白夜の中の渡り鳥   作:凍り灯

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忘れ去られた渡り鳥

 

 

 

ずっと白夜(はくや)の中にいた。

暗闇ではない、(まぶ)しい陽の光の下、それに目を(くら)ませながら死ねると思っていた。

 

だと言うのに、いや、だからこそあの暗闇の恐ろしさを忘れていた。

陽が陰った後に全てを包み込む、何より恐ろしいそれを忘れていたなんて。

 

結局は、()()だった。

 

 

 

 

 

キリリリリリリリリリリリ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲一つない快晴。

陽の光を防ぐものはなく、暖かな風も鬱陶(うっとう)しい雲を押す必要もないからかいつもより強い。

"偉大なる航路(グランドライン)"にしては実に読みやすい真っ直ぐな風は、遠くの「クー!」と言う鳴き声を耳に届けてくれた。追い風を気にもせず悠々と進路を変え、大きなライトグレーの翼を羽ばたかせて声の元へと舵を切る。依然として風向きは素直で、パイロットゴーグルの遮光レンズ越しに見える景色もやはり長閑(のどか)なものだ。

 

上も下も青一色、やがてその青の中に現れる白い点。

水平帽に赤いカバン、この天気に気分を良くしたのか鳴き声を実に楽しげに奏でているカモメ、"ニュースクー"が見えてきた。

毎度のことながら小さな翼でよくもまぁこの海を渡れるものだと感心するばかりだ。

 

「おーい!こっちだ!」

 

クー!と元気な返事を受けながら、ニュースクーが進路を変える。

こちらの姿にややギョッとしたようだが、彼らは客を選ばない。海賊であろうと臆せずに新聞を売り付けられる肝は相変わらずで、直ぐに態度をいつも通りに戻し、同じ高度を飛ぶ俺と並走した。

 

俺は(くちばし)(くわ)えた硬貨を飛びながら赤い集金カバンに入れ、代わりに彼らの抱える新聞の束から一人分抜き取った。

 

「どーも」

「クー!」

 

新聞を咥えたまま礼を伝え、配達人と別れた俺は元の進路へと戻り、やがて見えてきたやたら背の高いタケノコみたいな岩場の頂点へと降り立つ。

 

「おっとごめんよ」

 

先客にいた海鳥達が自身の何倍もある体躯を持った俺に慌てて飛び立つのを横目に、獣型から人型へと体を変化させ、幅が小さな椅子ぐらいしかない頂点へと腰掛ける。ゴーグルを上げ、新聞を広げた俺は鳥達が騒ぐ声が聞こえなくなった頃には、面白い見出しを見つけていた。

 

「おーやってるな」

 

『黒髭海賊団!セイシェルン海賊団を壊滅させる!依然、阻む者なし!』

 

休む間も無く進み続ける話を聞けば、多少は面白くもなる。

もはやこちらは野次馬だが、こう言う隠居生活も悪くはない。被害が俺に及ばないことを前提の話ではあるのだが。

口の端が少し吊り上っている自覚はあった。懐かしい感覚を覚えるにはまだ早過ぎるだろうに、なんせ数年しか経ってないというのにすっかりこの調子だ。

 

新聞を丁寧に折りたたみ、焦げ茶色のドクターバッグを開いて仕舞い込む。そのカバンに革紐で括り付けられた古ぼけた剣が間違っても海へと落ちないようにしっかり結び直し、グリーンアッシュの髪の毛を撫で上げて再びゴーグルを顔に掛けた。

 

「邪魔したな」

 

大きなライドグレーの翼を羽ばたかせたからか、海鳥たちがまた驚き鳴き声をあげる。ナイフのような形状の柔らかな翼は容易に体を浮かせ、赤い細い嘴が水平線の向こうを指差した。

相変わらずの快晴。それもそのはずで、ここは"凪の海域(カームベルト)"がとても近い。ニュースクーはそこを渡れないのだから、近場で出会えたのはかなりラッキーな方だ。

しばらくは海域に入り込まないように沿って進み、北に進路をとる予定。

 

第六感にも近い渡り鳥特有の優れた磁場の知覚能力を活かし、地図を頭に思い浮かべながら軽い確認を行う。

順調に行けば、凪の海域(カームベルト)()()のも3日もあれば済むか――――――

 

 

『――――――!!!』

 

「………………んぁ…?」

 

振り向いた視界の先、遠くに見える、こことは違う荒れる海のさらに向こう。

確かに"声"が聞こえた…しかし少し、奇妙な…?

 

 

強い"声"、だ。

 

 

とても、それがどんな感情かまでは正確にはわからないが、明らかに。

…分からないなりに、分かることも僅かだがある。

 

()()()俺は晴れ渡った空の下から逃れ、荒れ狂う偉大なる航路(グランドライン)の真ん中へと惹き寄せられていった。

翼はさらに鋭さを増し、風を切り裂き雨粒を割る。

 

 

――――――やがて見えてきたのは、吹雪と炎の荒れ狂う島だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近くに来たことで分かったが、そこまで多くないとはいえ、"声"が島内から聞こえる。この明らかに人が住めそうもない島からだ。

 

上空から見ればよく分かる。真ん中に湖を置いたドーナツ状の島は、中央から真っ二つに天候が分かれている。…いや、天候と呼ぶには生優しい。止むことのない猛吹雪、延々と立ち上がる炎!偉大なる航路(グランドライン)であるのだから偶にこういったとんでもない島があったりするものだが、これもそういった部類だろう。

 

…そして人の住めなさそうな島ほど得てして住民がいるのがこの海の面白い所だ。

島の端、海岸沿いにほとんどの人間が集まっているのが上空からの目視と"見聞色"から確認できる。

大型のタンカー…楽しげな声…まさにどんちゃん騒ぎの真っ只中といった具合だ。

 

「こんな場所で何やってんだ…?」

 

かなりの上空からだからよくは見えないが、楽しそうに騒いでいるのだけは理解できる。やってる経緯はわからんが、これならば息を殺していれば気づかれることもあるまい。

いや、そんなことよりも…

 

「さっきの"声"が聞こえなくなった…」

 

島に着く前には途絶えた"声"。

奇妙なことに()()()()()()()()()()が聞こえていた。俺の目当てはそれだ、それ以外はいい。

…もう死んでしまったのだろうか…?

 

一つは島内。

一つは海岸。

 

海岸にあったであろう"声"は騒いでいるやつらとは距離があるが、バレる危険のある距離だ…正直面倒ごとは避けたい。

 

「どうする…?」

 

何をやっているんだ俺は。

長年上手く札付き(賞金首)にならないようにやってきた。深入りする必要はないだろう?

――――――だが同時に、同じ年月だけ人の傷を()い合わせてきた。

 

「………」

 

海岸に降り立ち、ショルダー式のドクターバッグをチラリと流し見て走り出す。顔がバレないように念の為、人獣形態でゴーグルもそのままに。

如何せん染み付いた"経験"は"面倒"なんて感覚を蹴り飛ばしてしまうものだ。

…途絶えたように思えた声は、近くに来ればほんの少しだけその存在を感じ取ることができる。虫の息と言うべきか、間に合うかもしれないことに安堵しつつも、一つ目の"声"は海と陸の境目、冷たい波に(さら)われそうな場所に転がっていたのを見つけることになる。

 

 

()()()

 

 

鋭利なものに刺された、剥き出しの心臓。どう見たって、それは声の主の"死"を意味するものだと思うはずだ。

 

 

――――――違う!動いている、これが"声"の主ということか!どういうことだ?

 

 

心臓は神経を切断、それか体外に取り出してもしばらくの間は自発的に拍動し続けることがある。

当然、長時間勝手に動き続けることはない。だが、俺が遠方から知覚した"声"は今と同じ"二つ"。それは長時間心臓がここにあったことを意味していた。

 

「能力者か…?」

 

心臓だけが独立している。これを成立させているのが悪魔の実の能力だとしても危機的状況なのは変わらない。

心臓への刺し傷があるからだ。浅くはない…幸いなことにこの極寒の海水に浸かっていたせいで出血は抑えられ、麻痺していた。致命傷なのは変わらないし、ほっとけば、死ぬだろう。

 

急ぎ心臓を布で包み込み鞄に入れ飛び立つ。

 

「これ、どうにかなるのか?」

 

じゃぁ、やってみればいい。

自分で自分に、雑にそう答えた。もう一つの声の主の位置はこの巨大な施設の中、明らかに有毒にしか見えないガスの蔓延(まんえん)する中だったりと正直、ヤケクソ気味だったのかもしれない。

 

『お前、そこまで人の命に執着するような人間じゃねぇだろう!』

『助かりたいと思ってる奴は助ける。お前についていった時と、別に変わってはないだろう?』

『――――――!!違いねぇ!!随分迷惑かけたもんだ!』

『…分かってるならその突っ込む癖直せお前』

 

いつかのやり取りが頭をよぎる。別に()()は今関係ないだろうに。

過去を振り切り、上空を旋回。どこもかしこもガスだらけだ、風である程度流れてはいるが、それでもとてもそのままでは入れない。ガスマスクが必要だ。

だが()()()()()。海岸で騒いでいる連中が置いていったと思われる防護服が転がっていた。使わせてもらおう。

 

「流石に飛べなくなるな」

 

尚更急がなくては。人獣形態にもなれない以上、走るしかない。ああまったく、知ってしまったのだから仕方ない。

 

 

『"声"の主は生きることを渇望(かつぼう)した』

 

 

これが、俺に分かることの全てだったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇお姉ちゃん』

『大丈夫よ…!大丈夫、大、丈夫…』

『お姉ちゃん…!』

『きっと、きっと誰かが………』

 

来るはずなんてない。

けれども、つまりそれは妹が助からないということ。

 

瓦礫に押しつぶされかけながら、諦めの感情に支配され、ただ抱きしめあって震えるだけしか出来なかったあの時。

 

 

 

キリリリリリリリリリリリ…

 

 

 

『子供の鳴き声?』

『この瓦礫の下だ』

『生き残りがいたとは、な』

 

現れるはずのない白夜が私たちの目の前に現れた。

眩しくて目が眩むような、暗闇を忘れてしまうほどの――――――

 

 

 

キリリ、リリ………

 

 

 

 

 










小説の続きを書かねば…
→ONEPIECE熱が再熱する。
→ONEPIECE小説を考え始める。
→さらにその中で別のONEPIECE小説を思いつく。(!?)
→短めにまとめてとりあえず新しいのから書き切ってしまおう。now



と言うわけで新しいのを書きます。
何をとは言わないが、なんとなく投稿日は便乗した感は、ある!(ドンッ!!)

ちなみにだいたい六話程度、長めの短編小説×2以内でおさまる文章量…の予定です。
次話は今日中に投稿させていただきます。(多分?)
三話までは書き終えてるので、それ以降から更新速度が落ちるかもです。

稚拙な文章ですが、どうぞ少しでもお楽しみあれー。


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