罪人を粛清する血の儀式に祝福され、選ばれし者は流血の道を歩み、〈ALPHAOMEGA〉と導く鼓動の響きを持つクリムゾンハートに到達するのだ。
◇◆◇
ーーーーーーーーー二つの剣が、ぶつかり合って火花を散らす。
お互いの激突で圧縮された空気が、爆発的に周囲に波動となって振り撒かれた。
ーーーーーーーーーレベル11の中心で起きた
◇◆◇
ーーー以下、〈M.E.Gによる事件調査レポート音声記録〉より一部を抜粋
当時現場に居合わせた放浪者の一人は、M.E.Gの取材に応じてこう語った。
『ーーーーーーーーーああ、あの時ですか?…いやぁ…驚きですよ。なんか言い争ってるな〜って思ったらいきなりズドンだもん。』
『…そもそもレベル11で争いなんて、滅多に起こらないじゃないですか。だからみんな呆気にとられちゃってね。しかもお互い強いのなんの。』
ーーーーーーーーー戦いはどちらが優勢でしたか?
『ーーーーーーーーーいや…どっちだろ。…なにしろ、目にも止まらないスピードで斬り合いながら行ってしまいましたからね…。』
『ただ騎士も、男も強かったのは確かです。お互い譲らず切り結んでました。…私が見たのはそこまでで、直ぐ戦いの河岸変えちゃいましたからね。…多分違う場所で他の人が続きを目撃してるんじゃないですか?』
◇◆◇別の場所で戦いを目撃した放浪者はーーーーーー◇◆◇
『いやぁ〜ビックリしてもうたで。…マジで。ウチはメシ食っとったねん。…そしたら、家の壁吹き飛んでな。ーーーーーーーーーなんやなんやって思ったら、戦いが起きとったんさ。…ウチの
ーーーーーーーーー戦いの様子はどんな物でしたか?
『そんなんウチにわかる訳ないやん。…余りにも速すぎて目で追えへん。神々の戦いやでアレは。ーーーーーーーーー1つだけハッキリしとる事は、ウチの昼飯は消えたって事だけや。』
『…とにかく、ウチに分かる事はコレだけや。2人共、なんかエライ勢いで殺り合いながら街の奥の方へ行ってしもたし、また別のヒトが続きを見とったんちゃう?知らんけど。』
ーーーーーーーーーまた別の場所で戦いを目撃した放浪者はこう語る。
『…驚きました。私、友達ーーーフェイスリングの友達なんですけどーーー友達と一緒にこの道を歩いていたんですよ。そしたら後ろから凄い勢いで人が飛んで来て…ビルを壊しながら、私達のすぐ前で止まって…ソコでなんか騎士みたいな人と、普通の人っぽいヒトが戦っていたんです。』
ーーーーーーーーーどんな戦いが繰り広げられていたか、分かりますか?
『……あ、はい…。騎士みたいな人がすんごくおっきい剣を振り上げて、ブンブン振り下ろしてました。その剣が地面に当たるたびに、地割れみたいなヒビが地面に入って……。本当に人のなせるワザじゃ無いですよアレは。』
『ーーーーーーー私達は側の植え込みの中に隠れて、戦いを見てました。それで騎士も凄かったんですが、相手のヒトも凄かったんです。……どう見たって、ただの痩せた放浪者なのに真正面から剣を受け止めているんですから。』
ーーーーーーーーー戦いの結末については何か知っていますか?
『あーー…えっと、私達は余りにも戦いの余波が凄かったので、危険を感じてその場から離れたんですよね。後で戻ってみた時にはもう誰も居ませんでしたし。……だから戦いがどうなったかまでは知りません。』
『ーーーーーーーただ凄まじい戦いが繰り広げられていた事は、間違いないと思います。私達が去ってからも、戦いの音はずっと続いていたので。』
ーーーーーーーーー我々M.E.Gは、他にも戦いを目撃した放浪者達に当時の状況を聞いてみたが、戦いの結末を知る放浪者には出会う事はできなかった。
一部の人の証言によれば、戦闘を繰り広げていたのは、あのバックルームの伝説的存在〈
◇◆◇レベル11の戦い◇◆◇
〈
………鼓動が滾っている。
剣がぶつかるたびに火花が散り、辺りの物が撒き散らされた衝撃波で吹き飛んでゆく。
「ーーーーーーーーーアンタにッッ!!」
目の前で男が叫びながら剣を振るう。
振るわれた剣から波動が迸って、騎士のマントをはためかせる。
「ーーーーーーーーーアンタには分からないだろう!!…俺がどんな思いでこのバックルームを彷徨っていたか!!」
騎士は剣を斜めに構えて、男が放った波動を受け流した。
「最初この世界に来た時は、俺だって出口がどっかにあるって希望を抱いていたさ!!」
男は剣を上段に構えて距離を詰めてくる。
両者の剣が激突し、この世のあらゆる金属を纏めて打ち鳴らした様な凄まじい音が響き渡る。
「いい仲間にも出会った!!……出口についての情報も手に入れた!!」
「………!!!」
鍔迫り合いの最中に、騎士の動きが一瞬鈍った隙をついて、男が騎士の鎧の胸の部分に剣を叩きつける。
銀の鎧が砕け、欠片と一緒に騎士がビルの壁を壊しながら吹っ飛んで行く。
土煙舞う中、男は騎士が吹っ飛んで行った方向に駆けていった。…アレぐらいで、〈クリムゾンハート〉の持ち主が死ぬはずが無い。
ーーー実際に、騎士は瓦礫の中で立っていた。……胸に開いた切り傷から、血が流れて彼の体を赤に染めていく。……どう見たって致命傷だ。しかし騎士が斃れることはなかった。
「………キミは、出口を見出したのか?」
騎士の問いに、男は吐き捨てるように呟いた。
「…………
「…!!」
男は剣を握り直して騎士と向き合う。
「…そうさ。仲間の犠牲と苦労の末に見つけた出口は、まるっきりデタラメだった。…そしてソコで俺達は〈レベル!〉へ送り込まれたんだ……。」
「ーーーーーーーーー!?」
騎士は兜の中で目を見開いた。
「……辿り着いた果てで絶望に叩き落とされて、どんな思いを俺が抱いたか!!……最後まで残っていた仲間も〈レベル!〉で失い、俺は1人になった……!」
ーーーそして男は自分の胸…心臓のある位置に手をやる。
「…俺はただ1人生き残った。…ソコで〈クリムゾンハート〉を手に入れたんだ。」
〈クリムゾンハート〉ーーーーーー己に絶大な力を与えるモノを手に入れたのにも関わらず、彼の表情は暗い。
「こんなモノ手に入れたくなどなかった。……その所為で、俺には死という逃げ道すら無くなってしまった!!」
男は瓦礫の中心で叫んだ。…天と地を呪わんばかりに叫んだ。
「その時解ったんだ!!!!ーーーーーーーーーこの世界に出口は無いとッッ!!俺達は永劫の中に囚われたのだと!!希望など、この世界では抱くことは出来ないと!!巫山戯るなッッ!!!!」
その叫びを聞きながら、騎士が彼に問う。
「ーーーーーーーその時に…ALPHAOMEGAへの道を見つけたのか?」
「ああ。………そうだな。」
ーーー男はひび割れた声で呟いた。
「……そして、ALPHAOMEGAに救いを求めていると。」
「……あぁ、そうさ。ーーーーーーーーーアンタに聞くが、救いを求める事は悪い事か?ん?」
男が狂気を孕んだ声で騎士に問う。
剣を構えたまま、騎士は首を振る。
「ーーーーーーーーー悪いことでは無い。…だが、キミは間違った希望を抱いてしまっている。」
「……………。」
黙る男に、騎士は続ける。
「…キミのする事は、君自身の本当の救済ーーーすなわち、バックルームからの脱出から、遠ざかってしまう行いだ。……この世界に屈するのか?…全てを諦めてしまうのか?……キミがこの世界に囚われる事…それを、キミのかつての仲間達は望んでいるのか?」
ーーーーーーーーー騎士は何とかして、男にALPHAOMEGAを目指す事を辞めさせたかった。……彼の過去を知ったからこそ、余計に正しい道へ彼を導いてあげたかった。
…しかし、男は騎士の問いかけに応じる事なく、剣を構え直した。そして、堰を切ったように叫ぶ。
「…もう、死んだんだよ!!ーーーーーーーーー俺の仲間達は!!死んじまったらもう……望む望まない関係ないだろ!?ーーーーーー俺はアイツら…皆んなとバックルームから脱出したかったんだ!!でもソレはもう出来ない!!…皆んな居なくなっちまったんだから!!ーーーーーー残された俺1人にできる事は何だ!?何も無いだろう!?……だから、もう良いんだ…!アンタはこの道が破滅であって救いでは無いと言うが、俺にとっては破滅もまた救いの一つなんだ。……だから道を開けろーーー
その叫びこそが、男の全てだった。…彼は仲間達が誰一人として欠ける事なく、このバックルームから脱出したかった。……しかし、それは成せなかった。ーーーーーーー彼は少し完璧を求め過ぎたのだ。
そして、彼の心は自分一人だけの世界を拒絶した。…今の彼には、破滅ですらも救いとなる。騎士はそれを理解した。
「ーーーーーーーーー道は開けれない。…だか、キミの思いは今感じたよ。……キミは破滅すらも望んでいるのだな。」
騎士は覚悟を決めた。……彼は止まらないだろう。…強い意志は人を良くも悪くも一途に走らせる。ならば、自分のする事ーーー即ち、彷徨える人々にとっての一時の救いとなる
「ーーーーーーーーー私が、キミの
騎士は、自分に突っ込んでくる男を見据え、そう呟いた。
ーーーーーーーーーそして、騎士の体に変化が起きる………
「ーーーーーーーーーあ!?」
男の前で、騎士の全身を赤い光が包み込んだ。…彼の砕けた鎧が瞬く間に再生し、また騎士の体を覆う。
…そこで終わりでは無い。銀の鎧は再生と同時に形を変え、より鋭利な形状に変化して行く。そして、はためく赤いボロボロのマントが、あたかも翼の様に騎士の背中に翻った。……噴き上がる赤い光に照らされて浮かび上がる騎士の姿は、最早禍々しい悪魔のようでもあった……。
「な…なんだよ……ソレ。」
男の問いに、騎士が答える。…その声もまた、闇の奥底から湧き出でてきたかのような、冷たいモノとなっていた。
「
騎士が手を振った。
ーーーーーーーーーたったそれだけで、空気が震え、瓦礫が紙切れのように空を舞う。そしてその振り撒かれた破壊の力…その全てが波動となって男に襲いかかった。
「ーーーーーーーーーゴフッ!!??」
…防ぐ暇もなく、吹き飛ばされる。
男は空中で体を捻り、着地して体制を立て直そうとするが、立て直す前に騎士が赤い光と共に突撃してきた。
互いの剣がぶつかる。ーーーーーーーー しかし、今度は鍔迫り合いにはならなかった。
「ーーーーーーーーーふっ!!」
「…なっ!?」
迫り来る大剣を受け止めた瞬間、あまりの衝撃に耐えきれず後方に勢いよく弾き飛ばされる。
(…今までとは、全く違う!!ーーーーーーーーー力に差があり過ぎる!!)
地面を転がりながら、男は戦慄する。
…そして同時に微かに笑った。
「ーーーーーーーーーあぁ、そうか…アンタが俺にとっての
男は剣を構え、眩しいほどの赤へとその身を躍らせたーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◇◆◇
ーーー次回を最終話とする!!
(´∀`*)ツギカラハチャントカンガエテカラカキマス……