わせる訳にはいかない。」

 

…しかしArcherは譲らない。

 

「…罪に対して罰は必要なのだ。貴方ならわかる筈。」

 

ーーーーーーそれを聞いた騎士はヘルメ越しにアゴを軽くさすって、何やら考えていた。…後ろで、B.N.T.G達が固唾を飲んで見守る。

 

「……良し。ならばこうしよう。」

 

徐ろにそう呟いた騎士は、背中から剣を引き抜く。そしてそれを構えた。

 

まさか戦うつもりじゃ…と、誰もが考えた時だった。

 

 

「ーーーーーーーーーーふっ!!」

 

 

なんと、騎(・)士(・)が(・)自(・)分(・)で(・)自(・)分(・)の(・)腕(・)を(・)斬(・)り(・)落(・)と(・)し(・)た(・)の(・)だ(・)。

 

 

『ーーーーーーはぁぁぁッ!!??』

 

 

 驚くB.N.T.G達。Archer達もまた、騎士のいきなりの奇行に驚いた様だ。

 

 

「な…何を…!」

 

 

 騎士が地に落ちた片腕を、傷口から流れる血を気にする事なく拾い上げる。そして、呆然とするArcher達に近づいて行った。

 

 

「ーーーーーーーーーコレで良いか?少年の腕の代わりだ。…もう一本欲しいなら、悪いが切り落とすのを手伝ってくれ。片腕じゃ、剣が振れなくてね。…コレで彼等が受けるはずの罰の代わりとしてもらいたい。」

 

 

……片腕を切り落としたと言うのに、痛々しさを感じる事のない落ち着いた声だった。

 

 

(…いや、最早コレは狂ってるだろッッ!?)

 

 

 その場に居た誰もが騎士に心の中で突っ込んだ。腕を差し出されたArcherも、反応に困ってしまっている。

 

 

「……何というか…流石だな。腕一本ぐらい如何という事はない…という事か。……コレも〈虚空の秘宝〉…クリムゾンハートが成せる技か。」

 

 

騎士はちょっと驚いた様に肩を上げた。

 

「なんだ。…そんな事知ってるのか。思ったより博識ではないか。」

 

Archerが苦笑した。

 

「只の噂だ。だが、如何やら真実の様だな。…ああ、安心して欲しい。我々は〈ALPHAOMEGA(アルファオメガ)〉など、求めなどしないよ。」

 

…そう言って、Archerは彼の腕を受け取った。そして口を開く。

 

「…さて、ここまでされては、此方もそれ相応の態度を示さねばなるまい。……子供はこの腕に免じて手を触れずに解放しよう。」

 

騎士はヘルメの下で微笑んだ。

 

「ああ、助かる。因みにその腕には少しサービスしてある。……精々無駄にしない事だな。」

 

 Archerは彼の片腕を見た。…微かに赤い光が宿る腕を…。

 

「………ルーンの力か。……わかった。極力無駄にはしないでおこう。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーそして、彼等の前で塔の扉は開かれ、囚われていたユースタスとビートは解放された……勿論、無傷で。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーー本当にッ!!ありがとうございましたッ!!」

 

 

 

 〈モルトタウン〉で、ユースタスを抱き締めたまま、彼の父親であるアルフレッドが騎士に頭を下げる。

 

ユースタスも彼に向かって頭を下げた。

 

 

「…気にするな。無事なら何よりだ。」

 

 

 そう答える騎士。しかし、アルフレッドは尚も頭を下げ続ける。

 

「とは言われましても!見ず知らずのこの子の為に貴方は、ご自分の片腕をッ!!……何と言えばよろしいか!!」

 

 騎士は無くなった片腕を見て、なんて事はない様に肩を竦めた。

 

「ああ。…腕なら心配いらない。…どうせ、また生えてくる。治す目処も立っているしな。」

 

「……へ?…あ、はぁ…?」

 

…と言われても、アルフレッド的には反応に困る所である。

 

「…とにかく、コレでこの件は落着だ。ーーーーーー私は行く。…追いかけねばならん放浪者が居るのでな。」

 

ーーーそれは多分、〈ALPHAOMEGA(アルファオメガ)〉を探している放浪者の事なのだろう。アルフレッドは彼が最初に聞いて来た事と、その奇妙な放浪者の噂を思い出して、去りゆく騎士に声をかけた。

 

 

 

「あの!ーーーーーー〈ALPHAOMEGA(アルファオメガ)〉って何なんですか?……貴方も探しているんですか?噂の放浪者の様に。」

 

 

………騎士は暫く何も言わなかったが、唐突に彼に質問して来た。

 

 

「ーーーーーーーーーーーー元の世界に帰りたいか?」

 

 アルフレッドは目を瞬かせる。…もう随分と諦め掛けては居るが、戻りたいか否かと聞かれれば、それはーーーーーー

 

 

「ーーーーーーーー勿論です。……それが出来るのなら。」

 

 

騎士は満足した様に頷いた。

 

 

「………それで良い。元の世界に戻りたいという願いを捨てていないのなら、〈ALPHAOMEGA(アルファオメガ)〉の事は考える必要は無い。ーーー忘れる事だな。」

 

 

 それで話は終わりだった。騎士は彼等に背を向けると、彼と町の人々が見守る中、立ち去って行った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「…さて。」

 

 

〈モルトタウン〉の外れで、騎士は空を見上げて呟く。周りには小麦畑が広がるのみで、彼の呟きを聞くものは誰も居ない。

 

 

「……ここには居なかった訳だが、果たしてどこに行ったのか…。」

 

ーーーーーーそう言いながら空を見上げる騎士の表情は険しかった。

 

 

 

「…どんな理由があれ、〈ALPHAOMEGA(アルファオメガ)〉を目指す者は放ってはおけん。………誰も…誰も座ってはならないのだ…。ーーーーーーーーーあの玉座には。」

 

 

 

 

 

 

…その言葉の意味を知る者は、数少ない。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

*1:
Backrooms Nonaligned Trade Groupの略






うーーーん…いざ書き出してみて思ったが…なんか思ってたのと違うなぁ…。


もしかしたら、短編にジャンルを変えて早々に切り上げるかもネ。

…許して、ユルシテ…。

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