白夜の中の渡り鳥   作:凍り灯

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白の中の黒

 

 

 

海の潮とは違う、湿気た匂い。雨が近い。

 

曇り空の中を竜の"チューイ"と共に飛び進む。遠くに黒い雲、頭上はまだこの翼と同じような薄いグレーだが、既に風は強い。今年は思ったよりも早く雨季に入りそうだ…尚更に、今出かけたのは正しいと安堵する。これ以降であれば、飛べないことはないがずぶ濡れを避けることはできないのだから。

 

空から視線を戻せば正面に埋め尽くすような海鳥の群れがもう間近にあった。…少し余所見をしすぎたか。

けれども無理に進路を変えれば余計に鳥たちはパニックになる。そんなわけで進路をそのままに突き進めば、彼らは素直に隙間を開けて俺たちを通してくれた。

 

「おーごめんよ」

「クルル」

 

後ろの方で鳥の群れの一部が乱れた。しまったな、俺の方はともかく、チューイは人工生物。鳥のように洗練された飛行をするわけではなく、どちらかと言うと凝縮された力で無理やり飛んでいるのだと、ここ一週間で理解していたと言うのに。つまりわざわざ進路を譲ってくれた鳥たちがそのあまりの風圧に気流を乱され海へと落ちそうになっているのは、俺の二重の不注意と言うわけだ。

やっちまったなと思いつつも、それはそれとしてチューイに一言。

 

「お前…もう少し上手く飛べないのか」

「クルルルルル…」

 

困り顔のチューイを見るにやはりダメらしい。練習でどうにかなるものだろうか?ここで生きる以上、鳥たちの機嫌を損ねるのはあまりよくはない、何せ、そこら中が鳥だらけだ。

 

「練習は付き合うからとにかくやってみろ。この島にいるからには鳥が第一だ」

「グルゥ」

「舐めてると痛い目見るぞ、思った以上にな」

「クルル?」

 

悲しきかな、チューイはまだ海王類を餌にしてるんじゃないかと噂されている化け物みたいな鳥がいることを知らない。井の中の蛙大海を知らずというわけだ。せいぜい思い知ってもらおう。

 

 

鳥の群れを抜け、曇り空を飛び続けてきっかり10分、俺たちは"アヴァケア島"に到着した。

 

 

チューイは病み上がりではあるが流石に人工生物、その治癒力も高く、継続した飛行に支障はないように見える。短期の飛行であれば疲労具合も安定してきているので、気を遣ってゆっくりと飛んでいた速度を、次からはもっと早くしてやろう。

 

海岸へ降り立つ直前に人獣形態となり人の足で砂を踏み締める。

シュルリとナイフのような翼が人の手へと形を変える中、黒レンズのゴーグルを首元へとずり下げて後ろを振り返った直後、チューイが海岸に雑に降り立った衝撃でザラついた砂が顔面へと満遍(まんべん)なくまぶされる。

 

「クルルルルル!」

「………"患者"には優しいさ、そう、"患者"には…」

「クルゥ?」

 

リハビリは厳しくする。コイツのためさ、なぁ?

 

「おや、ルー君じゃない!またその子の餌?あの頑丈な買い物袋は持ってきたかい?」

「どーもおばさん、察しの通りだけど、まずこいつに食わせてやりたい」

「グルルルルルル!」

 

顔についた砂を、再び翼に変えて羽箒の要領で払い落とし、海岸沿いの特徴的な建物を目指す。近づいたところで声をかけてきたのは小太りの60代ぐらいのウニみたいな髪型のおばさん。

 

特徴的な店…それは見た目が岩のような不定形な形の店である。石造りの店の真横にはその数倍にもなる大きな倉庫があり、それもまた屋根が意図的に形を崩されている。どちらも遠くから見れば岩のように見えるようになっているのだ。それは海王類を刺激しないためのカモフラージュ、この島々で生き抜く人々の知恵だ。

今ちょうど、その倉庫内へと屈強な男どもが肉の塊を運んでいたようで、おばさんは彼らに喝を飛ばしながらも接客してくれる。そのおばさんへ頼んで大量の肉を買い付ける。何度かこいつ(チューイ)と顔を出してるからもうスムーズなもんだ。

 

「まぁ元気ね!じゃぁそこに積んである海王類の肉なら食べちゃっていいわよ!」

「おいばばあ!ワシが買おうとしたんじゃろうが!」

「うっさいね貧乏人!あたしゃ飽食(ほうしょく)の医者から稼ぐのに忙しいんだよ!!」

 

腰の曲がった客であろうじいさんが、おばさんのウニ頭で殴り飛ばされ地面へ沈む。

 

「…あぁそうだおばさん。このリストに書いてあるもんも買いたいんだが、旦那さんの店で揃いそうかい」

「ん?はいはいどれどれ…ま!女性の下着だなんて!そういう趣味に目覚めたの!」

「…趣味…?いや、患者さ。あそこの家(鳥類学者の家)、何故か女性ものの衣類もあったからどうにかなってたんだが、流石に古いもん着せ続けるわけにもいかんだろ」

「あぁ!あの元の家主は愛人を連れ込んでたらしいからそれだろうね!とりあえずバカ(旦那)の店で大体揃うと思うけど、うちのバカ2号(息子)の店の方がいいよ」

「なぜ?」

「並んでる商品はバカ(旦那)が趣味で編んだやつだからさ!なんか嫌だろう?女装癖もあるから使用済み────」

「今のことは忘れるから息子さんとこに行くよ」

「あっはっは!そうしな!」

「じゃぁ帰りにいつもの量を持って帰るから準備を頼む」

「あーいよ!…おらっ!いつまで寝てんだ貧乏じじい!!出ていきな!お医者さんのお通りだよ!!」

「空飛ぶんで寝かせておいてやんな。チューイ、すぐ戻るから食いながら待ってろ…いいか、食い過ぎるなよ?」

「クルルルルルン!」

 

それから島の中央へと低空で飛べば1分もせずに目当ての店が見えてくる。

南国のような背の高い街路樹が多く、それに紛れるように壁は天然色の木板、または塗装で木の色に、さらに屋根は緑系統の色にされていた。町全体がその配色で見事に揃っているのだから統一感があってまた美しい。しかしこれもやはり機能美。パッと見だと遠くから見れば木々が生い茂るだけの島に見えるような工夫というわけである。

 

大人の海王類は巨大だが逆(・)に(・)良(・)い(・)。聡明だからだ。人や町を見た程度では相手にもしない。

問題は子供の海王類。彼ら彼女らはその大きさを持ったまま無邪気に興味を持ったものに近寄ってくる…まさにこれが災害。目立つものがあれば近寄り、場合によっては押しつぶす、悪意もなく。

それでもここに住むのだから誰もが一癖もあった…こいつもまた、そう。

 

「よぉ、今日はこのリストの────」

「ルート、その前に言うことがあるだろう?」

「────それはお前の着ている服についてか?」

「ああ…!」

 

男は髪の毛をオールバックにした40代の男。アロハシャツからはみ出た日焼けした筋肉はアストリートのように引き締まっている。

問題は下半身。明らかに女性者のホットパンツを履(は)いていた、ダメージ加工の、際(きわ)どいやつ。

 

めんどくせぇ。

 

「………似合ってるよ。明日にはきっとお目当ての海王類に出会えるさ」

「…!そうか…そうか………!!」

 

感動。実に爽やかな笑顔だ。顔の部品はいい。あのウニおばさんから産まれたとは思えないほどに。だけど頭の中身はダメだった。

きっと髪の毛に現れるはずのトゲトゲが、頭の外ではなく内側の脳に入り込んで回路が崩れたんだろう。

海王類に惚れ込み(これは恋愛的な意味ではない、と思う)、無謀にも共に暮らすことを夢見ている男、そこまではいい、ロマンがある。だが、アピールの方向性を間違えている。それも娯楽の少ない島だから仕方ないのかもしれない…本当に仕方ないのかな。この前はハイレグだった。

 

これなら旦那さんの店の方が良かったのでは?

 

だが、モネにどんな顔しておっさんの手編み推定使用済み下着を渡せばいいかわからなかったのでダメだ。こいつはアホだが店は至極まともだ。公私混同しないんだろう、多分。

 

「あぁ、そうさ────で、このリストの」

「ルート、けれど俺はお前にまだ聞きたいことが────」

「そうだ、そういえばこれがこの前撮った海王類の写真なんだが」

「え!?」

 

 

トゥンク。そんな音は聞こえなかった、そうだろう?

俺はなんとか予定よりも早いの時間で買い物することに成功した。後はもう、戻るだけだ。

 

 

「あら!思ったより早かったのね!」

 

俺がおばさんの店へ戻る頃、おばさんはチューイに俺が頼んだ以上の肉を食わせようと肉塊に包丁を入れようとしたところだった。おい。

 

「…食い過ぎるなと言ったよな?」

「クルルルルルル…」

「いいじゃないかい食わせてやれば!」

「その余分な食費は俺の財布からだろうに」

「当たり前でしょ!何言ってるんだい!」

「いいかチューイ。こう言う奴ばっかだ、自制心を身につけろ」

「クルル…??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

△△△ △△△ △△△ △△△ △△△ △△△ △△△ △△△ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「毎度あり────!」

「思ったより早く済んだな」

「クルル!」

 

薄いグレーの雲はいつの間にか鉛色へ。

風は強さを増し、時折吹き付ける強風に背中を押されながら空を駆ける。買い物袋に詰め込まれた非常食や大量の肉の塊は数百kgにも及び、流石に飛ぶにはきついものがあるからこの追い風がとても助かる。それでも重いには変わりはない、だが肉と鉛色の空に押しつぶされながらも速度を緩めることはしない…妙な違和感があるからだ。

 

羽毛に隠れた耳の横、そこが落ち着きなく震えるような感覚。

 

鼓膜(こまく)の近くに気圧検知器官がある鳥は、気圧が変わればそれを敏感に感じと取れる。そしてそのせいなのか気圧低下に鳥は比較的弱いものが多い。

これは鳥も人も、なのだが「台風が近いと気分が悪くなる」なんてものはこの"気象病"と呼ばれる不調だったなんてこともある。見逃しがちだが潜在患者数は実はかなり多い。けれども俺がそ(・)れ(・)になったことはない。

 

そうだ。なったことはない。そこまで俺は繊細(せんさい)な生き物ではない。…だと言うのに、胸がざわつく。気圧の変化による違和感のような、いや、間隔が近いだけで説明のできない焦燥感が、体を重くする。背中の荷物のせいではないはずだ。

 

いつだったか…あぁ、あの時だ。確かに、似たような感覚を感じた時があった。

 

 

悪魔の実を敵船から偶然、俺が手に入れた日の、珍しく波の穏やかな宵(よい)。

"あいつ"が俺の前にやって来る、その直前の感覚に──────

 

 

「──────モネっ!!」

「クルゥンッ!?」

 

突如叫んだ俺にチューイが慌てる。気にする暇もなく、俺は最高速度で鉛色の空を切り裂きながら羽ばたいた。

 

普(・)通(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)!

 

正面、"クルモア島"から届いてきたモネの強い感情、強い"恐怖"…だけならわかる。腐るほどそんなものは聞(・)い(・)て(・)き(・)た(・)。だが、これはめちゃくちゃだ。

 

恐怖、それを一瞬で塗りつぶした真っ暗なイメージ。その中で満ちる張り詰めた糸のような、か細い不快な音。次いで切り刻まれるような鋭い音。その隙間から滲み出た羨望(せんぼう)、憧憬(しょうけい)、忠誠。その下、足元の地面の中からそれらプラスの感情を引き摺り下ろそうとして来るマイナス…諦観(ていかん)、憎悪…絶望。

 

間もなくそれらは混ざり合い、黒となる。色が混ざりすぎた絵の具のような、濁った黒。

 

状況は完全に理解できていないが、聞こえた"声"からある程度推察は出来る…十中八九、モネの記憶が戻った精神的ショック、だと思う。だが、あまりに甘く見過ぎていた。強(したた)かな女だと、タカを括(くく)っていた…!これならば一人にするべきではなかった…!

 

黒色の感情、久々に感じた強烈な負のイメージに眉間に皺を寄せつつも速度は緩めない。背後で事情も分からずに慌てるチューイは可哀想だが、一旦お前は頭からシャットアウトしさらに加速する。

古びた家の海側の外壁、俺の私室あたりは遠くからでもそれが異常だと分かる。なんせそこら一面は白く染まっていたからだ。借景窓は割れ、そこを中心に外へ"白"が漏れ出している。あれはや(・)は(・)り(・)雪か。

 

「やはり能力者…!…問題は、超人系(パラミシア)か自然系(ロギア)か…」

 

パンクハザードでモネを見(・)つ(・)け(・)た(・)時(・)の(・)状(・)況(・)と一致する。雪を扱うのはいいとして、悪魔の実の分類がどちらかによって厄介さは変わる。傷つけるならまだしも、今の目的は"鎮圧"!自然系(ロギア)だとその変幻自在さが障害になる。

 

「炎よかマシか…」

 

誰かさんを思い出しながら荷物を投げ置き、凍えるような寒さの私室へと窓から踏み込んだ。薄く積もった雪に、足跡が残る。──────やはりというか地下室の床板が開いている。俺の想像通りに、モネは見つけてしまったのだろう。そしてこ(・)の(・)反(・)応(・)だ。…彼女は、元王下七武海ドフラミンゴの部下だったのではいか?そうじゃなきゃ、ここまで崩れる理由がない。想定していた中でも、一番最悪のパターンの可能性。

 

あぁそうか、つまり彼女だけが…残されたのか。

 

………しかし"ドフラミンゴ陥落"と"傷を負ったトラウマを思い出した"ことによる強い精神的ショックを受けただけじゃぁ、今回の事態が起こってしまったことの納得がいっていない。俺の見積りが甘かったことを加味しても彼女の心の負担が想像を超えて大きすぎる、と思う。彼女の心境を、俺が測れることは出来やしないだろうが、それにしても聞こえてきた"声"の内容も妙なのだ。どうにも噛(・)み(・)合(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)部(・)分(・)が(・)あ(・)る(・)…!

 

 

────どうして"喜(・)び(・)"、なんて感情が混ざってるんだ…?

 

 

俺はこの"声"から読み取れる感情に戸惑っている。

やけになったようなマイナスの"喜び"ではないのだ。もっと純粋な、言葉通りのもの、だと思う…くそ、もうわからねぇな…!

 

肺から息を吐き出し、寒さで白くなったそれが空気に溶けた辺りで埒(らち)の明かない思考を一旦打ち切る。

覗き込んだ地下室は真っ白く埋もれている。奥は全て雪が詰め込まれてるんじゃないかというほどに真っ白だ。念の為に、本棚に立て掛けてあったままの"羽刀(はねがたな)"を片手に、俺は雪を急いで掻(か)きながら地下の奥へと降りた。…雪は、寒冷地で見れるようなサラサラの粉状なので上手く掴むことも出来ない。いちいち掻き出すには時間がかかると判断してただ前へと、腕だけを翼に変化させ土の中を進むモグラのように掘り進める。

ゴーグルの黒レンズに雪が被さり、それを払っては奥へと。

 

汗が額を伝う。

それは疲労かそれとも焦りなのか。顎(あご)先を伝って落ちた雫は真っ白な雪に黒い点を打ち、すぐに乱雑に進む俺の足に蹴り飛ばされて白に戻った。

 

 

「………何を必死に、」

なっているんだ俺は。柄ではない。あいつらが見たら多分驚くだろう。

 

 

初めから裏があると分かっている女だった。

なけなしの、"医者"とか言うちっぽけなプライドと、昔の仲間ならこうするだろうと思って深くも考えずに救った命だった。いや、確かにあの時、パンクハザードにたどり着く前に空の上で聞いたモネの叫びに近い"声"が、俺の何(・)か(・)を刺激したのは間違いない。

 

 

彼女はあの時"死にたくない"と叫んでいた。

 

 

強かな女だって?あぁそうだろうさ、そうなんだろうが、隠し続けていた"弱さ"があることを俺は出会う前から知っていたじゃないか。何が"タカを括っていた"だ。適当な仕事しやがって。"あいつら"に殴り殺されちまうぞお前。凪の海域(カームベルト)なんざ超えて本当に来ちまいそうだ。

 

 

それが理由か?本当に?

 

 

「────………」

 

掘り当てた先、地上からの僅かな光によって照らされるモネは真っ白に丸まっていた。黄緑色の髪の毛は雪を纏(まと)って限りなく白くなって地面に散らばり、辺りの雪と同化している。翼は彼女自身の体を包み込んでいた。

かなり暗いが俺には見えた。地面に向けられた目の瞳孔は開き切っており、何かを喋ろうとするように、陸に打ち上げられた魚が必死に呼吸するかのように口は開いては閉じてを繰り返す。下手に刺激してはまずい。だが、このままにするわけにもいかない。

 

「クルルゥ!」

 

直後、ようやく追いついたチューイが俺の背後に積み上がった雪を押し退けて地下室へと入り込む。雪は崩れ、か細かった光が大きく室内へと入り込んだ。

 

 

その時、彼女は俺に何(・)を見たのだろうか?

 

 

光に目を細めた彼女は静かに俺の顔を見て、悲しみとも、憎しみとも、諦めともとれるような泣きそうな顔で大きな翼を振り上げた。

 

「モネ…ッ!?」

「クルルルルルルルル!」

 

咄嗟(とっさ)に防御のために動き出そうとした俺は。

 

 

『ごめんなさい』

 

 

流れ込んできた彼女の幼い"声"に、判断が遅れた。

 

 

「来ないでッッ!!!!」

「がッ!?」

「グリャォッ!?」

 

視界は一瞬で白く染まる。迫った雪の壁によって、地下室の通路をホースから押し出される水の如き勢いで押し飛ばされ…気づけばチューイと共に空へと放り投げられていた。

 

 

 

 

 









まずはお待たせしました。そして評価やお気に入り登録をありがとうございます。なんだかんだ増えるとテンション上がってしまう。

今回も悩んだ末、再び二話に分けましたので明日にでもすぐ投稿します。
頑張ってそれ以降もペース上げたいです…いやキツイかも。


■ルート
今でこそ慣れたが、幼い頃、生まれついての見境ない見聞色に悩まされていた。睡眠不足などもその一つ。
劣悪な環境はどんな時でも強烈な"声(感情)"を生みやすい。脳に響く声に地面に這いつくばって耳を塞いだ時もあった。けれどもういちいちそれを表に出すのも億劫だ。いつしか周りから見れば"流されやすい人間"に見えるようになってしまった。疲れたのだ、面倒なのだ、本当に。欲望が、絶叫が透けて見えると言うのは。
 
 
■モネ
暗闇を恐れ、けれども光も恐れた。
瓦礫の中はいやだ、けれども思い出してしまった今、あの時、光に照らされた希望の記憶すらも恐怖が混じる。
張り詰めた糸の音が聞こえるのだ。真っ暗闇に、キリリ、キリリ。
そうして私たちを切り裂き、心臓を抉り出すのだろうか。
それでも暗闇は嫌だ、だから白くなれ。なのにいつまで経っても暗いまま。
 
 
■チューイ
海王類の食べ残した海獣などの肉を分けてもらっていた。
この島ではそうした食べ残しを生計としている。食べ残しといえど、その大きさは人のスケールなどではあり得ない。
 
 
■ハッソビア諸島
海王類との共存を古くからの知恵で続けている。
人と、海王類と、鳥が隣人同士の島々。
いつもより早く雨季に入る。

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