『プルプルプル』
「ん??」
「船長!さっきの、あー…ルートってやつからです!」
「なんだ?あいつに限って命乞いじゃぁねぇだろうが」
『ガチャ』
「おいどうしたよルート!怖気付いたか!?…そうだな、俺はお前が俺の船に乗るならそれでもいいと…」
『速達便よ』
「あ?おめェ誰だ────」
最高速度。
住居のあるクルモア島よりこの海上まで加速を続けたライトグレーの翼が、ティーチを襲った。
電伝虫から連絡が来たタイミングではまだルートは島内に留まっているだろうという無意識が、容易くティーチの油断を誘ったことだろう。
ルートはすれ違うほんの一瞬、利き腕だけを人型に戻し、居合の要領でその首へ羽刀を振るった。
刃は音速を超えた速度で振られ、離脱と同時にその風圧だけで血を払い飛ばす。
だが。
「それでも、
黒レンズのゴーグル越しに見えたのは、僅かに腕に刃が食い込んだのみでそれ以上刃が通らなかったという現実。
見聞色で、あいつが確実にこちらから意識が外れた瞬間を狙って、これである。
「ぐお!?イッテぇな!!」
「毎回毎回ちょっとした傷で騒ぎやがって…」
「ゼハハハ!!懐かしいなぁルート!よくオメェには怪我した傷より深くメスを入れられたもんだ!!」
「それはてめぇが騒ぐからだ。
軍艦の
ここからはまともにぶつかり合うつもりはない。数も質も、何もかもこちらが劣っている。
そう割り切ってしまえば思い切りも良くなるもの。会話を打ち切り足場を蹴って急接近。近づくふりをしては急旋回、その瞬間に空を蹴って脚に仕込んだナイフを飛ばす。
ボウッと空気を突き抜ける音と共に蹴り飛ばされた刃しか持たない投げナイフは、回転しながら正確にティーチの元へと吸い込まれていった。
…しかし正面から飛ばしたそれを、先ほどの不意打ちすら防ぐこいつに防げないわけもない。
やや危なっかしそうに、だがその癖してしっかりと武装色を
ひらりと、数多の"声"を聞き分け射撃位置を測り、いなす。そうしてやはり俺は刃を一人だけに狙いを絞って飛ばす。
回転する"
「その見聞色!腕は鈍ってねぇなぁ!ルート!」
「精度はまちまち…体力だけは増えたかもな…!」
「
「…お互いに」
対峙すれば、よくわかる。
俺が勝っている部分は"最高速度"だけだ。瞬発力の時点で既にこちらが劣っている。速度だ。今のこの速度だけが唯一の優位点だ。
遠い。
ずっと共に居たというのに、敵対して初めてその恐ろしさがわかる。いまだに能力は使われていない。おまけに、あちらには多くの船員がいる始末。
…だが、今はこの優位だけで十分。
「お前の代わりにユキユキの女でもいいんだぜェ?」
「あぁそっちが本命か?」
「
「悪い」
「あん?」
速度を維持したまま、風を切って回り込み、仕込んだナイフを飛ばして一先ず雑魚の数を減らしていくことに重きを置いた。
その最中、まるで同じ机で向かい合って話しているかのような会話は途切れることはなく、けれども俺はティーチではなくあの月のような美しい瞳を想い返している。
そしてようやく、俺の中にあった心を言葉にするのだ。
「惚れた」
「!!??…ゼハ…ゼハっハハハハハ!!!ほ、惚れた!?…お前が!?そういうことかよ!!」
バウと。
闇が溢れだす。
これがヤミヤミの能力。自然系とは知っているが、未知数が多すぎる。
「じゃぁどっちも奪うしかねぇなぁ!!!!ええ!?ルート!!!!」
ガクンと。
急に、俺の軌道が変わった。こちらに手のひらを向けたティーチの方へ!
「!?…っ!!」
咄嗟に、吸い込まれる勢いのまま通り過ぎそうになったマストに羽刀を突き立て抗った。
「吸い込まれる…それだけじゃないだろう、な」
能力者となって浅いことが幸いした。まるで動物系としてのパワーを失ったような事態に瞬時に対応できたのはそのこともあったのだろう。
「まぁなぁ!!しかしやるじゃねぇか!!…だが、そこはもう、
"
どろりとした闇がティーチの足元から甲板を、やがてマストへと迫り広がってくる。俺の方へ、じわじわと。その様はいつしか自宅で絵の具を床に溢した時を思い起こさせた。
…吸い込まれる力はまだ継続されていた。
能力は使える。足に生やした爪を突き立て、簡単には抜けないように固定したが、このままではどう見てもまずい。だが、この引力…途端に立っていた地面が消えたと錯覚するほどの虚脱感。
ここから飛び立ったとして…逃れられない!
「さて、どうしたもんか…」
ナイフはまだある。邪魔はできるが、それは一時凌ぎだろう。根本的に、これの対策が出来なければ遅かれ早かれ同じだ。
「あの闇に触れることは論外。この引力にあえて飛び込み攻撃するのも同じく危険すぎる。そも今回の戦いにおいて、俺があいつに
まるで
予定の場所までのらりくらり飛び回るだけの予定だったが…まぁ物事思い通りにいかないものだ。
ならばと、素早く近く帆の一部を切り取り広げ、そこに向かって翼を大きく薙いで風を送り飛ばす。すると帆はティーチへと覆い被さるように向かい…────その瞬間、力が弱まったのを確かに感じ取った。
「!…なるほど。視界を
「うお!?テメェルート!俺の海賊旗を!」
「トプトプトプ!ヒック…!綺麗に四角に切り取ってまぁ〜トプトプ!」
「笑ってねぇで手伝え!?」
「
船は
結局、その場凌ぎでしかないが、時間は稼げるはず。
…さっきから呑んでばかりの、ティーチよりもさらに巨大な男である"大酒のバスコ・ショット"が動きださない間は、でしかないが。
この二年間、随分と新聞を賑わせていた元レベル6の囚人。最悪の海賊の一人。
「トプトプトプ!ウィ〜…仕方ねぇのおん」
そして当然、その期待はすぐに裏切られた。
何かされるよりもまずはティーチの視界から逃れるために上昇、見張り台の上の海賊にナイフを投げて撃ち落としつつ、黒い帆に隠れた。
直後、何か液体を吐き出す音。着火音!
「"バスコ・ショット"は炎か…それに引火する液体、この匂いは油じゃないな…アルコールか…!?」
────遠距離攻撃。火。
その場に留まるのは悪手。
進路を変え別の帆の裏へ…しかしそれを予想していたように飛び込もうとした帆がさらなる業火に呑み込まれるのを見て、空を蹴って急停止。
「おぉい!?俺の海賊旗をテメェが燃やしてどうする!?」
「うぃ〜ヒック…!ほらほら吸った吸ったトプトプトプ!!」
「チッ」
鳥の加速は遅い。
それをカバーするために空を蹴る技術を会得したが、それでもティーチにとっては明確な隙だった。
"
────同時に"白"が、目の前の視界を埋め尽くす。
「うふふ。…待たせたかしら?」
小電伝虫で俺の
相手が炎を使う以上、防ぐことは二の次の合理的な技だった。
…生成した雪は本体ではないため、ヤミヤミの力で引かれない。そういうことなのだろう。対象を選べるならばその限りではないのだろうが、少なくとも
ならば依然変わりなく視界を切る遮蔽物は有効と言う前提で動く。そして。
「グロロロロロロォ!!!!」
久方ぶりの凶暴な鳴き声が青空に響き渡った。ドラゴンたるチューイもまた、炎を扱う存在。
雪の幕を目隠しに、その上から全てを燃やし尽くす勢いで炎のブレス!対するは流石のレベル6。何事もなくトプトプ笑ってその業火をさらなる業火で焼き返しやがる。
「クギャー!!??」
「意地張るな…!行くぞ!」
予想はついていた。だから意地を張って対抗しようとしたチューイを即座に引っ張り、モネの目眩しと共にその場を離脱。
「ダメね。全然勝てない」
「クルルル…」
「言ってやるな。流石にあのレベルの相手には無理がある」
改めて、俺は彼女たちに向かい合った。
「モネ、チューイ、助かった」
「クルルルルルル!」
「どういたしまして。ところでルート。私が聞いてるのをわかって…
「ああ今は、この場をどうにかするのが先決だ…悪いな」
「謝らないで、いいの」
モネの中に二種類の「怯え」が見えた。
一つは、幸せを享受することへの恐怖。それは、今は努めて無視をする。
もう一つは、海賊たちの持つサーベルなどの刃物。そして俺の持つ投げナイフ。
…やはりあの家で俺と対峙した時は興奮状態から打ち消されていただけで、"刃"に対する精神的な負担があるのが見て取れる。
その程度で怯むほど柔ではないとはわかっているものの、それを過信した俺のせいで彼女は自ら命を投げ捨てようとしたことを忘れてはならない。
彼女を出さない選択肢もあった。
けれど使える戦力を出し惜しんでどうにかなる状況ではないのも明らかであり、結局は俺の方が折れたわけだが。
「この程度で防げると思ってねぇだろう!?」
「流石にっ…な!」
「────"カマクラ二十草紙"!」
彼女の前で刃を扱うのを渋る余裕はない。
自らの羽を括り付けたナイフを雪壁の外側へと投げれば、それは壁を過ぎた途端に急激に内側へカーブ、弧を描きながらティーチへと向かっていく。
括り付けた羽は、つまり"矢羽"だ。特定の方向に曲がるように調整したもので、こういう障害物を正面にしながら相手を狙える。
当然こんなものはあいつ程の腕があれば子供遊び程度だろうが、それでいい。その間に、モネは無駄かもと思いつつも目の前の雪壁を何層にも分厚くしていき防御を固めた。
壊れない遮蔽物があれば、まだなんとか立ち回ることは可能だからだ。
うお!?と大袈裟に驚く声を白越しに聞き、ちらりと懐中時計の秒針を気にし────即座に俺は動く。雪壁で真正面が見えていないとはいえ、攻撃の予兆を俺の見聞色は見逃さなかった。…動いたのはバスコ・ショット!
「"
「ッ!!モネ!」
「!」
街道で火吹きの曲芸師を見たことがあるだろうか。やつがやったのはそれと原理は同じで非常にシンプルなものだ。口から霧状に、引火する液体を吹き出し火をつける。
だがそれは明らかに"ランプ"なんて名前のイメージからかけ離れた火力を有していた。
まさに"バーナー"。
バーナーは容易く雪の壁を溶かし、真っ直ぐな白い炎が伸びて来る。幾ら雪とはいえ、何層にも圧縮して重ねたそれは氷どころか鉄など遥かに超える密度と強度だが、まるで意味をなさない!
────モネは俺と同じで自身の初速のなさを理解している。加えて、無理やりに鳥の能力を得ただけでしかない彼女は、飛べはするものの俺とは比べるべくもなく遅い。こちらに来るのが遅れたのもそれが理由だ。
ゆえに名を呼べば俺の体に
着地したのはメインマストの最上段、その見張り台の上。人型に戻って彼女を抱き上げたままに、思考を回す。
能力の相性が悪い。違うな、悪くなるように人選して来ている。
局所的に見れば、あのエースにも匹敵、いやそれ以上の威力があると見積もった方が良い。相手はレベル6だ、どれだけ厳しく見積もっても足りないはず。
恐らく鉄であろうが、さっきの雪壁の様に溶かしてしまうのだろう。
それにあの液体は臭いからアルコールの類…酒か?…他にもまだ、何かできると見るべきだ。
だが──────時間だ。
「…どうするの」
「やっぱり勝てねぇなぁ、これは」
「ええ、私たちだけでは」
「場所は間違ってないか?」
「ここで間違いないわ」
「時間もちょうどいい」
「クルルル?」
何が。
とはお互いに口には出さなかった。そうでなくとも、モネがよくよく"策"を理解し、タイミングを逃さないように計算していると確信しているから。
チューイだけが、不思議そうに視線を右往左往している。
まもなく俺の見聞色は、大きな"声"をいくつも捉える。
「…完璧だな。後は
「おおいルートォ!!降りてきやがれ!!」
そうして再び闇がマストを伝い駆け上る。今度はさらに早い。
このままでは留まることは許されず、やはり飛び出すしかなくなるわけだが…
「悪い。そこはもう、
「あん??」
「…ルート、お願いね…"
俺の言葉を皮切りに、モネがメイ
"ロバンド"、"レーシング"、…そういったマストと帆を繋ぐロープを手早く切断。間もなくして、あいつの真っ黒な海賊旗は、真白な絹となって白い嵐と共に軍艦ごと黒髭たちに覆い被さってゆく。
「おぉおい!?またかよ!?寒ぃな!!」
「ヒック!…これは燃やしてええのんかぁ〜?」
「何かしてくる気だろうからな…構わねぇやっちまえ!!」
目眩し。
…それと同時に、船の移動能力を大幅に抑えた。
俺はただ、最大速度でモネを連れて離脱する。まだ本調子ではない彼女は、どこか疲れたように目を閉じて身を寄せているが、果たして本当にどうにかなるかはさっき言った通り運任せだ。
大きな真白の布の中央に、ぽっかりと穴が空いてティーチたちの顔が見えた頃に、俺は凄まじい速度で船に迫る影を幾つも直接目で確認する。
来た…!
「そんな
────
体の大きさだけで言えばまだまだ世に
この島で最も危険な旅鳥。
名を
嵐が去った後は、また腹を満たすために来た道を戻る…つまり、
そうだ。今日は快晴。
この諸島の、俺たちのいるクルモア島は最もその凪に近い。だから俺たちは自然に、その危険領域へと誘導し、それは今達成された。
慣れてない人間であれば、俺たちのように何かしなくても
やつらはスズメと…海王類の射程に入った。
海軍から奪った軍艦ならば、"海楼石"のおかげで海王類に見つからないんじゃないかって?
重要なのはそこだ。
…ところでニュウナイスズメはタチの悪いことに、狩りをする時には周辺の邪魔者を一掃する習性がある。
────新たにイトイトの実の能力者となった船員は元レベル5の囚人だ。
腐ってもレベル5。元は2億越えの懸賞金を持った男…長い囚人生活からいまや老人であり、体力こそ大きく衰えているものの、しかし元々が糸で操った人形を戦わせるという曲芸タイプ。
本来イトイトとは
レベル5の環境による凍傷で手の指を3本失って、これなのである。
まさに傑物。
早い段階で海軍がインペルダウンに幽閉できなければ、もっと危険な海賊になってたであろう一人だ。
しかし同時に近づくことを許してしまえば老衰もあって容易に落ちるリスキーな人選でもある。即戦力としては申し分ないが、今ここでは"鳥カゴ"以上に役に立つことはできない。
今、彼は船の奥、安全な場所から能力を行使し続けていた。
「チュンチュン!!!!!!!!!!」
「ほげぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!!????」
巨大なスズメが甲板をブチ破って体当たりをしかけるまでは。
…彼の不運は、鳥カゴで覆った島でこの危険生物が羽休めしていたことと、そも
慣れない能力に集中していたから守りが疎かになったということも、あるのだろう。
"鳥カゴ"が、消える。
「見て、鳥カゴが解除されていく」
「ラッキーショットだ。このまま離れるぞ!」
「ああぁん!?あの野郎やられやがったな!?クソっ待てルートぉ!!"
「ゲェッぷ!?なんちゅう馬鹿力持っとるのんか〜この鳥ぃ!?」
それでも、与えられるのはせいぜいが一時の混乱だけだろう。
十分だ。既に勝ち筋は見えた…!
『────ねぇルート』
『?』
『仕掛けるにしても、時間稼ぎじゃ確実性が足りない。海軍がいつ来るかなんて…それに不確定要素に頼るなんて、祈るだけのか弱い町娘じゃないの私は。そしてあなたも。そうでしょう?』
『…案があるんだな?』
『うふふ…一か八かに賭けるなら、ダメ押しが必要でしょう?』
発案はモネ。
それを俺が持ち得る島周辺の情報と合わせて、練った即席の作戦。
鳥カゴが海中深くまで届いていないという前提の賭けではあったが…俺たちは
大きな大きな"影"が、船の真下の青の中で段々と濃く大きくなっていく。鳥カゴの解除前からそいつは、海上の騒ぎなど知らずに悠々と比較的近くを偶然泳いでいた。
糸が海中まで届かなかったために、カゴは"鳥"だけしか閉じ込めず、"魚"を素通りさせていたのだ。言ってしまえば鳥カゴはこの時点で解除されようがされまいが関係なかったのだが、ティーチの動揺を誘えたのは幸運だったろう。
────もう一度言おう。このスズメはタチの悪いことに、狩りをする時には周辺の邪魔者を一掃する習性がある。その騒ぎは、もはや海楼石なんてものがあろうと誤魔化しきれない騒音を海中深くに響き渡らせる。
そういう、他の生物を"エサ"に自分の狩りをする凶悪な生物なのだ。
「船長!!!!!真下から何か────」
「か、海王類!!??」
「ぎゃぁぁぁ~~~~~!!!!????」
「ああああ〜〜〜〜!!!???」
ぱくり。
巨大なシロイルカのような海王類が、無慈悲にも船ごと口の中に納めてしまう。
賭けに、勝った…!
ニュウナイスズメがいるところに海王類あり。
そしてスズメの存在を確認した海王類は、慌てて海中深くへとまた姿を消した。ここでスズメたちが海王類を攻撃して口を開けさせるようなことがあれば危うかったが、幸いなことに────ティーチにとって最悪なことに────今回の海王類はスズメの察知から反転が素早かった。
「チュッ」
と、スズメたちが舌打ちをしてから、そのまま穏やかな海の果てへと飛んで小さくなっていく。
暴君たちがまたこの諸島に戻ってくるのは、また一年後だろう。
「おお、どんぴしゃ」
「あなた、昔馴染みにもドライね。────死んだかしら…?」
「あいつはしぶといから多分死んでないだろう」
「…あれでも?」
「あれでも、だ。成り立てとはいえ四皇だ。四皇や海軍大将があの状況にいるとして、死ぬと思うか?」
「…状況次第だと思うのだけれど」
「確かに。死んだかもしれん」
「撤回が早いわ」
…しかしまぁモネの言葉を認めはしたが、それえでも俺はあいつがこの程度で死ぬとは思わなかった。
「…確かめるか」
「え?」
俺とモネ、お互いの通信用に持ってきていた小電伝虫をティーチへ向けて、コール。
そうすればほら、意外に元気な声が聞こえるじゃないか。
『プルプルプル…ガチャ』
「もしもし。生きてるか?今日は帰ってくれ」
『呑気か!?…ゼハハハハハ!一本とられちまったなぁ!!』
『船長~なんも見えねぇ!!』
『トプトプトプ。見えなくても酒はうめぇ…ヒック!』
「呑気ね」
流石の強かさである。天運に全振りしたあの性格も、ここまでくれば脱帽だ。
どうになった安堵と…なんでかねぇ。あいつが生きていた安堵も自分の中に少しだけあることに、腐れ縁とは面倒なものだと小さく笑う。
「昔のよしみだ、行先を伝えてやる。そこらの海王類は
『最悪の位置だな!?ゼハハハ!!』
「勿論これから来る海兵にもしっかり情報を共有する…まぁあれだ、生きてたらいい酒送ってやるよ」
『容赦ねぇなぁ!ゼハハハハハハ!!!』
本当に呑気なものだ。昔からこうなものだから、良くも悪くも慣れ切っている。
随分と振り回されたし…まぁ振り回したりもした仲だ。
よく知ってるからこそわかることもある。
「お前、本気で来なかったろ。悪い癖だ、もう来ないでくれると助かる」
『俺たち相手によく言うぜ!まぁ退けらりゃぁそれまでと決めてたのよ!なんせこんな辺境に行くのも楽じゃねぇ!!』
「客人として来るなら歓迎するんだがな」
『次はおめェが来い!遠い!』
「ハネムーンに選ぶのは
「ぇ、え?………えっと、じゃぁどこがいいの?」
「雪深い冬島がいい…ああいうところは"声"が少なくて過ごしやすい。それに、好きだろう?」
「あら…うふふ。ええ」
『ノロケは他でやれよ!!??ゼハハハ!!────なんだ、良かったじゃねぇか。欲しいもんは見つかったのかよ』
本気で殺し合っていたやつと、本気で仲良く話そうとする。
こいつはそういう男だった。それは美徳であり、あまりにデリカシーがないとも言える。少なくとも、もう少し気持ちのいい手段を選べる男ならばそれは長所と言えたのかもしれない。
そんなものを海賊に求めるものじゃぁないんだが。
俺だって今更、そんなことを気にしやしない。
「────まぁな」
『ゼハハハハハ!!』
『あーもったいねぇのん、トリトリの実、ユキユキの実!…ヒック!』
『諦めなぁ、これ以上は割に合わねぇ!』
『船長~!?これほんとに大丈夫なんですか~~!!??』
『ゼハハハハ!!ああ!?おめェらそりゃぁ、死ぬも生きるも────ツー…ツー…』
「…切れた。深くに潜ったからか、嚙み砕かれたからか」
「人の心は?」
「クルルルル」
空もまた呑気なもので、先ほどの戦闘を思わせる空気などはどこにも見当たらない。
ただ海に浮かんだ木片と黒い帆の切れ端だけが残り、それも流されやがて全てが青に戻った。自然とはかくも大きく残酷である。
バサリと空を切る。
高く昇れば一点、遠くの海に船が浮かんでいた。凪を越えこちらに向かう船など、思い当たるのは一つだけ。
それを上空から眺めた俺とモネは、互いに目を合わせることなく身を寄せ合ったままに遥か下の小さな島を見下ろした。
「帰るか」
「ええ、帰りましょう」
「クルルルル!」
「付き合わせて悪かったなチューイ。飯はたんまり食わせてやるから安心しろ」
「クルルルルルン!!」
キリリと俺たちを檻に閉じ込めた
そうして真っ青なキャンバスに打たれた微妙に色の違う緑色の点たちが、ゆるりと時間をかけながら巣へと帰るのだ。
次回で完結となります。
あと少しだけこの世界にお付き合いください。
以下、いつもの補足やらなんやら。
というかいつもこの補足うんぬんやたら長くないですか?おかしいな…そう思って短くしたいのに、やけに長くなる…()
■ルート
ルートの強さを正確に表すのは難しいが、ティーチとは明確に大きな格差がある。
当人もそれを理解しているため、最初から絡め手意外の手段を取る選択肢はなかった。精神のブレが少ない人間なので分かりづらいが、相当ギリギリの戦いをしている。
あと、人前で
■モネ
モネまた、幼少にこの島に憧れがあった一人。
なのですぐに環境を活かした黒髭撃退の案を思いつき、それは達成された。
パンクハザードでルフィにそうしたように、勝つことを前提としない戦いが上手い。…しかし毎回戦う相手が厳しい相手ばかり。
そしてあんたも人前で
■チューイ
ほぼ役に立てず落ち込んでいる。
それでもその存在だけでルートもモネも連帯感のような頼もしさを感じているのは、彼だけが知らない。
■ティーチ
ドフラミンゴ襲撃の際に連れてきていた他のメンバーは、実は別の船で先にハチノスに戻している。
ルートは「本気で来なかった」と言ったが、あながち間違っているわけでもない。しかしティーチはこれを意識してやったわけでもないので、無意識下でティーチもルートに思うところはあったのかもしれないし、なかったのかもしれない。
それはそれとしてルートも初手の奇襲で首を刎ねに行ってるのでどっちもどっち。
■バスコ・ショット
名前の語呂が良い。
せっかくなのでオリジナル技もあげちゃう。
ルートの実力では、タイマンだとしても逆立ちしても勝てない。
それでも均衡が保たれていたのは、環境や得意をうまく押し付けたルートたちの戦い方のおかげ。まともに戦わない空の住人との戦闘は思ったより厄介なのだそう。
■レベル5の囚人
イトイトの実を食べた黒髭海賊団の船員。
本作オリジナルなので名前もなし。
レベル5でも4でも、きっとこういう一芸に秀でた狂気の住人はいるだろうなと生み出された。そしてチュンチュンされた。
■ニュウナイスズメ
近づいてきたら海王類の肉を献上することで許してもらえる。
襲う相手が強者か弱者かの判別は出来ないので、無差別に襲うのが厄介。
実際に海王類を仕留めらるかは結構ぎりぎりで、多くの海王類は「面倒なやつがいるな…」ぐらいの認識が多い(認識されてることがやばいとも言う)。なので主に小型の海王類を狙う。
ちなみにハッソビア諸島の島民たちはもしスズメが町に飛んで来たもちゃんと肉を惜しまず与えている。ので、もし島民に海賊や海獣など危害を与える存在がいれば排除してくれるという共生関係を築いていたり。
■青
"白"と"黒"の小さな世界など歯牙にもかけない雄大なる青。